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ルイズと無重力巫女さん-40




いつもと変わらぬ魔法学院の日常の中で、平和を謳歌する生徒達は今日も授業へと赴く。
各々が必要な道具を持って指示された教室へ向かい、多くの在校生と卒業生達が腰を下ろした席に着く。
席に座れば連れてきた使い魔を後ろへと下がらせ、教師が来るまでに身なりをしっかりと整える。
そして教師は従業に使う参考書と杖を持ち、堂々と胸を張って教壇へと立つ。
授業は自分の担当する系統魔法がいかに素晴らしいのかを生徒達に教え、模範を示す。
生徒達はそれを習って自らの魔法を磨き、自らの将来に役立たせる。
そしてここを巣立っていくときには立派な魔法至上主義の貴族となり、自分の選んだ道を歩いていく。
ここトリステイン魔法学院で何百何千回も続けられてきた事が、それであった。
しかしここ最近の゛火゛系統の授業だけは、他の従業とは違うことをしていた。
まるで古くから続く魔法至上主義の授業を打ち砕くかのように、それは酷く斬新であり、異質であった。

人は古くから続くモノに安心するが、新しいモノには恐怖を抱く。
そしてそれは人だけではなく、人に近い喜怒哀楽の心を持つ゛人外゛たちも同様である。


大勢の生徒と使い魔達が居る教室に、ミスター・コルベールの声が響いた。
「さぁさぁ皆さん、今日はこのミスター・コルベールが一限目の授業を請け負いますぞ!」
朝食を食べ終えて腹を満たし、満足そうな表情を浮かべている生徒達の耳に気合いの入った声にハッとした顔になる。
声の主であるコルベールは教室の隅にあるドアを足で器用に開け、妙なものを両手に抱えて教室に入ってきた。
一体何事かと生徒達はそちらの方へ目をやるものの、一部の生徒達は溜め息をついて視線を逸らす。

このトリステイン魔法学院において随一の変わり者と呼ばれているコルベールは、時折変な物を持ってきては授業でお披露目をしているのだ。
火の力を使ってフワフワと浮く紙袋や火を当てると途端に脆くなる石など、生徒達の将来には何の役に立たないものである。
しかし生徒達の何人かがそれを指摘してもコルベールはすました笑顔でこう言うのだ。
「知っててやっているのさ。一度きりの青春時代に、こういう面白い授業を体験するのも悪くはないだろう?」
魔法学院随一の変人と呼ばれる男は、この学院にとってイレギュラーとも呼べる存在であった。
そして今日、彼は長年研究し続け遂に完成一歩手前にまでこぎ着けたある物をお披露目しようと思っていた。

「先生、それは一体何ですか?」
一人の生徒が、教壇の上に置かれたある物に興味を抱き、質問を述べた。
他の生徒達もそれに目を通し、思った。成る程、あれを見て質問するのは仕方ない、と
それは長い、円筒状の金属の筒に、これまた金属のパイプが伸びている。
パイプはふいごのような物に繋がり、円筒の頂上にはクランクがついている。
そしてクランクは円筒の脇にたてられた車輪に繋がっていた。
さらに、車輪は扉のついた箱に、ギアを介してくっついている。
今までミスタ・コルベールの授業でへんちくりんな物を見続けてきた生徒達は、首を傾げた。
先生はこれを使ってどんな授業を始めるなんだ?と、生徒達はその装置に視線を向ける。
コルベールは教え子達の反応を見て笑顔をうかべると、おほん!ともったいぶった咳をして語り始めた。

「さて、これから授業を始めるのだが…その前に誰か、この私に゛火゛系統の特徴を説明してはくれんかね」
十秒以内に収めてね。と最後に付け加えた後、生徒達の視線は謎装置からある女子生徒へと向く。
数十人の男女に視線を向けられても、彼女はそれが何だと言わんばかりに、爪ヤスリで爪の手入れをしていた。
今この教室に集っている生徒達の中で一番゛火゛の系統を知っているのは、自らの二つ名に゛熱゛という言葉を入れている彼女しかいない。
そんな風に見られている話題(?)の女子生徒、キュルケはだるそうな顔で手を挙げることもなく、言った。
「情熱と破壊…それこそが゛火゛系統の成せる技であって美でありますわ」
気怠そうなキュルケとは対照的に嬉しそうな表情を浮かべたコルベールは「その通り!」と言った。

「情熱はともかくとして、ミス・ツェルプストーの言葉通り゛火゛は四属性の中でも破壊の力に特化しているのは皆知っているだろう?
 一度戦が起これば゛火゛を得意とするメイジは最前線の突撃隊の隊長として選ばれる程―――…らしい。私はあまり、知らんがな」
そこで一旦言葉を区切り、軽く息を整えるコルベールに一部の生徒は少しだけ反応を示した。
確かに゛火゛に特化した軍属のメイジ等は有事の際に先程言ったように突撃部隊の隊長や攻撃部隊の指揮官となる事が多い。
その次に゛風゛系統の得意なメイジが多く、時折゛水゛系統や゛土゛系統のメイジが指揮を執る事もあるが実例は極めて少ない。
ただ、その一部の生徒達が疑問に思ったことは一つ。『何で一介の教師がそんな事を知っているのか?』ということだ。
通常は軍の養成学院に入り、そこの座学などで初めて知るような事を、何故この平和思想の教師が知っているのだろうか?
彼らは一様にそんな疑問を浮かべては居たのだが、無理矢理にその答えを導き出した。
(まぁ…先生は学者を名乗ってるし…学者だから知ってるのかも)
あまりにもいい加減すぎる答えに異論を唱える者はおらず、再びコルベールはしゃべり出す。

「しかし諸君、考えてみたまえ。他の属性…゛風゛゛水゛゛土゛は戦い以外の道に使える手段が多い!
 風は動かぬ風車を回し、水は乾いた大地を潤し、土は荒んだ土砂を農業に適した栄養豊富な土に変える!
  それに引き替え…゛火゛は古来から怖れられてきた存在、戦いにしか使われるのも無理はない。
   一部の者達は、゛火゛魔法は戦う為だけにあると豪語するが…私はようやく、それに対し全力で拒否の意を示す事ができる!」

まるで最終決戦へと赴く将兵達に檄を飛ばす王様のようにコルベールは喋っている。
それに対し生徒達はついていけずに固まる者、またある者はコルベールの思わぬ一面に驚いていた。
ただ一人…キュルケだけは大きな欠伸をしながら未だに爪のお手入れをしているが。
一方のコルベールはそんな生徒達に向けて勢いよく右手の人差し指を向けて喋り続けている。
その目には絶対的な自信の色が浮かんでおり、彼の頭よりも鋭い光を放っている。
「ここにいる生徒諸君…特にミス・ツェルプストー!よく見ておきなさい!
 今ここに、我々の誇る文明と゛火゛が融合したこの装置が、その本性を見せるのですから!!」
もはや叫び声にも近い声でそう言うと、ヒュッと音が出るくらいに勢いよく左手の人差し指を、背後の教壇に置かれた装置へと向けた。

生徒達はその装置に目を向け、何人かは怪訝な表情を浮かべている。
「これは私が長い構想と研究、そして幾度かの試行錯誤を経て完成させた最高傑作です」
コルベールは先程と打って変わり逸る気持ちを抑え、この装置の説明を丁寧に行う。
「まず最初にすることは、このふいごを何回か踏んで中に入っている油を気化させる」
そう言って彼はしゅこっ、しゅこっ、と何処かこそばゆい感じがする音を立てるふいごを足で何回も踏んだ。
「するとこの円筒の中に、気化した油が放り込まれます」
慎重な顔になったコルベールは杖を取り出し、円筒の横に開いた小さな穴に杖の先端を差し込んだ。
次いで短い詠唱をして間もなく、断続的な発火音が聞こえ発火音は続いて、爆発音に変わる。
先程円筒の中に放り込まれた油が引火し、爆発音を出しているのだ。
爆発音を耳にした生徒達は目を丸くし、使い魔達はそちらの方へと視線を向け、コルベールは歓喜の表情を浮かべた。
「ほら、見なさい!円筒の中では今、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いているんだ!」
すると円筒の上にくっついたクランクが動きだし、車輪を回転させた。
回転した車輪は箱に着いた扉を開く。するとギアを介して、小さな赤色の何かがピョコッ、ピョコッ、と顔を出した。
炎を模した布製の皮膚を持ち、これまた先端が二つに割れた赤い布で出来た舌を開きっぱなしの口から出している。
それは黒いボタンのつぶらな瞳がキュートな蛇の人形であった。
あまりにあまりなソレに、様子を見ていた生徒達はボケーとした表情になってしまう。
そんな彼らを他所にただ一人、コルベールは無邪気にもはしゃいでいた。
「ほら見なさい!可愛い蛇君がコンニチハ、コンニチハ、と挨拶してくれるぞ!」
まるでサーカスを見に来た子供のようになってしまった教師を見て、生徒の何人かは溜め息をついた。
先程の演説に惹かれ、一体どんな物が見れるのかと思いきや、これはとんだ子供だましである。
そんな生徒達が今は目に入っていないのか、コルベールはピョコピョコと蛇が顔を出す装置の前で喋り始める。

「今はこうして、愉快な蛇君が出てくるだけだが、将来必ずこの技術を生かして素晴らしい物が生まれる。
 例えば、この装置を更に大きくして荷車に載せ、車輪を回させる。すると馬がいなくても荷車が動く!
 そして更に、海に浮かんだ船のわきに大きな水車をつけてこの装置を使って回す。
 すると風どころか帆がなくとも船が動くようになるんだ!」

そこで説明は終わったのか、コルベールは大きく深呼吸をすると生徒達の方へ目をやった。
コルベールの計算では、この時点で生徒達の大半がこの装置に期待の目を向けている筈であった。
しかし彼らの目には期待の色は浮かんで折らず、ペテン師を見るような目つきである。
そんな目で教師を見ている者達の一人がふと口を開き、言った。
「…そんなの、魔法で動かせばいいんじゃないですか?何もそんな装置を使わなくてm…「わかってない!君達は全然 わ か っ て い な い !」
一人の生徒の口から出た言葉は最後に到達する前に、コルベールの怒声によってかき消された。
いきなりの事に生徒達は驚きながらも、コルベールは捲し立てるように喋り始める。

「いいかね君達!?我々が魔法を使えるからと言っても限界がある。
 もしも長い船旅の最中、風石が切れたらどうする?船はただの棺桶と化す!
  しかしこの装置をもっと発展させれば、僅かな魔力でも充分風石の代わりとなる
   これは単なる学者の発明ではない!後世に残る程の偉業なのだ!」

一部自画自賛が入った演説に、生徒達は何も言えないでいた。
皆が皆、いつもは温厚な彼の希薄迫る様子に怯んでいるのである。
(あのミスタ・コルベールがこんなに捲し立てるなんて…きっと余程完成させたかったのね…)
羽ペンを持ったまま硬直しているルイズもその一人であったが、今のコルベールには尊敬の念を抱いていた。
後世に残る偉業かどうかは別として、あんな面倒くさい物を作った努力は凄まじい物である。
誰にも認めて貰えず、しかし一度決めた信念を決して崩すことなく最後まで成し遂げる。
それはまるで、魔法が使えぬのならせめて座学だけでもと努力した自分と、被っているのだ。
最初は胡散臭い目で見ていたが、あの装置を無下にすることを、自分は出来ないだろうなーとルイズは思った。
(でも実際のところ、どう使ったらいいのかサッパリね…)
尚もピョコピョコと装置から顔を出す蛇の人形を睨みつつ、ルイズは溜め息をついた。
先程コルベールが使い方を説明していたが、ルイズにはあの装置が活躍するシーンが全く思い浮かばなかった。
魔法が使えぬがトリステインの公爵家出身の彼女は、生まれる前から魔法至上主義者として生きる宿命を背負っている。
ルイズだけではない、ここにいる生徒達の多くがそうであった。
物心つく前から親兄弟から魔法の偉大さを見せつけられた彼らは、本能的に「王家と魔法に適う存在無し」という考えを持っている。

王家と魔法さえあれば全てが統治でき、国は永遠に栄える。
そんな思想が、王家を含めた多くのトリステイン貴族達の頭を未だに支配していた。
それがこのトリステイン王国の伝統を守っていると同時に、小国となった原因だとも知らずに。

まぁ知らない事は無理に知らなくても良い、という事である。



「ヒマね…」

ヴェストリの広場に、少女の声が響いた。
それは鈴の音のように綺麗であったが――心底暇そうであった。

「ヒマだわ…」

広場の柔らかい芝生にその背中を預けている少女は、スッと華奢な左手を上げた。
閉じている左手から人差し指だけを出し、遥か上空の青空を泳ぐ白い雲を指さして、数えようとする。

「ヒマ過ぎて寝るに寝れないわね…」

小さな溜め息をつくと数えるのをやめ、左手をダランと下げて芝生に寝かせる。
ふと何処からか小鳥の囀りが聞こえ、それに伴って翼が羽ばたく音も耳に入ってくる。

「…これじゃあ暇つぶしどころか…暇作りになってるじゃないの」

少女――霊夢は誰に言うとでも無く呟き、ゆっくりと上半身を起こした。

いつもとひと味どころか五味違った授業をルイズ達が受けているとは露知らず、霊夢は一人くつろいでいた。
以前ギーシュと闘ったヴェストリの広場。既に壊れた壁も修復された其所は、彼女以外誰もいない。
まぁ今日は休日でもなくちゃんとした授業がある日なので当然ではあるが、今の霊夢にとっては丁度良い場所であった。
彼女にとって心休まる場所といえば神社の縁側と鳥居の下、そして人も妖も来ない静かな所。
それならルイズの部屋も当て嵌まるが、三日前に戻ってきたインテリジェンスソードの所為で喧しい場所になってしまった。
「まったく…眠れそうな時に話し掛けてくるからおちおち眠れやしないわね…」
霊夢はウンザリするかのように呟き、ゴロンと寝返りを打った。
今まで空を見ていた彼女の瞳に、この学院の真ん中を陣取っている巨大な塔が写る。
それを見たい気分ではなかったのか霊夢は顔を顰めると再度寝返りを打つ。
背中を向けていた方へと寝返りを打つと、少し離れたところにシエスタがいた。

足首まで届くロングスカートの端が風に煽られ、小さな布の波を作りだしている。
その両手には洗ったばかりの白いシャツがたくさん入った籠を抱えている。恐らく仕事の合間にやってきたのであろう。
自分と同じ黒い髪はやや長めのボブカットにしており、黒い瞳とそれはどうにもうまくマッチしている。
黒と白を基調にしているものの、魔理沙の服とは全く違う雰囲気を醸し出しているメイド服はとても彼女に似合っていた。
彼女は頭全体を白い雲が泳ぐ上空へと向けており、その瞳は空を射抜くようにある一点を見つめている。
そんな彼女をじっと見つめている霊夢の視線には気づいていないのか、両手に持っていた洗濯籠を足下に下ろした。

ゆっくりと、まるで安らかに眠っている赤子を下ろすかのよう動作の後、シエスタは自らの懐を探る。
一体何をするのかと少し興味深そうな霊夢が近くにいることも知らず、彼女は小さくて茶色の包みを取り出した。
何年も使い続けているのかすっかり汚れきってしまったその包みを丁寧に取り、その中に入っていた物を手に取った。
包みとは対照的で、まるで純潔な乙女を思わせる程白いく、正方形の布であった。
それだけなら普通の布きれと呼べるが、その中心部分には大きな赤丸が描かれている。
赤丸は酷く乱雑で、子供の落書きと言える代物であった。
ソレを包みから取り出したシエスタは純朴そうな顔に暖かい笑みを浮かべた。
まるで遠く離れたところに暮らす家族が待っている家へと帰ってきた子供のように。

それを離れたところから見ていた霊夢には、シエスタの行動がイマイチ良くわからなかった。
(何かしらアレ…?布の中にもう一枚布が入ってたって事…?)
何が起こっているのか把握しきれない霊夢を尻目にシエスタは布の両端を掴むと、それを天高く持ち上げた。
まるで赤ん坊をあやすかのような行為をたった一枚の布きれにするというのは、少し奇妙な光景である。
だがシエスタにとってこの奇妙な行為は、とても大切な行為であった。
天高く掲げた薄い布は強く、眩しく、そして優しい陽の光を防ぐことは出来ず、布一枚越しにシエスタの顔を照らす。
布を通した光は布の中央に描かれた乱雑な赤丸のおかげで赤い光となった。

その時のシエスタは、それに負けないくらいとても眩い笑みを浮かべていた。
まるで子供だった頃を懐かしむような、あどけなく無垢な笑顔であった。


コルベールは困っていた。どうすれば今の事態を切り抜けられるのかを。
今日は長い月日を掛けて没頭していた新しい研究の成果を授業を使って生徒達に発表していた。
それは、このハルケギニアにおいて誰もが見たことのない、未知の可能性を孕んだ存在だと彼は思っている。
油を使い、単純な魔法だけでそれを爆発させてその力でカラクリを動かす。
将来的には魔法の力など介さず、手順が分かれば子供でも大きな船を動かすことの出来る全く新しい力。
学者である彼は、学院の授業ではなく十分な知識を持った学者達に見て貰いたかったがそれは無理な話だと知っていた。
このトリステインにおいて学者というのは神学者に近い存在であり、その学者達が集まる「アカデミー」では魔法の効果を探る場所となっている。
例えば、火の魔法を用いて街を明るくしようとか、風魔法を用いて、大量に貨物を運んだり…といったコルベールの向きの研究は行われていない。
そういったものは評議会や古参の研究員達からは「下賤ではした無いもの」として異端扱いされ、追放されたり研究停止に追いやられる。
代わりに行われている研究といえばどのような火の形がより、始祖ブリミルが用いた火の魔法に近いとか。
降臨祭の際に使われる蝋燭を揺らすための風は、どの程度が良いのか。
聖杯を作るための土の研究とか。コルベールの考える「学問」とは大きくかけ離れた事をしていた。
そんなところへわざわざ赴いてまで自分の研究を見せに行ったとしても、門前払いが良いオチである。

そう考えたコルベールが更に考えてたどり着いた結論が、今に至る。
コルベールの研究を見た生徒達の大半は、ワケが分からないと言いたげな表情を浮かべている。
今まで魔法が自分たちの生活に深く浸透していた彼らは、きっと心の中で呟いているだろう。

「こんな馬鹿げた物が無くとも、魔法があれば誰も不自由しない」と。

ほぼ全員が魔法至上主義者であるメイジとしては、まともな答えである。
平民達には不可能な「始祖の御業」である魔法に不可能など無い。
魔法さえあれば万事解決、もう何も恐くないはないし、他に何もいらない。
学者である前にメイジであるコルベールにとって、それは痛いほど自覚している。
ただ、そうまでして彼はあるモノを欲していた。
出せそうですぐには出せない、あるモノを。
(馬鹿にされたり笑われても良い…誰かひとり…ひとりだけでも好奇心旺盛な表情をうかべてくれれば…)
コルベールは期待と不安が浮かんでいる顔で教室を見回すが。彼が望む表情を浮かべている者はいない。
大半が嘲笑の表情を浮かべており、中には見る価値無しと無表情な生徒達もいる。
たった一人、ミス・ヴァリエールだけは困ったような表情を浮かべてはいたが、理由はわからない。

―――まだだ!まだ諦めるなコルベール。ここで諦めたら今まで頑張ってきた意味がないのだぞ!

自分の心に喝を入れつつ、コルベールは一度深呼吸をするとしゃべり出した。
先程叫びすぎて喉かヒリヒリと痛むのだが、そんな事は言っていられはしない。
「さてと…一通り話し終えたところでひとつ提案がある。…だれかこの装置を動かしてみようとは思わないかね?」
既に停止している装置を指さしながら、コルベールは言った。
まさかこんな言葉が出てくるとは思わなかったのか、生徒達は少しだけ驚いたような表情を浮かべている。
そんな生徒達に休ませる暇を与えず、コルベールはこれみよがしにどんどんと話を進めていく。
「なに、やり方は簡単さ。円筒に開いたこの穴に杖を差し込んで『発火』の呪文、するとほら…このように!」
先程したように装置を起動させると、ふたたび爆発音か教室中に響き渡る。
爆発の力でクランクと歯車が動き出し、蛇の人形がピョコピョコと顔を出す。

「愉快な蛇くんがご挨拶!ほらご挨拶!!――――…なんちゃって」
最後の一言が良くなかったのか、教室にいる生徒達は誰も動こうとしない。
皆コルベールの顔に奇妙な生物を見るかのような目を向けたまま硬直していた。
教室の中に響くのは装置から出る爆発音と、使い魔達の喧しい鳴き声だけ――

「その装置。私が動かしても良いのかい」

―――ではなかった。
ふと、使い魔達が待機している教室の後ろから、少女の声が聞こえた。
まるで男の子のようなしゃべり方だが声はとても元気な少女のそれである。
その声を聞いた生徒達は一斉に後ろを振り向き、そこにいた一人の少女を凝視した。
白と黒を基調とした服装は、少女との相性が良くその存在をハッキリとさせている。
頭に被った帽子は大きく、彼女の頭と不釣り合いに見えてそうでもない。
帽子からはみ出たウェーブの掛かった金髪は艶が良く、輝いているようにも見える。
まるでおとぎ話の中から飛び出してきた魔女のような姿をした少女に、生徒達は釘付けとなった。
何より男子生徒達の視線は、その少女の顔に集中していた。

美術館に飾られているような真珠の如き白い肌に均整の取れた顔は、見る者を魅了させる。
事実、恋に夢中であるお年頃の男子達はその顔を見て目を丸くし、ホゥ…と見とれている者までいる始末だ。
多くの視線が自分に集中しているというのに動揺することなく、少女は再度口を開く。

「誰も名乗り上げないのなら、私が動かしてみても良いんだろ?」
少女―――魔理沙はその顔に見合った声で、コルベールに尋ねた。
その言葉と、コルベールの作った装置を見つめている瞳には、探求心と好奇心が混ざり合っていた。




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