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ゼロの戦闘妖精-13 Intermission 03

「何時の世にも 悪は絶えない。

 その頃 トリステイン政府は、魔法衛士隊に悪党狩りを命じていた。
 凶悪な賊の群を 容赦無く取り締まるためである。
 その 独自の機動性と一部司法権すら与えられた
 盗賊改方『グリフォン隊』の隊長こそ、
 二つ名を『閃光のワルド』 人呼んで『鬼のワル平』である。」



      【ワル平犯科帳 『密偵』】



それは、あの『アンリエッタの大獄』よりも 暫く前の或る日の事であった。
昼下がりのグリフォン隊舎に 轟音と共に 雪風が飛来した。
「ようっ お嬢、今日は早いな。まだ放課後じゃないだろうに、ひょっとしてサボりか?」
錬兵場で訓練中の隊員達から声をかけられるも、ルイズはそれに応えず、思いつめた表情で足早に隊長室を目指す。
そして 部屋に入るや否やワルドに詰め寄って、
「隊長!手勢をお貸しくださいっ!」
ルイズの様子から (何かあったな)と思うワルド。だが、事情が判らねば 対処の仕様もない。
「おいおい、『手勢を貸せ』とは 穏やかじゃないな。一体 何をするんだい?」
「はい。かどわかしの下手人をひっ捕らえて、あの娘を… シエスタを救い出します!」

遡ること数刻前、ルイズ達はアルヴィーズの食堂に居た。昼食の時間だった。
雪風を召喚する以前、ルイズは一人きりだった。特に嫌われて避けられていた訳ではないが 親しく話しながら食事を共にする友人は居なかった。
今は違う。ルイズと雪風を中心としたグループが形成されていた。
キュルケ タバサ ギーシュ モンモランシー 学生ではないが、コルベール先生とミス・ロングヒル。
そして もう一人。メイドのシエスタ。以前 ギーシュに難癖を付けられた 平民の少女。
気の毒に思ったルイズは、せめてものウサ晴らしにと ギーシュと自分との『決闘』を こっそりと見ているように取り計らった。
それに恩義を感じたのか、以来 シエスタはルイズに対して何かと世話を焼くようになり、今では半ば『ルイズ専属メイド』。
食堂で席に着けば、当然のように給仕に現れる。しかし 今日に限って別のメイドが配膳に来た。
不審に思ったルイズが問いかけても、目を伏せるばかりで答えようとしない。
他のメイドたちも同様で、シエスタの行方を知る為には、食堂のヌシの所に迄行かねばならなかった。

主任シェフ マルトー親方は、見るからに不機嫌そうだった。
日頃から『貴族嫌い』を公言して憚らないマルトーではあったが、自らの職に誇りを持つ人物でもあり 学院の生徒に鬱憤をぶつけるようなことは無い。にも拘らず 今は様子が違った。
「シエスタか。あの娘はなぁ…
 攫われちまったよ、クソ貴族の野郎になっ!」

きっかけは 王宮勅使 モット伯の来校だった。
学院と王宮の連絡不徹底の為か、生憎と公文書を手渡すべきオスマン学院長は不在。
無駄足となったことに立腹のモットが目を留めたのが 学院で働く一人のメイド。
トリステインでは珍しい黒髪の少女。
「フム さしずめ『路傍に生えし 黒百合の蕾』といったところか」と呟くと
モット伯は、花をを手折るかのように その少女を自らの馬車へ連れ込んだ。
誰も咎めなかった。誰も止めなかった。
周りに居た貴族の学生達は 平民のメイドの事など気にも留めなかった。平民達は貴族に逆らう事など出来なかった。
残されたのは 伯爵の従者が学院事務局に提出した書類のみ。

『賄い婦一名 貰い受け候。正規手続きは後日。』
「こんな紙切れ一枚で、シエスタは連れて行かれちまった。
 なぁ お嬢様方、これが『貴族』ってもんかい?
 あんたらは貴族の子供だ。オレは平民で大人だ。世の中の仕組みってヤツも十分知ってるし、貴族様の無理難題も慣れっこだ。
 だが あの娘 シエスタはまだ子供だ。あんたらとそんなに年の違わねぇ子供だ。
 それが なんであんな野郎の慰み者にならなきゃなんねえんだ。」
板場の鬼と呼ばれた 主任シェフが泣いていた。
その言葉は 決してルイズ達を責めているものではなかった。己の無力に、涙していた。
キュルケは 何も言えなかった。タバサは 何も言わなかった。
そして ルイズは無言で踵を返し 厨房を出て行った。慌てて後を追うキュルケ、そしてタバサ。
「ちょっと待ちなさいよルイズ、アンタまさか!」
「…貴族の屋敷一軒、雪風ならば 十分制圧は可能。
 でも 助太刀が必要なら 手を貸す。」
ルイズなら やりかねない。二人とも真剣にそう思っていた。
しかし 以外にもルイズは冷静だった。
「二人とも落ち着いて。
 そりゃ 雪風なら、強引にシエスタを奪い返すのだって出来るわ。出来るけど それじゃダメ。
 そんな事をしたら 私もシエスタも、間違いなくお尋ね者よ。
 私は これでもトリステインじゃ有数の貴族の娘だから、ひょっとしたら不問にされるか 退学ぐらいで済むかもしれない。
 でも シエスタは、罪人扱いされ お天道様の元を歩けなくなる。それじゃ 助け出す意味がなくなっちゃう。」
ルイズの話に とりあえずホッっとするキュルケ。
「… 助けには 行かない?」
なお問いかけるタバサに答えて、
「さっき マルトー親方が言ってたでしょ。私達は『子供』だって。
 悔しいけど そうなのよね。『力』はある、だけど『子供』。
 気に入らないこと 正しいと思えないことを、力ずくでブッ壊す事は たぶん出来る。でもそれは 唯の『ダダッ子』。
 何かを壊せば その壊そうとしたモノだけじゃなく、周りだってグチャグチャになる。壊れたモノの中から 自分の望んだ破片だけを元の位置に置いたとしても 望んだ正しい状態にはならない。
 周りに影響を与えずに 望んだモノだけを動かす、もしくは散らかってしまったところをキッチリと片付けられる、それが『大人』。
 だから、これから そんな『大人』を頼りにいくの。」

「で、僕のところへ来たと… そういう事か。」
「はい。」
ワルドは 胸を撫でおろした。
(直接 乗り込まなかっただけでも まぁ良しとしよう。)
確かに 子供が貴族の館に乗り込んで騒ぐよりも、盗賊改が脅しをかけるほうが効果的だろう。だが、
「ルイズ 確認するけど、魔法学院のメイドってのは 真っ当な口入れ屋が手配してるんだろう。
 人買いとか 女郎屋みたいなのじゃなく。」
「そうですけど?」
「だったら 『かどわかし』の線で攻めるのは難しいよ。
 奉公人が勤め先のお屋敷を替えるのは まま有る事だし、『身売り』されたんでも無い限り 雇った側にさほどの権限も無い。
 未だ正式の契約が済んでいないとはいえ 『軽微な瑕疵』と突っ撥ねられれば それまでだな。
 それに 相手が悪い。」
「へっ?」
ルイズは 耳を疑った。自他共に認める 『弱き者の味方』、ジャン=ジャック・フランシス・ド・ワルドが そんな弱音を吐くとは!

「モット伯には、悪い噂が山ほどある。実際 その通りの悪党なんだがね。」
「だったら なおのこと!」
「ヤツは、ある犯罪組織に属している。その組織は トリステインという国に、広く 深く根を張っている。
 今 僕等グリフォン隊が総力を挙げて追っている 第一級の目標さ。モット伯なんてのは その中じゃ小物に過ぎない。
 とはいえ、ヤツをグリフォン隊が捕らえたとなれば、組織はトカゲの尻尾切りを始めるだろう。末端を切り離し こちらが今まで集めた情報も証拠も 無駄になってしまうかもしれない。
 召捕るなら 一気にやらなきゃダメだ。首領から下っ端まで 一匹たりとも逃がさぬ様に。
 …だから
 部隊を動かし 正面からモット伯に当ることは、できないんだ。」
愕然。
「そっ そんな…
 じゃ、隊長は、シエスタを見捨てろっていうんですか!」
大事の前の小事だから。ただの平民だから。言い方は悪いが それが『トリステイン貴族』の一般的な考え方だろう。
だが そんなモノを踏み越えつつあるルイズには、許容できない思考だった。
混乱と やり場の無い怒りの矛先は、目の前の『大人』 ワルドへ向けられた。
居合式の高速抜杖で失敗魔法を炸裂させようとした刹那、先んじてルイズの杖頭を抑えて、
「ルイズ、見くびってもらっちゃ~困るね。
 この僕が、いたいけな少女を見捨てるハズがないだろ。
 表立って隊を動かせないなら、裏から手を回せばイイ。
 その為の人材も ウチには揃っているんだよ。」
そう言って 何も無い壁の方を向き、
「おい。ゴロウーゾ、ゴロウーゾは居らんか!」
すると…
隊長室の白壁が 低い唸りとともに横スライドすると、そこには隠し通路が現れ 一人の男が跪いていた。

「ルイズ、紹介しよう。
 こいつは ウチの『密偵』の中でも一番の腕利きでね。纏め役の様な事をやってもらっている、ゴロウーゾだ。」
「お初にお目にかかります、ヴァリエールのお嬢様。
 元・チンケな盗人で 今は盗賊改の『密偵』、ゴロウーゾと申します。
 以後 お見知りおきを。」
町人風の身なりではあったが、意志の強そうな瞳 鍛えられた体躯 身に纏う雰囲気等、只者ではない事は判る。
「おいおい、謙遜する事ぁ無ぇぜ。
 あの『大滝のゴロウーゾ』がチンケな盗人だってぇなら、他の盗賊共は一体何だって言うんだよ?」
「えっ ええ~っ、『大滝のゴロウーゾ』ォ!」

ルイズが素っ頓狂な叫び声をあげる。まあ 無理も無い。
『大滝』の二つ名を持つ その盗賊は、ハルケギニア全土を股に駆け 各国の衛士が必死になって追っている男だったから。
あの『土くれのフーケ』ですら 知名度や盗賊としての格でいえば 数段劣る。
大胆な犯行の数々は 時には恐れられ 又ある時には称えられもした。
中でも有名なのは ガリア王国での『御金蔵破り』の一件。
それは 迅速にして緻密、あまりに見事な仕事ぶりに、被害者のジョゼフ王自ら
「探索・捕縛は無用。
 実に 面白きモノを見せてもらった。
 あのカネは盗まれたにあらず。『見物料』よ!ハッハッハッ」
と 楽しげに語ったと伝えられる。

「で、そこにいたってぇ事は 今までの話も聞いていたんだとは思うが、改めて令を下す。
 『急ぎモット伯爵の屋敷へ赴き シエスタなる娘を連れ戻せ!』
 盗賊改が動いたことを悟られなければ、手段は問わぬ。」
密偵の男は ゆっくりと立ち上がり 隊長の目を見つめて問う。
「モット伯……
 …ワルド様、そのお役目 『私』でよろしいので?」
「ああ、『お前さん』だから 頼むのさ。
 存分にやれぃ!」
「はっ!」
そして男は 姿を消した。

トリスタニア郊外の森の中 街道筋から離れた道を、一頭の馬が駆けていた。
(急がないと 放課後にゃ間違いなく動き出すだろうからね、あの『お嬢様方』は!)
乗っているのは、盗賊『土くれのフーケ』にして魔法学院秘書のミス・ロングヒルことマチルダ女史だった。
表の仕事の関係上 ルイズ達よりも先にシエスタの件を知った彼女は、すぐさま行動を起こした。
この件で ルイズが雪風を使って無茶をする姿は すぐに頭に浮かんだ。そんな事をさせるわけにはいかない。
そうなる前に 自分がモット伯の所からシエスタを掻っ攫う。
建物を派手にぶち壊し 瓦礫の中に血の着いたメイド服の切れっ端でも入れておけゃ、死んだモンだと思われるだろう。
後はティファの元にでも匿っておく。
『人の噂も 七十五日』 ほとぼりが冷めた頃に 新しい名前を用意して学院に復帰させりゃいい、と考えた。
このあたりの対処方法の差が、表社会の貴族であるルイズと 裏社会に生きてきたフーケの違いか。

道を急ぐマチルダ。その背後から、
「どこへ行きなさるね。
 この道は一本道、先に在るのは モット伯の屋敷だけだぜ。
 なあ、『土くれ』の。」
突然 声を掛けられ驚くも、懐の杖に手をやって 身構えながら振り返る。
「誰だいっ!」
だが 後方を追走してきた 馬上の相手を見て、さらに驚く。
「お、『大滝』の頭目っ!!!」

貴族には貴族の作法 平民には平民の決まり事があるように、盗人にも盗人の社会があり 掟がある。
表社会の司直等には 全くの正体不明だった『土くれ』のフーケの顔も、裏社会では其れなりに知られていたるする。
『ひとり働き』を基本とし 手下や身内を持たないフーケでも、事前の情報集めや事後の盗品売買等 他の盗人と一切のかかわりを持たないのは 不可能だ。
だから ゴロウーゾはフーケの顔を知っており、フーケも当代一の呼び声も高い『大頭目』を知っていた。

「するってぇと とある『お嬢様』がヤバい事をやっちまう前に、シエスタってメイド娘を助け出す。てぇことか。
 それにしても、そのお嬢様とやらのせいで お前さんが盗人稼業から足を洗う決心をするたぁな。」
フーケから事情を聞くゴロウーゾ。
「ええ。『じぇっと燃料』とやらの練成で かなりの副収入が入るようになりましたし…
 どうやったのか 学院秘書の給料まで上がったんですよ!
 しっかり外堀を埋めた上で、『自分達の仲間になってくれ』なんて言われた日にぁ、もう。
 って、何が可笑しいんですか 大滝の頭目!」
説明を聞くゴロウーゾの口元に 何故か笑みが浮かぶ。
「いや すまんすまん。
 フーケ 安心しな。『お嬢様』は、モットの処にゃ行かねぇよ。
 ルイズ様が行かれたのは グリフォン隊の詰め所だ。盗賊改の ワルド様を頼りなすったのさ。」
「へっ?
 グリフォン隊??
 …???…!
 な 何で頭目がルイズ、いえ ミス・ヴァリエールを御存知なんです!!」
フーケにとっては 先程から驚く事ばかりだ。
「なーに、お前さんが盗人から足を洗った様に、今の俺は 盗賊改の『狗』なのさ。」
盗賊達は 仲間を裏切り『密偵』となった者を、憎悪と侮蔑を込めて『狗』と呼ぶ。密偵本人も、自らを嘲う様に その呼称を用いる。
「俺も ワルド様から その娘を助け出せと命じられてな。
 目的は一緒だ。ココは一つ 手を組むとしようや。」

今回の『メイド奪還』という『お勤め』は、突発的事案の為、屋敷の図面の入手や引き込み役の潜入等の下準備は 一切出来ていない。
よって フーケのゴーレムによる 力任せの『急ぎ働き』となるかと思われた。
(因みに フーケの『お勤め』は、『急ぎ働き』だった事はあっても 人命を省みない『畜生働き』であった事は 一度も無い。)
だが、
「モット伯相手なら、俺にゃあ『奥の手』がある。忍び込むまでもねぇ。正面から堂々と入るまでだ。
 そん時 一瞬でも門番の目を扉から逸らしてやる。フーケ、お前さんなら それで十分だろ?」
ゴロウーゾには 何か策があるようだった。 

モット伯爵は 書斎で寛いでいた。
(うむ、今日は 中々に良い日であったな)
魔法学院での職務は無駄足だったが、思わぬ拾い物があった。
屋敷に戻れば 以前から捜し求めていた『召喚されし書物』が、出入の骨董商から届けられていた。
また 屋敷の裏山で、瀕死のチィデ鹿が一頭倒れていたのを 庭師が見つけたらしい。
アナロォ熊にでも襲われ、逃げ延びたが力尽きたのだろう。
「良い食材が手に入った」と、シェフが腕によりを掛けた夕食を出すそうだ。
(ならば、あの娘は食後のデザート…いや 食前酒というのもよいか)
夢想するモットを 執事長が現実に引き戻す。
「失礼致します。御主人様に、御目通りを願う者が参っているのですが…」
「ムッ、誰が来たと?
 下らぬ者なら 追い返せ。理由など 適当でよい。
 この私に会おうというのに、事前の連絡も無いとは 大方 礼儀もわきまえぬ田舎者であろう!」
あからさまに不機嫌な様子。こういった場合 使用人は黙って下がるものだが、
「それが……かの者は、『ロッゾ家の使い』であると申しておりまして、」
「何っ?」
モット伯の貌に 暗く鋭いものが走る。
「『ロッゾ』だと! フン、亡霊でも彷徨い出たというのか。
 よし。ならば その顔、しかと拝ませてもらおうか。」

ロッゾ家は、トリステイン王国に かつて存在した中堅貴族。
領民からの搾取、贈収賄、不正商取引他に手を染める ありがちな悪徳貴族の一つだった。モット家と同様に。
それゆえに 自己の権益確保の為 両家は対立した。
そして ロッゾ家は滅んだ。
滅亡後 ロッゾ家の旧悪が次々と暴かれ、『犯罪組織との抗争から 一族郎党皆殺しにされた』との噂が流れた。
実際は、モット家による犯行である。しかし それを語るものは この国には誰もいない。

書斎のドアが開き、執事に促されて入室した男。それを見て モット伯爵は呟く。
「やはり貴様か、ゴロッゾ・ド・ロッゾ。」
「悪いが 人違いだ。
 その名の貴族様は、昔 誰かに殺されて、今は墓の中。
 そうだろ? なぁ ジュール・ド・モット。」
男は そう言い返す。
「どうだかな。
 貴様のモノだとされた遺体は、損傷が酷く かろうじて着衣で身元が確認されたのだ。
 大方 そこいらの行き倒れにでも自分の服を着せて 身代わりに仕立てたのであろう?」
「さぁてね。
 ともかく 俺はそいつじゃない。
 今の俺は ゴロウーゾ。『大滝』のゴロウーゾよ。」
「その名、聞き覚えがあるぞ。確か その様な盗賊がおったな。
 フン 堕ちたものよ。
 で、盗人風情が 何の用だ。」
この二人 共に、皮肉げな笑みを顔に貼り付けているが 目は笑っていない。
少年時代、トリステイン魔法学院の同窓生であった同士。互いの『家』が あのような事にならなければ『悪友』と呼び合う仲になれたやもしれぬ。だが 今は…

「実はな、ちょいとした取引を持ってきた。
 昼間 連れ込んだメイドを、こっちに渡してもらいたい。」
提示されたのは 意外な申し出。
「さる筋からの依頼でな、そのシエスタって娘を連れて帰らにゃならねぇ。
 依頼人が誰か、なんて聞くなよ。どんな理由があるのかもな。裏稼業の掟だ、お前さんだって知らん訳でもなかろう。」
「取引か。ならば、そちらは何を差し出すと?」
「あの日、モットの一族が どうしても知りたかった事さ。
 『モット家の闇』 それを、ロッゾが何処まで知っていたか。
 これで、どうだい?」
ここまで 余裕を見せていたモット伯が 僅かながら揺らいだ。
「ま 先ずはそちらが語れ! 小娘を手放すかは、その内容次第だ。」
(よし、喰い付いた!) ゴロウーゾの口元には、今迄とは違う笑み。

「あの頃 ロッゾ家当主 ミノヒ・ノキノス・ド・ロッゾは、焦ってたんだよ。
 表の方じゃ 運河掘削の事業に想定の数倍からの費用が掛かって大赤字、裏の方でも 宿敵のモット家に幾つもの縄張りを喰われてた。
 だから ほんの噂話でしか知らない 『モット家の闇』で、相手を牽制しようとした。それが、虎の尾を踏む事だ とも気付かずに。」
「何だと!?」
「まったく、馬鹿らしい話さ。
 元々 何も知らねぇんだ。どんなに責め立てられようと 答える事などありゃしないわな。
 だってぇのに、モット家の連中は 疑心暗鬼に捕り憑かれ、ロッゾの一族郎党を皆殺しにしちまった。
 あれだけの大事件の真相が、実は そんな下んねぇモンだったのさ。」

話のあまりの内容に 呆けるモット伯。暫しの間をおいて 脳がその意味を理解すると、
「フフフ… ファファ… ハハハハハッハッハッハッ!
 何と、何と滑稽なのだ、ロッゾも 我がモット家も!」
声を上げて嗤った。自分を、当時の当主だった 自分の父を、己の一族を、そして 今は亡き 仇敵一族を。
「だが、この様な話では メイドを渡してやる訳にはいかんな。」
にべもなく言い放つ。
「まぁ 待てや。
 確かに 親父は知らなかった。親父は な。
 だが 俺は、あれ以来 裏社会のドブ泥に どっぷりと浸かって生きてきたんだ。調べる気なんざ無くとも、表じゃ聞けねぇヤバいネタも、自然と耳に入ってくるモンよ。」
ここからが本番とばかりに、雰囲気に凄みが増す。
「『モット家の闇』、そいつはズバリ アシュオーの鉱山だ。
 領内にある ごく小規模の銅山で、採算が取れる程の産出量は無ぇが、先祖伝来の鉱山って事で モット家が操業を続けてるんだよな。」
「そっ それが何だ!」
明らかにうろたえる モット伯。
「裏社会に流れる噂に こんなのがある。
 『モット伯の領内で、時折 土メイジが行方知れずになる。裏稼業の 腕のいい土メイジが。鉱山奉行の監査役が巡視に来る頃に。』
 ってな。
 こいつが ただの噂じゃねぇのは判ってる。ウチでも、土蔵の鍵の複製をやらせてた 配下のメイジが消えちまった事があったからな。
 他にも色々とあるんだが、それらを合わせりゃ 隠れた絵図も見えてくる。
  『アシュオーは、銅鉱山ではなく 金山。
  監察役が来る時にゃ 土メイジを雇って、金鉱石を銅の鉱石に下位錬金させる。
  貴金属の頂点を わざわざ卑しいモノにする術なんざ 普通は誰も使わねぇ。監察役だって気付きゃしねぇ。
  検査が終われば 金に戻す。固定化を併用してなきゃ 放っといたって戻るハズ。
  金と銅 その差額分は、全部モット家の懐に入る。
  そして 術者の土メイジは 口封じの為 殺される。』
 こんなところか。」

裏社会の情報からの 『推理』である。証拠は無い。それでも ゴロウーゾは確信していた。
何より 目の前のモット伯の沈黙が この内容が真実である事を証明していた。

「し 証拠はあるのか!ただの噂話 全て貴様の妄想ではないか!
 やはり貴様は 下賎な盗人よ、下衆の勘繰りだけは 得意と見える。」
「まぁな。確たる証拠は 何も無ぇ。
 それに 盗人なんぞが『お畏れながら』と訴え出ても、お上が採り上げやしないって事も。
 ロッゾを皆殺しにした後、モット家は急速にリッシュモン最高法院長官との結びつきを深めてったからな。
 大方 事の始末を頼んだのを契機に、季節毎に山吹色の菓子折りでも 届けに行く仲になったんだろう。
 だから、何を言っても 揉み消されちまうだろうよ。」
「なんだ、判っておるではないか。」
「だがなジュール。お前も名前ぐらいは知ってるだろう、アンリエッタ様が始めようとなさっている 『目安箱』ってモンを。」
「!?」
「ありゃ 誰でも それこそ盗人だって届出が出来るんだってな。おまけに投書の管理は 妃殿下の直轄だとか。
 賂(まいない)好きの長官様でも これには手を出せまい?」
「グヌヌヌゥゥゥ…」
「俺ぁ何も、今度の件で強請りタカリをしようってんじゃねぇ。
 俺は盗人だ。カネが欲しけりゃ 堂々と盗みに来るさ。
 今回は、ただ シエスタってメイド娘を渡してくれりゃ それでいい。
 その後 お前がその娘にちょっかいを出してこない限り、俺も何も しやしない。
 どうだい。その辺は 昔馴染みのよしみって事で 信じちゃもらえねぇか。」

呻り声を上げ続けるモット伯。その顔色は蒼くなり 紅くなり コロコロと変化する。
しばらくして やっと心の中の折り合いがついたのか、語り始める。
「あのような田舎娘の事など もう どうでもよいわ。
 ゴロッゾ いやゴロウーゾとやら、貴様に一つ教えてやる。
 『経験から学べん者は 早死にし、歴史から学べん国は やがて滅ぶ。』
 これは 真理だ。だのに、何故 貴様は学ばんのだ!
 『噂話程度のことを語って 一族が死に絶えた』そんな事例を 誰よりもよく知っているであろうに。
 知り過ぎた者は…此処で死ねぇぇぇえ!!」
殺意を込めて杖を抜く。呪文詠唱により出現する 丸太の如き水の柱。それは回転しながら先端を尖らせていく。
水系の高位呪文、『水撃大槍』。貫通力と衝撃力を兼ね備えた 城砦攻撃用呪文で、生身の人間が食らえば 一溜りもない。
…筈であった。

ゴロウーゾに襲い掛かったソレは、突如現れた水の壁によって阻まれ 四散した。
「ばっ、馬鹿な。 我が一撃が ウォーターシールド如きで!」
「やれやれ。アレがウォーターシールドにしか見えねぇのか? 
 それに 今のが第参階梯(トライアングル)の攻撃魔法だって?
 ジュール・ド・モット、手前にゃ 『波濤』だぁなんて御大層な二つ名は勿体無ぇ。
 ガキの頃の仇名 『しょんべん飛沫』の方が似合いだぜ!」
「えぇい!警備兵、警備兵は何をしておる! この狼藉者を捕らえよ。いや、抹殺せよ!!」
バンッ 書斎に三つあるドアが、壊れんばかりの勢いで開けられ、ワラワラと兵士が傾れ込む。杖を持つメイジもいれば、剣や槍を持つ平民兵もいる。
対するゴロウーゾには 焦りも恐れも無い。
その手には 何時の間にやら愛用の杖が収まっていた。服の袖口に仕込んだ杖ホルダーには、手首を返すだけで杖が飛び出す細工がしてある。
「手前ら雑魚に用は無ぇ!とっとと消えてもらおうか。」
そして唱える呪文。先程の魔法発動は 相手に呪文を聞き取られにくくする『隠し詠唱』だったが、今度は違う。
「喰らえ、『天空瀑布(ヘヴンズ・フォール)』」
突然 天井より降り注ぐ大量の水・水・水。それは激流となって、兵共を巻き込み 流れ去った。
一瞬にして書斎を埋め尽くした水は、出現時と同様に 一瞬で消え去った。
部屋に残ったのは、ゴロウーゾとモットの二人のみ。

その頃 シエスタは一人 モット伯の寝室に居た。
この屋敷に連れ込まれ メイド服をモット家の物に着替えた後は、新たな御主人様の指示があるまで 此処で控えているように言われた。
 まだ少女であっても、男と女 性と欲望について 知り始める年頃、これから 自分の身に降りかかるであろう事柄については判っていた。
弄ばれ 飼い殺しの生涯を送るか、ボロボロにされて 殺されるか。
彼女は 神に祈った。家族に祈った。そして 曽祖父に…
(お願いです。助けてください。故郷へ、タルブの村へ帰れるように。
 曾御爺ちゃんの遺言が、探していた人が判ったんです!ヴァリエール様を 連れて行かなきゃならないんです!
 だから 助けて、誰か 助けて!!)
目を閉じて 一心に祈り続けるシエスタ。だが、何者かに当て身を食らわされ 意識を失う。
(済まないねぇ、騒がれるのも面倒なんで、暫く眠ってておくれ。)
フーケの仕業だった。

ゴロウーゾの手引きで 屋敷に侵入したフーケは、まず女中部屋や厨房を調べたが、シエスタを見つけることは出来なかった。
もしやと思い、モットの寝所を覗いたところ 大当たり。
(どうしようもない助平オヤジだね、全く!)呆れながらも シエスタの身柄を確保する。
手荒な手段を取った理由は、大滝の頭目から頼まれた 『モットの罪の証を手に入れる』為に 時間が欲しかったから。
隠し戸棚や金庫を開けても 金目の物には目もくれず、手紙や証書の類を次々とズタ袋に放り込む。
一息つこうとした時 屋敷内の何処かから、バキバキと物の壊れる音 激しく水の流れる音が聞こえた。
(ちぃ、もう始まったのかい! 早いトコ この娘を連れてトンズラしないと。
 頭目、後は お任せします。)

モットは 追い詰められていた。
「今の呪文? まさか!」
「やっと気付いたかい?
 お前さんは第参階梯だが、俺は第四階梯(スクェア)よ。
 宮廷で のうのうと日々を過ごした貴族様と違って、裏社会で生き残るのは 一日一日が命懸け。魔法の腕も メキメキ上達したぜ。
 それでも 生まれついての不器用さは直らねぇ。『水』以外の系統は どうにも覚えられなくてな。」
真偽の程は判らない。だが、それが真実ならば…
「…『水系・単一・四階梯(アクア・モノ・スクェア)』かっ!」

メイジは皆 『火・水・風・土』のいずれかを 己の系統とする。(例外は、『虚無』であった始祖ブリミル位だ。)
唯 それは『最も相性の良い系統』というだけで、その系統の魔法資質しか持たないということは無い。
トライアングルやスクェアともなれば、複数の資質を併せ持つのが普通だ。それが 術の多様性を生む。
では 一つの系統資質しか持たないメイジは劣っているのか? そうではない。
同一系統の魔法資質を複数持つ事は、一つしか持たないものに対して 魔法出力の面で優位に立てるのだ。
更に 『単一系統スクェア』でなければ使う事の出来ない術も存在する。先の『ヘヴンズ・フォール』も その一つ。

水系統のメイジは 術の媒体として水を必要とする。
よく知らぬ者が見れば 何も無い所へ 突然水が現れる様な術も、実は大気中の水分を凝縮させて作り出しているのである。
(少量の水を元に それを増幅する 文字通り『水増し』の術も、ある事はあるが…)
『ヘヴンズ・フォール』は 違う。術者にすら判らない何処かから、魔力を帯びた大量の水を召喚する術だ。
『召喚』なので、他の術と違い 大気中の水分を使い切って 術が使えなくなる事も無い。
召喚された水は、召喚した術者の意の儘に動く。逆に言えば 召喚者以外は この水を術の媒体に使えない。つまり、相手の周囲の水分を 全て召喚水に置き換えてしまえば 水メイジは殆ど何も出来なくなる。
結構えげつない、『同系統殺し』の術である。
(他系統のメイジには 物量で対応する。炎も 疾風も 岩壁ですら打ち砕く、圧倒的な水量が 全てを流し去る。)
それが、『大滝』のゴロウーゾ、水系統単一スクェアの恐ろしさだった。

「やい、モット。てめぇら一族は、何でヒトの話を聞かねぇんだ。
 昔、正直に『何も知らない』と言い続けた親父を信じず 殺しちまった。
 今さっき、俺はお前に言ったハズだ。『そっちから ちょっかい出して来なけりゃぁ こっちは何もしねぇ』とな。
 だってぇのに いきなり殺しに掛かるたぁ…
 俺は、温情のつもりで言ってやったんだぜ。それを こうもあっさり裏切ったんだ。
 『報い』は、受けてもらわなきゃな!」
警備兵は全滅、魔法も封じられたモットには、最早なす術は無かった。
「いくぜ、『天空瀑布・全力全壊ぃい』!!!」 

シエスタが目覚めた時、そこは いつもの魔法学院 従業員宿舎だった。
(モット伯は? あの御屋敷は??)
夢だったのだろうか。悪戯な妖精の見せた 唯の幻だったのだろうか。
「あら?起きたのね。」
そうでなかった事を、傍らにいた学院長秘書のロングヒルが 説明してくれた。
「…上の方で 何か話は付いてるみたい。だから 何も心配しないで、また明日から今まで通りに働いてください。
 でも この件で、貴方の為に動いてくれた方々がいらっしゃった事、それだけは忘れないで。」
シエスタには判っていた。その中の一人が 誰なのか。
(ありがとうございます。ルイズ様)

モット伯爵の屋敷は、謎の集中豪雨?により壊滅した。幸いな事に、(警備兵以外の)奉公人達に死傷者は無かった。
水が 彼等を包み込むようにして、そっと屋外まで運んでくれたらしい。
モット伯本人は頭髪が真っ白になる等 人相が一変していた。よほど 恐ろしい目に遭ったようだ。
そして 屋敷の跡地には 水の流れが刻んでいった 巨大な文字が残されていた。
『ロッゾは 復讐を果たした』と。

トリスタニアの瓦版辻売りや吟遊詩人達は、この事件を面白おかしく取り上げた。
噂話が程よく広まった頃、ジュール・ド・モット伯爵は引退し 家督を息子に譲り渡すことを表明した。
その際に 新たに金の鉱脈も発見されたアシュオーの鉱山の所有権を、トリステイン王家に譲渡することを付け加えて。
この金山によって生み出される利益は、後にアルビオン救援派遣艦隊と それに続く戦費の一部となった。
これらの一件への 盗賊改の関与を疑う者は、皆無であった。

なお これより後、盗賊改の犯科帳に 『小間物商いの おマチ』なる密偵の名前が散見されるようになる。
しかし 他の密偵同様、その人物の詳細について 一切の記載は残されていない。


    (エンディングテーマ 『インスピレイション』 by ジプシー・キングス)

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