あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔は四代目-01

「…何でよ…」

ルイズは力無く呟いた。使い魔召喚の儀式、サモン・サーヴァント。他の全ての生徒達が問題なく使い魔を召喚し、コントラクト・サーヴァントを済ませたのに対し、ルイズだけが失敗を繰り返していた。
それがようやく成功し使い魔となるものが召喚されたのである。本来なら喜んでしかるべきだ。だが、ルイズの表情は暗かった。

そこに立っていたのは、紫のローブを身に纏い、髪を二本の角の様に立てている奇妙な老人だった。その肌は青白く、どことなく不健康そうだ。
だが、それよりも重要なのは、その老人が持っているドラゴンをあしらった杖の存在だった。

杖を持っているという事は、多分メイジなのだろう。あるいは…貴族?
だとするとこれは…かなり不味い状況なのかもしれない。

ルイズのそんな焦燥を他所に、老人は興味深そうに辺りを見渡していたが、適任と見たかのんびりとコルベールに話しかけた。

「あー、ちと聞くが。ここは一体どこじゃ?」

「ここはトリステイン魔法学院です。私はここで教鞭を取るコルベールと申す者。
以後お見知りおきを下されば幸いです」

コルベールは内心冷や汗を掻きながら、慎重に言葉を選びつつ答えた。
相手がメイジ…いや、最悪貴族であれば、自分が使い魔召喚で呼び出されたと知ったら、どう出るか?
…激高してもおかしくない。というか、そうなる可能性のほうが高い。
自制してくれれば良いが、もし怒りのままに魔法を使われたら?
それに、この場は矛先を納めてくれても、その先は…

「…失礼かと思いますが、尋ねさせていただきます。貴方は杖を持っていらっしゃるが…貴族であらせられますか?」

相手が貴族ならば、どう対応するにしても自分の権限を越えている。学院長のオスマンを呼ばねば話が付かないだろう。
コルベールとしてはそこのところは是非とも確認しておかねばならない点だった。

「貴族…?わしはそんなもんじゃないわい。それよりトリステインといったか?知らん名じゃ。そりゃ国名かの?」
「はぁ。そうですが。…ここはトリステイン王国ですが、ご存じないのですか?」

老人の返事を聞いて、コルベールはひとまず安堵した。取り敢えず相手が貴族ではない、という点で。どうやら最悪の事態にはならずに済む様だ。
そして、ここまで固唾を呑んで成り行きを見守っていた生徒達の殆どは、どうやら老人が貴族どころかトリステインも知らない田舎物だと判断した。

それに伴い、
「ルイズが平民を召喚したみたいだぜ」
「田舎者の老人を召喚するなどさすがルイズだ」
といった嘲りが囁かれ始めた。

「みんな好き勝手言ってるわね…ま、召喚したのが只のお爺ちゃんじゃ、冷やかしたくなるのもわからなくはないけど」
「違う」
どことなく冷めた口調で呟くキュルケは、珍しく感情が込められたタバサのその呟きに思わずその顔を見た。
「あの老人、只者じゃない。シルフィードが驚いて…ちがう、恐れて、いる…?」
「…シルフィードってこのウィンドドラゴンよね?恐れて…って、この子が?あのお爺ちゃんを?何で?」
「…分からない。シルフィード、あれは何者なの?…え?」

シルフィードが答えた言葉は、二人を絶句させるのに十分なものだった。

「おう、さま…?」
「そ、それって…?」

トリステイン王国。その名を聞き、シルフィードが王様と呼んだその老人は考え込んでいた。そんな場所は彼の知るいかなる所にも無い。
しかし、もっと重要な事はこのコルベールと名乗った男と、目の前にいる桃色の髪をした少女以外の人間が、自分を好奇の表情で見ている事だ。
普通ならば、間違いなく恐怖と敵意が投げつけられる。いや、それ以前に大抵の人間が恥じも外聞も無く彼を見た瞬間に逃げ出そうとするだろう。

…ルイズ達は知らない。この老人が後にしてきたアレフガルドと呼ばれる地では、彼の姿は恐怖と絶望以外の何物でもない事を。
それは、かつて世界を手中に収めた魔王だった。大地の女王の祝福を受けた実り多き大地は、魔物共の跋扈する暴力と死が支配する荒野となった。
無数の村や町を滅ぼし、王国を強襲し、姫を攫った。討伐に向かった軍を骸の山に変えた。
王の中の王と自称した、恐怖と共に語られるその魔王の名は、竜王といった。

「知らん。…やはりアレフガルドではないのか。…まさか、噂に聞く上の世界、というやつなのか…?」
「は…?アレフガルドとか上の世界と言われても何のことやら」
「ではもう一つ尋ねるが、勇者ロト、或いは大地の女王ルビスという名も知らぬか?」
「ロト。ルビス…聞いた事がありませんねぇ…」

「そうか。それでは本当にここは異世界のようじゃのぉ…
さて、そこで問題があるのじゃが…誰が、何の為にわしをこんな所に召喚したのか、納得のいく説明をしてもらいたいのじゃが」

先程までののんびりとした口調とは違い、鋭いものが混じったその質問に、コルベールはまだ窮地が終わってはいなかった事を悟った。

「そ、それはですな…ここでは只今使い魔召喚の儀式を行っておりまして、
ここでメイジは一生の使い魔を決定するのですが…。あの、こういった事は何分初めてで私も非常に困惑しているのです。普段はその、他の生徒達のように動物や、実力ある者は幻獣を召喚するのですが」
「どういったわけか、このわしが呼び出されてしまった…と?」

見てみればなるほど。確かに様々な動物やら幻獣が子供達についている。その中で彼の目を引いたのは青い髪の少女を乗せた一匹の見知らぬ種類の竜であった。
その竜が張り詰めているのが分かる。異世界といえど、やはり竜族。感じるものがあった、という事か。

「は、はい。先程も申した通り、この様に人が召喚された、という事は私は聞いたことが無いのです。
それで、貴方を呼び出したのはこのミス・ヴァリエール嬢なのですが」
「ミスタ・コルベール!やり直しさせて下さい!」

話を向けられたのを幸いに、ルイズが叫ぶ。どうやら貴族ではないようだが、メイジを使い魔にしたとなれば問題が多すぎる。
メイジではないとすれば只の老人を使い魔とすることとなり、それは余りにも惨めだ。
どちらにとってもルイズには受け入れがたい選択である。思わず声を荒げたのも彼女にしてみれば無理は無い。

「それは出来ない、君も分かっている筈だ。これは神聖な儀式だ。一度呼び出した使い魔は変更できない」
「でもでも、人間を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
「確かにこの様な例は古今東西無い。が、春の使い魔召喚のルールは他のあらゆるルールに優先する。すなわち、変更は認められない」

「無理だってルイズ!その爺さんを呼べたのだって奇跡みたいなもんだろ!」
「あきらめて契約しちまえよ!ゼロのルイズにゃぴったりな使い魔じゃないか!ま、契約出来るかどうか怪しいけどな!」

次々と投げつけられる嘲笑の言葉に唇をかみ締め、肩を震わせるルイズ。それを見つつ彼は考え込んでいた。

…さて、どうしたものか。ある程度事情は分かった。知らずにした事とはいえ、なんとも無謀な事だ。なんとこの少女はわしを使い魔にしようとしたらしい。
まぁわしを知らぬとすれば無理からぬ事かもしれぬ。
…ならばだ、一つ『教育』してやるか。騒がしい外野も多い事だし…何よりここは学院なのだから。

「あー、コルベールとやら。お主は教師なのじゃろう。口は災いの元、という言葉をそこの喚くだけの能無しに教えてやったほうがええんじゃないか?」

あからさまな嘲笑の篭ったその言葉に、ルイズを冷やかしていた一同の顔色が変わった。
只でさえ自尊心の強い貴族達である。嘲笑されただけでなく、相手が平民であるということが怒りに拍車をかけ、次々非難の声が上がる。

「へ、平民の癖に貴族に対して何たる侮辱!許さないぞ!」
「その通りだ!道理の知らない田舎者とて容赦はしないぞ!」

「ご、ご老人!突然こんな所に召喚されては不快に感じるのは当然でしょうが、そんな挑発するような言動は避けてください!
君達も冷静になるんだ!貴族たる者は無闇に動じない!」

「ミスタ・コルベール!この平民は貴族を侮辱しました!名誉を汚されて黙っているのは貴族の恥です!」

不穏な雲行きに慌てたコルベールが事態を収拾しようとする。しかし、頭に血が上った生徒達は耳を貸そうとしない。それどころか、火に油を注ぐように

「…ほぉ、有象無象の輩達の癖にどうやら一人前にプライドだけは高いらしいの。じゃが、実力も無いのでは滑稽なだけじゃわい」

老人は更に挑発を重ねた。憤慨した一同の声が大きくなる。

「実力が無い?ならば僕の魔法を体で味あわせてやるよ!」
「ルイズ!そいつを黙らせろよ!いや、黙らせるだけじゃ足りない。謝罪しろ!」
「さすがはゼロのルイズだ。使い魔の礼儀も常識もゼロだな!」

騒ぎを沈静化させようとするコルベールの努力も虚しく、老人と彼を召喚したルイズへの罵詈雑言の嵐が巻き起こる。それをルイズは屈辱に震えながら耐えた。
老人は笑みさえ浮かべ平然と受け流していた。その笑みは余裕のためだけではない。この先の展開を想像しての笑みだ。
激昂している高慢な子供が、恐怖に怯える姿を想像しての。さぁ、『教育』の始まりだ。

「実力が無いのは事実じゃろ?なぜなら、誰一人としてわしの力に気付いておらんからの。
…くっくっく… 貴様ら小童どもには勿体無いが冥土の土産に見せてくれよう!」

その言葉とともに、凄まじい威圧感が、暴風にすら感じられる勢いで老人から発生する。それとともに老人の姿が変わり行く。口が裂け、爪が伸びる。身長が伸びる。鋭い角が生え、体が鱗で覆われる。
先程まで威勢よく騒ぎ立てていた者は皆、突然の成り行きに声も無く呆然と見つめる事しかできない。そしてついに。

 りゅうおう(のひまご)がしょうたいをあらわした!


そこに現れたのは神々しささえ感じさせる一頭の巨大なドラゴン。
全員が恐怖の中で悟った。こいつは只のドラゴンじゃない。そんなものより遥かに格上の存在なのだと。

硬直した一同の顔を満足そうに見渡し、それは高らかに宣言した。

「我こそは竜族の頂点にして王の中の王、竜王のひ孫なり!
志半ばで散った偉大なる曽祖父の遺志を継ぎ、今こそ人間界を征服してくれるわ!
竜王の真の姿を見られる事を光栄に思いつつ、逝ね!」

数瞬の沈黙の後、幾つもの絶叫が重なった。這々の体で逃げようとする者のはまだましな方で、腰を抜かし動けない者、気絶する者、錯乱して喚き散らす者が続出した。
コルベールは咄嗟に杖を向けていたが、恐らく全ての抵抗は無駄に終わるであろう事は彼が一番良く分かっていた。
ルイズは、これから起こる事を予想して、心の中で家族に詫び続けた。
キュルケとタバサは、目の前のドラゴンがシルフィードの言葉から想像していたより遥かに強大な存在だったことに歯噛みしていた。
要するに、誰もが最悪の結末を予想し、絶望していた。

だが、

「なーんてのは冗談じゃ、本気にしおってからに。
だからお前らは未熟だというんじゃ。いやぁ愉快愉快。ぐわはははっ」

先程とはうってかわってあまりに軽い調子で放たれたその言葉によって、そんな阿鼻叫喚の場は静まったのだった。
圧倒的な威厳をその身に纏ったドラゴンが、本当に愉快そうに朗らかな高笑いを続けているのを、一同は呆けながらしばらく眺めるだけだった。

「…確かにシルフィードの言ったとおり王様、だったわね… タバサ、あれが演技じゃなかったらどうなっていたと思う?」
「…愚問。全滅の回避すら怪しかった筈」
「…やっぱりそうよねぇ…ま、とんだ食わせ者だけど…凄い使い魔には違いないわ。やったじゃないの、ルイズ」

普段のルイズとキュルケの関係を知る者ならば、その呟きに驚いただろう。
心底恐怖させられたにもかかわらず、キュルケの言葉は皮肉ではない嬉しそうな響きがあったのだから。
タバサはそれに気付き、キュルケの顔を見つめたが、それ以上はどちらも何も言わなかった。


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