あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

BRAVEMAGEルイズ伝第一章その6


第一章~旅立ち~

その7 光の剣?デルフリンガー



『ゼロのルイズの使い魔が、ギーシュを決闘で負かした』
 このあまりに刺激的なニュースに学院はどっと沸いた。
メイジを下す実力を持つ子供が現れた。
いや、ギーシュの慢心によるものだ。
様々な噂が錯綜することとなった夜、ムサシは厨房にいた。

「おっさん!完璧だぜ!これこそおにぎりだ!」
「おう!たんと食ってくれ!能なし貴族の鼻っ柱、よくへし折ってくれたな!」

 ムサシの髪を大きな手で撫でる料理長マルトーは、非常に上機嫌だった。
おかげで厨房の雰囲気はすっかり宴会場になっている。
彼の好物『オニギリ』を存分に振舞いもてなし、ムサシのお腹は幸せではちきれそうだ。

「もう、マルトーさんったら……でも本当によかった、ムサシくん……」
「どうしてだい?」
「心配していたの、ムサシくんが負けちゃうんじゃないかって」

 通常、ハルケギニアで貴族に平民が逆らうことは自殺行為だと思っていた。
シエスタもそんな常識を持って今まで生きていたのだが、目の前の小さな少年がそれをひっくり返したのだ。

「本当に勝っちゃうなんて。ムサシくん、まるで『サムライ』みたい」
「へへッ、おいらがあんなヘナチョコに負けるわけねえさ!……え?『侍』?」
「あ、私の故郷では、とってもすごい剣の使い手をそう呼ぶらしいの」

 聞き返したのは、聞きなれぬ言葉だからでは無い。
ムサシは知っている。
刀を振るう戦士、すなわち自分のことをそうとも呼ぶと。
シエスタがこの地に存在しない戦士の呼称を知っている理由を聞こうとしたその刹那。
マルトーが二人の間に顔を突き出した。

「なんともシャレた異名だなシエスタ!」
「ひゃ、マルトーさん、酔ってるんですか!?まだ夕食の後片付けは残って……」
「よーし!シエスタの故郷に従って、ムサシを『我等が侍』と呼ぼうじゃないか!」
『あっぱれ、みごと、我等が侍!』
「うわぁっ!おいおい勘弁してくれよ!」

 厨房がコック一同のどんちゃん騒ぎの場と化して、シエスタは苦笑する。
ムサシもまんざらではなさそうで、やんややんやの大騒ぎだ。
そろそろ食堂の方にも厨房の騒ぎが聞きつけられようか、といったその時。
恐怖の大王のように、それは降臨した。
「誰が恐怖の大王よっ!ムサシ!ムサシはいるの!?」
「ルイズ!?」
 厨房の喧騒が、水を打ったように静まる。
ムサシはご主人様のところへ嫌々ながら進み出た。

「なんだよ、ここで飯をもらうことは言っておいたゼ?」
「だからってご主人様よりゆっくり夕食を食べてていいわけ無いでしょ!ほら、帰る!」
「うわっ、引っ張るなって……シエスター、おっさーん。ごちそうさま!」
 大騒ぎはさらに騒がしいルイズの登場で一気に終焉を迎えた。
シエスタもマルトーも、ぽかんと立ち尽くしてしまう。

「行っちゃいましたね」
「全く落ち着かない主人みたいだな。同情するぜ『我等が侍』」
 どこかからかいのように微笑みながら、ムサシに手を振る。
彼の次の来訪を楽しみにする、厨房の一同であった。


* *



 その後、オールド・オスマンからのお咎めも無く、ルイズは無い胸をほっと撫で下ろした。
ギーシュも後日、ムサシといがみ合うこともなく話しているのを見かけたし、特に遺恨はなさそうである。
ルイズは使い魔の順応力が優れていることに感心するやら呆れるやらであった。
当のムサシはというと、しばし穏やかな日々を過ごし、満足しているようだ。
朝、ルイズよりも早く起きて剣の稽古。
他の生徒たちの使い魔と駆けまわり足腰の鍛錬。
腹が減れば厨房でおにぎりを貰い疲れたら青空の下でごろりと寝る。
ヤクイニックで過ごした日々と、そう変わり映えはしていない。
ただひとつ、不満な点があるが。

「タイクツだ……どっかに強いヤツでもいねえかな~」
 ギーシュとの決闘騒ぎ以来、彼に決闘と呼べる出来事は舞い込むことがなかった。
三度の飯より決闘が好きのムサシにとっては、過ぎたる平穏は不謹慎ではあるが遠慮したいところなのだ。
帝国の刺客、ビンチョタイトの異常による怪生物、そしてクレスト・ガーディアン。
以前の場合は未知の強敵に事欠かない、飽くなき戦いが待ち受ける世界。
しかし今は彼を取り巻く状況が、最初から違っている。
彼はルイズの下僕であり、世界を救う英雄では無かったのだ。
下僕の立場で戦うことなどそうそうなく、ムサシは磨いた剣を持て余す日々を送らざるを得ないのだった。


* *



 そして数日後、虚無の曜日がやって来る。
いつもの時間に起こしたねぼけ眼のルイズの話によると授業が休みらしい。
着替えに入ったご主人様を置いて、寝袋をしまったムサシは寮の外へと繰り出した。
ちらほらと、他の生徒や使い魔の姿も見える。
ムサシは他人の邪魔にならないよう、人気の少ないところで黙々と鍛錬を始めた。
しばしそうしていた所、最近仲良くしている使い魔がのそのそ、と寄ってくるのを感じる。

「きゅいっ」
「やあ、元気そうだな!」
 誰のかは定かでは無いが、恐らく使い魔であろう竜が頭を摺り寄せてきた。
一昨日、昼食の特製『マルトーおにぎり』(例によって残り物の高級鶏肉入り)を半分こした仲だ。
今日はまだ朝食も貰っていないが、それでもいいらしくムサシの鍛錬を眺めている。
ちゃっかりしたことに、こうして近くにいればおこぼれを貰えるという算段らしい。
だがムサシのほうも、別にそれは構わないようだ。
ヤクイニックでもここまで身体の大きい生物は目にしたことがなく、ムサシは興味があった。
この竜だけでなく他の愛らしい使い魔を見ると、ジャンや村の人々がレノを可愛がった事も多少は理解できると言うものだ。

「ムサシくん、おはよう」
「おう、おはよう!どうしたんだいシエスタ」

 続く来訪者はなにやら包みを抱えたシエスタだ。
決闘をした夜以降、何かと気を使ってくれている。
腹が空いていないか、着ている物は綻びていないかなどだ。
故郷の弟を思う気持ちや感謝の念がそうさせているようだったが、その度ルイズは面白くないらしい。
シエスタも気を遣ってか、ムサシが一人で居るときに話しかけてくれるようになった。
貴族相手の口調をしなくてもいいせいか、シエスタ本人にもそれは安らぎになっているようである。
この地に珍しい黒髪の二人は、仲睦まじく会話をしていた。

「マルトーさんが持たせてくれたの、朝ごはんに食べてね」
「わざわざ届けてくれたのか?何から何までありがとな」
「ううん、気にしないでいいの。それに私ムサシくんと話していると、なんだかホッとするっていうか……」
「きゅいっ、きゅい!」
「きゃッ!?」
 シエスタの包みの匂いに我慢ができなくなったか、青い竜が大きな頭を摺り寄せてきた。
少し驚いたシエスタだが、よしよしと頭を撫でてなだめてやると竜は嬉しそうに鳴き返す。

「わりい、こいつもマルトーさんの飯が好きみたいなんだ」
「うふふ、食いしん坊なのね。ムサシくんと仲良くね」
「ありがとうシエスタ、じゃあな!仕事がんばってくれ」
「ムサシくんもね!」
 学生が休みとしても、使用人の彼女にとって休日では無い。
仕事にもどったシエスタにムサシは手を振り、今日も美味しそうな食事を竜と仲良くいただいた。
「うん、初めに食ったパンよりもずっとうめえ。ジャムの店を思いだすな」
「きゅいぃ~っ」
 魚のオイル漬けを野菜と一緒に挟んだサンドイッチは、パン嫌いなムサシをも唸らせた。
最初こそ苦手としていたパンだが、ヤクイニックでの常食のひとつとしての習慣が徐々に味覚を変えたらしい。
今ではおにぎりほどではないにせよ、パンも悪くない。
隣で美味しそうに頬張る竜を見ていると、よりそう思える。

「ふうー、食った食った!さて、今日は遠出しようかな…?」
「きゅいっ?」
 実はムサシ、一昨日、昨日と学院の塀を乗り越え脱走している。
この塀際で眠っていた竜の身体を足場にし、ゲイシャベルトの力を発揮したのだ。
自分なりに元の世界への回帰を図るという意味もあったのだが、何よりじっとしていられなかった。
彼にこの学院は、少々狭いのかもしれない。
それに、彼は昨日見つけたのだ。

(また"あんなもん"が見つからないとも限らないしな)
 深い森の中に、手がかりを。

「悪いけど、また今回も頼むゼ」
「きゅいきゅいっ」
「何を頼むのよ」
 ぎょっとしたムサシが振り向くと、身繕いも綺麗に整えたルイズが立っていた。
ムサシが腕の時計を見ると、もう学生達の朝食の時間は終わっている。
黙って外出しようとしたことが後ろめたいこともあり、後ずさりして身構えた。
対するルイズは疑問を抱きながらも、珍しくムサシを見て微笑を浮かべている。

「さ、準備して」
「え?」
「剣を買いに行くわよ」

「変なところ触らないでよね」
「そんなこと言ったって、他につかまる所もねえぜ」
「誰の身体につかまるとこが無いって!?」
 頭頂に肘を決めながらルイズが言う。
ムサシの身体に合う馬など流石に無く、二人で一頭の馬を使わざるを得なかった。
やいのやいの言いながらの珍道中は2,3時間続き、ようやく目的地の街にたどり着くことができた。

「随分人がいっぱい居るんだなあ」
「トリステインで一番大きな都だもの、当たり前よ」
 ムサシが知る城下というのは、ヤクイニック城下村だけだった。
目の前に広がる光景は、人々が狭い道を所狭しと行き来しているもの。
穏やかな農村であった城下村とは、似ても似つかない。
これも文化の違いか、とムサシはどこか新鮮さを楽しみながらルイズの後に続いた。

「そんなにきょろきょろしてると、田舎者扱いされるじゃない。ほらこっちよ」
「ああ。にしてもなんで、剣を買ってくれるなんて言い出したんだ?」
 ムサシは当然の疑問をぶつけた。
使い魔への要求はあっても、ルイズからの施しなど食事がいいところだとばかり思っていた。
ルイズは硬直してギギギ、と音を立てそうな仕草でこっちを向いた。

「そ、それはあれよ…この間あんた言ってたじゃない」
「?」
「ほら!"ニトウリュウ"って……あんた、剣二本持ってたほうが強いんでしょ?」
 ルイズがごにょごにょとムサシの方を見ないでつぶやく。
本人としては主が使い魔にご褒美をやっているつもり、なのだ。
だが対象がムサシという異性であるせいなのか─

(ルイズもおいらと一緒にもっと、強くなろうぜ!)
(うっせえ!!決闘だ!!ルイズに謝れ!!)

「つ、強いほうが役に立つじゃない……それだけだからね!!」
「なんだよ?変なルイズだな」
「うるさい!」
 それとも、自分にも解らないうちに他の意図ができたのか。
ルイズはやけに気恥ずかしく感じてしまっていた。


* *



 うらぶれた路地の武器屋は、サビた匂いがぷんと鼻を刺激する。
ルイズは顔を軽くしかめたものの、ムサシにとっては慣れた臭いだった。
客に気づいた店主が佇まいをのっそりと直し、二人を値踏みするような目で見つめた。

「いらっしゃってくだすってなんですがねえ、うちは貴族様に目をつけられるようなことなんかしてませんぜ。
 至極真っ当な商売をしてまさあ」
「客よ」
 ルイズが腕を組んでふんぞり返るのを見て、ムサシも倣って腕を組む。
店主はその言葉に驚いて目を見開いた。

「こりゃおったまげた。貴族が剣をお求めですかい?」
「だって、使うのは私じゃないもの」
「へぇ、ではどちらさんで」
「おいらだぜ!」
 カウンターから乗り出した店主が、ムサシの姿を認める。
とたんに豪快に笑い出す。
突然の態度の豹変に、ルイズとムサシはむっとした。
慌てて畏まった店主が身を縮ませ弁明する。
「し、失礼貴族様。ですがねえ、こんなチビ助……ああいやお子様に振るえる剣が、
 この店にありますかねえ」
「なんとかしてよ、ここ武器屋でしょ?」
「ナメてもらっちゃ困るぜ、おっさん!」
 ムサシが不服そうに腰の名刀を鞘ごと抜き出し、掲げる。
鯉口を切った瞬間閃く真・雷光丸の黄金の剣光を見るやいなや、途端に店主の目が光った。

「……おぼっちゃん!その剣、言い値で買わせていただきやしょう!!」
「売らねえよ!こいつくらい良いモン、置いてないかい?」
 目がらんらんと輝く店主がずずいと迫ってきて、ルイズとムサシは後ずさった。
途端にしょぼくれて老けこんだ店主がしぶしぶ店の奥に引込み、いくつか剣を用意してきた。
最初に差し出したのは、長さはここの世界で言うと一メイルほどの細剣。
細やかな装飾のレイピアだった。

「えー、確かに最近従者に剣を持たせる貴族もおりましてね」
「やる気出してくれない?客よ私ら」
「こいつぁ失礼。それというのも、トリステインで話題の盗賊というのが居るかららしいんですわ」
「盗賊?」
 店主の話では、なんでもその盗賊は『土くれ』のフーケと言う通り名らしい。
貴族のお宝を片っ端から盗みまくる賊で、皆が皆恐れを抱いている。
故に、自衛のために従者に剣を持たせるのが流行しているそうだ。
ムサシは"盗賊"というフレーズに目を輝かせるがルイズは気づいていない。
剣を眺めながらふうん、とその話に相槌を打ちつつ首を捻っている。

「若奥様、ご不満でも?」
「剣のことはよく解らないけれども……細くない?これ」
「ああ、おいらにゃ細すぎるぜ」
「お言葉ですがねえ、この子の身体にゃ正直これくらいしか合いやせんぜ?」
 店主はそう言うものの、ムサシの力を垣間見ていたルイズは難色を示す。
すると、剣を振るう本人がすっ、と進み出た。

「まあ見てなっておっさん」
「うん?」

それは 剣と言うにはあまりにも大きすぎた

大きく ぶ厚く 重く そして

大雑把すぎた

それは 正に鉄塊だった


─とでも評されそうな片刃の剣が、店の隅に置かれていた。
よく見れば奇妙な二つの穴が開いている、どこかで金髪のトンガリ頭が振るっていそうなその巨大な剣。
ムサシは"片手"で持ち上げた。

「は!?」
「こいつはちょっと長えけど、このくらいの段平でいい剣はねえか?」
 自分の使い魔がゴーレムを細身の刀で両断するほどのパワフルな子供なことは知っていたルイズ。
だが、改めてその怪力を見て驚くやら呆れるやら。
初見の店主はと言うと、くわえていたパイプをポロッと落としてしまう。
ムサシがその鉄塊をぶんっ、と一振りして元に戻したのを見て、店主がバタバタと店の奥へと引っ込んだ。

「あんた…持てるのはいいけど、本当にあんな剣使えるの?」
「おいらはもともと、この鞘に入るくらいの剣を使ってたからな」
 ムサシが背中につけた朱塗りの鞘を見せる。
本当にそれに合う剣など存在するのだろうか、と言わんばかりの大きさであった。

「無茶苦茶ねあんた……」

「お待たせしやした!!こちら、こちらはどうでございましょう!一番の業物ですぜ」
 見事に飾り付けられた、装飾の無いところを探すほうが難しそうな剣が出てきた。
長さは先程の剣の倍ほどもあり、かなりの幅広の大剣である。
店主が言うには、魔法も込められており鉄をも切り裂く逸品だとか。

「ムサシ、これすごいじゃない。綺麗よ」
「えー……ルイズ、おいらこんなゴテゴテした剣は好みじゃないぜ」
「何言ってるの!その刀?だっけ、それだって金ピカじゃないのよ。もう一本も当然こういうのでしょ」
 ともかく手にとってみなさい、と店主に鞘ごと剣を渡すように言いつける。
しぶしぶその剣を取ったムサシ。
ルイズは店主に値段を聞いていたが、不意に大声を上げた。

「エキュー金貨で2000!?庭付きの屋敷が買える値段じゃないの!」
「そう言われましても言わずとしれたシュペー卿の作品でさぁ、このくらいが妥当ですぜ。
 なにより剣は命を守るモンでしょう、値が張るのも仕方のないこってす」
「本当なのかしらねえ……」
 ルイズはやはり買い物慣れしていないようで、ぼったくりに遭っているのでは?とムサシは心配になってきた。
鑑定屋のボリーじいさんでもここにいればその目利きが大いに役立っただろうに、という思いに駆られる。
すると、はたと気づいたように額の眼鏡を掛けて、まじまじとその手の剣を眺めた。

「?あんた、目が悪かったの?」
「いや、こいつは見たモノを鑑定できる伝説のゴーグルなんだぜ……えーっと、どれどれ。
 『ゲルマニアのシュペー卿が鍛えた剣。だが実戦で使うには値しないおかざりの剣で、
  鋼鉄を斬るどころか岩にすら負けてしまう 200エキュー』
 ……なんだおっさん、こりゃとんだなまくらだぜ!?値段も一桁違うじゃねえか!」
「な、ななな」
「はぁ!?ちょっと、どういう事よ!」
「すすす、すいませんでしたぁーっ!ちょ、ちょっとした手違いみたいで……ええと……」
「ぶわーっはっはは!!とんだチビどもを相手にしちまったな!!」

 店主が詰め寄る二人にあたふたと言い訳を連々並べていると、途端に笑い声が響いた。
店に自分たち以外の客がいないはずなのに、とムサシとルイズは驚いて辺りを見回す。

「デル公、今取り込み中だ。お客様にそんな口を利くんじゃねえやい」
「そんな冷やかしのチビ助二人がお客様たぁ、お笑いだ」
「ちょっと!さっきから誰よ、失礼な!」
「こっから声が聞こえたぜ?」
 背の低いムサシが、店の一角の棚に手をかけて顔を出す。
するとそこには剣が置かれている。
錆が浮き古びた雰囲気の漂う剣の鞘が、カタカタと鳴りそこから音が漏れているではないか。

「しゃべる剣?驚いたな、どこにでもあるもんだ」
「これって……インテリジェンスソードじゃない?」
「ええまあ……意思を持つ魔剣なんて言われてますが、とんだ厄介モノでさぁ!
 客に悪態ついて喧嘩売るわ、脅かして追い返すわでこいつのせいで商売あがったりで……
 デル公、今度という今度はてめえをドロドロに溶かしちまうぞ!」
「へっ!やってみやがれ、こんなしょぼくれた店にゃあもう飽き飽きしてたんだ!願ってもねえ!」
 店主がずかずかと歩み寄り、お喋りな剣を取り上げようとする。
そこにムサシが口を挟んだ。

「待ってくれ、溶かす前に見せてほしいぜ」
「ムサシ、あんたこんな剣がいいの?」
 あからさまな難色をルイズは示す。
どう贔屓目に見積もっても、こんな錆まみれの剣は趣味に合わなかった。
こんな見窄らしいものしか買い与えられないのか、とキュルケあたりが指差し笑うに違いない。
しかし、当のムサシは興味深げだ。

「おいらが前使ってた剣も、しゃべったからなあ」
「えっ……あんた、どんな剣使ってたのよ…」



 ムサシが以前愛用していた剣、光の剣レイガンド。
その剣もまた、冒険の最中ムサシに語りかけたことがあった。
と、言っても正確に言えばレイガンドでは無く、そこに封じられた魔人が語りかけたというのが正しい。
ともあれムサシにとってこんな異郷の地でもまた、しゃべる剣に出会えたという奇妙な縁に心踊っていた。
兵法者にとって、物珍しい武器というのは否が応でも手にしたくなるものである。 
ムサシはデル公と呼ばれた剣を左手に握り、鞘から抜いた。
柄から切っ先までをじっくりと眺めて、正眼の構えを取ってみる。

「へ、ナリはチビだが案外サマに……お?」
「どうかしたのか?」
「こりゃおでれーた、ガキと思って見損なってた。お前ェさん『使い手』だったのか?」
「なんだい、その『使い手』ってのは」
 ムサシは再び『エキシャゴーグル』をかけ直しながら尋ねた。
伝説の武具の能力でこの剣を鑑定する。
銘は『デルフリンガー』というらしい。
なるほどそれでデル公か、とムサシは納得する。
と、握る左手が熱を持っている感覚がして目を向けた。
見ると、朱の篭手の下から光が溢れている。
外してみると、使い魔の契約のルーンが輝いていた。
ムサシは、ルイズと二人で目を見合わせる。

「えーっと『使い手』ってのはアレだ、ほら。あーっと…えー、すまねえ!はっきりとは覚えてねえ」
「なんだよそれ?」
「はっきりしない剣ねえ……ねえ、サビてるし胡散臭いわよこいつ。相手にしないでおきましょ」
「人を見た目で判断するたぁ、まだまだ青いなピンク女。ピンクの割にな」
「剣じゃないあんた」
 危うく刀剣にツッコミを入れそうになったルイズが手を引っ込める。
ムサシは黙々とデルフリンガーを鑑定していたが……やがて、驚いたようにゴーグルを外した。

「ルイズ、おいらこいつに決めたぜ」
「えー!?嫌よ私、こんなボロっちい剣」
「おいおい使うのはこっちの小僧だろうが!おい親父!俺の値を言ってみろ!特価だろ!?」
 抜身のデルフリンガーがムサシの手でバタバタと喚く。
先程までのからの態度の豹変ぶりにルイズはぎょっとした。

「鞘込みで100って所で結構でさ。この店で一番のがらくたで良けりゃそれくらいでお譲りしましょ」
「おいちょっと安すぎやしねえか!?しかもがらくたたぁ言ってくれるじゃねえか、表出ろ親父ぃ!!」
「お前、買われたいのかそうじゃねえのかハッキリしろよ……」
「言っとくけど100以上なら買わないわよ……」
 半ば呆れてきた二人だが、ルイズの財布を開いて覗き込んでみる。
100しかなかった。
な、とムサシが片目を瞑る。
ルイズは口を尖らせながらも、しぶしぶ勘定を済ませるのであった。

「うるさくなったら、この鞘に入れりゃ黙りますぜ。できるかい坊主」
「おう!朝飯前だぜ」
 ムサシの背には新たに三本目の鞘が括られる。
彼の身の丈ほどの大剣と呼べるサイズだというのに、器用にムサシは背に剣を収めた。
店主はムサシの頭を大きな手で撫でて笑いかける。

「そいつは愛想が悪ぃなまくらだけど、面倒みてやってくんな」
「ありがとな、おっさん!いい買いモンしたぜ」
「あばよ!俺っちのいない余生は辛気臭ぇだろうが、楽しみやがれ」
 なんだかんだで、すっかり人が良くなった店主に手を振って二人と一振りは店を後にした。

店を出て、大通りを逆行して外へと向かう。
しかし、ルイズの方はと言うと未だ納得していないのか憮然とした様子であった。

「ホントにそんなので良かったのかしら……こんなヘンテコな剣じゃ笑われるわよ?」
「おい娘っ子、言うに事欠いてヘンテコはねえだろぉが」
「いや、ルイズ。こいつはとんでもない掘り出しモンだったぜ?」
「うそぉ?だってこんな骨董品以下の剣……」
 ルイズは訝しげに背中で揺れる剣を眺めた。
どんな物好きだってゴミとして捨てそうなその外見を見て、改めてため息が洩れる。

「娘ッ子ぉ、そりゃねーぜ。そりゃ俺、いろいろ忘れてるけどもさ」
「いいよ、帰ったら説明するからさ。これからよろしくな、デルフリンガー」
「おう、俺っちのことはデルフでいいぜ。相棒、名前を教えてくれや」
「おいらは、ムサシだ」
 人ごみを抜け、都の外に繋いである馬に乗り込む。
日はまだ正午、といったところか。

「ちょっと!何で私の前にあんたが乗るのよ」
「後ろにしがみつかれるより、こっちのがルイズのが楽だと思ってさ」
「い、いいからあんたは後ろ!しがみつかれて嫌がるほど心狭くないわ!」
「ケケケ、言うねえ娘ッ子。本心は違うんじゃねぇか」

帰路は行きより、少し騒がしくなりそうであった。



新着情報

取得中です。