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ゼロの黒魔道士 Another Note-04


む!?これは……クリーム?いや、牛乳臭さが……
果物?なんと!果汁を煮詰めるだけでここまで濃厚な味が!!
これが噂の『バカリンゴ』でござんすか!
いやぁぁ!こりゃぁ参った!降参っ!!
所詮、流行り物と馬鹿にしてましたが、なかなかどうして!
ラム肉のクセだけを隠して、蕩けるように!
あぁ~!これはもうお上品さなんていりませんな!
骨のとこをこう持ちまして、下品にも口を開けましてな……
むむぅっ!至福っ!またワインによく合うっ!!

……はい?肉の感想はいらない?さっさと続きを話せ?
まぁまあ、短気は金貨1枚の損ですぜ?
腹が減ってはアルビオンも落下するなんて言うじゃぁござんせんかぁ。

――タハッ!こいつは手厳しい!確かにさっきから飲み食いしてばかりですわな!
この店が美味すぎるのがイカンのですわ!いや全く!

よし、小休止!食事は小休止ですわ!
えぇ、ちゃんと話の続きをさせていただきましょうぞ!
あ、でもワインのつまみぐらいは良ござんしょ?
……お姉さん!ピクルスを追加で!

さてさて……近頃はね、旅も難しいもんじゃ無くなってきてますわ。
山道、獣道ぁ確かに厳しいざんすが、
こいつを越えて街道に出りゃ大きかれ小さかれ村町には繋がってまさね。
足取りかろやかに!私めの舌も滑らかに!一行は街へと……

おほっ!スゴい臭いっ!来た来た来たっ!
いやー!このピクルスはまたクセになりますなぁ……
あぁ、失敬失敬、では話の続きを……うぅん、シャキシャキでたまらんっ!


           ゼロの黒魔道士 Another Note
           ~第肆篇~ 恋に落ちて


人の住む街の呼吸は、木々のざわめきとはそれなりの違いがある。
浴場の口笛と、王宮楽団によるファンファーレ程の差だ。
音楽には少々疎いスティルツキンにとって大した違いは無い。
どちらも聞く方にとっちゃ退屈極まりないだけの代物だ。

「ふわー!ふわー……ふわー、ふわぁああ!!!」

それよりは、この少女のような感嘆符のソプラノの方がよっぽど良い。
スティルツキンはそう考えた。

町としては中規模以下、建物の高さも空を遮るほどでは無い。
それでも、交通の要所として栄えたこの町は、
修道院出身の娘を満足させるぐらいの気前は見せている。
冬支度前の気ぜわしい空気、露天商の軽やかな口上。
それらが石畳を反射して、全体的に跳ねるようなメロディーを作り上げていた。

その真ん中で、少女は踊っていた。
自分の尻尾を追いかけまわす犬のように、くる、くる、くると良く回る。
見たいものを一度に見ようと、体をのけぞったり、斜めにかしげてみたりと忙しい。
それがまた無邪気で愛らしい。

「ジョゼットぉ、ふわっふわしてると迷子になるぞー!」
「お前が言えた台詞じゃぁねぇな、少なくとも」

これでもう1人の旅のお供がこのアホタレじゃなきゃぁなぁと、後悔せずにはいられない。
街道に出るまでのわずかな道程で、トラブルを起こした数はなんとか両手に納まるほど。
世の中の『困り事』を一まとめの塊にして、
四本ほどの腕と二本の足を継ぎ足せば大体この男と似た容姿になるだろう。

「師匠ぉ~……俺を何だと思ってんスか?」
「バカ」
「まさかのストレートっ!?」

頭が大文字で固有名詞としたいところの『バカ』を適当にあしらっていると、
くるくる回っていた少女の視点が一ヶ所でピタリと止まった。
鼻をひくひくさせ、体の半分以上がそちらに乗り出している。

「ね、アレ何ですか?アレ!なんかすっごくいい匂いがしますよっ!?」
「ん?あぁ、屋台だな。菓子か何かか?」
「すいませんっ!これ、何ですかっ!?」

スティルツキンが答えるか答えないかの内に、ジョゼットはそちらへと猛然と走り出していた。
間違いない、確かにスティルツキンに聞くよりは屋台の店主にでも聞いた方が解答は早かろう。
しかし、その行動がまるで……

「犬、だな……」

それも子犬。キャンキャンよく吠えるタイプの犬だ。
素直さと従順さは良いが、いつでも遊ぶことに忙しいタイプの犬だ。

「ま、可愛らしいんじゃ無いッスかねぇ?」

あぁ、好ましい。少なくとも駄犬であるお前よりはな。
そうツッコむ前に、スティルツキンは男の言葉尻に何か引っかかるものを感じた。

「おや、いらっしゃい!どうですかい、おひとつ!
 美味しい美味しい、バノーラ・ホワイトのクレープだよっ!」

だが、その引っかかりは店主の殊更に甲高い売り口上に吹っ飛んだ。

「ばのーら・ほわいと?」
「近頃、都で大流行のフルーツさっ!砂漠をはるばる越えた東方産だぜぇ?
 リュティスのセレブなメイジのお嬢さん方のお気に入りさっ!」
「ふわぁぁぁ……」

見れば、大なべの中にトロットロに溶けたそのフルーツとやらが、
店主の引きあげた棒に沿い、芳醇な蜜をネバーっと天に向けて糸を伸ばしていた。
なるほど、実に甘ったるそうで、実に女の子好みだ。

「今日は特別出血大サービス!
 お嬢ちゃん可愛らしいから、銅貨1枚でどうだっ!」
「銅貨……あー……」

明るかった少女の顔が、風船が萎むようにシュンとなる。
修道院や野宿と、一般社会の違い。
貨幣による社会構造という大きな壁がそこには存在する。
不特定多数と付き合うということは、
そこに金、銀、銅ぴかに光る信用が必要なのだ。

「……師匠、ギルあります?」

『ギル』と呼ばれるのはスティルツキンやその横のバカ男の出身地の貨幣単位だ。
信用を守るだけの流通力と、確かな信頼性がある。
信頼性、バカ男には決して備わらない貴重な存在だ。
だからこその価値なのだ。

「奢らないぞ、俺は」
「えーっ!?ケチーっ!!」
「バーカ。泊るとこ探すのが先だろうが。大事な宿代はとっとかなきゃな」

決して文無しな訳ではない。
スティルツキンも旅のために幾ばくかのギルは持ち合わせている。
必要なればこそ、と道中で見つけた品々を売るなどして蓄えたへそくりだ。
ギルの使い道は優先順位がある。
今回の場合、屋根つきの宿が甘味などという嗜好品をはるかに凌いでいる。
少々可哀想かもしれないが、こちらの世界の宿代の相場が分からないのだ。
クレープなどに費やさず、保険のために残しておく必要がある。

「ちぇ……しゃぁないッスね……っとぉ」

スティルツキンに断られ、四本腕の男は不肖不服といった様子でジョゼットに歩み寄った。
その際、『偶然』、本当にそうとしか見えないタイミングで、
通りを横切った男にぶつかった。ちょいと値の張る服を着た恰幅の良い男だ。

「前見て歩けっ!」

文句を一言。恰幅の良い男はそれだけで歩み去った。
ブツブツと呟いているところを見ると、何か商談でもこの後あるのだろうか。
たかだか肩のぶつかり合い程度で時間を浪費したく無いという速足だった。

「おぅ。悪ぃ悪ぃ……ごちそうさま」

舌をペロッと。
男の腕は四本。内三本は歩き始めたときと同じ手ぶらだったが、
残る一本、そこには男の服装に合わぬ高級そうな布袋が握られていた。

「ほい、ジョゼット、銅貨1枚でいいんだっけ?」
「え!いいんですかっ!?」
「手癖悪ぃなぁ……」

ジャラッと小気味よい金属の触れあう音。
それに目を丸くするジョゼットを見比べながら、
スティルツキンは溜息をついた。
なるほど、いかにも小悪党らしい特技だ。
少なくともこの馬鹿男は、なんとか今まで切り抜ける技を持っていたわけか。

「良いってぇ!おい、オヤジ!俺の分もな!銅貨2枚だな?」
「へいへい、毎度毎度……腕4つ?あ、亜人っ!?」

コインを差し出した手、袋を持つ手、『2』と形作った手、腰にあてられた手。
それらが全て別々の手であることを目にとめた途端、店主が素っ頓狂な声を上げた。

「んあ?」
「ひ、ひ、ひぃいい!!大変だぁ、亜人が出たぞぉおおお!!!」


まるで軍隊の突撃ラッパのような声だった。
それを聞きつけた人々の動きも似たようなもんだ。
まず、一瞬空気が止まる。
止まった空気が動き出すときには、全てが怒号へと変わる。
一方向へのエネルギーの噴出だ。

「何だとぅっ!!」「出やがったかっ!?」
「四本腕!?新手かよっ!!」「どうせヤツらの味方だっ!」
「女子供を隠せっ!!」「メイジ呼んでくれぇっ!!」

「お、おいおいおい、亜人って……」
「な、何、何、何!?」

他所の場所と風習が違うということはあるかもしれないが、
これを歓迎という風俗風土は存在しまい。
そう感じるが速いか、スティルツキンはジョゼットとバカの腕を引っ張っていた。

「おいマヌケ野郎!ジョゼット!!一旦出るぞっ!」
「え、師匠!?え、つかマヌケ野郎って俺っ!?」
「ななななんなんですかー!?」

『亜人』という呼び方に何やら侮辱的な響きを感じるものの、
スティルツキン達は走った。
無用なトラブルは御免だ。

「逃げるぞっ!」「待てぇっ!!」
「馬鹿、下手に追うんじゃない!!」
「メイジはまだかーっ!?」

 ・
 ・
 ・

街道外れの森の中、切り株や幹によりかかりつつ、
三者三様の息切れが白い煙を上げていた。
森の空気は冷たいが、街の中で向けられた視線よりはマシだ。

「ぜぇ、ぜぇ……な、何だったんスかありゃ一体……」
「突然……『亜人』って……」
「まぁ、ありそうな話だな」

戸惑っている二人を尻目に、スティルツキンは呟いた。
伊達に人生ならぬモーグリ生経験を得ているわけではない。

「師匠?」
「見た目で迫害されるってぇのはどこでもあることよ。
 ハミ出し者が怖いのさ、大抵のヤツぁ」

異物に対する攻撃。
何のことは無い。身体と同じことだ。
毒を飲めば体が拒否して追い出そうとする。
相容れない物は拒否する。それは生物として当然のことだ。
スティルツキンはそう知っている。伊達に世界を回っていない。
どこでもあること、どこでも起こりうることなのだ。
とはいえ……

「イジメみたいなもの、ですか……」
「ま、延長だわな。そこの馬鹿が無駄に腕くっつけてんのが珍しいからな」
「そ、そんなぁ……俺、ジンチク無害ッスよぉ?」
「いや、害だらけだ。少なくとも俺にとっちゃな」
「し、師匠の毒が心に痛ぇえ……」

とはいえ、この四本腕の大馬鹿は『まだ』何もしていなかった。
(スリ行為についてはバレてないので省いておくことにして)
多かれ少なかれ、いずれトラブルを起こすであろう馬鹿だが、『まだ』何もしていない。
それなのにあの町の者達は、自分達と違うものを敵意むき出しに追いたてた。
『亜人』、だったか。
その言葉の裏に隠されたものを知るのは、この世界の住人で無いので預かり知らないが、
いずれにしろ『亜人』に良い印象を持っていないことは間違いない。

「……どうしましょう……?」
「ここまで来て野宿ってぇのもなぁ――」

野宿は何度もしたので、それ自体には問題無い。
ただ、町の傍まで来ておいて(一度は入ったにも関わらず)、
なおかつ野宿とは、豪華な食事を目の前にして豆だけのスープを飲んでいるようなものだ。
さて、ここは1つ策を練らねばなるまい……

 ・
 ・
 ・

町の裏側、東門の方にある宿屋。
時折行商人が仮宿にするが、とても繁盛しているとはいえない。
それでも、女将が1人で突っ張りとおすだけの儲けはある。
月に2、3組も客を迎えれば贅沢では無い程度の生活は可能だ。
今も現に、客がちゃんと来た。
ブリミル様、日々の糧をありがとうございます。
やや年は食っているが、なおも豊満な胸をぶるんっとふるわせながら女将は感謝した。

「はい、それでは2名様。前金でよろしゅうございますか?」
「う、うむ。これで頼むゾイ」
「(ゾイってなんだよ、ゾイって!)」
「……?」

それは、奇妙な2人連れだった。
男の方はローブにくるまれているがそれなりの筋肉質。
女の方は箱入り娘という感じの白い服に白い肌で白い髪。
狩人と、その娘、というところだろうか。
やや詮索好きの宿屋の女将は、妹の方をじぃっと音がしそうなほど見つめた。
何やら妙な音が聞こえたような……

「か、可愛いぬいぐるみでしょ?」
「フフ、ほーんと!生きているみたい!」

なるほど、ぬいぐるみか。
白いモフモフとした毛にくるまれたフォルム。
造形としても生きているように精巧だ。
きっと高価に違いない。
はて、狩人でそこまで財力を成す……むぅ、この男は何者なのだろうか?
溢れんばかりの好奇心は客に向けたまま、後ろの壁から鍵を取り外した。

「それでは、2階の部屋で。水は汲んでありますが、何かあったら言ってくださいね」
「う、うむ苦しゅうない!」
「ありがとうございます!」
「ふふ、お人形さんに負けないぐらい、可愛らしいお嬢さんですね」
「へ、お嬢さん?」
「あら?親子さんじゃないんですか?」
「ち、違うゾイ?」

予想が外れるとは。これは不覚。
親子では無い。好奇心の触手が一気に膨れ上がった。

「兄妹です!兄妹っ!!」
「あぁ、なるほど……可愛らしい妹さんで、お兄さんがうらやましいですわ♪
 では、ごゆっくり……」

生憎、女性の二本腕では荷物を二階まで運ぶのは困難だ。
申し訳ないが、ここから先は客のセルフサービスとしてもらっている。
料金はその分格安、余計な従業員を雇う必要も無い。

女将は名残惜しそうに客の後ろ姿を見送った。
さてさて、あの二人本当に兄妹なのか?
それともまさか、駆け落ち?あの身長差でカップル?
うむ、なかなかそそる。
駆け落ちとすると……豪商の娘とその使用人、とか?
禁じられた愛、親の反対を押し切って愛の逃亡劇?
不器用な変装で必死にお嬢様を守る使用人……
くっはー!うん、ロマンチック!たまらない!

宿屋の女将の妄想が一階でとぐろを巻いているころ、
狩人の兄貴だか、駆け落ちの旦那側だかが、ローブを苦しそうにはぎとった。
四本腕、内下二本の腕は変に動かないように体にしっかり結び付けている。
涙ぐましい努力の成果、とやらだ。

「……ぷはぁああああ!!いてててて……」
「お前、才能無いだろ?」
「だ、だってぇ、演技なんてやったこと無ぇんスもん!」
「モノマネするわけじゃないんで、自分をゴマかすだけだろうが……」

自分もぬいぐるみ役としては『言葉を発する』という禁忌を犯しておきながら、
スティルツキンは『ゾイ』男にズケズケと文句を言った。
全く、変装も楽ではない。

「自分をゴマカスっつわれても……どうした、ジョゼット?」
「ん?え、ううん!な、何でも無いですよ?」

四本腕の大根役者から、ジョゼットへ視線を移す。
その向こうには窓がある。宿屋の部屋に窓があるのは当たり前だ。
その向こうには景色が、町並みが見える。これも当たり前だ。
だがその景色を眺めて溜息をつく、これは少々当たり前とは異なる。

「……ふー……」

と、後ろから溜息が。
四本腕で頭をポリポリかきながら、腕組みなんぞをしていやがる。

「俺とおーんなじ!演技下手だよな!」
「え?」
「一緒にしてやんなよ、可哀想だろ?」

自分の気づいていないことを気づいているらしい物言いに、
スティルツキンは若干の苛立ちを覚えた。

「――3つ、師匠の分も頼むぜ?」
「……あ」

銅貨が3枚、ちゃりんちゃりんと小気味良い音を立てて手渡される。
ふむ、スティルツキンは窓の外が見えるように背伸びをした。
なるほど、先ほどとは違う店主だが、似たような屋台が通りの向こうに見える。

「遅くなるなよ?」
「はいっ!いってきまーっす!!!」

銅貨を受け取ったジョゼットは、
まるで木の棒を投げてもらった飼い犬のように喜び勇んで駆けていく。
良い笑顔だった。純粋で、元気が溢れている。

「ふぅ……」
「――ちょっと聞きたいことがあるんだがな」

ベッドに腰を降ろした男に、窓から視線を戻さずに聞く。
下を見ると、ジョゼットが丁度宿屋の入り口から外に出たところだった。

「ん?何スか師匠?」
「……惚れたか?」

たった一言。効果は抜群。
窓のガラスに反射して、男の顔色が綺麗に変わるのが見て取れた。
その髪の毛と同じ真っ赤っかの紅色。
実に分かりやすい。

「だ、だだだだ誰がっ!?誰がスか!?誰が誰に!?」
「わっかりやすいなぁ、お前……」

思えば、ここに来る道中でもそうだ。
ジョゼットが落ち込んでいれば励まし、いつでも笑顔にさせるようにしていた。
そもそもジョゼットを連れて来るよう言ったのもコイツだ。
予想は容易い。ましてやこんな演技力の欠片も無い男ならば。

「いやいやいや、惚れたなんて、んなわけねぇじゃねぇスかー!
 俺があの子に?えー?馬鹿言ってんじゃ無いスよー!ハハハ……」
「そうか」

慌てる男に、スティルツキンは淡々と返した。
窓の外では、ジョゼットが笑顔一杯で銅貨3枚を渡すところであった。

「だ、大体惚れたところで、俺みたいのにあの子が……
 あの子には大切な『あの方』ってのがいるんしょー?冗談じゃないスよー!」
「そうか」

薄いクレープがまん丸に仕上がって行く様を、ジョゼットが目を輝かして見ている。
彼女に惚れるのも分からないでは無い。
汚れの無い彼女を見ていると、心が洗われるような気がする。

「いや、ホント、ねー。それに俺、この世界じゃ嫌われ者みたいだしー?」
「そうか」

ここで、スティルツキンは振り返ってベッドの上の男を見た。
馬鹿っ面をしょげかえらせている男を。

「……は、ハハハ……はぁ……」
「そうか……」

素直に言えば、そう見場は悪くない。
種族は違うとはいえ、ブ男では無いと思う。

「――俺、どうすりゃいいんスかね?」
「そういう話は苦手だな」

ようは、自信が無いだけなのだと、スティルツキンはそう思った。
この馬鹿は、自分に誇れるものが何も無いから、虚勢を張り、空元気を振りまくのだろう。
それがさらにトラブルを産んで、より自信を失う、という訳だ。

「師匠ともあろうお方がッスか?」
「買いかぶんな。俺にも苦手なことはある。
 だが――そうだな」

まぁ、確かに、こいつに誇るべき点は……
いや、それは可哀想だ、考えるのをやめようとスティルツキンは思った。
今は、コイツをなんとか励ましてやるのが先決だ。
仮にも師匠と呼ばれている身だ。
鬱陶しい馬鹿ではあるが、それなりに情も無くは無い。
それなり、欠片ほど、塵ほど、とりあえず、一応。
まぁ、自分を慕う者を邪険にしては寝覚めも悪かろうというものだ。

「『狙った宝は何が何でも手に入れろ』、トレジャーハンターの鉄則だったけな」
「う゛」
「ハンター崩れだったろ、お前?手に入れろよ。何が何でも」
「……マジ、スか?」

コイツについては、励ますよりも命令した方が良いと考えた。
馬鹿は、目標を与えてやるに限る。
目指す過程で学べば良いのだ。

「俺も鬼じゃない。無理だと思う冒険を勧め無いさ」
「みゃ、脈あるんスか!?マジっスか!?」
「ゼロじゃないってだけだがな」

少なくとも、カエルが空を飛ぶよりは可能性はある。
どんなに絶望的でも、可能性がゼロで無い限り、あり得ないとは決して言わない。
それが冒険家の心意気というものだ。

「いよぉしっ!やるぞっ!俺やるぞっ!!やってやるぞぉお!!」
「……いや、ゼロじゃないが……」

ただ、この場合は少々言いすぎたのかもしれない。
あくまでも、ゼロではないが、この阿呆が突っ走って成功する可能性は……

「うぉおぉお!師匠、俺はやりますっ!!!やってやりますゾイぃぃぃぃ!!」
「だからゾイって何だよ……」

やれやれ、とスティルツキンはかぶりをふった。
まぁ、失敗するのも良いだろう。その方がまだ慰めやすい。
そう思うことにして、スティルツキンは荷ほどきにかかった。
こういうときに効きそうな頭痛薬がどこにあったかを探しながら。


ピコン
ATE ~拍手無きアンコール~


トリステインのアカデミーと言えば、ハルケギニアの研究施設の中でも最高峰に位置する。
万全の設備に、清潔感の漂う部屋や廊下はまさに最高の頭脳のための館であった。
その廊下に、最近奇妙な彫像が建つことが多くなった。
頭が牛、体が人という研究所よりもコロシアムの方が似合いそうな彫像。

「よう、ラルカス!元気か?」
「うむ」

人が通り過ぎる度、その彫像は低い声でボソッと挨拶を返す。
見た目よりは人づきあいの良い彫像のようだ。

「あ、ラルカスさん!この間の医術書はまだ借りてて良いですか?すっごく参考になってます!」
「それは良かった」

ガリアから月に2、3度。
この研究所を訪れ、こうして廊下の片隅で彫像のように立つミノタウロスは、
最早アカデミーの名物となっていた。
無愛想で牛面ではあるが、頭が良く論理的である物言いは、ここの気風に合っていたのだろう。
もっとも、解剖してみたいと思っている研究者も中にはいたらしいのではあるが。

「あれっ、ラルカスさん!今日お見えでしたか……すると、室長は?」
「まだ打ち合わせ中だ」

若手研究者がラルカスに近寄りこう聞いた。
別にラルカスに用があるわけではない。
ラルカスが首を向けた後ろの扉、その中に目的の人物がいる。

「それでは温室用の費用はこちらで負担ということで……
 あぁ、それにしても良い香りだ」

銀色の髪の気障な男。こちらではない。

「お、おきに、お気に召しましたか!?」

メガネの良く似合う女性の方、こちらだ。
こちらこそが若手研究者のお目当ての室長、ミス・ヴァリエールだ。
その若いながら理知的で、冷徹で非情までの仕事ぶりは、
このアカデミーにとってラルカスよりも古くからの名物だ。

「えぇ、とっても……これならお店で出しても良いんじゃないかなぁ?」
「そんな、お店だなんて……」

理知的、とは言えないかもしれない。
照れ笑いで目尻が下がる様を理知的とは言うまい。


「その価値はある。何なら、この僕が出資しても良いですよ」
「私は……その……貴方さえそのあの……キャッ」

冷徹、とも言うに難いかもしれない。
自身の想像というよりも妄想に悲鳴を上げることを冷徹とは言わないだろう。

「そうだなぁ、屋号は『銀の羽根亭』でどうでしょうか?
 ……どうされました?」
「え、い、いえいえいえ!な、何でもありませんわ!えぇ!!」

非情、とは言うわけにはいくまい。
自分の妄想を必死に、照れながら、訂正する様を非情などと言えるはずが無いのだ。

「室長……」
「ふむ」
「室長がこんなに可愛いなんて何かの間違いだっ!?」
「そうか?」

若手研究者はそう小声で叫ぶが、ラルカスにはもうお馴染であった。
銀髪の男、クジャというガリアの商人宰相の従者として、何度もアカデミーに出入りしているのだ。
知らぬ方がどうかしている。
あの室長、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールは、
確実にクジャに惚れている。
何とも分かりやすいことではないか。


「御顔が優れてないようだ……折角お綺麗ですのに」
「き、綺麗!?そんな、私、私、私……」
「お疲れなら、続きはまた日を変えて……」
「綺麗……――はっ!? い、いえ!大丈夫っ!大丈夫ですっ!」
「そうですか?では、肥料の話ですが……」

だが、惜しいことにクジャは全くそれに気づいていない。
人を愛するという感情には少々疎いのだろう。
厄介なことに、見た目はかなり良く、声も魅力的。
商人として生きていた事もあり、世辞一つ言うにも迷いが無い。
女性の人気はそう悪くないのだが……
自己愛の方がやや強く、美的センスが少々独特なのが効いているのだろう。
恋愛経験は皆無に等しいと、ラルカスは従者の視点から睨んでいた。

「何なの、アイツ!?あのタラシ何なの!?」
「……一応、我が主だ。放っておいてくれ」
「くそぅ、俺のドSな室長様が……でも可愛いなちくしょぉっ!?」
「……何も言うまい」

ただ、エレオノール女史の方もそちら方面には今一つのようだ。
恋愛経験は少ない上に、言い寄る僅かな男性はこのような変態のみ。
ラルカスは自分の主であるクジャ、そしてエレオノール女史双方にとってのラストチャンスと睨んでいた。
なんとか恋愛の手助けをしたい。
牛面のキューピッドはそっとドアの向こうからそう思った。

「――では、以上で……」
「もう、行かれてしまうのですか?」
「えぇ。世界がこの役者を欲してましてね。つくづく、体がもう1つあればと思いますよ」
「……残念ですわ、本当に」

残念なことだ。芝居にでも誘ってやれば良いのに。
いらぬ世話ではあるがラルカスはそう思った。

「珈琲、ごちそうさま。また来ます」
「はいっ!いつでも来てくださいねっ!!」
「えぇ、では……ラルカス、どうかしたか?」
「いや、何も」

牛の面が都合の良い点は、人の面よりも表情が分かりにくいことだろうか。
急に扉を開けられ、主と顔を合わせたところでその心情を読み取られる心配が一切無い。
お節介な恋の橋渡し役の心などは引っ込めておくに限る。
少々面倒な主の扱いが、結婚なんぞすればマシになる。そう思っていることは隠していた方が良いのだ。

「室長ぉぉお!!実験データですっっ!!」

一方、引っ込みがつかないのだろうか、引っ込める気が無いのであろうか。
先ほどの若い研究者がエレオノール女史の部屋に転がり込んだ。
途端、エレオノール女史の顔が音を立てんまでに冷え固まったのをラルカスは見て取った。

「……あなたは何度言えば分かるのですかっ!!
 説明も無いグラフな上に、バラつきを考慮していないじゃないっっ!!」
「す、すいませーんっ!!」

声の張り方が違う。
評判を聞くに、こちらの方が普段の彼女なのであろう。
クジャといるときの猫もかくやという甘い声は珍品中の珍品なのだ、おそらく。

「もう一度、平研究員からやりなおしますか!?
 こんなデータ、統計的に信用を取れるわけが無いでしょうっ!この低能っ!」
「ひぃ、お許しをぉぉぉ……」

あまり見ない方が良いだろう。
ラルカスは後ろ手でそっと扉を閉じた。
若い研究者が少々嬉しそうな顔で上司の叱責を聞き入っている様など、見ていたいものでも無い。

「おもしろい人だねぇ。見てて飽きないよ。喜劇女優といったところかな」
「……」

ラルカスはふぅ、と鼻息をついた。
なんと鈍感なことやら、である。
頭は良いが、ある一点については愚鈍も良いところだ。

「どうした?」
「いや……あぁ、そうだ。手紙が届いていたぞ。トマからだな」

そう言いながら、主に渡すよう頼まれた手紙を渡す。
厳重に封をされた伝竜便だ。

「本当かい?やれやれ、やっとか……」

トマ。ラルカスと共にリュティス戦線で暴れた男は今、ロマリアにいる。
何でも器用にこなせる男は、その能力をもって宗教庁に忍び込んでいるのだ。

教皇が『不慮の事故でお亡くなり』になられた後のロマリアは混沌と化している。
表向きは『聖ブリミルの御膝元を復興せしめん』という大目標に向かってはいるが、
その実、宗教家は神を語る前に政治を語り覇を競い、
一般市民は焦土と化した街でなんとかその日の糧を得ようと彷徨うという様である。
辛うじて、表向きの大目標に対し『復興事業』という名の土木作業があるため、
生き残った人々が路頭に迷うまでに至っていないのが不幸中の幸いというところか。

そんなわけで、混乱の極みにある今こそ、
ロマリアの、ひいては宗教庁の暗部を探るには丁度良いと、
クジャが自ら指名しトマを遣わせたのだ。
例え、最大の黒幕が滅んだところでクジャは油断していなかった。
ブリ虫は完全に駆逐することは永遠に不可能なのだ。
根気強く、巣を見つけ潰して行かねばならない。

「っ!!」
「どうした?」

報告書の末尾にさしかかった辺りで、クジャの視線が止まった。
冬の寒さが一度に襲ってきたように、クジャの顔が凍張る。

「……舞台もはねたというのに……!!」
「おいクジャ?」

報告書から顔を上げたクジャの顔は、まるで死んでいるようだった。
ラルカスにはそう見えた。
ゾンビより死んだ顔だ。それぐらい青ざめていた。

「ラルカス、船の準備は!?」
「明日出発予定だったから、今はメンテナンス中だな。夕刻まではかかる」
「何だと……急がせろっ!途中で沈んでも構わないっっ!!」
「どうしたというのだ」

ラルカスは主のヒステリーとでも言うべき一種の恐慌状態には慣れていたが、
今回のはいつも以上に酷いものであることを感じていた。
本当に、死人でも見たような顔と声だ。

「アンコールの拍手も無しに、幕を開けるつもりか?クソッ!!」
「クジャ?待てよクジャ、おい!」

ラルカスは、結局見ることは無かった。
クジャが打ち捨てたその報告書の中身までは。
クジャと、それを追うラルカスの後ろで、
たった一行、締めくくりの一行。
それがシンプルこの上なく書かれていた報告書が、廊下の片隅にカサリと音を立て落ちた。



≪―― 『始祖ノ聖杯』行方不明。奪ワレタ模様 ――≫


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