あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

確率世界のヴァリエール-14b3


シュレディンガーは周りを見回した。

何も見えない。 目が開いているのかすら定かでない。
まるで突然に盲いたかの様な、明るくも暗くも無い灰色の世界。
そこに自分の輪郭だけがおぼろげに浮かんでいる。 否。
そう感じたものを見えていると思い込んでいるだけなのかもしれない。
宙に浮いているのか、どこかに立っているのか、それすら判らない。

光も無い。 闇も無い。 時間も距離も、天地すらも、無い。
指定座標の範囲外。 テクスチャの向こう側。 何処でも無い場所。

存在することを許されなかったものたちの逝き着く果て。
確率世界の箱の外、『虚無の地平』。
虚無の穴に吸い込まれ、「追放」されたものたちの逝き着く果て。

シュレディンガーは自分の隣に巨大な質量の塊を感じる。
レコン・キスタ旗艦、レキシントン号。
もはや黒煙をたなびかせる事も無く、ただここにある。
このフネはもう、生きる事も死ぬ事も無く、ただここに在り続ける。

周囲に意識を凝らす。
「近く」に、レキシントン号以外にも様々な存在を感じる。
この「近さ」は、無論距離ではあり得ない。
ここに来た時間の「近さ」、でもない。
しいて言えば、物と物との関係性の近さか。
だがそれもじきに意味を失う。

ハルケギニア世界に開いた穴は、もうおそらく閉じていた。
しかしその穴は閉じるまでに多くのものをここに「追放」していた。
彼らはレキシントン号と同様、生きても居らず、死んでも居ない。
ただ延々と、ただ永遠と、この世界を漂い続けるのだろう。
その彼らの中を彷徨い思う。
自分はいつから存在しているのか。
思い出を手繰っても思い出せない。
ただきっと、自分はここで生まれたのだろう。
この『虚無の地平』で。
そして彼に、「少佐」に導かれこの姿形を得た。
彼に「シュレディンガー」として定義付けられた。
唯一つの目的のために。
あの吸血鬼を打ち倒すためだけに。

そして目的を果たし、そして目的を失い。
それでもまだ「シュレディンガー」として存在している。
それが自己観測するシュレディンガーの猫。 自分という存在。
この世界にも、どの世界にも、自分と同じ存在なんて居なかった。
世界で、世界中で、そして世界の外で、たった一つの存在。

それで良いと思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
あの桃髪の少女に会うまでは。

「ルイズ、、、」
小さくつぶやく。

自分以外の全てが同じ色をした世界の中で。
でも、彼女だけが違って見えた。
「少佐」も、「大尉」も、あの「吸血鬼」も。
深く関わり、それでも自分と彼らとは違っていた。
でも、彼女だけは。

その時。
不意に、彼方に灯りがともる。
光も闇も無い筈のこの世界で、光と闇とが分かたれていく。
空間が定義付けられ、距離が生まれる。
時間がシュレディンガーの中を流れ始める。

「あれは、、、」

全てが灰色の世界で、シュレディンガーの体だけが色付いていく。
全てが意味を失う世界で、彼だけに存在する意味が与えられる。

「、、、あの光は」

その光に呼応するように、シュレディンガーの右手が
ゆっくりと、柔らかく、しかし確かに脈打ち光をまとう。
コントラクト・サーヴァントの契約の証。
ワルドに胸を貫かれ、首を撥ねられた時に
消えて失せた筈の、ヴィンダールヴのルーン。

主人と使い魔とを結ぶ、絆。

「ルイズ!」
もう一度、彼女の名を呼び。
シュレディンガーは彼方の光に向かって進んだ。

  。。
 ゚○゚

虚無の穴は既に閉じ、
しかし空は今なお闇に包まれていた。
二つの月は太陽を静かに飲み込み、
最後の光のしずくさえ天空から消える。
勝者の凱歌も、敗者の怨嗟も無いままに
争う者の姿はもうここにはなかった。

その闇に包まれた世界から、赤黒いものがにじみ出て来る。
戦場に倒れた者達の魂が、命が、そして死が。
血の河が。

墜落し炎を上げる戦艦から。
潰れ果てたトーチカから。
焼かれ黒煙を昇らせる集落から。
積み重なった鎧の山から。

それらはこぼれ、束ねられ、幾筋もの血流となって
戦場の一点に集まっていく。

倒れた少女の下へと。

『死の河』が。
ゆっくりとうねり、集まっていく。
自らの主を迎え入れるために。
自らを存在せしめるために。

寄り集まった血の流れが幾重もの円を描いて少女を囲み、
這い伸びたその端が少女の体に触れようとしたその時。

その先端が、グシャリと折れて曲がり潰れた。
「彼女は、ボクのだ」

全てが闇に閉ざされた世界の中に、灯りがともる。
少女の体は光に包まれ、死の河が力を失い流れ散っていく。
その光の中には、少女と、少女の使い魔がいた。
シュレディンガーはしゃがみ込むと、主人の頬に
光をまとう右手で優しく触れた。


そこには、奇跡があった。
ルイズは、生きていた。

彼女を乗せた大輪の花のように、桃色の髪が地面に大きく広がる。
彫刻の様に美しく整ったその顔は透き通るように青白く、
煤と土ぼこりで汚れてはいたが、傷一つ付いていなかった。
破れ千切れまとわり付いて残骸と化した制服のすそからは
細くしなやかな右手が伸び、その手には今だ杖が握られていた。
その顔に宿った意思と、その手に握られた誇りと。
それがルイズに残された全てだった。

ルイズが、ゆっくりと目を開く。
その瞳がシュレディンガーを見つけ、
その唇が柔らかく微笑む。

(シュレ、わたし、やったわ)
「うん、見てた。 ずっと見てた」

その薄い胸が空気を吸い込む事はもはや無く、
その喉が鈴を振るような声を響かせる事も無い。
吐息の代わりに唇からは血のしずくが一筋あふれ、
しかし彼女の言葉は全てシュレディンガーに届いていた。
(わたしを守るって、言ったクセに)

言葉とはうらはらに、いたずらっぽく微笑むルイズに
シュレディンガーは全てを包むような優しい笑みを返す。

「守るよ。
 ルイズはボクが守る。
 いままでも。
 これからも」

シュレディンガーがそっとルイズを拾い上げる。
ルイズはュレディンガーのいざなうままに
その唇にそっと手を触れた。


短く、激しいその生涯の最期にもう一度だけ、
ルイズは自身の使い魔に口付けたいと思った。


==============================


ルイズの頬を風が撫でる。
「ここ、は?」
とろけていた意識が覚醒していく。

ゆっくりと体を起こす。
、、、体?!
驚いて自分の体をまさぐる。
胸を触る、腹を触る、おしりを触る、足を触る。
体だけじゃない、来ている服にさえどこにも
傷一つ、汚れ一つ付いていない。

「気が付いた?」
「シュレ?! ここって、、」

周りを見回す。
まだ空は暗いままだ。
しかし場所はタルブでもラ・ロシェールでもない。
シュレディンガーと何度も訪れた学院の屋根の上だった。

「、、、もしかして、ここってあの世?」
「いや、ルイズは死んでないよ」

シュレディンガーがルイズの正面に座り込んだまま
静かに告げる。

「これがボクの本当の力。
 本当の姿。
 ボクはどこにでもいて、どこにもいない。
 ボクがボクを認識する限り、どこにでもいれる。
 たとえ、体を失ったとしても」
「そ、それってつまり、死なない、、って事?」

いや、死ねない、のか。
自分はさっき確かに死を体験した。
それは全てのものを支配する、唯一の理のはずだ。

過去の記憶の断片が脳内を巡る。
フーケのゴーレムと戦った時あの時にも。
シュレディンガーが単独任務から帰った時も。
消えるはずの無いルーンが消え失せていた。
キュルケの言葉を思い出す。
シュレディンガーを「死神」と呼んでいた事。
記憶のピースが音を立て繋がっていく。
全ての生者を支配する、唯一の理。
死があるからこそ、生がある。
そして、その逆も。
ならば、目の前の者は何者なのか。
そして、私も。
私は死んだのか?
死んではいないのか?
それとももう、死んでしまっているのか?

「怖い?」
「わっ!」

突然に差し出された手を反射的に避ける。
宙に浮いた手がびくりと固まる。

「あ、ごめ、、」

言いかけて、言葉を止める。
光の無い世界の中でも、ルイズには感じ取れた。

シュレディンガーは、怯えていた。
今までに一度も見せた事のない、
願うような、請うような、その眼差し。
どれだけの生と死を繰り返してきたのだろう。
この世界で、全ての世界でただ一人、
どれだけの孤独の中にいたのだろう。

不意に気付く。
あの時の私と、同じだ。

それが当たり前だと思っていた。
魔法を使えなかった、「ゼロ」と呼ばれ続けた日々。
しかし、初めて魔法が成功したあの時の喜びと。
その証である使い魔が眼前から消え失せた時の絶望と。

あの時の私と、同じなんだ。

シュレディンガーにとって私は、永い永い
孤独の中で出会った、ただ一つの証なんだ。
自分が一人きりではないという事の。
数多の世界の中でただ一人の、自分と等しい存在。

心が軋みを上げる。
シュレディンガーが消え失せたあの夜に感じた、
全てが崩れるような絶望、乾き切るような無力。
多分、シュレディンガーも今、それを感じている。
その感情の意味すらもわからずに。

死と生と、神と罰と背信と、そして永遠と無間。
様々な概念が頭をよぎるが、今のルイズにとっては
全てが愚にも付かないものでしかなかった。

ルイズは迷い無くその手を伸ばすと、
シュレディンガーが逃げようとするのも構わずに
その手を両手で握りしめ引き寄せる。

「シュレ!
 こ、怖いかって聞かれれば
 そりゃ、ビ、ビックリは、したけどね。
 でも、もしアンタがどうしても
 一緒に居て欲しいって言うんなら
 そ、そうね。

 一緒に居てあげない事もないわ、シュレ」

シュレディンガーは驚いたように目を丸め、
そして笑った、ぽろぽろと涙をこぼしながら。

「っはは、何ソレ! 変な言い方」
「い、良いでしょ! どうなのよ」

ルイズの手を握り返し、シュレディンガーは
涙をためた目で微笑み、静かに頷いた。

「うん。 一緒に居て、ルイズ」


日食は終わりを告げ。
天空から差しこぼれるダイヤモンドリングの光が
一つに重なった二人の影を照らし出した。


==============================


ラ・ロシェールの平原にも、陽光が再び戻っていく。
墜落した戦艦の残骸が黒煙を上げてくすぶるが、
もはやどこにも争っているものは居ない。

ルイズが居た丘の上、そこに一人の少女が立っていた。
純白のスーツに純白のコートを羽織り、同じく
純白の毛皮の帽子からは黒髪がこぼれる。

忌々しげに太陽を見上げ、諦めたように小さく哂う。

「まあいい。
 今回はあ奴に譲ってやるとするか。
 なに、機会はあるとも。
 いくらでも、永遠に」

黒髪が蝙蝠の翼のように形を変える。

「さあて、遊びも飽いた。
 ぼちぼち帰るとするか。
 あの青髭の兄弟の元への」

  。。
 ゚○゚

トリステインの南限、オルレアン湖岸。  
湖からの湿った風が青い髪をなでていく。
遠く湖の向こうを眺める男に、ローブをまとった女性が影のように近づく。
その目は血のように赤い光を放っている。

「終わったか」
「はい。
 下は、件の『虚無の魔女』がレコン・キスタ艦隊の
 半数以上を沈め、残る兵も皆降伏した様です。
 上は、シェフィールド様が全てを平らげてしまいましたわ」
「そうか」

赤い目をした女性が懐から布包みを出し、それを開く。
その中には二つの指輪があった。
始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。
男はそれを受け取り一瞥すると、それきり興味を無くした様に
それを無造作に羽織ったコートのポケットに突っ込む。
「お前の主人には何と報告するつもりだ?」
「ご兄弟でございましょう?
 貴方様からお伝え下さいまし」
そう告げるとローブの女性は微笑んで影の中に溶けて消える。

(もうすこし「やればできる子」かとも思ったが。
 ふん、クロムウェル、所詮はこの程度か)

眉を上げて薄く笑う。

(まあいい。
 いずれあの浮島にはまだ異世界の異教徒たちがいる。
 ロマリアの狂信者どもが、あの絶滅主義者どもが
 主の消えたアルビオンを放っては置くまい。
 どちらに転ぶにせよ、まだまだ楽しめそうだ)

雲の彼方、見えるはずの無い白の大陸に目を向ける。
空を眺めるその男の後ろが急に騒がしくなる。

「あっ、あっ、兄者ぁああ~~~!!」
ズザザーッッ!

同じく青髪に青髭の男が息を切らしてやってくる。
肩にはマントを羽織り、頭上には王冠を頂いているが
肩で息をするその姿には威厳のかけらも無い。

「せっ、せっ、戦争はどーなった?!
 私の可愛いシャルロットちゃんは無事か?!
 くっそう、トリステインのジジイども、
 こっちが丁寧に協力を申し出てやってるのに
 返事も返さんとは、ナメてんのか?!
 このまま攻め込んでって滅ぼしてやろうか!
 お前も蝋人形にしてやろうか!!」

「落ち着きなさい、陛下。
 シャルロット様はご無事です。
 陛下は王女殿下の事となると途端に
 分別がおなくなりになられる。
 陛下がその様に軽率に振舞われては
 民も安んじて居れませぬ」
「そ、そうか、無事か、無事ならいいんだ。
 それにしてもジョゼフ、怒っているな!
 兄上は怒ると口調がやたら丁寧になる」

頭を抱えため息を一つ吐くと、ジョゼフは弟へと向き直る。
「シャルル、私を「兄上」と呼ぶなと何度言ったら判る。
 国に頭は二つも要らぬ。
 私を簒奪者にでもするつもりか?」

「弟が兄を敬ってなにが悪い!
 それに簒奪者になるくらいなら先王の指名を断らねば
 良かっただけの話でしょうに。 始めて見たよ、あんな人間。
 そんなにその「研究」とやらが大事なのか?」
「大事も小事も無い、俺に王は務まらぬ。
 それだけの話だ」
シャルルがやれやれと頭を振る。
「全く兄上はあの使い魔が来てから変わってしまわれた。
 兄上だけではない、シャルロットも変わってしまった」
「向こうでは偽名を使っているのだったな。
 確か、バサラと言ったか?」
「何その超強そうな名前! 無双かよ!!
 タバサだよタバサ!
 そもそもはあれだ、あの兄上の使い魔が
 可愛い子には旅をさせよだの
 可愛い子には七尾旅人だのと言わなければ
 こんなに気を揉む事もなかったのに」

愚痴を垂れるシャルルにジョゼフは深々と頭を下げて見せる。
「その通りで御座いますとも、陛下。
 あまねく世界の厄災凶事は全て我が使い魔の仕業で御座います。
 火竜山脈の火竜どもが暴れだしたのも
 アルビオンが長々と続く内乱になったのも
 レコン・キスタがトリステインに攻め入ったのも
 全部ウチのシェフィールドが原因で御座いますとも」
ジョゼフの言葉にシャルルがあわてて弁明する。
「そ、そーは言ってないだろうに。 ヒドいな兄上。
 そういえばそのシェフィールドはどうしてるんだ?
 あの大蝙蝠、いや、黒猫、あー、黒トカゲだったか?
 あの姿をコロコロと変える使い魔はまた「研究」とやらなのかい?
 大体何の研究なんだ、少しくらいは教えてくれても良いだろうに」

「内容か」
ジョゼフは軽く笑い、空を見上げる。

「この世界の全てを手に入れる方法だ」

「はっはっは、そいつは素晴らしい。
 手に入ったら半分くれ、ジョゼフ」
シャルルは快活に笑うと後ろを振り返る。
「では諸君、楽しい楽しいショーも
 ひとまずお開きだ。
 そろそろ帰ろうじゃないか、
 愛しき我が家(リュティス)へ。
 クラヴィル、全艦回頭用意だ、急げよ」
「はっ!」

ガリア国王シャルルはその頂いた王冠に相応しく
威風堂々たるしぐさで王都に向かって腕をかざした。

  。。
 ゚○゚


「フェヴィス!」
衛生兵の運ぶ担架にアンリエッタが駆け寄る。
「良かった! 良くぞ無事で居てくれました」
涙ぐみながら包帯の巻かれたその手を取る。
「そんな、姫殿下。
 私なんぞのために勿体無い」
上体を起こしフェヴィスが恐縮する。

ラ・ロシェールの平原。
レコン・キスタ残党の艦は全て地に下ろされ、
兵たちも武装を解かれそれぞれに集められている。
抵抗を試みるものは誰一人として居ない。
皆、自分たちの軍隊を滅ぼした、そして世界を滅ぼしかけた
虚無の力に抵抗する気力すら失っていた。

虚無の穴に近かった山肌が山林ごと丸く削り取られ地肌を晒し、
崩落の起こらぬよう、数十人の土メイジが処理に追われている。

レコン・キスタ艦隊の何隻かは全てが飲み込まれる前に
虚無の穴が閉じたため、艦の一部がこちら側に残されていた。
それらは全て墜落し、あちこちに残骸の山を築いていたが、
虚無の穴により削り取られた断面はつややかな光沢を放っている。
太陽は頂点からいくらか西に傾き、雲間から届く柔らかな午後の日差しが
平原に広がる戦いの名残りを照らし出す。

「何を勿体無がる事がある!
 有難く頂戴しておけ」
聞き覚えのある声にフェヴィスは身を強張らせる。
「こ、これはマザリーニ枢機卿!
 それに、オスマン殿も!」
「良い良い、怪我人が無理をせんでもよかろうて」
「面目ない事で。
 それよりも枢機卿、虚無の魔女殿は、
 ミス・ヴァリエールはどこです?
 この勝利は彼女の力の賜物です。
 ぜひとも一言礼を言わねば」
その言葉に、アンリエッタは物言わず目を伏せる。
そのしぐさにフェヴィスが動揺する。
「そんな、まさか」

「あの時に、私は聞いたのです、ルイズの声を」
諦観を帯びた目でアンリエッタが微笑む。
「別れを告げる彼女の声を」
「そんな!」
「兵を総動員して目下捜索しておるがな」
マザリーニが懐に手を入れる。
「見つかったのは、これだけだ」
『始祖の祈祷書』を取り出して見せた。


「ルイズーーーッ!!!」
キュルケの呼び声が響く。
制服も長く美しい赤髪も煤と煙に汚れ、地面を掘り返した土で
爪の間も真っ黒に汚れているが、それを気にする余裕も無い。
「どこにいるのー!!
 でてらっしゃーーい!!!」

魔法の力を使い果たし、腕に負った火傷の痛みで今にも倒れそうな
その体を無理やりに引きずり、声の限りに叫ぶ。
その横には彼女の使い魔、フレイムが寄り添う。
フレイムの目を借り、瓦礫の中、土くれの中に人間の熱を探す。
そうして埋もれていた幾人かを助け出したが、そこに
目指す少女の姿は無かった。

キュルケが瓦礫の横にしゃがむ人影を見つけ、駆け寄る。
「ギーシュ!」
彼は地面から頭を出した彼の使い魔、ヴェルダンデに
頬を寄せ、懸命に何かを聞いているようだった。
「どう?!」
キュルケの問いかけに、ギーシュは静かに首を振る。
「彼の仲間達にも手伝ってもらっているが。
 彼女の気配も、鼓動も、、」

キュルケが奥歯を食いしばり、その目にじわりと涙がにじむ。
力を失い、膝から落ちそうになった体が細い手に支えられる。
「駄目。」
短く力強い、絶望を許さぬ声。
「タバサ、、」
自分の体を支える小さな友人に、キュルケが詫びる様に応える。
その支えが急に消え、キュルケは地面にしりもちを付く。

「ちょ、タバサ?!」
抗議の声を上げるキュルケをタバサが片手で制す。
その顔は真っ直ぐに空へと向けられ、その耳は彼女にだけ聞こえる
彼女の使い魔の声を遠くに聞いていた。
喜びに震え叫ぶシルフィードの声を。

「あれ。」
タバサの指が空の彼方を指差す。
それにつられギーシュとキュルケも顔を上げる。
いつもは無表情なその顔に歓喜の笑みを浮かべ、タバサは叫んだ。

「あれ!!」

竜騎兵達が大きな弧を描き空を飛び回る。
それを目にした者達が我れ先にと集まってくる。
フェヴィス達が戦い抜いた、錬金で作られたトーチカの残骸。
ルイズが消えたその場所に。

ごうっっ。

音を立てて風が巻く。
走り寄っていた皆の足が空を蹴り、体が宙に浮く。
それを気にする者も無く、彼らの視線が上空の一点に集まる。
竜騎兵達が遠巻きに周りを回る、その中心に。

「ははっ、いやいや、何ともはや」
「ほんっとうに、人騒がせなんだから」
「照れちゃ駄目ですよ、お姉さまったら」
「良かった、ルイズさん、、、」
「おお、ルイズ! おーい!」
「魔女殿、それに使い魔殿も健在か」
「おお、シュレ坊や! シュレ坊や!」
「仲直りなのね、姉さま!」
「めでたし。」
「ふふ、やるじゃない、バカルイズったら」

見上げる皆の中央。
人々の輪の中に、二人が降り立つ。
その二人の前で、涙に目を潤ませ微笑むアンリエッタに
ルイズは片膝をつき、頭を垂れる。

「ご命令通り、ただいま戻って参りました」
「お帰りなさい、ルイズ」
ルイズは顔を上げ、アンリエッタに微笑みを返す。

「もう私はここに居ます。
 もう私はどこにも居ないし
 どこにでも居れる。
 だからここに居ます。

 私は私の意志でここに居るのです。
 アンリエッタ様のおそばに。
 これからも、ずっと」

「そう。 そうなのですね。
 あなたもシュレディンガーさんと
 同じになったのですね、ルイズ」
「はい」
優しく問うアンリエッタに、静かに応える。

「あらー、本当に同じねぇ」
シリアスなシーンを台無しにするなとでも言うように
睨みつけるルイズに、どこ吹く風とキュルケが笑顔を返す。

「ねえ、ギーシュ、タバサ。
 使い魔お披露目式典の時みたいじゃない?

 なーによ、ルイズ。
 アンタさっきから真面目な顔して
 カッコ良く決めてるつもりなんでしょうけど、
 嬉しくてはしゃいじゃってるの丸分かりよ?
 ピコピコ動いちゃってさー、
 もうほーんと、可愛いったら!!」

クスクスと笑うキュルケの視線の行く先に気付き、
ルイズの顔がみるみる紅潮する。
「シュレ」
ルイズがシュレディンガーに向き直る。
「もしかして、、、生えてる?」
「うん。 にょっきり」

「おお、あれが魔女殿の例の「ツノ」か」
「本当だ、何とまあ可愛らしい」
「猫耳の使い魔殿とお揃いだな」
「何というか、、、来るものがあるな」
「『虚無の魔女』殿という呼び名もいささか硬苦しい。
 どうだろう、『ネコミミの魔女』殿と呼んで差し上げては?」
「異議なし! 異議なし!」
「成程、ネコミミか!」
「『ネコミミの魔女』、万歳!!」
「万歳! 万歳!」 「ネコミミ万歳!!」

プルプルと羞恥に肩を震わせるルイズをよそに、
周囲のモブ兵たちが好き勝手に盛り上がる。

「それよりルイズちゃん、朝の約束、覚えてるわよね?」
目を閉じて鼻息荒く口づけを迫るキュルケに向かって
マリコルヌの髪を引っつかみ顔を押し付けると、
上がる悲鳴も気にせずにルイズはスカートをたくし上げ杖を抜く。

「シュレディンガー?」
ルイズが青筋を立てつつにこやかに振り向く。
「ちょ、ルルル、ルイズさん?
 ボクのせいじゃなくない?!」
「いいえ、一から十まであなたのせいよ?」
満面の笑顔でエア・ハンマーのスペルを唱えると、
なぜか杖が青い稲妻を帯びてバチバチと強く輝く。

「ご主人様に恥をかかせる様な使い魔には、
 きちんと躾をしなくちゃね」
にっこり。
「ぼ、暴力反対!」
後ずさるシュレディンガーの巻き添えを恐れ、
ギャラリーが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「ルイズ。」
「何?! タバサ!」
「左手は添えるだけ。」
力強く頷くと、杖を思い切り振りかぶる。

「こんの、バカ猫ーーっ!!」

午後の夏空に雷鳴が轟いた。

  。。
 ゚○゚


 確率世界のヴァリエール - Cats in a Box - 

  ∧,,∧
 (≧∇≦)ギャフン END


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