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確率世界のヴァリエール-14b2



「んでギーシュ、あんなこと言っちゃって
 とっておきの魔法でもあるの?」

「いやいや、僕の魔法はもう打ち止め」
攻撃の手を止め肩で息をするキュルケに向かい、ギーシュは
全ての花びらが散り落ちた杖をヒラヒラと振ってみせる。
「さあてそろそろ」
狂喜に歪んだフーケの声が響く。
甲高い金属音を立てて、二人の足元に最後のワルキューレが
バラバラになって叩きつけられる。
「死んでもらっちゃおうかねえ!」

「んじゃどーすんの?」
キュルケが引きつり笑いでフーケのゴーレムを見上げる。
「なになに、仕込みは上々さ。
 後はキュルケ、あのゴーレムの
 足の一本でももいでくれる?」
「簡単に言ってくれちゃってまあ」
「出来ないの?」
「冗~談」

「なに話し込んでるんだよ二人とも!
 こっちもそろそろ打ち止めだ!」
「わ~かってるって!」
マリコルヌが目くらましのエア・ハンマーを打ち出すと同時に、
キュルケはモンモランシーと一緒に身を潜めていた
自身の使い魔フレイムの元に駆け寄る。
「フレイム。 アナタの「火」、ちょっと借りるわよ」
そう言いながらキュルケはフレイムの首を引き寄せる。
「使い魔の力を借りるってのはねぇ、
 何もルイズの専売特許じゃあ無いのよ」
呪文を唱え掲げた杖の先に火を灯しつつ、自らの使い魔に口付ける。
そのとたん、杖を持ったキュルケの腕が燃え上がる。
その炎が束ねられ、杖先の火球が猛烈な勢いで膨れ上がっていく。

「一人一人では単なる火でも、
 二人合わされば炎となるわ!
 行くわよ、『フレイム』ボーールッ!!」

ゴゥンッッ!!

直径1メイルを超える大火球がゴーレムの足元で炸裂する。
「やったっ!」
爆音が静まり舞い上がった土煙が晴れていくと、
巨大なゴーレムは両膝から下を吹き飛ばされていた。
「喜んでいるところ悪いんだけどねえ」
ゴーレムの足が周りの土を吸い上げ見る間に再生されていく。
「この程度、どうって事ぁ無いんだよ!」
ゴーレムがゆっくりと立ち上がり、拳を振り上げる。

「さあ~、もう許さない!
 さあ~、誰も助からない!
 さあ~、さっさと死んじまえ!!」

「いや、お前の負けだ。 土くれのフーケ」
ゴーレムの前に立ちはだかったギーシュが高らかに宣言する。

「ハン! なに負け惜しみを、、、?!」
言いかけたその時、不意に足元のゴーレムががくがくと揺れ始める。
「成程たいした再生力だ、大飯喰らいの王様だ」
ゴーレムのあちこちがミミズ腫れの様にぼこぼこと盛り上がる。

「その彼の最大の武器が、彼の最大の弱点でもある。
 古今暴君は己の傲岸さ故に毒酒をあおる」
「何をした?!」
「何もかも」

魔力を使い果たした杖をくるくると回し、
芝居がかった様子でギーシュが語る。
「港町ラ・ロシェール。 此処は良い所だねえ。
 僕は来るのは初めてなのだけれど、一緒に訪れた親友の一人が
 奇遇にもこの町の出身だったようでねえ。
 昨日は存分に旧友と親交を暖めたようだよ」
フーケの足元がぼこりと盛り上がり、そこから何かが跳びかかる。
「紹介しよう、僕の親友にして僕の毒」
「っぎゃーーっ?!」

「ヴェルダンデとその仲間達だ」


制御を失い崩れ落ちた土くれの小山の上で、気絶したフーケの身に着けた
宝石にモグモグと何匹ものジャイアントモールがたかっている。
腕を火傷したキュルケを手当てするモンモランシーの横で
ギーシュは空を仰ぎ見た。

(さあ、上手くやれよ、ルイズ)


 †


アンリエッタの艦隊はラ・ロシェールへと押されつつあった。
ボーウッドの陽動作戦は功を奏し、アンリエッタは竜騎兵の大半を
ラ・ロシェール防衛へ割り振らざるを得ず、防衛部隊が劣勢と
なった時のために陣をラ・ロシェールに近い位置まで引いていた。
その後退に付け込まれ、大きく陣形を崩しつつある。

「ソレイユ撃沈! ソレイユ撃沈!!」
「くっ、乗員の退避を助けろ!」 「救助いそげ!」
「各艦被害状況を報告せよ!」 「三番艦、応答ありません!」
「連絡を取りに行け、フライででもだ!」
伝令達が慌しく走り回る戦艦メルカトール号の上で、
艦隊司令官のラ・ラメーがアンリエッタの元へ駆け寄る。
「殿下、これ以上引けば流れ弾がラ・ロシェールに届きかねません!」
「解っています。
 ?! 提督!」

ごうっっ!!
後方から突然に炎のブレスを射掛けられる。
アンリエッタとラ・ラメーの周りに魔法障壁が張られるが、
風に流された炎を受けてメルカトール号のマストが燃え上がる。
「く、前方に気を取られすぎたか!
 早くマストを消火しろ!」
メルカトール号の上空に、十騎ほどの竜騎兵が獲物を狙う様に弧を描く。
「敵竜騎兵、我が艦の上方! 再度来ます!」
「くそ、太陽に入られた!」
手をかざし敵を見上げる兵士達の目に、敵群に近づく新たな影が映る。
「何だあれは? 速過ぎる!」 「新手か!」
「いえ、あれは、、、」
ただ一人アンリエッタだけが、あり得ぬ速度で敵に近づく
その影が何であるかを理解した。

「あれは、シルフィード!!」

シルフィードは竜騎兵達を牽制するように敵陣を真一文字に
突っ切ると、そのまま急上昇して彼らのさらに上につける。

「ここでいいわ、タバサ」
「がんばってくるのね、ルイズ!」
シルフィードがきゅいきゅいと頭を寄せる。
「ふふ、ありがと、シルフィ。
 じゃあ、征って来る!」
ルイズはそのまま眼下の竜騎兵達に向かい逆しまに身を躍らせる。

大きく息を吸い込む。
脳裏に浮かぶのは、幼い頃に寝物語に聞かされた母の武勇伝。
ルイズは目を見開くと、杖を掲げて声を限りに名乗りを上げた。


「我が名は『虚無の魔女』!!

 我はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!!

 我が主の敵を打ち倒しに  参 る ! ! 」


「『虚無の魔女』、だと?!」
メルカトール号に再度攻撃を加えようとしていた竜騎兵達が
空からたった一人で降りてくる桃髪の少女を見上げる。
「あれが『魔女』か、『虚無の魔女』か!」
「仕留めろ!」 「討ち取れば恩賞は思いのままだ!」
急降下するルイズに竜騎兵達が追いすがり、一騎が炎を吐きかける。
「なっ?!」
しかしその炎はルイズの髪を焦がす事すらなく<空気の壁>に阻まれた。
(まだだ)
親指を立てるルイズに、上空のタバサがサムアップを返す。
(まだ)
小さく息を吐き、杖を構え呪文を唱える。
眼下にトリステインの戦艦が近づく。
(左手は添えるだけ。)
タバサの言葉を思い出す。

「今!」
ルイズを追っていた竜騎兵達が見えない壁に叩きつけられたかの様に
急停止し、騎兵達は振り落とされ、あるいはそのまま宙吊りになる。

「あれは、レビテーション(浮遊)、いや、フライ(飛行)か?
 しかしあれだけの数を一度に浮かせるとはまた、なんという、、、」
メルカトール号の上で呆然と見上げるアニエスの横で、艦長が叫ぶ。
「撃て撃て、撃ちもらすな! いまの奴らはただの的だ!
 撃ちまくって『虚無の魔女』どのをお守りしろ!」
空中に釘付けになった火竜達がメルカトール号からの銃撃や魔法で
次々と射抜かれ、難を逃れた者も巻き添えを恐れて遠くに下がっていく。


メルカトール号の甲板上に慣れぬ浮遊魔法でおっかなびっくりと
降り立ったルイズに、アンリエッタが駆け寄った。
「ルイズ! どうしてここに?」
尋ねるアンリエッタにルイズはきっぱりと告げた。
「姫殿下、ここに居るのは殿下のお友達のルイズでは御座いません。
 殿下の僕(しもべ)たる『虚無の魔女』で御座います」
「でも、貴女までが戦場に来ずとも、、!」
「いえ」
ルイズは懐から『始祖の祈祷書』を取り出す。
「殿下より賜りましたこの『虚無』の力、お捧げ致しますのは
 此処を置いてより他には御座いません」
「そう、、、そう、なのですね」
アンリエッタは少し悲しげに目を伏せた後、毅然と向き直った。
「ではミス・ヴァリエール。
 『虚無』たる貴殿のお力、お借りします」
「はい、殿下」

「いや、お見事な手前でしたな。
 しかし噂の『虚無の魔女』殿がこんなに可愛らしいお方だったとは」
メルカトールの艦長が蓄えた髭をなでつつルイズに敬礼する。
「先ほどは有難うございました。 お名前は? ミスタ」
「フェヴィスと申します。 以後お見知り置きを、『虚無の魔女』殿」

「殿下、好機です!」
前方を指差すラ・ラメーの視線をアンリエッタが追う。
「奴らめよほど指揮官に恵まれていないと見える」
「まだ望みはあるようですね、提督。
 敵戦列が伸びています! 小回りの利く分こちらが有利!
 単独先行している敵艦を挫くのです!」
「はっ!」

ラ・ラメーが頷き、号令をかける。
「後退はここまでだ、各艦回頭!
 突出している敵艦に集中砲火をかける!」


 †


「何をやっている、一気にラ・ロシェールまで押し込まぬか!」
レコン・キスタ艦隊の中央、戦艦レキシントン号の上で
突然の反撃にクロムウェルはいらいらとした声を上げる。

「艦列が伸びた所を狙われたようですな。
 先行している艦を戻せ、戦列を整えろ!」
指示を出すレキシントン号艦長ボーウッドをクロムウェルが睨む。
「なに、なぜ戻す? 一気に突き崩せば良いではないか!」
「閣下、戦はここで終わりではありませぬ。
 おそらくは既にトリスタニアから援軍が来ておりましょう。
 トリスタニアへ攻め上るにはそれらとも戦わねばなりません。
 無理に力押しをして無用の損耗を出すのは上策ではありませぬ。
 このままじりじりと押し込めるが宜しいかと」
ばりばりとクロムウェルが歯噛みする。
「くっ、、、
 そもそもこれしきの追撃戦で戦列を乱すとは、
 前線の、ええい、何と言うのだあの艦は!
 艦長を呼んで来い!」
「は、後で調べさせましょう。
 ご安心を、閣下。
 もはや戦況は決しております」
「む? そ、そうか」

ボーウッドの言葉に多少の平静を取り戻し、席へ座ろうとした
クロムウェルの体を爆音と衝撃が揺さぶる。

「な、何だ? 何があった?」
慌てて後方を振り返ると、後衛の艦から火の手が上がっている。
「伏兵か?!」「いえ、それらしき影は何も!」
兵士達が騒然としている間にもじわじわと炎は艦を包み、二度三度と
爆発を繰り返してゆっくり高度を下げていく。
(まさか、まさかこれは) (いや、しかし、、、)
ざわめく兵士達の間を縫い、伝令がクロムウェルに走り寄る。

「前線の竜騎兵より報告!
 敵旗艦上に、、、『虚無の魔女』が、現れたそうです!」

伝令がその名を口にした刹那、墜落していく艦の巻き添えを恐れ
退避していた隣接艦も、轟音と共に爆炎に包まれる。
「なっ、、、だ、と?」
山腹に落ちていく二隻の艦を見つめ放心するクロムウェルをよそに、
甲板上の兵士たちの間に見る間に恐怖が伝染していく。
「まさか、「アレ」は人の乗る船は襲わないという話じゃ?!」
「馬鹿を言え、他に何がある!」 「し、しかし!」
「『魔女』だ!」 「『虚無の魔女』が出たぞ!!」
「くそう、敵艦上のは囮だ!」「ヤツをこの艦に入れるな!」
「入れるなだと?! 冗談じゃない、どうしろってんだ!!」

「静まれ! 静まらんか馬鹿者ども!
 被害を報告! 伝令を出せ!
 風石庫に兵を配置しろ!」
混乱する兵士達をいさめようとするボーウッドの後ろで
クロムウェルが懐から銃を抜き出す。

ぱんっっ。

乾いた音が響き、ううろたえていた兵の一人が
うめき声を上げ胸を押さえて倒れこむ。
「、、、ボーウッド、突撃だ」
クロムウェルが静かに告げる。

「なっ!
 いえしかし、閣下?!」
「これでも落ち着いて座っておれとぬかすか?
 全艦突撃、突撃だ!
 我等の敵を根絶やしにせよ!
 何をしているボーウッド、

 信仰心があるならさっさとやれ!!」

クロムウェルが怒鳴りながら拳をかざし、その指に嵌められた
『アンドバリの指輪』が紫の光を放つ。
ボーウッドの、居並ぶ兵士達の顔から表情が抜け落ちていく。

「見ておれ、『魔女』め、『魔女』め!!」
無言で自分へ敬礼する部下達を見もせず、クロムウェルは
狂気を孕んだ笑いを浮かべ、敵艦列を睨んだ。


 †


「ぜ、全滅。
 十二騎の竜騎兵が全滅?
 三分もたたずにか。
 め、眼鏡を掛けたたった一騎の美少女メイジに竜騎兵が十二騎も?
 ええい、連邦軍の美少女メイジは化け物か。」
「お姉さま、さっきからシルフィの上でうるさいのね!」

ルイズ達が戦うその上空、敵竜騎兵達の間を猛スピードですり抜けながら
シルフィードがきゅいきゅいと迷惑げに頭の上を睨む。
「だいたい十二もやっつけてないのね。
 シルフィたちまだ四っつしか落っことしてないのね!」
「四騎じゃない。」
タバサが前方の敵を杖で指し示す。

タバサが放ったアイス・ジャベリンを火竜のブレスが一息に溶かす。
すれ違いざまにタバサへとブレスを吹き掛けようと火竜が大きく
息を吸い込んだ、そのわずかな隙に。
シルフィードはあり得ぬ程の急加速で接敵し、180度ロールを行いつつ
敵の上方をすり抜ける。
天地逆の世界、触れ合わんばかりの距離で敵をかすめるその一瞬。

タバサは「眼下」の敵を「見上げ」ながら杖をかざし、ブレスでも防げぬ
回避も出来ぬゼロ距離から、敵兵にアイス・ジャベリンを叩き込む。

火竜から落ちていく騎兵を振り返りもせず、二人は空を翔けぬける。
「これで五騎。」
「なのねっ!!」


 † 


「くっ、いくらなんでも強引過ぎる!」
じりじりと一進一退を続けていた今までとうって変わり
被害を省みもせずに突進するレコン・キスタ艦隊の猛攻に
フェヴィスが声を上げる。

メルカトール号の上からでも、敵陣後方の数艦が突然に
爆発し墜落していく様子は見て取れた。
ラ・ラメーがレコン・キスタ艦隊を睨む。
「奴らめ先ほどのアレからどうも様子がおかしい。
 敵竜騎兵も統制を欠いて闇雲に飛び回っておるし
 敵艦も砲を避けもせず突っ込んできよる。
 しかし、それにしても度が過ぎるというものだ!
 殿下、いくらなんでもこれは防ぎようがありませぬぞ!」
 「ですが提督!」
アンリエッタが言いかけたその時、砲撃の着弾音と振動がその体を叩いた。
「殿下!!」
吹き飛ばされかけたアンリエッタの体をアニエスが掴んで抱き止める。
「大丈夫でございますか?!」 「お怪我は?!」
「けほっ、わ、私は平気です。
 それより、、、」
「右舷外装中破!」 「風石庫被弾! 風石庫被弾!」
「マストに火が移ったぞ、水メイジ!」
「早く火を消せ! 火薬庫に近い!!」
「艦長、風石庫と後尾マストをやられました!
 まだ浮いては居られましょうが、このままでは追い付かれます!」
「そうか、、、」

報告を受けたフェヴィスがアンリエッタに向き直る。
「殿下、提督、お聞きの通りこの艦はもう持ちません。
 退艦のご支度を!」
「そう、そうですか艦長、わかりました。
 ルイズ、貴女も退艦の準備を」
「いえ」
「?! ルイズ?」

ルイズがアンリエッタの手を押し留め真っ直ぐに見つめる。
「私はこのフネを降ります。
 しかし、姫殿下と一緒には参れません。
 殿下、今こそ私の力を使う時なのです。
 この『虚無』の力を」
「ルイズ!」
「私があの艦隊を引き止めます。
 その為に此処へ来たのです」
「、、、できるの、ですか? そんな事が」
ルイズは『始祖の祈祷書』を腕に抱き、静かに頷く。

「ここではおそらく味方の艦を「巻き込んで」しまいます。
 私が敵艦隊との間に入りますので、その間に
 殿下は他の艦に移り、全速力で後ろに退いて下さい」
「そんな! 危険すぎます!」
アンリエッタが思わず叫ぶ。

「そういう事なら」
フェヴィスがルイズの横に進みでる。
「私もお供いたしましょう。
 艦と命運を共にするのが艦長の務めなのでしょうが、
 ここに居るよりは魔女殿と一緒のほうが少しはお役に
 立てそうですんでな」
フェヴィスが髭を撫でつつルイズに微笑む。
「ズルいですなあ、艦長」
他の乗員達も杖を掲げルイズの前に進み出る。
「そんな格好の良い役回りを艦長だけに
 お譲りする訳には参りませんね」
「ふん、困った部下を持ったものだ。
 上官を立てるということをまるで知らん」
「そりゃ、上官が上官ですしな!」 「違いない!」
フェヴィスが乗員達と笑いあう。

「という訳です、提督。 姫殿下をお願い致しますぞ」
「心得た、艦長。 魔女殿を頼む」
ラ・ラメーとフェヴィスが互いに敬礼を交わす。

「艦長、、皆さんも、、、」
ルイズは皆を見回した後、アンリエッタへ視線を向ける。
アンリエッタは伏せていた顔を上げた。
「わかりました、ルイズ」
静かに答え、ルイズを見つめ返す。
「命令です。
 必ず生きて戻りなさい。
 必ずです、ルイズ」

「はい。
 仰せのままに、アンリエッタ様」

ルイズは一礼すると艦首へ走り、そのまま空へと身を投げた。
フライ(飛行)の魔法を唱えると、敵艦隊の進路上にある
小高い丘の上を目指す。

「艦長、『虚無』の魔法には長い詠唱が必要です。
 それまでどうか時間を稼いでください」
フェヴィスが笑って頷く。
「心得た、ミス・ヴァリエール。
 皆、『虚無の魔女』殿は我らが艦を守り戦ってくれた。
 今度は我らが彼女を守る番だ。
 死なせたとあっては貴族の名折れだ、地獄行きだぞ!」
響く鬨の声と掲げられた杖がそれに応えた。


 †


靴の中に入った血ががっぽがっぽと音を立てる。
「あっれ~、ここって前も通ったっけ?」
廊下の先に転がる死体の山を見てシュレディンガーが小首をかしげる。
手にはMP40“シュマイザー”短機関銃を構え、腰にM24型柄付手榴弾を下げ、
背中にいくつもの武器を背負ってよたよたと歩く。
「このフネには前にも来たんだけどなあ、
 どこだったっけ、フーセキ庫」

とすっ。
来た道を振り返ったシュレディンガーの胸を長剣が貫く。
「え?」
きょとんとした顔の乗ったその首を、もう一振りの剣がなぎ払う。
「やった、やった!」 「やっと仕留めたぞ!」
「くそう、死ね、死ね! 畜生め!!」
物陰に隠れていた兵士達が一斉に飛び出して、頭をはねられ倒れた
シュレディンガーの体を何度も何度も刺突する。

「ひっどいなあー」
のんきな声に恐慌状態だった兵士達の動きが止まる。
そこにあったはずの死体が消え去り、剣が床に突き刺さる。
ゆっくりと声のほうへ目をやると、今まで自分達が殺していた筈の
猫耳の亜人が呆れ顔で立っていた。
「もう死んでるってのにさー」
「ひ、ひいっ?!」
シュレディンガーの手の中でシュマイザーが金切り声を上げ、
反動で照準も定まらないまま辺り一面に無差別な死を撒き散らす。
「ありゃ、弾切れ? んじゃ」
マガジンの空になった銃を投げ捨てると、背負っていた無反動砲を構え
いかめしげに眉をきりりと引き上げた。
「パンツァーファウスト、パンツァーファウスト!
 ファイエルン!!」

降り注ぐ肉片と爆風の中、シュレディンガーが血溜まりから立ち上がる。
「ありゃ、最後の一個だっけ? まーいっか、コレもあるし」
そう言うとシュレディンガーは腰に下げた柄付手榴弾を確認し、
背中のハーネル突撃銃を構えた。


 †


クロムウェルは瓦礫の中で意識を取り戻した。
体中が軋み上がり、腹腔が焼けるように熱い。
腹から木材が顔を出し、左手はねじれ明後日を向いている。
額の血をぬぐい、ゆっくりと身を起こして辺りを見回す。
「だ、誰か居らぬか、、、」
周りに散らばった兵たちの死体がその声に応える事は無い。

かろうじてレキシントン号は浮かんでいるようだが
そこらじゅうから黒煙が上がり、生きている者も見当たらない。
クロムウェルは何が起きたのかを思い出そうとするが
耳鳴りと頭痛がそれを遮る。
だが、何が起きたかは判り切っている。

後方の艦を爆発させ沈めて回っていたあの「アレ」が、
このフネにもやって来たのだ。

足元の船室から銃声と剣戟が響き、叫び声が上がる。
爆発が起こり、船が傾く。
クロムウェルはよたよたとよろけて壁に肩を付き、
そこにあった窓から船外の様子が目に入った。
自軍と敵艦隊とは今だ戦闘が続いているようだった。
その、両陣営の中央。
地上の小高い丘の上に。
「あれは、、あれは、何だ、、、」

黒い球体が、浮いている。

いや、球体なのか?
紫電をまといゆっくりと膨張していくそれは、
光すらも反射せず周囲の景色を飲み込んでいく。
そこを見た時にだけ盲いたかの様に感じる、暗く黒い円。

まるで、世界に空いた「穴」だ。
その「穴」に近づいた竜騎兵が一騎、吸い込まれ消える。

まるで初めから、『虚無』そのものででもあったかのように。

あり得ぬ光景の衝撃にクロムウェルの視線が彷徨い、
その先に少女の姿を見つける。
朦朧とする思考と視界、視認出来る筈もない遥か彼方の丘の上、
しかしクロムウェルはそれが彼女だと即座に認識した。
膨らみ続ける「穴」の下で、杖をかざすその姿を。


もはや全ては終わりだ。
「世界を救う」夢は潰えた。
この命ももう長くは持つまい。
だが。
だが、お前だけは許せるものか。
お前だけは、生かしておけるものか。

お前が「世界」を狂わせた。


クロムウェルの指に嵌められた『アンドバリの指輪』が
静かに輝き、辺りを照らす。
その輝きに応えるように、物言わず転がっていた兵達が
操り人形のようにのろのろと立ち上がる。
クロムウェルは死者の如くに足を引きずりゆっくりと、
死者の群れを引き連れて廃墟と化した艦の中を進んでいく。
大砲の並ぶ砲甲板へと向かって。


 †

「性懲りも無くまた来たか、
 うっとおしい火(か)トンボどもめ!」
「守れ、魔女殿を守れ!」
「弾幕を張れ、近づけるな!」
「トーチカが崩れそうだ!
 錬金と固定化をかけ直せ!!」
「砲撃、六時から来るぞ!
 風だ、風で逸らせ!!」

竜騎兵が頭上をかすめ、砲の着弾で土柱が上がる。
自分を守り戦うフェヴィス達の声が遠く聞こえる。

初めて虚無の魔法を使った、あの時の様な絶望への陶酔はなく。

ルイズの心は驚くほどに澄み切っていた。
『始祖の祈祷書』はあるが、心を繋げる為の『水のルビー』は無い。
それでもあの時のたった一度きりの詠唱で、そのスペルは
ルイズの頭の中に刻み込まれていた。

虚無の呪文の初歩の初歩の初歩。
『バニッシュメント(追放)』

『虚無の地平』への門が、ルイズの頭上で静かに開いていく。


―――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ―――

世界が、たった一人の少女に怯えている。
黄金律が、悲鳴を上げて捻じ曲がる。

ルイズの体があの時のように透き通っていく。
違う世界の自分に出会った、あの時のように。

世界が、あまりに膨大な虚無の力を拒んでいる。
世界に拒まれ、運命に追い立てられたものが
世界を否定し、運命を踏破するための、力。

(姫さま、最後の最後にウソを吐いて御免なさい。
 でも、わかってくれるよね。
 さよなら、アンリエッタ)

これこそが、『虚無』の力。


―――オス・スーヌウリュ・ル・ラド―――

ルイズの命が、細く細くほどけてゆく。
ルイズの存在が、細く細くほどけてゆく。

ギーシュに語った虚無の力の根源。
通常の魔法とは異なる力を根源とする
虚無の魔法の禁忌たる由縁。

単純な事だ。
火の系統のメイジは火の力を操る。
水の系統のメイジは水の力を操る。
風は風を。 土は土を。 ならば。
虚無のメイジは虚無を操る。
虚無とはこの世に在らぬ事。
虚無とは存在しえぬ事。

虚無の力の根源は、術者が「存在する事」そのものなのだ。
己が「ここ」に存在する事実それ自体をすり減らし、
削り取り、そして力へと変換する。
魔術の理法を外れた外道の法理。
(ワルド、あなたは今天国に居るの? それとも地獄?
 もう一度会って文句の一つも言いたかったけれど、
 私はどっちにも行けそうに無いや)

これこそが、『虚無』の理(ことわり)。


―――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシュラ―――

今ならワルドの気持ちがわかる。
彼は「世界」を掴むため、力を欲したのだ。
ありのままの自分が居ても良い世界。
自分が存在する事を許される世界。

かつてルイズも力を欲した。
それは切望であり、熱望であり、渇望だった。
だがその力を手にした今、理解する。

私が本当に欲しかったのは力そのものではなく、
自分がここにいても良い理由、いても良い世界だったのだと。
その為に、自分がこの世界に在る為に力が必要だったのだ。
そして、今の自分にはそれがある。
皆の笑顔を思い返す。
自分を受け入れてくれる、小さな、けれど暖かな「世界」。

運命を変えられるなんて思わない。
世界を救えるなんて思わない。

でも。
私のこの小さな「世界」だけは。
この「世界」だけは!
  髪の毛も 指も 思い出も 骨も。

  私の全てをくれてやる そのかわり。

  私の大切なものを これ以上何一つだってやるもんか。

  運命(あんた)なんかに もう一かけらだってやるもんか!!


ルイズの体が虚無と解け合う。
ルイズの存在そのものが、虚無となっていく。

(シュレディンガー、どこかで見てる?
 バカなご主人様で御免ね)

そしてこれこそが、『虚無』の担い手。

―――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル ―――

ルイズの頭上に空いた穴は既に100メイルを優に超え、
有象無象の区別無く、全てを飲み込み始めていた。
天頂に輝く太陽を二つの月がゆっくりと覆い隠す。
「食」が、始まろうとしていた。

世界は光を失ってゆき、虚無へと通じるその穴の輪郭が
徐々に滲み、ゆがみ、ぼやけて爆発的に膨れ上がっていく。
円の淵からあふれ出した虚無が、狂ったように空を覆っていく。

『虚無』が、運命を、世界を、侵食し始めた。

  。。
 ゚○゚


「やったね、ルイズ」
幾筋もの黒煙を立ち上らせるレキシントン号のマストの上。
シュレディンガーは迫り来る虚無への穴を満足げに見つめ、
優しく微笑みつぶやいた。
(おめでとう、ボクのご主人様)

 †

「あれが、『虚無』の力、、、」
ラ・ロシェール駐留艦隊の中央、戦艦イーグル号の上。
アンリエッタは敵艦隊を飲み込んでいくその異形の力を
固唾を呑んで見守り、ただ祈った。
(さっきの声は、まさか、、、?
 ルイズ、ルイズ、無事でいて!
 始祖ブリミルよ、その末裔に何とぞご加護を、、、)

 †

「、、、冗談でしょ」
ラ・ロシェール領主邸の庭先。
敵も味方ももはや戦っているものなど無く、遠くに見える
その信じがたい光景にただ目を奪われている。
世界の終わりのようなその光景に身を震わせるシエスタを
キュルケは優しく抱き寄せる。
(ふふ、なんて馬鹿馬鹿しい力なんだこと。
 いいぞ、やっちゃえ、泣き虫ルイズ)

 †


「制御不能! 制御不能!!」
レコン・キスタの戦艦同士が空中で衝突し、しかし
墜落する事も許されぬまま穴の中へと飲み込まれていく。
魔法も使えぬ一般兵が叫び声を上げ船から身を投げ出すが、
その体は宙に浮き、ゆっくりと虚無の穴へと引きずられていく。
もやのように漂い混じる虚無の境界面が、意思在るものの様に
兵士の体を包み込み、その悲鳴ごととぷりと飲み込む。

「あの下にいるはずだ! 『魔女』だ、『魔女』を狙え!」
地上に向かって何発もの砲弾が打ち出されるが、
その全てが虚無の穴の引力によって軌道を逸らされ、
あるいは穴の中に吸い込まれる。
「ちくしょう、魔女め、魔女め!
 『虚無の魔女』め!!
 お前は、お前は一体なんなんだ!!」

 †

(これが、あのお嬢ちゃんの魔法だってのか)
虚無の穴の真下。
砲撃に吹き飛ばされて地面に倒れたまま、
フェヴィスは空を覆う虚無の力を見上げていた。
部下達はすべて倒れ、自分ももう長くは持つまい。
だが、彼は笑っていた。
(生きながらえて祖国の滅ぶ姿を見るよりはと思っていたが、
 なんてこった。 ははは、神かけて、なんてこった!
 こんな死にぞこないの命を懸けた甲斐があったってもんだ)
満足げな笑みを浮かべると、フェヴィスは
ゆっくりとその目を閉じた。

  †


「そうだ、世界を救うのだ」
広がりゆく虚無の力に捕らわれ傾いたレキシントン号、砲甲板。
物言わずのそのそと動き回る死人たちを率いて、
クロムウェルは火薬と砲弾をつめた砲を地上に向ける。
熱に焼かれて白く濁ったその目は、見えるはずの無い
桃髪の少女の姿だけをはっきりと捉え、ねじれ曲がって
動くはずの無いその腕で、狙いを定めた砲を支える。
「虚無よ、お前は『ここ』に在ってはならぬのだ」

レキシントン号が虚無の穴にゆっくりと飲まれ終えるその刹那。
轟音が響き、一発の砲弾が地上へ向けて放たれる。

その砲弾は虚無の穴の引力とこの世界の重力とに導かれ、
あり得ぬ軌道を描いて地面に到達した。

そして。
砲弾は土柱を高々と立ち上げて、
杖を掲げた少女の体をぼろきれの様に空に放り投げた。

  。。
 ゚○゚



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