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確率世界のヴァリエール-14b




(犯した罪への罰なのだ)
ルイズは船の上で、ただ思った。
トリステインの港町、ラ・ロシェールへ向かう軍艦イーグル号の上で。

運命には抗えない。

手にした『始祖の祈祷書』を見つめる。
虚無の系統たる己の力そのもの、己が虚無の担い手だという証。
それが、なんだというのか。
その力も、証も、結局は何の役にも立たなかったでは無いか。
借り物の力を得て、この世界の主人公でも気取っていたのか。
使い魔が居なければ何も出来ない、役立たずの『ゼロ』。
そして私はその使い魔を、自身の片翼を、自らの手で裏切った。
この結末は当然の帰結、必然の応報なのだ。

私には運命を変えることなど出来はしなかった。


 †


シュレディンガーが消え去ったあの後。
皇太子の亡骸にルイズが気付いたのは、全てが終わった後だった。
彼の胸に空いた大きな傷がエア・ニードルによるものだという事。
そして、彼女の伴侶となったワルドの最期の言葉。
その時になって、やっと彼女は全てを悟った。
自分が取り返しのつかない過ちを犯してしまったという事を。

発砲の轟音に気付いた衛兵が礼拝堂の鍵を壊して中に入って来た時も、
ルイズは一人座り込んだままだった。
突然降りかかった凶事にニューカッスル城が混乱に包まれる中、
ルイズはアルビオン王国国王ジェームズ一世の前に引き出された。

ルイズは死を覚悟していた。
いや、それこそが己に出来るせめてもの償いだと思った。

自分が手引きして皇太子を殺したも同然だ。
あの夜、このニューカッスル城で守ると誓ったその命を
今日、この手で暗殺者に売り渡してしまったのだ。
そしてその暗殺者も、自分が愛したその男も、最早この世にいない。
ルイズが死を望んだのは、覚悟でなく、償いでなく、
あるいは単なる逃避だったのかもしれない。

しかし、ルイズのその望みが叶う事はなかった。
アルビオンの王は何を問い質す事もせず、彼女を許しのだ。
年老いた王はルイズの手を取ると、やさしく語りかけた。

「大使殿。
 初めて会うたあの夜より、我らの命運は定まっておったのじゃ。
 民も、貴族も、王であっても、運命(さだめ)からは逃げられぬ。
 朕らが無様に足掻いたがゆえに、そなたらを巻き込んだ。

 朕を許せ。
 そして我が息子を、許してやってくれ」

老王の瞳は曇りなく澄み、己が命運を受け入れんとしている。
彼はあの夜と同じ顔をしていた。
最期の戦いを迎えようとしていた、あの夜と。
ルイズは何かを言おうとして言えず、ただぼろぼろと涙した。
ジェームズ一世は立ち上がると、決然と皆に告げた。
「戦の支度を!」
ニューカッスルを揺さぶらんばかりの悲壮な鬨の声がそれに応えた。


 †


そしてルイズはその夜のうちにイーグル号の艦上の人となった。
明日の昼にはトリステインの港町ラ・ロシェールへたどり着く。
艦内にはニューカッスルからトリステインへ疎開する人々や
ワルドの裏切りに与していなかった元部下達も乗り合わせていたが、
彼らの誰もが口をきくことなく押し黙っていた。
狭い船室の中、窓の外には月のない夜空と雲海が広がる。

運命には抗えない。

私には運命を変えることなど出来はしなかった。
いや、愚かしくも自ら運命の手綱を手離してしまったのだ。
あの時死ぬ筈だった人たちは今、定めどおりに死へ向かい、
あの時乗る筈だったこの船に今、定めどおりに乗っている。
全ては、全ての運命は、おそらく変わる事はなかったのだ。

ルイズは手にした『始祖の祈祷書』をもう一度見つめ、
声もなく涙を落とした。


 †


イーグル号がラ・ロシェールへと到着するまで、ルイズは
ベッドの上でひざを抱えたまま一切の食事も睡眠も取る事はなかった。
デッキへ降り立ったルイズを初夏の日差しが照りつける。
彼女の絶望を、失意を、世界は意にも介していないとでも言うように
空は晴れ渡っていた。

王が倒れ、国が滅んだところで世界は何も変わらない。
ましてや私一人、どんなに運命を呪い嘆き悲しんだところで。
一人うつむき、小さく自嘲する。

「ルイズ!」

突然の自分を呼ぶ声に、びくりと身を強張らせる。
この、声は。
顔を上げたその前に、トリステイン王女アンリエッタの姿があった。

「姫、殿下、、、?」
どうしてここに。
ルイズの顔が悔恨と恐怖の涙に歪み、膝が揺れる。
思わず後ずさるルイズの腕をアンリエッタが掴み、
震える肩を優しく抱きしめた。
「わ、私、、姫、殿下、、わたし!」
「よいのです!
 もう、よいのです、ルイズ、、、」
ルイズを抱きしめる腕に力がこもる。
暖かな体温がルイズを包む。
「アンリエッタ様、、、」
ルイズは初めて大きな声を上げて泣いた。

  。。
 ゚○゚


同時刻、トリステイン王都トリスタニアの王宮、その奥まった一室。
茶をすするトリステイン魔法学院の学院長、オールド・オスマンの前で
マザリーニ枢機卿はため息をひとつついた。

「今度ばかりはあの娘にかけてやる言葉が見つからん」
「ワルドはおぬし直々の選任じゃったかの」
「責任は取る」
「真面目に返すな鳥の骨、何ともからかい甲斐のない事じゃ」
「年寄りの冗談に付き合う気分でもないわ。
 この一件が片付けば、全ての責を負い身を引こうと考えておる。
 丁度良い頃合だ」
マザリーニが力なく笑う。
「こういう時におぬしが居ってくれて良かった」
オスマンが茶を吹きそうになる。
「気持ちの悪い事を抜かすな。
 それに、鉄火場はここからじゃろうに」
オスマンは椅子に座りなおしてマザリーニを見つめた。

「アルビオンのジェームズ王は何と?」
「ただ『我らのみにて雌雄を決す』、と」
オスマンがやれやれと首を振る。
「こちらの責を問う事はないが、助力も請わぬという事か。
 なんとも勇ましい事じゃ」
「それだけミス・ヴァリエールがジェームズ王に信頼されて
 おったということだろう」
「この際は有難い、か?
 実際こちらも他所に手を貸す状況ではない様(ザマ)じゃからのう。
 しかしまさかワルド子爵の通じて居った先がよりによって」
今度はオスマンがため息をつく。
「ガリアとはの」

マザリーニの顔が険しくなる。
「だが「状況」から見て間違いあるまい」
「その「状況」とやらに変化はなしか?」
「ガリアとの国境線、オルレアン湖岸の60隻のガリア艦隊はそのままよ。
 『アルビオン内乱に拡大の兆しあり 貴国防衛の助力をせんとす』
 そういったままこちらの返答を待っておる」
「隙あらば混乱に乗じこの王都を攻め落とすつもりじゃろうのう。
 ダングルテールに二個師団を配させたのもワルドの策略じゃったな。
 このトリスタニアから北と南では、今から呼び戻しても遠すぎる。
 アルビオンへ上るはずじゃったラ・ロシェールの艦隊を
 王都防衛に当てる他ないというわけじゃ」
「うむ、向こうに居られる姫の護衛とラ・ロシェール防衛分を除き、
 残りは全てこちらに引き戻させる」
「おお、そうか。 アンリエッタ殿下が直々にミス・ヴァリエールを
 迎えに参られたんじゃったの」
オスマンが窓の外、ラ・ロシェールの方角を見つめる。

「殿下のお心が、せめてあの娘の慰めになれば良いがのう」

  。。
 ゚○゚


「ルイズっ?!」
ラ・ロシェール領主の邸宅へと案内されたルイズを待っていたのは、
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたキュルケの乱暴な抱擁だった。

「大丈夫だった?! どっこも怪我してない?!
 ああもうこの馬鹿ルイズ、みんなに心配掛けて!!
 あぐっ、ふぐうぅ、ほんとにっ、ほんとにもうっ!!
 あ゛う゛う゛、、良がっだぁあ゛あ゛~~~!」

キュルケは胸にルイズをかき抱いたままその場にへたり込むと
人目も憚らずにえぐえぐとしゃくりあげ、ルイズの頭を乱暴に
しかし愛おしげに頬を寄せて何度も何度も撫でさする。

領主邸の庭園にも、涙ぐみ安堵する学友たちの顔があった。
ギーシュ、モンモランシー、ケティ、マリコルヌ、シエスタ。
いつもは冷静なタバサも、うっすらと涙をためた目で
ルイズに向かって微笑みかけている。
その横にはギーシュの使い魔、大モグラのヴェルダンデ、
キュルケの使い魔、サラマンダーのフレイム、
タバサの使い魔、シルフィードの姿もある。

「ど、どうして、みんなここに?」
目にたまった涙をぬぐい、やっと落ち着いたキュルケが優しく笑う。
「アンがね、アンリエッタ様がアンタの事を知らせてくれたの。
 それでね、みんなでね、迎えにいこうって」
そういって立ち上がると傍らのアンリエッタを振り返る。
「御免なさいね、ルイズ。
 私一人では心細くって」
「と、とんでもありません、アンリエッタ様!
 私は、アンリエッタ様に、それにみんなにも
 心配をかけてしまって、、、それに、それに、、、」
「 『それに』 はもういいの!!」
キュルケがルイズを再び強く抱きしめ、泣き笑いの顔で頭をなでる。
「もういいの。 アンも言ってたでしょ?
 アンタが無事なら、それでいいの」
「キュルケ、、、」

「そ、れ、に!」
キュルケが腕を伸ばし、アンリエッタをルイズと一緒に抱きしめる。
慌てる近衛兵たちを同行していたアニエスが困り笑顔で制する。

「男なんて星の数よ。
 この世界に良い男なんていーっぱいいるわ♪」
二人のひたいにこつりと頭を当てて、涙をぬぐい冗談めかして笑う。
「なっ?!」
「まあ、キュルケったら」
アンリエッタが涙目のままくすくすと笑う。

「それでもいい男が見つからなかったときは、
 その時には、アタシが居るわ」
「!!」
耳まで真っ赤になるアンリエッタをよそに
キュルケはルイズに口付けようと唇を尖らせ迫る。
「んむ~っ」 めしっ。
ルイズの正拳がキュルケの顔にめり込んだ。

「結局あんたはいっつもそれか!!」
顔を赤くしながらもキュルケに怒鳴る。
「そうそう、ルイズちゃんはそうでなくっちゃ」
殴られた鼻をさすりながら、キュルケが笑いかけた。

ルイズはため息を一つつき、仲間達を見回す。
「あの、みんな、、、」
「 「 「 謝るのは無し! 」 」 」
みなが声を揃えてルイズに言う。
小さくうなずくと、ルイズはもう一度皆を見回した。

「うん。
 ただいま、みんな」

  。。
 ゚○゚

その日ルイズは皆と大いに語らい、飲み、食べて、
また語らい、語らい尽きることなく眠った。
誰も彼女の使い魔の事に触れなかったが、ルイズは
皆のその心遣いに感謝した。

それはおそらくルイズにとって、人生最良の一日だった。

  。。
 ゚○゚

明くる朝。
それを最初に見つけたのはマリコルヌだった。

朝の光のさす世界樹<イグドラシル>の上、晴れ渡る空を見ながら
マリコルヌはしばしの散歩を楽しんでいた。
何隻もの軍艦を係留している世界樹を吹き抜けた風が、
酔いの残る火照った顔をなでていく。
山あいの太陽がゆっくりと顔を覗かせていくのをしばし見つめる。

(ああ、今日は日食だったっけ)
昨晩の席で、アンリエッタ姫も一緒にタルブへ日食を見に行こうと
盛り上がっていたのを思い返す。
田舎の村にいきなりお姫様がやってきたら、上を下への大騒ぎになるだろう。
そんな事を考えながら、このラ・ロシェールからいくらも
離れていないというタルブの方角を眺める。

遥かな山々の向こうに幾筋かの煙が立ち上っている。
「あそこかな、、、ん?」
その先の景色に違和感を覚える。
肩にとまっていたフクロウ、使い魔のクヴァーシルが
羽をばたつかせてけたたましい鳴き声を上げる。
「あれ、は、、、あれは!!」
彼の見つめる彼方で、旗艦レキシントン号率いるレコン・キスタの艦隊が、
今まさにこのトリステインへ降下しようとしていた。


マリコルヌが駆け足で皆の所へ戻った時には、ラ・ロシェールは
既に厳戒令の中にあった。
市民達は怯えながらも避難指示に従い、隊列を組んだ兵士達が
慌しく横を駆けていく。

「み、みんな、無事?」
「あんたこそ! 探したのよ!」
すでにラ・ロシェール領主邸宅の庭には制服に着替えたルイズ達が
集まっており、戻ってきたマリコルヌを見つけ安堵の表情を浮かべる。
「レコン・キスタが来たらしいんだけど、どーなってんのよこれ?」
落ち着かなげなキュルケの横には、シエスタが不安げに寄り添う。
遠くかすかに、しかし低く太い遠雷のような音が絶え間なく響いている。
山の間に昇る朝日とは逆の方角の雲が、赤々と照らされて見える。
「あ、あの、マリコルヌさん? あの明るいのって、、」
「、、、タルブだよ、あいつらタルブの方から降りて来てるんだ」
それを聞いてシエスタが血の気を失いその場に倒れこむ。
「大丈夫?! シエスタ!」
倒れ掛かるシエスタをキュルケが受けとめる。
「ご、ごめんなさいキュルケさん、それより、姫殿下を」
「そ、そうだわ! マリコルヌ、あんたアンリエッタ様見なかった?!」
マリコルヌへルイズが詰め寄る。

「ひ、姫殿下なら」
「見たの?!」
「世界樹の上で。
 アニエスさんや他の近衛兵と一緒に戦艦に乗り込む所だった」
「姫が?!」
皆が世界樹<イグドラシル>を見上げる。
全ての艦が桟橋を離れ発進しようとしていた。
赤く燃えるタルブへと向けて。


 †


タルブ開戦の報せはトリスタニアの王宮にも届けられていた。
「タルブ領主、アストン伯戦死!」
「レコン・キスタはタルブへ降下兵を展開!」
「レコン・キスタ艦隊十四隻、そのままラ・ロシェールへ転進!」
多数の伝令と喧々諤々の議論を続ける貴族とでごったがえす
大会議室へ、ローブを羽織ったオスマンが入ってくる。
「いよいよか来たか。 しかしタルブからとはの」

「オスマンか」
伝令たちに次々と指示を出していたマザリーニが振り返る。
「あ奴らロンディニウムを守る船さえ捨てて
 かき集められるだけの船をかき集めて来おったらしい」
「まさに背水の陣じゃの」
「ここであの貴族派の奴らめがラ・ロシェールを落とす事にでもなれば
 南のガリアが鎮圧の協力を口実に一斉になだれ込んで来るだろう。
 いや、ハナからそういう手はずだろうて。
 ええい、姫殿下の安否はまだわからぬか?!
 殿下を乗せたフネはどこまで戻っておる!!」

苛立つマザリーニの元へ血相を変えた伝令が飛び込んでくる。
「枢機卿、報告いたします!
 ラ・ロシェール駐留艦隊全五隻、レコン・キスタと交戦中!」
「全隻、だと? ばかな!
 姫は、アンリエッタ姫殿下はいずこにおわす?!」
「は、殿下は、、、
 アンリエッタ姫殿下は前線で全軍の指揮を執っておいでです!」


 †


遠くの山肌に幾本もの土煙が立ち上り、数瞬遅れて砲撃の轟音が
ビリビリと大気を揺らしてラ・ロシェールの市内にまで伝わる。
レコン・キスタ艦隊十四隻とラ・ロシェール駐留艦隊五隻は
タルブとラ・ロシェールとを結ぶ山峡内にて激突していた。


「戦艦ソレイユ被弾、中破です!」
「あれがレキシントン、この距離で大砲が届くのか!」
「竜騎兵を再編成、出撃急げ!」 「第二波、来ます!」
「殿下、矢張りここはいったん引くべきでは?!」
トリステイン空軍ラ・ロシェール駐留部隊、戦艦メルカトール号。
横で叫ぶ艦隊司令官のラ・ラメーに、アンリエッタは毅然と返す。
「なりません!
 ここで引けばラ・ロシェールは落ちます。
 そうなれば南で待ち構えるガリア艦隊がそれを口実に
 トリステイン国内へ進軍を開始してまいりましょう。
 必ず援軍は来ます!
 トリスタニア防衛に向かった艦隊の中から援軍が戻ります、
 それまで何としても、何としても持ちこたえるのです!」

アンリエッタははるか後方の世界樹<イグドラシル>を振り返り、
昨晩の語らいを思い返す。
(あそこには自分の友がいる)
国も身分も関係なく、ただ一人の年頃の少女として過ごせた時間。

ルイズだけではない。
キュルケも、ギーシュも、モンモランシーも、ケティも、
シエスタも、マリコルヌも、今や自分にとって大切な友人だった。
(見守っていて下さい、ウェールズ様。
 私の命をかけても、皆を、私の友を守ります!)
遥か彼方のアルビオン大陸を思う。

「攻撃を敵旗艦に集中、押し戻すのです!」
勇ましく杖を掲げ、アンリエッタは正面の戦艦レキシントンを睨んだ。


 †


アンリエッタが見据えるそのレキシントン号の艦上。
神聖アルビオン共和国皇帝オリヴァー・クロムウェルは苛立ちを隠せずにいた。
「砲撃がこのレキシントンに集中しているではないか!
 他の艦は何をしている? レキシントンを下げろ、余を殺す気か?!
 相手はこちらの半数以下ではないか、敵を包囲し押し潰せ!」

わめくクロムウェルをレキシントン号艦長ボーウッドが静かにいさめる。
「閣下、相手は山間の地形をうまく利用し、我が方は横へ展開できません。
 数の利を生かしきれませんが、正面から撃ち合うより他ありません」
「大体ラ・ロシェールの艦隊は全艦が王都へ向かったのではなかったのか?
 トリスタニアへ着ければよいのだ、迂回するわけにはいかんのか?!」
「ここはトリステイン軍を各個撃破する絶好の機会です。
 それにここで相手を残さば必ずや追撃を受けましょう」
沈着なボーウッドをクロムウェルが忌々しげに睨む。

「ええい、艦で横に回れぬというのなら竜騎兵だ、
 竜騎兵を出して敵を囲ませろ!」
「ですが、あまりに竜騎兵を前線に出しすぎては艦砲射撃が使えません。
 味方を巻き込んでしまいます」
「ならばどうしろというのだ?!」
「むしろ竜騎兵を陽動に使われては?
 迂回させラ・ロシェールを襲わせて敵の気を逸らすのです。
 ラ・ロシェールに援護を割く様であれば、そのまま敵を押し込めます」
「そ、そうか」
「ついでにワルドの置き土産も使われてはいかがですか?」
「うむ、あの女か、そうだな。
 どうせ空に置いていたとて使い道も無いか。
 ではそうしろ! どうした、早くやれ!」

そのままクロムウェルは座席にどすりと座り込み手を組んで顔を伏せる。
本来ならばラ・ロシェール駐留艦隊など発艦前に全滅させて然るべきだ。
それがタルブに手間取っている内にこのザマとは。
ハルケギニア最強の空軍も今は昔という訳か。
それもこれも、あの小娘のせいだ。

使い魔を引き連れてただ一人でアルビオンの戦艦を落として回り、
レコン・キスタ全軍を混乱に陥れたあの桃髪の小娘。
あの娘さえ居なければ、全てはあの日ニューカッスルで終わっていたのだ。
(ええい、『虚無の魔女』め!)

「竜騎兵部隊、戦列を組め!」
「軍団(レギオン)! 軍団(レギオン)! 軍団(レギオーン)!」
アルビオン艦隊の下に竜騎兵がゆっくりと弧を描きつつ集結していく。
「竜騎兵部隊、突撃準備よし!」
「次の砲撃の合間に出るぞ!
 前方敵艦隊を右手山領より迂回、進行する!
 目標、ラ・ロシェール市内!!」

 †

「はあ? アンタ一人でどうするってのよ?!」
「じゃあここで指をくわえてみてろって言うの?!」

ラ・ロシェール領主邸宅の庭先で、キュルケとルイズが怒鳴りあう。
周りを重武装した兵士達が駆け抜け、竜騎兵が次々と空へ飛び立っていく。
「そう言ってるのよ。 戦争が、戦争が始まっちゃったのよ?
 もうアンタ一人の力でどうこうできる事なんて残ってないわ!」
「まだよ、、、」
ルイズはゆっくりと懐に手を差し入れ『始祖の祈祷書』を取り出す。
「私には、これがあるわ」

「ふう、やれやれ。
 つまりルイズは、僕らも知らない「とっておき」を
 まだ隠し持ってるってことかい?」
ギーシュの言葉に、ルイズは静かにうなづく。
「でも、どうやってあそこまでいくってのよ?」
彼方の空を見上げるモンモランシーの横を、タバサが進み出る。
「、、、タバサ」
問いかけるルイズへ静かにうなずき、力強く微笑む。
タバサの横のシルフィードも、頭をもたげきゅいきゅいと頬を寄せる。
「シルフィも、、、」
ルイズはシルフィードの頭をそっと抱き寄せた。

「ちょっとみんな待って、あれ!」
マリコルヌの声に皆が振り向く。
「、、、やれやれ、話は後って所だねえ」
ギーシュの見つめるその先には、編隊を組みこちらへ向かってくる
アルビオン竜騎兵の大部隊の姿があった。
その内十数騎ほどが、本体を離れゆっくりとこちらへ転進する。

戦事(いくさごと)に慣れていないシエスタがおろおろと周りを見回す。
「ど、どうしましょう?
 敵が、こっちへ来てるみたいです?」
「そりゃあここは領主邸だからねえ、攻撃目標の一つになってて当然さ」
冷や汗を流しながらギーシュが答える。
「領、領主さまはどちらに?」
「さっき世界樹のほうへ行ってたよ、不幸中の幸いだね。
 ま、あちらも攻撃を受けるだろうがここよりはましだ」
「そんな?!
 みなさん、とりあえずお屋敷の中へ、、」
駆け出そうとするシエスタの腕をモンモランシーが掴む。

「ダメ、シエスタ。
 火竜の火を射掛けられればかえって危険だわ」
「ああ、そうだな。
 シエスタ、見つからないよう塀の陰に隠れて居るんだ。
 モンモランシー、ケティ、君たちもだ。
 ケティ、いざって時は君の「火」で二人を守ってくれ、頼んだよ」
「は、はいっ。 わかりました、ギーシュさま!」
ケティが真剣な面持ちで頷く。

「君たちもだっ、てギーシュ!
 あなた何をするつもりなの?」
モンモランシーの問いにギーシュは空を見すえたまま、静かに杖を抜く。
「僕らはルイズを送り出すために、なんとか隙を作らなくちゃあならない。
 君は僕らの中で唯一の癒し手(ヒーラー)だ。
 君が文字通り僕らの生命線だ」
「そそそ、そうとも、怪我を治してくれる君が先に怪我をしたら、
 ここ、こっちが困るじゃないか」
カチカチと歯を鳴らしつつ、マリコルヌも強張った笑みで杖を抜く。
「あら~、男じゃないのマリコルヌ。 惚れちゃいそ」
キュルケがマリコルヌへ流し目を送りつつ杖を掲げる。

ギーシュがルイズを振り返る。
「すまない、ルイズ。
 君の力も必要かもしれない。
 君のその「とっておき」を使う余力を取っておくとして、
 他にどのくらいの魔法までなら使える?」
「え? ああ、そうね」
既に杖を抜いていたルイズが突然の質問に考え込む。
「ええと、何と言ったらいいか、『虚無』の魔法は特別なの。
 普通の魔法を使うのとは別の「力」を使うのよ。
 だから、使えるだけの魔法を使ってもそのあとで
 『虚無』を使う事は出来る、、と、思う」
「ほほう、そりゃ便利だ」
言いながらギーシュが杖を振るうと、大きなタワーシールドと
投槍を構えた青銅の戦乙女(ワルキューレ)達が地面から立ち現れた。


上空では既に戦闘が始まっていた。
地上からの援護はあったが、それでも数と練度の違いは埋めがたく
防衛線はじりじりと押されつつある。

領主邸上空で戦っていた集団のうち、数騎のトリステイン竜騎兵が
翼を燃やされきりきりと落下していく。
均衡が破れ、六騎ほどのアルビオン竜騎兵がラ・ロシェール領主邸に
向かって一斉に降下を始めた。

「きき、来たわ!
 ギーシュ、どうすんの?!」
「ルイズ、一昨日の学院での練習を思い出すんだ。
 フライ(飛行)の魔法を使ってくれ」
「そ、そんなんでどうなるってのよ!」
「良いから。
 ただし、僕らにじゃあなく、彼らにだ」

ギーシュがこちらに向かって来る竜騎兵を杖で指し示す。
「わ、判ったわ」

ルイズが息を吐き、杖を構える。
「、、まだだ」
竜騎兵は大きく弧を描き、渦を巻くように領主邸を囲む。
「まだ引き付けて」
一騎が強く羽ばたき、残る竜騎兵もそれに続く。
「左手は添えるだけ。」
タバサがルイズの杖に手を添える。
迫り来る竜騎兵達が炎の息を浴びせようと首を反らせたその瞬間。
「今!」
「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」
ルイズの暴力的な威力のフライ(飛行)が竜騎兵を襲った。

今まさに殺到しようとしていた竜騎兵達が一瞬にしてバランスを崩し、
あるものは体勢を立て直そうとして屋敷や地面に激突し、
あるものは急浮上を制御できず空中で味方同士で衝突し、
あるものは騎士を振り落としそのまま空中で貼り付けにされる。
揚力と重力の均衡は破れ、火竜達は陸に上がった魚の様にもがいた。

「あぶない!」
その内の一騎が苦し紛れに炎の息を吹きかけてくるが、
ワルキューレのタワーシールドに受け流される。
「今だ、みんな!」
ギーシュの号令と共に、空中で身動きの取れない竜騎兵達に
魔法と投槍とが一斉に射掛けられた。

「やや、やったか?!」
初めての実戦にマリコルヌの声が上ずる。
「上出来だ。
 ルイズ、タバサ、上空に敵は居ない。
 今のうちに行くんだ」
頷きシルフィードに乗ろうとしたルイズを、突然に<空気の塊>が襲う。
割って入った一体のワルキューレが吹き飛ばされ、塀に激突した。

「そんなに急がなくっても良いじゃあないのさ」
その声に皆が屋敷の屋根を見上げる。
 そこにはローブをまとった緑髪のメイジの姿があった。
「あんたは、フーケ!」
「お久しぶりねえ、おチビちゃんたち。
 こんな所で再会できるとは、来た甲斐があったってもんさ。
 せっかく会えたんだ、もうちょっと遊んでいきなさいよ」
フーケが杖を振るうと庭土がゴリゴリと音を立て盛り上がっていく。
「さて、いつぞやの借りを返させてもらうとするかね」

「いやいや、感謝するよフーケ。
 こんな男冥利に尽きる台詞を言える機会が来るとはねえ」
やけに芝居がかったしぐさで髪をかき上げ、ギーシュが杖をかざす。

「ルイズ、ここは任せて先へ行け!」

「お、おい、ずるいぞギーシュ!
 僕が言おうと思っていたのに」
「はっ、そんなおチビちゃん一人戦場に送り出したところで
 何がどうなるってんだい?
 まったくこれだからガキは嫌いだよ」
完成した巨大な土くれのゴーレムにフーケがひらりと飛び移る。

「ルイズ!」
シルフィードの上のルイズへキュルケが呼びかける。

「感謝しなさいよ?
 お姫様を守るなんてオイシイ役回りを譲ってあげるんだから」
命をかけた場面でも変わらぬキュルケの物言いに、思わず心が和らぐ。
「はいはい、帰ったらいーっぱいキスしてあげるわよ」
ルイズがキュルケに投げキッスを送ると、シルフィードは
二度、三度と大きく羽ばたき空へ舞い上がっていった。
キュルケは流れ出る鼻血をぐいっとぬぐい、フーケに向き直る。

「さあ、やあっってやろうじゃないの!!」

  。。
 ゚○゚


シュレディンガーは夢を見ていた。
仲間と共に地獄を駆けた遠い遠い昔の夢を。

自分はいつからこの世界にいたのか。
思い出を手繰っても思い出せない。
最も古い記憶は、常に彼らと共にあった。

最古参の新兵にして無敵の敗残兵、
『最期の大隊』<ラストバタリオン>

しかし、彼らの中にあっても自分だけは
特別な、特異な、ただ一人の存在だった。
それで良いと思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
あの時までは。
あの桃髪の少女に出会うまでは。

意識がゆっくりと覚醒していく。
ぱたぱたと耳を払い、一つ大きく伸びをして、
懐かしく体を包む甘やかな香りをゆっくりと吸い込む。

鉄の匂い。 油の匂い。 火薬の匂い。 血の匂い。

『豹の巣』<パンテルシャンツェ>

アーカードとアルビオンのハヴィランド宮殿で別れた後、
シュレディンガーは行く当てもなく世界中を彷徨い、
気付けばここに居た。

ジャブローの密林奥深くに隠された、我らが夢の棲家。
そして我らが夢のあと。

「らしくないなあ」
頭をぼりぼりとかき、起き出して足の向くままに歩き回る。
格納庫を離れ兵舎へ。
蜘蛛の巣の様に張り巡らされた地下道を歩く。
食堂を通り過ぎて武器庫へ。
足の向くまま行く当てもなく、しかし行き着く先は判っていた。

長い廊下の突き当たり、鉤十字の旗が掲げられた部屋の中。
机の上に置かれた鉤十字の腕章に手を触れる。
全てが古びた部屋の中で、それだけが場違いに新しい。
決別したはずの、過去の象徴。
シュレディンガーはそれを静かに手に取った。

「ちょっとだけなら良いよね、少佐」

  。。
 ゚○゚


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