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ゼロの黒魔道士 Another Note-03


んぐ、んぐ……っかぁ~!!いや、悪かぁ無いですなぁ!むしろ絶品ですな!
赤ワインと、燻製した魚のパイ、これが案外合うものですなぁ~!
バクダンカボチャがこっそり入ってるのがにくい!これがホクホクとしててまた……
いやいや、正直申しますとね?トリステインの料理ってもんを馬鹿にしてたんでさ。
所詮かしこまってやがるゴテゴテのお貴族さん料理だろうと、ね?
ところが蓋を開ければ、こりゃぁ驚いた!
最初のサラダも、ハシバミ草でござんしょ、ありゃ?
あんな雑草、食うモノ好きなんざいないと思ってりゃ……
ベーコンとチーズ、これが重要なんですな。
あの独特のえぐみが、油っこさや臭みってな肉と乳製品の悪いところを美点にしちまってる!
で、ハシバミ草の苦み!こいつが後から鼻に抜けて……食欲を増す、まさにアペタイザーには最適ですな!
いやはや、こう素材の良さを引きだすってぇのは職人の腕が良い証ですなぁ!
そんでもってその後のスープ!これがまた……

え?料理談義はもう良い?
いやいや、言わせてくだせぇよー。
スープにゃちょいと一家言がありやしてね?まず獣の骨を……

話の続き?えぇえぇ、させていただきやすよぉ。
そっちの骨付き肉を片づけてから……あ、ダメ?せっかちですなぁ~。
まぁ、こんな良い店を紹介されちまったんだぁ。気合いを入れて話さにゃぁね?
しかし、食いながらでよろしいですか?男一人で店番してると飯食う時間がござんせんで……
へっへっへっ、すいやせんねぇ~……あ、お姉ちゃん、ワインおかわり!

で、どこまで話しましたっけねぇ……
あぁ、そうだそうだ!獣の骨を12時間煮込んで旨みを引き出すところで……
冗談っ!冗談でござんすよぉ~!そんな目ぇしなくてよろしいじゃぁござんせんか!

ではでは……コホン。
籠の鳥が空を飛ぶためにゃぁね、誰かが蓋を開けてやらなきゃなんねぇんでね?
しかしま、いきなり開けられても、飼われた鳥ってのぁ、空の高さに戸惑うだけでさぁ……



           ゼロの黒魔道士 Another Note
           ~第参篇~ 夢を語るに霧は無く


もうじき雲にも手が届く。
飛ぶ鳥の向こうの空、その青さに白鳥が染まりそうなほどに高い。
空気が仄かに冷たく湿っており、
あと数刻もすれば霧も出そうだが、まだしばらくは安定している。
穏やかなる秋の山道、そう言えればどれだけ良かっただろう。


「こっちだっ!!」
「先行けっ!先っ!逃げろ逃げろ逃げろぉおっ!!」
「きゃぁあっ!?」
「ぶもぅぅぅぅ!!」

枝を折る音。怒声。落ち葉の上を滑る音。
大木が薙ぎ倒される重い音が、輪唱のようにしかかっていく。
迫る野獣に逃げる侵入者。
山の自然は人間にそう甘くない。

「ぶも?ぶもぉぅ……」

終止符にメキリとオークの若木が倒れ、その野獣は追っていた者達を見失った。
匂いはする。比較的近い所だ。
だが、姿は見えぬ。巨体に似合わぬ小粒な目をキョロキョロさせても見えぬ。
ぶもぅ、と鳴き声と同じく荒々しい鼻息を一吹き。
まぁ良かろう。既に縄張りの外側だ。
侵入者共を追うのはここまで、無駄に争うこともあるまい。
しかし仕留めきれず残念至極、といった一瞥をくれてやり、
野獣は自分が作った獣道を後戻りしていった。

「――ふ、ふぅ……お、脅かしやがるぜー」

重い足音が去って、辺りに静寂が訪れた頃、
倒されたオークの若木が、しゃべった。
いや、正確に言えばその真下にあった岩の辺りから声がしたのだ。
岩と木の根に挟まれた僅かな隙間。
そこに不肖なる侵入者共が隠れていた。
何しろ急いでいたもので、三者三様、
ヘンテコな格好で折りたたまれるようにして納まっている。

「こっちの台詞だ、バカヤロ――ペッ、葉っぱが口の中まで入っちまった――
 モンスターの尻尾踏むなんざ、小劇場の茶番喜劇でも見たことないぞ」

スティルツキンは回想する。
下らねぇことをくっちゃベリながら歩いていた阿呆な男のことを。
そいつがよそ見ついでに、ぐにゅっとばかりに踏んづけた何かを。
それが、野獣の糞なら笑い話にできたものを、あろうことか野獣の尻尾だったことを。
角といい、タテガミといい、発達した脚の筋肉といい、
肉食いの獣の多そうな山の中にありながら、草食動物張りとおすだけの気概を感じる面構えだった。
そいつが目の色を変えて追ってくる……あぁ、思い出したくもない!
とはいえ、回想したくもなる。
一番認めたくない現実……その騒ぎを起こした張本人が、のうのうと、自分を押しつぶすような形で居座っているのだ。
しかも、能天気にも「脅かしやがるぜー」だ?まったくもって、こっちの台詞である。

「き、木の根っこと思ったんすよぉ~!似てたっしょ?ね?」
「あんな色の木があれば、な」
「――あんなピンク色、初めてみました……」

白銀色した髪の少女が、一番上に乗っかってまだ目をパチクリさせていた。
ジョゼットの言うとおり、四本腕の大馬鹿が踏んづけた尻尾は桃色をしていた。
それも、ショッキングピンク――踏んだ後の結果を考えれば、まさにショッキング、だ――
ド・ピンクとでも名乗って良かろう毒々しいまでの桃色。
恐らくは獣なりの警戒色の一種なのであろう。
『俺に近寄ると怪我するぜ。この尻尾と同じ色した臓器晒したくねぇだろ?なぁ?』というわけだ。
そんな色をした木の根っこなんてそう存在しない。

「あーえー……お、俺の住んでたとこは木はみんなピンクなの!桃色なの!」
「ほぉ~?そりゃ初耳だ。今度案内しな」

ショッキングピンクの森。
スティルツキンは想像して、しかめっ面を浮かべた。
砂糖菓子でできた悪夢のような感じがする。
外から見るには面白いかもしれないが、
中に入る前にはマスクでもしなければ毒の花粉にでもやられそうだ。
最も、実際に存在すればの話だ。
存在したらしたで納得が行く。
その毒花粉にやられたら、こんな大馬鹿が生まれるんだろう、きっと。
オオバカヤロー・ノウミソ・ド・ピンク野郎の真下から体をひねり引きだしながら、
小さなモーグリ族の探検家はそんなことを考えていた。

「そういえば、お二人が住んでいらしたところって……」
「あぁ、手を貸そう――さっきも言ったが、『ガイア』ってところさ」

ジョゼットの話を信じるならば、ここは『ハルケギニア』という世界の『ガリア』という国家に属するらしい。
いずれも、『ガイア』では聞かぬ名だ。かつてあったとも聞かぬ。
何より――

「師匠みたいなの、見るのも初めてってことはやっぱここ、別世界なんだろうなぁ~
 ……あ、師匠、俺にも手ぇ貸してくれません?」
「お前は勝手に出ろ」
「ひどっ!?」

馬鹿に指摘されるまでもない。
モーグリ族を見たことが無い、それがここを『別世界』と判断できる理由だ。
何しろ、自分達モーグリ族は自賛する訳ではないがどんな所にでも住めるほど、しぶとい。
そして、どんな所にでも、モーグリ族の仲間が必ずいる。
だからこそ、『ガイア』の至る所を独自のネットワークで結ぶことができたのだ。
モーグリの住まぬ地など『ガイア』には存在しない。
やはり、『次元の狭間』を抜けた先は異世界というわけだ。

『次元の狭間』とは呼んでいるが、何のことは無い。
『イーファの樹』、こいつの根っこにあった穴を、そう呼んでいるだけだ。
かつて、『ガイア』と『テラ』を飲むような大暴れをした大樹、『イーファの樹』。
その暴走が止まったと聞き、探検に出かけたところ、その穴を見つけた。
その内側は、ガイアを飲み込むほど広大で、どんな闇よりも深かい、
まさに『次元の狭間』という場所だったのだ。
見たことも無いモンスター、見たことも無い景色、
そういったものを地図に書きとめながら旅をしていると……
あぁ、まぁ良い。
スティルツキンは大馬鹿を拾ったことを記憶の倉庫にポイッと投げ捨てた。
まぁ何はともあれ、『ガイア』からそういう特殊な場所を通り抜けると、やがて辿りついたのだ。
モーグリ族がまだ到達したことの無い異世界、『ハルケギニア』とやらに。

「……私にとっては、修道院の外はそれだけで別世界でしたけどね」

旅に生きるスティルツキンのような者もいれば、
このジョゼットのように、放っておけば一所でその生涯を終えたであろう者もいる。
性質の違いと言えばそれまでだが、スティルツキンにはあまり考えられない人生だ。

「出ようって思ったこと無いのか?」

だから、思わずこう聞いた。
修道院なんて言葉っ面からして狭苦しい場所、好んで住み続けるものでもあるまい。

「ん~……私にとって、あそこが全部、でしたから」
「俺なら、飽きる自信があるな」
「俺も」

何時の間にやら這い出てきた赤髪の大馬鹿が一緒になってコクリと頷く。
籠の中が全部……他人の人生だからとやかくは言えないが、
自分にゃ真似もできそうもない、スティルツキンはそう思った。

「案外飽きないものですよ?毎日同じことやっているのが当たり前だと……」

籠の中の住人であったジョゼットは、恥ずかしそうに笑いながらそう言った。
言いながら、顔が曇っていく。

「でも……」

頬を掻いていた細っこい指先が、髪の毛を弄りはじめた。
何かをもどかしく思い出すように、くるくると。

「『あの方』が来てからは、当たり前が当たり前じゃなくなって来たんですかね……」
「……そっか」

その点について、スティルツキンは深入りするつもりは無かった。
それこそ他人の人生だ。自分で考え、自分で立ち直らなきゃならない。
スティルツキンはそこまでお節介でもお人よしであるつもりも無かった。

「……ん!でも結構、良かったです!こんな風に、修道院見下ろすことがあるなんて思わなかったので!
 あんなに小さかったんですねぇ、あそこ……」

だが、この少女、ジョゼットはきっと大丈夫だろう。
それなりの強さの欠片ってものが感じられる。
彼女が指差す方向、木々の隙間から、確かに修道院が見えた。
山の上から見下ろすと、より一層小さく見える。
石造りの壁が内側に追い立てるように築かれ、本当に鳥籠のようだった。

「今頃、大慌てだぜ、きっと」

あそこを出て丸一日。
ジョゼット自信の言葉を借りるなら『セント・マルガリタが出来て歴史上初の家出』なわけだ。
ここからは静かに見えるが、今頃は上へ下への大騒ぎになっているに違いない。

「本当に、良かったのか?」
「……えぇ。私、決めましたから!『あの方』に会うまで帰らないって!」
「……そうか」

ニヤッ、と毛深い頬面が上がった。
雛鳥にしちゃ芯が通ってる。頑固な奴は嫌いじゃぁない。
やはり、ジョゼットは大丈夫だ。
自分の足で歩いて行ける。自分の翼で羽ばたくことができる。
そのきっかけさえ与えてやりゃ良い。
いつかは『あの方』とやらの想い出にも頼らず生きることもできるように……

「ところで、お二人はどうして旅に?」

他人さんの人生を想像するのは面白いは面白いが、存外時間がかかる。
少々ボーッとしてしまっていたらしい。
こういう質問をしながら、ジョゼットがこちらの顔を覗きこんでいたのにちっとも気づかなかった。

「ん?あぁ、俺の方は癖みたいなものでね。1つの所にじーっとしてると、体が痒くなるのさ。
 旅に出たい、出たいってよ。で、気付けば一財産をありったけリュックに詰め込み始めている。それが俺でね」

昔っから、じっとしているのが苦手だった。
全ての荷をほどいたのは何時のことだっただろうか。
自分の背丈ほどもある黄色いリュックがある場所、そこが常に『いつか帰る場所』だった。
格好をつけた言い方を試みりゃ、他の誰でも無い自分自身こそが帰りつく先、
悪い言い方をすりゃ、彷徨い歩くだけの根無し草。
スティルツキンにとって、旅とは人生そのもので、そこから切り離された自分など考えられないことだった。

「根っからの旅人なんですね」
「おう、根無し草なのに根っからの旅モーグリさ」
「あ、俺は――」
「聞いてねぇ」
「師匠ぉぉお!?いい加減冗談でもひどいっすよぉ!?」

根無し草、と自嘲はしたが、少なくとも根どころか実も幹も無いスッカラカンの阿呆よりはマシ。
スティルツキンはそう自負していた。

「誰も聞きたかねぇよ、お前のくだらない夢なんざ――」
「あら、聞きたいですよ?聞かせてくださいな」

優しいな、ジョゼットは。でもきっと後悔するぞ。
スティルツキンは小枝が絡んでいたバンダナを直しながら心でそっと呟いた。

「ふっふっふっ……三千世界にこの俺様の名がギンギラに響くほど、でっかい男になる!それが俺の夢さ!」

「――な、くだらねぇだろ?」
「ひでぇ!?」

ふん、とスティルツキンは鼻を鳴らした。
脳味噌ショッキングピンクもここまで行けばいっそ清々しい。
夢見がちならまだ良いが、その夢がボヤけにボヤけている。
結局、『何がしたい』が無いのだ。でっかい男なる、それだけ。
今時、子モーグリだって具体的な夢を持つ。

「ううん、くだらなくなんか無いです、全然……」
「ん?」
「どうした?」

ジョゼットの表情は見ていると面白い。
山の天気以上にくるくると変わって飽きないのだ。
だがそれでも、暗い表情になると心配してしまう。
根が強い少女と知ったからこそ、なおさら。

「……私、今まで夢とか、そんなの全然持ったこと無かったから……
 やりたいこととか、そんなのも全然……」
「……」

甘かったか。スティルツキンはそう痛感していた。
改めて、彼女は籠の中の鳥だったのだ。
だから、きっかけさえ与えてやれば飛べる、そんな訳にいかない。
飼われている鳥は、空の高さに憧れると同時に、空の高さを恐れてしまう。
彼女は、恐れている。

いくら芯が強いといっても、彼女は飼われていた雛鳥。
自分のすべきことが分かっていても、何をすれば良いのか分からない。
やりたいことが今まで何もできず、ただ憧れるだけ、『夢』とすら呼べないものだったのが、
いざ手元に来た瞬間、その重さが小さい体に圧し掛かる。
その困難さを推し計ることも、実現する方法すらも分からない。
やはり、誘ったのは間違いだったのだろうか……

「――夢は、いつだって見ればいいじゃん!」
「え?」

馬鹿が馬鹿たる所以は、急に叫ぶことだろうか。
何も考えず、突然妙なことを言いだす。
四本腕を大きく振り回しながら、赤髪の男が何やら熱弁しはじめていた。
馬鹿なりにちょっとは考えて物を言えば良かろうに。

「遅いも早いも無いさ!思ったら、そこが始まり!ここから始めんだよ、新しい夢を!」

ただ、とスティルツキンは思った。
この髪の毛真っ赤の脳味噌ショッキングピンク野郎、
考えていないからこそ、稀に良いことを言う。そこはスティルツキンも感心している。
理屈ではなく、真っ直ぐ。馬鹿正直なほど真直な言葉をこいつは語る。
飛べない鳥がいりゃ、その四本の腕で持ち上げてやり、風の心地よさを教えてやる。
自分のこともロクに世話できないくせに、そんなお節介な馬鹿野郎なのだ。

「……はい!」

ジョゼットの顔に浮かんでいた、恐れが消えた。
いい傾向だ。暗く沈んでるよりゃそっちが良い。
とはいえ……それを引き起こしたのが馬鹿の一言だと考えると、やや腹が立った。

「……お前、変なキノコでも食ったか!?」
「師匠ひでぇ!?」
「まぁ、それは大変!お薬あったかしら……」
「ジョゼットまでひでぇええ!?俺泣くぞ、すぐ泣くぞ!?」

楽しげな笑いが、風に舞う。
もうじき雲にも手が届く。
飛ぶ鳥の向こうの空、その青さに白鳥が染まりそうなほどに高かった。


ピコン
ATE ~二枚目のジョーカー~

高い空から、太陽が殺意をもった視線を投げかけていた。
肌がこんがりとトーストされる日差し。
その日差しを浴びてもなお、商人達のテントはその白さを保っているから大した物だ。
それも当然。大きさと白さが重要なのだから当然と言えよう。
それだけの大きさを確保する手腕。白さを保つ細やかさ。
それが富の象徴であり、それがやり手の証明なのだ。
砂漠交易の中心、市場の真ん中では今日も白いテント達、キャラバンを持つ大商人達が凌ぎを削っている。
白だけではなく、赤タマネギのような朱色や、砂漠と同じようなサフラン色したテントもあるにはある。
だが、それはあくまでも二流、いわゆる一般客を相手にするような木端商人のテントだ。
己の手で商品を仕入れ、己の手でキャラバンを動かし、己が才覚でのし上がった、
まさに商人達の中の商人という者のテントは穢れなき神聖なるシルクの白。それが暗黙の約束となっている。

その中の一角、『旅行公司』と名乗る男達のテントは一際白く、
高価なシルクを使っていることが遠くからでも分かった。
テントの中はといえば、東西南北から何十というキャラバン隊がかき集めた、
珍しい品の数々が山のように積まれている。布の類に始まり、食料品から骨とう品、武器にいたるまで。
圧巻。王侯貴族がなんだと言わんばかり。
まさに豪商。まさに大商人。

これを取り仕切る男はまだ年若いが、その商才でもって先代より引き立てられた人物であった。
新進気鋭の期待の星。より広い販路を開拓し、巨額の富を手に入れたフロンティア。
この市だけではなく、砂漠に存在する全ての市を手中とすることも可能と言われる男だ。
その店主が丁度今、また新たなお客を相手どり、その財布の中身に狙いを定めていた。
豆、麦、芋といった穀物、色も香りも艶やかな香辛料がそれぞれ詰まった大袋が50袋ばかり。
どこぞのお大臣の食卓用か、ともかくかなりの上客。
逃すわけにはいかない。

「トチャルラン、ヂギンガアナ、ゼンチョフキヤキセ……」

歌うように、砂漠の民独特の言語が発せられる。
甘い声とスラリと長いルックス。長い指が、東方流の計算器の上をパチリパチリと動いて行く。
数を表す石の玉を、木枠の中で音を立てながら動かす様は、商人というより音楽家の風情であった。
多くの女性客は、これにやられる。
財布のひもがあっさりと緩められ、晩のおかずが予定よりも大幅に豪華になってしまう。
健康的に砂漠の太陽で日焼けした男は、そうした自身の魅力を最大限に活用しのし上がったのだ。

だが、ごく稀に、ごくごく稀に、そうした見た目にごまかされない客もいる。
『ヂギン』というこの地では『美しき人』を意味する世辞に心動かされない客もいるのだ。
スッと男が操る算盤の上に、別の手が伸びた。
少々色はついてきてはいるが、砂漠には馴染が薄い白い指が、パチンッと一番上の桁を弄った。

「口が上手いねぇ。だけどあんたも男前なんだからさぁ、ね?」

発せられたのは、やや砕けてはいるが完全なるハルケギニアの言葉。
それを発したのは、青髪の少女であった。
やや広めの額がチャーミングな、お世辞抜きでなかなかの『ヂギン』。
イザベラ。それが彼女の名であるが、身分を含め名乗るつもりは無い。
店主と客、それで充分。自分の主張すべきことさえ主張できればそれで良い。
言語も相手に合わせる必要も無い。文法規則は同じで単語も比較的近い。
彼女は今、値段交渉と言う商人達にとっての決闘に挑もうとしていた。

店主の持つ空気が、ピンッと張った。
例えば、剣の達人同士であれば剣を交えた瞬間に互いの実力を推しはかる。
同様に、商人達は値段の上げ方下げ方でその力をある程度推し量るのだ。
通常、素人の客ならばまず端数を値切ろうと必死になる。それでは大幅な下げは期待できない。
この少女、一気に値段を下げてきた。それも『ギリギリ妥協できない』ラインに。

「ヤミニヤキサメ、ヨエダデンアミハンベヌダ」

偶然か、それを知るために算盤の石が上へと上がる。
パチン。チェス駒のように玉が配置された。

「ダメダメ。それじゃぁ話にならないよ。こうだね!」

少女の手番。
石が下がる。
やはり、『ギリギリ妥協できない』ライン。
すなわち、相手は物の値段を知っているということ。
その上で、勝負に臨んでいるということ。
男は、顔こそは普段と変わらぬスマイルを保っていたが、
内では驚くほどの無表情、真剣勝負に臨む際のそれと変えた。
言わば、これは試合ではなく、死合い。
その覚悟を持たねばならないと、男は心得た。

「ヨエダヲブエハミヘンベヌモ」

パチン。玉が上がる。

「もう一声。輸送は自分でやるんだからさ、それも引きな」

パチン。玉が下がる。

剣で言えば間合いの取りあい。
引けば押し、押せば引く。パチンパチンと算盤の玉が踊る。
その間隔が徐々に狭くなる。
鍔迫り合い。互いの命を削るかのような細い妥協ラインの奪い合い。
鬼気迫る掛け合いに、いつしか白いテントの内にギャラリーが集まり始めていた。
何しろ、普段『レディキラー』と名の通った男が、お得意の少女相手に値の争いをしているのだ。
商人仲間にしろ、常連客にしろ、これほど面白い見ものは無かった。

「……ヨエベ、ゴフベヌ?」

やがて、27手目。
損益分岐点を争う上で絶対に譲れない場まで、男は追いこまれていた。
追い込まれた理由は、ギャラリーの存在。
他の客の手前、値切り交渉には応じなければ融通が利かぬと思われかねない。
客を逃すことは、店を拡大し続けなければならない新進気鋭の男にとってあり得ざる選択肢。
かといって、損失を出すことは他の商人も見ている手前、こちらも不可。
『若造が』と侮られる日々は遠い昔の話でなければならない。失敗は許されない。
パチリ。27手目は、一番小さな桁。小手先の勝負。しかしそれが譲れぬ線であった。

「んー……よし!それじゃあ――」

少女が、スッと立ち上がる。
戦いの空気が、初めて算盤の上を離れた。
28手目、その指は桁石でなく、商品としてうず高く積まれた果実をつかんでいた。
バノーラ・ホワイト。
別名『バカリンゴ』とも呼ばれる、独特の香りがする砂漠に貴重な水分だ。

「こいつを樽ごと!これをつけてこの値段にしな。それで文句無いだろ?」

一番上の桁石が、パチンッと軽快な音を出して上へ動いた。
砂漠で貴重な水気を持つ果物とはいえ、一樽だけでここまで値はしない。
定価にチップを乗せたにしても大盤振る舞い。
先に買おうとした50袋ばかりの穀物と香辛料合わせると、
大体、丁稚が1人の日給が出るぐらいの利益になる。
店主の目が、一瞬点となる。
が、瞬時に悟る。
『あぁ、そういうことか』と。
先ほどまで言葉という剣の打ち合いをしていたのだ。
有る程度は心の内も読める。

「……ミミベキョフ!キョフザミギョフブガ!」
「あんたもね!これからもよろしく頼むよ!」

破顔し、差し伸べた手が結ばれる。
交渉成立。ギャラリーから拍手が飛んだ。
あぁ、やはり。最初っからこの客は、『こちらを立てる』つもりだったのだ。
他の客から見れば『値段交渉に応じる気前の良い店主』、
商売仲間から見れば『最後まで損はしない商才ある男』、とどちらとも受け取れるように仕向ける。
そのための算盤の弾き合いであったのだ。ギャラリーがあつまるように、大きな声を上げて。

「ワハサイサミハ、ヂギンハナ!ミユベコゴフボ!」

言うは簡単だが、打ち合わせ無しでここまでの演出はそうできない。
この客、本当に『キョフザミギョフブ』、相当なやり手だ。
よろしくお願いする?こちらこそ、だ!


「お、褒めるついでに、この美人にもうちょい負けようって気は?」
「アハカハミハァ……ミッヨマラーヂヌベ」

最後の決め手、バカリンゴを1個進呈しましょうと持ちかける。
本当はもう1樽くれてやっても儲けは出るが、そこは商売人。
あくまでも少し気分を良くさせる程度に留めるのが一番だと心得る。

「安く見られたねぇ、私も……3個にしなよ」

3個、か。余裕余裕。丁度良さそうなのを3個ほど選んでやろう。
水っ気がたっぷりの3個だ。

「トトヘオソトニシ、ヂギンラン!トミ!マヨズオセユガミハ!」

店主自らバカリンゴを選定しつつ、丁稚を呼び付ける。
流石に大荷物、輸送は自分ですると言っていたが、
馬車まで少女1人で持っていけるわけが無い。

「悪いね、馬車はすぐそこだから。じゃ、また来るよ」
「キュルクルワナンヨソム!」

バカリンゴ3個の包みを私ながら、『幸せが訪れますように』と笑顔で言った。
充実した商売をするには、良い客であった。

「ん、ワハサシコ、キュルクルワナンヨソム!」

イザベラが、はじめて砂漠の民の言葉を使った。
やや最後の『ヨソム』の辺りのイントネーションがおかしいが、
その滑らかさは完全に『ヤヌサー』、この地の言語の達人と言える域に達していた。

 ・
 ・
 ・

日干しレンガの壁の影、強烈な日差しから逃れるようにして、
快眠を貪っていた荷台から追いだされた少女が、口をへの字に曲げていた。
彼女が寝ていた場所を、次から次へと大袋が占拠してゆく。

「あっっきれるわ……」

行商人もかくやと言わんばかりのすごい品。
イザベラがここまで時間をかけるとは何事かと思っていたが、まさかこんなに買いこんでいるとは。

「悪い悪い。意外と細かい勝負になってね」

ちっとも悪びれた様子を見せず、イザベラが答えた。
手にはバカリンゴの包み。オマケの戦利品というやつだ。

「果物は余計じゃんー。何でわざわざ買うのさー」
「いやぁマイブームだしさ、向こうに華を持たせたかったのさ」

実際、バカリンゴ、バノーラ・ホワイトは中々美味だ。
特に皮が紫色に熟し切ったものは深い味わいが、濃厚で大変美味い。
生食でも、クリームたっぷりのケーキを食べるような充実感がある。
これについては既に販路が確保され、ハルケギニアへの輸入が行われている。
記念すべきイザベラの初戦利品。
最後の決め手にバカリンゴを選んだのも、単純に自身の好みというものが含まれていた。

「何それ。買い物って相手に良い気分にさせるもんじゃないでしょー?」
「イイ気分になって欲しいのさ。有能な商人にはね。アイツは使えるよ」
「分かるの?」
「分かるさ」

品揃え、陳列の仕方、テントの様子からもある程度は推し量れるが、
やはり商才というものは交渉術、すなわち実際に戦って確かめるのが一番だ。
チェスの試合にも似た静かで激しい争いの末、イザベラは相手の商才を認めた。

将来的に、ハルケギニアとエルフの地を越えての交易が始まるだろう。
その際、地の理を知る地元商人との渡りを国家がつけておくのは重要だ。
それも、より商才のある者を。
大量の穀物と香辛料は、すぐ本国へ送って検討してもらうつもりだ。
ハルケギニアの食事情に合わねば話にならない。
だが、実際に数日食べつけたところ、なかなか悪くない。
仕入先も決まりそうであるし、見通しは悪く無さそうだ。

「……エルザさっぱりー。人間、めんどくさすぎー」

だが、口の字への字の吸血鬼にとっては、それが煩わしい。
そもそも売り買いという行為が面倒この上無いのだ。
狩猟民族と近い性質を持つ少女にとって、わざわざ金で物を買うという行為が理解しがたい。
不平を洩らすエルザに、イザベラがプッと噴き出すように笑った。
姉が妹を見るような、そんな優しさで。

「めんどくさいのが人間なのさ。それが良いの……あぁ、おつかれさん!」
「ワニダソル!!」

金本位制や貨幣の流通をとくと語っても良いが、イザベラ自身面倒くさい。
何より荷積みが終わったようだ。
丁稚の少年に、一仕事終えた良い気分でチップでくれてやった。
銀貨を一枚。少々やりすぎだが、サービスだ。

「さて、さっさと帰るかね。出しとくれ」
「はいはーい。はっ!」
「クェッ!」

エルザが、馬の代わりに手綱がついているショコボを繰る。
一鳴きと共に、ガタンと重い荷物が揺れ始めた。

「うぐ」
「どうしたの?」

しばらく、鳥馬に曳かれた馬車が走っていると、青髪の少女が奇妙な声を上げた。

「うーん……」

手には少し果汁のついた短剣と、4つほどに切られたバカリンゴ。
慎ましやかさの無い、豪快な歯型が果実についている。

「はっはぁ~ん、さっきの果物、青かったもんねぇ。かなり」

バノーラ・ホワイトを食べる上で、他所者と地元民の違いが如実に表れるのは、その食べる時期だ。
他所者は紫色に皮が熟す、その時の濃厚なまでの甘みを好むが、
砂漠の民にとって重要なのはその水っ気。
よって、砂漠の民が最上と思うのは、よりその水分を蓄えた若いバカリンゴ。
味の点では、若さと渋さが全面に出るが、喉を潤すには申し分ない。
だが、とろけるような甘さを期待したところに、鋭い酸味は少々きつい。

「いやいや、これはこれで悪く無い。うん、熟してない良さがある」

だがイザベラは認めない。これが不味いとは認めない。
酸っぱ苦い汁が口の中一杯に広がるが、絶対に不味いとは認めない。

「負け惜しみ?」
「ちっがーう!これはあれだ……
 そう、ジャムとかパイとかにすれば美味くなる!うん、絶対そうだ!」

確か、酸味の強い果物の方が過熱したときに甘くなるはずだ。
うん、そうだ。そうに、決まっている。
水分が多くてそのまま加熱するわけにいかない?うん、そうだ。乾燥させれば良いんだ。
イザベラの脳内に、いくつもの言い訳が思い浮かぶ。

「生じゃ不味かったってことね」
「いやいや、生は生で……」

今日はいやに冴えているじゃないか、吸血鬼め。
イザベラは渋っ面のまま取り繕った。
失敗などではない。これはあくまでも成功の母の方だ。
イザベラは自己正当化に必死であった。

「お腹壊さないでよー。変な匂いのする血は嫌だからねー」
「うっさいわねぇ、分かってるってーの」

この頃、香辛料を豊富に使った料理を食べているせいか、
血の匂いが変わったということをエルザは感じていた。
不味くは無い。薬膳の効果もあるのだろうか、栄養的にも申し分ないのだが……
イザベラの血がこれ以上薬品臭くなるは嫌だし、若い果実のような青臭さが出るのも勘弁だった。

「分かってらっしゃるなら、俺でそんなネタネタする果物切らないでくださいよ」

イザベラの右手で、短刀が文句を言った。
バカリンゴの汁が、早くも砂漠の空気で乾きつつあり、
粘度の高いシミとなっていた。

「手近な刃物使っただけじゃないか」
「匂いがめちゃくちゃ付くんですよ、それ。
 ナイフでも斬るもんぐらいは選ばせて欲しいですねぇ」

『地下水』と呼ばれた暗殺ナイフが、今じゃ果物ナイフ。
お笑い草も良いところだ、とばかりにカチャカチャと文句を垂れた。

「はぁ……我儘な部下ばかり持って、私は不幸だねぇ」

と言うものの、イザベラは満足していた。
王宮では知ることのなかった外の空気、その解放感が楽しかった。
自分に面と向かって文句を言わないくせに、腹に一物持った臣下共に比べ、
言いたいことをズケズケ言って来る我儘な部下の方がよっぽどマシだ。
何より、我儘は自分の専売特許。
その裏にどんな優しさがあるかなんて分かっている。
だから、イザベラは口とは裏腹に、ニヤッと笑った。

「どの口で言いますか」
「ん?ん~……こんな口ぃ~♪」
「にゃっ!?引っひゃるな、ほの吸血鬼!?」

たっぷりの食料品を積んだ馬車が、楽しげに揺れていた。

 ・
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室内のヒンヤリとした空気が体を癒す。
砂で焼けた肌にはことさら優しい。
乾燥した空気と強烈な日差しを撥ね退け、水分を蓄える日干しレンガの壁。
手織りで不揃いではあるが、丁寧な仕事がされている絨毯の模様が異国を感じさせる。
バラとジャスミン、他にもいくつかの香草を混ぜ入れた蝋燭の香りが鼻腔をくすぐる。
長逗留をするためにと選んだ安宿にしては、なかなか心憎い環境であった。

「あ゛~、暑かったぁあ~……」
「父上ー!ただ今戻りましたー!」
「おぉ、戻ったか。待ってたぞ」

シュロでできた団扇を片手に、ジョゼフが娘共を迎え入れる。
自らドアを支えてやり、大量の荷物を見てニヤッと笑った。
日に焼けた髭面の顔は、王宮にいたころとは比べるまでもなく精悍さを感じさせ、
王というよりは盗賊団の棟梁といった風情であった。

「良いニュースです。キャラバンの首領数名がこちらの話に乗り気で……」
「買い物も上手くいったか。上々上々。だがこっちはバッド・ニュースだ」

半笑、半渋面。
そんな父の表情を、イザベラが下から覗きこむ。

「父上?」
「お前の従姉妹がな……」
「シャルロットに何か!?」
「シャルロットって……あー、あのメガネっ娘?」
「やり手のあのお嬢ちゃんか」

イザベラの従姉妹、すなわち、ジョゼフの兄の娘に当たる少女。
かつてタバサと称された少女。
エルザにとっても地下水にとっても、かつて戦ったことのある相手。
強さの中に、寂しさを押し隠した戦士だった。

「そうか、知らんのだよな……」
「父上、シャルロットが、シャルロットがどうしたのです!?」

彼女に、何が。イザベラが冷静さを欠いた口調で問い詰める。
イザベラにとっては数少ない友人の1人。
かつての確執はあるものの、今や姉と慕う者の身に何があったというのか。

「シャルロットではあるが……シャルロットではないな、うむ」
「は!?」

その問い詰めに対し、ジョゼフは曇った表情で答える。
遊戯が好きで、サプライズが好きな悪童が見せるものとは思えない、
苦虫を噛み潰したような顔だった。

「――箱の中のジョーカーは2枚、だがゲームに参加できるのはいつも1枚っきり、か……」

部屋の片隅に置かれた書斎机、その上にはチェス駒を模した通信装置と1枚のメモ。
そのメモの内容こそがまさにジョーカー。

いや、ジョーカーは『最初っから』存在はしていたか、とジョゼフは自虐的な笑みを浮かべた。

あらゆる遊戯において、常に特殊な存在。
あらゆる遊戯において、常に場をかき乱す存在。
それが遊戯であれば、ジョゼフは歓迎する。
だが現実、ことに自分の血が繋がる場所では……
まったく、兄上もとんだカードを残してくれたものだ。

「父上?」
「イザベラ、お前にはもう1人、従姉妹がいるのだよ」
「……は!?」

バノーラ・ホワイトの包みが床に転げ落ち、瑞々しく仄かに甘い香りを周りに振りまいた。
さて、ゲームはどう動く?
ジョゼフは勝負師としての厳しい目を、遠いハルケギニアへと向けた。


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