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萌え萌えゼロ大戦(略)-44



「それはどういういことアルか?」
 出撃の直前。燕は自分の耳を疑った。
「お前たちは、もう日本やドイツには帰らないアルか?どうしてアル?」
 信じられないという顔の燕。そんな彼女に、あかぎや、武内少将たちは
優しく笑ってみせる。
「……私は、ミッドウェイで沈んだはずだからね」
「ワシと加藤はニューギニアの陸軍に補給物資と少年兵を送り届けた後、
佐々木らを驚かせてやろうとラバウルに向かう途中で、じゃったな」
「そのとおり。まさか佐々木少尉がこっちにいるとは思いもしませんでしたが」
「私はベルリンに侵攻したソ連機甲部隊を攻撃し、敵戦爆連合に突撃したな」
「……オレも沖縄に向かう特攻隊を護衛した後、任務を終えた母機を
逃がすために米艦上機の群れに突っ込んだ」
「私は、『震電』の完成が間に合わなかったために散っていった搭乗員たちに
詫びたはずでした。
気がつけば回していない発動機が全開で砂漠を飛んでましたけどね」
 冗談でも言うように皆笑っていた。まだ信じられない燕の頬を、彼女と
視線を合わせるようにかがみ込んだあかぎが優しく包み込む。
「私たちは、自分の意思で決めたの。でも、燕ちゃん、あなたは帰らなきゃダメよ」
 燕は裴綻英と霍可可に目を向ける。二人も、笑っていた――


 その日。空は澄み渡るように晴れ上がっていた。

 クロステルマン伯爵領とガリア王国の間に横たわる国境線。
それはラグドリアン湖に続く一本の川だ。川を挟んで広大な草原と麦畑が
広がり、その向こうに緩やかな稜線が見える。平時であれば麦畑で作業する
農民たちと、時折鳶の声がするくらいの静かな場所は、今、かつてない
緊張に包まれていた。
「……陛下。トリステイン全艦隊の配置が完了致しました」
 トリステイン王国空軍艦隊司令長官であるハイデンベルグ侯爵が告げる。
ここはトリステイン王国艦隊の旗艦『ラ・レアル』の指揮所。
トリステイン艦隊は武雄たちからの情報を検討し、主砲の射程が長い
戦列艦以外のすべての艦を下がらせた。近づく前に撃沈されるのでは
意味がないからである。だが、今回の作戦に参加する『ラ・レアル』以下
十隻の戦列艦も、有効射程四千までどれだけの艦が生き残れるかは
神のみぞ知る、だった。
「アルビオン艦隊はどうか」
「はっ。旗艦である巡洋艦『イーストウッド』を先頭に、単縦陣で我が
艦隊に追従しております。
 ですが、陛下。たった三隻の巡洋艦では……ジェームズ一世陛下も、
何故戦列艦を我が国に送って下さらなかったのでしょうか?」
 ハイデンベルグ侯爵は指揮所のある船尾楼甲板からずっと後方に位置する
異質な巡洋艦に目を向ける。王は、ただ「知らぬ」と答えることしか
できなかった。

 それは、傍目にも奇妙なフネだった。
 巡洋艦らしくスマートな船体に長期航行にも耐える大型のマスト、
そこまではいい。だが艦首部が大きく取られており、そこには帆布を
かけられた巨大な『何か』があるだけ。両舷に並ぶ備砲も艦後半部に
集中しており、しかもその数は平均的な巡洋艦と比較して半分以下。
そんな同じ艦形が三隻も。それぞれ竜騎士一個小隊が搭載可能という
ことを差し引いても、マストが後方に下げられ上甲板の半分がフラットに
された上にそこに件の『何か』があるだけというのは、用兵の常識から
かけ離れたものだった。

「竜騎士を効率的に運用するため、にしても奇妙なフネですな」
「アルビオンはここ二十年以上冶金技術の向上など、貴族と平民が官民
一体となった研究を続けていると聞いておるからな。
あれもそのたぐいであろう」
「我が国を実験場に使うとは、あまり良い気分ではありませぬな」
「逆の立場であれば、余は同じことをしただろうがな」
 王の言葉に、ハイデンベルグ侯爵は二の句が継げなかった。

 艦隊が展開する上空に、マンティコア隊隊長であるカリンはいた。
傍らには副長のド・ゼッサールがいる。鍛え上げた体躯に威厳を持たせるための
髭面と近寄りがたい雰囲気だが、彼も家督を継いだばかりのまだようやく
大人の仲間入りをしたくらいの年頃だ。『烈風』カリンを頂点とする
マンティコア隊を支える頭脳として、ド・ゼッサールはカリンとともに
空にあった。
「……来ませんな」
 ド・ゼッサールのつぶやきを、カリンは聞き逃さなかった。
「物見の兵からの報告では、もうまもなく稜線から見える頃だな。
敵を確認次第お前たちは毒消しを飲め」
「隊長は?」
「あんなまずいもの飲んで戦えるか。まぁ、敵の射程を教えてくれたことには
感謝するがな」
 魔法衛士隊統合参謀長のサンドリオンがこの場にいれば叱責された
であろうその言葉を、ド・ゼッサールは飲み込んだ。王の後詰めとして
王宮にいる人間では、最前線まで声は届かない。そしてそれは伝説の
隊長であれば『毒』を喰らうこともないという、過信が呼び起こした
ものでもあった。だが、一抹の不安がド・ゼッサールの顔に陰りを差す。
「……そんな顔をするな。ぼくの分は、もらえなかった誰かにやってくれ。
お守りにはなるだろう」
 そう言って、カリンは油紙の包みをド・ゼッサールに渡した。
それは彼から割り当ての都合でもらえなかった新婚の魔法衛士に手渡される。
数の少ない秘薬を上位の将校から割り振ったため、魔法衛士隊でも下級の者には
配給されなかったのだ。もちろん、竜騎士隊や大多数の兵は言うに及ばず、
である。
 そこに、前方から旗艦『ラ・レアル』に竜騎士が滑り込む。
その意味は明らかだった。
「来たか。全騎攻撃準備!パーティを始めるぞ!艦隊とともに前進し、
主砲斉射後に突撃する!」
 カリンの号は、マンティコア隊だけでなくド・ワルド子爵率いる
グリフォン隊にも響き渡った。同時に、彼らの上空に待機していた
第二、第三竜騎士大隊にも。第二竜騎士大隊を指揮するギンヌメール伯爵は、
麾下の竜騎士たちに命令する。
「我々は先行して上空待機。艦砲射撃に続いて上空から一気にかぶりつく!
距離一万からは敵の領域だ。炎や光が見えたらすぐ回避行動に移れ!」
「「了解!」」
 大隊長の命令に士気旺盛な竜騎士たちの声が轟く。この戦いはただでは
済まない――皆そう考えていた。


「……敵影確認!まっすぐこちらに向かってきます!」
 斥候の竜騎士からの報告からすぐのこと。太陽が高く昇る中、稜線の
向こうから巨大な影が現れた。馬よりも速い移動速度で、どんどんこちらに
近づいてくる。国境線である川に達するのも時間の問題だった。
「敵が国境を越えるまで手を出すな!両舷最大戦速!風石にありったけの
魔力を込めろ!後続の艦にも発光信号で伝達。急げ!」
「なんと……まがまがしい姿よ」
 指示を飛ばすハイデンベルグ侯爵の後ろで、フィリップ三世は指揮所に
据え付けられた簡易の玉座から立ち上がる。『遠見』の魔法を映し出した
その両目は、迫り来る『キョウリュウ』を捉えて離さなかった。

「俺も出る!ルーリー、ペラ回してくれ!」
「分かった。……重いんだよ……これは」
 敵影見ゆの報に接し、武雄も発進準備をする。
 本来なら始動機の転把(この場合はフライホイールに接続されている
クランクハンドルのこと)を回して発動機を始動するが、ここではその機材が
ない。そもそもタルブの村での機材そのものが、あかぎの頭の中にあった
設計図から部品をそれぞれ別々の鍛冶屋に頼んで作成したものを組み立てて
使っているのだ。なので、今はルーリーが『念力』の魔法で強制的に
プロペラを動かして始動させることになる。
 時間をかけてどんどん回してプロペラが十分空転したところで、武雄が
「点火!」の声と同時に計器板の点火スイッチを入れる。栄一二型発動機が
うなりを上げてプロペラが力強く回り始め、ルーリーが髪を抑えつつ
機体から離れた。
「行ってくる!」
「アタシも最後の締めに参加する!気をつけてな!」
 複座零戦がするりと動き始め、なだらかな草原を滑走し始める。尾輪を
浮き上がらせ、そのまま空に舞い上がる複座零戦。片脚ずつ主脚を格納するのを
見届けた後、ルーリーも待機していた竜騎士とともに前線の『ラ・レアル』に
合流するため飛び立った。


「敵、国境を越えます!距離八千!」
「アルビオン艦隊、戦列を離れます!」
「何だと?単縦陣のまま、敵前を横切るつもりか?だがこの距離では!」
 その報告にフィリップ三世が驚きの声を上げる。その顔がさらに驚愕に変わる。
「な、何だあれは!?」
 巡洋艦『イーストウッド』を旗艦とする三隻のアルビオン艦隊の艦首に
あった帆布が取り払われ、隠されていたものがあらわになる。
それは――見たこともない長砲身の大砲だった。

「これより我が艦隊は丁字戦法にて敵『キョウリュウ』を撃滅する。
主砲覆いを外せ!目標、『キョウリュウ』!主砲発射後に竜騎士隊全騎発艦!」
 アルビオン派遣艦隊司令官を兼任する『イーストウッド』艦長
サー・アレクシオスが命令する。
命令によって外される、主砲を覆い隠していた帆布。そこに現れたのは、
近代的なバーベットと、それに守られた三五口径二四サント単装砲。
二十年かけて工作機械の技術水準を引き上げ、さらに五年の歳月を費やして
製造された、オリジナルに劣るところこそあれ、多くの犠牲を払いながらも
ハルケギニアの人間の手だけでようやく生み出した『畝傍』の主砲の
コピーだった。

 アルビオン王国にとって、エンタープライズ家より献上された
『場違いな工芸品』――巡洋艦『畝傍』は、まさに宝の山だった。
機関、砲熕兵器、装甲、どれをとっても今のハルケギニアの技術水準を
大きく上回り、これらをものにできればアルビオンの技術水準は大いに
向上し、ハルケギニアにおける軍事的地位も頂点に達することは確実だった。
 だが、それらの複製には多くの困難が待ち受けていた。機関や砲熕兵器は
特殊鋼を鋳造したものを削り出した部品を多用しており、その製造は
ゲルマニアの最新鋭の足踏み式旋盤などの工作機械でも到底不可能だった。
特に水力などを利用する大型旋盤の発展は不可欠で、このためにアルビオンでは
貴族、平民を問わず官民一体で地道な発展作業を続けることになった。
しかも、ロマリアに異端審問されないように内密に。
 それは、旋盤で加工したより硬度の高い金属で新たな旋盤を作成し、
さらに硬度の高い金属を加工して……を繰り返す、地道な作業だ。
これの達成には二十年の歳月がかかり、平行して蒸気機関、砲熕兵器の
研究も進められた。特に主砲の材質については、持ち帰った主砲を試射した際に
新設した架台の強度不足と不適切な装薬の取り扱いで腔発事故を起こし、
破損した砲身を研究したことが大きかった。彼らの犠牲と献身により、
アルビオンは秘密裏にその技術水準において他国を圧倒することになる。
また最大の問題であった特殊鋼は、ハルケギニアでは未だ利用されていない
未知の金属であるニッケルに代わり、ゲルマニアで産出され、主に陶芸や
ワニスの防腐剤に使われるボロンを添加することで比較的近い強度のものが
精錬できることが分かり、砲身の製造にはこれが用いられることになった。
 それはメイジの魔法だけでは達成できない、平民の知識と経験、卓越した
職人技を併用した国家規模の努力の結晶だった。

 『イーストウッド』級巡洋艦は、この主砲を運用する専用艦として
建造された。主砲が二四サントに決定されたのも、残された『畝傍』の
砲弾と装薬を使用できるようにするためだ。
 本来は『畝傍』のようにフネを装甲で覆い、複数の主砲を搭載するべき
なのだが、風石を使用するハルケギニアの帆走式軍艦では、積載重量が
過大となり、まともに飛べない有様となった。開発中の蒸気機関がものに
なればその問題も解決されるのであろうが、それにはまだ時間を必要とした。
 そのため、主砲を一門だけ搭載した艦を複数同時運用し、快速を生かして
アウトレンジで敵を撃滅する方針がとられた。つまり、複数の軍艦を
一隻の大型艦として運用する方法をアルビオン空軍は選択したのである。
竜騎士の搭載は副次的なものだ。要するに、重量過大で積めなくなった
ものを降ろして空いた部屋にとりあえず積み込んだ、ということだったが、
これは本級の意図を隠す絶好のカムフラージュとなったのだった――

「主砲旋回急げ!トリステイン艦隊に発光信号!『我コノ一撃ヲモッテ勝利ヘノ号砲トナス』だ!」
 サー・アレクシオスが命令する。『イーストウッド』級の主砲の旋回は
人力だ。時間はかかるが、現在ではそれに代わるものがない。実戦での
旋回は初めてのため、これが以後の研究課題となるだろうと彼は考えていた。
 『イーストウッド』と僚艦『レーガン』、『ブッシュ』は、見事な
艦隊運動で『キョウリュウ』をその射程に捉える。
「撃てぃ!」
 サー・アレクシオスの号令で、『イーストウッド』『レーガン』
『ブッシュ』が主砲を発射する。わずかな遅れはそれぞれの弾道を安定
させることになるが、彼らはそれを訓練で熟知していた。主砲が爆発
したかのような猛烈な火炎とトリステインの人間が今まで聞いたこともない
衝撃波を伴った轟雷のような音が轟き、音速を超えた砲弾が八千メイルの
距離を飛び越えて着弾した。大きく舞い上がる土埃。その光景にトリステイン艦隊は
言葉を失い……そして歓喜した。
「な、なんという……」
「ジェームズめ……こんなものを開発しておったのか」
 トリステインの首脳部は、アルビオンが『たった三隻の巡洋艦』を
派遣してきたのではないことを知った。彼らは、この未曾有の事態に
『最新鋭の巨砲三門』を送ってきたのだと。
それと同時に、彼らはアルビオンが敵でないことを始祖に感謝した。
「全軍突撃!我らも早く攻撃に転じよ!」
 フィリップ三世が檄を飛ばす。その声に呼応するように、旗艦
『ラ・レアル』以下、トリステイン艦隊が最大戦速で距離を詰める。
やがて……土埃が晴れた。
「バカな。直撃があったはずだ……くそっ。手を休めるな!次弾装填!
次は虎の子の徹甲弾をくれてやれ!」
 『遠見』の魔法を使って状況を確認したサー・アレクシオスは手を休めない。
発光信号で命令が『レーガン』以下に伝達される。だが、そのとき、
彼の背筋に悪寒が走った。
「いかん!下げ舵六〇!総員、何かにつかまれ!」
 サー・アレクシオスは『イーストウッド』を急速降下させる。
追随する『レーガン』。だが、最後尾の『ブッシュ』は遅れた。
 それまで『イーストウッド』がいた場所を、赤い輝きが貫く。それは
なぎ払うように横に滑った。そして……『イーストウッド』を轟音と
衝撃波が襲う。
「な……アーガス……」
 サー・アレクシオスは、兵学校の同期であり、『ブッシュ』艦長だった
親友の名を呼ぶ。『ブッシュ』がいた場所は――燃え盛る炎が落ちていく
だけになっていた。『キョウリュウ』の攻撃であることは、明白だった。
「『レーガン』、前に出ます!」
「何だと!?デビアス、俺の盾になるつもりか?!」
 サー・アレクシオスが歯がみする。『レーガン』も、さっきの攻撃を
完全に回避できたわけではなかった。マストが折れ、速力が落ちていることは
傍目にも分かった。やがて、『我先行ス。狙イ撃テ』の発光信号が
『イーストウッド』に届けられた。


「マービィ!生きてるか!」
「カニンガムか……エメラルド小隊は俺たち残して全滅だ。発艦中に
母艦がやられた」
 『イーストウッド』から発艦したガーネット小隊の隊長、カニンガム大尉が、
『ブッシュ』に搭載されていたエメラルド小隊の隊長、マービィ大尉たちと
合流する。
「ジャーバス、無事だったか。ミネルバ中尉も」
「グレッグか。何とかな」
「ああ、あたしらが発艦した直後、フネを赤い光がなぎ払ったんだよ。
それで終わりさ」
 グレッグの言葉に、ジャーバス少尉とミネルバ中尉が憔悴した声で
応えた。
「けど、このままじゃ終われないねぇ……」
 ミネルバ中尉が憎々しげに『キョウリュウ』をにらみつける。
アルビオン竜騎士隊でも珍しい女竜騎士は、今怒りに震えていた。
「お前の言うとおり、このままじゃ終われないさ。
カニンガム。俺たちはこのまま突撃する。ヤツに杖を突き立てないと
気が済まん」
「分かった。援護する。だが、足は俺たちの方が速いぞ。遅れるなよ」
 カニンガムが言う。カニンガム大尉率いるガーネット小隊は風竜を、
マービィ大尉率いるエメラルド小隊と、『レーガン』に搭載されている
トパーズ小隊は火竜を騎竜としている。その速力差をカニンガム大尉は
心配するが、マービィ大尉はふっと笑った。
「誰に向かって言っている。ミネルバ、ジャーバス、借りは倍にして返すぞ!」
「「アイ・サー!」」

「このままでは……ぼくの『カッター・トルネード』で先制する!
攻撃後、全騎突撃!」
 カリンが呪文を唱え始める。それを援護する陣形を組むマンティコア隊。
そのさらに上空から、太陽の中から飛び出すように黒い影――複座零戦が
逆落としに飛び出した。
 武雄は九八式射爆照準器からはみ出すくらいまでに、これまでの攻撃で
いびつに擬装用皮膚がはげ落ちた『キョウリュウ』に近づき、20ミリ機関砲を
発射する。逆落としの対地攻撃のため、一航過で緩降下に移行して再上昇するが、
そのとき、通信機に怒りと困惑の声が響いた。
『海軍!我々は味方だ!』
「……………………。あいにくだが、俺たちはあんたらを沈めなきゃならねえ」
 武雄が憎々しげに応える。今の一撃は頭部天井の乗降ハッチを狙った。
うまくいけば、もう彼らの姿を表に出すことはない。
『ふざけるな!海軍!何のつもりだ!』
「あんたらがあかぎの呼びかけに応えてりゃ、こんなことにはならずに
済んだかもしれないんだよ!」
『な……貴様ぁ何の』
 武雄は通信を強制的に打ち切る。その代償は、複座零戦の真後ろを
通りすぎた光。さっきのもそうだが、どうやらあかぎの悪い予感が
当たったらしい。三十年ぶりの実戦に震える機体をなだめつつ、武雄は
あかぎに回線を繋いだ。
「あかぎ、聞こえるか?ヤツの武器は原子力光線砲だ。真っ赤な光が
口から照射されている」
『原子力光線砲だったら、目には見えないわ。それはたぶん照準用の
探照灯ね。光とわずかにずれた場所が攻撃されているから、気をつけてね。
 私たちももうすぐ到着するから。無茶はしないで』
「了解!……さて、役者が揃うまでお膳立てするか」
 武雄は不敵に笑う。空は徐々に暗くなり始めている。
日食が始まったことを示していた。

「……な……あれは、いったい何ですか?空に軍楽隊でも連れてきて
いるんですか?それに、あの攻撃は」
「おちつけ、ド・ゼッサール。あれはタルブの『竜の羽衣』だ。
 あんなに機敏に動けたんだな……。しかも、今の攻撃は……」
 見たこともない光景に慌てるド・ゼッサールを、カリンが制する。
だが、カリンも『竜の羽衣』こと複座零戦の、今まで見せたことのない
機動に言いようのない気持ちがわいてきていた。
「ぼくたちも負けるわけにはいかない!ぼくが先制する!まもなく艦隊の
砲撃があるからそっちにも気をつけろ!」
「隊長!敵がこっちに!」
「躱せ!」
 カリンの命令で急遽全騎散開する。その直前まで彼らがいた場所を、
赤い光が貫いた。

 赤い光が突撃するアルビオン竜騎士隊をなぎ払う。後ろを振り返る
いとまもなく、グレッグは戦友の骨を拾うことすらできない戦場に
歯がみした。
「コンロッド、生きてるか」
「ああ。なんとかな。今のでグレゴリーとギブスンがやられた。
このままじゃ、エメラルド小隊の援護どころか俺たちが全滅するぞ」
 コンロッドがそう言ったとたん、頭上を軍勢が通り過ぎたような轟音が
通過する。『イーストウッド』と『レーガン』が主砲を発射したのだ。
残念ながら命中せず、『キョウリュウ』の後ろに土埃の柱を高く舞い上げた
だけに終わった。反撃の赤い光を『イーストウッド』は回避するが、
『レーガン』が回避しきれずに徐々に船足を落としていた。
「くそっ。まとめて焼かれたトパーズ小隊よりマシって言うのかよ?
『竜の羽衣』もすごいのは分かったが、あんまり攻撃が効いてるようには
見えないぞ」
「無駄口を叩くな!まもなくトリステイン艦隊も砲撃を開始する。
死んでいった仲間の無念は、俺たちで晴らすんだ!」
 カニンガム大尉の叱咤が落ちる士気を食い止める。今の彼らにできることは、
一刻も早く『キョウリュウ』を沈めることだけだった。

「一カ所に固まるな。まとめてなぎ払われるぞ!
 小隊単位で飽和攻撃を仕掛ける。第一小隊、私に続け!」
 ギンヌメール伯爵が、直属の小隊を引き連れて攻撃を開始する。
その眼前で『キョウリュウ』を竜巻が包み込んだ。マンティコア隊隊長の
『烈風』カリンが、風のスクウェアスペル『カッター・トルネード』を
放ったのだ。真空の層を挟み込んだ荒れ狂う竜巻が『キョウリュウ』を
翻弄する。だが、その重量からか、表面の擬装用皮膚をはがしただけで
倒すには至らなかった。
「烈風どのの魔法でもダメか……。だが、なんとまがまがしい姿よ。
鉄の竜とはよく言ったものだ」
 『キョウリュウ』の擬装用皮膚は今の魔法でずいぶんとはがされ、
その下にあった均質圧延装甲の無塗装の地肌が大きく露出している。
その頭部には、武雄の攻撃でうがたれ、破壊された跡が目立つ。武雄が
頭部に集中して攻撃していることを、ギンヌメール伯爵は奇妙に思った。
 伯爵は、武雄が『キョウリュウ』の頭部に装備された無線アンテナや
聴音機、潜望鏡などの『目』や『耳』となるもの、そして搭乗ハッチのような
『中に人が乗っていることを知らせる』ものを破壊していることは知らなかった。
もし、伯爵が無線を傍受することができたなら、『キョウリュウ』に
搭乗している帝国陸軍戦車兵たちの怨嗟の声を聞くことができただろう。
だが、それは叶わぬことだった。

「陛下!全艦、敵を射程圏内に捉えました!」
「……我が方の損害は?」
「現在二隻。ですが、総員士気旺盛。いささかの問題もありませぬぞ!」
 ハイデンベルグ侯爵が胸を張って王の問いに答える。彼らが乗る
『ラ・レアル』とて、無傷ではない。フィリップ三世は簡易の玉座から
立ち上がると、『キョウリュウ』をにらみつけ、杖を向ける。
「全艦攻撃態勢!敵を撃滅せよ!」
 王の号令の元、残存全艦の左舷放列が火を噴いた。

「ふぅ。今の竜巻……あの隊長さんのか」
 武雄は乱れた気流から脱し、一息つく。上昇中に見た、マンティコア隊が
隊長を守る布陣を取っていたことから、今の竜巻はカリンが放ったものだと
推測する。ようやく射程に捉えたトリステイン艦隊も砲撃を開始するが、
効果はないように見えた。逆に『キョウリュウ』の反撃で、爆散する
戦列艦すらある。一方で突撃した魔法衛士隊や竜騎士大隊も友軍の砲撃を
見て避けているわけで、通信技術が確立していない戦場の混乱は武雄には
手に取るように分かった。
「骨董品の大砲じゃ通じるわけないが、だからと言ってお前ら撃つな、
なんて言えるわけないしなぁ……」
 武雄は再び高度を取る。あかぎから、被曝しないためには放射能が
存在する場所に長居しないこと、汚染されたものを口にしないこと、
そしてなにより汚染された空気を吸い込まないことだと聞いている。
甲状腺保護にヨウ素錠剤は服用したものの、自分たちはあまり長生き
できないな、と考え、ふっと笑った。
「……何考えているんだか。俺もヤキが回ったか?」
 そのとき、武雄の視界の端にきらりと光るものを見つける。
それが何であるか、武雄にはすぐに分かった。


 あかぎは、落下傘降下高度で飛行する連山から落下傘降下して本陣近くの
湖に降り立った。あかぎを降ろした連山はそのまま『キョウリュウ』
目指して飛び去っていく。着水したあかぎは落下傘を投棄し、湖の周辺に
誰もいないことを確認すると、武雄たちいわゆる『竜の羽衣』の乗り手
――タルブ義勇軍の航空管制を開始する。
 あかぎは暗くなった空を見た。日食は進み、もうそれほど時間は残されて
いないことは明白だった。
「燕ちゃんたち、遅れないでね」
 あかぎには祈ることしかできなかった。



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