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13日の虚無の曜日 第三話

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ティファニアが意識を取り戻したとき、
自身が呼び出したはずの大男の姿は消えていた。
彼女は辺りを見回したが、後に残されていたのはごく普通の枕と
ボタンで出来た目が特徴的な、少し大きめのクマのぬいぐるみだけだった。
ぬいぐるみを持ち上げながら、ティファニアは逡巡する。

彼女は夢の中での出来事を真実だと確信していた。
夢の最後に現れた男は、優しい母を持ち、
子どもたちにその容姿から虐められていた少年ジェイソンであり、
自身が呼び出した使い魔であるに間違いないと。
そこに根拠はなく、ただの直感だが、件の夢には今まで感じたことがない
異様な雰囲気があり、それが真実性を与えていた。
逡巡する間、抱え込んでいた人形を見て、ふと思う。

もしかしたら、この人形は彼の物なのかもしれない。

成人の男性がクマのぬいぐるみを持っているのは、些か変わっているが
ジェイソンは母親の支えと、このぬいぐるみで虐めを耐えてきたのだと思えば、
彼がぬいぐるみを大切にする姿は想像するに難くない。
今、ジェイソンはとても心細いのかもしれないとティファニアは考えた。
母親から引き離され、頼りの綱はこの一品だけ。そして見知らぬ人物である自分により、
突然こんな場所に呼び出されたことに、酷く動揺しているのだ。

あの優しげだった母親が、あれほど狂的な姿で「息子が死んだ」といっていたのは、
自分がジェイソンを突然連れて行ってしまったことに
錯乱してしまったのだと、彼女は好意的に解釈した。
彼女は知る由もないが、残念ながらその解釈は外れが多かった。

当のジェイソンは卑劣な罠にかかり、寝込みを襲われたと思い込んでおり、
見知らぬ場所、母親の面影と重なるティファニアの存在に驚きはしたが、
と同時に、ティファニアに対して並々ならぬ殺意を抱いていること。
さらにジェイソンの母パメラは、何十年も昔に彼の目の前で殺されており、
心配していても天国(または地獄)から見守っているのであり、
そのため彼の身を心配して探しているだろうという考えは杞憂だった。

しかし間違っていない部分もあり、ジェイソンはそのクマの人形を大切にしていること、
子どもの頃、湖で溺れて死んだと思われ、母親も息子は死んだと思っていたが、
実際は人知れず生きており、その後の殺人者としての人生において本当に死が訪れ、
生命の基本法則から逸脱して、甦るようになったのだ。

そんなこととは露知らず、ティファニアはジェイソンに事情を説明し
大切なものであろうぬいぐるみを返すべく、ジェイソンを探しに行った。
月光が薄れ、夜明けが近く、太陽が今か今かと登ろうとしており、
空は黒一色から青空に徐々に変化しつつあった。

****************************************

ティファニアが森でジェイソンを探している頃、
そこから数十メイル先の木の下に、ジェイソンは頭を垂れて腰かけていた。
未だに自分が殺そうと思っても殺せない、母に似ていないのに、
似ているように感じる少女の存在、母以外からは罵倒でしか呼ばれたことのない
自分の名前を口にし、尚かつ憐れみの言葉を呟かれたことに戸惑っており、
やり場のない殺意はなりを潜めていた。しかし少女が自分に何をしたのか、
それとも何かをしようとしていたのか、それが気がかりで、
彼は自分が次にどう行動したらいいか悩んでいた。

ここまでの人生、ジェイソンはただひたすら人を殺すことに尽力してきたため、
手に持つ凶器で容易く解決する方法以外はわからず、
現在の状況を打破する方法は全く考えられなかった。
彼の人生は往々にして冒険といって差し支えなく、
鉈での頭部への滅多打ちから死を体験し、
その死も落雷からフランケンシュタインの怪物のごとく
息を吹き返したことで復活を体験し、
以後も新約聖書のキリストのごとく短期間で復活を遂げており、
その回数は聖書で書かれているようなありがたみを感じさせないほどである。

さらに彼は人間として希少な体験を幾つもしており、
落雷での復活は勿論、死んだ後に模倣犯(彼自身はこの事を知らない)が現れ、
生き返ってからは超能力を使う少女と激闘を繰り広げ、
初めてのニューヨークへ殺戮の旅をし、
警官隊の一斉射撃により原型を留めない肉塊にされても、
他者の肉体へ憑依して生き残り、異母兄妹の肉体を使って本来の肉体を
取り戻したこともあり、自身の姪により地獄の亡者に地獄へ引きずり込まれたこともあった。
また悪夢を操るとある殺人鬼に蘇生させられ、その殺人鬼の復活のダシに使われ、
最後は死闘を演じ、相打ちになったことがあるなど、その遍歴は様々である。

しかし一貫して殺戮の手を休めたことはない。
これは彼の頭が悪いという意味ではなく、被害者の先回りをして待ち伏せをする、
死体を配置して被害者の足止めや退路を塞ぐ、一切物音を立てないなど
むしろ殺人の手腕は知的なものが多く、ただその知性が他に回らないだけなのだ。

そのため現在ジェイソンが抱えている問題は、彼を今までにないほど追いつめていた。
肉体的ではなく、精神的に。問題は他にもあり、自分がいる場所が全く把握できないのだ。
ニューヨークでとある映画の広告に言い知れぬ感情が沸き起こったこともあったが、
クリスタルレイクにはない木々や植物に、月が二つ、耳の先が尖った少女の存在、
いつの間にか胸に刻まれていた紋様、今の状況はニューヨークの話を超えており、
今までにないカルチャーショックをジェイソンは受けていた。

だがしかし、その眼と表情は些かも変ずることはなく、
他者が見たら、彼がそんなショックや考え事をしているとは到底思えないだろう。
逆に、獲物を待ち伏せる獰猛な捕食者の姿としか目には映らない。
そんな状態が続き、いつしか朝陽が森の木々を照らし始めた。

ともかくジェイソンは早急にこの場を去り、何としてでもクリスタルレイクへ戻り、
そして少女のことは忘れようと決意を固め、立ち上がろうとした。

「ジェイソン!」

彼にとって一番聞きたくなかった声が聞こえ、本来はゆっくりとしか動かない体が
急速に後ろを向く。後ろには彼の悩みの対象である少女がいた。少女は悲しんでいた。

****************************************

「ごめんなさい、ジェイソン!」

ティファニアはひたすら頭を下げながら、謝罪の言葉を口にした。
その長い金色の髪は乱れ、深緑の服には汚れがつき、息は絶え絶え。
だがそんなことは一切気にせず、自分が勝手にジェイソンを呼び出したこと、
突然に母親から、故郷から引き離してしまったことを謝り続けた。
そこには申し訳ないという感情だけではなく、悲しみが込められていた。

ティファニアは自分自身の境遇と、ジェイソンの境遇を顧みて
それを重ね、同情しているのではなかった。
彼女の心中は、自分の過去を悲劇と捉えていた自分がいた。
世の中には自分と同じ、それ以上の悲しい出来事に遭遇しているのに、
それを考えずに、自分だけ悲しみに暮れる無力な主人公を演じていたように感じ、
そんな自分が恥じていたのだ。夢の中でジェイソンの顔を奇異の目で見た時と同じように。

彼女はひたすら謝り続けているうちに、涙が溢れ、嗚咽が漏れた。
謝罪の言葉がくぐもり、相手に理解できなくなろうとも、言葉は紡がれた。
その言葉も聞こえなくなり、ただ涙と嗚咽が繰り返される。
悲嘆の少女は、手で涙を拭った。

「・・・・ごめんね。こんなに泣いちゃって。悲しくて、苦しくて、
な、泣きたい、のは、あなたの方なのに。ごめんね」

ティファニアはひとしきり泣くと、それをまた謝罪した。

「・・・・・でね、これを返そうと思って、あなたを探したの」

それを見たジェイソンは目に見えるほど、驚愕していた。
ティファニアばかりに注意がいき、他は何も見えていなかったため、
目の前に差し出された、ぬいぐるみが最初は何なのか、理解できなかったのだ。

「あなたがこれを大切にしていると思って、あなたのでしょう?」

先ほどから一切口を開かず(寡黙を通り越した沈黙が彼のアイデンティティの一つである)、
肯定も否定もしなかったジェイソンだが、このとき初めてティファニアに対して
意思表示として、ゆっくりと首を縦に振った。
ティファニアはその行動を見て、微笑を浮かべながら
クマのぬいぐるみをジェイソンに手渡した。

ジェイソンは左手で、クマのぬいぐるみを優しく掴みながら
脳裏で一つの決意を抱いた。右手には鉈が未だに握られており、
彼女から遁走する前と同じようにそれを振り上げ、振り下ろすようなことはせず、
鉈をゆっくりとベルトに差し込んで、左腰に下げた。
もしクリスタルレイクの殺人鬼の噂を知る人間がいれば、
この状況を見たら、何がしかの疑いの目を向けるだろう。
目の前に現れる人、全てを物言わぬ骸に変えてきた殺人鬼が、
獲物がいる前で凶器を納め、ぬいぐるみを抱え上げるなど、ありえないはずなのだ。

しかし現に、ジェイソン・ボーヒーズはそうしており、
さらにその胸中は常時とは全く違う、とても穏やかな気分に包まれていた。

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結果的にティファニアが使い魔になってほしいことを告げる前に、
ジェイソンはしばらくの間、この少女と共にいようと考えていた。
それは母に似ていることが気になったことでもあり、
何故そう思うのか、見極めようとしたのかもしれない。
しかし同時に、母と似た安らぎを与えてくれる、この優しい少女がいれば、
母の死で得た孤独感とは、別の何かを与えてくれるとも考えたのかもしれない。
彼は使い魔になる事を肯定し、ティファニアはその好意的で多大な気遣いに感謝を述べ、
ジェイソンを自宅へと案内し始めた。

ここでブレアーズタウンの住民たちが想像したことのない事態が展開されようとしていた。
伝説の、恐怖を持って語られる、不死身の殺人鬼が、ただ一人のか弱い少女に屈し、
ましてや片手にぬいぐるみ、もう片方で少女の手を取って、
陽光輝く森を闊歩している姿など、誰が想像できただろう。
そして、ここにいる一人の殺人鬼は、今までにないほどの使命感に燃えていた。
胸に固めた決意には、どんな手を使ってでも、彼女に害為す存在、一切を殺し、
何者からも守り通そうと、何年も前に朽ちた良心に誓った。

果たして二人に注ぐ太陽の光は、彼らを祝福しているのか、
それとも不浄を浄化せしめようとしているのか、それはまだわからない。

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