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瀟洒な使い魔‐11


最近のトリステイン魔法学院の朝は、三日に一度は一つの音が目覚まし時計となる。
どん、とも、どかん、とも、ちゅどん、とも、聞くものによって多様に表現される音が轟くのだ。
つまるところ爆音である。

その日の朝も、魔法学院の眠りを吹き飛ばす爆音が響き、ある部屋の窓枠が吹っ飛んだ。
トリステイン王家の庶子を祖とする公爵家の令嬢、ルイズの部屋だ。
吹き飛ぶ窓枠と窓ガラスに混じり、頭と腰に黒い翼を有した女の亜人が落ちてくる。小悪魔である。
彼女はくるりと空中で一回転すると、そのまま軽く羽ばたいて落下の勢いを殺して着地。
同時に軽く腕を上げると風が巻き起こり、落ちてくるガラス等を受け止め、一箇所にまとめて降ろす。
新体操の演技を終えた時のように小悪魔が余韻に浸っていると、横から声がかけられた。

「小悪魔、今日は何をやらかしたのよ」

微妙にすすけた小悪魔が横を見れば、そこにはスカートの短いメイド服を着た少女。
先述のルイズの使い魔にして小悪魔の同僚、十六夜咲夜の姿があった。
時はフリッグの舞踏会より一週間ほど経った後。若干の悶着こそあったが、
ハルケギニアに召喚された咲夜を追ってやってきた2人、小悪魔と美鈴は、すっかり学院に馴染んでいた。

「いやぁ、ルイズちゃんが寝ぼけてる隙にアダルティな下着に摩り替えようとしたらバレちゃいまして」

「あなたねぇ」

苦笑する咲夜にあははと笑いつつアメリカンに肩をすくめる小悪魔。
ルイズを起こして着替えさせるのが召喚されてよりの咲夜の日課であったが、
2人がやってきてからは当番制を導入、1日交代でルイズの世話を分担することとなった。
人当たりがよく世話好きな美鈴は問題なかったのだが、小悪魔は悪戯好きな性格もあり、
何かにつけてルイズに悪戯を仕掛けそのたびに爆発で吹き飛ばされている。
もっとも、朝食や授業に支障のないように計算した上での悪戯なので、
今のところルイズは遅刻や朝食抜きという事態に陥っていないのがタチが悪い。

「それじゃ、後は大体図書館にいますから、何かあれば呼びに来てくださいねー。
 今日は例の日ですからお昼はいつものところで」

「図書館の人に迷惑かけるんじゃないわよー」

はーい、と返事を返して立ち去る小悪魔。
小悪魔は元々本の虫であるパチュリーの世話をしているだけあり、
本の管理能力に関してはずば抜けたものを持つ。
そのため、この一週間で図書館担当の教師ともすっかり仲良くなり、
司書として学院で働き始めた。彼女のお陰で本の整理が楽になったとはその教師の言である。

小悪魔を見送った後、咲夜が向かったのはかつてギーシュと決闘を行ったヴェストリの広場。
今、そこでは赤い髪の女性、美鈴が動きの緩い、踊りのような動作を繰り返している。
これは太極拳というものらしく、体操の一種であるらしい。
その側のベンチには1本の剣。咲夜の自称相棒、インテリジェンスソードのデルフリンガーだ。

「……何でデルフがここにあるの?」

「あ、咲夜さん。おはようございます!」

「お、相棒じゃねーの。いや、暇だからよ、美鈴に連れてきてもらったのよ。
 一昨日まで俺コルベール先生んとこに放置されてたしよー、
 あのオッサン研究してると話しかけても返事しねえし、人恋しくてなあ。
 相棒も最近はお見限りだしよぉ」

フーケとの一戦以来色々な事があったため、
デルフを回収するまでは都合一週間ほどの時間が経過していた。
確かにちょっと悪い事したなあ、と苦笑し、咲夜はデルフを背中に背負う。

「お、やっぱここだよ。俺っちの居場所はあんな煤けた小屋じゃねえ。
 相棒の背中にこそ俺の居場所はあるってもんだ」

「褒め言葉として受け取っておくわ。……ああ、美鈴。
 例の件、オールド・オスマンが本格的にお願いしたいそうよ」

「例の件……ああ、あれですか。了解です。
 ルーンのお陰である程度大人しいとはいえ、普通の人には危ないですからねえ」

例の件というのは、使い魔へのエサやりである。
獰猛な幻獣や獣でもルーンの効果である程度大人しくなるとはいえ、中には熊のような大型の獣も多々存在する。
下手をすればじゃれ付かれただけでも大怪我しかねないのだ。その点、美鈴ならば多少の事で怪我はしない。
達人とも言える格闘術の腕前と、妖怪としての純粋な肉体強度、身体能力。
弾幕を扱う術においては一線級とはいえないが、こと肉弾戦闘に置いてであれば有数の実力を持つのだ。
獣は気配に敏感な為、本能的に彼女に服従の体勢を取ってしまった者たちもいる。
人懐っこく気さくな性格からむしろ獣達に好かれる性質でもあり、美鈴ならば問題ないだろうと咲夜は考えた。
そして今日の予定についてあれこれと考えていると、美鈴がぽんと手を叩く。

「あ、そうだ咲夜さん。宿舎がそろそろ完成しそうですけど、咲夜さんはどうします?
 一応3部屋分居住スペースは取ってありますけど」

美鈴や小悪魔が学院に滞在するに当たって、まず考えられたのは住む場所である。
現在はルイズの部屋と咲夜の部屋に仮住まいしているが、いつまでもそうしているわけには行かない。
咲夜のように空き部屋を使うという案も挙がったが、そう余裕があるわけでもないので却下された。
同じような理由で平民用の宿舎も却下されたので、前例もあるので、とりあえず新しく建てる事にした。
許可の方は咲夜達が学園を去った後は倉庫とするということで比較的簡単に下り、
資金の方も多少ではあるが学院からの援助も受けられ、キュルケやタバサ、ルイズ等のお陰で都合が付いた。

後はあらかじめ引いておいた図面どおりに作り上げる。
建築においては土系統のトライアングルであるミス・シュヴルーズが協力を申し出てくれた。
恐らくフーケの一件の際、結局がオスマンの一声でうやむやになったとはいえ、
自分が当直をサボっていた日に事件が起こり、それが咲夜によって解決されたからだろう。
咲夜達にとってもトライアングルメイジの協力はありがたく、
彼女とマチルダという土のトライアングル2人を筆頭にキュルケやタバサ等メイジ数人、
それに美鈴や小悪魔という面子で作業は急ピッチで進められた。
その甲斐あって、今日の昼には完成しそうなのだと言う。

「……そうね、まあ私はこのままで良いわ。今の部屋に愛着もあるし」

「了解ですー。それじゃまあ、空いてる部屋は予定通り研究室ってことで。
 荷物搬入しときますね」

「そうして頂戴。それじゃ、私はそろそろ仕事に移るから。
 ルイズのフォローとかお願いね。何だかんだで私も忙しいし」

その後二言三言言葉を交わし、咲夜はその場を後にする。
ここ暫く怪我の療養と言う名目で休んでいたが、そろそろ仕事をしないと勘が鈍ってしまいそうだ。
そんな事を考えながら、咲夜は己の戦場へと向かう。




瀟洒な使い魔 第十一話『トリステイン紅茶館 ~ Phalkeginia Tea』




かくして、昼。『宿舎』の前に設えられたいくつかのテーブルには、数人の人影があった。
『宿舎』の住人となる美鈴と小悪魔、そしてその上司に当たる咲夜。
咲夜の(一応の)主人であるルイズと、そのクラスメイト、キュルケとタバサ。
火系統担当の教師コルベールと、学院長秘書ロングビルことマチルダ。
この『宿舎』の建築にも携わったミス・シュヴルーズは昼休み明けの授業の準備中である。
咲夜や美鈴は先程からテーブルの周囲を歩き回り、各人の前に置かれたグラスにワインを注いでいる。
美鈴は恐らくその性格上、咲夜は職業病と言うやつだろう、多分。
一通りの準備が終わると美鈴は席に着き、咲夜は立ったままグラスを持って高く掲げる。

「宿舎完成を祝して、僭越ながら私が音頭をとらせてもらうわね。乾杯!」

『乾杯!』

この場に一同が集まっていたのは、『宿舎』が完成したことを祝うためであった。
この『宿舎』、場所は学院の本塔を囲むように経つ『火』と『土』の塔の中間である。
ここには元々研究が近所迷惑だと寮を追い遣られたコルベールの小屋があり、
そこなら寄り付く人間も少ない為問題ないだろうと建設の許可が下りたのだ。
つまるところ、美鈴と小悪魔はコルベールの『お隣さん』と言う事になる。
この場にコルベールがいるのも、その縁で建設を手伝っていたりしたからなのだ。
彼自身、お隣さんができるというこの状況を喜んでいたのかもしれない。

「まあ、あれだね。女性ばかりの中、私だけ男だと言うのも悪い気分ではないのだが、
 なんとなく居た堪れない感じがするものだね」

「おうおうコルベールさんよ、俺っちを忘れてもらっちゃ困るな。
 一応俺も人格的には男なんだぜ? 剣だけど」

苦笑しつつグラスを傾けるコルベールに、宿舎の壁に立てかけられたデルフが言う。
それでも私達2人しかいないけどね、とコルベールが返せば、違いねえや、とデルフが呵呵と笑った。
咲夜が取りに来るまでの一週間ほど、彼らは同じ場所で暮らしていた。
デルフ曰く『研究してると返事しねえ』とはいえ、それなりに親交は深まっていたのだろう。
その様子を横目で見ながら、咲夜は横にいた小悪魔に語りかける。

「そういえば小悪魔、他の連中の捜索はどうなってるの? 何か聞いてる?」

「あー、一応大まかな所在は掴んではいるそうなんですが。肝心の白蓮さんだけまだ見つかんないそうです。
 どうにも向こうが魔法か何かでジャミングかけてるらしくて、ナズーリンさんの探知にも反応しないとか」

ナズーリンというのは白蓮を筆頭とした『命蓮寺』のメンバーの1人である。
鼠の妖怪で、幻想郷でも有数の探知能力を持つ。
そんな彼女でも見つからないという事は、白蓮に何かがあったのだろうか?

「まあ、死んでないことは確かだそうなんで今その辺の洗い出し急いでるらしいですよ?
 ま、どっちにしろ私らはしばらくここでのんびり待ってりゃ良いんじゃないですかね。
 せっかくこんな立派な建物も建てちゃったことですし」

「……まあ、それもそうね。お嬢様からルイズ見てろって言われてるし」

「ですねー。ああ、そうだ。こっちに来てる内の1人、どうもトリステイン国内にいるみたいです。
 ゲ、げるまにうむ……いやゲルマニアですか。そこんとことの国境付近に反応があったとか」

「……へぇ?」

ひくん、と咲夜の眉尻が跳ね上がる。思わぬところに同胞がいたからだ。
だが同時に懸念もある。幻想郷において多数を占める人外のものは、概ね人を襲う。
そうなっていた場合、自分達と合流させることは要らぬ騒動を産むのではないか。
そう聞くと、小悪魔は気楽にあははと笑った。

「ああ、その点は大丈夫です。いなくなったのはそういう危険あんまり無い人たちですから。
 まあ、一部火力的な意味で心配な人はいますが」

「誰が召喚されてるのよ」

えーとですね、と言い置いて、小悪魔は咲夜に耳打ちする。
それを聞いて、咲夜はなんとも微妙な表情になった。

「……確かに彼女なら人格的に問題はなさそうだけど手加減とかあんまりしなさそうねえ。
 まあ、そこいらの傭兵相手なら殺すまではしないでしょうけど」

「流石直でやりあった人は言う事違いますねぇ。まあ、そんな感じで」

「あ、咲夜さん咲夜さーん! ちょっとこれ見てくださいよ!」

そう咲夜と小悪魔が内緒話をしていると、横合いから美鈴が何かを抱えて持ってきた。
それは装飾が施された板で、要するに看板か何かのようである。
装飾されている面には『紅魔館』と流麗な筆跡で漢字が描かれていた。
咲夜の眉尻がさっきとが違った意味で跳ね上がる。

「美鈴、一つ聞くけどそれは?」

「ええ、いつまでも『宿舎』なんて味気ない名前じゃ何かと思いまして、
 不肖紅美鈴、看板を書かせていただきました! ほら、見てくださいこの達筆な字!」

「却下」

どすどすどす、ばきり。

「あ゛ー!?」

咲夜は冷徹に宣言すると、取り出したナイフで看板の『魔』の字を滅多刺しにした上、
そこから看板を真っ二つに叩き折った。その仕打ちに美鈴は悲鳴を上げる。

「な、ななな何するんですか咲夜さん! 作業の合間にコツコツ作り上げた傑作をー!」

目に涙を浮かべて咲夜に詰め寄る美鈴。だが、その剣幕は一瞬後に凍りつく事となった。
咲夜が笑っていたのだ。それはもう満面の笑みで。ただし目は笑っていない。

「美鈴、『紅魔館』の名をこの小屋に冠するという事は、
 つまるところ私やお嬢様への反逆ととってもいいのかしら?
 以外だったわ、案外野心を持つタイプだったのね、貴女」

しゃらん、と言う音と共に咲夜の手の中にナイフが現れる。
慌てて美鈴は下がろうとするが、それより咲夜が投擲する方が早かった。

「うわやめてすいませんマジ反省してますごめんなさーいっ!?」

『ガンダールヴ』の補正付きで投擲されたナイフは狙い過たず美鈴の額に突き刺さる。
そのまま美鈴は真っ二つになった看板と共にごろりと地面に転がり、
いつぞやの小悪魔のように暫くびくびくと痙攣していた。

「……私人間でよかったぁ……」

「……うわぁ」

「……南無参」

その様子を見て頬を引きつらせるキュルケと、容赦の無い一撃に引くルイズ。
全員が一歩引く中、唯一タバサだけは無表情で手をあわせ、異国式で美鈴の冥福を祈っていたという。





先刻の一件からちょっと後。
『紅魔館は流石に許可しないけど名前がないと確かに不便よね』との咲夜の言により、
『宿舎』は魔の字を変えて『紅茶館』と命名された。その紅茶舘の居間にて、
仕事があるということで一抜けたロングビルを除いた一同はパチュリーの授業を受ける事となった。
本来はルイズだけのはずだったが、メイジとして興味があるのかキュルケとタバサ、
加えてその場に居合わせたコルベールが同席していた。

《さて、ルイズ。約束どおりあなたに授業をしてあげるわ。
 ギャラリーも多いみたいだけど、まあ授業に付き合ってもらうことで授業料としましょうか》

「は、はいっ!」

人形が映し出すパチュリーの言葉に、緊張した面持ちで返すルイズ。
パチュリーの目は以前に見たような『研究者』のそれであり、
彼女なりに真剣に授業を行う気があるということなのだろう。

《まずは貴女の失敗魔法について話しましょうか。
 以前にも話したけれど、あなたの失敗魔法はメイジとしては異質。
 それに、小悪魔の話を聞く限りでは、火の魔法による爆発とも違うようね。
 ……ええと、そこの男の人。そちらの魔法での爆発について解説してくれるかしら》

その言葉にコルベールは立ち上がり、軽く会釈をする。
事前に『外見は少女だが年齢ははるかに上である』と言うことは伝えてあるため、
少女だからと侮る事はしていないようだ。

「初めまして、ミス。《火》の系統を担当する教師、ジャン・コルベールと申します。
 この度は異国のメイジの講義に同席する事ができ、光栄の至り。
 それでは解説させて頂きますが、系統魔法における爆発は、最低2つの系統が使えるメイジ、
 ラインクラスになって初めて可能となる魔法であります」

火・土・水・風の4種の系統よりなる系統魔法。
その強さは、同属性、ないし異種属性を掛け合わせる事で威力や多様性が増す。
等級であるクラスもそれらを一度に幾つ掛けられるかによって4種に大別される。
ドット・ライン・トライアングル・スクウェア。同クラス間でも実力差はあるが、
ドットが1種のみ、そこから1つづつ増えてスクウェアが4つで最高のクラスとされる。

系統魔法による爆発は、火と土の系統を用いて起こす魔法である。
物質を変性させる魔法、『錬金』によって空気中の水蒸気などを気化した油に変え、火の魔法で着火する。
この2アクションを踏むことによって、系統魔法の爆発は起こされる。

「ですが、ミス・ヴァリエールはそれらの手順を踏まず爆発を起こします。
 しかもコモンスペルですら……私は常々、彼女は普通のメイジとは何か違うと考えておりました」

その答えにパチュリーは満足そうに頷き、目線を小悪魔に移す。

《そうね。ルイズの失敗魔法、いえ、爆発魔法と呼称しましょう。
 それは可燃性物質への着火による爆発的燃焼を起こすのではないわね。
 おそらく、ある一点から球状に熱と衝撃を撒き散らす。そんな性質の魔法なのでしょう。
 小悪魔、調査の結果を》

「はい。私が身をもって色々と調べた結果、威力に感情が起因していると考えます。
 興奮状態にある時や、起こっている時等は、通常時に比べて威力が高くなっています。
 狙いが定まらないのは頭に血が上っている為精神的な照準がぶれているのではないでしょうか。
 そのほかの性質もほぼパチュリー様の仰るとおりです。
 ある一点から球状にエネルギーを発生させ、破壊現象を起こす魔法。
 それがルイズちゃんの爆発魔法です」

いつものおちゃらけた様子とは打って変わり、すらすらと報告をする小悪魔。
自分をからかってそのたびに吹っ飛ばされていたのはそういう意図があったのか。
ルイズはこの亜人をちょっとだけ見直した。何故ちょっとなのかと言えば、
絶対に自分の魔法を調査するためだけにからかっていたのではないだろうからだ。

《上出来よ小悪魔。そこで次の問題として、なぜそういった魔法にしかならないのか。
 それはルイズ、恐らく貴女の体質に由来するものだわ》

「た、体質ですか?」

《そう。小悪魔に見てもらったところ、貴女はその身体に莫大な魔力を秘めているのよ。
 そうね、そこのキュルケやタバサを10とすると、軽く50か100は行くくらいの量。
 常人ならその魔力に耐えられずに身体に変調を来たすレベルの代物よ。
 貴女は、それほどの魔力を難なく受け入れるだけの器を持っているの。先天的にね。
 その器は勿論、通常のメイジとは作りも違うはずだわ。その出口の方式も》

例えるならば油のようなものである。
油は暖房器具に使うものと機械の燃料とし使うものではその性質も用途も大きく違う。
本来の用途とは違う方向に魔力を使おうとするから、成功することがない。
ルイズの爆発魔法は、恐らくはそんなものであろうとパチュリーは推測する。

《どう言う要因であなたの体がそういう体質になったのかについてはまだはっきりしないけど、
 少なくとも魔力が全く無いわけではないわ。
 ルイズ、貴女の思い描いていた方法ではないにせよ、
 炎《魔法》を燃やす《使う》為の燃料《魔力》ならある。
 ならば、それを効率よく燃やす方法《貴女だけの魔法》を構築すればいい話よ。
 そのための協力を惜しむ気は無いわ。だから、死ぬ気で頑張りなさい》

「は、はいっ!」

パチュリーの薫陶を受け、目を輝かせて元気よく返事をするルイズ。
―――こんなルイズ見たのは出会ってから初めてだったわ。
キュルケと咲夜は、後に宴会の席でそんな会話をしたと言う。





《さて、それでは本格的に授業に入りましょう。そうね、今日は最初だし、
 まず今までの小悪魔の授業のおさらいから始めましょうか》

そういうと、小悪魔が椅子に座っている面々に文字が描かれた紙と筆記用具を配る。
そこには、パチュリーの使う魔法についての大まかな事が描かれていた。

《私の使う魔法は属性魔法。
 日・月・火・水・木・金・土の7属性を扱う能力よ。
 そちらの系統魔法とは属性のカテゴライズの基準が違うから、
 水や火とはいえそちらと同じと言うわけではないけれど。
 例えば、そちらで言う風系統は《木》の属性に当たるの。
 そして―――》

パチュリーの講釈を時に頷き、時に驚きながら聞くハルケギニアのメイジたち。
そんな彼らを邪魔しないように咲夜は立ち上がると、
とりあえずお茶でも入れようと美鈴を引っ張って出来たばかりの台所へと向かった。





同時刻、トリステインより南東方向に遠くはなれた場所にある、
ハルケギニアの大半の人間が信仰しているブリミル教の本拠、ロマリア連合皇国。
始祖ブリミルの弟子の1人、聖フォルサテを祖王とする宗教都市ロマリアを盟主とする都市国家群。
その白い石壁の町並みの中に、魔法学院をそのまま大きくしたような6本の塔がある。
宗教国家ロマリアを象徴する建築物、ロマリア大聖堂。
魔法学院を建設する際のモデルともなった、現教皇・聖エイジス三十二世のおわす場所である。
その廊下を、一人の少年が歩いている。思わず立ち止まってしまうほどの美少年で、
その瞳は片方が赤、片方が青という、ハルケギニアでは不吉とされる『月目』と呼ばれる瞳だった。
だが少年はそれを気にした様子も無く自信に満ちた表情で廊下を進む。
時折すれ違うもの達が立ち止まってお辞儀をすれば、片手を上げて応える。
どうやらこの少年、それなりに高い地位にある人物のようだ。
やがて少年はある部屋の前で立ち止まると、厳かにノックをして中にいるであろう人物に声をかける。

「ジュリオです。入ってもよろしいですか?」

返答は無い。もう一度ノックして暫く待って見ても反応が無く、
ジュリオと名乗った少年はやれやれと肩をすくめるとその場を後にした。

その後ジュリオが向かったのは馬や幻獣等を繋いでおく厩舎だった。
いつもならば動物達がぎゃあぎゃあと喧しい場所のはずだが、今はとても静かだ。
世話を任されている修道士達に声をかけてから、ジュリオは裏手へと向かう。
そこには動物達の身体を動かさせるための広場のようになっているのだが、
今現在、そこには異様な光景が広がっていた。

成体になって久しいであろう巨大な風竜が中央に身体を丸めて鎮座し、
その周囲に種類も様々な動物や幻獣が寝転がっていた。
そして、風竜にもたれかかるようにして座り込み読書をしている少女が一人。
短めの紫色の髪に、衣服は薄い青の上着と白いスカート。
頭に付けたカチューシャからは紐のようなものが伸び、
胸元にある目をあしらった球体に繋がっている。
その上から申し訳程度に僧衣を羽織り、時折風竜を撫でながら動物達に向けて微笑む。
その様子を見てジュリオは苦笑し、動物達を踏まないように苦心しながら少女へと近づく。
それに気付いた周囲の動物達がジュリオに向けて威嚇をはじめ、
その唸り声で気付いたのか、少女が本から顔をあげてジュリオを見た。
憩いの時を邪魔されたからなのかその表情は少々不機嫌であったが、
それに構わずジュリオは大仰に一礼し、口を開く。

「やはりこちらにおられましたか、サトリ様。たまには部屋にいて欲しいものですけどね?
 一応侍女達もつけているのですから、何かお望みなら彼女達に申し付けて構いませんが」

「……人に囲まれるより、動物達に囲まれていた方が落ち着きます。
 貴方達とは違って、彼らはとても純粋ですから。望む事があるとするなら、そうですね。
 このひと時を邪魔しないで貰いたいのですが」

そう言うと、サトリと呼ばれた少女は再び本に視線を落とす。
すると横合いから黒猫が近寄ってきて、その膝の上に乗った。
ジュリオはこれは取り付く島もないな、と苦笑する。

「やれやれ、一応僕もあなたの部下なのですから、余りお側を離れないで貰いたいものです。
 貴女に何かあれば聖下が悲しまれますよ?」

「どうでしょう。貴女は部下と言うよりは『監視役』でしょう? そのつもりは無いとは言え、
 私が逃げ出そうとすれば殺せとでも言われているのではないですか。
 それに、ヴィットーリオが必要としているのは私ではない。私の右手でしょう」

そういうと、少女は右手を掲げる。そこにはルーンが刻まれており、僅かに光を帯びていた。
先程彼女が言ったヴィットーリオとは、フルネームをヴィットーリオ・セレヴァレと言う。
現教皇である聖エイジス三十二世の本名である。

「まあ、それもそうなんですけどね。次に『喚ぶ』方が、
 あなたほど大人しい方である保障はありませんし。
 面倒は出来るだけ省きたいというのが正味な所です。僕の場合はね」

悪びれも無くそう言うと、ジュリオはその場に座り込む。
少女は諦めたように溜息を付くと、ジュリオを無視するように読書を再開した。
その間も、ジュリオの視線は右手にあるルーンと、彼女の顔の間をゆっくりと行き来する。
彼は、そのルーンが意味するところを理解していた。
このルーンこそ咲夜が持つ『ガンダールヴ』同様始祖が従えた4人の使い魔がうちの1人。
神の右手、神の笛とも呼ばれる伝説の使い魔『ヴィンダールヴ』を示すルーンであり、
彼女が自分の主人であるヴィットーリオの使い魔であることを。

そして彼女の名こそ、美鈴達が探している幻想郷の住人の1人。
地上を追われた妖怪達が住まう場、地底にある館、『地霊殿』の主人。
心を読む力を持つ妖怪、『さとり』である、古明地さとりであった。





そしてその夜、魔法学院。
ルイズは寝る前に、今日学院とパチュリーの授業で学んだ事を復習していた。
常にトップクラスである彼女の座学の成績は、このような地道な復習により維持されているのだ。
特に、幻想郷の魔法はルイズでも魔法が使えるようになるかもしれない可能性がある。
いつもより熱が入るのも当然だろう。
そうして復習を終えていざ寝ようとしていたところ、窓が軽くノックされる。
そちらを見てみれば、そこには小悪魔がいた。一瞬スルーしようかと考えるが、
何かパチュリーよりの言伝があるのだろうかと結局は中に入れる。
よく見れば、その手にはなにやら本を持っていた。

「どーもー。ルイズちゃん、夜分遅くすいません。ちょっと用事がありまして」

「用事? ……その、手に持ってる本の事?」

ルイズのその問いに、小悪魔はこくりと頷く。

「ええ。私からのプレゼントです。良ければどうぞ」

そういって受け取るが、どう見ても普通の本にしか見えない。
本を開いてみるが、幻想郷でもハルケギニアの言葉でもない良く分からない文字が書かれていた。

「……何これ」

「本です」

「いやそれは見れば分かるわよ」

にこにこと茶目っ気たっぷりの笑顔でこちらのリアクションを見ている小悪魔。
ルイズのけして長いとはいえない堪忍袋が切れんとしたとき、ルイズは何か妙な感覚を覚えた。
手の中の本に、何かが吸われる感覚を覚えたのだ。思わず取り落としかけるが、なんとか持ち堪える。

「ななな、何よこれ、何か今変な感覚がしたんだけど」

ルイズのその言葉に、小悪魔の笑みが一層深くなる。
よく見ると頭の羽もぱたぱたと羽ばたいている。何となく嬉しそうだ。

「それですね、所謂マジックアイテムなんですよ。
 初歩的な魔法の書いてある魔導書です。
 暇潰し用と弾幕用に何冊か持ってきてたうちの1冊だったんですけどね。
 折角魔法を勉強してるんですから、プレゼントしちゃいます。
 人に何かを教えるとか、ほんと久しぶりで楽しくて。そのお礼ってのもありますけど。
 それがあれば魔法を使えるようになるシロモノですから、少しぐらいは役に立つはずですよ」

「本当!?」

ルイズは目を輝かせる。今まで『ゼロ』と呼ばれ、蔑まれてきた自分にも魔法が使えるようになる。
勿論そのために今日もパチュリーからの授業を受けていたのだが、
その可能性を眼に見える形で与えられたのだ。喜ぶなと言う方が無理である。

「喜んでもらえて何よりです。
 ただ、その為にはその中にある『秘密の鍵』を見つける事が必要でして、
 その為にはそれを書いた人間と同等の実力がないといけません。
 もっとも、これはそうレベルの高い魔導書ではないですから、
 ルイズちゃんならきちんと授業を受けて頑張ればそう遠くない未来に使える様になる筈ですよ」

「ふむふむ……分かったわ。……その、有難うね、小悪魔」

魔導書を胸に抱き、顔を赤くしてそっぽを向くルイズ。
その愛らしさに思わずぎゅっと抱きしめてしまう小悪魔であったが、
ふと何かに気付いたように身体を離す。

「あ、そうだルイズちゃん、パチュリー様から一つ伝えろって言われてた事があるんですよ」

「先生から? 何かまずかったかしら……あ、キュルケやタバサをつれてきたこと?」

「いや、そういうのではないです。今更言うのもアレな話なんですが、
 パチュリー様に魔法を教わってる事、一応ご両親に伝えておきなさいって。
 大っぴらに公表する必要は無いですけど、ご両親に言っておいた方は良いと私も思うんです」

しかし、それに返答はなかった。不思議に思ってルイズを見てみると、
ひどく怯えた表情で目を見開いていた。よく聞いてみれば、ぶつぶつと何かを呟いている。

「……むむむむりだわおとうさまやねえさまやちいねえさまはともかく、
 おかあさまにばれたらしばかれるとばされるころされる――――!
 あああおかあさまやめてやめてまほうはやめておかあさまそれだけはやめて、
 えあすとーむもやめてうああそれだけはかったーとるねーどだけはやめてくださいー!?」

がたがたと震え、うわ言の様に早口で呟き続けるルイズ。
言葉の最後の方は半ば金切り声のようになり、明らかに正気を失っている。
何かルイズの触れてはいけない部分に触れてしまったらしい。
言葉から推察するにルイズの母がかなり厳しい人らしいが、
それよりもルイズを落ち着かせるほうが先だ。

「落ち着いて! 落ち着いてルイズちゃん! 
 びーくーる! BE COOLですよルイズちゃん!」

余りにも酷いルイズの錯乱振りにいつに無く真剣な顔で必死にルイズの肩をがくがくと揺する。
だがしかし、ルイズの狂乱は一向に収まる事を知らない。

「やめてやめておかあさまやめてしにたくないしにたくないしにたくない……!」

「さ、咲夜さん! さくやさーん! 美鈴さん、めーりんさんでもいい!
 助けて、たた、たすけてめーりん! ああもうどうしろってんですかこれー!」

隣の部屋に咲夜を呼びに行こうにも、がっしりとルイズが服を掴んでいるので動けない。
結局、隣室の騒動を聞いて咲夜とキュルケが殴りこんでくるのがこれから5分後、
ルイズが咲夜によって気絶させられるのがそれから30分後、
悪夢にうなされるルイズが落ち着き、小悪魔が寝れるようになるまで、
さらに3時間の時が必要なのであった。因果応報である。

どっとはらい。



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