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萌え萌えゼロ大戦(略)-43



 西暦1944年10月20日。かつての敗北から捲土重来したアメリカ軍は
大挙してレイテ島への上陸を開始した。
 この日を予測した南方軍司令官寺内元帥は、秘密裏に満州から決戦兵器を
レイテ島に移動させ、山下大将隷下で決戦に備えさせていた。
鋼鉄の旋風が吹き荒れ、血を血で洗う激しい戦いが繰り広げられる。
この戦いで、大日本帝国陸軍はその南方軍戦力のほとんどをすり減らす
事態となった。
 二ヶ月にわたる戦いの末、アメリカ軍はレイテ島における日本軍の
組織的抵抗の終結を宣言することになる。だが、そのとき、帝国陸軍の
決戦兵器の姿はどこにも見当たらなかった。そう、その痕跡すらも――


 失われたはずの試製二脚歩行型超重戦車『キョウリュウ』は、今、
ハルケギニアの大地を猛進していた。胸部に搭載した原子力機関を包む
厚さ十センチの鉛の防御隔壁とそれを包む重コンクリートの格納容器は、
召喚されてから続く連日の攻撃により、その電気溶接に、そして構造体
そのものにヒビが入っている。
 戦車の砲塔すら一発鋳造できない大日本帝国の鋳造技術では、巨大な
隔壁を鋳造できなかった。そのため、分割して鋳造を行い溶接していたのだ。
また、放射能防御のための硼砂米飯を圧縮充填した遮蔽体(本来は中性子
遮蔽に優れる物質だが、開発時にはその認識はなかった)との間隙を伝う
『ストリーミング』現象によって漏れ出たガンマ線は、乗員たちに深刻な
影響を与えつつあった。

「大佐殿。先程の通信、やはり友軍のものではないでしょうか?」
 操縦士が一段上に座る車長に尋ねる。この『キョウリュウ』は三人乗り。
大日本帝国陸軍の技術の粋を集め、原子力機関から隔離された頭部にある
操縦室の車長、操縦士、砲手の三人だけで運用できるようになっていた。
 操縦士の言葉を、車長は一笑に付す。
「謀略だ。海軍の鋼の乙女あかぎは、二年も前にミッドウェイの海の底だ。
それに、使ってきたのは開戦当時の帯域だぞ。いくら海軍でも、我々の
無線帯域を知らぬはずがない」
「ですが、友軍との連絡はつかない、ですね」
「うむ。レイテ島のジャングルに伏せていたはずが、大きな揺れを感じた
後で砂漠に移動していた。何らかの事態が発生していることは確かだ」
 車長はそう言ってカイゼル髭をなでる。事実、召喚直後にエルフが
この『キョウリュウ』を発見していたのだが、精霊の異常な叫びに危険を
感じ、近づかなかった。そのため、視界の狭い『キョウリュウ』に乗る
彼らは、その存在を確認できなかったのだ。
 彼らは疲弊していた。『キョウリュウ』の巨体は目立ち、彼らに安息を
与えることはなかった。連日連夜に及ぶ攻勢の中、寸暇を縫って休息を
取り、彼らは北西を目指していた。その理由は彼らにも分からない。
「大佐殿!後方に新たな敵機!また空飛ぶ竜に乗った連中です!」
 副潜望鏡で周囲を確認していた砲手が報告する。操縦士がハンドルを
切り、巨体はその大きさからは信じられない反応速度で反転した。
「来たか……性懲りもなく。主砲発射用意。今度も丸焼きにしてやれ!」
 車長が自分の潜望鏡で敵機――ガリア王国東薔薇花壇騎士団の竜騎士たち――を
確認する。車長の命令で砲手が引き金を引くと、口腔内に装備された
赤く着色された照射方向確認用探照灯が輝き、同時に大型熱線砲から
不可視のメーザーを照射する。暴力的な光の中、次々と竜騎士たちが
墜ちていく。首を振ることでメーザーを動かし、空に絵を描くかのような
美しさとは裏腹に、あたりは地獄と化していた。


 武雄とルーリーを乗せた複座零戦は、準備が整い次第国境のクロステルマン
伯爵領にあるトリステイン王国軍国境防衛総本陣へ飛ぶ。出発に少し時間が
かかったのは、あかぎの提案でルーリーが庵に置いてあったとある秘薬の
原料を持ち出すのに時間がかかったためだ。
 それはトリステイン王国の西部、アングル地方で採れるシェルムという
海草を乾燥させて炙り焼きにした灰から抽出したエキスを固めたものだが、
水の秘薬が買えない平民が傷の治療に用いるくらいで、あまりその需要は
高くない。アングル地方でも海草そのものがスープの具材として使われる
ものの、独特の粘りのある食感から地元民以外で食する者は少ない。
食べる以外ではせいぜい現地の海女たちが海草を粉にして水に溶いた
ものを体に塗り、入浴するくらいだ。それをあかぎが持てるだけ総本陣に
持ち込むよう指示したのだ。
「……それにしても、こんなものが毒消しになるとは思っていなかったよ。
確かに水の秘薬を使う前にこれを酒に溶かしたものを塗ると傷の治りが
早いとは言うがね」
 後席に座るルーリーがあきれたように言う。武雄と違ってルーリーは
飛行服ではなく普段の淡い紺色のゆったりとした外套姿。杖は長すぎて
操縦席に持ち込めないので、秘薬の壺と一緒に箱詰めしてバラスト代わりに
座席の後ろの胴体に入れてあった。
「俺たちの国じゃアルコールに溶かしたものを『ヨーチン』って言ってな。
消毒薬として広く使われているのさ。
 それと同じものだとあかぎは知っていたようだがな。だから普段から
子供が怪我をしたときなんかに使ってただろ?買い込ませたのもあかぎだし」
「違いない。アイツの頭の良さにはアタシも感服するよ。
ところで、方向は間違いないのか?」
 心配そうに聞くルーリー。武雄は先の写真偵察時にあかぎが探知した
場所を目指して飛んでいる。視認していないので確証はないが、大丈夫
だろうと彼は思っていた。
「まぁ大丈夫だろう。あかぎがこっちだって言ったんだし」
「はぁ。まあいいがね。あんまり寄り道すると困るのはお前だぞ」
 あきれたようなルーリーの物言いに、武雄は苦笑する。途中で先行した
マンティコア隊を眼下に見たことで、二人は方向が間違っていなかったと
確信した。


 トリステイン王国国王フィリップ三世は、ここクロステルマン伯爵領を
決戦の地と考えていた。ガリアとゲルマニアの強力な戦力をことごとく
退け、こちらに向かって邁進する敵をここで防げなければ、トリステインは
蹂躙されるしかない――王の決意は、臣下の隅々にまで染み渡っていた。
王がクロステルマン伯爵の居城、シャトー・クロステルマンではなく、
国境にほど近い湖の畔の丘の上に陣を構えていたのも、その意気込みの
表れだった。
 そこに、武雄とルーリーが謁見を申し出ていた。二人が途中で上空
警護中のギンヌメール伯爵と出会えたのは幸運だった。伯爵の計らいで、
武雄たちは速やかに王の前に進み出ることができたのだった。
 武雄とルーリーの説明を聞いて、王は美しく整えられた美髯をなでる。
年の頃は四十に迫るものの『英雄王』の誉れ高く鋭気にあふれるがっしりと
した体格の王は、王の天幕にしつらえられた簡易の玉座に侍るクロステルマン
伯爵に尋ねる。三百年前にガリアより割譲されたこの地を治める彼も
また、祖先のガリア人の風貌を残していた。
「……そちはどう思う?」
「彼らの言葉は信じるに足るかと。彼らは嘘をつくような人間では
ありません」
「確かにな。余が以前謁見を許したときにも、そう思った」
「はい。陛下。その彼らが、いや、あかぎ殿がそのように言ったとなれば、
これは大至急作戦の練り直しを行う必要があると愚考致します」
 広大な薬草園を経営し薬学に長けたクロステルマン伯爵家と、武雄たちは
ミジュアメの卸を通じて面識があった。ギルドと決裂したため販路を
失った時期に新しい秘薬に興味を示した先代のクロステルマン伯爵からの
接近があり、それを幸いとあかぎが伯爵家に仲買を依頼したためだ。
また子供好きなあかぎに伯爵の一人息子もよくなついており、その点からも
伯爵家から武雄たちは好意的に見られていた。
 クロステルマン伯爵の言葉を受けて、王はふむと一考する。
「敵が風下にいるうちに動きを止め、遠距離からの『錬金』で鉛に変えて
しまう、か。それほどまでにあの鉄の竜、いや『キョウリュウ』か、
あれは危険だと申すのだな?」
 王の問いかけに、武雄が面を上げる。
「はい。先に申し上げましたとおり、あかぎは、もうあれは制御不能
寸前だと言っていました。すでに放射能、これは目に見えずにおいもない
『毒』だとご理解いただければと思いますが、それが漏れ出ている状態です。
 先日自分たちがあれの姿を確認しに向かったときにも、あかぎは
できる限り近づかないよう自分に指示しました。そして、村に戻り次第
『竜の羽衣』がかぶった『毒』を洗い流させました。万が一、爆発でも
させてしまえば、風下にある土地はことごとく『毒』に侵され、
今後七十年は生き物が住めない土地になるということです」
「余はそなたらに出国許可証を出した覚えはないぞ、と言いたいところだが、
そのような理由であれば不問に処すことにしよう。どうせガリアにも
見つかってはおらぬのであろう?」
 王はそう言って笑みを浮かべる。三十年も我が王家を謀りおって、
と言う王の言葉は、武雄たちを責めるものではなかった。

 武雄たちは、あかぎに言われたとおり、『キョウリュウ』が有人の
超重戦車であることを王に話さなかった。あかぎは乗員の命と乗員を
助けるための被害を秤にかけて、むごいようだが『キョウリュウ』を
暴走したガーゴイルと彼らに認識させ、汚染された乗員もろとも沈黙
させようとしていたのだった。

「それよりも……問題となるのは、攻撃に参加する将兵に配給する毒消しが
全く足りないことですな。ミス・エンタープライズが持参した木箱に
収められた壺だけでは、第二竜騎士大隊すらまかなえませぬ。
 まもなく合流予定の魔法衛士隊を優先させるとして……それにしても、
ただの化膿止めの秘薬にそんな効能があったとは、恥ずかしながら
私も初耳です」
「そちの倉にはないのか?」
 王の問いかけに、クロステルマン伯爵は首を振る。
「これは我が国西部のアングル地方からガリアにかけてのやや深い海で
採れる海草を原料とする秘薬にございます。陛下。多少なら備えておりますが、
もとより水の秘薬が買えない平民向けのものでございますれば……」
「それでも秘薬である以上は、それなりの財がなければ備えもできぬか。
 分かった。そちは今晩中に集められるだけの秘薬を集めよ。アルビオンからの
援軍にも渡さねばなるまい。遠見の兵からの報告では、『キョウリュウ』は
明日にも国境を越えるぞ」
「はっ」
 王の言葉に、クロステルマン伯爵は足早に天幕を辞した。残った武雄と
ルーリーに、王は話しかける。
「そなたらの働きにより、我が軍はいらぬ損耗を抑えることができそうだな。
褒美を取らそう。デピネイ!」
 王は小姓を呼び、二人に金貨が詰まった革袋を取らせる。
そこに、武雄が口を開く。
「では陛下。自分たちも明日の戦いには参加させていただきます」
「私も参加させていただきたく。土のトライアングルとして、『錬金』には
少々自信がございますれば」
「そうか。先程の話では、かの『キョウリュウ』はそなたの国の決戦
兵器だそうだな。それがどのようないきさつからかこの地に召喚され、
暴走して我が国を襲う。そこにそなたらが余に助力するというのは、
誠に奇妙な巡り合わせよ。
 しかし、何故このトリステインにそなたらが集った?
それにあの『キョウリュウ』が脇目もふらずにトリステインを目指すのは
何故だ?」
 王の疑問に、武雄は答えを持たなかった。


「……それじゃあ、国王陛下は説得できたのね?」
『ああ。『キョウリュウ』は明日国境を越えるってことだ。
俺とルーリーはこのまま作戦に参加する。だが、本当にいいんだな?』
 夜の帳が降り始めたタルブの村の『竜の道』で、あかぎは武雄からの
通信を受け取った。
 あかぎの指示通り、『キョウリュウ』は暴走したガーゴイルとして
処分される。武雄はその心中を慮った。
「彼らを助けるために消える命の重さには替えられないわ。
私たちは、もう長くいすぎちゃったもの」
『そうか。そうだな。分かった。会敵予想時刻は明日のヒトヒトマルマル。
日食も近いから、あの子らにはよく言い聞かせておいてくれよな。
以上、通信終わり』
 そう言って、武雄は通信を切った。声が聞こえなくなってから、
あかぎは無言のまま天を仰ぐ。
どれくらいそうしていただろうか。
やがて、あかぎは「ごめんなさい」とつぶやいて、村に戻っていった。


 通信が終わってから、武雄は素早く電源を落とした。発動機を回さずに
通信機を動かすため、蓄電池の充電分しか使えないから短時間で終わらせたのだ。
ちなみに、複座零戦の通信機はあかぎがアースの取り付け位置を変更したため、
空中でも問題なく使えるようになっている。白田技術大尉も同じことを
実行済みで、震電、そしてもとよりメーカー調整済みの連山ともに
機上無線は問題ないレベル。残る紫電改も白田技術大尉が今回の攻撃に
間に合うよう位置変更を行っていた。
 複座零戦から降りた武雄の前に、青を基調として金ボタンと金糸で
飾られたアルビオン空軍の士官服を着た二人の青年が現れる。二人は
複座零戦を物珍しげに見上げると、武雄に話しかけてくる。
「今のは、ひょっとしてどこか別の場所にいる人間と話していたのか?
この『竜の羽衣』といい、すごいものだな」
「あなたたちは……?」
 武雄の言葉に、二人はアルビオン式の敬礼で答える。
「アルビオン王立空軍巡洋艦イーストウッド所属、ガーネット小隊の
グレッグ・アーウィン少尉です。
こっちは相棒のコンロッド・マイヤー少尉」
 武雄はそれを聞いて、ああ、と思った。
アルビオンのジェームズ一世国王が派遣したという艦隊の旗艦だ。
それぞれ竜騎士一個小隊が搭載可能な同型の最新鋭巡洋艦三隻の艦隊を
送ってきたことから、アルビオンの本気が見えたと武雄は思っていた。
「大日本帝国海軍第一五一航空隊所属のタケオ・ササキ少尉です。
といっても、自分は魔法も使えませんし、今はトリステイン王国の
ご厄介になっているので、ただのタケオですな」
 武雄の帝国海軍式の答礼にグレッグは驚いた顔をする。
それを見る武雄に気づいた彼は、すぐに非礼を詫びた。
「あ、失礼。それから、かしこまるのはやめにしましょう。
第一、俺たちよりあなたの方が先任だ」
「ともに空を翔けるもの同士、ということですかな?」
「そういうことで」
 微笑みかける武雄に、グレッグもさわやかに笑う。
いい青年だ、と武雄は思った。
「ところで、さっきの話なんだが……」
「グレッグ、いくらなんでももう少しわきまえろ」
 年齢は違えど同じ階級のためかいきなりなれなれしくなるグレッグを
窘めるコンロッド。しかし武雄はそれを気にすることなく言う。
「ああ、タルブの村にいる妻と話をね。明日の我々義勇軍の総指揮官なもので」
「あなたの奥方が?」
「ええ。アイツは俺よりも階級はずっと上でね。大日本帝国海軍聯合艦隊
司令長官の副官で、将官待遇だった。といっても、ここじゃそんなものに
価値なんてないと言い出したのも、アイツなんですがね」
 それを聞いて、二人は唖然とした。それを見て、武雄はさらに続ける。
「ははっ。明日参加する義勇軍の階級じゃ、俺はぺーぺーですよ。
何しろ中将と少将、それに将官待遇に中佐と技術大尉、俺が少尉で、
最後に一番腕っこきの飛曹長。
それに俺たちを支えてくれる土のトライアングルメイジもいる」
「……いったいどんな軍隊なんですか。それは」
 コンロッドが信じられないという顔をする。何しろ兵がいない。
最低でも下士官、それに尉官に佐官、極めつけに将官が三人もいる。
いびつと言うにもほどがある。そこに、武雄には聞き覚えのある声がした。
「友人と酌み交わそうと来てみれば、友邦からの客人まで。
今宵はいい酒が飲めそうだ」
 そう言ってワインのボトルを手に立つのは、ギンヌメール伯爵だった。

「明日はスヴェルの夜。そして、三十年に一度の皆既日食。そんな日に
決戦というのも、また因果的なものを感じるな」
 ギンヌメール伯爵が、武雄にワインを注ぐ。タルブのワインは飲み飽きて
いるだろうと、シャトー・クロステルマンの薬草酒を伯爵は携えていた。
薬草酒というものの、飲み口は爽快で、薬という印象はない。グレッグと
コンロッドも複座零戦の翼の下でともに酌み交わしていた。
「日食か……」
「どうした、タケオ」
「あ、いや……。それよりも、あの『キョウリュウ』なんですが」
 武雄が口を開こうとするのを、ギンヌメール伯爵は「皆まで言うな」と
制する。
「私の前でかしこまるなと言っただろう?
 お前が言いたいことは分かっている。それよりも、明日はお前たちの
戦いぶりを存分に見せてもらうぞ。この私が模擬空戦で一勝もできないのだ。
私がお前に勝つまで死ぬなよ」
「閣下が一度も勝てないって……この『竜の羽衣』はそんなにすごいのですか?」
 グレッグが驚いたように尋ねる。ギンヌメール伯爵は、その問いに
楽しそうに答えた。
「ああ。素晴らしいぞ。私の風竜よりも力強く、そして速い。
君たちも、明日は度肝を抜かれんようにな。何しろ、明日は私にも
見せたことのない『牙』をも見られるのだからな」
「『牙』……ですか?」
「ああ。マイヤー少尉。我が国の『アカデミー』の学者たちは気づかなかった
ようだが、私には分かる。
 タケオが、あかぎ殿が、今まで隠し続けた『牙』を、我らの存亡の刻に
使ってくれるのだ。君たちアルビオン派遣艦隊と我がトリステイン王国は、
その恩に報い、そして勝利するのだ」
 力強く語るギンヌメール伯爵。彼は軍人の勘で、複座零戦に搭載された
7.7mm機銃と20mm機関砲の威力を察知していた。
グレッグとコンロッドも驚きの視線を武雄と複座零戦に向ける。
「……そんなたいそうな代物じゃないですよ。
それよりも、あかぎが言ってました。極力一万より近づくな、と。
その内側は『キョウリュウ』の射程です。もしかすると、それでも安心
できないかもしれません」
「距離一万って……それじゃ敵は戦列艦の主砲以上の射程を持っているって
ことか?『イーストウッド』の新型砲でも……」
「おいグレッグ。それは軍機だぞ」
 コンロッドに窘められ、グレッグは口をつぐむ。ギンヌメール伯爵は、
それを見てにやりと笑う。
「面白い。距離一万が敵の領域であるというのであらば、我らは恐れず
突撃しこの杖を叩き込むまで。
 だが、まさか酒に溶かして塗る秘薬をそのまま飲めと言われるとは
思わなかったがな。陛下に命じられて我が隊の常備品をすべて供出したが、
あれを飲む方が勇気がいるぞ」
 そう言って、ギンヌメール伯爵は笑った。魔法衛士隊に比べて予算の
余裕のない竜騎士大隊でも、特に第二大隊は戦闘糧食や戦地での医療体制での
独創性で知られていた。他の貴族が目を向けない平民向けの医薬品や
甘味品まで調達、利用するため、今回の解毒剤調達でも、クロステルマン
伯爵が確保に躍起になる一方で、ギンヌメール伯爵は大隊で備蓄していた
ものをすべて供出するべく、決戦に参加する各員の常備品を即時供出した
だけでなく快速の一個小隊を王都にある倉庫に取りに向かわせていたのである。
それでも国王フィリップ三世とトリステイン、アルビオンの将校全員を
まかなうに足りず、それ以外は事実上の見殺しとなることがすでに決定
されていた。
 そんな悲観的な事実があるにもかかわらず、ギンヌメール伯爵は杯を
月に掲げる。今回の解毒剤について、その効果を信じない者も多い。
この戦いに参加する魔法衛士隊でもグリフォン隊隊長のド・ワルド子爵は
まだしも、マンティコア隊隊長のド・マイヤール――カリンは懐疑的な
意見を出した。それでも、伯爵は武雄たちを信じていた。
「何にしても、決戦は明日だ。皆、全力を尽くそう」
 ギンヌメール伯爵の言葉に、その場の全員が力強く頷いた。



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