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無情の使い魔-05


<土くれのフーケ>

世間ではそう呼ばれ、トリステイン中の貴族達から恐れられているメイジの女盗賊は今夜も一仕事をするべく夜が更けるのを待っていた。
本日の標的は、以前から目を付けていたトリステイン魔法学院の宝物庫。
そこには様々なマジックアイテムなどが厳重に保管されているそうで、中でも彼女が目を付けていたのは〝破壊〟をもたらすという数々のマジックアイテムである。
どういった破壊をもたらすのかはさすがに調査不足であったが、きっと高く売れると信じていた。その数は四つや五つではないと聞く。
とくに、〝破壊の杖〟と名付けられている代物に一番目を付けていた。
そのために、この学院の学院長の秘書『ロングビル』として潜り込み、綿密に宝物庫の調査も行った。
調査の結果、宝物庫の壁には強力な固定化の魔法がかけられているようで錬金の魔法で壁に穴を開ける訳にもいかない。
自分のゴーレムで壁を破壊するのも少し難しそうである。

さて、どうしたものか。
宝物庫がある本塔の壁に足をつけて歩きつつ、フーケは頭を悩ませた。
ここまで来ておいて、諦める訳にはいかない。かと言って、自分の力だけでこの壁を何とかするのも難しい。
「……何だい?」
腕を組んで思案していると、何やら下の方が騒がしくなる。
慌てて地上へと飛び降り、着地する寸前にレビテーションをかけて衝撃を殺す。
そして、植え込みへと身を隠した。
フーケの視界に入ってきたのは、学院の庭で争う二人の人影だった。
一人は生徒であるらしく、大きな杖の先から『ウインディ・アイシクル』を放っている。
(何だい、あいつ……)
もう一人の姿を見て、フーケはぞくりと戦慄を覚えた。
先日や今日の昼間、この学院の生徒達を次々と叩きのめした平民――『メイジ・キラー』の少年の姿がそこにあった。
彼が手にする大剣は、次々と無数の氷の矢を吸収している。


(速い……!)
初めは距離を取って様子を見ようかと考えたタバサだったが、10メイルは離れていたのにも関わらず桐山は一瞬にしてタバサの目の前まで迫ってきていた。
恐ろしく速い貫き手による突きが繰り出されるが、タバサは体を横に動かし、紙一重の差でかわした。
横髪の一部が削がれ、パラパラと舞い散る。
「エア・ハン――」
呪文を唱えようとした途端、桐山は一息つく間も無く逆手のままデルフリンガーを薙ぎ払ってきた。
その居合いのような一閃を咄嗟に上半身を逸らしてかわすが、服の脇腹の部分が切り裂かれる。
「エア・ハンマー」
後ろへ大きく跳びつつ改めて呪文を唱え、追撃しようと迫る桐山に向けて魔法を放つ。
空気の塊が桐山にぶつかり、人形のように宙へ吹き飛ばされる。しかし、桐山そのまま身を翻して受身を取り、低い体勢で着地をしていた。
桐山が顔を上げると、オールバックであった彼の前髪が額へと垂れている。
「ウィンディ・アイシクル」
再び呪文を唱えると、杖の先から次々と無数の氷の矢が放たれ、桐山へと突き進む。
低い姿勢のまま迫ってくる桐山は氷の矢を左右に目まぐるしく動きつつかわし、かわし切れない氷の矢は目にも止まらぬ速さの振りでデルフリンガーを操って叩き落していた。
――いや、叩き落されたのではない。デルフリンガーに吸収されているようだった。

「――あ、そういやあ俺様こんな能力があったなぁ……って聞いてないよな」
全ての氷の矢を無力化し、その場で佇む桐山の手の中でデルフが呟くが、もちろん桐山の耳には入っていない。
「はぁ……。――ん?」
溜め息をつくデルフが、何かの違和感に気付いた。
自分を握っているこの相棒は――何かがおかしい。
普通、人間にあるはずの何かが足りない。
己を握る者の事は色々と分かってしまうデルフであるが、この相棒は『使い手』であるのにも関わらず何故かその力を発揮させていない。
その理由が、今分かった。
「――お前さん。……そうか、そういう事なのか」
人間である桐山の中に、本来あるはずのものが無い事にデルフは確信していた。
しかし、そんなデルフの同情のような呟きですら桐山は聞いてはいなかった。

迫ってきた桐山がデルフリンガーを一閃させた――
「ちょ!? うわああああっ!」
――と、思ったらいきなりそれを投げ捨て、もう片方の拳がタバサの腹に繰り出される。
まるで内臓を一撃で破裂させてしまい兼ねない程に鋭く、重い一撃だった。
「ぐっ」
低い呻き声を発するタバサ。腹に叩き込まれた拳が、抉るように捻じ込まれる。
「……エア……ハン、マー……」
苦しみながらも呪文を唱えたが、既にそこには桐山の姿はない。
空気の塊は虚空に放たれるのみだった。

(……後ろ……!)

背後を振り向いた途端、頬を叩かれたと同時に突然天地が逆転した。
瞬時に回りこんだ桐山がタバサの足を払ったからだった。
しかし、タバサもしっかり受身を取って着地をする。
そこに桐山が鋭いネリチャギを繰り出してきて、タバサは腹を押さえつつ彼から離れる。
その一撃はタバサの眼鏡を捉えて外され、ドガッと音を立てて地面を軽く抉った。

(強い……)

息を切らし、杖で自分の体を支えるタバサ。対して、桐山は息一つ乱してはおらず全くの無表情だ。
『メイジ・キラー』である桐山の強さは間違いなく本物だった。
これまでにタバサは多くの敵と相まみえ、戦ってきた。そして、それらの戦いには必ず勝ってきた。
その戦いを経験する事により、自分は力をつけてきた。
なのに、目の前にいるこの『メイジ・キラー』は自分がこれまで戦ってきた相手とは次元が違う。
これまでに培ってきた力が、彼にはまるで通用しない。
恐るべき学習力で相手の戦闘力を無情に分析し、その裏をかく。そして、一度行った攻撃はもう通じなくなる。
メイジでもないのにどうやったら、あれだけの力を身に着けられるのか……タバサは桐山の超人的な戦闘力に惹かれていた。
杖を強く握り、体を支えるのをやめると無表情のままこちらを見つめ、微動だにしない桐山を見据えていた。
次に彼がどう動くか、全く先が読めない。

「おおーい! 相棒! 早く俺様を下ろしてくれえい!」
桐山に投げ捨てられたデルフは、学院本塔の壁に突き刺さっていた。
彼自身の力ではまるで身動きがとれないため桐山に呼びかけているのだが、本人の耳にはまるで届いていないようだった。
いや、届いていたとしても目もくれないかもしれない。


(……本当、化け物だね)
植え込みの中から二人の戦いを見ていたフーケは桐山の常人離れした戦闘力に息を呑んだ。
絶対にあんな『メイジ・キラー』とは相手をしたくない。
とてもではないが、自分がまともに戦って勝てそうな相手ではない。
ゴーレムを召喚すれば何とかなりそうではあるが、生身では勝負にならなさそうだ。
「……ちょっと、何をしてるの!」
突然、近くから女の声が聞こえてきた。
フーケはさらに息を殺し、現れた二人の人影を注視していた。


時はほんの少し遡り――
「あいにくね。あいつにはもう剣があるのよ!」
「でも、それって錆付いたボロい剣なんでしょう?」
学院の渡り廊下で、ルイズとキュルケが言い争っていた。
キュルケの腕には宝石が散りばめられた豪奢な大剣が抱えられている。
「ダーリンには、こっちの方が相応しいわ」
ぎゅっと剣を抱えている腕に力が入る。
「いいえ、キリヤマはそんなの見ても全然、興味なんか無かったわよ!」
ほんの数分前、キュルケは桐山に自分が買ってきた剣をプレゼントするべくルイズの部屋に押しかけてきたのだが、その彼がおらず、探しているのである。
それをルイズは追いかけた。何しろ、キュルケが買ってきたというのは昼間、武器屋で見せられた美しい装飾の剣だったからだ。
桐山はそもそも、こんな剣に興味を抱く事はなかった。よって、プレゼントしようが無駄である。
「あら、ダーリンはあなたが買えないのを分かっていて無理して諦めてくれたのではないの?」
鼻で笑うキュルケに、ルイズの顔が紅潮する。
確かに、自分が持っていったお金ではあの剣が買えなかったのは事実だ。
しかし、そういう問題ではない。桐山はどの剣を手にしてもすぐに興味を失っていたのだ。
あのボロいインテリジェンスソードを買ったのは、その本人が自分を必死に売り込んできたから。恐らく気まぐれであれを選んだのだろう。
「そんな訳ないでしょう!」
「嫉妬はみっともないわよ。……とにかく、ダーリンにはこちらを使ってもらう事にするわ。さぁて、ダーリンはどこ……」
中庭へとやってくると、そこが何故か騒がしくなっている事に気付き、二人は顔を顰める。
慌てて現場に駆けていくと、二人の人影が距離を取ったまま睨み合っている。

「タバサ?」
キュルケが声を上げる。その内の一人は彼女の友人である少女、タバサだったからだ。
杖で自分の体を支え、腹を押さえ、そして眼鏡が外れている。見るからに満身創痍であった。
「……ちょっと、何をしてるの!」
ルイズの目に飛び込んできたのは、桐山が昼間に多くの生徒達から決闘を挑まれてきたのと同じく、タバサと対峙している姿だった。
桐山はルイズの叫びに目もくれず、満身創痍のタバサに歩み寄る。
「やめて、キリヤマ!」
ルイズが桐山に飛び掛り、その歩みを止めた。キュルケは剣を手放し、タバサの肩に手をやった。
「ちょっと、大丈夫?」
「平気。……邪魔しないで」
初めの一言は普段通りの返事であったが、その次の言葉には僅かな怒りが込められている。
「どうしたのよ、タバサ」
「これは私と……彼の決闘」
タバサがキュルケの手を払い、杖を構える。
桐山はルイズに飛び掛られたままその場で佇んだままだ。
「駄目よ! キリヤマ! 主人の命令よ! 今すぐやめなさい!」
一瞬、未だ自分から離れないルイズを一瞥した桐山はすぐにタバサへと視線を戻し、ククッと小首を傾げた。
何故、キリヤマがタバサと決闘しているかは分からない。
しかし、これ以上使い魔が誰かを、ましてや貴族を傷つけるなどという事はさせたくない。
たとえ相手から一方的に仕掛けられたとしてもだ。
……あんな凄惨なものは見たくない。

そんな時だった――

「な、何!?」
突然、轟音と共に大地が揺れだし、キュルケが戸惑う。
タバサはその震動によって己の体を杖で支えきれず、膝をついてしまう。
ルイズが桐山から離れ、背後を振り向く。
「何よ? あれ――」
そこに突然現れたのは、30メイルはあろうかという巨体の土くれのゴーレムだった。
それもう、貴族の大きな屋敷ですら一撃で破壊できてしまいそうな程に巨大である。
轟音を立てつつ大地を踏みしめ、ゴーレムは学院本塔へと近づいていく。
そして、ゆっくりと腕を振りかぶるといきなり本塔の壁を殴りつけていた。
「あれは?」
桐山を除いて唖然としていたルイズ達であったが、ゴーレムの起こした行動、そしてその肩に窺える一人の人影。
夜空に浮かぶ、二つの巨大な満月による明かりで薄っすらと見えたのはフードを目深く被ったマント姿の人物が。
そして何より、土くれのゴーレム。これらから連想できるのは――

「もしかして、フーケ!?」
ルイズが声を上げ、杖を構える。キュルケもタバサの肩を抱いて立たせつつ杖を構えた。
ゴーレムの強烈な殴打が何度も何度も本塔に叩きつけられているが、未だ破壊はできないでいる。だが、それもいつまで持つか。
「……エア……ストーム」
魔法を放とうと気合を入れるルイズとキュルケよりも先に、タバサが辛そうにしつつも杖を構えて巨大な竜巻をゴーレムに放っていた。
しかし、ゴーレムに通じている様子はない。
「ファイアーボール!」
次にキュルケが巨大な火球を作り出し、ゴーレムへと直撃させた。
……が、これも駄目だ。
「ファイアーボール!」
続いてルイズも魔法を放とうとしたが、それで起きたのは毎度のように失敗の爆発がゴーレムの表面で起きた。
「ちょっと、何をやってるの! ゼロのルイズ!」
「うるさいわね! 次こそは……!」
キュルケの叱責が飛ぶ中、ルイズは再び『ファイアーボール』を放とうとするが、これまた失敗。
しかも、今度はゴーレムが叩きつけていた学院本塔の壁で発生してしまう。
「~~~~~~~!!」
ルイズが悔しそうに唸り声を上げている内に、ゴーレムは本塔の壁を破壊してしまい、フーケはその腕を伝って内部へと侵入してしまった。
「……あれ? キリヤマは?」
辺りを見回すと、自分の使い魔の姿がいなくなっている事に気付いて戸惑った。
未だタバサやキュルケがゴーレムに魔法を放っている中、不意に『バンッ』という炸裂音が聞こえてきた。


宝物庫へと侵入を果たしたフーケは目的の代物を探し、奥に安置された大きな木箱を二つ見つけた。
それの片方を開けてみて、フーケは眉根を寄せる。
「何だい、これは……」
その中に入っていたのは、無数の奇妙な鉄の塊だった。
とても変わった形をしたそれらはフーケでも理解ができず、本当にこんなものが〝破壊〟をもたらすのか疑問を抱く。
それにこれらの形状……よく見てみると、平民の間で用いられているあれにとても近かった。
もう一つの木箱には、さらに小さな箱がいくつも入っている。その中には無数のとても小さな筒が規則的に並べられている。
「……まあ、いいか」
さすがに全部を持っていく訳にもいかないので、どれを持っていくか品定めをする。
結果、三つの小さな杖状のマジックアイテムと筒状のマジックアイテムを持っていく事にした。
残りの物はどうやら全て平民が使っているあれのようであったため、売れなさそうだ。
その四つを抱え、宝物庫の壁に毎度のごとくメッセージを刻むと急いで外へ出てゴーレムの腕を伝う。
その時、
「――うっ」
『バンッ』という短い炸裂音と共に自分の右肩に衝撃と熱さが込められた激痛が走る。
その不意打ちに等しい激痛でせっかく持ってきたお宝を落としそうになるが、何とか持ち堪える。
明らかに出血している右肩を押さえていると、再び『バンッ』『バンッ』という音が下から聞こえてくる。
今度はゴーレムの腕に粉塵が二つ散った。
しかし、フーケは構わずに走り、ゴーレムの肩へ戻ると急いでここを離れるよう指示を出した。
「……何だっていうんだい」
出血が止まらない傷口を押さえつつ、フーケは歯噛みしていた。


ゴーレムがフーケを肩に乗せると、学院の外壁を越えて外へと逃げていく。
それを見届ける事しかできなかったルイズ達であったが、今彼女達の視線はいつの間にかそこに姿を現した桐山へと向けられていた。
桐山の手には、小さな鉄の塊らしきものが握られている。それからは細く小さな煙が昇り、鼻にツンとくる火薬のような臭いが立ち込めていた。
すぅ、と桐山はそれを下ろした。
「な、何なのよ、それ」
ルイズが桐山に駆け寄り、彼に詰め寄る。
しかし、桐山はルイズへ視線を向ける事さえせず、今までどおりの雰囲気で一言だけ答える。
「銃だ」
(銃? 銃って、平民も使ってるあれの事?)
平民の間で流行っているという、鉛玉を飛ばす事ができるという火薬を用いた武器。それが銃だ。だが、所詮銃なんて魔法に比べればてんで脅威ではない。
一発こっきりの道具なんかで、何ができるというのだ。
……しかし、桐山が今使った代物は明らかに連続で撃っていた。
そんな銃がどこにあるのか。そして、何故そんな物を彼が持っているのだ。

いや、そんな事より今は――

「フーケ、逃げられちゃったわね……」
ルイズが悔しそうにする中、桐山はワルサーPPK背中腰のベルトへと挟み、その場を後にしていた。

(……あんな物を持っていたなんて)
立ち去っていく桐山の背中を見つめつつ、タバサは息を呑んだ。
もしかしたら先程の決闘、あのまま戦っていれば彼はあれを使ってきたかもしれない。
しかもあれだけ小さく、隠し持つ事もできそうな代物だ。僅かな隙を突いて、容赦なく撃ってきただろう。
それに自分はこれだけの傷を負っている。
……負けたも同然だった。


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