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ラスボスだった使い魔-50b


 ほへー、とギーシュは夜空を見上げる。
 そしてその数秒後、まるで暗幕を引いたかのような真っ暗な空に、色鮮やかな光の花が咲き乱れた。
 降臨祭を盛り上げるための一環として、花火が打ち上げられたのだ。
 ともすれば大砲の音を思わせる打ち上げ音ではあったが、そんな不吉なイメージは脳裏から排除している。
 せっかくの降臨祭なのだし、陰気な考えはやめておくべきだろう。
「おぉ……」
 ギーシュはトリステイン以外の国で降臨祭を迎えるのは初めてだったが、このアルビオンでの降臨祭もそう悪いものではなかった。
 いや、まあ、今が戦時中でなくて、兵隊が寝泊りするテントだの天幕だのが視界のあっちこっちに見えなければもっと良かったのだが、この際ぜいたくは言うまい。
 それに、どうせなら寂しいのよりは賑やかな方がいいし。
 『物凄い数の兵隊が駐屯している』という商売の匂いを嗅ぎつけてきた商人たちのおかげで、このシティオブサウスゴータ全体にも活気はかなりあるし。
 それでなくても年に一度のお祭り、降臨祭なのだ。
 盛り上がりもひとしお、というわけである。
「ほぅ……」
 煙のような白い息を吐いて、あたりを見渡すギーシュ。
 街にはチラチラと雪が降リ始めたため、夜空の花火と合わせて幻想的な光景を作り出している。
 そうでなくとも、この街は景観が白い。
 シティオブサウスゴータが語られる際には前置きとして必ずと言っていいほど『古都』という表現が使われるが、しかし街並み自体はそれほど古くもなかった。
 石造りの建築物には、特に傷や亀裂などは見当たらない。
 聞いた話では数千年前に『固定化』の魔法がかけられたそうだが……まあ、本当に数千年かどうかはこの際、どうでもいいことだ。
 とにかく今のこの街は、景観としてはほとんど最高と言っていい。
 最高の景観。
 お世辞でも何でもなく、素直にギーシュはそう思っていた。
 この戦争に行って記憶に残ったことは何だったと聞かれたら、五番目くらいまでには思い出せそうなほどに印象深い。
「……………」
 だと言うのに。
 この最高の景観を、たった一人で寂しく楽しまなければならないとは、一体どういうことなのだろうか。
 女の子を口説くには、最高のロケーションではないか。
「いや、軍曹あたりと男同士で過ごすよりはマシなような気はするけど……」
 ちなみに今、ギーシュは単独行動中であった。
 『降臨祭の期間』というのはある意味で自由に過ごせる期間みたいなものなので、ちょっと大隊を離れてギーシュなりに羽根を伸ばしているのだ。
 なお、大隊を挙げてのどんちゃん騒ぎは降臨祭の初日に済ませてある。
「でも、せっかくだったら……こう……女の子と一緒にさ。花火や雪を眺めながらさ。肩に手でも回してさ……」
 景色は綺麗。
 ムードは満点。
 周りは賑やかだけど、少し探せば二人きりになれる場所なんて、いくらでもありそう。
 ちょっとしたプレゼントを買う店なんて、それこそ売るほどある。
「くっ……」
 こんな絶好の機会を生かすことが出来ないとは、何とも口惜しい。
 くそう。
 貴族の女の子でも見かければすぐにでも声をかけるんだけど―――とも思うが、こんな戦場一歩手前の場所にそんな女の子がいるわけがない。
 平民の女の子を手当たり次第、なんて暴挙に及ぶほど落ちぶれてもいない。
 って言うか、数日後には死地に向かうような一行の中に『すぐに声をかけられるくらいの頻度』で『貴族の女の子』が見かけられる状態というのは、よく考えればかなりの大問題である。
 いくら何でも、我がトリステインはそこまで人材が枯渇してはいないはずだ。
 ユーゼスあたりだったら『戦力として使えるのならそうするべきだ』とか言いそうだし、実際いくつかの事件ではそうしていた(と言うかその場に女の子しかいなかった)が、トリステイン……いやハルケギニアの貴族は普通、そんな考えは持たない。
 だって戦争だ。
 ギーシュ自身もこの身で体験したから分かるが、アレは女の子が触れていいモノではない。
 少なくとも、自分の恋人であるモンモランシーには絶対に触れて欲しくない。
「……あ~……、そういうわけか」
 自分たち学生士官を登用する際に『戦には反対』だという意見とは別に、『学生を使う』という件そのものに関して一部の貴族から猛反発があったらしいが、これはこういう心理が働いたのだろう。
 今なら分かる気がする。
 手塩にかけて育てた自分の子供が、それこそ子供扱いされるような年齢だと言うのに、殺し殺されが日常になっているような場所に行かされる。
 そりゃ嫌だ。
 貴族なんだから、お国の一大事とあらば身を粉にして滅私奉公する覚悟くらいはしているのだろうが……『まだ成人もしていない子供まで殺し合いに参加させろ』とか言われれば反発する者だって出てくるはず。
「って、あれ?」
 そこまで考えて、ギーシュはあることに思い至った。
 猛反発する一部の貴族。
 その『一部』とやらがどれくらいの規模を指すのかはよく分からないけれども、自分のようなぺーぺーの学生士官の耳にまで入ってくるような情報なのだから、少なくとも無視の出来る数ではないだろう。
 戦争反対派の貴族にしてもそうだ。
 多額の税金だか免除金だかを収めれば戦争参加は回避が出来るらしいが、悲しいかな大半の貴族はそんなに金持ちでもない。
 他でもないグラモン家がそうだし。
 そして学生士官については、一応『志願』という形を取ってはいるものの、実際にはほとんど徴兵に近い。
 内心や内情はともかく、自分のところの息子が戦に参加してないとなれば他の貴族から、そして何より王宮からどんな目で見られるのか予想はつく。
「……………」
 つまり学生士官の登用は……いや、このアルビオンとの戦そのものが、決して少なくない数のトリステイン貴族の反対を無理矢理に押し切って進めたという……。
「……嫌なことを考えてしまった」
 降臨祭の盛り上がりと反比例するかのように、ギーシュのテンションは下降気味になる。
 今の王宮と言うか、トリステインの後ろ暗い部分に触れてしまったような気分だ。
「って言うか、僕なんかがアレコレ考えたところで、どうにもならない問題なんだろうけど」
 ……それにしても、自分はこんなにアレコレ考えるようなヤツだっただろうか。
「いや……これはアレか、ユーゼスとか軍曹とかの影響だな」
 戦争直前までそれなりに親しくしていたユーゼスの影響で『考える』という行為そのものがクセとなり、戦争が始まって自分の副官になったニコラの影響で『それなりに客観的な思考』がクセになりつつある。
 こんな風に軽く自己分析が出来ること自体、その証拠だろう。
「何だかなぁ……」
 この変化は喜ぶべきなのかどうか。
 よく分からないが……しかしそれこそ、考えてもどうにもなるまい。
 そんなに劇的な変化ってわけでもないし。
 自分でも意識しなけりゃ分からない程度の変化だし。
「ま、いっか」
 ギーシュはアッサリと思考を切り替えて、夜空をいろどる打ち上げ花火と、降り続ける雪、そして白い街並みのコントラストを観賞する。
 その胸元では、先の戦いの功績を誇示するかのように首から下げられた勲章が、花火の光を反射して輝いていた。


「飽きた」
 1500万人というハルケギニア最大の人口を誇る大国にして、魔法先進国でもあるガリア王国。
 その国の最高権力者であるジョゼフ一世は、自室の椅子に腰掛けながら呟いた。
「ふむ」
 そんなジョゼフの話相手であるブレイン卿は、大して関心もなさそうに応じる。
「飽きたと言うのは、アルビオンのことかの?」
「そうだよ。……俺としては今回の戦の勝敗についてはどうでもいいんだが、まさかここまで長引くとは思っていなかった。
 いいか、あのクロムウェルとかいう坊主をそそのかしてから、もうそろそろ三年になろうかというのだぞ? だと言うのに、いつまでもダラダラと無駄に小競り合いが続くばかり。そんなことをするくらいならパーッと散れと言うのだ、まったく」
「戦争とはそういうものじゃろうに」
「分かっておらんなぁ闇黒の叡智。ここで重要なのはな、何よりも『俺がつまらん』ということだ」
「……………」
 無表情かつ無感情、そして無機質にジョゼフを見るブレイン卿。
 そんな視線をまるで気にした風もなく、ガリア国王は老人の姿をした『別のモノ』に告げる。
「しかしだ。今回の脚本を書いた人間の一人としては、飽きたからと言ってハイそうですかと放っておくわけにもいかん。それは責任の放棄というものだからな」
「……………」
「ならば、幕引きはせいぜい派手に演出してやろうと思う。そこで……」
 バサリと地図を取り出し、机の上に広げるジョゼフ。
 その地図には、現在トリステイン・ゲルマニア連合軍が駐留しているサウスゴータ地方の地形や、古都シティオブサウスゴータの位置情報などが詳細に記載されていた。
 ジョゼフはその中の一点を指差し、少し弾んだ声でブレイン卿に指示を出す。
「お前があの傀儡を使って入手したという『アンドバリ』の指輪の雫を、この地点にあるという井戸に流し込んで欲しい」
「……効果範囲は?」
「シティオブサウスゴータのおおよそ三分の一くらいか。もっとも、事前に調べさせた水脈の規模や、井戸とシティの位置関係から割り出した俺の概算に過ぎんが」
「実際に与える影響は」
「ふぅむ、こればっかりは実際に試さんことにはな……まあ、話によるとあのクロムウェルの血がたっぷり入っているそうだから、少なくともアレの言いなりにはなるのではないか?」
「……………」
 ブレイン卿は感情の見えない顔のまま沈黙する。
 そしてきっかり10秒後、
「いいじゃろう。デブデダビデを使ってそのように仕向ける」
 ごくごく平淡な口調で、ジョゼフに指示に従うことを了承した。
「うむ」
 ジョゼフはそれに満足そうにうなずくと、そのままブレイン卿に向かって告げた。
「では、俺はこれから『作戦会議』をしなければならんのでな。悪いが外してくれるか」
「……一人で行うことを『会議』とは言わんじゃろう」
「お前とやり取りをしても味気ないんだよ、チェスでも何でも常に無難で『負けない』指し方をしおってからに。……最初の内は面白かったが、腹の探り合いやら考えの読み合いやらの“手ごたえの無さ”に気付くと、恐ろしくつまらん。一人でやった方がまだマシだ」
「そうか」
 召喚主の言葉について肯定も否定もせず、そのまま部屋を出て行く老人。
 ジョゼフはそれを見送るなどということはせず、すぐに部屋の奥、自分の遊興のためのスペースへと向かっていった。
「さあて」
 うむむむ、と首をひねって考え込むジョゼフ。
 目の前に広がるのは、ざっと10メイルはある巨大な箱庭である。
 よく観察してみれば、それがハルケギニアの地図をかたどった大規模な模型であると気付くだろう。
「……………」
 青みがかった髪と髭の美丈夫は、その箱庭の脇においてあった二個のサイコロをおもむろに手に取り……。
「陛下……、陛下!」
「ん?」
 そのまま適当に放り投げようとしたところで、止める。
 部屋を仕切る分厚いカーテンの向こうから、貴婦人の声が聞こえてきたのだ。
「お探しのものを見つけて参りましたわ!」
「おお!!」
 貴婦人の言葉を耳に入れた瞬間、ジョゼフは自分から分厚いカーテンを開き、部屋の入り口まで小走りに向かっていく。
 そこには貴族然とした美しい女性がニコニコと笑みを浮かべながら立っており、彼女はその手に持った20サントほどの箱をジョゼフに差し出した。
「モリエール夫人! モリエール夫人! あなたは私の最大の理解者だ!!」
「彼を陛下の軍勢に加えてくださいまし」
「うむ!」
 ガリア王はまるで子供のようにはしゃぎながら、モリエール夫人から受け取った箱を開けていく。
 そして箱の中身を確認すると、更に喜色を強くした。
「これは! これは前カーペー時代の重装魔法騎士ではないか! このような逸品を! あなたは素晴らしい人だ、モリエール夫人!!」
 二十サントほどの錫で出来た人形を持ち、眺めながら大喜びするジョゼフ。
 彼はひとしきり喜んだあと、上機嫌なままでモリエール夫人の手をとって先程まで自分がいた遊興のためのスペースへと彼女を案内した。
「さあさあ、これをご覧になって欲しい! 私の『世界(ハルケギニア)』だ!!」
「まあ! 綺麗な箱庭でございますこと! 素晴らしいわ!」
「国中の細工師を呼んで作らせたのだ! 完成までに一ヶ月もかかった!」
「今度は模型遊びでございますの? あの『お知り合い』との将棋遊びにもお飽きになられたのですか?」
 ジョゼフはブレイン卿のことを、対外的には『知り合い』ということで通していた。
 ……普通ならば、このようにして王に取り入った人間はまず間違いなく怪しまれるところである。
 だが、そうならない理由が二つほどあった。
 一つは、どうせ『無能王』のいつもの気まぐれだという見方が大半であること。
 そしてもう一つは、その老人本人が王の相手をする以外は、王宮内の見られても全く問題ない区画をウロウロするくらいで、本当に特に何もしないことである。
 その二つの理由でもって、ブレイン卿は基本的には放置されていた。
 なお、モリエール夫人も一時はジョゼフとブレイン卿の関係について『邪推』していた。
 そしてまさかと思いつつも内偵を放って監視をしたところ、本当にジョゼフとは適当な遊びをするか、何かよく分からない話をするかだけで、何だか妙な期待外れ感を味わったりもしている。
 ともあれモリエール夫人としては、あの老人は『どうでもいい人』に分類されているのだ。
 閑話休題。
「いやいや、これについては一人でやっている」
「まあ、また一人将棋に逆戻りですの? ……お尋ねしてよろしいかしら?」
「ん?」
「私、いつも不思議に思っておりましたの。どこが楽しいのかしらって」
「どうしてだね?」
「だって、敵の手まで指すことはありませんわ。敵の駒も味方の駒もご自分で動かして、何が楽しいのですか?」
「……悲しいことに、余の相手になるほどの指し手はどこにもおらぬのだ」
 苦笑するモリエール夫人。
 一方のジョゼフは、かつてたった一人だけいた『自分の相手になるほどの指し手』に思いを馳せる。
 ……だがそれを一瞬で打ち切ると、目の前の貴婦人に対して自説を披露し始めた。
「将棋と言うのは、突き詰めれば定石の応酬でな。ある一定のパターンをなぞることに終始してしまう。だが、余の考えたこの遊びは違うのだ!」
 ジョゼフは『自分が考えた遊び』について説明を始めた。
 曰く―――
 現実と同じような地形……丘、山、川、地形の起伏、都市や村、およびそこにある建築物までを可能な限り再現した箱庭を作り、その上で駒を動かす。
 駒については、槍兵、弓兵、銃兵、騎士、竜騎士、砲兵、砲亀兵、軍艦……と、実際の軍備を模したものを使う。
 駒の勝敗は、サイコロを振って決める。
 そのような不確定要素を使用することによって、結果に『揺らぎ』が生じる。
 すると、実際の戦を指揮しているような面白味が生まれる。
 ―――取りあえずの概要は、こんなところだ。
「では私も、陛下の親衛隊に加えてくださいまし」
 ガリア王が語った『遊び』の面白さを理解しているのかいないのか、モリエール夫人がニコニコと微笑みながらそんなことを言ってくる。
 愛人のそんな要望に対して、王は快く受け入れた。
「喜んで。貴女を花壇騎士団の団長にしてあげよう。ほら、このように貴女は騎士だってちゃんと持っているんだから」
「まあ! 栄誉あるガリア花壇騎士にしてくださいますの? 私、みんなから妬まれてしまうわ!」
 モリエール夫人が持って来た騎士人形に口付けし、箱庭の上に置くジョゼフ。
 ……ちなみにこの時、ジョゼフは冗談などを一切抜きにして、本気でモリエール夫人を花壇騎士団の団長に任命することに決めていた。
「世界一美しい騎士団長の誕生に乾杯!!」
 そばにあったグラスを持ち、自分でワインを注いでモリエール夫人に手渡すジョゼフ。
 更に自分のグラスにもワインを注ぐと、それをモリエール夫人と同じタイミングで飲み始める。
「この箱庭遊びも、陛下がお一人で敵と味方を兼ねておられるのですか?」
「当然だよ」
 ワインをあおりながら、再びジョゼフは語った。
「言っただろう? このハルケギニアに、余ほどの指し手はおらぬと。自分で作戦を―――巧妙で緻密な作戦を立て、それをこうして自分で受ける。勝ち誇る己を、己の手で粉砕する。……言うならば、余はこの箱庭を舞台に芝居を演出する、劇作家と言ったところか」
「まあ、この箱庭は本当に精密でございますね」
 箱庭の至るところに立っている兵隊の人形を眺めながら、モリエール夫人が尋ねる。
「ここでどんなドラマが繰り広げられておりますの? 私に説明してくださいまし」
「うむ」
 ジョゼフは城壁に囲まれた都市を指差し、説明を始める。
「現在『青軍』がこの都市を占領したばかりだ。……そして、こちらの都市にこもった『赤軍』と睨み合っている。もっとも、今は降臨祭なので停戦しているがね」
 次に、大きな建物の模型が並んでいる都市を指差す。
「さてさて、ここからが面白い。『青軍』は勝利に酔っている! その隙にこちらの『赤軍』はとんでもない“切り札”を使い、逆転するのだ!!」
「では、この戦はこちらの……『赤軍』が勝ちますの?」
「それが……実は、最終的な勝敗は決めていなくてなあ」
 困ったような顔を見せるジョゼフ。
「逆転劇を拝見したら、この対局を終わらせることは決めているのだが、どっちを勝たせるかとなると……おお、そうだ!」
 ジョゼフはパッと華やいだ表情になると、モリエール夫人にサイコロを二つ手渡す。
「これは?」
「せっかくだ、モリエール夫人。この戦の勝敗は、あなたに決めてもらいたい」
「あら、責任重大ですこと!」
「なあに、そう難しいことではない。この二つのサイを振るだけだよ」
「そうですか? では……」
 笑みを浮かべたままで二個のサイコロを振るモリエール夫人。
 そうして出た目を見て、ジョゼフは大げさに声を上げた。
「おお、七か! 微妙な数字だ! さすが、余が目をつけた女性なだけはある!!」
「うふふ」
「ええと……この場合は……、……よし」
 アゴに手を当てて考え込んだ後、ジョゼフは厚いカーテンの向こうに控えていた男(部屋の構造上、モリエール夫人が入って来る時には見えていなかった)を呼び出した。
 なお、男はこの国の大臣である。
 いつ命令を下しても構わぬよう、ジョゼフがここに控えさせていたのだ。
「大臣。詔勅である」
「はい」
「艦隊を召集しろ。アルビオンにいる『敵』を吹き飛ばせ。三日でカタを付けろ」
「御意」
 簡素なやり取り。
 それこそ『あの人形を手に入れて来い』だとか『箱庭の駒を動かせ』だとかいう気軽さで、ジョゼフは大臣に命じる。
 そして大臣は命令を聞くと、黙ったままで退出していった。
「へ……、陛下……」
 一連のやり取りを呆然と見ていたモリエール夫人は、ガタガタと身体を震わせ始めた。
 顔色は一気に青白く染まり、表情は恐怖にゆがみ、そして先程自分がサイコロを振った手を見つめている。
「ん? どうしたモリエール夫人、寒いのか?」
 ジョゼフは小姓を呼ぶための鈴を鳴らした。
 部屋の外に控えさせている小姓が、いそいそとジョゼフの前に駆け寄ってくる。
「小姓、暖炉に薪をくべてくれ。夫人が震えている」
 大臣にしたのと同じ調子で、ジョゼフは小姓に命じた。
「陛下……、おお、陛下……」
「どうしたモリエール夫人? 由緒あるガリア花壇騎士団の団長が、そのような臆病では困ってしまうぞ?」
 冗談めかした言い方をしつつ、ガリア王はまた別のことを考える。
 ―――ブレイン卿とのやり取りの中で、ジョゼフは自分をこう評していた。
 『今回の脚本を書いた人間の一人』。
 それはすなわち、ジョゼフとは別にこの戦争の筋書きを考えた人間がいる、ということでもある。
 ジョゼフにはそれが誰なのか、おおよその察しが付いていた。
 おそらくはあの異形の怪物―――アインストを操っている者。
 あの怪物が出現する時には、一定の法則のようなものがある。
 アルビオン軍が軍事行動を起こしている、または起こそうとする時……あるいはアルビオンの軍事拠点のすぐ近くを、狙ったようにして現れるのだ。
 散発的に各地に出現するのならばともかく、いくら何でも出現位置やタイミングが人為的と言うか、作為的過ぎる。
 何らかの『意思』が働いていると見て間違いないだろう。
 ブレイン卿、いやダークブレインはそれが何者なのか察しているようだが……。
(……それを早々に聞いてしまっても、つまらんしな)
 まあ、ああいう不確定要素があれば盛り上がるし、こっちとしても脚本の組み立てがいがある。
 それに何より、その方が面白い。
(さて、脚本は立てた。結末も決めた。あとはアインスト側の出方と……)
 ジョゼフは相変わらず震え続けるモリエール夫人の背中を撫でさすりながら、その顔に無邪気な笑顔を浮かべる。
(舞台上の『アドリブ』と、もしかしたら起こるかも知れん『ハプニング』に期待するとしようか)


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