あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-50a


 ユーゼスは、空を飛ばされていた。
 飛ば『される』。
 受け身である。
「……………」
 飛ばされながら考える。
 なぜこうなったのだろう、と。
 初めは部屋に閉じこもるカトレアの機嫌を何とかするため、その相談相手を探していただけだった。
 エレオノールは屋敷にいない。
 ルイズには既に相談済み。
 ラ・ヴァリエール公爵とは、相談ごとを持ちかけられるほど親しくもなく。
 屋敷の他の使用人もよろしくはあるまい。
 ならば最後の手段、ということでラ・ヴァリエール公爵夫人ことカリーヌに対して、
『御息女にアクセサリーを贈ろうと思うのですが、何か良いものはないでしょうか?』
 と尋ねた結果、公爵夫人は何とも形容しがたい表情となり。
 その十数秒後、
『……なまっていないか見てあげますから、外に出なさい』
 と彼女に言われて。
 言われた通りに外に出たら、完全装備のカリーヌ・デジレが登場。
 そして『烈風』と呼ばれた伝説的なメイジの苛烈な攻撃に見舞われ、現在に至る。
「……………」
 ただ相談を持ちかけただけだったのに、公爵夫人の心中では一体どのような思考が働いたのだろう。
 まあ、以前に稽古をつけていた相手の、今の実力のほどを知りたいという気持ちは分からないでもないが。
「っ」
 ズシャアッ
 ユーゼスは着地と言うには少々不恰好なやり方で、空中から地面に『滑り込む』。
 そしてそのままゴロゴロと(もちろんカリーヌとは反対の方向に)回転し、落下の衝撃を可能な限り打ち消す。
 ルイズの夏期休暇中、数えるのも馬鹿らしいほどカリーヌにこうして吹き飛ばされた結果、身につけざるを得なかった落下に対する受け身のスキルであった。
 ちなみに白衣はあらかじめ脱いであるので、汚れを気にする必要はそんなにない。
「ほう」
 一方、ユーゼスを吹き飛ばした当のカリーヌは感心したような声を上げていた。
「誰が仕上げたか知りませんが、なかなか良くまとまっています。
 取りあえず及第点はあげておきましょう」
「…………!」
 しかし、そんなことを言いつつも攻撃の手は緩めない。
 容赦もない。
 と言うか、どう控えめに捉えても夏より攻撃の激しさが増していた。
 アニエスによる訓練とメンヌヴィルとの戦闘経験がなければ、さばき切れないほどの連続攻撃だ。
「もっとも、あなた程度の技量で『まとまり過ぎて』いても困りますが……」
「!」
 言い終わると、カリーヌはいきなり物凄いスピードでユーゼスへと接近する。
 おそらく『フライ』を使い、地を這うような超低空飛行を行っているのだろう。
 そしてそんな分析をしている間にも鉄仮面の女メイジはユーゼスに肉迫し、判別が出来ないほど小声かつ早口で何かのスペルを唱え……。
 ドゴッ!!
(『エア・ハンマー』……いや『ウィンド・ブレイク』か)
 ユーゼスは吹き飛ばされつつ、自分を吹き飛ばした魔法の正体に当たりをつける。
 ……吹き飛ばされた衝撃で、手に持っているオリハルコニウムの剣は手から離れつつあった。
 こうして考える余裕があるということはカリーヌもそれなりに手加減してくれてはいるのだろうが、それでも『烈風』の攻撃をマトモに受けているのだ。
 手に持った武器を放すなと言う方に無理がある。
 ついでに言うと、武器から手を離せばガンダールヴのルーンの効果もなくなる。
 そうすると肉体強化もなくなることになり、現在受けている最中のダメージの量も増大。
 また、最近は忘れがちだがユーゼス・ゴッツォの身体能力は決して高い方とは言えず、むしろ低い方であって。
 つまり肉体のダメージ許容量も低く、『ウィンド・ブレイク』をまともに受けでもしたら簡単に許容量はオーバーしてしまう。
 それがどういうことなのか、と言うと。
「…………っ」
 許容量を超えたダメージを受けたユーゼスは、意識を失うしかないのであった。


「ぐぅ……っ、ぬ……」
 痛む身体を引きずりながら、ユーゼスはラ・ヴァリエールの屋敷の廊下を歩く。
 分かっていたことだが、やはりカリーヌは強かった。
 手も足も出ないと言うほどではないにせよ、戦闘能力にはかなりの差がある。
 ……ユーゼスとしても、自分がメンヌヴィル戦ほどのテンションを発揮することさえ出来れば、もう少し良い勝負になるとは思っている。
 しかし、あんなテンションなどそう頻繁に出せるものでもない。
 感情をコントロールするなど、並大抵の人間には不可能なのである。
 もっとも、相手をしているカリーヌとて何だかんだで手加減はしてくれているはずだった。
 殺傷能力の高い『ブレイド』や『エア・スピアー』、『ウィンド・カッター』などを使わなかったことからも、それはうかがえる。
 とは言え。
 『ガンダールヴ付きのユーゼス・ゴッツォ(テンション低め)』と『それなりに手加減したカリーヌ・デジレ』では、どうひいき目に見ても後者に分があるだろう。
 まあ、お互いが能力を十全に発揮した状態で戦ったら、結果は分からないが。
(……もっとも、私が能力を『本当の意味で十全に』発揮した場合、勝つどころかマトモな戦闘にすらならんだろうがな……)
 どうにも両極端な我が身を呪いつつ、ユーゼスは自室として用意された部屋にたどり着く。
 物置部屋を簡単に改修しただけあって壁にはホウキが立てかけてあったり、ベッドの端には雑巾がかけられていたりしているが、召喚された直後のようなワラ束の寝床よりはマシだ。
 それに、若い頃は独房に押し込められていたことを思えば大したこともない。
「うっ……」
 ドサリとベッドに倒れこむユーゼス。
 身体はこれでもかというほど痛めつけられてしまったが、しかし収穫が何もない訳ではなかった。
 カリーヌから『女性へ贈るアクセサリー』についての情報を聞き出すという目的自体は、達成していたのである。
「さて……」
 痛む身体をあえて意識から外し、公爵夫人より得られた情報を整理する。
 女性へと贈るアクセサリー。
 候補として挙げられるのは、次の通りだ。
 ブレスレット。
 アンクレット。
 指輪。
 髪飾り。
 ネックレス、またはペンダント。
 ピアス、またはイヤリング。
 ブローチ。
 この内、指輪はストレート過ぎるので、またアンクレットは少々意味がややこしくなるのでやめるべき。
 ただのネックレスよりは、アクセントの入ったペンダントの方が良い。
 また、店で購入するよりは手作りの方が望ましい。
「ふむ」
 『ストレート過ぎる』とか『アンクレットの意味』とかはよく分からないが、とにかく参考にはなる。
 ではこれらを踏まえた上で、自分はどのようなアクセサリーをカトレアに贈るべきなのか。
「…………無難な路線でいくか」
 ユーゼスは心の中で髪飾りとピアス、イヤリングに×を付ける。
 すでにカトレアは髪飾りをつけているし、余計なものを上乗せするのは好ましくあるまい。
 それに耳飾りというのも、カトレアのイメージにはそぐわないような気がする。あくまで個人的な印象だが。
「あとは……」
 ブローチも少々、子供っぽいだろうか。
 ……少々偏見が入っている気がするが、『自分が贈るもの』だから構うまい。
「……………」
 とにかく、これで候補は二つに絞られた。
 ブレスレットとペンダント。
 ユーゼスはしばしの間、どちらにしようかと黙考し……。
「よし」
 カトレアに贈るものを決めると、次の段階へと入る。
 購入するか、作成するか。
 手作りの方が望ましいとは言うものの、ユーゼスは『錬金』の魔法は使えないし、金属加工の技術なども持ち合わせていない。
 ならばどこかで買うしかないのか……と考えるが、そこでふとあることを思い出した。
「オリハルコニウムが余っていたな」
 以前に剣を作ったとき、余ったオリハルコニウムを『後で使えるかも知れない』という理由で異空間に仕舞っておいたのだ。
 ……どうせこのままでは使い道もないだろうし、いっそのこと、ここで使うのも悪くはない。
 問題は加工方法だが、
「―――剣を作るのも、アクセサリーを作るのも大差はあるまい」
 この際、因果律を操作して作ってしまおう。
 その程度の芸当は造作もないことであるし、その行為が『世界』に対して多大な影響を及ぼすとも考えにくい。
「では……」
 ユーゼスはナノチップとして脳内に埋め込んである、クロスゲート・パラダイム・システムを起動する。
 そして『自分の空間』に仕舞ったままのオリハルコニウムのインゴッドを取り出し、目当てのアクセサリーへと加工を開始した。
 大き過ぎず、小さ過ぎず。
 デザインは……取りあえず派手過ぎず。
「……………」
 出来た。
 さて、あとはこれをカトレアに渡すだけだ。
 渡すだけなのだが……。
「…………どうやって渡す?」
 部屋に閉じこもってしまっているカトレアへの接触。
 この問題をクリアしないことには、プレゼントを渡すどころかマトモな話すら出来ないということに今更ながら気付いた。
「ええい……」
 思わずイラついた声をあげるユーゼス。
 そうして更に悩んだ末、彼は―――


 一方、ユーゼス・ゴッツォを悩ませている女性、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌは。
「…………ぅぅ」
 ベッドに伏しながら、激しく落ち込んでいた。
 理由はもちろん、先日の吐血である。
「うぅぅ……」
 吐血すること自体はカトレアにとって、別に珍しいことではない。
 慣れていると言ってもいいだろう。
 子供の頃など、夜に眠っている間に少し吐血して呼吸困難になりかけたほどだ。
 だが。
 この『口から血を吐く』という光景は……控えめに言っても、見苦しい。
 少なくとも自分にとってはそうだ。
 そんな見苦しい様を、意中の男性に見られてしまった。
 ……いや、見られただけならまだしも、その内情まで看破されてしまった。本心までは分かっていないようだったが。
 そんなことがあったので、カトレアの女心は深く傷付いてしまっていたのである。
「……………」
 ユーゼスは自分が血を吐く光景を見ようとも大して気にはしていない様子だったし、『気にするな』という旨の発言をしていた。
 おそらく、本当に気にしていないのだろう。
 しかし。
 たとえユーゼスが気にしていなくても、自分は物凄く気にしてしまうのだ。
 彼の前では、清く美しく……とまではいかないまでも、せめてあんな姿は見せたくなかった。
 そして、そんな自分の気持ちを理解してくれないユーゼスのことがちょっぴり恨めしく、でもそんなユーゼスだから惹かれたとも言えるわけで。
「はぅ……」
 今の自分の心境を上手く表現することは難しいのだが……何だろう、こう、例えば自分の心が一件の屋敷だったとするとだ。
 その屋敷の中核に近い部屋に、ある日突然、銀髪の男が住み着いてしまった。
 別にそれ自体は構わないし、他にも住人は色々いる。
 だけれども、ちょっと事情があって、その男には一時的にでも屋敷から出て行ってもらわなくてはならなくなった。
 屋敷の主であるところの自分は、何とかして銀髪の男を屋敷の外に出そうとするのだが……。
 これがもう、全然出て行ってくれない。
 いや、出て行かせる立場のはずの自分が、立ち退きを要請しきれないと言うか。
 むしろ自分は、この男を出て行かせる気なんて全くないのでは?
 そんな感じである。
「―――……ぅう」
 何だかさっきから『うう』とかしか言ってない気がするが、この部屋には自分しかいないので特に問題はない。
 いや、自分しかいないと言うのは間違いか。
 この部屋には自分の他に、たくさんの動物たちがいるのだ。
 そう、今も少し耳をすませば、彼らの息遣いや鳴き声が聞こえてくる。
 わんわん。
 にゃーにゃー。
 ぐるるんっ。
 ちちちっ、ぴぴぴぴっ。
 がうがう。
 うおっ!? くっ……ぬぅっ!!
「?」
 今、動物たちの声に混じって、誰かの声が聞こえたような。
 その声は今世界で一番聞きなくなくて、同時に世界で一番聞きたい声だったような。
「…………?」
 気になったので、その声のした方向に振り向いてみる。
 もしかしたら賊が侵入してきたのかも知れないので、手には杖を持っておくのも忘れない。
 そしてカトレアなりに警戒しつつ、おそるおそる振り向いてみれば……。
「このっ……ええい、やめろ、のしかかってくるな!」
 ユーゼス・ゴッツォが、カトレアの飼っている数々の動物たちとたわむれていた。
 ……もっとも見ようによっては、様々な種類の動物たちの群れに、一方的に襲撃されているようにも映ったが。
「……………」
 呆然とするカトレア。
 目の前で展開されている光景と思考が追い付かない。
 取りあえずカトレアが思いついたことは、
(―――ユーゼスさんは、どうやってこの部屋に入ってきたのかしら?)
 こんなことだった。
 ……いくら今のカトレアが落ち込んでいるとは言え、扉を開けて部屋に入ってくる人間に気付かないほど注意力散漫ではない。
 と言うか、この部屋には鍵をかけていたはず。
 万一にでも侵入者が来た時のことを考慮した、『アンロック』も効かない特別製の鍵。
 そんな鍵がユーゼスに開けられるとは思えない。
 力づくで入ってきた形跡も見られないし、だとしたらどんな手段を使ってこの閉ざされた部屋に現れたというのか。
 壁の外側から内側までの距離も障害物も無視して、部屋の中にいきなり出現した―――とかいうのであれば話は別だけれど、そんなことはどんな系統の魔法でも不可能だ。
 ……いや、確か、ある地点とある地点とを結ぶマジックアイテムが存在すると聞いたことはあるような気がするが、少なくともこの部屋にそんなものは存在しない。
「―――――」
 だが、そんなことは些細な問題だ。
 ちっとも些細じゃない気もするが、とにかく一番重要なことはそれではない。
 ここで重要なのは……。
「……どうしてここにいるんですか、ユーゼスさん?」
 そう、これだ。
 『どうやって』よりも『どうして』。
 ここに、カトレアの部屋に彼が来た理由。
 それが知りたい。
「…………それを答えるのは構わんが、その前にこの動物たちを退かしてもらいないだろうか」
「あら」
 言われてあらためて気付いたが、ユーゼスは多くの動物たちにのしかかられている。
 これではマトモに話も出来まい。
 いつもはこの動物たちが昼寝をしている時間に診察をしているので、あまり意識することはなかったのだが。
「ほらほら。お客さまが来て嬉しいのは分かるけれど、あんまりじゃれつき過ぎちゃダメよ」
 カトレアにそう言われて、ユーゼスにまとわりついていた動物たちは次々に離れていく。
 後に残されたのは、少々身なりが乱れた銀髪の男だけだ。
「大丈夫ですか?」
「うむ。怪獣と格闘をしている時のウルトラマンの気持ちが少し分かった気がする」
「はい?」
 こんな風に、たまによく分からないことを言うのは彼の癖なのだろうか。
 まあ、それはそれとして。
「……さっきの私の質問に、答えてほしいんですけれど」
「分かった」
 ユーゼスは少々よろめきながら身体を起こすと、乱れた髪や白衣を手で軽く直し、カトレアの正面に立つ。
 そして。
「これだ」
 懐から銀色に光るブレスレットを取り出し、カトレアの前に差し出した。
(……きれい)
 そのブレスレットを見た、カトレアの素直な感想である。
 神秘的な印象すら受けるその輝き。
 そして、巧みさは感じられないものの丁寧さを感じさせるデザイン。
 外の世界を知らないカトレアにはよく分からないが、まともに買ったらそれなりの値段はするだろう。
 とは言うものの……。
「それがどうかしたんですか?」
 『このブレスレットが自分の部屋に来た理由だ』と言われても、いまいちピンとこない。
 ユーゼスの性格からして、買ったものを見せびらかしに来たというわけでもないだろう。
 一体何なのかしら……などと考えていると。
「……これをお前に渡しに来た」
「え?」
 ユーゼスの口から、とんでもない言葉が発せられた。
「こういうことは初めてなのでな。渡し方に何か間違いがあったらすまないのだが」
「……………」
 何が何だか分からなくなる。
 自分に用事があるのだろう、とは思っていた。
 この部屋にいるのは、自分の他には動物たちだけ。
 ユーゼスが動物たちに用事があるわけはないから、カトレアに対して何らかの用事があるのは自明の理だ。
 けれど。
 だからって。
 いえ。
 ちょっと待って。
 これって。
 つまり。
 いわゆる。
 ―――その、殿方からの贈り物、というやつではなかろうか。
「…………え、ええ!?」
 たっぷり間をおいた後、驚くカトレア。
 どちらかと言うとおっとりしているカトレアの性格上、こうやって『声をあげてまで驚く』という行為はかなり珍しかった。
「それほど驚くほどのことか?」
「あ……い、いえ、ごめんなさい。その、ちょっと予想してなかったものですから」
「そういうものか」
 いくつかのパーツで構成されているブレスレットから、チャラ、と金属音が響く。
 そう言えば、ユーゼスの手はブレスレットをカトレアに差し出したままだ。
 いつまでもこのままにしてはおけない。
「…………っ」
 おずおずと自分も手を伸ばし、ブレスレットに触れようとするカトレア。
 ……何だか緊張する。
 そしてチラリとユーゼスの顔を見てみれば、やっぱり全然緊張していないように見えた。
(もう……)
 そんな彼の態度にやきもきしてくる。
 まあ、分かってはいるのだ。
 彼自身は、その……『そういう意図』を込めたのではない、ということくらいは。
 でも、父以外の男性からこうやってプレゼントを贈られるなんて、初めてだし。
 どうやったのかはよく分からないけれど、ユーゼスさんは『私のために』ここに来てくれたんだし。
 だから、ちょっと動揺とか逡巡とかがあったって、仕方がないのだ。
 と、そんな風にカトレアは自分自身に言いわけしていた。
「…………あら?」
 いや、ちょっと待って。
 さっきユーゼスさんは『こういうことは初めて』って言ってたわ。
 つまりこうやってプレゼントを渡したのは、私が最初。
 ……私が、初めて。
 誰よりも先に。
 ―――エレオノール姉さまよりも、先に。
 この私が。
 ユーゼスさんの、初めての―――
「…………む」
 そんなカトレアの内心の複雑な動きをユーゼスは曲解したらしく、差し出したブレスレットを取り下げ、
「気に入らなかったか? それなら別の」
「い、いいえ、とっても気に入りましたっ。ですから、ユーゼスさんの初めてのプレゼントはありがたく貰っておきますっ」
 ……ようとしたところでカトレアに慌てて引き止められ、少々強引に受け取りが完了する。
「うむ」
 ユーゼスはカトレアにしては積極的な行為に少々驚きつつ、受け渡しが済んだことに満足したようだった。
「よいしょ、と」
 カトレアは早速ブレスレットを左手首に装着し、ユーゼスに見せるようにその手を軽く掲げる。
「ありがとうございます、ユーゼスさん。大事にしますね」
「ああ、そうしてくれれば私も作った甲斐がある」
「……え、これってユーゼスさんが自分で作ったんですか?」
「そうだ」
「まあ」
 てっきりトリスタニアあたりで買って来たとか、そうでなくてもどこかの職人に依頼したと思ったのに、意外な製造元である。
 しかし……そう考えると、何だかこのブレスレットがとても特別なものに思えてきた。
「ユーゼスさんの手作り、かぁ……」
「『手』で作ったわけではないがな」
 そんな呟きも耳には入らず、カトレアは左手首のブレスレットをチャラチャラといじったり、色んな角度から見たりする。
 その顔は夢中になっていると言うか、『にへらー』としていると言うか、うっとりと言うか、とにかくそんな感じに緩んでいた。
「うふふ……ユーゼスさんから、初めて……もらっちゃったぁ……」


 一方、カトレアを恍惚とさせた張本人であるユーゼス・ゴッツォはと言うと。
(ふぅむ……何気なく作ったものだと言うのに、あれほど機嫌がよくなるとは……)
 ラ・ヴァリエール家次女のこんな恍惚っぷりを見て。
(……成程。このようなプレゼントは、女性に喜ばれるものなのだな)
 余計な知恵をつけていたのであった。


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