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世界最強コンビハルケギニアに立つ-16





「頑張るのはいいが、死んだら赤点じゃすまないぜ優等生」
「さ、サボってた奴に言われたくないわよ!」

地面に下ろされ、ようやく我に返ったらしきルイズがまず発したのは恨み言。
その声は上ずり、威厳など微塵も感じられないのだが、おそらくそれが彼女が今張ることの出来る精一杯の虚勢なのだろう。

「そりゃ悪かった」

極めて適当に謝罪しつつ、暁はゆっくりとゴーレムのほうへと向き直る。
青空の下、その威容は夜の闇の中で見せたそれとは段違いの存在感を放ちながら暁たちを見下ろしている。
こんなものに立ち向かうなど馬鹿のすることだ。そんな声が心の奥底から聞こえた気がした。

「――サボった分働いてくるから、それで勘弁してくれ」

それでも暁はゆっくりと歩を進める。そしてその顔には――笑み。
心を占めるのは歓喜と期待。そこに不安や恐怖が介在する余地も、理由もない。
かつて病気とすら評された暁の性質はただ、眼前にそびえ立つ強大な存在との対決を望んでいた。
自分より先に挑んで窮地に陥っている馬鹿を救い出すという大義名分もある。今の暁に止まる理由などありはしない。

「さて、狼の腹ん中から屈強な赤ずきんを引っ張り出す作業でも始めますかね」

そして何より、確実でこそ無いが勝算もある。
途方もなく猟奇的な笑顔とともに――暁は身にまとう『神秘の鎧』を起動した。



その鎧の第一印象は、黒いレザーアーマー。
しかし胴体から腕の先まで上半身全体を覆い、所々に装甲の追加されたシルエットはフルプレートのようで。
それでいて抱きかかえられたときに感じた触感は、鎧の大部分が革や金属ではなく麻のような繊維で編まれていると主張していた。
故にルイズからみたそれは、鎧ではなく『鎧を模した厚手の服』であり――。

『まぁ私には、ただの変な服にしか見えませんでしたけど』

思い出されるのは、道中のキュルケの言葉。
ルイズは神秘の鎧の実物を目にしたことがなく、見た目の特徴なども知らない。
そしてキュルケの話す鎧の特徴もほとんどが頭の中でかみ合わず、ただ漠然と華美な金属鎧を想像していた。
だが――暁が身にまとう鎧を見た瞬間、何かがカチリとかみ合う音がした。神秘の鎧はきっとああいう形状なのだろう、と。

『その堅さはダイヤに勝り、軽さは布にも劣らない。さらには片手でミノタウロスと切り結べるほどの力を与える』

どこまでも胡散臭く、まるで現実味など感じられない伝承を持つ学院に伝わる秘宝。
そんな得体の知れない代物を着ているにもかかわらず、暁の背中からは余裕と自信が感じられる。
まるで神秘の鎧が何物かを知っており、これを着ればゴーレムにすら勝てると言わんばかりに。

――伝承は全て真実なのかもしれない。

そんな思いがルイズの脳裏をよぎる。
伝承が真実である保証はなく、暁が着ているそれが神秘の鎧かどうかすら定かではない。
それでも、心の中で徐々に期待が膨らんでいくのをルイズは確かに感じていた。



暁がその歩みを止めたのはゴーレムから数メートル。ゴーレムの間合いの中。
自らの間合いなどとは口が裂けても言えず、ただ一方的にゴーレムの攻撃を喰らうであろう距離。
ただ立っているだけで、何か冷たいものが背筋を駆け抜ける――そんな場所に、武器すら構えることなく暁は佇んでいる。

(やっぱりでけぇな)

蟻と象と評するのは大げさすぎるとしても、暁とゴーレムの間には『大きさ』という明確な差がある。
それは純粋な戦闘力の差であり、ボーはその差を乗り越えることが出来なかった。
ならば暁も乗り越えられないと考えるのが道理。
ゆっくりと拳を振り上げるゴーレムから感じる圧力もまた、強くそう主張している。

(ボーでダメなら俺でもダメだ――ってか?)

迫る拳はまるで岩石。
そう『たかが』岩石。

「あんまり舐めんなよ、デカブツ」

強い言葉とともに暁が地を蹴る。土の拳を潜り抜け、相手の懐へと。
恐怖を感じないわけではない。恐怖を感じない人間がいるとすれば、それはただの馬鹿だ。
暁にとって、そしてボーにとっては『この程度では逃げるに値しない』というだけの話である。

「喰らいな」

打ち出したのは淡く光る両の掌。ボーと変わらない、素手による一撃。
だが――その一撃がもたらした効果は、結果は、あまりにも異なっていた。

――ドクン。

ゴーレムの体が波打つ。

――ドクン。

そして一瞬の後、まるで砂袋を裂いたかのように、腹部の土が『決壊』した。



ボー・ブランシェは土でできた胃袋の中、外を目指して必死にもがいていた。
現在の状況は完全に生き埋めのそれである。息を止めるにしても限界というものがあり、その限界はそれほど遠くない。
このままだと窒息死――そんな結末は当然ながらお断りであったものの、身体は動かすことができない。

(おのれぇえええ!こんなところで死にはせんぞぉぉおおお!!)

とりあえず気合を入れるために心の中で叫ぶ。気合だけではどうにもならないのはわかりきっていたが、
ボーとしては何とか今現在の有り余る熱情を結果に結び付けたかった。
そして再び身体に力を入れようとしたとき、ボーは違和感に気付いた。
感じるのは、周囲の全てが流れているかのような不思議な感覚。
それはかつて宿命のライバル、御神苗優の姦計に見事に嵌り、雪崩に巻き込まれた時の感覚によく似ていた。

「な――」

そして実際に、ボーの周囲の土くれは彼の身体ごと流れていた。
流れはどこへ向かっているのか。そもそも何故流れているのかまるで理解できない。
だがその状況にボーは途方もない身の危険を感じていた。
急激な、そして予想外の状況の変化に混乱しながらもボーは必死に受身の体勢を模索する。
果たして、その行動に効果はあったのか――。
ボーの身体は数メートルの落下を経て、ものの見事に背中から地面に叩きつけられた。

「ゲフッ!」

肺が溜め込んだほぼ全ての空気を吐き出す。
そして吐いた分の酸素を取り戻そうとした肺が空気と同時に大量の砂埃を吸い込み、盛大にボーは咳き込んだ。

「大丈夫かー?」

自分を気遣うようでその実どうでもよさそうな声をボーは聞いた。
それは彼にとっての相棒、暁巌の声。
瞬間、ボーの脳裏に浮かんだのは外に出たという実感でも、相棒に対する感謝の言葉でもなく――。

「殺す気か貴様ああああああああああああああ!!」

元凶は暁であるという理解と、彼に対する怒り。

「うるせーよ。つーか助けてやったんだからまず感謝の言葉を述べやがれ。そして下がってろ、邪魔」
「私のことを露ほども気にかけていなかった男に何を感謝しろというのだ!それに邪魔とは何だ!貴様まさか一人でこのデカブツと戦うつもりか!」
「そのつもりだが?」

暁がさも当然のように、『何故そんなことをわざわざ聞くのか』とでも言いたげに発した言葉。
それを聞いてようやくボーは気付く。暁が着込む『鎧』の存在に。

「チッ、やはり神秘の鎧とは筋肉服か」
「そうだったらしいぜ」

暁が背からデルフリンガーを引き抜く。
その眼はすでにボーではなく、徐々にではあるが腹部の損傷が回復していくゴーレムへと向けられている。

「……仕方あるまい、ここは貴様に譲ってやろう」
「譲らなくていいからどいてろよ」
「何ィ!?」

二人がそれぞれの後方へと飛び退る。
直後、その場所に巨大な拳が振り下ろされ、大地を揺らした。
ゴーレムのダメージはまだ回復しきっていない。それでも、戦闘力はほとんど衰えていない様子が伺える。

――そもそも自分ではゴーレムにさしたるダメージを与えることができない。

ボー自身、それくらいのことは理解している。
だからもう一度、拳が今度は自らに向け振り下ろされんとした瞬間、彼は再度後方へと跳んだ。

――だが、今の暁はおそらくゴーレムなど問題にしない。

その行動は、ボーなりの意思表示。
そして、それとほぼ同時に――

【おいおい、てめーの相手はこっちだぜ!】

やけに楽しそうな声とともに振るわれたデルフリンガーがゴーレムの腕にめり込み、そして斬り飛ばした。



「ボー!大丈夫なの!?」

間近に着地したボーのもとへルイズは駆け寄る。

「ああ、特に問題はない。心配をかけたな」

そう言って笑うボーは体中いたるところが土にまみれていた。
本当に土の中から這い出してきたような、そんな汚れ方。
だがそれを払う様子もなく、ボーは前へと向き直る。
彼の視線の先では暁がサイズ差を完全に無視し、ゴーレムと互角の戦いを繰り広げている。

「ルイズ、神秘の鎧は『学院長の旧い友人の持ち物』だったのだな?」
「え?う、うん。そう聞いてるわ」

実際のところ、ルイズは神秘の鎧について詳しいことは知らない。
だが暁がゴーレムの腹部を抉ったのも、今現在ゴーレムと真正面から斬り結べているのも、おそらくは神秘の鎧の力を得てのことだろうという予想はついた。
そして、ゴーレムをまるで砂袋のように破壊した力。
あのような効力を発揮する魔法はルイズの知る限り『錬金』しか存在しないが、
トライアングルクラスのメイジが作り出したゴーレム――サイズから言って間違いない――に影響を与えるには、
それ以上のクラスのメイジである必要があるが、そもそも暁もボーも魔法は使えない。
そして暁やボーがいくら人間離れしているといっても、ゴーレムと正面から打ち合う力など持っていないはずだ。
持っていないからこそボーはあれほどに苦戦したのだから。

「一体なんなのよ、あの鎧」
「……あれはAMスーツといってな、我々の世界に存在した代物だ」
「は?」

ルイズにとっては答えなど期待していなかった、ただの呟き。
だが、その呟きにボーが返した答えはあまりにも明確だった。

――A(アーマード)M(マッスル)スーツ。

ハルケギニアとは違う世界、地球と呼ばれる場所には、オリハルコンという名を持つ希少金属が存在する。
古代文明の遺産――オーパーツの一つに数えられるそのレアメタルは、ある奇妙な性質を持っていた。
『他の金属と合金化することによりさまざまな特性を発揮する』という性質である。
例えばチタニウムと組み合わせれば最大でセラミックの三倍もの強度を誇る極めて硬質な金属へと変貌し、
ニッケルとの合金では人間の精神波に感応する特殊な形状記憶合金へと変化する――という具合に、だ。
そしてそんなオリハルコンの特性を最大限活用し生み出された装甲強化服が存在する。
オリハルコン合金の繊維で編み上げられた表層は刃や銃弾などあらゆる攻撃を受け止めることができ、
内蔵された人工筋肉は装着者の精神作用によって身体能力を普段の30倍近くまで増幅する。
アーカムという組織によって作り出された攻防一体、最強の戦闘服――それがAMスーツである。

キュルケから前もって説明を受けた時点で、ボーにも暁にも神秘の鎧はAMスーツだろうという予感があった。
だが実際目にすると当然のように浮かぶ『何故』という疑問。
確かに可能性がないわけではないが、ボーや暁とは別口で『それ』が世界を渡る確率など、考えるのも馬鹿らしいほどに低い。

(学院長とやらに問うてみる必要がありそうだな)

もしかすれば元の世界に戻る手がかりが見つかるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながらボーはじっと戦況を見つめ続ける。
視線の先、舞い散る砂埃の中。サイズ差などまるで関係ないかのように暁がゴーレムのを圧倒していく。



その戦いは、どうしようもなく一方的だった。
ゴーレムの繰り出す攻撃は振り抜いた拳も、振り下ろした足も、その一切が暁を捉えられない。
もっとも、それだけならば特に問題にはならなかっただろう。
実際、暁以上に素早いボー・ブランシェの攻撃は結局、ゴーレムにとって脅威にはなりえなかった。
だが暁は違う。AMスーツの補助を受けながら振るうその剣は、本来絶対的な力の象徴であるはずの土の巨人に大きなダメージを与え続ける。
既に右腕が一度、左腕が二度、そして左足が一度斬り飛ばされている。
無論斬られた箇所はすぐに再生し、何事もなかったかのようにゴーレムは戦い続ける。
だが、それを操る者の精神は確実に磨耗していく。
『土くれ』のフーケの心を徐々に蝕むの感情の名は――『不安』と『焦り』。

(冗談じゃない)

自らの力には自信を持っているとはいえ、フーケは一般的な貴族ほど平民の力を過小評価しているわけではない。
ましてや平民というだけでボーと暁を雑魚と判断するなど愚の骨頂――とすら思っている。
しかしそれでもこの戦いは、苦戦こそすれ勝てる戦いだという思いが彼女にはあった。

『彼らには決定打がない』

その感覚は決して間違ってはいない。実際、暁もボーもゴーレムに対する切り札と呼べる何かは持ち合わせてはいなかった。
だが神秘の鎧――AMスーツの存在が、フーケの予想を完璧に覆す。
元々暁が持ち合わせている素早さに、ゴーレムを破壊しうる力が加わったのだ。
こうなれば手段を失うのはフーケのほう。
本来彼女が与える側であったはずの負の感情は徐々に、そして確実に彼女を追い詰めていく。

(一体何だってんだい、あの鎧は!)

彼女は神秘の鎧の正体を知らない。
『マジックアイテムではない』そう聞いていたし、実際に固定化以外の魔法は一切使用されていないのを確認している。
しかし今現在ゴーレムに真正面から挑んでいる暁の戦いぶりを、魔法と何も関連付けずに説明することなどフーケには不可能だった。

『この鎧はマジックアイテムでもなんでもない。だから君にとってはなんら価値のない代物さ!』

それは、どうしようもなく胡散臭い笑みを顔に浮かべたある男が彼女に言った言葉。
フーケにとってただの予感でしかなかったことが、確信へと変わる。
おそらく、いや間違いなくあの男は神秘の鎧の正体を知っていた。
そして、戦いの結末を予想し――笑っていた。
たどり着く一つの結論。認めたくないが、認めざるをえない事実。

「チッ、あたしじゃあいつに勝てないって――」

恨み言を最後まで吐き出すことなく、フーケは弾かれるように後ろを振り向いた。
誰かが近づいてくる――そんな気配を感じる。
この森にいる人物は、あまりにも限られていた。
そしてこの状況で彼女に近づいてくる人物など、敵以外にありえない。
何しろ、この森にフーケの味方など一人もいないのだから。

(まだ小屋にいるのかと思ってたんだがね。そう動いてたのか)

思い浮かぶのは小屋に入ったきり姿を現さなかかった二人の少女。
『彼女たちは一体どこで、何をしているのか』
本来ならば浮かぶはずの――浮かべなければならないはずの疑問。
そんな当たり前のことが、暁の戦いぶりにかき消され浮かばなかった。

「……あたしも随分とヤキが回ったもんだ」

自嘲の笑みを浮かべながらフーケは身を翻す。
相手が自分の位置を把握しているのかどうかはわからない。しかしここに留まっていては間違いなく見つかってしまうだろう。
普段であれば既に逃げに入っていてしかるべき状況だったが、生憎と今現在のフーケには逃げられない事情がある。
ゴーレムの操作にも気を配りながら追っ手を撒く――そんな無茶な選択をする程度には、だ。

(森の中だし撒けないこともないか――ッ!)

そんな期待に似た予測は、目の前に現れた少女によって微塵に砕かれることになる。

「ラナ・デル・ウインデ」

青髪の少女の言葉とともに目の前の空気が膨張し、歪む。
現象の正体は瞬時に魔法と判断できた。だが対処は――不可能だった。
圧縮された空気の塊が、フーケを後方へと吹き飛ばす。
わずか数瞬、数メイルの飛翔の後、彼女の背中は木に激突した。
鈍い衝撃とともに視界に走るノイズ。
そして――握力の弱まった手から、杖が滑り落ちる。

(しまっ――)

戦闘中に杖を手放したメイジに訪れる結末は一つ、敗北のみ。
故に手をのばす。負けたくない、という強い意志とともに。
だがのばした手が杖に触れるよりも早く、青髪の少女の杖がフーケの鼻先へと突きつけられた。

「あら、もう終わっちゃったの?」

別方向から、赤髪の少女が現れる。その顔にはつまらなそうな表情がわかりやすく浮かんでいた。
その言葉は、普段のフーケなら悔しいと感じたのかもしれない。

「ってミス・ロングビル?何をして――もしかして、あなたがフーケだったってオチですの?」

だが今の彼女が浮かべることができた感情は、諦めと自嘲の入り混じった苦笑のみだった。

「……酷いオチで悪かったね」



「お?」

右腕を大きく振り上げたゴーレムの動きがピタリと止まる。
その姿はまるで雄々しさをテーマとした巨大な像。もっとも、少々不細工ではあったが。

【どうやらうまくいったみてーだな】
「らしいな」

気の抜けたようなデルフリンガーの言葉に頷き、暁はゆっくりと構えを解いた。
視線の先、ゴーレムの右腕が地に落ちる。次いで左腕が崩れ落ち、左足が折れる。
そして、バランスを失った巨大な体躯はぼろぼろと土をこぼしながら後方へと傾いでいき――大きな地響きとともに倒れ、砕けた。
出来上がったのはただの土くれの山。

(やれやれ、なんか随分と久々に戦った気がするぜ)

久しぶりに事後の倦怠感を感じながら首をゴキリ、ゴキリと鳴らす。
最後に命を懸け戦ったのはこの世界に来る直前、そしてこの世界に来てから経過した時間は僅か数日。
その僅かな期間が暁にはこれまでにないほどに長く感じられた。
だがそれ故に、初めて体験した強力なメイジとの戦闘に暁の心は躍った。
元の世界ではさほど触れる機会のなかった魔法という名の暴力。
当たり前のように存在するそれの質がきわめて高い、しかもおそらく――まだまだ上の力を持つ者がいる。

(少しは感謝してやるかね?)

唐突に引きずり込まれた中世ヨーロッパ程度の文明しか持たないこの世界は、きっとつまらないだろうと思っていた。
しかし今は『楽しめそうだ』と思う。
だからこそ暁は自分をこの世界に引きずり込んだ張本人――ルイズに少しだけ感謝した。
心底『自分らしくない』と思い、苦笑しながらだったが。



ゴーレムはその身を崩壊させ、ただの土の山と成り果てていた。
そして場の空気は喧騒から静寂――本来の森の姿へと変化する。
ルイズは戦闘の空気など判別できない。判別できるほどそれに触れ慣れていないのだから、当然だ。
ただ、暁とボーから力が抜けたような気がして――戦闘は終わったのだ、と悟った。

「……終わったの?」

誰に問いかけたわけでもない言葉が、自然にルイズの口からこぼれる。

「おそらくはな」

傍らのボーから、答え。
それを理解した時、ルイズは大きく息を吐いた。
含まれる感情は、安堵。

――ようやく終わった。

平民が真正面からゴーレムに挑み、そしてそれに負けじと自らも戦う事を選んだ。
当然ながらルイズにそんな経験などあるはずがなく。
彼女を支えたのは『緊張』と『高揚』。
そしてそれらは吐息とともに身体からゆっくりと抜け落ちていき――支えを失った彼女は、その場にぺたんと尻餅をついた。

「疲れた……」

もう一度、言葉とともに大きく息を吐き出す。
疲労によるものか、身体は重く、足にはうまく力が入らない。
これはしばらく立てないな、とルイズは他人事のように思った。



「こっちも終わりましたわ……ってルイズ、その恰好どうしたの?」

背後の茂みが揺れ、同時にキュルケの声。
ゆっくりと振り返れば、不思議そうな顔をしたキュルケといつもと変わらないタバサ、
そして何故か落ち込んだ様子で二人に挟まれるミス・ロングビルの姿があった。

「大丈夫よ、ちょっと疲れただけ」

――キュルケの前でいつまでも地面に座っているわけにはいかない。
そんなちっぽけながらも大事な意地とともに脚に力を込める。
入らないかと思った力は思いのほかすんなりと膝へと伝わり、ルイズはゆっくりと立ち上がった。

「ていうかあんたたち、今までどこにいたの?」

キュルケとタバサは小屋へと入り、ミス・ロングビルは小屋の裏へと回ったはずだ。
なにもせずに逃げていた、隠れていたというのが考え難い面々だっただけに――何故三人揃って森の中から出てきたのかが、ルイズは気になった。

「フーケを捕まえに行ってたのよ」

なんのことはない、とばかりにキュルケが言い放つ。
その表情から連想できるのは『成功』。
しかしそれの表情に、ルイズは疑いのまなざしを向ける。

「……で、フーケはどこにいるのよ」

フーケらしき人物を三人は連れていない。
まさか捕まえたまま放置しているのか――と考えたところで、ルイズはあることに思い至る。
まるで二人がミス・ロングビルを連行しているように見えることに、だ。

「もしかして、秘書さんがフーケだったってオチか?」

ルイズの傍らに立った暁が、思いを代弁する。

「……酷いオチで、本当に悪かったね」

がっくりとうなだれたミス・ロングビルが、まるで呪詛のように言葉を吐き出した。



「本当に、ひどいオチね」
「だから悪かったって言ってんだろ!いい加減しつこいよ!」

ため息を吐いたルイズに、ミス・ロングビル――フーケが吼える。
彼女が語った事の流れはこうだ。

学院の宝物庫に押し入り神秘の鎧を盗み出したはいいが、それはフーケの目には変わった黒い服にしか映らなかった。
何か特殊な魔法でもかけられているかと思えば、何度調べても固定化しか感知できず、
これは偽物を掴まされたかと学院に戻れば、やはり盗み出したのは本物だったと判明する。
『もしかして討伐に向かう連中ならば使い方を知っているかもしれない』と考え至った彼女は、討伐隊に同行する事を選んだ。
そして討伐隊が学生三人と平民二人だったこともあり、ものの見事に油断していた彼女は暁の戦闘力に気を取られていた隙にキュルケとタバサに捕らえられた――らしい。

「でも正直私も、アカツキが囮になると言い出したときは正気を疑いましたわ」
「アンタそんなこと言っ――…言ったんでしょうね。言うでしょうね、アンタなら」

最初は驚きだった感情が、一瞬で呆れに変わる。
付き合いこそ短いが、ルイズとて暁の人となりをある程度は理解している。
だからこそその行動が意外だとは微塵も思わない。異常なのは確かだが。

「うまくいったんだからいいだろ」

恐怖など少しも感じていなかった、と言いたげなアカツキの顔。いつも通りの表情。

「で、秘書さんよ。本当にあんたがフーケなんだな?」

それがフーケのほうへ向き直った時、少しだけ真剣なものへと変わる。

「ああ、そうだよ。私が『土くれ』のフーケさ。なんだったらもう一回ゴーレム出して見せてやろうか?」

ミス・ロングビルと名乗っていた頃とはかけ離れた、乱暴な物言いでフーケが吐き捨てる。
その言葉を聞き「ふむ」とだけ呟いた暁の顔は、何か納得していないような――そんな複雑な感情が見て取れた。

「どうかしたの?」

ミス・ロングビルがフーケだったというのは驚いたが、それは本当なのだろうとルイズは思っている。
そうでなければ、森の中に隠れて不審な行動をする理由もない。
だが、見れば暁だけでなくボーも何かを思案するような表情を浮かべている。
彼らは一体何が気になっているのか――ルイズはそれが気になり、問いかける。

「……いや、なんでもない。フーケが捕まったんなら仕事は終わりだ、戻ろうぜ」

肩をすくめ、暁が苦笑する。
確かにフーケは捕まえ、神秘の鎧を取り戻した。少なくとも他の懸案などルイズには思い浮かばない。

「そうですわね。服も汚れましたし、早く帰って着替えたいですわ」

キュルケが同意し、タバサとボーもそれに頷く。
ルイズもそれに反対する理由など、持ち合わせていない。

「じゃ、帰りましょう」

こうして、ルイズたちにとっての最初の冒険は幕を閉じる。



【助けには行かないんですかい?】

見物を終えその場を立ち去ろうとした男に、誰かが問いかける。
男の周囲には誰もおらず、また何の気配もない。

「助けに行きたいのはやまやまだが、私のように非力な人間では無理だな。ああ、とても残念だよ」

右手で頭を掻きながら、男は懐から下げたナイフを見た。

【酷い人ですね。エルフだってもう少しマシな嘘を吐きますよ】
「褒め言葉として受け取っておくよ」

カタカタと、まるで笑うようにナイフが揺れる。
まるでそのナイフと会話を交わしていたかのように男はそちらに苦笑を向け――それから後ろを振り返った。

「元気そうで何よりだ、暁君」

少女たちとともに森の入り口へと向かう暁に、男は言葉を投げる。
そして男もまた、森の中へと消えていった。



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