あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

無情の使い魔-04


学院長室から『遠見の鏡』を用いて事の顛末を見届けたオスマンは、低く唸りながら己の豊かな髭を撫で上げる。
鏡に映りこんできた場面には、もはや言葉すら出ない。
(ドットクラスのメイジとはいえ、貴族を倒すとはのう……)
それだけではない。
先程、慌てて止めに行くと出て行ったコルベールの話が正しければ、あの少年は『ガンダールヴ』の力を発動させるのではとも考え、こうして観察していた訳なのだが――
(やっぱり、違ったのかのう)
決闘の最中、あの少年は武器を何度か手にしてはいたものの、彼の左手に刻まれたルーンは全く反応していなかった。つまり、彼は生身であのゴーレムを叩きのめしたのだ。
コルベールが調べた使い魔のルーン――『ガンダールヴ』とはあらゆる武器を使いこなし、たった一人で幾千もの敵をも薙ぎ倒したという伝説の使い魔だったという事なのだが、もしそれが本当なのならば彼が武器を手にした所でルーンが力を発揮していたはずだ。

だが、あれだけではまだ結果は分からない。
もう少し様子を見る必要があるだろう。
(それにしても……あの子供達みたいじゃったのう)


通りがかる生徒や教師達が恐ろしい物でも見るかのような視線を桐山に送り、避けていた。
「ミス・ヴァリエールの使い魔は悪魔だ」
「メイジ殺しの平民だ」
そんな声も密かに囁かれる。
しかし、桐山はそんな陰口にすら全く興味を抱くことはなかった。

「あんた、本当にただの平民? どうして、あんなに強いのよ?」
寮の自分の部屋に桐山を連れ戻すなり、彼を問い詰めるルイズ。
「習ったんだよ」
にべもなくそう言い、桐山は先程シエスタから受け取った本を読み初める。
「習ったって……どこの平民がメイジを……しかもあれだけのゴーレムを軽く捻じ伏せられるって言うの!」
桐山は読書を続けつつデイパックの中から一冊の厚みがある本を取り出し、ルイズに差し出す。
それを受け取るルイズだが、表紙や中に刻まれた文字は桐山の世界における言語で書かれているものであるため、全く読み取る事ができない。
ちなみにその本のタイトルは「総合格闘技の全て」である。
「……何よ! これ! 全然、読めないわ!」
「それに書いてあった。どう戦えば良いのか」
「こんな本一冊であんなに強くなれる訳がないでしょう! 馬鹿も休み休みに言いなさい!」
癇癪を起こし、本をベッドに乱暴に放り捨てるルイズだが、桐山は動じない。

ここでルイズは自分を少し落ち着かせる。喚いてみたって、どうにもならない。
「……あんたがどうやって学んだかは知らないけど、とりあえずあれだけ強いのはあたしも理解できたわ。
でも、今後はあたしの許可なしに勝手な事は一切しないでちょうだい。……大体、何でギーシュの決闘なんか受けたりしたのよ」
「彼が言ったんだよ。〝決闘だ〟〝逃げる事は許さない〟と」
「あんた、逃げるのが嫌だったの?」
桐山は表情を変えぬまま首を横に振った。
「彼がそう言ったから、そうしただけだ」
「たった、それだけ?」
その事実にルイズは顔を顰めた。
あれだけ強い桐山が決闘を受けたのは、平民である彼なりのプライドでも何でもない。
ただ、彼は〝ギーシュとの決闘〟を「選択」しただけなのだ。
彼にとってはそれに意味などなく、ただそこらに落ちていた小石を蹴ってどかしたりするのと同じでしかない。
平民とはいえ実力のある使い魔である事が分かり、本来なら喜ぶべきかもしれない。
だが、彼のそうした異常とも言える行為が理解できず、逆に恐怖を感じてしまった。
(何よ、しっかりしなさい! あたしはこいつの主人よ! 怖がってどうするのよ!)
たとえどんなに異常といえ、自分の使い魔を恐れるなんて、何たる事か。
ルイズは己を叱咤し、桐山への恐怖を打ち消そうと奮い立っていた。
そんな中でも、桐山はルイズを一瞥する事なく読書に夢中だった。


日が落ち、ルイズ達生徒は夕食のためにアルヴィーズの食堂へと赴き、桐山もまた厨房へと訪れていた。
そこで彼はマルトーからや他のコックや給仕達などから「我らの剣よ!」などと讃えられたりしていたのだが、桐山は気にするでもなく昼間とほぼ同じ量の料理を振舞われ黙々と食していた。
桐山が平民でありながら貴族を負かしたという事実に気を良くするマルトーから「どうやってあんなに強くなれたんだい」と聞かれても、桐山はルイズの時と同じく「習ったんだよ」と、それだけしか言わない。
無駄な事は一切話さず、簡潔に一言だけを述べる。マルトーは無口ながら桐山が自らを誇っている訳でないと見て、さらに気を良くしていた。
他のコックらに「みんなも見習え! 達人は決して誇らない!」などと嬉しそうに唱和させるも桐山は気にも留めていない。

「キリヤマさんがあんなに強いなんて、わたし驚きました」
食事を終え、厨房を後にしようとする桐山にシエスタが話しかける。桐山は一度立ち止まり、シエスタの話を聞いている。
あの決闘の一部始終をずっと見届けていたシエスタは初め、桐山がギーシュの召喚したゴーレムにやられてしまうのだと思い込んで悲観的になり、何度も彼に対して謝罪の念を抱いていた。
しかし……結果は見ての通り、桐山の圧勝にて終わった。それだけではない。シエスタは桐山の優雅な戦い振りに惹かれてしまったのだ。
それでいて全く傷一つ付いていないなんて、驚きを通り越して唖然としていた。
「……あの、本当に申し訳ありませんでした。わたしのせいで、桐山さんを危険な目に遭わせてしまって」
実際は全く危険ではなかった訳だが、これくらいの謝罪はせねばとシエスタは頭を下げる。
「いいんだ。ああいうのも面白いんじゃないか」
と、だけを言って厨房を後にしてしまった。
(もう少し。せめて、少しくらい笑ってくれたらなぁ……)
シエスタは桐山と出会ってから今に至っても、彼が一度として笑顔を見せてくれない事を少し残念に思っていた。
笑顔だけではない。彼はあの無機的な表情をまるで人形のように一切、変化させていないのだ。
どうにかして、せめて微笑みくらいは見せてくれないだろうか。



女子寮へと戻り、ルイズの部屋に入ろうとするが鍵がかかっている。中に人の気配がないので、まだルイズは戻ってきていないようだ。
仕方がないので扉の横の壁に寄りかかり、静かにルイズを待つ事にする。
「……?」
すると、学ランの裾を何かが引っ張り、足元に熱さを感じる。
初めはそれほど気にするでもなく静かに佇み続ける桐山だったが、引っ張る力が強くなり、今度は「きゅるきゅる」と変わった鳴き声が聞こえてきた。
ちらりと視線を足元に向けると、そこには赤い体をした大きなトカゲの姿があった。尾の先にはじりじりと火が灯っている。
そのトカゲ――サラマンダーは学ランの裾を咥えたまま、くいくいっと引っ張っていた。
桐山はじっとそのサラマンダーを見つめ、小首を傾げるが、全く離そうとしないのを見て自分をどこかへ連れて行こうとしているのを察した。
学ランから口を離したサラマンダーはルイズの部屋の隣の部屋へ向かってのしのしと歩いていき、中へと入っていく。
その後を付いていき、桐山も中に足を踏み入れる。

中は暗闇に包まれていた。
正確には窓の外から入り込む月の微かな明かりや先程のサラマンダーの尾の灯火だけしかなかった。
「扉を閉めて下さるかしら?」
と、暗闇の奥――ベッドの方から妖艶な女の声がかかる。
桐山は後ろ手に扉を閉める。するとパチン、という指を弾く音と共に部屋の中に立てられた蝋燭が一本ずつ僅かな間隔を開けて灯っていった。
桐山のいる場所からベッドまで、まるで一つの道のように蝋燭の明かりは続いている。
ベッドに腰掛けているキュルケは、年頃の男ならば目のやり場に困る姿をしている。
彼女はベビードールのような下着だけしか身に着けていない。
桐山はそれを見ても特にどうも思わぬまま彼女を見続けていた。
「そんな所にいないで、こちらにいらっしゃいな……」
そんな彼を見て、困惑していると思い込んでいたキュルケは色っぽく声をかけて誘う。
溜め息も何の反応もせぬまま桐山はキュルケの目の前まで歩み寄る。

桐山の凍りついた瞳を間近から目にしたキュルケは思わず、ぞくりと身震いをした。
しかし、彼女が感じているのは恐怖ではなく、高揚感であった。
「初めまして。使い魔さん。あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」
妖艶に微笑みながら自己紹介をするキュルケ。
「あなたのお名前は?」
「キリヤマ。キリヤマ、カズオ」
桐山が無機質に名乗ると、キュルケは大きくため息をついた。そして悩ましげな目付きをする。
「……あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね。
――思われても仕方ないの、わかる?
――あたしの二つ名は『微熱』。あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまう……。わかってる、いけないことよ……。
――でもね、あなたはきっとお許し下さると思うわ」
キュルケは立ち上がり、桐山の間近くで彼の氷のような瞳をじっと見つめた。
「恋してるのよ。あたし、あなたに。恋はホント突然ね……。
――あなたがギーシュのゴーレムを倒した時の姿、とても素敵だったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだったわ!
――あたしね、それを見て痺れたのよ。信じられる? 痺れたのよ! 情熱! あああ、情熱だわ!
――二つ名の微熱は情熱なのよ!」
と、勝手に一人で盛り上がるキュルケだが当の桐山はそんなキュルケを見ても全く表情を変えていない。
それどころか、くくっと小首を傾げるだけだった。

(あら、ガードが固いわね……)
普通の男だったらここまでにダウンしているというのに、この桐山という少年にはキュルケの色気が全く通じていない。
次はどう攻めようかと思案したその時、窓の外が叩かれた。
そこには恨めしそうに部屋を覗く一人の男の姿が。
「キュルケ……待ち合わせの時間に君が来ないから着てみれば……」
「ぺリッソン! ええと、二時間後に」
「話が違う!」
キュルケは胸の谷間に差していた杖を振り、蝋燭の火から大蛇のような炎が伸び、窓ごと彼を吹き飛ばす。
その後もスティックス、マニカン、エイジャックス、ギムリまでもが姿を現すがキュルケの魔法やフレイムによって次々と吹き飛ばされていった。
「でね……あ! ちょっと!」
その間に桐山は興味を失ったかのように踵を返し、無言で部屋から出て行こうとする。
ノブに手をかけようとした途端、扉が乱雑に開け放たれた。

「ちょっとキュルケ! うるさいわよ……ってキリヤマ! あんたなんでこんなとこにいるのっ!?」
そこに立っていたのはルイズだった。そして、わなわなと肩を震わせている。
「取り込み中よ、ヴァリエール」
「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してるのよ!」
「仕方ないじゃない。好きになっちゃったんだもの」
二人が言い合う中、桐山は興味もなさ気にルイズの脇を通って部屋を後にしていた。
ルイズはすぐ様彼の前に立ち塞がり、問い詰める。
「まだ話は終わってないわ! 何で、あんたがツェルプストーの所にいるのよ!」
「彼女が俺を呼んだんだ」
「……あんた、それだけでホイホイ彼女の所へ転がったっていうの……?」
ピクピクと口端を引き攣らせ、殺気立つ。しかし、桐山はそれには全く動じず、
「俺を呼んできた。俺はとりあえず部屋に入ってみた。それだけだ」
と言い残し、ルイズの横を通って彼女の部屋へと戻っていった。
「待ちなさい! ちゃんと説明してもらうわよ!」
桐山を追いかけ、ルイズも部屋へと飛び込んでいった。

フレイムと一緒に取り残されてしまったキュルケは、先程目にした桐山の瞳をふと思い返していた。
人形のように凍りついた、冷たい瞳。それはまるで全てを容赦なく凍てつかせるようなものだった。
その瞳が、自分の友人とよく似たものである事に気付く。
(……いえ、あの子よりももっと冷たいわね)
トライアングルクラスのメイジである友人よりも、彼の瞳は圧倒的に冷たかった。
そして、一切の感情が宿っていない事に気付く。


翌日は虚無の曜日。休日であり、授業はなかった。
ルイズは桐山を連れて街へと向かう事になった。戦う事ができる桐山に剣か何かを買ってあげようと考えたのである。
使い魔たるもの、主人を守るのも役目の一つ。いくらドットクラスのメイジに勝てたからと言って所詮は平民だ。
剣一つくらいは持たせなければ、それ以上の実力のメイジと戦う事になっても勝てる訳がない。
桐山は特に何の意見もなく、ただ彼女に付いていく事になった。
(……な、なによ! あいつ! 何で、あんなに上手いのよ!)
馬に乗って街まで向かっていたのだが、ルイズは馬術が得意な自分と全くの互角、いや自分よりも優雅で遥かに見事な腕前で馬を走らせているのを見て何故だか無性に腹が立った。
主人である自分が得意とするものが、使い魔に劣る。それがとても悔しかった。
「……あんた! もう少しゆっくり走りなさい! 主人より前に出るのは許さないわよ!」
理不尽な嫉妬が混じった叫びを上げると、桐山は素直にスピードを落としてルイズの隣につく。
「あんた、何でそんなに馬の扱いが上手いの? 前にも乗った事があるの?」
「いや、馬に乗るのはこれが初めてだ」
などと言われてルイズは驚く。初心者? 冗談ではない。自分でさえここまで技術を磨くには時間がかかったのだ。それをほんの僅かな時間でここまで身に着けられるものなのか?
「……う、嘘おっしゃい! だったらどうしてそんなに馬の扱いが上手いのよ!」
「お前を見て覚えたんだ」
(あ、あたしを!? ……な、何なのよ! こいつ!)
確かに乗り始めてから数分の桐山はそれ程乗馬は上手くはなかった。
それを、ルイズの乗馬を僅かに見ただけであそこまで技術を物にするなんて。……化け物だろうか?


一方、学院の学生寮。自室で休日の楽しみである読書にふけていたタバサだったが、突然扉を乱雑に開けて乱入してきた人物に妨害される。
タバサは杖を取り、サイレントの呪文を唱えようとするが、
「待って!」
それが友人であるキュルケであると確認し、中断する。
「タバサ! 出かけるわよ! 支度して!」
「虚無の曜日」
「分かってる。あなたにとって虚無の曜日がどんな日なのか、あたしは痛いほどよく知ってるわよ。
でも、今はね、そんな事言ってられないの。恋なのよ! 恋!」
と、自分の肩を抱くキュルケ。
「あぁもう、説明するわ! 恋したのあたし! ほら使い魔のキリヤマ! 彼があの人が憎きヴァリエールと出掛けたの! 
だからあたしはそれを追って突き止めなきゃいけないの!」
キリヤマ。その名前にぴくりと僅かに反応するタバサ。
「わかった」
そう一言答え、読んでいた本をしまうと準備をする。
ずいぶんと物分りが良いので、キュルケは一瞬呆気に取られた。
「……まあ、いいわ。とにかく二人は馬に乗って出かけたの。あなたの使い魔のシルフィードじゃなきゃ追いつかないのよ!」
沈黙したままタバサは準備をし、窓を開けると指笛を吹く。
そして、飛んできた彼女の使い魔、風竜シルフィードに乗ってルイズ達を追った。
タバサがこれほどまでに軽く了承したのはキュルケに頼まれたからではなかった。
(彼は……わたしと似ている)
あのキリヤマという少年。彼が自分とよく似ていたからだ。
雰囲気、表情、瞳……何もかもが自分と酷似していた。
まるで客観的に自分という存在を見ているような気がして、興味が湧いた。


三時間程、馬を走らせて王都トリスタニアの街へと着いたルイズ達。
今日は虚無の曜日という事でブルドンネ通りには多くの人々が忙しそうに行き交い、通りの脇には露天や商店が並んでいる。
「この先にはトリステインの宮殿があるのよ、だから街として発展もしているの」
桐山に少しくらいは説明した方が良いと思い、ルイズは大通りの先を指差す。
当の本人は田舎者のように辺りをキョロキョロとする訳でもなく、その視線はじっと正面のみ見据えられていた。
「ええと、武器屋はこっちだったわね」
そう言って路地裏へ入るルイズ。桐山もしっかり付いてくる。
路地裏は表通りに比べて日も当たらなくて陰気であった。
「ここら辺は治安が良くないから、あまりここへは立ち寄りたくないのよね……」
と、溜め息を吐くが路地を進んでいると突然、4人の男が二人の前に立ち塞がってきた。
「へっへっへ、貴族のおふた方。ここを通るには通行料が必要でね」
ごろつきの一人が下品に笑う。その手には小さなナイフが握られていた。
「で、いくら欲しいのよ」
「へっへっへ、そうだな。有り金全部出してもらお――ぎゃああああぁぁっ!!」
ナイフを突きつけながら言い終える直前に、突然男が絶叫を上げて蹲った。
その手からはいつの間にかナイフが消え、男の右目に突き刺さっている。
(な、何!? 何が起きたの!)
「このぉ!」
三人がナイフを振りかぶって一斉に飛び掛っていったのは桐山であり、ごろつき達が立ち塞がってから変わらぬまま静かに佇んでいる。
それからルイズは唖然とした。
桐山は三人を、五秒とかからずに次々と地に伏させていたのだ。
一人は両腕をあらぬ方向にへし折られてナイフを脚に突き刺され、
一人は桐山の手刀でナイフを手にした手首を真っ二つにされてその手首ごとナイフをもう片方の腕に突き刺され、
一番マシであった一人は桐山に手を掴まれて捻られ、足を引っ掛けられて前に一回転しながら地に叩きつけられて昏倒するだけで済んでいた。
「あぁ……ああぁ……」
尻餅をついていたルイズは微塵の容赦もなくごろつきを叩きのめした桐山を見て、恐怖を抱きかけていた。
何故、あそこまで冷酷になれるのだろう。ごろつきを叩きのめすのであれば、最後の一人のようにするだけで良いではないか。
「……あ、ちょっと! 待ちなさい!」
足が震えて立ち辛かったが、つかつかと先へ進みだす桐山の後をルイズは追った。
二人が路地を去った後も、ごろつき達は地を這い蹲ったまま呻き声を上げていた。

今ので憔悴しかけたルイズであったが、桐山が人を殺さなかっただけでも幸いだったと感じ、改めて自分を奮い立たせていた。
そして、目的の武器屋へと入っていく。
やや薄汚れた店内には様々な武器が置かれているが、店主は働く気があるのかカウンターでタバコを吹かしている。
しかし、ルイズ達の姿をみるや否や、媚びへつらった顔をする。
「旦那、貴族の旦那。うちは真っ当な商売をしていまさぁ。お上に目をつけられるようなことは、これっぽっちもありませんよ」
「何を勘違いしてるの。客よ」
と、ルイズが言うと店主は眉を顰めだす。
「貴族が、剣を……?」
「あたしじゃないわ。こいつに見合う剣を適当に一つ見繕ってちょうだい」
と、桐山を指差す。桐山は既に店内に置かれた剣を手にしてそれをじっと見つめていた。
しかし、どれを手にしてもすぐに興味を失ったかのように戻してしまう。
「あぁ、従者様にですかい。彼でしたら……」
良い鴨が来たものだと微かに笑いながら店主は1メイル程の長さの、ずいぶんと華奢な細身の剣を取り出した。
「昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのが流行ってましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
「貴族の間で、下僕に剣を持たすのが流行ってる?」
「へえ、何でも最近このトリステインの城下町を盗賊が荒らしてましてね」
店主曰く、『土くれのフーケ』というメイジの盗賊が貴族の財宝を盗みまくっているという。
しかし、ルイズは盗賊には興味はない。
「もっと大きくて太いのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。見た所、若奥様の従者様にはこの程度が無難なようで」
「大きくて太いのがいいと言ったのよ」
ルイズと店主が交渉をし合う中、桐山はそちらに全く興味を示さず自分で勝手に剣を取っては戻している。
「これなんかいかがです?」
そして、店主が取り出したのは所々に宝石が散りばめられた、1.5メイルはあろうかという大剣だった。
「ほら! キリヤマ! あんたもこっちに来なさいよ!」
ルイズが桐山の服を引っ張って呼び寄せると、彼にその剣を渡す。
じっとその剣を見つめていた桐山であるが、その剣ですら他の剣同様にすぐ興味を失ってしまい、素っ気無く店主に返してしまった。
それどころか、もうこの店に用は無いと言いたげに踵を返し、店の外へ出て行こうとしてしまう。
「ちょ、ちょっと! どこへ行くのよ! キリヤマ!」
慌ててルイズが彼の腕を掴んで呼び戻す。
「あんたのために剣を買ってあげようって言ってるんじゃない! それを無碍にする気!?」
これではせっかく街まで来た意味がない。
「じゅ、従者さん……お気に入りにならないのでしたら、また別の剣を――」
店主もせっかくの鴨である客がこのまま何も買わずに帰ってしまうのだけは避けたかった。
そんな時だった。
「へっ、ざまあねえな」
突然、どこからともなく男の声が聞こえた。
「客に逃げられるようじゃあ、所詮はその程度よ!」
「何の声?」
ルイズがきょろきょろと辺りを見回す。
すると、店主が積み上げられた剣に向かって叫びだした。
「やかましい、デル公! お前は黙ってやがれ!」
桐山は再び踵を返すと、声がした方へ向かって歩き出す。
「黙らせられるもんなら、やってみるんだな!」
その声は一振りの錆付いた剣から聞こえてきた。
「これって、インテリジェンスソード?」
「はあ、『デルフリンガー』っていうインテリジェンスソードでして。……一体、どこの魔術師が始めたんでしょうねぇ。剣を喋らすなんて……。
やいデル公! それ以上、余計な事を言ってみろ! 貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」
「面白れえ! やってみろ! こちとらどうせ、この世にゃ飽き飽きしてた所さ!」
店主とデルフリンガーが言い争う中、桐山はその剣を無言で手にし始めた。
デルフリンガーは桐山の手の中で、桐山を観察するかのように黙りこくっていた。
それから少しすると、小さな声で喋りだす。
「おでれーた。……てめえ、『使い手』か。……って、何だよ!」
そのデルフリンガーでさえ桐山はすぐに興味を失って戻してしまい、離れていった。
「ちょ! ちょっと待て! おい、俺を買え! いや、買ってくれ! おいってばああぁぁっ!」
悲痛な叫びで懇願するデルフリンガーに、さすがの桐山もまた戻ってくる。
そして、再び手に取った。
そして、ルイズをちらりと一瞥する。どうやら、これに決めたようだ。
ルイズは桐山が変な物を選んだ事を意外に思って細く溜め息をつく。
「おいくら?」
「……え? ああ、あれなら20で結構でさ」
「あら、そんなに安くて良いの?」
「こちらとして良い厄介払いになりますんで」
ルイズが桐山に預けたサイフには200エキュー程のお金が入っている。
充分過ぎる程、破格の安値だった。
桐山は店主から渡された鞘ごと、黙々とデルフリンガーを背負っていた。

「あんた、本当にそんなので良いの?」
武器屋を後にし、馬を繋いでいる所まで戻っていく中、ルイズは桐山に問う。
正直、どうして桐山がこんなボロい剣を選んだのか不思議でならなかった。
「いいんだ」
それだけを言い、後は沈黙するだけだった。


「おい! 平民!」
学院に戻ってくるなり、突然桐山を呼び止めた生徒がいた。
ルイズと同級生のラインメイジ、ヴィリエ・ド・ロレーヌである。
彼曰く、先日のギーシュとの決闘で彼が勝ったのが許せないという事だった。
平民の分際で貴族に勝つなどという事はあり得ない。インチキだ。自分ならば彼に勝ってみせる。
そのような理不尽な因縁をつけてきたのである。
ルイズが必死に止めようとしても、ロレーヌは「ゼロのルイズは引っ込んでいろ!」などと言ってくる。
「決闘だ! 平民め!」
そう意気込み、桐山に挑んだロレーヌだった。
しかし、結果はすぐに出ていた。
「あ……あう……」
ものの数秒で地に這い蹲るロレーヌ。その右腕は手首から肩まで見事にへし折られている上に、杖も桐山の手刀で真っ二つにされていた。
その後桐山に対して貴族に勝ったという事実を受け入れられない尊大な生徒達は次々と彼に挑んでいった。挙句の果てには決闘など関係なく、一方的に桐山を叩きのめそうと喧嘩を売ってくる。
最悪、本気で桐山を殺そうとする者さえいた。
だが、桐山はどの相手もほとんど時間をかけずに逆に叩きのめしていた。
優秀な成績を収める生徒さえも、彼には全く歯が立たず、。一矢報いる事さえできない。
そして誰もが水のメイジによる治療が必要な程の重傷を負わされていた。
ただ、桐山もメイジは杖が無ければ無力化できるとすぐに学習していたため、杖をへし折られるだけで済んだ運の良い生徒もいた。


決闘を挑んだ生徒達は桐山を貴族に歯向かったとして訴えるべきだ、と学院長へ直談判していたが、
「馬鹿者。そもそも一方的に決闘を挑んだのはお主達じゃ。それに、彼はミス・ヴァリエールの使い魔。彼に罰を与えるのは彼女だ」
と、突き返されてぐうの音も出ないようだった。


夜が更けた頃、学院庭の塔の壁の傍で夜風に当たりながら桐山は読書をしていた。
学院の生徒達に次々と重傷を負わせてしまったという事で、ルイズからその罰として今日は部屋の外で寝るように命じられたのである。
実を言うと、ルイズもその生徒達から「もう少しお前の使い魔の躾をちゃんとしろ」などと逆恨みされてしまったのでこうなってしまい、そのため仕方なしにこうさせた訳である。
もっとも、ルイズの部屋のすぐ外で構わなかったのだが、桐山はあろうことか学院の庭まで移動していた。
「しっかし、お前さん本当に容赦がなかったな」
傍に立て掛けられたデルフが感嘆に呟く。
「貴族のガキ共相手とはいえ、少しは手加減してやっても良かったんじゃねえかい?」
「……道端の石ころをどかしただけだ」
と、答えるとデルフは溜め息を大きく吐き出す。
「……ったく、とんでもねえやつだなぁ。武器もまともに持たずにメイジを叩きのめすなんて、お前さん何者だよ?」
しかし、桐山は答えずに読書を続けている。
「シカトかよ……」
少し切なそうな声を出すデルフ。
すると、そんな桐山の元に一人の小さな人影が歩み寄ってくる。
桐山はそれに全く興味を示さずに読書を続けていた。

結局、昼間はキュルケと共に街へ行っても桐山に会えなかったタバサだが、そこで彼を見かけていた。
(そっくり……)
読書をしている彼のその姿に、タバサは息を呑んだ。
自分も読書は好きだ。そして、それに夢中になると周りの事などほとんど眼中になくなる。
まるで彼のように。
自分が近づいてきても、彼は全く興味を示さない。
ますます、自分という存在を客観的に見ているように思えていた。
桐山のすぐ隣に立ち、彼が呼んでいる本の中を見てみる。
自分の知らない言語で書かれた専門書みたいだ。
ちなみにその本のタイトルは「腹々時計」である。
タバサには内容が全く分からないが、桐山が自分など気にせずに読み続けているので余程内容が面白いのかと思っていた。
「本、好き?」
「ああ」
話しかけてみると、桐山はタバサを一瞥する事無く答える。
「何ていう本?」
「色々な戦い方が書いてある」
と、簡潔に述べて再び本に視線を戻していた。
(……そう。彼は、強い)
ギーシュだけでなく、この学院の様々な生徒達がまるで相手にならなかった彼。
タバサもこれまでに様々な危険な任務に従事し、多くの敵と相まみえてきたが、正直彼の強さがどれ程のものなのかとても興味があった。
これまで自分は、己の目的を果たすべく力を蓄えてきた。
その力が、『メイジ・キラー』である彼に通用するかどうか……。
そのような黒い衝動が彼女を突き動かす。

「ん? どうしたんだい、嬢ちゃん」
デルフが桐山の横で、自分の身長よりも大きい杖を構えだすタバサに困惑しだす。
桐山はデルフがそのように慌てても、相変わらず読書に夢中だった。
「あなたと、手合せがしたい」
桐山は目を伏せると本もパタンと閉じ、デイパックの中にしまう。
そして、立て掛けていたデルフリンガーを手にしていた。
「おいおい、やめておけよ。こいつはここのガキ共が全く相手にならなかった奴だぜ? ケガしてもしらねえぞ」
「終了の条件は、相手を地面に倒す事」
デルフを無視して彼からゆっくり後退るタバサは桐山にルールの説明をした。
桐山は逆手に持ったデルフリンガーを無造作に垂らしたまま、自分から離れていくタバサを見つめている。

他の生徒達はルールの説明もなしに、一方的に彼を攻撃した。それで彼に半殺しにされた。
桐山は一切の感情が宿らない冷たい瞳で、タバサを見返していた。
タバサに対して苛立ちも、怒りも、敵意も、殺意も、何一つ抱いている訳ではない。
恐らく他の生徒達同様、目の前に転がっていた石ころをどかそうとするだけなのだろう。


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