あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

無情の使い魔-03



「待ちなさい!」
そこへやってきたのは、今まで教室で泣き崩れ、今になって食堂へとやってきたルイズだった。
騒ぎの原因は他の生徒の話によると、ギーシュが落とした香水の瓶をシエスタが拾い、それによって彼が一年の女子と同級生のモンモランシーとで二股をかけていたのがバレてしまった。
そして、その責任を瓶を拾ったシエスタに擦り付けようとしたら桐山が介入し、あろう事かギーシュを殴り倒してしまった事でここまで騒ぎが発展してしまったという。
「ギーシュ! 馬鹿な真似はやめて! 学院での決闘は禁止されているはずでしょ!?」
「それは貴族同士の話だよ。使い魔とではない」
鼻で笑うギーシュはさらに続け、
「君の使い魔の躾がなっていないから、この僕が代わりに躾けてやろうというんだ。少しは感謝してもらいたいね」
そう言って食堂から去っていった。
唇をかみ締めるルイズは未だに平然と立ち尽くしている桐山の方を振り返り、彼に詰め寄る。
「あんた、何を勝手な事やってるの! 貴族であるギーシュを殴り倒すなんて!」
「あ、ああ……キリヤマさん。申し訳ありません……わたしのせいで、こんな事に……」
ルイズが喚き散らし、シエスタが泣き崩れて詫びているがやはり桐山は全くの無表情である。
すると、桐山は持っていた本をシエスタに手渡す。
「ヴェストリの広場はどこだ?」
彼が発した言葉にシエスタは蒼白になり、首を横に振る。
「いけません、キリヤマさん! 貴族と決闘なんかしたら、殺されてしまいます!」
「主人の許可もなく、そんな事をするのは許さないわ!」
しかし、桐山はすぅと目を閉じ、二人を無視して食堂を後にしていく。
慌ててその後をルイズは追った。

「ちょっと、どこへ行くの!」
「ヴェストリの広場を探す」
即座に返され、ルイズは唖然とした。桐山はやる気だ。
彼は怒りや屈辱などといった感情を抱いている訳でもない。なのに、何故決闘を受けようとするのか。
「貴族に平民が勝てる訳ないじゃない! そんな事は許さないわよ!」
桐山の正面に立ち塞がり、必死に叫ぶルイズ。
メイジである貴族には魔法があるのだ。対して、桐山は明らかに平民。勝算は無きに等しい。
「ちょっと……!」
桐山はルイズの脇を通り、さっさと立ち去ってしまう。

桐山は他の生徒達が自分を見つつ血相を抱えて移動するのを見て、
その方向からヴェストリの広場の場所を勘で推測し、そこへと辿り着いていた。


「諸君、決闘だ!」
ヴェストリの広場にギーシュは薔薇の造花を模した自らの杖を掲げ高らかに宣言をする。
集まってきた群集から歓声が湧き上がる。
「逃げずに来たとは、その勇気は褒めてやろう!」
目の前に佇み、こちらを見つめてくる桐山に杖を突きつけるが、やはり無表情のままだ。
「何とか言ったらどうだね? ……いや、平民に貴族の礼儀を期待する方が間違っているか」
鼻で笑うギーシュ。
恐怖で声が出ないのか、とも思いたいが残念だがそうではなさそうだ。では、何も考えていないのか。
だが、どうであろうと決闘は続ける。そして、貴族の力を平民に思い知らせてやるのだ。

「あんたの使い魔、大丈夫なの?」
やってきたルイズの隣に立つのは、寮生活において隣部屋同士であるキュルケだった。
「大丈夫な訳ないでしょ。……もう、何であんな決闘なんか受けるのよぉ」
額を押さえ、ルイズは顔を歪めていた。
「でも彼、とても落ち着いてるわね」
ルイズから見れば落ち着いている、というよりは何も考えていないようにも見えた。
「だからって、平民が貴族に勝てる訳がないでしょ!」
ルイズの願いとしては、桐山がわざと負ける事によりそれでギーシュが満足してくれる事だけだった。
今、ここで使い魔を失う訳にはいかない。
使い魔が負けたと、恥をかくことになってもそれだけは避けなくては。
「あなたはどう思う?」
キュルケは自分の脇で無関心そうに本を読むタバサに語りかける。。

「結果をは見ないと分からない」
(彼……ただの平民じゃない)
タバサはちらりと桐山へ視線を向けていた。
先日、ルイズが彼を召喚した時から彼から異様な威圧感を感じ取っていた。
恐らく他の生徒達はそれで恐怖などしか感じられていないだろうがタバサは違った。
(……血の臭いがする)
それは祖国からの過酷な任務をこなし、時には血を流し、実戦経験が豊富なタバサだからこそ嗅ぎ取れるものだった。
あの少年は、その手を血で濡らしている。人を、殺めた事がある。
彼がここに召喚される前、一体何をやっていたのかは知る由もない。
だが、確実に彼は自らの手で、しかも事故などではなく実戦で人を殺めている。
それも一切の躊躇いも、容赦もまるで無く。
(わたしと……同じ?)
「雪風」の二つ名を持つ自分よりも遥かに冷たい、一切の感情が宿っていない凍りついた瞳……。

まるで人形のようなその瞳が、自分とそっくりに思えた。


学院長室へとやってきていたコルベールは学院長であるオスマンと会話をしていた。
春の使い魔召喚の際に、ルイズが平民の少年を呼び出し、そして彼に刻まれたルーンが見た事がないものであったことを話していた。
オスマンは、コルベールが描いたルーンのスケッチを見つめた。
「あの少年の左手に刻まれているルーンは……伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたモノとまったく同じであります……」
「つまり、君は彼が伝説の使い魔、『ガンダールヴ』であると、そう言いたいのかね?」
「……まだ憶測の域を出ませんが、その可能性は大いにあります……」
普段なら何かを新しいものを発見すれば子供のようにはしゃぎだすはずのコルベールであったが、今度ばかりは様子がおかしい。
何やら、酷く思い詰めた様子だった。
「どうしたのだね? そんな顔をして。お主らしくないではないか」
「……いえ、何でもありません」
苦々しい表情のままコルベールは首を横に振る。
何か訳ありのようだ。オスマンは問いただすのを中断する。
「ふむ……。――誰かね? 入りたまえ」
その時、コンコンッっとドアがノックされた。
扉の向こうから現れたのは、オスマンの秘書ミス・ロングビルだった。
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。
教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」
「たかが子供の喧嘩を止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい。
……で、誰が暴れておるのかね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あのグラモンとこのバカ息子か。血は争えんのう。……それで? 相手は誰じゃ?」
「それが……、ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」

その返答とともにコルベールの顔が蒼白になった。
「いけない……! すぐに止めなくては!」
「どうしたと言うのかねミスタ・コルベール、そんなにあわてて…さすがにグラモンの馬鹿息子も平民を殺したりはせぬよ」
そうまくしたてるコルベールをなだめながらオスマンは言う
「……使い魔のことを言っておるのです。……あの少年は、普通ではない」
人を殺める事に何の躊躇もしなさそうな無情の瞳。
彼が誰かと争わなければ良いと願っていたのが早々に打ち砕かれる。
それで誰かを傷つけでもしたら……。
「私が止めてきます」
意を決したコルベールは踵を返し、学院長室を後にした。

「それで……本当によろしいのですか?」
「うむ。まあ、放っておきなさい。子供同士の喧嘩じゃ」
と、言いつつ彼女の尻に手を伸ばそうとするオスマン。
手が触れる寸前で、ロングビルの肘鉄が彼の頭に叩き込まれていた。


「僕はメイジだ、だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね」
しかし、やはり桐山は無言である。
構わずにギーシュは杖を振り、造花の花びらを一枚地面に落とす。
零れ落ちた花びらは光と共に、甲冑を纏った女性を模したゴーレムへと変化する。
「僕の二つ名は「青銅」のギーシュ。よって、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ」
桐山はワルキューレを見て、くくっと小首を傾げていた。
ギーシュが杖を振ると、ワルキューレは桐山に向かって前進し始める。
桐山はガチャガチャと音を立てて走りこんでくるワルキューレを、そしてギーシュを交互に見比べていた。
(ふっ……一瞬で片付くな)
ボーっとしていて隙だらけに見える桐山にギーシュが勝利を確信して笑みを零す。
だが、それだけではこちらの気が済まない。わざと急所を外して少し甚振ってやらねば。
自分の顔をあれだけ思い切り殴った代償を払ってもらう。正直、まだズキズキと痛む。

ワルキューレが拳を突き出し、それは桐山の顔面を強打するはずだった。

(何……!?)

確かに、その一撃は彼の顔面に入った。
しかし、桐山は顔を殴られた方向に向かって動かす事で衝撃を受け流し、全くの無傷だった。

「どうしたギーシュ!」
「さっさとやっちまえー!」
その光景を目にした多くの生徒達は桐山が無傷である事に一瞬、唖然としたが一部からそのような野次が飛ぶ。
ワルキューレはギーシュの命令により、次々と連打を繰り出す。

パンチが、蹴りが、目の前にいる平民を地に伏させるべく容赦なく繰り出されていく。

(……何故だ?)

ギーシュはその光景を見て、顔を顰める。苛立ちが湧き上る。

(何故、奴は無傷なんだ?)

桐山はワルキューレの猛攻を常人とは逸脱した絶妙な、そして優雅な動きで次々と回避している。
その際、彼はかすり傷一つも負ってはいない。
そして、その間にも彼は相変わらずの無表情だった。

「……な!」

ギーシュは目を疑った。

何が、起きたのだ。

桐山がワルキューレの攻撃を体を横へ捻って回避した途端、ズガッという音と共に突然ワルキューレが大きく吹き飛ばされていたのだ。

10メイルは吹き飛ばされたワルキューレは群集達に向かって飛んでいき、彼らは慌ててそれをかわした。
そして、学院の壁に激突し、バラバラに崩れ去る。

今まで桐山の神がかりな回避に静かだった群集が、今度は完全に沈黙する。
「な、何が起きたんだ」
「いや……平民が攻撃をかわした途端に……」

「な、あいつ……何をしたの」
今、目の前で起きているのは現実だ。
先程からルイズは唖然とし、口を開けていた。
平民であるはずの桐山が常人離れした動きで攻撃をかわし、挙句の果てにゴーレムを吹き飛ばしてしまったのだ。
何をしたのか、全く見えなかった。
(あいつ……あんなに強かったの?)
驚きと共に、何故か嬉しさが生じてくる。
極めて寡黙で雑用くらいしかできない平民だと思っていたのが、まさかあれ程にまで強いなんて。
決して、役立たずな使い魔ではなかったのだ。

「……ほう、平民にしては中々やるな」
一瞬、口端を痙攣させて笑ったギーシュは杖を振り、今度は七体のゴーレムを召喚する。
「……僕も調子に乗りすぎていたようだ。本気でいかせてもらう!」
剣や槍、メイスなどで武装したワルキューレ達が佇む桐山を取り囲み、一斉に攻撃を仕掛ける。

だが、桐山の姿は忽然とその場から消えていた。

「……ど、どこに?」

ギーシュが狼狽する中、ワルキューレの一体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
桐山はいつのまにかワルキューレが手にしていた剣を握り、囲みの外へと出ていた。

ワルキューレ達が次々と桐山に突進していく。
桐山は手にしていた剣を投げつけ、二体をまとめて串刺しにした。
倒れようとするワルキューレの一体へ瞬時に駆け寄り、その手から今度はメイスを奪い取る。
体の遠心力を活かして振り回し、一体を殴打。さらにもう一体へと衝突させた。
その背後、左右からワルキューレが武器を振りかぶって襲い掛かる。
しかし、振り下ろされた武器は桐山ではなく、彼が手にしていたメイスを捉えていた。
軽やかに蜻蛉を切り、瞬時にしてワルキューレの背後へと着地していた桐山は一体の背中に掌低を繰り出し、吹き飛ばす。
そして体を思い切り捻り、落ちていたメイスを再び拾って最後の一体の頭へと叩き付けた。

この時、光るはずであった彼の左手のルーンは、一切の光を発さず力を発揮してはいなかった。

(……すごい)
あまりにも常人を逸脱した桐山の戦闘に、タバサは感嘆とした。
どんなに鍛えられた手練のメイジでもあそこまでの動きをとる事はできない。
多くの修羅場を巡ってきた自分でさえ、彼の動きは初めの一瞬だけを見るので精一杯だった。
そして、その間に垣間見ていた彼の表情は、全くの無だ。
焦りも、恐怖も、余裕も、何一つ伝わってこない。
まるで今、行っている戦闘ですら彼にとってはただ機械的にこなしているだけのようにも見え、戦慄する。
そして、タバサは感じ取った。
(……やっぱり、わたしと同じ)

「そんな……馬鹿な……」
自分の精神力の全てを注ぎ込んで作り出したゴーレムを全滅させられ、ギーシュは力なくへたり込んだ。
彼は、ただの平民。そのはずだ。
なのに、こんな事があって良いのだろうか。
あり得ない光景にギーシュは恐怖する。
「ひっ……」
ちらりと、桐山はギーシュへ視線を向けてきた。
戦闘中も全く変化のなかった表情、瞳――それを目にしたギーシュは蒼白する。
そして、即座に感じ取る。
(こ、殺される……!)
桐山はギーシュを見つめていたが、しばらくするとつかつかと歩き出し、向かってくる。
ガクガクと震えるギーシュは尻餅をついたまま、後ろへ下がる。
「ま、まいった! 降参だ!」
しかし、桐山の足は止まらない。

何故、止まらない。

ギーシュは自分がまだ杖を持っている事に気付き、それも放り捨てる。
だが、桐山は杖に目もくれる事も無く止まる様子は全くない。

何故だ。何故、止まらない。
自分はもうワルキューレを作り出す事もできない。悔しくはあるが降参もした。杖も捨てた。
それで勝敗は決まったはずだ。なのに――
そして、はたと気付く。

自分は彼に、その事を言ったか?
貴族同士の決闘の勝敗は、本来ならどちらかが降参するか杖を落とされた時。……しかし、今回はその事を一度も口にしていない。
この決闘、自分が一方的に勝つものだと思い込んでいた。だから、ルールの説明なんてしていなかった。
平民に貴族のルールを説明しても、意味などないと思っていた。

だがそれでも、自分はもう戦えない。
いくら平民の彼でもそれに気付けない程、愚かではないはず。
なのに、何故止まらない。

(逃げないと……逃げないと……)
しかし、恐怖に全身を支配され、もはや立つ事はおろか動く事さえできないギーシュ。
突然、腹部に突き刺さるような激痛が走った。
「う、ぶ――」
ギーシュはその場で嘔吐し、胃にまだ残されていたものを吐き出す。
それを見ていた生徒達が悲鳴を上げる。
(痛い! ……何で、こんなに痛い! この決闘で、彼からは何も受けていないのに!)
腹を押さえて蹲り、悶え苦しむギーシュ。
「……ある男が、健康診断を受けた」
突然、立ち止まった桐山が口を開き始める。
「その男が帰りに、車で子供を轢いた。男は数分と経たない内に腹部に激痛を覚え、病院で再検査を受けた」
(何を、言っている)
「検査の結果、男は重度の胃潰瘍と診断された。もちろん、先の検査では健康そのものだった。
男は短時間で胃に穴が開いていた。……つまり。
――極度の恐怖や緊張で、人間の体はすぐに壊れる」
何を言っているのか、恐怖に支配されるギーシュに理解する事はできない。
ただ、このままでは自分が殺されてしまう。それだけしか考えられなかった。
そして、桐山が目の前まで来た所で意識を手放した。

「もうやめてっ!!」
白目を剥いて気絶するギーシュの前に立つ桐山の背中に、悲鳴を上げて飛び掛るルイズ。
「決闘は終わったの! あんたの勝ちよ! もう戦わなくてもいいの!」
「どうすれば終わる」
(え……?)
「決闘は、どうすれば終わる」
「何を……言ってるの?」
「俺は決闘が終了する条件を聞いていないんだ」
「だって、ギーシュが散々降参していたじゃない!」
意味不明な言葉にルイズは喚く。
「それが終了の条件であると、彼は言っていない」
確かに、ギーシュは一度もそんな事は説明していなかった。
しかし、もう戦う事すらできないのだ。いくら平民でもそれは判断できるはず。
それが、桐山は分からないのか?
「……いいから! もう決闘は終わりよ! 主人の命令よ!」
そう叫ぶと、桐山はすっと目を閉じて大人しく従い、その場を後にしていった。
既に気絶しているギーシュに対する興味も失っていた。


(まさか……!)
ヴェストリの広場へと向かう道中、桐山とそれを追いかけるルイズとすれ違ったコルベール。
そして、そのすぐ後気絶したギーシュが他の生徒達にレビテーションの魔法をかけられて医務室へと運ばれていくのも見届けた。
生徒が無事である事を知って、ホッと息をつく。
ただ、あの様子からしてギーシュは彼に殺されかけたのだと察する。
危害そのものは加えていないようだが、決闘が続いていたら確実に彼はギーシュを殺していたのだろう。
一切の躊躇も、罪悪感も、後悔も、何一つ感じる事はなく。
何故、あんな少年があそこまで冷酷になれるのか。
コルベールには分からなかった。


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