あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

三つの『二つ名』 一つのゼロ-05


 焼け爛れた天井の掃除を終えて、クリフは念動で操っていた雑巾を手元に降ろした。
「よっ……と」
 あれから、クリフ達は教室に残って、ルイズの起こした爆発の後片付けをしていた。
 周囲の人間に被害を及ぼすことだけはなんとか阻止することに成功したものの、なぜか十分に集まりきらなかったサイコキネシス
では抑えきることができず、爆発の圧力が上に逃げて教室の天井を大きく焦がしてしまっていた。
「……ふむ」
 クリフは手の中の雑巾を見つめ、確かめるように握った。
 ……なんだろうか。雑巾は今、自分が操作した通りに確かに動いていた。しかしさっきもそうだが、なぜか力が入りきらない。思
い切り念力を込めると、すっぽ抜けるようにパワーが拡散してしまう。
「どしたのクリフ?」
 隣に立つヴォルフが、不思議そうな面持ちでこちらを見つめてきた。
「いや、なんでもない。……それより、一応掃除はしたけれど、こうして見るとすごく目立つなぁ。色が変わってて……」
 石製の天井は茶色く変色していて、下から眺めると明らかに自己主張してしまっている。
「ま、そんなもんじゃないの? あとはプロでないとどうにもならないでしょ」
「ふむ。……まあ、言われただけの事はしたか」
 これ以上は天井の石畳ごと変えでもしなければ直せないので、諦めることにした。
「終わったよ。ルイズちゃん」
 そう言って振り向くが、ルイズは隅に座り込んで膝を抱えている。
「? どうしたんだい? さっきから」
「ほら、終わったって言ってるじゃない。何を落ち込んでるのよ」
 しかし、ルイズは顔を上げようとしない。
 教室には、シュヴルーズと他の生徒はすでにいなかった。クリフ達三人とルイズ、そしてお目付け役として手を上げて自ら居残っ
たもう二人の人間がいるだけだ。
「……すごいのね、本当に杖も使わないで……」
 そのうちの一人―――朝、部屋の前で挨拶を交わしたキュルケはあんぐりと口を開いて、クリフを見つめていた。
「うん? ああ、一応言ったけど、そのエルフっていうのじゃないよ、僕は」
「へえ……」
 興味深そうな顔をして、こちらをジロジロ見てくる。うーん、好奇の目はあまり好きではないんだが。
 ルイズの爆発を止めた時、運悪く近くにいたこのキュルケに一連の行動を目撃されていたのが悪かった。他の生徒達に気づかれる
ことはなかったが、イメージを強くするためについ空中で手を握ったせいで、なにかをした、と勘付かれたらしい。
 どうせルイズにはバレてしまっていたので時間の問題かと思い、あまり人には言いふらさないで欲しいと含めた上で、自分の『力』
を少しだけ見せてやったのだが……。
「先住魔法ではない?」
 他のもう一人、青い髪色のタバサという少女がポツリと呟いた。この子はどういうわけだか知らないが、キュルケと共に残ってい
た。
「その……そもそも、魔法じゃない。人間に隠された能力、というか……」
「……人間の能力?」
「うーん、ちょっとばかり才能はいるけど」
 一応、ハチャメチャな魔法と違って、念動力は理屈と説明がついている。世間一般にはもちろん知られているわけもなく、ただの
インチキのような扱いはされてはいるが、各先進国トップやエグリゴリのような裏組織の間では、科学的な研究で解明された事実が
知られている。
「僕のは、やたら極端ではあるけどね。そこそこ便利だよ、ほら」
 そう言って、手の雑巾を空中に飛ばしてバケツに突っ込んでから、浮かせたままギュッと絞った。
「例えばこんなふうに、手が汚れないとかね。普通にやるより疲れちゃうけど。今みたいに、手の届かないところを掃除するには使
えるかもね」
 怖がられてはいないようなので少し調子に乗って披露してみせると、タバサは真剣な面持ちで宙に浮かぶ雑巾を見ている。ううむ、
魔法が使えるのにどうしてこんなに興味を持たれているんだろう?
「ねえ、他には? エルフ達みたいに、すごい火力とか」
 キュルケがさらに質問を投げかけてくるが、
「火力? ……いやあ、そんな事はできないよ。僕が出来るのは、念動力だけさ。大したことはないよ」
 と適当にお茶を濁しておくことにした。うん、別に嘘は言ってないし。隣で(よく言うわよ……)とでも思っているのかジト目で
ヴォルフが見てくるが、バカみたいに自慢しまくってもしょうがない。それに、人に危機感を持たせない程度に留めておくのが無難
なのだ。
「ふーん……。なるほどね。それで、他の人はどんな……」
「いや、それより。ルイズちゃんが落ち込んでるんだけど、どうしてだろうか?」
 話題を逸らしつつ、さっきからどんよりとしてるルイズを見やる。
「さあ、知らないわ。大方、召喚が上手くいってたから他の魔法も使えるって調子に乗ってたんじゃないの?」
 キュルケがそう言うと、図星だったのかピクッとルイズの肩が震えた。負のオーラを強くして、いじいじと地面をいじりはじめる。
「……彼女は魔法が使えないのか? ……そう言えば、はじめて会った時も飛ばずに歩いていたな。でも、寝るときに指を鳴らして
灯りを消していたけど」
 ふと、昨日の事が思い起こされる。
「灯りを消したのは、そういうマジックアイテム。この子は魔法が全然一っつも使えないで、失敗して爆発ばっかりしてるのよ。だ
から『ゼロ』のルイズ」
「……なるほど。それであの小太りの少年は……」
「ああ、あれはマリコルヌっていって、ルイズのことあんまり言えない程度の……ぷっ、クク、ククク……」
 マリコルヌという少年の話の段に入ったところで、急にキュルケが笑い出した。
「え?」
「ぷぷ……ちょっとごめんなさい、思い出し笑い。でも、「デブが感染る」なんて、ヴァリエールも結構言うじゃないの」
 ああ、この子もさっき噴き出していたな、そういえば。
「ま、とにかくそういうわけで落ち込んでるんでしょ、あの子は。まぐれで召喚に成功したからって調子に乗ってちゃ、ねえ。ゼロ
のくせに」
 ちょっと意地悪げにルイズに聞こえるように言う。ここから見えるルイズの額にぴしっと血管が浮かんだ。あ、怒ってるな……。
「ほら、なにしょげてるのよ。さっさと起きなさい」
 キュルケがつまらなそうに呼びかけると、ルイズは不承々々といった顔で立ち上がった。その口から、不満げにぼそりとこぼす。
「……なんでよ。召喚は、成功してたのに……」
「そんな都合のいいわけないじゃないの、せっかく人が止めてたのに。無理して張り合って、周りに迷惑かけてちゃしょうがないで
しょ」
 キュルケの言葉に、むうー、とうなり声を出してさらに落ち込む。
「なによ、いちいち気にしてるんじゃないわよ。日常茶飯事じゃない」
「ま、まあまあ。元はと言えば、僕が騒いだのが発端なんだから、その辺で……」
 と、クリフはルイズに助け舟を出すことにした。
「あら、主を庇うなんて、ちゃんと使い魔してるじゃない? そう言えばあなたも、すごく驚いてたわね。魔法を見たのは初めて?」
 キュルケはさっきのクリフの狼狽ぶりを思い出したのか、少し意外そうな顔で振り返る。
「そりゃ、まあ。初めてだよ」
 あんな無茶苦茶なもの、見た事なんてあるわけがない。物理法則を完全に無視して……やりたい放題だ。
「でも、あなたも『念力』を使えるんでしょう?」
「それはそうだけど……本当に錬金するなんて、あまりにも……。そうだ、魔法と言えば。ルイズちゃんに聞きたい事があったんだ。
いいかい?」
「……なに?」
 ルイズが俯いていた顔を上げて、クリフを見た。
「召喚……今も、正直夢を見ているみたいなんだけど……その召喚も魔法なんだろう? どういう原理かは分からないけど、君は僕
達をここに呼び出した。じゃあ、逆に僕らを元の世界にも戻す魔法もあるはずだろ?」
 そう聞くと、ルイズとキュルケは揃ってぽかん、とした顔をして、お互いの顔を見合わせた。
 ……あれ?
「え……? そんな魔法、ないわ?」
「ええ。召喚する魔法はあるけど、呼び出した使い魔を元に戻す呪文なんて、聞いた事もないし」
 ……。え。……嘘だろ?
「使い魔を戻す必要なんて、これまでなかったわけだし。普通は、死ぬまで主人と一緒よ」
 ……し、死ぬまでって……。
「そもそも人間を呼び出すこと自体、前例がないわね。あなた、元の場所に帰りたいの? まあ、そりゃそうよねぇ。ヴァリエール
の一方的な召喚で呼び出されたわけだし」
「ちょ、ちょっと。あなた使い魔やるって言ったじゃない!? まさか、やっぱり帰るなんてこと…」
 ルイズが慌てだした。いや、使い魔はいいんだけど、その……。
 そこで、今まで黙って成り行きを見ていたヴォルフが口を開いた。
「落ち着きなさい、お嬢ちゃん。アタシ達には向こうに置いてきた仲間、ファミリーがいるのよ。女の子が二人ほど、ね。そのまま
放っておくわけにもいかないでしょ?」
「え……」
「命を救われたらしいことはもちろん感謝してるわ。でも、おいてけぼりにしちゃってるんだもの、しかも結構危ないところに。……
そうよ、そういやクリフ、アタシ達が殺られたあとどうなったのよ? ていうか殺られたの知ってた?」
 ヴォルフがこちらを見る。
「……ああ。ユーゴー達には、あまり見せたくないショッキングな映像だったよ……」
「げ。じゃあ、完全に死んでると思われてるじゃないのー。あーもー心配だわ……」
「あの後、僕が囮になって二人を逃がして……一応、タカツキ達に合流できたみたいだけど。そこで意識が途切れた」
「あ、じゃあやっぱクリフも殺されたのね、あのチビジジイどもに。あーもームカつくわー。でも、アンタがあれぐらいの敵に遅れ
を取るなんて、油断大敵よ?」
「いや……レッドキャップスは確かに強力だったが、僕はキースにやられた」
「ええ!? キースが前線に出てきたの? ヤバイじゃない、洒落になんないわよ!? じゃ、じゃあユーゴー達危険じゃない! 
いくらあの坊や達でもひとたまりもないわよ!」
「ああ……なんとか逃げ切ってくれていることを祈るしか、ないな……」
「ああー! もうどうしよー! ホントに心配だわ、ユーゴーとキャロル死んじゃうわよー!? それに隼人君だって、超タイプだ
ったのにー!」
「……ま、まあタカツキ達も心配だけど……」
 別に僕は、人の趣味をどうこう言う気はないけどさ。
 そこで、会話に置いていかれたキュルケが口を挟んだ。
「……事情は知らないけど、なんだか大変な時に呼び出されたのね。あなた達」
「ん? ああ、すまない、こっちの話をしてしまって」
「別にいいわよ。それより、どうするのよヴァリエール? ちょっと聞いただけでも殺すとか殺されるとか、あなたの使い魔達が物
騒な事言ってるけど」
 キュルケが隣のルイズを見下ろした。ルイズはちょっと青い顔をして立っている。
「え、えと……その……」
「まずいんじゃないの? よく分からないけど、なんだかあなたのせいで……人が死ぬ……かも?」
「え、そ、そんな!? ……で、でも! 呼び出した使い魔を元の場所に戻すなんて……」
「そうね、そんな呪文ないわよね。うーん……」
 キュルケが考え込むように顎に手をやった。
 そこでふと、ヴォルフがぽん、と一つ手を打って口を開く。
「あ。そうだわ、ちょっといいかしら」
 ヴォルフは考えるように少し宙を見上げて、ひげをいじった。少し間を開けて、続ける。
「アタシ少しアイディア思いついたんだけど……お嬢ちゃん、なんか聞いてたら召喚って魔法なんでしょ? 一応」
「え? そ、そりゃそうよ。コモン・マジックの一種だけど……」
「コモンだかコモドだか、そういう詳しいことはどうでもいいんだけど。それをね、もう一度――やってもらえないかしら?」
 そう言って、ルイズを見つめる。ルイズの口から、え、と声が漏れた。
「できるでしょ? それは一回成功してるんだから、いくらでもできるでしょ」
「え、あ……え?」
「それをやって欲しいのよ。上手くいけば、ユーゴーとキャロルもこっちに連れてこれるんじゃない? そうすればアタシ達も帰る
必要がなくなって、お嬢ちゃんも使い魔がいなくならないどころか増えて万々歳。……ワーオ! 我ながら誰もが納得のビックアイ
ディアじゃない!?」
 自分の言葉に驚くように、ヴォルフが手を打った。
 ……なるほど! そうか、その手があった。僕達が帰れるかどうかはおいても、確かにそれならユーゴー達については解決する。
迎えに行くのではなく、こちらへ呼べばいいわけだ。
「ヴォルフ、それだ。よく思いついたな」
「ぬっふっふ! すごいでしょー!? アタシ天才かも!」
 いや、それはないけど。
「というわけで、もっかいだけ召喚してちょうだいなお嬢ちゃん? これでとりあえずはなんとかなるってすんぽー……あら?」
 ヴォルフの提案に、ルイズがふるふると頭を振った。キュルケも横目にルイズを見て、それに同意する。
「え? なんで?」
「で、できないわよ。朝食のあとに、言ったでしょ?……使い魔は一人一つ。それが死ぬまで、新しいのは召喚できないって」
「え、嘘! そうだっけ、そんなこと言ってた!?」
「も、もう。誰も全然聞いてないじゃない、言ったわよ。……残念だけど、それはできないわ」
「なんでよ!?」
「なんでもなにも、そういうものなの!」
「えー!? じゃ、じゃあ……ダメなの?」
 ……。そうなのか。そういえば、そんなことをチラッと言っていたような。まあ、そんなに都合はよくないか。
「ダメよ、できないわ。だって、呪文が完成しないのよ」
 ルイズの言葉に、隣のキュルケも頷く。
「そうよね、それも聞いた事ないわ。普通は無効化されちゃうもの」
「ツェルプストーも知らないわよね? やっぱりゲルマニアにも前例がないのね、わたしも知らないわ」
「えー、嘘。せっかく思いついたのに……。じゃーどうしましょ。あ、でも! アタシ達、三人いるじゃない!? 一人一つっての
から外れてるし、なんとかなったりとかして!?」
「そ、そうだけど……。でも、無理よきっと。普通に考えてできるはずないし……」
「分かんないじゃない、やってみたの!?」
「や、やってはいないけど……」
 しつこく食い下がるヴォルフに、思わずたじろぐルイズ。
「じゃあ一回だけ! 一回だけでいいから、ちょっとやってみてくんないかしら?」
「で、でも……」
「女は度胸、何でも試してみるものよ! この通りよ、ね、ね、いいでしょ!?」
「なによそれ……。別にいいけど。じゃ、ちょっとどいて」
 ルイズが杖を手に取った。小さな杖を空中で振って、呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、『使い
魔』を召喚せよ。……っと」
 最後に大きく杖を振り下ろす。
「……ね。絶対無理に決まってる……って……」
 ルイズの目の前に、光る鏡のようなゲートが現れた。


「……うそ?」
 呆然と呟いたルイズの前で、ゲートから神々しい光が零れている。
「……できちゃ……った?」
「……ええ!? ヴァ、ヴァリエール!? 成功したの!?」
 キュルケが目を丸くする。
「……!」
 さっきまで会話にまったく加わらなかった、青い髪のタバサが立ち上がって声なき驚きを示した。
「…………」
 隅に座っていたキクロプスは、いつでも抜けるようにさりげなくナイフの柄に手をわずかにかけ、警戒する鋭い目を鏡に向ける。
「できたみたいね……? ……って、よっしゃあ!」
 そして、ヴォルフが野太い声を出してガッツポーズをした。
「鏡……? こ、これは……」
 クリフはじっとゲートを見つめた。思いつきとはいえ、本当にできるとは。まさか、ユーゴー……?
「シャア! 来い来い来い、ユーゴー! キャロル! 出てきなさい!」
 まるでばくちの出目に興奮するかのように、ヴォルフは腕を振りまくっている。
 その時、ゲートの先で何かの影が動いた。やがてそれは、ゆっくりと人の形をとりはじめる。鏡のようなゲートが二次元から三次
元に盛り上がって――それは倒れ伏すようにして、こちらに現れた。
 ごとり、と床に転がる。
 ……。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………」
 全員が、声を出さなかった。というよりも、予想外の流れに口を半開きにしたままだった。
 ゲートが光を失い、閉じる。後には何事もなかったかのように、普通の空間があるばかりだった。
 しばらくの間、沈黙が続いた。ようやくのことで、なんとかヴォルフが声を絞り出す。
「……誰これ?」
 ゲートから出てきたのは。
 ユーゴーでもキャロルでもなく、黒髪で青いパーカーを羽織った、知らない少年だった。


「お、男の子だわ……」
「……こ、これは誰だい?」
「し、知らない……。わたし知らない……」
「……増えた。……召喚は成功?」
「…………アジア系だな。……顔が平たい」
「……へ、平民増やしてどうするのヴァリエール……」
「そ、そんなこと、わたしに言われても、し、知らない……」
 眠ったように目をつぶって倒れている少年を囲んで、一同はごにょごにょと話し合う。
「あ、でもこの子けっこう可愛い顔つきね。アタシの好みからはちょーっと外れるけどなかなかイケルわ」
「え!? あ、あなた男の人でしょ? なんで男の子が……」
「アタシそういう趣味の人なのよ。心は乙女」
「……ご、ごめんなさい、ちょっと絶句しちゃったわ……」
「こら、ツェルプストーに余計な事漏らさないでよ。なんだかわたしが恥ずかしいわ」
「細かいことはいいじゃないの。それよりどこの子かしら?」
「ふむ。見た感じではアジア系コーカソイドに間違いはなさそうだが……キクロプス、どう思う?」
「…………確証はないが、……中国と韓国ではないな。タイでもない。……特徴からして、日本人だと思うが……」
「ううむ……襟から服のタグが覗いてるな。……これは日本語か? 見覚えがある」
「…………おそらく」
「……日本? ……あなた達の国?」
「いや、なんというか僕の国ではないんだけど」
「けっこう可愛いパーカーねぇ。ボーイッシュでいいカンジ」
「……ま、まあ人の趣味はそれぞれよね……」
「ちょっとやめてよ、わたしまで変な目で見られてるじゃないの」
「正直に言うことはいいことよお嬢ちゃん? アタシは自分のパッションに生きてるだけよ」
「……あなたの国でもないの? ……あなたも?」
「…………違う。俺は、国籍自体……ないが」
「アタシも違うわよ。でも、アタシの国の男の子もいいのよこれが。特にローティーンとハイティーンの間は最高よ。ウブな感じが
たまんないの」
「さっきからなんの話をしてるんだお前は。……たぶん、彼は僕達が来た国と同じところから来た」
「……違う国なのに同じところ?」
「…………そうだ」
「いやキクロプス、誤解を招く。僕達はその、旅行者みたいなもので……」
「こうなんていうのかしら、保護欲? 可愛い男の子ってからかったりちょっかい出したくなるのよねー」
「やめてってば、変な話はしないでよばか」
「あ、でもあたしそれ分かるかも……」
「ちょ、ちょっとツェルプストー!? なんでオカマに同意してるのよ」
「あら、あなた分かる? そういうの」
「少しだけ期待させてみたり、そういう素振り見せたら反応が面白いのよねー。赤くなっちゃったりして」
「そうそう、それよ。照れる姿が可愛いのよもう」
「やめてよもう! ばかじゃないのあんた達! なにナチュラルに意思疎通してるのよ」
「……旅行者? 滞在先の国の人?」
「そういうことになるね。まだ確実じゃないけど、たぶん日本人らしい」
「あらお嬢ちゃんにはまだこういう話は早いかしら? そういやお嬢ちゃんもウブそうね?」
「…………心拍も正常。……目立った外傷は見当たらん」
「だって無意味に身持ちの固いトリステイン女だもの。男の子のことなんてなにも知らないのよこの子?」
「……この人も、あなた達のように『念力』が使えるの?」
「あんたが男をとっかえひっかえでおかしいだけでしょ! 普通はそうなの!」
「いや、それはないと思うが……普通の少年のようだけど」
「とっかえひっかえなんてしてないわ。あたしは大勢来る中からつまらない男を切ってるだけ。こう見えても、見る目だけはあるつ
もりよ」
「…………武器の携行はなし。持ち物はバッグが一つ、……中にはノートPCだ」
「アタシは純情も信念があって悪くないとも思うけど。でも、まったく男を知らないってのも考えものねぇ。コロッと騙されちゃう
わよ?」
「……この人は純情?」
「やっぱりそうよね、なにも知らないのは危ないわよね。ヴェリエールも少しは男を見る目を養ったらどう?」
「ああ、確かに素朴な少年そうだ……って、なに? ああ、おいヴォルフ、会話が混線するからあとにしろ。混乱する」
「うるさいわね! 大きなお世話よ! わたしはそういうの、ちゃんとするの!」
「…………あとは筆記用具が少々。……PCは電源が入っているようだ……今、点ける」
「なんだか危なっかしい意見ねぇ……。乙女もいいけど王子様なんてホントにレアよ? だいたいの男は自分のこともキチンとでき
ないヘナチョコばっかりだし」
「……ヘナチョコ?」
「あなたに比べたらそりゃだいたいはヘナチョコだわ……。でも、男って意外と頼りにならないわよねー。いざってなるとダメなの
よ」
「ヴォルフ、やめろって。……さ、さあヘナチョコかどうかは知らないけど、さすがにヴォルフよりは……僕も人のことは言えない
けど」
「そ、そうなの? ……で、でもわたしはその辺はちゃんと将来のために、遊んだりなんてしないでいたいの! 大事なことだもの!」
「…………点いたぞ。……立ち上がりがずいぶん早い。……高そうだな」
「あらら、これは頑固そうねぇ。でも、そういうの重いとか言って逃げるナメた男もいるのよねぇ、ヤるだけヤってるくせに。気を
つけなきゃダメよ? 時々とんでもないのいるから」
「……あなたもヘナチョコ?」
「あーいるわそういうの、価値のない男。ヴァリエール、あなた何も知らないからひどい目に合いそうで心配になってくるわ。あ、
ちょっとなにそれ!? マジックアイテム!?」
「う……。ま、まあその、あんまり体力には自信ないかな……。ところで、彼はまだ起きないのか?」
「あーーーーーーもーーーーーーうるさーーーーーーーい!!!!」
 ルイズが思い切り大声を上げると、ぴたりとこんがらがりはじめた会話が止まった。
「……急にヒステリーもよくないわよ、男に低く見られるわよ?」
「違うわよばか! もう、何の話だか分からなくなってきちゃうもの! ちょっといったん、ストップ! 話を戻しましょ。とりあ
えず、これはなに?」
 ぴっと倒れたままの少年を指差した。
「これってひどい言い方じゃない? あなたが呼び出したんでしょ、ヴァリエール」
「そ、そうだけど! なんで来るのよ、来れるのよ!? おかしいじゃないの、一人につき一つのはずでしょう!?」
「あたしに言われても知らないわ……。どういうことなのかしら?」
 キュルケも分からないらしく、首をひねる。
「……とりあえず、起こしてみようか」
 クリフは軽く少年の肩をゆすった。すると、うう、とうめいてから少年が目を開けて身を起こした。
「……え? あれ、ここどこ?」
 ぽかん、としてこちらを見つめてくる。
「……えーと。やあ、僕はクリフ・ギルバートという。君は?」
「へ? お、俺? 俺は……平賀才人……」
「なるほど、サイト君。……だ、そうだ」
 振り返ってみる。が、一同は黙ってこっちを見ているので、クリフは才人という少年と会話を続ける。
「ところでサイト君。君は日本人か?」
「え? え? に、日本人……ですけど…・・・。え? なんで? 誰?」
「まずは落ちついてくれ。混乱していると思う。僕もそうだった。……だが、……慌ててもはじまらない」
「はへ? いや、ちょっとなんですか? が、外国の人?」
「そうだね、僕は君にとって外国の人だ。だが、言葉は通じてるな……? ふむ。君は英語が堪能なのか。まあ、今はこの際それは
置いておこう。それより、どこか怪我はないか?」
「言葉……? いや、怪我はない……ですけど。え、ちょっとわけわかんねえ」
「うん、その通りだ。わけがわからないことだろう。だが、冷静にだ。いいか、冷静に。……よし。じゃあ説明をしよう。……ルイ
ズちゃん?」
 再度振り返り、ルイズを見る。
「え? わ、わた、わたし?」
 ルイズは急に話を振られて、少し声を裏返した。
「君が呼んだ少年だ。おそらく、彼は……君の使い魔ということになる。この場合、君が説明するのがいいと思う」
「え、で、でも、でも……?」
「慌てないで、落ちついて。君は主人だろう? 大丈夫だ、問題ない」
 主人、と言われてルイズははっとした。きりりと顔を引き締める。
「い、いい!? ちょっとそのまま、動いちゃダメよ!」
「えっ? な、なんだよ、ええ? あ、こっちも外人……?」
「動かないで! ……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン! こ
の者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
 そう言ってルイズはつかつかと才人に近寄り、杖を額に置く。え、いや、違う、彼に説明を……?
「おわっ? な、なにをする」
「いいからじっと。そのまま……」
「ちょ、ちょ、え? おわ、な、なになに?」
「動かないでってば!」
 ルイズは両手で才人をがっしりとホールドし。
 そして、唇を重ねた。
 少しして、すっと離す。
「……うう、もう……ちょっと、ツェルプストー! なにニヤニヤ見てるのよ!」
「見てないわよ。まあ、あなたもがんばりなさいよ」
「なにをがんばるのよ! もう、なんだか心の準備できてなかったから、すごい恥ずかしい! ちょっと見ないでよ!」
 ルイズが顔を真っ赤にしてわめいてる後ろで、少年は放心して呆然としているようだ。うむ、確かにビックリするよな、彼にとって
は同年代みたいだし。特に日本人はキスの習慣があまりないって聞くな。
「……!? うおわぁあああ!? あ、熱っ、あっつぅー!? 痛ってぇー!?」
 そのうちに、才人は手の痛みに床を転がりはじめた。……僕達より不意打ちの度合いがひどくてちょっとかわいそうかもしれない……。
「あら、ちょっとだらしないわね。あの程度の痛みでそんなに騒ぐなんて」
 ヴォルフが肩をすくめる。いや、それは少々酷じゃないかなぁ……。
「はあ、はあ、痛ってぇ……。な、なんなんだちくしょう……!? い、意味がわかんねえ……マジでわかんねえ……!?」
 才人は混乱に満ちた目をしていた。


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