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萌え萌えゼロ大戦(略)-41



 オレは……沖縄で死んだはずだ

 桃山飛曹長は混乱していた。かつてソロモン上空で高田司令長官が乗る
一式陸攻を撃墜した憎き米国陸軍航空隊を叩き、単機で特攻を命じられた
櫻花とそれを運搬する一式陸攻を護って、敵空母航空隊の只中に突撃したはずが――
気がつくと見知らぬ砂漠を飛んでいた。しかも、被弾も自身の怪我も、
すべてなかったかのように。
 桃山飛曹長は、愛機である深紅の紫電改を北西に飛ばす。理由は分からない。
何故かこっちに友軍がいるような気がしたのだ。その途中、広大な森の
上空にさしかかったとき、彼は異質なものを見た。
「……何だ?恐竜?そんなバカな」
 雲の隙間から見えたそれは子供向けの冒険小説のようだった。巨大な
肉食恐竜に、飛竜に乗った騎士たちが立ち向かう――高度差から、こちらには
気づいていないらしい。気になりはしたが、燃料に余裕があるとはいえない。
桃山飛曹長はその集団を無視して飛び続けた。

「そろそろ燃料がつきるな。どこか村があれば不時着するしかないか……」
 桃山飛曹長は、それまで見た風景から、ここは欧州のどこかだと推測していた。
友軍の姿はどこにもない。それどころか、敵機の姿すらない。こんな平和な空を
飛ぶとは思いもしなかった、そう思ったとき、それまで何の反応もなかった
通信機から女の声がした。
『…………聞こえますか?こちらタルブ飛行場。聞こえますか?』
「日本語だと?こちら三〇三飛行隊第四小隊長の桃山飛曹長だ。
タルブ?どういうことだ?」
『ああよかった。そのまままっすぐ飛んで下さい。あなたの位置からだと、
もうまもなく滑走路が見えるはずです』
「滑走路?…………あれか。視認した。誘導に感謝する」
『どういたしまして。地上で会いましょう』
 どこまでも続く平原の真ん中に、一本の滑走路があった。近くには
堀で囲まれた村があり……いや、村に滑走路が併設されているのだ。
タルブ飛行場とは聞いたこともない飛行場だが、もう燃料がない。
さっきの日本語が罠とは思いたくないが、ここがどこかも分からない。
ままよ、と桃山飛曹長は着陸態勢に入った。


 タルブの村は、ここ三十年で大きく様変わりした。
 きっかけは、三十年前にこの村に住み着いた一人のアルビオン貴族と、
『竜の羽衣』と呼ばれるもので東方からやって来た男、そして女。
どういういきさつかはもう覚えている者も少ない。
しかし、彼らがもたらしたものはこの村を大きく変えた。
 『ミジュアメ』という、幻の東方の秘薬『コーイ』によく似た秘薬を、
彼らはこの地で作り出したのだ。それはこのタルブ領主アストン伯に
献上され、それがまたトリステイン王家にも献上された。
 『ミジュアメ』は莫大な利益を生み出し、その利益を彼らは惜しげもなく
村に還元した。税としてのみならず王家と国軍からの大量注文に応えるべく
村外れにミジュアメ製造所が建築されると同時に堀と水路が整備され、
村の生活水準は一気に向上した。元々貴族向けの高級ワインの産地で
知られるこの村だが、それすら今とは比べるべくもない。
そして、それら故に、彼らが村外れに奇妙な『竜の道』や『イェンタイ』
『オヤシロ』と呼ばれる奇妙な建物を造っても、誰も反対することはなかった。
 月日が流れ、男と貴族は年を経たが、女は変わらぬ美貌を保ち続けている。
それは『ミジュアメ』の力だと、村人は信じて疑わなかった――

 陽が傾き始めた『竜の道』に、鋼の乙女あかぎは一人たたずんでいた。
 耳を澄ますように、時折そこにいない誰かに話しかけるように。
あかぎがそうしている間は、誰も近づかないのが約束事だ。そうしている
彼女に近づくと見えない力で目がつぶれると言われており、自分の体で
それを試そうとする愚か者もいなかった。
 あかぎは通信を終えると、ゆっくりとした足取りで『竜の道』――
滑走路を空ける。この地でベトンと呼ばれるコンクリートを敷き詰めた
そこは、今月に入ってもう三機もの友軍機を受け入れている。
いや、彼女たちにとって、ここに迷い込むものはすべて友軍だった。
「……終わったか?」
 そんなあかぎに、壮年の男が話しかける。佐々木武雄少尉――迷い込んだ
この地で出会ったあかぎやルーリーとともに、彼の訛りの強さから
『ミジュアメ』と呼ばれる水飴を製造して財を築いた男は、陽に焼けた
顔ににかりと笑みを浮かべる。
「ええ。三〇三飛行隊の桃山飛曹長だって。もう見える頃よ。あっちは
視認したって言っていたから」
「何だって?そりゃまた……」
「あかぎ大姐!五時の方向に真っ赤な航空機!日の丸……日本機だよ!」
 広域電探による誘導を終えたあかぎと武雄の会話に、トーンの高い
少女の声がかぶる。滑走路脇の櫓から監視していた、シニヨンでまとめた
お団子頭に袖無しで丈の短い緑のチャイナ服と肘から先だけの同色の
薄い付け袖、そして膝まで覆うカーキグリーンの脚甲を身につけた少女が、
小さく見える飛行機を指さした。それを聞いて、あかぎと武雄のところに
複数の人間が集まった。
「ありゃJ改か。乙戦がよくここまでこれたの」
 そう言ったのは、小柄な老人――武内少将。
「私の震電でもぎりぎりでしたから。正規の搭乗員なら十分でしょう」
 その横で、理知的な青年――白田技術大尉が答える。
「その通り。航続距離の短い私の『グスタフ』でさえ届いた。どうやら、
我らには特別な『神の加護』とでも言うべき何かが働いているらしい」
 老いてなお精悍さを失わない長身のドイツ軍人――ブリゥショウ中将は、
そう言ってアプローチに入った機体を見上げる。
「さて、今度はどんな地獄からここにやって来たのですかね」
 ひょうひょうとした雰囲気の男――加藤中佐が肩をすくめる。
 そんな彼らの前に、深紅の紫電改はするりと滑走路に滑り込む。
局地戦闘機らしい速い着陸速度ながらもぴたりとあかぎたちの近くに
停止させるあたり、乗っている人間の腕前を見た気がした。

 一方で、着陸した桃山飛曹長も驚きを隠せなかった。
 コンクリートで舗装された滑走路の横には、小さいながらもコンクリート製の
掩体壕が一つあり、その横には大型の四発陸攻と単発の戦闘機が二機露天
駐機している。しかも戦闘機は見たこともない機体と、ドイツ機だ。
見張りの櫓に日の丸こそ翻っていないが陸攻や戦闘機には日の丸が描いて
あるからここは日本海軍の基地なのかもしれない、と思ったが……
発動機を停止させ機体から降りた彼は目を見開いた。
「あなたたちは……!」
「三〇三空『陸軍機狩り』の桃山飛曹長……じゃな。深紅のJ改に乗る
君の噂は聞いておったよ」
 武内少将はそう言って桃山飛曹長を見る。そんなはずはない、そう思いながらも、
桃山飛曹長は反射的に敬礼した。少将の後ろから、あかぎがにこやかに
微笑んだ。
「ようこそ。タルブへ。私はあかぎ。あなたを歓迎するわ」
「その声……あなただったのか。ですが、あなたはミッドウェイで死んだはずでは……」
「定期広域走査をしていたときにあなたの機体を見つけたから、呼びかけてみたの。
運が良かったわね」
 あかぎは桃山飛曹長の言葉に答えず、そう言って笑った。実際にあかぎは
対空電探に風竜並の反応があったときには日本語、ドイツ語、英語、
ロシア語、フランス語、イタリア語、中国語の七カ国語で呼びかけを
行っていた。しかも、それらはあかぎが知っている各軍のチャンネルに
向けて。もちろんあかぎの知らない大戦後期にはチャンネル変更されている
可能性は高かったが、古いチャンネルでも受信してくれるのではないか、
という期待を込めていた。
 あかぎの横に立つ武雄は、桃山飛曹長に返礼しつつ言う。
「三〇三空の桃山飛曹長か。腕っこきが来たもんだな。俺は一五一空の
佐々木少尉……と言っても、ここじゃ階級なんて飾りだが。
 それにしても、今月に入って四機目か。あの子らも入れたら六機。
三十年誰も来なかったのにこの様子、こりゃ何かありそうだな」
「そーねー。『門』が開く時期が迫っているのも関係しているのかも」
「いったい何のことですか?それにここは……」
 桃山飛曹長の言葉を、櫓にいる少女がかき消す。
「……あかぎ大姐!七時の方向から誰か来る!……少女兵器?あの国籍
マークは!?」
 少女が驚きの声を上げた。見ると、それほど高出力ではないエンジン音が
聞こえてくる。息吐きながらふらふらと飛ぶ少女が……あかぎたちが
見守る中べしゃりと滑走路脇の草地に落ちた。あの高度からコンクリートに
キスしなかっただけマシだろう。
 それを見て、武雄が頭をかく。
「……七機目、か?」
「あらあら大変~。大丈夫かしら~」
 あかぎが大慌てで墜落した少女に駆け寄る。武雄たちもその後を追った。


 この墜落から少し時間をさかのぼる――中華民国の鋼の乙女、戦闘機
I-16・燕はガス欠でふらふらになりながら飛び続けていた。
「おなかすいたアル……」
 電探を搭載していない燕は自分の勘だけで飛び続ける。
 西暦1942年10月に重慶で行われた英米中ソ対日作戦会議で連合国各国の
いっそうの支援を取り付けた祖国の失地挽回は確実となったが、さらに
日本軍の非道を訴えるため飛んでいたらいきなり奇妙な魔法陣にぶつかって、
気がつけば砂漠の上。いつの間にゴビ砂漠に来たのかと思って飛び続けたら、
どうやら中国ではなく欧州みたいな風景。しかも少し前に化け物に襲われていた
老人を助けたときに全力を出したのも空腹に拍車をかけていた。
「それにしても、ここはどこアルか?欧州みたいだけど、ちっとも見覚えが
ないアル」
 欧州、ヨーロッパ戦線なら、どこでも砲火の音が聞こえて当然なのに
それもない。敵機も友軍機も影すら見えない。おまけにさっきの化け物――
だが、もう燕の空腹も限界に近づいていた。どこか村でもあれば食料でも
分けてもらおう、友軍基地なら燃料を……そう思った矢先に、燕は遠くに
滑走路らしき人工構造物を見つけた。
「……あれは滑走路。小さいけれど空軍基地アルか?村と一緒になってるのが
奇妙アルけど……」
 軍の施設にしては、奇妙だと、燕は思った。滑走路と居住区の文明度が
明らかに違うのだ。滑走路は近代的だが、居住区はまるで中近世だ。
だが、中国も山奥は大して変わらないので、そのまま接近を続ける――
そのとき、燕は別方向から接近する機体に気づいた。
「……!?真っ赤な航空機……どこの国アルか?国籍マークがよく見えないアル……」
 それは桃山飛曹長の紫電改。だが、紫電改は燕がハルケギニアに飛ばされた
1942年後半当時にはまだ初飛行もしておらず、また深紅に塗られた機体に
描かれた日の丸を、燕は見落とした。
 紫電改は滑走路に降りていく。見たこともない機体が真っ赤に塗られていた
ことから、燕はそこがどこかの国の試験場だと思った。試験場なら、
技術者たちの住む居住区が真横にあっても不思議ではない。そこが平原の
ど真ん中というのも、機密保持のためだろうと燕は想像した。
「どこの国アルかね……少なくとも、日本にはあんなのはないアル。
ドイツとかの枢軸だったら……いや、連合国に違いないネ。
ここがドイツだったら、今頃私を撃墜するためにわんさか上がってきて
いるはずネ」
 とんだ自信である。が、燕の空腹ももう限界で、とうとう滑走路を
目前にして目を回して墜落してしまったのだった……


「大丈夫~怪我してない~?」
 あかぎが駆け寄ると、草地に頭から突っ込んでいるのは、大胆な
スリットが入った真っ赤なチャイナドレスの少女だった。背中に背負った
翼には青天白日旗。中国の鋼の乙女だとあかぎにはすぐ分かった。
「う……うう。酷い目にあったアル……」
 なんとか地面にめり込んだ頭を抜き出す燕。そこにあかぎが声をかける。
「どうやら大丈夫みたいね。いきなり落ちちゃうからお姉さん心配したのよ~」
 あかぎが燕に気づかなかったのは、桃山飛曹長の管制を行っていたためではない。
単に遅すぎてあかぎのふるい分けから漏れただけなのだ。もちろん、通常の
巡航速度ならあかぎも見逃さなかったのだが、空腹でふらふらのまま
飛んでいたのが徒になった。
 だが、燕はあかぎと目が合うと、それまでの動きが嘘のように敏捷に
飛び退いた。
「お、お前は、日本の空母あかぎ!アイヤー!私は日本軍の基地に降りて
しまったアルか~?!」
「お、落ち着いて。私は、別にあなたをどうにかするわけじゃないわ~」
「信じられないアル!日本軍は、中国でたくさん酷いことをしてきたアル!
そんな連中の言うことが信じられるわけが……」
「あれ?ひょっとして……燕姐姐?」
 何とか燕をなだめようとわたわたするあかぎの後ろから、カーキと
カーキグリーンの二色迷彩柄の脚甲を履いた赤いチャイナドレスの少女が
顔を出した。大人びた容姿と左上腕だけに嵌めた翡翠の腕輪と肘上まで
覆う朱色の長手袋が目を引き、背中に届く金髪が風になびく。
 その声を聞いて、燕の動きが止まる。ゆっくりと顔を声の方向に向け、
目をめいっぱい見開いた。
「……お前は……まさか……そんなはずないアル。私は、確かに見たネ。
研究所が日本軍に破壊され、区別も付かないほどにバラバラにされたのを」
 燕はふるふると頭を振る。信じられないものを見た、とその目は雄弁に
物語る。そんな燕にどう言えば納得してもらえるのか、という顔の金髪
チャイナドレスの少女の後ろから、櫓から飛んできた少女が声をかけた。
「綻英(テンエイ)姐、どうしたの?……って、やっぱりそっちにいるの
燕姐姐?」
「裴綻英(ヒ・テンエイ)どころか霍可可(ホゥ・ココ)まで!アイヤー!
私は夢を見ているアル~」
 チャイナ少女二人を見た燕は、そう言い残すと目を回して倒れてしまう。
その様子に、二人は顔を見合わせた。そんな彼女たちに、あかぎは苦笑いを
浮かべる。
「しかたないわ~。だって、燕ちゃんはあなたたちが生きてるって
知らなかったんだから~。とにかく、私たちの家まで運びましょう」

 ――燕が信じられなかったのも無理はない。

 第一次世界大戦のさなか、ドイツで開発された最初の鋼の乙女フォッカーDR.I・
アンジェリカの登場とその成功により、世界の列強各国は大艦巨砲主義と
並列してある意味正反対の技術である鋼の乙女開発にいそしんだ。
それはアジアの盟主を自負する清国、そしてその後に興った中華民国も
例外ではなかった。
 だが、日清戦争に敗北後、隣国大日本帝国に後れを取り始めた中華民国では
鋼の乙女の独力開発も難航し、長く続く日本との戦いに勝利すべく同盟国である
ソ連、そしてアメリカからの技術援助を受けることにした。それが戦闘機
I-16・燕と、戦闘爆撃機ホークIII・霍可可である。どちらも両国では
技術試験機レベルの旧型であったが、やがて現れるであろう日本の鋼の乙女に
対抗するべく、国内の頭脳を集めそれぞれソ連の技術を担当する「龍」隊、
アメリカの技術を担当する「虎」隊の二チーム体制にて開発に着手した。
 しかし、「龍」隊の燕は何とか八年抗戦(日華事変の中国側呼称)に
間に合ったが、「虎」隊の霍可可は『鋼の乙女』の国内呼称を『少女兵器』と
する、と国民党上層部が定めた後でも完成のめどが立たず、燕も航続距離の
問題で護衛戦闘機なしで侵攻してくる大日本帝国の重爆および陸攻隊
迎撃に成果を上げてはいたが完成時点ですでに欧米列強の一線級鋼の乙女に
見劣りする有様であり、国民党上層部はさらなる決断を迫られることになった。

 より強力な鋼の乙女、もとい少女兵器を求める上層部は、在ソ、在米華僑
ネットワークを通じてソ連とアメリカに再度の技術支援を求め、ソ連の
新鋭機である攻撃機Il-2・カチューシャや戦闘機yak-9・リーリャの獲得には
失敗したものの、巨額の資金提供と引き替えにアメリカ陸軍の主力鋼の乙女、
戦闘機P-40・クレアの大規模修理用予備素体の獲得に成功した。
素体はそれこそ宝のように大切に本国に空輸されたが、アメリカにしても
すでにより高性能な戦闘機P-51・ムスタングの完成のめどが立っており、
そのために決定されたようなものであった。
 そんな事情があったとはいえ、国民党上層部はアメリカの主力鋼の乙女の
素体が提供されたことに歓喜した。アメリカ系技術を担当していた
「虎」隊は素体を受領するとすぐに解析を開始し、素体の不足部分を
これまで開発していた霍可可の技術流用を行うことで早期の完成を目指した。
それが中美合作ともいわれる少女兵器、戦闘機P-40・裴綻英であり、
同時に解析した技術のフィードバックから完成が遅れに遅れていた霍可可も
そのめどが立った。
 裴綻英は霍可可と同様に武装以外のユニットが単体で完結していない
(霍可可は飛行用の艇体に跨る必要があり、裴綻英は大型のエンジン
ユニットが必要であった)など一部古めかしいところがあったが、登場間近で
あった大日本帝国の航空機型鋼の乙女、零式艦上戦闘機・レイと一式戦闘機・
はやぶさに十分対抗できる性能であり、その完成を今か今かと待ち望まれた
のであるが――中国軍の新鋭鋼の乙女完成間近の情報を得た大日本帝国陸軍は
虎の子の落下傘部隊、精鋭の第一挺進団を投入して研究所を奇襲。
ロールアウト直前だった裴綻英と霍可可、そして名前さえない未完成の
少女兵器たちをすべて破壊した、と公式に記録されることになるのであった。

 ……だが、事実は異なっていた。爆破される直前、未だ目覚めぬ裴綻英と
霍可可を金色の魔法陣が吸い込んだのだ。それは誰にも知られることなく、
日本軍による破壊が行われた後の瓦礫の山に降り立った燕も、その事実を
知らないままだったのである――


 武雄とあかぎ、そして二人が育てた子供たちの家は、かつてルーリーが
建てた庵とは離れた場所にある。武雄とルーリーの子供が生まれた後、
ルーリーが二人と一緒に暮らすことを拒否したためだ。彼女は武雄たちの
家を自分の庵から離れた場所に建てて、自分は庵に引っ込んでしまった。
その後武雄たちの家の側にミジュアメ製造所を建設し、家族が増えるに
従って家も増築されていったが、ルーリーはよほどのことがない限り
武雄たちの家に近づこうとはしなかった。

「……ということで、私と可可は気がついたら砂漠に転がっていた、
というわけ。目覚めても本調子じゃなかったし、いきなりエルフに
襲われたしで、とにかく逃げ出して……何となくこっちの方に飛んでたら、
あかぎ大姐に誘導されてこの村にたどり着いたのよ。
 未調整だった部分もあかぎ大姐に調整してもらったから、もう大丈夫よ」
 気絶した燕が回復してから、綻英がことのあらましを説明する。
説明を聞いてもまだ納得していないようだが、それでも燕はあかぎに
向き直ると、深々と頭を下げた。
「従妹たちを助けてくれたことには感謝するアル。それに、ここが中国でも
日本でも欧州でもないことは、私も薄々気がついていたネ。中国にも、
日本にも、欧州にも、あんな化け物はいないアル」
 礼には礼で応える――それが燕のけじめのつけ方だった。たとえ、それが
憎い敵であっても。『中華民国』という国を背負って戦い続けた燕に
とって、それを穢すことなど考えられない。だから燕はあかぎに頭を下げた。
そしてあかぎは、最初から燕を『敵』などという得体の知れない存在だとは
考えもしなかった。
「そうね。ここはハルケギニア。地球じゃない別の場所よ。
 それに、綻英ちゃんと可可ちゃんは、二人とも半分以上アメリカ製だから
私でも何とかできたの。燕ちゃんのようにソ連製だとちょっと難しかったかも」
「私は中国製アル。綻英も可可もアメリカ製じゃないアルよ。
中国の技術者たちが、心血を注いで生み出したアル」
 憮然とする燕。何が気に障ったのかを遅まきながら理解したあかぎは
素直に謝った。それで少し気が晴れた燕は、あかぎに尋ねる。
「……ところで、お前はずいぶん長いことこっちで暮らしているようアルが、
日本に帰ることは諦めたアルか?」
「日本、というか、あっちに戻るための『門』が開くのが三十年に一度だけ。
前回は間に合わなかったから、それからずっとここにいるわね。
 でも、ルリちゃんが星の動きを調べてくれているから、もう半月も
しないうちに『門』が開くことが分かってるの。そうすれば帰れるわよ」
「三十年アルか……って、アメリカ軍からお前が死んだと聞いてから、
まだ半年しか経ってないアルよ!?どういうことネ?」
 燕は驚いた顔であかぎを見る。本人はあまり変わっていないように
見えるが、身につけている装甲、つまり服は手入れされてはいるものの
ところどころあせて、かなりの年月を経ているように思えた。
 燕の疑問に、あかぎは静かに答える。
「私たちの世界とこのハルケギニアの間には、時空のゆがみがあるみたいなの。
サハラにある『悪魔の門』に召喚されるのは私たちの世界の強力な武器。
でも、こっちに現れるのは必ずしも時系列に沿ってはいないみたいで、
私たちが生まれる前の兵器が私たちが召喚された後にこっちに現れることも
あるわね」
 そう言って、あかぎは二十五年前に見た、巡洋艦『畝傍』を思い出す。
 畝傍は回航中の明治十九年にシンガポールを出航後謎の亡失を遂げた艦だ。
それが自分たちが召喚されてから五年後にサハラに現れた。
だが、『場違いな工芸品』としてのそれの保有権を得たアルビオン王国では
その正体がつかめず(不明な文字を読む『リードランゲージ』の魔法も、
それが文字であると認識できなければ効果がなく、またハルケギニアにない
語彙は翻訳されないのだ)、困り果てた王立空軍から秘密裏にあかぎたちに
接触があり、武雄とルーリーの三人でそれを見たのだった。
「そうアルか。だけど、今もうすぐ『門』が開くと言ったネ。
どこに開くアルか?」
「伝説では、この世界の双月が両方とも太陽と直列する、つまり金環皆既
日食の黄金の環に飛び込めば、異世界に行けるそうよ」
 それを聞いて、燕はがっくりと肩を落とす。
「……私はそんなに高く飛べないアル」
「諦めちゃダメよ。どこまで飛べばいいか、なんてまだ分からないんだから。
それに、飛べないとダメ、なんてこともないと思うの。帰りたいんでしょう?
元の世界に」
 あかぎはそう言って、燕の手を優しく包み込む。燕はうつむいたまま、
ぽつりと「帰りたいアル」とこぼした。

 そのとき、部屋の扉がノックされた。

「どなた~?」
 あかぎが扉を開けると、そこに立っていたのはピンクブロンドの長い髪を
ポニーテールにした少年?騎士。中性的な美しい顔立ちが少女のようにも見え、
またその出立ちも背中にマンティコアが刺繍された魔法衛士隊隊長のマントを
胸元の大きなリボン状の留め具付きでまとい、おへそが見える上等な生地の
白い上着に丈の短いホットパンツ、それに黒いニーソックスにブーツ。
腰に佩いたレイピア様式の杖はこしらえは上等とは言い難いが、使い込まれ
歴戦をくぐり抜けた傷が自身の戦歴を物語っていた。
「あら、カリンちゃん」
「ド・マイヤール隊長だ!ぼくをなれなれしく名前で呼ぶな!まったく」
 そこにいたのはトリステイン王国魔法衛士隊マンティコア隊隊長の
カリン・ド・マイヤール。『ミジュアメ』をタルブ領主アストン伯経由で
王家に献上した後、王家から王都トリスタニアの中心街ブルドンネに
店を開く許可が下ったのだが、ギルドが条件として『ミジュアメ』の
製造法の開示を求めたことに対してあかぎが拒否の姿勢で臨んだため、
結果、王都に店を開くことはなかった。しかし、滋養が高く秘薬として
のみならず軍の栄養食として『ミジュアメ』の戦略物資としての価値を
見いだした王家の意向により、その保護と技術流出を防ぐために近衛の
魔法衛士隊より交代で分隊が派遣されることになっていたのである。
もっとも、普通は隊長自らがこの分隊を率いたりはしないのだが。
 カリンの抗議を受け流したあかぎだが、カリンの様子がいつもと違うことに
気づいた。
「何かあったのかしら?」
「さっき降りた妙ちくりんな格好の女はそこにいるな?話を聞きたい」
「どういうことかしら」
 あかぎの質問には答えず、カリンは部屋に入ってくる。
「さっきそこで真っ赤な『龍の羽衣』の乗り手からは話を聞いた。
ガリアとゲルマニアの国境、アルデンの森のあたりで何か見なかったか?」
「森、アルか?私は南の方から飛んできたから……森で空を飛ぶ三体の
化け物に襲われていた老人を助けただけネ」
「アルデンの森はここから南東にある広大な森よ。燕ちゃんが見たのは
別の森ね」
 あかぎの補足に、カリンは小さく溜息をつく。「こっちは無駄足か」と
漏らしたのを、燕は聞き逃さなかった。
「無駄足とはどういう意味アルか!?あかぎ、この女は誰アルか?」
「ぼくは男だ!」
「こちらはトリステイン王国魔法衛士隊マンティコア隊隊長の、
『烈風』カリン・ド・マイヤール様よ。可愛いでしょ?」
「可愛いは余計だ!……まあいい。どうせここが戦場になることもない
だろうし、お前たちなら下手な吹聴もしないだろうからな。
……させないよな?」
 そう言って、カリンはじろりとあかぎを見る。あかぎはにっこりと
笑っただけだ。カリンはその様子にもう一度小さく溜息をついた。

「……二週間ほど前だ。『聖地』方面より出現した謎の鉄の竜が、
こっちに向かっている。馬より速く走り、立ちふさがるものをまばゆく
輝く炎で焼き尽くしながら、ガリアの東薔薇花壇騎士団、ゲルマニアの
鋼鉄装甲騎士団(シュタール・パンツァー・リッター)の攻撃にも、
その足を止めないらしい」
「まあ」
「ガリアもゲルマニアも被害は甚大らしいが、それを公表せず、我が国の
問い合わせにも応じない。クルデンホルフにも確認したが、あっちにも
ゲルマニアからの情報は来ていないらしい。このまま進めばゲルマニア
国境からラ・ヴァリエール公爵領に来るか、それともガリア国境から
クロステルマン伯爵領に来るか……」
「それで、桃山飛曹長はなんて言ったの?」
「ミスタ・モモヤマは森の中で上空から竜騎士が攻撃を仕掛けるところしか
見ていないそうだ。場所を確認したが、ガリア国境、東薔薇花壇騎士団の
再攻撃だろうな」
 また薄皮一枚はげたら関の山だろうな、とカリンは言う。
 トリステイン王国が、その謎の竜が鉄でできていると知ったのは偶然だ。
タルブの高級ワインやミジュアメなどの贅沢品をガリアに売りに行く商隊が、
帰路の途中でその竜に遭遇したのだ。幸運にも攻撃されることはなく、
しかも竜はそれまでの攻撃で皮が一部はがれており、そこから鉄の地肌が
見えた、と商人は言った。ガリアの国境警備隊の追求にしらを切り通してまで
国境を越えてきた情報だ。トリステイン王家は多額の褒賞を商人に与えると
同時に、彼の身の安全を守るため、王城の座敷牢に丁重に『保護』していた。
「とにかく、今言ったことは他言無用。国境にヤツが迫ったらぼくも出る。
『烈風』の二つ名が伊達じゃないことを見せてやる」
 カリンはそう言い残すと、部屋を後にした。

 カリンがいなくなってから、あかぎは考え込むような仕草をする。
しばらくそうしてから、あかぎは部屋を出て、食堂で武内少将らと
話していた武雄に尋ねる。
「武雄さんの零戦に積んである航空写真機、まだ使えたわよね?」
 複座零戦は元々偵察任務に多用されていた機体だ。そして、特攻を
命じられたとき、武雄の『どうせなら敵艦隊撮して拾ったヤツに見て
もらおう』という理由で、命令に反して搭載された陸軍の置き土産こと
九九式極小航空写真機は、そのまま降ろされることなくこのハルケギニアに
存在していた。
「あ?どうだろうな……ルーリーに機体ごと『固定化』かけてもらってるから
フィルムも生きてるとは思うが……。第一、現像どうするんだ?」
「そっちは任せて。私の方でもルリちゃんに『固定化』をかけてもらったけど、
あまり手持ちがないから今まで使わなかったんだけどね。
 それじゃあ、それが使えなかったら私のカメラを使うわね。そっちが
使えた方が危険が少ないんだけど」
「何をする気だ?」
 いぶかしがる武雄に、あかぎはちょっとそこまで、とでも言うような
顔をした。
「写・真・偵・察。私のカメラを使うなら、ぶつかるくらいまで接近
してもらうから~」



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