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機械仕掛けの使い魔-第12話



機械仕掛けの使い魔 第12話


 サイボーグキャット1号、ミー。ドクター剛がその生涯で初めて生み出した、ネコ型サイボーグ。
 当初は、とある事情で瀕死の重傷を負った、生身のミーを救う為の処置であったがゆえに、武装は爪のみであったが(それでも、その爪と、サイボーグ体のパワーによる斬撃は極めて強力である)、
後の事件をきっかけに戦闘サイボーグとして強化され、そのスペックはクロに勝るとも劣らない。
 ドクター剛の野望を叶える為に尽力する、ニャンニャンアーミーリーダー。人間に徹底的に牙を剥く、沈着冷静、冷酷非情のサイボーグである!

 …だが、しかし。現在ではすっかり丸くなり、元来の面倒見の良さ、温和で優しい性格も相まって、みんなの人気者、といった状態である。

 階段で様子を見ていた4人も合流し、5人と2匹は、ルイズの部屋に入った。幽霊の件はまだ完全には解決していないが、キュルケが改めて事情を話すと、
「あぁ、それなら大丈夫だよ」と、ミーに部屋へと招かれたのだ。部屋の主人であるルイズはやや憮然としていたが、その場の流れには逆らえず、他の者と一緒にミーに招き入れられた。

「で、何でオメーがここにいるんだ?」
 開口一番、クロがミーに問い質した。ややイラつきが感じられる口調だったが、ミーは平然と受け流し、答える。
「そりゃ、あの爆発の後、いきなり消えたお前を探す為に決まってるじゃないか」
「いらねー世話だっての…」
 溜息をつくクロに、ミーがにじり寄った。

「そう言うお前は、何やってるんだよ? 外でドンパチやってたみたいだけどさ」
「オメ、見てたのか!?」
 驚くクロに、ミーが「うんっ!」と、親指を立てて見せた。
「いやー、凄い物見せてもらったけどさ、あのくらいならお前だけでも大丈夫かなー、って」
ぐぅの音も出ないクロ。知り合いに無様な姿を見られたのが悔しいのだろうか。

 と、ここでようやく、人間組が口を挟んだ。筆頭はキュルケである。
「あなたたちが仲いいのは解ったから。とりあえず自己紹介くらいしてくれないかしら?」
「誰と誰の仲がいいってんだよ!」
 声を荒らげてクロが反論したが、呆れたようにキュルケが、クロとミーを順番に指さした。不本意そうだが仕方ない。いいコンビなのは事実なのだから。

「ボクはミー。クロと同じ、サイボーグだよ」
「あなたは、ぬいぐるみ着込んでないのねぇ」
 ミーの首根っこをつまみ、持ち上げるキュルケ。
 …ミーは重量60kg、おまけに完全にメタルボディ丸出しなのだから、つまみ上げるなどどう考えても不可能なのだが、そこは気にしてはいけない。猫だから。
「わぁ、やめて、離してよ!」
「あら、ごめんなさいね」
抗議の声と共に暴れるミーを開放したキュルケは、自分の指を眺めている。恐らく、不思議なのだろう。普通の猫と同様に、ミーをつまみ上げられた事が。
 気にしてはいけない。

「失礼したわ。私はキュルケよ。私の後ろにいるのが、タバサ。で、そこの優男がギーシュ、メイドのシエスタ。そして…」
 全員を代表して名前を言うキュルケ。最後に、この部屋の主、ルイズの名を言おうとしたが、目をやると、なぜかそのルイズは、腰に手を添え、踏ん反りがえっていた。

 得意げな顔をして、ルイズはクロをビシィっと指さした。
「さぁクロ! 私の名前を教えてあげなさい! この部屋の主の、私の名前を!」
頭痛を感じ、キュルケは頭を抑えた。どうやら、自分の部屋だというのに、正体不明の猫っぽい何かに招き入れられたのが不服だったらしく、その辺をアピールしたいようだ。
「…クロ、お前、何したんだ?」
「色々あってよ…」
 ルイズの剣幕に、クロに説明を求めようとするミーだが、クロは語ろうとしない。ルイズの本質は認めたものの、その性格と言うか、日頃の態度に関しては、やや疲れるものがあるのだろう。

 クロは天井を見上げながら、ルイズの名前を思い出そうとしていた。
 何しろ、長いのだ。日本人と比較して。ファミリーネーム、ファーストネーム以外にも、立場や領地の名前まで入っている。
しかも、1度しか聞いていない。これを一発で覚えろというのは、日本人の名前に慣れたクロには少々厳しいだろう。

(ルイズ、ってのは合ってるよな、間違いなく。で、その次だ…。ふら…フランソア…? こんな感じだな)
 雲行きが怪しい。
(ぶらん…? いや、違うな。ブランドだ、うん、ブランド)
 微妙に軌道がズレて来た。『ブラン』と『ド』をごっちゃにしている。
(ばりえーる…? 何かおかしいな。んじゃあ…)
 発音としては限りなく近いのだが、納得行かなかったのか、勝手に脳内変換が進んでいく。すでに取り返しがつかないようにも思える。

 そして、クロはルイズの名前(推測)を口にした。
「ミーくん、こいつは、『ルイズ・フランソアブランドのアリエール』だ!」
「へー、パンだけじゃなくて洗剤も作ってるのかぁ」
盛大な間違い方に、ルイズは姿勢を維持し、不敵な表情のまま、前のめりに倒れた。結構痛そうな音がしたが、痛がる様子はない。

 慌ててシエスタが駆け寄り、ルイズを助け起こしたが、その手を振り払い、やりきったような顔のクロに捲し立てた。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールっ!! 主人の名前くらいちゃんと覚えてなさいよっ!!!」
「長ぇんだよっ! だいたい合ってたろーが!」
「一言一句、間違えずに覚えなさいって言ってるの!」
ここでようやく、額と鼻をさすり始めた。怒りのあまり、痛みを忘れていたのだろう。

「理由はとりあえず解った。でも、どーやってここに来たんだよ?」
 部屋に入って、すぐに理由は聞き出した。だがクロには、ミーがここに来た“手段”が、どうにも思いつかなかったのだ。
「どうやって、って…。クロ、忘れたのか?」
「忘れたのか、って言われてもよー…」
呆れたようにクロを見やるミーだったが、思い当たるフシがないクロは、何度も首を傾げている。
「全くもう…。コレだよ、コレ!」
そう言いながらミーくんが突き出した指の先には――幽霊騒ぎの原因となっている、鏡台があった。

 その場にいた、ミーとギーシュを除く全員が動揺した。
それもそうだ。この時間にここに集まった女性陣とクロは、この鏡から幽霊の声が聞こえる、というキュルケの話がきっかけで集まったのだから。
「剛くん、クロ見つけたよ!」
ててて、と鏡台に走り寄り、鏡面に向かって声をかけた。すると…
『うーん、むにゃむにゃ…。ミーくん、ワシもう食べられないよ…』
 もはやテンプレートの如き寝言が返って来た。

 ミーが何度も呼びかけ、ようやく剛と呼ばれた寝言の主が覚醒した。しかし、声はまだ気だるげで、まさに寝起きといった様子だ。
「なるほどねぇ…。例の転送装置を使ったってワケか」
『うむ。あの家から取り外した装置を利用して、こちらの世界とそっちの世界を繋げた、というワケじゃ』
 理由は解らんが映像だけが送受信出来ん、と付け加えた剛は、大きな欠伸をした。
「お前が消えちゃってから、剛くん、ほとんど寝ないで、コタローくんと装置の調整やってたからね」
クロがよーく耳を澄ませると、なるほど微かに、獣のいびきに混じって、子供のものと思われる寝息が聞こえる。
という事は、繋がっているのは剛のボロ小屋と、ルイズの私室だろうか。

「ねぇ、さっきからあんたたちだけで話してるけど、私たちにも教えてくれない?」
 まだ鼻をさすっているルイズが割り込んだ。自分の使い魔が、知らない者たちと、知らない話題で妙に盛り上がっているのが、面白くないのだろう。

 クロはそんなルイズの心境を知ってか知らずか、肩をすくめてみせると、彼女に向き直った。
「そう言や、オイラが別の世界から来た、ってのも話してなかったんだっけな」
「別の世界? 何よそれ?」
 聞きなれない単語にキョトンとするルイズ。いまいち理解が追いつかないらしい。実際に異世界への転移を体験した者と、していない者との差だろう。
 まして、ファンタジーやSFなどの、架空の物語がほとんど作られていないハルケギニアである。
その住人であるルイズたちに、歴史や文化体系が全く異なる世界の概念がないのも、頷ける。

 どう説明していいか、とクロが悩んでいると、意外なところから助け舟が来た。
「簡単に言うと、天国や地獄も異世界」
タバサだった。いつの間にか、興味深げに鏡を眺めている。正体が幽霊ではないと知り、いつもの調子を取り戻したようだ。
「…じゃあ、クロやこの…えっと、ミーも、天国か地獄から来たっての?」
「違う、あくまでも例え。たぶんクロたちは、私たちとは全く文化の異なる世界の住人」
 珍しくよく喋るタバサに、普段一緒に行動しているキュルケも驚く。この子、こんなに長く喋れたのか、と。
 常日頃から、学術書や物語などの書物に触れているタバサ。その中には、前述のような架空の世界を舞台とした本もあったようだ。
そのおかげか、異世界の概念も、割とすんなり受け入れられたらしい。
 …と言うか、クロやミーが本当に天国か地獄の住人だったなら、今頃タバサは卒倒しているだろう。

 難しい顔をしながら、ルイズがまとめてみる。
「つまりクロやミー、そして鏡の向こうのゴーは――」
『剛博士と呼べ! ワシは天才科学者、ドク――』「黙ってなさい!」
ルイズの呼び捨てが気に入らなかった剛がツッコミを入れようとしたが、ルイズの高圧的な静止に、「はい…」と、しょんぼりした声を上げた。
クロがニシシと笑っているが、ルイズはそれにも構わず続ける。
「とにかく、アンタたちは、こことは全く別の世界から来たってワケね。よく解んないけど」
「少なくとも、オイラたちの世界じゃ、魔法ってのは架空の物語じゃないと出て来ねーな」
「昔の事はボクたちも知らないけど、キュルケちゃんやタバサちゃんが使ってたみたいな、火の玉とか見えない衝撃とかは、本当に存在するなら、今でも残ってると思うなぁ」
 ミーが言っているのは、ゴーレムの右腕を攻撃していた、キュルケとタバサの魔法だ。興味本位で覗いていた割には、こういった話題において引用出来る辺り、しっかりと観察していたのだろう。

「で、私がクロを召喚したから、ゴーはクロを連れ戻すためにその、世界と世界を繋げられる何かで、私の部屋と、そこを行き来出来るようにした、と」
『うむ。装置の原理はワシにも解らんけど!』
 自信満々の剛に、その場の全員がズッコケた。

「何でオメーが知らねーんだよ!?」
 立ち直ったクロが鏡に向かって蹴りを繰り出した。すると、どういうワケかクロの足が伸び、そのまま鏡の中に吸い込まれた。同時に、鏡から鈍い音が聞こえる。
『ムギュ!?』
どうやらクロの足が、鏡の向こうの剛の顔面に直撃したらしい。
『だって、あの時のワシ、大怪我してたんだもん! ツインキャノンだって、ほとんど構造覚えてないもん!』

 剛の言い分は、こうだった。
 砂漠の世界に移動した際に、フジ井家の下敷きとなった事で右肩脱臼、肋骨4本骨折、出血多量の大怪我を負った上、まともな治療を受けていなかった為、意識が朦朧としていた。
当然、当時の記憶もおぼろげである。
 砂漠の世界で、ガトリング砲を失ったクロの為にツインキャノンを作ったが、現地特有の金属をどのように加工して、どのような構造で作ったのかも、同様の理由で覚えていない。
 無論、転送装置に至っては言わずもがな。

『――という訳で、転送装置のコアはほとんどブラックボックスみたいなものじゃったが、他の部分はすぐに解析出来たのでな。
お前に取り付けてある発信機の受信端末を装置に繋いで、ようやく別の世界…まぁ、そこにおるお前を発見したのじゃ』
「メンテの時に外しときゃよかったぜ…」
 己の迂闊さを心底呪うクロだった。

「…ま、まぁいいわ。それで、鏡の向こうからクロに声をかけてたら、そこの色ボケツェルプストーが聞いて、幽霊と早とちりした、と」
『そのようじゃな。いや、もう眠くて眠くて、半分意識なかったわい』
 ジト目でキュルケをにらむルイズ。キュルケはプイっとそっぽを向いた。じゃあ、あなたも聞いてみなさいよ、と言わんばかりの素振だ。

 その続きを、ミーが引き継いだ。
「せっかく現地の人と話せると思ったら、あっという間に叫びながら逃げちゃってさ。剛くんもその場で力尽きて眠っちゃったし、仕方ないから、ボクが直接、この世界に来たんだよ」
 ほとんどがブラックボックスである事は知らなかったようだが、逆に、そんな得体の知れない代物に迷いなく飛び込む辺り、ミーの、剛への愛が窺い知れる。
以前に使って元の世界に戻った、という経験もあるだろうが。
「で、お前を探してここを歩いてたら、何かデカイのが暴れててさ。お前がいたからボクは手出ししなかったけど…」
「せめて、逃げたアイツを追いかけるとかしろよ!」
「ヤだよ。ボク、この世界の事ほとんど知らないし。あのデカブツを追っかけて迷子になっちゃったら、どうすんのさ」
 クロが抗議するも、ミーは当然と言わんばかりに返す。まぁ、その懸念ももっともだ。どうにも暖簾に腕押しなミーの態度に頭を抱えたクロだが、ここでふと思い至る。

「ん? ミーくんがここにいるって事は、そっちからこっちに来れるって事か?」
『うむ。お前の反応を見つけた後は、その反応を追跡するように設定して、コアを起動させたんじゃ。
安定して動作しとるし、自由に行き来出来るはずじゃぞ』
クロの目が怪しく光った。この目は、何か企んでいる目である

「よっしゃ剛! ガトリングの弾をこっちに送れ!」
『何、ガトリングの弾じゃと? そりゃ、送れることは送れるが…』
「グダグダ言ってんじゃねぇ! とにかく、ありったけ全部持って来い!」
『ぜ、全部!?』

 鏡に写っているのは、ルイズの部屋と、そこにいる5人と2匹のみだ。剛の姿は一切見えない。だが、明らかに狼狽しているのが伺える。
『この前も6000発フルに装填しておったろう! もう弾切れになったのか!?』
「足りねーんだよ、6000発程度じゃな!」
 平然と、6000発では足りないと言う。どれだけ暴れるつもりだ。
『と、とにかくかき集めて来る。少し待っておれ…』
「あ、ついでにミサイルとメンテ道具も持って来いよー!」

 こんな事をのたまったクロに驚いたのは、ミーだった。
「ちょ、クロ! お前まさか…」
「あン? 戻らねーに決まってるじゃねーか」
ニヤニヤと笑いながらガトリング砲を取り出したクロだが、対照的にミーは、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「何考えてるんだよお前! 早く戻らないと、ジーサンバーサンも寂しがるぞ!?」
「縁側の下にスペアのぬいぐるみが隠してあるから、マタタビにでも被らせとけ」
 ジーサンバーサンの家に、クロと共に住んでいるトラ猫・マタタビ。ミーもそうだが、クロとはほとんど体格が変わらない。
クロのメタルボディを完全に覆ってしまうぬいぐるみを着れば、傍目にはクロにしか見えないのだ。
 この手段を用い、マタタビは後日、ある事態を乗り切るのだが、それは原作及びアニメを参照のこと。

「だいたい、オメーもマタタビもいるんだ、ジーサンバーサンも安全だろ」
「そんな無責任な事ってあるかぁ! ただ暴れたいだけだろ!」
 無言のクロ。代わりに返って来るのは、カラカラと手動で回るガトリング砲の音。
苛立つミーだったが、ここでようやく、クロから返事があった。

 鋭い目つきで、ミーを見る。おちゃらけた様子は、ない。
「契約したんだよ、ルイズと。コイツが困ってたからな」
目を見開くルイズ。そして、その目からクロの意を読み取るミー。落ち着いた声で、問うた。
「…そっちが本音か?」
またも答えないクロ。だが、ミーはそれで、納得した。
「解った。ジーサンバーサンの家は、オレが面倒見てやるよ」
「言われなくたって、そのつもりだったっての」

 この契約とは言うまでもなく、爆発した教室で交わされた、盟約とも言えるものだ。
 使い魔のルーンを刻むコントラクト・サーヴァントではなく、心から互いを認めた、あの瞬間。
 無論、クロもこの見知らぬ世界で、思う存分暴れたいという願望はある。
しかしそれと同じくらい、泣くほどに困っていたルイズを何とかしてやりたい、という気持ちも大きいのだ。
 口ではなんだかんだと言っていても、根っこは面倒見のいい、頼れる兄貴的存在なのである。

 このやり取りで、ルイズは胸を撫で下ろしていた。
 一緒に感動のフィナーレを見ると約束したクロだが、現にこうして迎えが来ており、さらに話の内容から察するに、元の世界にも、守らなければならない人がいるようだ。
ミーの説得次第では、クロは元の世界に帰ってしまうかも知れない。
 しかし、それは杞憂であった。言葉は少ないが、クロは契約を守ると言った。何の迷いもなく、さも当然であるかのように。
 普段はどうにも不真面目と言うか、主人で、貴族たるルイズにも従順な態度を見せないクロだが、その心中では、ルイズを認め、共に歩こうとしてくれているのだろう。

 クロの心意気に感動を憶えたルイズだったが、やはりルイズである。素直になれない性格ゆえに、偉ぶった態度は、どうにも崩せなかった。
「さ、さすがは私の使い魔ね! いい心がけよ!」
「なぁクロ、あの子、いつもあんな感じなのか…?」
「結構疲れるだろ…?」
 ルイズの心境を知らず、クロとミーはげんなりしている。ルイズとて、この性格には歯噛みしているだろうに。

 そうこうしていると、鏡の向こうからガチャガチャとやかましい音が聞こえてきた。剛がガトリング砲の弾その他を運んで来たようだ。
『とりあえず、ここにあるだけ持ってきたぞい…。全く、力仕事はあまりしたくないと言うに…』
「おう、ご苦労さん。こっちに送ってくれー」
労いの言葉もそこそこに、弾を要求するクロ。もう少し感謝してくれても…、と聞こえるが、意に介す様子はない。

 間を置かず、鏡から金属製の大きなケースが、にゅるんと飛び出した。クロは危なげなくそれを受け取り、床に並べていく。
 見た目には普通の鏡から、何かが飛び出す光景に驚く人間組一同だったが、クロとミーは、至って平然としていた。
物理法則を完全無視した武器庫を腹の中に収めているのだ、この程度では驚きもしないのだろう。

『次は予備のミサイルじゃ、ホレ』
 続いて、先ほどの物より大人しめなサイズのケースが出て来た。半ば放り投げられたそれをキャッチして、先ほどの物同様、床に置いていく。
「あ、そうだ剛。そこ、お前のボロ小屋なんだろ?」
『『剛博士の研究所』と言わんか! いつかはもっと立派な建物を作るわい!』
 ボロ小屋呼ばわりに怒鳴る剛だが、やはりクロは無視する。
「メンテ道具のついでに、ゴミの山からガラクタも適当に見繕って、送ってくれや。ここじゃ部品の調達も出来ねーんだよ」
『そういう事は先に言ってくれんかの…。ワシもうヘトヘトなんじゃが…』
「いーから、さっさと行け」
再び鏡に伸びるクロの右足。そして鏡の向こうから聞こえる鈍い音。さらに重なるミーの批難。
 もはや、いつもの剛のボロ小屋と、同じような状況になっていた。

 剛の足音が遠のくのを確認したクロは、ひとまずケースを1つ開けた。中には弾帯が、びっしりと詰まっている。
「3ケース…18000発か。これならしばらくは困らねーな」
「え、これが弾なのかい?」
横から見ていたギーシュが、弾帯の端っこを摘んで、持ち上げてみる。
「弾以外の何だってんだよ。クソガキ、オメー見た事ねーのか?」
「いや、あるにはあるんだが…、こんな弾は見た事ないよ」
 無理もない。ハルケギニアの銃と言えば、火縄式かフリントロック式なのだ。クロのガトリング砲からすれば、型遅れもいいところの、骨董品である。
 ガトリング砲に装填される、弾丸、火薬、雷管が1つにまとまった実包など、この世界には存在しない。
ギーシュが見た事のある、先込め式銃の鉛弾とは、隔世の差があると言っても過言ではない。

 ルイズたちも集まって、興味深げに弾帯を触り始めた。少々触った程度では暴発する事もない為、クロはそちらを放っておき、2つ目のケースから弾帯を取り出し、腹に収め始めた。
「んじゃ、ボクも今のうちに装填しとこっと」
「おいミーくん、そりゃオイラの弾だぞ!」
 ドサクサ紛れに3つ目のケースを開けたミーに、クロが食いつく。しかし構わず、腹のハッチを開けるミー。
「硬い事言うなよ、まだ1ケースあるじゃん」
「向こうに戻ってから補給すりゃいいじゃねーか!」
「ここにある分で、ストックなくなっちゃってるんだよ? 独り占めなんてズルいぞー」
まるで子供の喧嘩だ。

 6000発を装填し終えたクロが予備のミサイルに手を伸ばしたところで、剛が戻って来た。
『ゼェ、ゼェ…。何でワシがこんな事を…』
「文句は電柱に言いな。それより、あんまり待たせんじゃねーよ」
いろいろと鬼のような事をのたまったクロだが、剛にはもう言い返す気力もないようだ。無言のまま、鏡から工具箱と、ガラクタが3つほど送られて来る。
「ま、こんなモンか。メンテくらいなら余裕だろ」
 送られてきたガラクタは、電子レンジ、テレビ、小型発電機の3つ。
下半身バラバラの状態からでも、数さえあれば、粗大ゴミで完全に修理できるクロだ。これだけあれば、日常のメンテナンスには事欠かないだろう。

「それじゃクロ、ボクは戻るよ」
 同じく装填を終えたミーが、クロに向き直った。ガラクタを眺めていたクロだが、その声に振り返る。
「ジーサンバーサンの事、頼んだぜ」
「解ってるよ。ボクもあの2人は好きだしね」
「誘拐までしたヤツのセリフかぁ?」
「昔の事じゃないかよぉ…」
若気の至り、と言いたげに顔を染めるミーだが、すぐにいつもの調子を取り戻し、ルイズに歩み寄った。

「ねぇ、ルイズちゃん」
「へ? 私?」
弾帯いじりに夢中だったルイズだが、突然横から名前を呼ばれ、驚いたようにミーを見返した。
「クロは暴れん坊の聞かん坊で、やる事なす事無茶苦茶なヤツだけど…」
「うん、それは私も知ってる」
うんうんと頷くルイズ。クロはミサイルの装填に気を取られている為、気づいていない。聞こえていたらまた騒ぎ出すだろう。
「…だけどさ、筋はちゃんと通すヤツだよ。絶対に、ルイズちゃんを裏切ったりしない。オス猫の誇りを、持ってるからね」
「…うん、私も知ってるわ」
何だか嬉しくなって、微笑を浮かべるルイズ。そして、
「私の、使い魔だからね」
 不思議と、素直に、そんな言葉が口を突いて出た。

 その言葉に満足そうに頷いたミーは、鏡の前に立った。
「剛くん、今日の晩御飯は何にするー?」
『うん、ミーくんの作る物なら、何でもいいよ!』
新婚夫婦のようなやり取りである。
「それじゃ今日は、アツアツでホッカホカのチーズフォンデュにしよう!」
元気よく言いながら、クロを睨むミー。昔、チーズフォンデュをクロに台無しにされたのを、まだ根に持っているらしい。

「じゃあねクロ、また来るよ」
「もう来なくていーぞ」
 悪態をつくクロに肩を竦め、ミーはルイズに、親指を立てて見せた。それに気づき、同じように親指を立て返すルイズ。クロを通して、1つ絆が生まれたようだ。

 キュルケたちに手を振って別れを伝え、鏡に向かってジャンプするミー。そして-―

  ガァンッ

 思いっきり、顔面を鏡面にぶつけた。その光景に盛大に噴出すクロ。
 …どうやら、今回もアツアツでホッカホカのチーズフォンデュは、お預けのようだ。



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