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ゼロの戦闘妖精-13

Misson 13「伝説のフェニックス」(その6)

「えぇ~い。あの『お飾り姫』がっ!
 所詮 トリステインにとっては『お荷物』でしかない小娘の分際でぇ!
 荷物は荷物らしく さっさとゲルマニアに送られて、慰み物にでもなっておればいいものを!」
屋敷へと向かう竜篭の中、毒づくリッシュモン最高法院長官。
近衛騎士あたりに聞かれれば 剣の錆にされかねない科白だが、乗り合わせている者はいない。その事が 彼を饒舌にさせる。
「今更になって、『レコンキスタを討つ』だと。
 馬鹿め 勝てる訳が無かろうがっ!精々 返り討ちに遭うがよいわ!!」
逆恨みの炎が 胸の奥深く燃え盛っていた。
軍事・政治・経済の重鎮全てが顔を揃えた王宮会議で、彼の面子は これ以上無い迄に潰された。
あの場において、彼に逆らった者 彼を笑った者 彼を蔑んだ者達全てに、しかるべき報いを与えてやらねばならなかった。
「そもそも、『聖地奪還』は 始祖ブリミルの悲願ではないか。正義は我等 レコンキスタにこそ有り。
 さらに 皇帝陛下には、始祖の御加護がある。
 私は見たのだ、クロムウェル様の『御力』を!そして確信した。
 トリステインは、あの御方と それに従う我々が統治すべきだ と。」
リッシュモンの独演会は続く。

「マザリーニもマザリーニだ。
 ワシがせっかく用意してやった『最後の大舞台』、王家終焉の幕引き役に 何の不満がある!
 若年寄の鶏ガラごときには、過ぎたる役回りであろうが!
 一時は法王候補とまで噂された者が 跳ねっ返り娘の暴走すら抑えられんとは 落ちたものよ。晩節を汚すでないわ。
 皇太后への横恋慕を抱えたまま 無様に散るがいい!」
「ヴァリエールめ、貴様は戦に反対しておったではないか。
 それがなんだ、あの 手の平を返した様な参戦表明は。血迷ったか!
 そもそも 女腹の阿婆擦れなんぞを嫁にしおったせいで 跡継ぎも作れぬまま種も尽きたようなオトコが、いつまで政に口を出す気だ!
 女ばかりポコポコと三匹も産ませおって、それも学者バカに病気持ち 果ては魔法も使えぬ出来損ない。
 これでは 婿の一人も取れぬというのも当たり前よ!家名も残さず絶えるがよいわ!」
もし 当人達に聞かれたら、ロクな死に様は晒さないであろう発言を、嬉々として続ける。
止まらない。止められない。喋る事自体が快感であり 過剰に分泌され続ける脳内麻薬で泥酔状態だった。

「ワルド、薄汚い裏切り者め。
 レコンキスタに招き入れてやった恩義も忘れ、我等と敵対するとは…許しがたい!
 下級貴族の分際で、王宮会議に参加するなど、以ての外。何故 辞退せぬ!
 ふん そうよ、あ奴は下級 下の下の小者。皇帝陛下の真意も 我等の計画の中枢も知らぬ、知る事すら許されぬ 哀れな駒の一つ。
 世界の潮流も読めぬ阿呆は、自ら選んだ泥舟と共に沈むだけよ。」
何時までも続くかと思われた独演会にも 終わりは来る。あっけなく。
竜篭が降下を始め リッシュモンが窓から外を見ると 既に屋敷の上空まで来ていたのが判った。
(さて 今夜は忙しくなるぞ!)
成すべき事を頭の中で箇条書きにして並べながら、締めくくりの一言を放つ。
「せめて、国名だけでも残してやろうとした ワシの温情も無駄となるか。
 だが これも自業自得というものよ。  
 アンリエッタよ、貴様は『愚かなる亡国の皇女』と呼ばれる事になるのだ。」

竜篭は、一応 ある程度の広さがあれば 何処にでも降ろす事は出来る。
よほど頻繁に使用しない限り 専用の『竜着き場』など必要としない。
しかし リッシュモンの屋敷には、それがある。
竜篭の利点は その速度だけではない。
馬車等では、目的地までの道中 沿道の住人等に乗客が目撃されてしまう恐れがある。
全ての行程を空中移動する竜篭ならば、その心配が無い。
つまり 顔を見られる訳にいかない客が 頻繁に訪れる場所。
個人が竜篭の発着場を持つことには、そういった意味合いもある。

竜着き場の上空 飛竜はホバリングしてゆっくりと篭を下ろす。
通常なら すかさず使用人が駆け寄って篭の扉を開ける。だが しばらく待っても扉は開かなかった。
(えぇい、遅いわ!何をやっておるか!!)
再び 怒りだすリッシュモン。
自ら扉を開けて外に出た途端、その目に飛び込んできたのは!? 

「お早い御着きですな、長官殿。それでも『もう遅い』んですがね。」
王城で自分を見送ったはずの グリフォン隊隊長だった。
「ワルド?! 何故 此処に!
 …そうか、『遍在』か!」
風のスクエアメイジ、『閃光』のワルドの得意魔法。それが、風の如くあらゆる場所に現れる分身 『遍在』の術だった。
「いや~、助かりましたよ。
 普段 手出しの出来ない宮廷の売国奴共が 緊急会議で揃って王城に監禁状態、外との連絡も一切取れない。
 こんな絶好の機会、見逃す手はありませんからね。」
一国の重鎮に対し それを小馬鹿にするようなワルドの態度。
リッシュモンの血圧は上限値を突破し 脳内の毛細血管がブチブチと(比喩でなく)切れる。
「貴様ぁ! 一体 何のつもりだっ!!」
「ナニって、もちろん『任務』ですよ。『任務』、『仕事』、『お・つ・と・め』ってね。」
だが、聞きたかったのは そんな答えではない。血走った眼を見開き 今にも飛び掛らんとするリッシュモンに、ガラリと口調を変えて
「おいおい、興奮しすぎて ついにボケたか、売国野郎! はっきり言ってやんなきゃ判んねぇか?
 それじゃ言ってやらぁ!
 『トリステイン魔法衛士隊グリフォン隊 盗賊改方』、ジャン=ジャック・フランシス・ド・ワルドである!
 おぅ、リッシュモン最高法院長官よぅ、
 手前ぇの悪行、『窃盗』『横領』『詐欺』『密輸』、『贈収賄』に『人身売買』、『殺人』並びに『国家反逆罪』、
 どれもこれも 押収した証拠の品々から 全て明白。覚えが無ぇたぁ言わせねえ!
 手前ぇの様な悪党でも、貴族の端くれだってぇのなら、自ら罪を認め 神妙に縛に付けぃ!!」
阿修羅の形相で告げるワルドに 悪鬼羅刹の如く顔を歪ませるリッシュモン。
「何を言うか! 貴様とて 一度は我等に組した身、同じ穴の狢であろうが。この この裏切り者め!」
「『裏切り者』は お前等じゃねぇのかい?いっしょにすんじゃねぇ!
 こっちにゃ 国を裏切ったつもりなんざ サラサラねぇよ。
 ほれ 見てみな。」
そう言って 懐から一枚の書類を出す。
「『レコンキスタ内通者組織に対する潜入捜査』の指令書だ。アンリエッタ様の直筆だぜ。(思いっきり後付け発行だがな!)」
「ふんっ、何の力も無い 愚かな小娘に誑かされよって! それとも、色香にでも迷うたか?
 どちらにせよ 貴様如きに捕らえられるワシではないわ。
 皆の者、出合え、出合え~ぃ!!!」

その声に呼応するかのように 物陰から現れる者達。だが、それは皆『ワルド配下の者達』だった!
「馬ぁ~鹿、ここの用心棒共なんざ とっくに引っ括ってあるに決まってるだろ!
 おぉっと、逃げられると思うなよ。此処は完全に包囲した。この屋敷の 秘密の通路も隠し扉も 全て把握した!
 ちなみに その竜篭でもう一度飛んで逃げるってのもナシだ。御者は、ウチの手の者と入れ替え済みだからな!」
既にリッシュモンに逃げ場は無かった。残るのは 目の前の男への憎悪のみ。
(こいつだけは、ヤツだけでも倒さねば、気がすまん!)
破れかぶれで杖を振るう。
リッシュモンとて 只の官僚ではない。いくつもの戦役を生き抜いた 元・魔法戦士である。魔力総量と火球の威力には定評があった。
「死ねぃ、ファイアーボー…ナニィ!!」
リッシュモンの杖 多数の宝飾に彩られたその先端が、抜いた瞬間に斬り飛ばされていた。 
一方ワルドは、杖(十手)を腰のホルダーに収めるところだった。
抜く手も見せずに放ったエアカッターは 正に『閃光』。
実はワルド、ルイズが使う『居合い抜杖術』と『FAF語式 高速呪文詠唱法』を知って、早速自分でも取り入れていた。
おそらく 魔法発動の速度は、現時点でトリステイン最速クラスと言えるだろう。
リッシュモンは、地に膝を付き 崩れ落ちた。
「此奴に縄を打ち、デンマー町の牢獄へ引っ立てぃ!
 グリフォン隊の詮議は、全て吐くまで続く地獄の責め苦よ。洗い浚い聞き出すがゆえ、覚悟しておけ!」

罪人篭に乗せられ 護送馬車で去っていくリッシュモンを見届けたワルドに、一人の女性兵士が駆け寄る。
「ワルド殿。
 押収品 並びにリッシュモン配下の者共、送り出し完了いたしました。
 …これで、終ったのですね。」
彼女は、新設された『銃士隊』の隊長、アニエス・ド・ミラン。トリステインでは極めて稀な『平民騎士』。
「終わりじゃない。大変なのは、これからよ。
 アンリエッタ様にとっても 我々にとっても、この国 いやハルケギニアすべてにとって。
 これから 始まるのさ。」

銃士隊は アンリエッタ妃殿下の肝いりで創設された、平民女子のみで構成された部隊で、いわばアンリエッタの直属私兵である。
今回の 『レコンキスタ工作員一斉検挙』は、王都はおろかトリスタニア全土の数十箇所を一度に押さえねばならなかったため グリフォン隊隊員のみでは とてもではないが手が足りなかった。
そこで 八方手を尽くして、信頼できる人員をかき集めた。
カリーヌのツテで マンティコア隊の精鋭、ヴァリエール家と代々付き合いのある傭兵ギルドの手だれ、ワルドの主導で組織された トリスタニア各街区の自警団員。
そして アンリエッタからの指令を受けた 銃士隊。
ただ グリフォン隊と銃士隊の間には アンリエッタも与り知らぬ間に ある繋がりが出来ていた。

きっかけは 銃士隊結成当初、アニエス隊長が部下を引き連れて 城下の酒場に繰り出した事だった。
たまたま その店で飲んでいたのが、グリフォン隊随一のお調子者 『脱兎のユーゴ』こと ユーゴ・ムラーキチュ。
無類の女好きである彼が、華やかな女性集団の入店を見逃すはずも無く、早速にナンパを開始するも、アニエスに一喝されて 見事に玉砕。
それでも諦めないのが このオトコ、得意の話術で隊長以外の女性を次々と攻略。あわよくば 『自分の部隊と合コンでも』等と誘いをかけてみたが、
「何っ、貴殿はあの『グリフォン隊』なのかっ?ならば ぜひ一度!」
アニエスが申し込んできたのは、『合コン』ではなく『合同訓練』だった。

銃士隊創設に当たり 隊員の選出はアンリエッタ本人が厳選した為 個々人の資質はかなりの水準となったが、部隊としての連携は今ひとつであった。
そのため 他の部隊との実践的な訓練を積む必要を痛感するアニエスだったが、なにせ『平民』の『女性のみ』の部隊である。
何処の騎士団に訓練参加を申し込んでも、門前払いか「冗談だと思った」と笑い飛ばされるばかり。
そこへネギ背負って飛び込んできたのが、『カモ』ならぬ グリフォン隊の『ウサギ』。これを逃がしてなるものか!
と 言うわけで、目出度く 合同訓練が実施される事となった。

身分や格式に拘る他の騎士団と違い、グリフォン隊は フランクでオープンな 別名『魔法愚連隊』。
ユーゴ隊員言うところの『粒の揃った美女軍団』がやってくる、となれば 拒む理由は何も無い。
隊長以下、「一丁イイトコ見せてやろうか!」と歓迎ムード。
とはいえ 内心は「まぁ 軽く遊んでやるか」といった程度。
一方 銃士隊側は、噂の『最強部隊』に緊張気味だったが、その実態を眼にして唖然としていた。
とにかく 規律が緩いというか 統制が取れていないというか。
これなら 結成直後ということで アニエス隊長から厳しく指導されている自分達の方が よっぽど騎士らしいんじゃぁ?と思うほど。
しかし、実際に訓練を開始すると、互いの持っていた印象は大きく変化した。

「おっ、ネェちゃん達、なかなかやるじゃねえか。」
この訓練は、銃士隊側の希望により すべて模擬戦形式で行われる。
まずは 魔法の使えない銃士隊隊員にあわせ、剣戟・格闘戦からとなったが これが意外に手強い!
可愛い見た目と裏腹に、銃士隊の女性達は 市中の剣術道場で師範が務まる程の者ばかりなのだ。
免許皆伝を受けた者や 道場の後継者に選ばれかけた者もいる。
(すまねぇ 御嬢さん方、ちょいと舐めすぎてたかもな!)

「魔法さえなければ 少しはイケると思ってたのにぃ。
 剣も こんなに使えるなんて!」
確かに 魔法偏重主義のトリステイン軍では、各騎士団ともに攻撃は魔法が主流で 剣術・格闘技は添え物的な扱いしかされていない。
ただし グリフォン隊は別だ。
盗賊団捕縛の際に、賊を分散させて各個に捕らえる場合など、魔法を使用する事で相手の中枢に察知され逃げられてしまう事がある。
その為 常日頃から、魔法を使用せずに敵を征圧する手段の研鑽も怠らない。
銃士隊隊員達は 腕が立つと言っても 道場レベルでの話、グリフォン隊の変則的な実践剣法と 隊員同士の連携に戸惑っていた。
(さっきまで あんなにバラバラだったのに、戦いが始まった途端 なんでこんなに息がピッタリなの?!)

『強者(つわもの)は強者を知る』。二つの部隊は、最初の模擬戦で すぐに相手を理解した。
正攻法に拘らず、結果としての勝利を優先するグリフォン隊の思考や戦法は、平民でありながらメイジをも相手にしなければならない銃士隊にとって、格好の手本であり目標となった。
そして現在 両部隊は、非公式ながら『兄妹部隊』とでもいうべき関係を保っていた。
アンリエッタの指令が無くとも、「手が足りない」となれば、当たり前のように協力を申し出ていただろう。

リッシュモンを捕縛した事で この場所での捕物は終了し 部隊は撤収を開始した。
それを眺めながら ワルドは隣に立つ女騎士に語りかける。
「なぁアニエス、お前さん よく我慢したな。」
そう言われても、当人は何の事やら判らない。ワルドは言葉を続ける。
「いつ リッシュモンに斬りかかるか、正直 ヒヤヒヤもんだったんだぜ。
 ……
 お前さんも もう気付いている、いや ほぼ確信してるんじゃねぇのか。
 奴が、『ダングルテール事件』の黒幕だったって事を。」
「っ!」
咄嗟に身構え 剣に手を掛けるアニエス。それを制するワルド。
「まぁ待て! それにしても、気付かれねぇとでも思ってたのか?
 こっちが どんだけ前から どんだけ多くの人員をリッシュモンに張付けて、探りを入れてたか 判るかよ。
 グリフォン隊は捕物の玄人 専門家だ。その目の前で 素人がチョロチョロと何かを探っていりゃぁ 気にならんハズがあるまい。」
(『素人』か…) そう指摘されて アニエスは哂った。
奴等にも 他の誰にも知られてはいけない、『復讐』という行為。秘匿には 何よりも気を配っていた。
既に幾人もの『仇』を探り当て、討ち取っている。密偵まがいの探索にも それなりに自信があった。
それが こうもあっさりとバレていたとは…

『ダングルテール事件』または『ダングルテールの虐殺』。公的な記録は一切存在しないにも拘らず 噂話だけは流布している『現代の伝説』の一つ。
それは、「何者かによって、地方の村が一つ焼き尽くされ 住人は皆殺しにされた」 というもの。
襲った者の正体は不明、襲った理由は、
『悪魔を呼び出す儀式が行われ 生贄とされた』
『治療不能の疫病が発生し 浄化の為に火を放った』
『盗賊団がアジトを引き払う際に 自分達の顔を知っている村人達を抹殺した』
などと まことしやかに語られているが、確認する術は無い。
なにせ それを知る住人は、皆殺しにされたのだから。生き残った者は 誰もいないとされている。
だが アニエスは、存在しないはずの『生き残り』だった。
彼女は、たった一人で探し始めた。あの日 自分の村を襲った男達を。父を殺し 母を殺し、自分の全てを奪っていった何者かを。
復讐。故郷の人々 全ての恨みを晴らす。それだけが 天涯孤独となった少女にとって 生きる意味となった。
やがて 浮かび上がる、『アカデミー実験小隊』という謎の武闘組織。
数々の汚れ仕事を手がけてきた トリステイン政府の『影の部隊』。
アニエスが それに辿り着いた時、部隊は既に消滅していた。部隊内での反乱により 多くの隊員を失ったことで弱体化していった様だ。
組織の後ろ盾を失った残存隊員達は 盗賊団や暗殺者として裏社会に流れ、一人また一人とアニエスに始末されていった。

「アニエス、何も お前さんを咎めるつもりはねぇよ。『実験小隊』の連中なんざ、どいつも獄門台送りは免れねぇ悪党ばかりだ。
 なんなら、今からでも『仇討ち赦免状』を願い出てやってもいい。
 まぁ 例の一件は表沙汰にゃ出来ねぇから 非公式に不問とされる程度だろうがな。
 なにより お前さん自身が それを望むまい。」
アニエスは 剣の柄から手を離したものの、警戒は解いていなかった。それでも 抗いもせず逃げもせずにワルドの話を聞いていた。
「『人殺し』ってぇのは罪だ。始祖ブリミルの定めし『大罪』の一つだな。悪いコトだ。
 だから お前は実験小隊の奴等を憎み 恨み 許せなかった。 だから…殺した。
 ならば自分も 奴等と同じく『罪人』だ、そう思ってるんだろ?」
(そうだ。私『も』人殺しだ。私怨から 幾人もの命を奪った。)アニエスも それを否定する気は無い。
(でも 全ての敵を討ち果たすまで、捕まる訳にはいかなかった。だから…)
「ところで 『騎士』の仕事ってのは、何だ? ぶっちゃけ 『戦争』だな。奴等と同じ『人殺し』だ。
 だが それを認めっちまうと、国そのものが立ち行かねぇ。
 仕方ねぇから 騎士は民の前じゃ、道化の面を被るのさ。『正義』って名前の仮面をな。
 人殺しの善悪なんざ そんなモンよ。」
ワルドの言葉は どこか自嘲気味だった。
「なぁアニエス、復讐が終ったら お前さん どうするつもりだい?
 親玉のリッシュモンはとっ捕まった。死罪は免れめえ。
 こっちの調べじゃ 実験小隊で死亡確認が取れて無ぇのは 後二人だけ。
 片方の消息は掴めないが、もう片方は名の知れた庸兵らしい。どっちも 手を下すまでも無く野垂れ死ぬさ。
 終わりは もう見えてるんだぜ。」
(終わり、そして その後の事… そういえば、考えた事もなかったな。おそらく 私は死を・)
「お前さんの事っだから、自害でもする積りだろうが、そうは問屋が卸さねぇ!
 おうっ、勝手に死んで 銃士隊を放っぽり出して逝っちまう気か?」
(!)
「盗賊改の務めで いろんな盗人を見てきたが、中にはお前みたいに生真面目なのも居てな。
 そういう連中は決まって お縄になる前から 何かの『償い』ってのをやってるもんだ。
 身寄りの無ぇ餓鬼を何人も引き取ったり 街道筋に報謝宿を建てたりするのさ。」
かくいうワルドも、後に 罪人の更正と就職を援助する『人足寄場』を創設することになる。
「いまさらどんな善行を積もうと、やっちまった悪業は消せやしねぇ。償う事の出来る罪なんぞ ありゃしねぇ。
 そんな事は百も承知、それでも何かしら やらずにいられねぇのさ。自分の心に苛まれて な。
 アニエス。お前にとっちゃ、それが『銃士隊』なんじゃねぇのか?」
(違う、そんな事は無い…銃士隊の募集に応じたのは、唯の『食い扶持稼ぎ』で…)
否定。だが 本当にそうだったろうか?
審査に合格し、直々に面談してくださったアンリエッタ皇女。
巷の噂と異なり 真摯に国を思う姿勢、宮中で孤立 疎外され「貴族は信じられません」と仰った御心。
その姫君から 隊長の職を仰せつかった際に感じたもの。罪深き身なれど 銃士隊の為ならば一命を捧げんと誓った思い。
無意識に、『罪滅ぼし』と考えてはいなかっただろうか?
(私は、 私にとって 銃士隊は…)
「『償う事の出来る罪は無い』ってことは、言い方を変えりゃ『罪は 生涯償い続けるもの』ってことだ。
 だからよ、アニエス。
 お前さんは明日からもずっと 銃士隊の隊長であり続けなきゃならねぇ。
 道化の仮面で 正義を演じ続けなきゃならねぇ。死ぬまでな。
 それがきっと、お前さんの『罪』に対する『罰』なんだろうよ。
 …さて 引き上げるとするか。」
一方的に喋って ワルドは去っていった。その背中を見つめて 立ち尽くすアニエス。
彼女の中で ワルドの言葉が問いかける。それに対する答は まだ…

翌日 王城の議事堂に参議等が集う。二日目の会議を始める為に。
だが 未だ来場しない者達がいる。それも多数。全体の三分の一にも達しようかという人数だ。
『出席しなければ 爵位剥奪も!』と厳命された会議に来ないとは、如何なる事か。不安と猜疑が 議場を包んでいた。
やがて アンリエッタ妃殿下が来場し 開会を宣言、
「なお 昨晩、反乱軍レコンキスタと内通し、トリステインを滅ぼさんと策動する逆賊に対し、一斉捕縛を実施いたしました。
 リッシュモン元・最高法院長官以下、この場に現れぬ者は 全て亡国の徒であったと思っていただいて結構です。」
『『『『『!!!!!』』』』』
議事堂に衝撃が走る。場内をどよめきが埋め尽くす。余りの驚きに 皆 まともな言葉が出ない。
「このような事態に至りましたのも、私ども王家の不徳によるもの。始祖に 民に、どう言って詫びれば良いのかすら思い浮かびませぬ。
 されど 今は国家存亡の時、獅子身中の虫を一掃出来ました事を善しとして 我等一丸となりて国難に当たらねばなりません!」
妃殿下の力強い言葉に 場内は幾分か落ち着きを取り戻す。続き ワルドが声を上げる。
「皆様 御心配めさるな。姫様の仰るとおり、この場から悪党共が居なくなりましたのは 僥倖。
 そして、良き知らせも届いております。
 同じく昨夜 アルビオンにおいて ニューカッスル城を取り囲んでおりましたレコンキスタの艦隊が、全滅いたしました。」 
………『『『『『!!!!!』』』』』
二度目の衝撃。
「報告によりますと、何処からともなく現れた一匹の幻獣が レコンキスタの艦隊を襲い、全てのフネを撃墜したそうです。
 墜落した艦艇の破片により 地上部隊も大打撃を受けたとの事。
 この幻獣の姿は、紅蓮の炎を纏った巨大な鳥のようであったとか。まさしく神の使徒 聖獣フェニックスに他なりますまい。
 これこそ始祖の御導き、レコンキスタに正義なき証でございますな。」
戸惑いと興奮 不信と歓喜、当初のものに輪をかけた混乱。アンリエッタすら唖然としている。
その為、「飛行幻獣を使っても、片道だけで丸一日掛かるアルビオンの情報を なぜワルドが知っている」のか、そこまで気が回る者は居なかった。

「一同に告げる!」
混乱を収めるため マザリーニが立つ。
「今しがた 国家運営に関わる重大な知らせを二つも聞かされ、皆それぞれに思うところもあるだろう。
 自分の考えをまとめるのに しばしの時間が必要である者もおろう。
 よって 一刻ほど休会しようと思う。その間 自由闊達な論議があることを期待する。」
マザリーニは、アンリエッタとワルドを促して 議場を離れた。
そして 人払いをした部屋で 問う。
「ワルド子爵。先ほどの話は 真の事なのか!?」
「ええ、間違いございません。
 何しろ 我が遍在が、その目で見て参りました事ですから。」
「なんと!」
「それにつきまして、我が隊の見習い騎士より アンリエッタ様宛の書状を預かってきておるのですが、お読みいただけますか?」
「!」
ワルドが取り出した手紙を 奪い取るように手にするアンリエッタ。手紙の文字は 予想どおりの相手のもの。

 『とりあえず 時間稼ぎは出来たと思います。
  あっ、もう一回やれって言われても出来ませんよ。奇跡は一回だけ、もう 弾切れです。
  今回のコレは、ちょっと早い 結婚祝いだと思ってください。
  もちろん 姫様とウェールズ様の。
  ゲルマニアへの違約金は、『フェニックスの正体 及びその共同調査』で どうでしょう?
        貴女の おともだち より。   』

(あぁ ルイズ、私は貴女に どうやって感謝したら良いの?どうしたら この気持ちを伝えられるの?)
手紙を読み 困難を極めるであろう 対レコンキスタ戦への決意を新たにするアンリエッタだった。

そして 再開された会議において 『アルビオン救援派遣軍』の計画が正式決定し、直ちに出兵準備が開始された。 
昨夜の 二つの歴史的事件、『フェニックスの神罰』と『アンリエッタの大獄』に続き、ハルキゲニアの歴史は大きく動こうとしていた。
               《 続く 》

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