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萌え萌えゼロ大戦(略)-39



 ハルケギニアの人間たちが『聖地』と呼ぶ場所――そこは荒涼とした
砂漠だった。見渡す限りの荒れ地と砂の海。時折見受けられるオアシス
だけが、この地に恵みと潤いを与えている。
 照りつける太陽の下、砂に埋もれた大理石の柱の側に、一人の女性が
倒れている。長く黒い髪に白い千早と朱色の短い袴――大日本帝国の
鋼の乙女、あかぎだ。あかぎは無意識下で行われる再起動後の自己診断を
終えると、意識を取り戻してゆっくりと体を起こす。
「……私、生きてる……?」
 そんなはずはない。それが正直な感想だ。自分は、あのミッドウェイの
海で、米軍の鋼の乙女ルリとハイネ率いる艦爆隊の猛攻にさらされ沈んだ
はずだ。ハイネの必殺技とルリの攻撃を受けた傷は……その痕すら残して
いなかった。
 その思考を中断させたのは、周囲に感じた気配。電探が捉えた自分を
取り囲む複数の反応に、あかぎは努めて静かに言った。
「……私をどうするつもりかしら?」
 その言葉を受けて、少し離れた場所に立つ大理石の柱の影から人影が
姿を見せる。砂漠の日差しを避けるため肌を見せない服装に、焦げ茶色の
外套。そのフードについた真っ白い羽飾りがまぶしく見える。
 フードを降ろしたその下にあるのは、細身の体型に見合わない革命的な
胸をその衣装に押し込んだ金髪の若い女、いやまだ少女というべき幼さだ。
その年格好でその胸は反則だろうと思ったが、問題はそこではなく、
少なくともあかぎは『長く尖った耳』の人間は見たことがない。姿を
見せたのはその少女一人だったが、周囲にはまだ複数の反応がある。
警戒を解かないあかぎに、少女は言う。
「我は『ネフテス』のファーリス、シャジャル。『悪魔(シャイターン)の門』から
這い出るものを破壊することは、我らの使命」
 そう言って右手をかざす少女、シャジャル。その指に嵌められた銀の
指輪、大粒の青い宝石が妖しく輝く。ただならぬ気配に、あかぎは慌てて
両手を振った。
「ちょ、ちょっと待ってぇ!私は、あなたたちに危害を加えるつもりはないわ~」
「是非もなし!」
 シャジャルの言葉に反応するように、砂漠からしみ出した水が盛り上がり
刃となってあかぎを貫こうとする。陸上で動きが鈍いあかぎだったが、
なんとか回避に成功する。
「びっくりしたわぁ~。んもぉ。お姉さんの言うことは、素直に聞くものよぉ~」
「うるさい!シャイターンは、我らの敵!敵は滅ぼす!」
 シャジャルの言葉に従うように、隠れていた者たちが姿を現してあかぎを
包囲しようとする。あかぎはその様子に、やむを得ず反撃に出た。
「しかたないわね……みんな、お願いね!」
 その声に呼応するように、あかぎの両腕の盾――飛行甲板のエレベーターが
動き出し、緑色のクマンバチのような音を立てる小さな戦闘機の姿をした
精霊たちが次々と翼を展開して発艦する。目標はシャジャルと、その周囲に
いる者たち。飛び上がって空から攻撃を仕掛けようとする者がいたのが
あかぎには幸運だった。だがその攻撃力は文字どおり蚊が刺した程度で、
シャジャルはバカにしたような顔をあかぎに向ける。
「……お前の力はその程度か。見たこともない精霊を使役するとは
驚いた……が……、ええっ?」
 シャジャルの言葉は最後まで続かない。その顔はたちまち羞恥に
真っ赤に染まる。何故なら……シャジャルと、同じくあかぎの攻撃を
受けた者たちの服が、攻撃が当たった場所から溶け始めたからだ。
うずくまり両手で体を隠すその様子に、あかぎは顔を紅潮させ心底
嬉しそうな笑みを浮かべた。
「あらあら。その恥ずかしがる顔が素敵ね。女の子はそうじゃなきゃ。
お茶の間の皆様に映像をお見せできないのがとっても残念よぉ~」
「だ、誰に向かって言っている!というか、何をした!」
「私の『特殊攻撃隊』は、攻撃力はほとんどないんだけど、当たった相手に
『酸化』の追加効果を与えるの。どうなるかは、今起こってること
そのままよ~」
「な……!?」
 顔だけ上げてあかぎを睨むシャジャル。あかぎはシャジャルの前に
しゃがんで目線を合わせると、にこやかに言った。
「さて、あなたたちの親玉のところに連れてってもらいましょうか~」


「……よく来たな。シャイターン、いや『アヌビスの長槍』よ」
 シャジャルたちに案内させてやってきた、彼らエルフの国『ネフテス』の
首都アディール。まるで中東の人口都市のような、オアシスの巨大な湖に
浮かぶ町の中央にある評議会本部で、あかぎは彼らの代表者である統領と
面談した。彼らの政治形態から、共和制の大統領というところか。
一見して老人の風体の統領は、あかぎに謎めいた言葉をかける。
「私は大日本帝国の鋼の乙女、あかぎ。お会いできて光栄ですわ。
 ところで、ここに来る途中でシャジャルちゃんたちから多少のことは
聞きましたけど、あなたたちエルフが私のことを『シャイターン』と呼び、
今あなたは『アヌビスの長槍』と呼びました。これはいったいどういう
意味かしら?」
「ふっ。若いとはいえファーリスの位を持つシャジャルにあのような
辱めを与え、尋問しておいてよく言う。だが、それは些細なことだ。
シャジャルらファーリスに『アヌビスの長槍』を破壊せよ、と命じたのは、
我ら歴代の統領故。近年の『アヌビスの長槍』は天翔るものすらあり、
我らの手に余るようになってきたことは事実だからな。
 お前の質問に答えていなかったな。『シャイターン』とは、このハルケギニアに
住まう蛮人の言葉に訳すと『悪魔』となる。理由は言葉のままだ。
『アヌビスの長槍』とは、六千年前に大いなる災厄をもたらした『悪魔の門』を
封じた聖者アヌビスが用いた武器。だが、これは『悪魔の門』よりもたらされる、
我らと蛮人どもにとって災厄でもあるのだ。故に、我ら歴代の統領は
その破壊を命じた。だが、蛮人どもはこれを『場違いな工芸品』と呼び
慣らわし、手に入れようとする。そのために争いが起き、故に我らと
蛮人どもは盟約を結び、それを最初に見つけた者の所有とすることに
したのだ」
「つまり、あなたたちが先に見つけた場合は破壊してしまい、人間が
先に見つけた場合はそれを黙認する、ということね」
 あかぎの言葉に、統領は頷いた。
「近年は『アヌビスの長槍』とともに異界の蛮人までも召喚されることが
増えた。だが、我らは犠牲を伴ってでも、それらを破壊する。もっとも、
我らが破壊したものまで、このハルケギニアに住まう蛮人どもは持ち帰るがな。
お前が召喚されたのも、その異界の精霊を使役する盾故であろう」
「そうかもしれませんわね」
 あかぎは統領の推測が間違っていることを指摘しなかった。統領にしても、
あかぎの周囲にいる精霊の様子が普段と違うことに気づいていたが、
それはあかぎが異界の人間だからと誤解していたのだった。
 シャジャルたちが自分を襲った理由が分かったことで、あかぎは内懐から
ビルマ産の鶏の卵くらいの大きさの真っ赤なスピネルを取り出し、統領に
提案を持ちかける。
「理由が分かった以上、私がここに長居するのは好ましくないでしょうね。
この宝石で、どこか遠くの国まで行けるだけの食料と水を分けてもらえない
かしら?」
「ふむ。ルビーに似ているが、違うようだな。精霊が宿る石か。
いいだろう。望むだけ分けてやろう。それにシャジャルに蛮人の国、
ガリア王国との国境まで案内させる。そこから先は、大いなる意思の
導きのまま進むが良い」
「ありがとうございます」
 契約は成立した。地球の中東と同じでその地を統べる部族の長に
贈り物を渋るな、との判断が効を奏し、それ以後は非常に友好的に運んだ。
なお、このレッドスピネルは異界の精霊が宿る『アヌビスの守り』として
アディールの『老評議会』で管理され、必要なときに貸し出されることになる。
そして、六十年後、突然の『ネフテス』国崩壊の際、任務のためにこれを
借り受けていたある『老評議会』議員の命を救うことになるのだが、
これはまた別の話である――


「さあ、ついたぞ。ここが蛮人の国との国境だ。この川を越えればガリア、
川を北に下ればゲルマニアの『黒い森』に、さらに下ればトリステイン、
その先は北海に注ぐ」
 シャジャルが操る水竜の背に乗って、あかぎはサハラを越えて国境に
やってきた。目の前にはアーハンブラ城という名前の古城が見えている。
千年ほど前にエルフが築城したのだが、幾たびかの熾烈な戦いを経て
今は人間の手にある城だという。
 シャジャルの機嫌はすこぶる悪かった。統領から「お前があの者と
出会ったのも、大いなる意思の導き故に」と言われ、仕方なく案内役を
仰せつかったものの、砂漠の真ん中で半裸にされた上に、一緒にいた
仲間たちとともにここでは書けないようなあかぎの『おはなしきかせて』を
されたのだ。機嫌が悪くならないわけがない。
 だが、当のあかぎは、と言うと……
「シャジャルちゃんには、迷惑をかけちゃったわね。ありがとう。
ここまで案内してくれて」
 と、シャジャルが予想もしていなかったことを口にした。
「ふ、ふん。私は、お前を殺そうとした。返り討ちにあったのは、私が
未熟なせいだ。お前に謝られる筋合いはない。ここまで案内したのも、
統領の言、いや、大いなる意思の導きに従ったまで」
「まるでレイちゃんみたいね。せっかく可愛いんだから、もっと笑ったら
いいと思うわよ~」
「レイ?誰だそれは?それに、私が可愛い?」
 シャジャルの問いかけに、あかぎは少し寂しげな顔をした。
「レイちゃんは私の大切な妹よ。でも、もう会うことはないでしょうね。
 それから、あなたが可愛いって言ったのは、お世辞でもなんでもないわよぉ~」
 そう言ってにこやかに笑うあかぎに、シャジャルは疲れた顔を向けた。
「……お前といると調子が狂う。だが、もう会うこともないだろう。
達者でな」
「あらぁ~?私は、どこか落ち着けるところを見つけたら、またここに
来ようと思ってたんだけどぉ~」
「は?」
 予想外の言葉に思わず間の抜けた声を出すシャジャル。それを楽しそうに
見るあかぎ。
「確かに艦船型鋼の乙女の私には、砂漠はちょこっと厳しい環境だけど、
あなたから聞いた限りだと、人間の国では足りないものを分けてもらうことに
なりそうだから。
 それにね、私はあなたと仲良くなりたいの」
「は?」
 何を言っているのか分からない、という顔をするシャジャル。
その手をあかぎは優しく包み込む。
「私はあなたのことがもっと知りたいわ。本当ならじっくり腰を落ち着けて
お話しできればいいんだけど、今はそうはいかない。
だから、私が落ち着けるところを見つけたら、きっとまたここに来る。
そのときまで、少しの間お別れね」
「……お前が来ても、私はいないかもしれないな。任務があるから」
 シャジャルはそう言ってあかぎの手を振り払う。照れているのを隠すためか、
あかぎから顔を背けた。その横顔に、あかぎは微笑みかける。
「それなら、何度でも来るわ。生きてさえいれば、どこかできっと会えるもの」
「……変なヤツだな、お前。我らエルフが人間を蛮人と蔑むのも、
きっとお前みたいなのを大勢見たせいだろう」
「あら?シャジャルちゃんは人間を見たことがなかったの?私は、人間も、
エルフも、一つとして同じもののない、かけがえのない命だと思うわ」
「……やっぱり変なヤツだ。お前は。人間など、我らエルフを殺そうとする者
ばかりだぞ。連中はあの『悪魔の門』を『聖地』と呼んで我らから奪おうと
している。もう何千年もその繰り返しだ。『悪魔の門』が解き放たれれば、
大いなる災いがこの世界を覆うというのに」
「それは困ったことね」
「だが、お前には関係のないことだ。もう行ったらどうだ?これ以上
私と話をしていても、時間が過ぎるだけだ」
「仕方ないわね。それじゃ、お話の続きはまた今度、ということに。
本当にありがとう、シャジャルちゃん」
 そう言って、あかぎは川に向かって歩き出す。そのまま川に入って
いくのを見て、シャジャルは慌てて止めようとする。
「バカ!この川は歩いて渡れるほど浅くないぞ!……って、お前、どうして
水の上に立っている?いつのまに精霊との契約を行使したんだ?
いや、その変な鉄の長靴の力か?」
 シャジャルは水面に立つあかぎに不思議そうな顔を向けた。
「あら?私は空母型鋼の乙女だから、水上を移動するのは普通のことよ。
 とりあえず、私はこの川を下ってみるわ。じゃあね、シャジャルちゃん。
また会いましょう」
 あかぎはそう言うと、水面を滑るように川を下っていく。途中で何度も
振り返りながら手を振るあかぎの姿が見えなくなったとき、シャジャルは
独りつぶやいた。
「……本当に変なヤツ。でも、人間って、話に聞いたのとずいぶん違うな……」
 結局、シャジャルとあかぎはこれ以降一度も出会うことはなかった。
シャジャルがその後どうなったのかをあかぎが知るのは、それから六十年も
経ってからのことになる――


 シャジャルと別れた後、あかぎは川を下っていく。途中の川沿いの
町や村で宿を取り、ガリア、ゲルマニア、トリステインの各王国の人間側から
見た基本的な情報を集めた後、あかぎはトリステインまで北上することにした。
理由は特にない。あえて言えば『なんとなく』。いざとなれば北海に抜けて、
どこか別の国を探そうか……そう考えながら川を下り、トリステイン王国の
タルブ平原を縦断する途中で、あかぎの電探は弱々しく動く何かを捉えた。
「……誰か、いるの?」
 返事はない。近くにあるのは林ともいえない程度の茂みくらい。
あかぎは川から揚がり、警戒を緩めず茂みを探った。すると……
「日本人?まさか?……大丈夫?しっかりして!」
 それは薄汚れた大日本帝国海軍の飛行服を着た青年。ところどころ破れ、
青年も酷く衰弱しているが、見間違うはずもなく、またここで見るはずの
ないもの。
 あかぎは青年を優しく抱き、乾ききった唇に水筒の水を口移しで含ませる。
しばらくすると、あかぎが握っていた手を青年が強く握り返してきた。
「く、黒い髪……日本人……日本人だ……俺は……帰ってきたんだ……」
 震える声。焦点の定まらない瞳。あかぎは、青年の命の炎がまもなく
消えてしまうことを確信した。あかぎは青年に優しく微笑むと、その頭を
優しく抱きしめる。
「ええ。お帰りなさい」
 あかぎの胸に抱かれながら、青年は「ああ……」と言葉にならない
一言を口にすると、そのまま事切れてしまう。最期に出会った自分を、
本当の日本人だと思って逝ってしまった青年。彼もまた、自分と同じように
あの『悪魔の門』から召喚されたのだろうか?
「水島一郎整備兵長……飛行服を着ているということは、大型機が近くに
あるのかしら?」
 青年の名札を見たあかぎが、自分の知識から推測する。無理もない。
特攻が行われる前までは、搭乗整備員といえば陸攻や大艇などの余裕のある
大型機に搭乗し、発動機や燃料系の整備補修を担当するものだったからだ。
それがまさか機上整備員と呼ばれて特攻の道連れになっていたなど、
あかぎの想像の埒外だった。
 あかぎは電探の出力を上げて近くに彼が乗っていたはずの大型機が
ないかを調べる。しかし、それらしきものは発見できず、少し遠い位置に
村らしき集落が探知できただけだった。
「しかたないわね。こんなところにひとりぼっちは寂しすぎるわ」
 あかぎは水島整備兵長を荼毘に付すために茂みから薪になりそうな
枝木を集める。だがそれだけでは足りずほとんど茂みを解体する勢いで
ぎりぎりの量を集め、異界の地に眠った青年を弔う。
 その炎は、双月が天に昇ってもなお、消えなかった。


 水島整備兵長が逃げ出した後、武雄はタルブ領主アストン伯との面会を
果たした。ルーリーに間に入ってもらうことで何とか複座零戦を奪われないよう
領主を説得した武雄は、ルーリーがガソリン、もといここで言うところの
『竜の血』を作り出すまでの間、タルブの村で暮らすことになった。
 話が決まったことで、ルーリーはタルブの村外れ、ドラゴンに吊られて
タルブの村と領主の城を往復させられた複座零戦を安置した近くに
『錬金』と『固定化』で小さな庵を建てた。扉と窓、それに家具の調達は
村人の協力を得たが、王家のつながりがある国から来たルーリーはとにかく、
完全によそ者の武雄には、領主の言葉があるとはいえ、皆その態度は
よそよそしかった。
 その態度が軟化したのは、武雄とルーリーが村を襲ったオーク鬼を
退治してからだ。軍刀と拳銃で手練れの戦士五人に匹敵するという
オーク鬼に立ち向かう武雄に、村人は彼が来てから初めて称讃で迎えたの
だった。

「しかし、無茶するなぁ。細身の剣と短銃だけでオーク鬼に突進するから
こっちも気が気じゃなかったぞ」
「図体がでかいから何とかなると思ったんだがなぁ……脂肪が分厚くて
軍刀が通らないのが参った」
 夜も更けて。庵の中で武雄は傷の手当てを受けていた。それでもかすり傷
程度なので、ルーリーの心配する声にも悲壮感はない。
 オーク鬼は身の丈二メイルほどもあり、体重も標準的な人間の優に
五倍はある。醜く太った体を獣からはいだ皮で包み、豚そっくりの顔を
持つ亜人だ。人間の子供が大好物という困った嗜好のため、人里に降りて
くることも多い。この村の近くの森にもオーク鬼のすみかがあり、領主に
討伐を訴えたが、そろばん勘定が合わないのか要請は放置されていた。
 武雄も軍刀が通用しないと分かると、手持ちの稲垣式自動拳銃で応戦した。
装弾数八発全弾使い切る頃には眉間を撃ち抜かれた数体のオーク鬼が
屍をさらしており、ルーリーの援護が間に合って残りは逃げていったのだ。
「ところで、よかったのか?その短銃、とんでもない代物だが、
こんなところで使ってしまって」
 ルーリーの意見も、ハルケギニアの常識からすればもっとも。これほど
小型で連発可能な短銃など、軍の試作兵器にも存在しない。
まれに『聖地』で見つかるという、『場違いな工芸品』の実物を武雄が
持っていると知って、興味を引かれる以前にこれが伝わることで起こりうる
未来を彼女は心配していた。
「弾倉はあともう一つ残ってる。航空士官の俺にはこいつは『最後の手段』
だったしな。どうせ持っていても自決するときくらいしか使い道がないと
思っていたから、こうして村を守れたなら御の字だ」
「まったく……お前という人間がまだ理解できないな。
 ところで、さっき妙な噂を聞いたんだが。なんでも三日前、遠くの川岸で
夜通し炎が見えたとか。イチローも帰ってこないし、まさかとは思うが……」
 ルーリーのその言葉に、武雄も苦い顔をした。
「あのバカ。いったいいつまでほっつき歩いてるんだか。まさかとは思うが、
俺たちが領主の城にいる間に戻ってきて、なんてことはないよな……」
「それはない。村長にも確認した」
「そうか」
 武雄はそう言うと、腰を上げた。
「ちいと夜風に当たってくる。ありがとうな、ルーリー」
「バ、バカ!私は別に……お、お前のために『竜の血』を生成しようと
しているんだからな。肝心なものができあがっても、そのときにお前が
いなかったら意味がないだろう?」
 真っ赤になってそっぽを向くルーリー。この一ヶ月、半ば同棲のような
関係でも武雄はルーリーに慰めを求めようとはしない。そんな宙ぶらりんな
関係でも、二人はそれぞれの立場からそれ以上踏み込みはしなかった。
「……第一、私の旅はどこで終わってもいいんだ。お前が飛び立ったら、
私も旅に戻るだけ。それだけだ」
「すまん」
「何故そこで謝る!まったく……さっさと涼んでこい!」
 追い出されるように庵を出る武雄。秋の夜空は寒々しさを増し、双月は
冷たく輝く。天空を覆う星の光が冷たく武雄を照らし出す。
「……ったく。どこほっつき歩いてるんだ水島のヤローは……。
帰還できないなら、ここで暮らすしかないだろうによ」
 そう言って夜空を見上げる武雄。その視線の端に、見覚えのない人影が入る。

 夜空に流れる黒く長い髪。
 純白の千早と丈の短い朱色の袴。
 膝に届く艦体を模した脚部装甲と、両腕に持った大きな空母の飛行甲板を模した盾。
 このハルケギニアでは見ることのない、日本人の特徴を有した女。

 驚いて目を見開いた武雄に、女――あかぎは静かに微笑んだ。
「あなた……日本人ね」



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