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機械仕掛けの使い魔-第10話


機械仕掛けの使い魔 第10話


 キュルケから事情を聞いたルイズは、お茶の予定を取りやめて、学院に戻る事にした。事実はどうあれ、鏡台から疲れ果てた男の声が聞こえるなど、気味が悪いにもほどがある。
クロが引っ張る荷車にしがみつきながら、ルイズはどうしたものか、と考えていた。さすがに幽霊が相手では、クロの馬鹿力や武器は通用しないだろう。となると…魔法? 
いや、魔法も幽霊に対して効果があるのだろうか。そもそもルイズは魔法が使えないが、その場合はキュルケに頼めばいいだろう。浄化の炎、という言葉もあることだし。

 その上空を飛ぶシルフィードの上で、キュルケは眼下を爆走するクロに目を白黒させつつも、今後の対応に悩んでいた。
 部屋の主、ルイズへの伝達は済んだ。では、これからどうする? と言うより、彼女に何が出来るのか? とてもじゃないが、除霊など不可能だろう。
ともすれば、キュルケの住む隣室を巻き込んで大爆発である。まぁ、いよいよの場合は自分がやればいいだろう。浄化の炎、という言葉もあることだし。

 ルイズとキュルケ、顔を合わせれば数秒でヒートアップする間柄だが、根っこの部分では似ているのかも知れない。

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「…!? クロ、ちょっと止まって!」
「何ィ!?」
 学院の門を潜ろうとした瞬間、ルイズはある物に気付き、クロに停止命令を出した。クロも急なタイミングに驚きつつも、両足で踏ん張り、門を1メイルほど越えた辺りで静止出来た。
走っている時よりも一層大きな砂埃が舞い立つ。
 その砂煙にもろに巻き込まれたルイズは、咳き込みながら荷車から降り、門の側に停めてある”馬車”に近づいた。何事か、といった様子で、クロとシエスタもその馬車に近寄る。
「これ…私の家の紋章だわ…」
信じられない物を見るような目で、馬車の扉に刻み込まれたヴァリエール公爵家の紋章を見つめるルイズ。乗ってきたのは、間違いなくヴァリエール家の者だろう。では、誰だ?  
心当たりは3人ほどいるが、その誰もが、ルイズにとってはあまり都合がよろしくない。そして、何の為に学院まで来た? 三者面談、或いは心当たりのある3人全員を含めた五者面談など、真っ平御免だ。
ここは、行方をくらますべきだろうか…?

 と、ここでそんな企みは、完全に無駄となった。本塔方面から、一直線に誰かが門へ歩いて来るのだ。それに気付いたルイズは、目を凝らし、その人物の正体を確認すると、一気に表情を青くした。
「ね、姉さま…」

 ルイズの前に立ったエレオノールは、腕を組んでルイズを一瞥し、口を開いた。
「ルイズ。その黒猫が、あなたの使い魔なの?」
視線の先には、ルイズの足元で座っているクロ。初対面なのでとりあえず、地べたに座って前足を舐める猫スタイルをとっているが、それを見たエレオノールは眉間にシワを寄せた。
「は、はい。そうです…」
そんなエレオノールの顔に、ルイズは無意識にしどろもどろとなってしまった。この表情は、次にアレが来る合図…。
「すぐにその猫っ被りをやめさせなさい!」
 予想通りだった。エレオノールの右手がルイズの左頬に伸び、グイグイと引っ張り上げる。
「い、いはいいはい! ねぇふぁまいふぁいへふ!(い、痛い痛い! 姉さま痛いです!)」
「痛いなら、早いとこ命令を出しなさい!」
今度は後ろ足で顔を掻き始めたクロは、よく伸びる頬だと感心しつつ、2人を観察していた。

 話の内容によると、エレオノールはルイズの姉のようだ。言われてみれば確かに、似ている。性格とか、なだらかな胸とか。
 髪の色は全く違うが、顔立ちはどことなく似ている。ルイズよりもエレオノールの方が目が釣り上がってはいるが、総合して見れば、やはり姉妹だと感じさせられる。
 現段階ではまだ会ったばかりなので、完全に把握は出来ないが、ルイズの様子を見る限り、彼女に輪をかけて高飛車なのだろう。かなり組みし難い相手に思える。

「ふ、ふふぉ! ふぉーっふぉみふぇふぁいふぇ、ふぁふふぇなふぁい!(く、クロ! ボーっと見てないで、助けなさい!)」
 頬をつねられながら、クロに助けを求めるルイズ。だが哀しいかな、『学級文庫』を、口を目一杯横に広げて言うと『学級う○こ』と聞こえるように、クロには彼女の発言が、一切理解出来ない。
「何言ってんのか解んねーよ」
ルイズの様子をニヤニヤ笑いながら見ていたクロは、そう返した。と、ここでエレオノールの目がカッと見開き、ルイズを開放するや、素早い挙動でクロの前にしゃがみ込んだ。
「な…何だよ…」
「あなた、今、喋ったわね?」
 ゆっくりと、確認するように問うエレオノールに、クロはややたじろいだ。目がマジなのだ。ハルケギニアで今までに会った人々が向けて来た好奇の目ではなく、警戒の目なのだ。
「答えなさい。あなたは、今、人間の言葉を、口にしたわね?」
ずずいっと顔を寄せるエレオノールから一歩下がり、所有する武器に思索を巡らす。

 前述のように、ガトリング砲は弾切れの問題が付きまとう。ある意味クロにとっては、最後の切り札だ。威嚇射撃など、出来るわけがない。
 同じ理由で、しっぽミサイルや内蔵ミサイルも使うわけにはいかない。どちらもガトリング砲より遥かに装弾数が少ない。その上、威力が高すぎるゆえに、余計に威嚇には向かない。
 タバサの杖を叩き落としたロケットパンチは、それこそ相手の虚を突く以外に使い道のない、虚仮威しの武器だ。と言うより、武器にカテゴライズ出来る代物ですらない。
 となれば、残るは2つ。なんでも斬れる剣か、デルフだ。共通点はその大きさによる威嚇効果。相違点は、前者は鋭利さを、後者は痛覚へのダメージを最大の武器とする点か。
 相手はルイズの姉。怪我をさせたり殺したりなどもっての外だ。警戒されているのであれば、とにかく脅しをかけて、引き下がらせるのが無難だろう。

 …警戒する相手に対し、話し合いによる平和的な解決を一切考慮せず、まず武器をもっての威嚇を画策する辺り、さすがとしか言いようがない。

 と、こんな様子のクロにいち早くルイズが気づいた。不穏な雰囲気を発するクロに、エレオノールの手を払い除けて叫ぶ。
「く、クロ! 武器だけは絶対に出しちゃダメだからね!?」
「ち、ちびルイズ!?」
予想以上の力で自分の手を跳ね除けたルイズを睨むエレオノールだが、そのルイズは顔を引き攣らせてクロを見ていた。そして当のクロはというと――悪い笑顔でエレオノールを見つめていた。奇妙な三角関係である。

「確かにギーシュは簡単に捻れたけど、姉さまはギーシュと同じ土のメイジ、しかもトライアングルクラスなの! いくらアンタでも…!」
「トライアングルぅ? 何だそりゃ、楽器の演奏でもしてくれんのか?」
「あぁそっか、アンタにはそこの説明からしなきゃいけないんだったわね…」
 トライアングルメイジとの戦い、と聞けば、普通の者ならばかなりの覚悟を要する。だが生憎クロは普通の人間ではない、と言うか普通の猫ですらない。
何の危機感も抱いていないクロに若干の頭痛を覚えつつも、ルイズはクロに、メイジのクラスについて説明を始めた。

「――という訳よ。ギーシュはドットメイジだったから、土の魔法しか使えなかったけど、姉さまは土以外の属性も使える上に、単純な土の魔法でも、その威力は桁違いなの! 
ギーシュと同じようには行かないんだから!」
 メイジの四系統魔法、そしてクラスについての説明を終えたルイズは、肩で息をしていた。クロに、エレオノールと戦う事の危険性を説く為に、かなり力を入れていた為だったが、そのクロは至って涼しい顔をしていた。
と言うか、それはクロの癖なのか、鼻をほじっている。この態度に、いよいよもってルイズは顔を真っ赤にした。
「ちゃんと解ってるの、バカ猫!」
「馬鹿じゃねーっつってんだろが! この短気女!」
「だだだ誰が短気ですって!?」
「オメー以外の誰だってんだよ!」

 ちなみに一連の講義、それに続く雑言の応酬の間、エレオノールは完全に蚊帳の外であった。どうにも、間に入るタイミングを逸してしまっていたのだ。
ちなみに、珍しくルイズとクロの言い合いが長引いているが、ちょこちょことデルフが、クロの腹から茶々を入れているのが原因だったりする。

「る、ルイズ…。あなたの使い魔、腹話術でも出来るの?」
 デルフの声がクロから聞こえる事に気づいたエレオノールがルイズに尋ねるが、言い合いに夢中になっているルイズとクロには聞こえない。
「いい加減、ボロ剣は黙ってなさい! アンタ剣のくせに生意気よ!」
「言いやがったな娘っ子! 相棒、俺を抜け!」
どういうワケか、クロの意志と無関係に腹が開き、デルフの柄頭が飛び出した。その光景に絶句するエレオノールだったが、すぐに思い当たる。
 あぁ、あれはインテリジェンスソードか。道理で声が2つ聞こえるワケだ。
 だが、まだ謎が晴れたわけではない。あの腹は何だ? なぜ猫の、と言うか生物の腹が、あんな風にきれいに開く? 契約の影響だろうか? 
いや、そんなワケはない。じゃあ、あの猫は生物ではないと? もしやゴーレムかガーゴイルの類か?

 まるで初めてクロを見た時のコルベールのような、思考のドツボにハマってしまったエレオノールはさておき、ここでようやくルイズとクロの舌戦も落ち着きを取り戻した。

「…わーったよ、とにかく強ぇメイジなんだろ? じゃあ、そのトライアングルメイジってのは、何が出来るんだよ?」
「何がって…」
 言い淀むルイズ。とにかくクロに、エレオノールとの戦闘をやめさせるのが最大の目的だが、この非常に好戦的な使い魔に対して、最も効果的な土の魔法は何だろうか。

 錬金は、効果が薄そうだ。何せ、クロの身体は青銅の剣すら折ってしまう強度を持っているのだ。少なくとも鉄か、それよりも硬い金属で出来ているに違いない。となれば、トライアングルクラスのエレオノールでも、錬金でクロの身体を別の物質に変えるのは難しいだろう。
 アース・ハンドは何の役にも立たない。ハルケギニアの常識を覆す銃・ガトリング砲がある以上、足を掴まれたところで、クロの戦闘力が落ちるなど有り得ない。
 土礫を砲弾とする魔法・ブレッドも怪しいものだ。元が土なので、硬化したとしても、クロの身体にダメージを与えられるかどうか…。

 と、ここでルイズは、トリスタニアの武器屋で、店主と交わした会話を思い出した。クロとシエスタが武器屋のラインナップを眺めている間に、興味深い話を聞いたのだ。
 最近、巷を騒がせている盗賊メイジがいる。その名も『土くれ』のフーケ。悪徳貴族ばかりを対象に盗みを働いており、その横暴振りに怒り心頭だった平民たちの、言わばヒーローのような存在らしい。
 そして、そのフーケは盗みに入る際、30メイルもの大きさのゴーレムを使った、極めて派手な手口を好み、その大胆さも、人気を集めるのに一役買っているとか。
 貴族たちが従者に剣を持たせ、フーケの襲撃に備えているらしいが、何の効果があろうか、まぁ商売人としては嬉しい話だ、と店主は笑っていたが、自身には関係のない話だろう、と、その時のルイズは大して気にも留めなかった。

 だが、今は違う。30メイルのゴーレムなら、恐らくエレオノールにも作れるだろう。そしてクロにとっては、それなりに驚異を感じさせる事が出来るのではないか…!
「ゴーレムよ! 土のトライアングルともなれば、30メイルクラスのゴーレムを作り出せるの! ギーシュのワルキューレなんかメじゃないわ! さすがのアンタでも、そんなのの相手は――」
「え、30メイル? いくら私でも…」
エレオノールにとっては寝耳に水、とんでもないムチャ振りだった。妹のトンデモ発言に珍しくオロオロするエレオノールだが、本当に聞かせたい相手であるクロは、相変わらず平然としていた。
と言うか、ルイズやエレオノールの方を見ていない。かと言って、もはや空気と化しているシエスタでも、上空で未だに滞空しているキュルケとタバサ、そしてシルフィードでもない。その目は――
「30メイルっつーと――アレくらいか?」
 学院本塔のすぐ側で、本塔にパンチを見舞う、巨大なゴーレムに向けられていた。

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 日が落ち、辺りが闇色に染まりつつある中、そのゴーレムを錬金した当の本人――フーケは、ゴーレムの肩の上で大きく舌打ちした。
「あのうすらハゲ! 適当な事言ってんじゃないわよ! 何が、物理的な衝撃には弱い、だってのさ!」
『サイレント』の魔法を使っている為、辺りにはゴーレムのパンチによる轟音は響かない。しかしどれだけ殴ろうとも、本塔の壁はヒビすら入らないのだ。
「あんまり時間はかけられないってのに…、ったく!」
いつまでも壁と格闘している時間はない。音はせずとも、姿は丸見えなのだ。30メイルのゴーレムなど、ただ突っ立っているだけでも、目立って目立ってしょうがない。

「トリスタニア行きが無駄になっちまったじゃないのさ…。…仕方ない、今日のところは出直し――って、あれは…?」
 これ以上壁パンしてても埒があかない、と考え、フーケはゴーレムを土に戻そうとした――ところで、ある物に気づいた。
 校門の辺りから、何かが、物凄いスピードで迫って来る。しかも、30メイル上から見下ろしている点を考慮しても、やたらと小さい。
「何だいアレは…。とんでもない速さでこっちに来てるけど…」
やや身を乗り出して、下の様子を眺めようとする。と、ここでフーケの勘が警鐘を鳴らした。
盗賊として幾度も危ない橋を渡り、鍛え上げられた危機への勘が告げるのだ――身を乗り出しては、危険だと!
  ガルルルルルルルルルルルルルッ!!!
 即座に身体を引っ込めた直後、眼下から聞いた事もない爆音が、連続して駆け上がって来た。鉄砲の音に似ているが、それにしては音の回数が尋常ではない。
それこそ、コンマ1秒未満の間隔で、何十丁もの鉄砲を連続で発砲したかのような…。
「な、何の音だ…いぃっ!?」
爆音に思わず身を縮こませたフーケだが、その直後、唐突な浮遊感に思わず声を漏らした。
 ゴーレムの肩に手を触れ、即座にゴーレムの状態をチェックすると、これまた有り得ない現状に目を見開いた。
 ゴーレムの右足、その足首が、どういった要因によるかは不明だが、完全に粉砕されていたのだ。
先程の浮遊感は、砕けた足首がゴーレムの重量に耐えきれず、地に着いた為に起きた現象らしい。
「いくら足首と言っても、あたしのゴーレムをこうも簡単に壊すとは…。何者だい!?」
 触れている手を通じてゴーレムと視界を共有し、足元を凝視する。
 そこにいたのは、フーケも知っている、周囲からは『ゼロ』と揶揄される学生・ルイズの使い魔。ギーシュのワルキューレたちをあっさりと片付けた、右手に緑色の筒――ガトリング砲を装備した黒猫・クロだった。


「クソガキのガラクタよりも柔っこいじゃねぇか。ただデカいだけじゃねぇの?」
 ここでクロの言うクソガキとは無論、数日前の決闘で完膚なきまでに叩きのめした、ギーシュの事である。
 当然といえば当然か。青銅製のワルキューレに対し、フーケのゴーレムはその全てが土で出来ている。耐弾性能は言わずもがな、青銅には大きく劣る。
30メイルのサイズゆえに、足首の太さはまるで丸太の如くだが、クロのガトリング砲が有する圧倒的破壊力を前に、耐えられる道理などない。

 一方、クロの視線に釣られ、ゴーレムを発見したルイズは、それが本当に『土くれ』のフーケの作り出した物なのかと、疑問を抱いていた。
 武器屋の店主が言うには、フーケは悪徳貴族の屋敷ばかりを狙う盗賊。であるならば、本塔学院長室の直下、すなわち宝物庫の辺りにパンチを見舞うなど、有り得ないのだ。
オールド・オスマンは、決して悪徳貴族ではないのだから。
 『土くれ』の名に恥じぬ、土で出来た30メイルはあるゴーレム。ここまでならばルイズも、あれがフーケのゴーレムだと納得出来ただろう。
しかしその狙いが、噂に聞くフーケとはまるで違っているのだ。

 平民が貴族崩れのメイジに対して持っているイメージは、概ね2つに絞られる。『絶対的な力』、『横暴な権力』である。
つまりフーケのように特定の領地を持たない盗賊メイジが平民に祭り上げられるには、相応の理由が必要なのだ。
フーケの場合、悪徳貴族ばかりを狙って盗みを働く、という一種の痛快さが、平民に大きくウケた為に、その信用を得た、という訳である。

 だと言うのに、なぜフーケは、学院の宝物庫に攻撃を仕掛けている? なぜ、悪徳貴族という言葉とは程遠い学院を狙っている? 
なぜ――平民の信頼に背くような真似をしている?

 ルイズが困惑している間に、クロは既に駆け出していた。腹からガトリング砲を取り出して右腕に装着し、ニンマリと笑う。
「ワルモノめ、覚悟しろ~~!」
 ギーシュのワルキューレなど比較にならない、それこそオーサム級のデカブツを目の前にして、こみ上げてくる衝動を抑えられなかったのだ。
オマケにゴーレムは学院の本塔を破壊せんと、その拳を振り上げている。クロの目には、完全に悪党に映っていた。
 であるならば、やる事は1つ。
「楽しもうぜぇ、ゴーレムちゃんよぉッ!!」
全力で走りながら、人型巨大兵器の弱点としてはお約束の部位、すなわち足首に照準を合わせ、ガトリング砲の連射能力を遺憾なく発揮した。
クロの代名詞とも言えるこの武器、ここで使わずして、いつ使うと言うのか。

 一度足を地に付いたゴーレムだが、ここで異変が起きた。周辺の地面がモコモコと蠢き、それらがゴーレムの足に集中していく。
そして足を上げると、いささか形状は変わっているが、そこには新しい足首がくっついていた。残っていた足首から先の残骸は、その直後に崩れ、元の土くれに戻っていく。
「ほー、再生まですんのか。やるじゃねぇか」
「ご、ゴーレムは、術者の精神力が尽きるまで、いくらでも壊れた箇所を再生できるの。術者を倒さない限り、泥沼になるわ…」
 ここでようやく、ルイズとエレオノールが追いついた。普段はあまり運動能力を求められないメイジゆえに、校門から本塔付近までのダッシュは、些か堪えたらしい。
手を膝につき、肩で息をしている。
「あ…あれは多分、トリステインを騒がせている盗賊、『土くれ』のフーケ。さっきの武器屋で聞いたの、間違いない…」
息を荒らげながら言い、ゴーレムの肩辺りを指差すルイズ。なるほどそこには、怪しげな人影が1つ。

「んー…?」
サイボーグ化によって得た機能である、目のズーム機能を使用し、その人物の顔を確認しようとするクロ。しかしその顔はフードによって翳り、深まりつつある闇も相まって、人相の把握には至らない。
さらにクロ、実はあまり夜目が利かないのだ。灯りでもなければ、フードがなくても、顔の確認は出来なかったかも知れない。
「く、クロぉっ!!」
 突然、ルイズが悲鳴を上げた。即座に目の倍率を元に戻したクロだったが、ここで一瞬、身体が硬直した。
 倍率を上げてフーケばかりを見ていたのがまずかった。ゴーレムの動きが一切見えなかった為に、こちらに伸ばされてくる、ゴーレムの掌に気づかなかったのだ。
「クソがッ!」
とっさに跳び、ルイズとエレオノールの二人を突き飛ばすクロ。地面に転ばされた形の2人は、何とかそれで難を逃れる事が出来た。
だが、クロは、ゴーレムの射程に残ったままだった。2人を突き飛ばした瞬間、クロはゴーレムの手に捕まった。

「ぐえっ、ぎゃああぁぁぁぁっ!?」
「クロっ!?」「あなた…!」
 ゴーレムの手に捕まり、その肩の高さまで一気に持ち上げられるクロ。同時に締め上げられ、思わずガトリング砲が手から離れ、大地へと落下していった。
「く、クロを放しなさい!」
震える手で杖を取り出し、ゴーレムへと向ける。
「る、ルイズ何してるの! あなたは早く逃げなさい! 魔法なんて使えないでしょう!?」
「嫌です姉さま! クロは、私の使い魔です! 使い魔を見捨てるメイジなんて――」
自身も杖を抜き、ルイズの前に出ようとするエレオノールだが、さらにその前にルイズが進み出る。ゴーレムの肩の上、フーケを睨みつけ、精神を集中させ、そして――
「メイジじゃありませんッ!! ファイアー・ボール!!!」
 渾身の気合と共に杖を振り下ろす。狙うは術者フーケ。フーケさえ倒せばゴーレムは崩れ、クロは助かる。しかし…
  ドォォォォンッ
 望んでいた火球は、放たれなかった。代わりに起きたのは、爆発。しかも狙いを大きく逸れ、宝物庫外壁で炸裂してしまった。

 杖を取り出したルイズを見たフーケは、魔法に備え咄嗟に身を屈めたが、それが杞憂であった事に一息つき、爆発の起きた本塔外壁に目をやった。
「そう言えば、あの生徒は魔法の使えない『ゼロ』だったわね…。全く、驚かせてくれ…って、おや?」
爆煙が徐々に晴れていくその向こう。フーケは自身の目を疑った。ゴーレムのパンチを受けても無傷だった宝物庫外壁が、大きな穴を空けられていたのだ。
その奥には、待ち望んだ宝物庫が広がっている。
「失敗だってのに、なんて威力の爆発だい…? でも、これは好都合だね…」
当たっていれば即死であったろう失敗魔法の威力に肝を冷やしながらも、フーケはほくそ笑んだ。色々と誤算はあったが、目的は達成出来そうだ。
 クロを掴んでいる手とは反対の、左手を穴に伸ばして即席の橋にしたフーケは、軽やかな足取りで宝物庫に侵入した。直接手で触れているよりはノイズ混じりになるが、視界の共有やゴーレムの操作に不自由はない。
それに人質(猫質?)もいる。下の2人の他にも、風竜に乗ってこちらの出方を伺っている連中がいるが、そうそう迂闊な手出しは出来ないだろう。
 極めて有利な立場に立っている。しかもこの状況をひっくり返されるなどあり得ない。フーケはそう確信し、目当ての品を探し始めたのだった。

 シルフィードに跨るキュルケとタバサも杖を構えるが、迂闊に手を出せば、ゴーレムも手を出して来るだろう。そう、クロを掴んでいる右手を。詠唱を始めれば、間違いなくゴーレムは、クロを盾にするはずだ。
どうにかしてクロを救出しなければ、いつまでも魔法を撃つ事が出来ない。
 同様にエレオノールも、手を出しあぐねていた。フーケと言えば土のトライアングルクラスのメイジ。同じ属性、同じクラスではあるが、目の前に聳えるのは規格外の大きさを持つゴーレムだ。
エレオノールもゴーレムを作り出す事は出来るが、せいぜい15メイル程度が限界であり、その能力もたかが知れている。フーケやグラモン家のように、ゴーレムに特化した修練など、受けた事がないのだ。

 しかし、その状況を覆さんと試みる者が1人いた。ルイズである。
「今助けるからね、クロ…。一緒にフィナーレを見る前に死ぬなんて、許さないんだから…ッ!」
ゴーレムを吹き飛ばす威力を実現出来る魔法。系統魔法が使えない以上、自分がドットクラスなのか、それともそれ以上か、以下なのかは解らない。
だが、爆発“だけ”は起こせる。精神力を集中させれば、きっととんでもない威力の爆発を引き起こせるはず…!
「フレイム・ボールッ!!」
 詠唱を始めたルイズに対し、やはりゴーレムはクロを盾にするように、右手を突き出した。しかし、ルイズの爆発は、何かを飛ばして、それが爆発するようなものではない。
そこにある爆発物の起爆スイッチを押したかのように、突如、爆発が発生するのだ。

  ドオォォォォォォォォォォンッ!!!
 ファイアー・ボールの上位魔法、ラインスペルのフレイム・ボールを詠唱したルイズだが、やはり火球は起こらない。
だが十分な集中力をもって放たれた失敗魔法は、ルイズの狙い通り、ゴーレムの頭を、きれいに吹き飛ばした。その威力に、ややたじろぐゴーレム。その隙を、キュルケとタバサは見逃さなかった。

 頭を吹き飛ばされたとあっては、さすがに視界も閉ざされただろう。今なら、魔法を詠唱したとしても、クロを盾にされる事はないはずだ。
「フレイム・ボールッ!!」「エア・ハンマー」
立て続けに放たれたキュルケとタバサの魔法が、ゴーレムの右腕、その肘を襲う。まずキュルケのフレイム・ボールが肘に直撃し、そこをタバサのエア・ハンマーが強かに打ち付ける。
 衝撃によってゴーレムの肘から砂煙が巻き起こるが、そんな物には構わず、追い打ちをかけるべく、2人はさらに詠唱を続ける。

 都合10発程度の魔法が撃ち込まれただろうか。砂煙は、最初の2発を撃った時とは比べ物にならない規模に膨れ上がっている。
 しかし、未だにゴーレムの腕は落ちない。シルフィードには、ゴーレムの腕が崩れた瞬間、即座にクロを回収するよう命じてあったが、いつまでも腕が落ちる気配はない。
 それもそのはず、2人が詠唱をしている間も、ゴーレムは絶え間なく自己修復を行っていたのだ。ルイズの失敗魔法で崩壊した頭部と、何度も魔法を撃ち込まれる右肘に、地面から土を吸い上げて送り込んでいたのである。
 驚愕すべきは、その速度。2人の連続魔法攻撃によるダメージを、さらに超えるスピード修復だ。千切れた足首から先を即座に復活させる修復力が、ここでも遺憾なく発揮された形となっていた。

 クロ自身も、何とかもがいて脱出しようとしていたが、暖簾に腕押しだった。片手は使えるが、その先に肝心のガトリング砲はない。先程遥か下の地面に落としたままだ。
予備のガトリング砲など持って来ていないし、そもそも肝心の収納庫たる腹は、ゴーレムの掌の中。他の武器を取り出す事も出来ない。
「相棒! 何か手はねぇのか!?」
その腹から、デルフの声が聞こえる。
「むぎぎ…」
今なお締め付けられる苦痛に呻きながらも、クロは考えた。力を入れて振り解くには、かなり無理のある体勢で捕まっている。全力でゴーレムの指を押し開いて脱出する事も出来そうにない。

 ここでクロは、ある事を思い出した。以前にも、似たような状況に立たされた事がある。その時自分は、どのように脱出したか。
 しっぽに意識を集中して、動かしてみる。根元に窮屈さを感じるが、そこから先は特に抵抗なく動いた。苦痛に歪む顔から笑みを搾り出し、クロは覚悟を決めた。

 ゴーレムの指の隙間から飛び出したクロのしっぽ、その先端がカパッと開き、中から赤い弾頭を装着したミサイルが顔を出した。
「舐めるなよッ!!」
一点を睨み、ミサイルを発射する。一度ゴーレムから離れたミサイルは、10メイルほど飛んだ後に急激に方向を転換。一直線にゴーレムの手首――クロが睨みつけ、照準を定めた一点めがけて飛翔した。そして――



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