あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アノンの法則-21


扉を突き破った氷の槍は、真っ直ぐに礼拝堂を走り抜け、ワルドとルイズの間に突き刺さった。
「ぎりぎり間に合ったぜ、相棒」
ルイズの耳には聞き慣れた、低い男の声。
「誰だ!」
氷の槍での奇襲に、後ろに飛びずさったワルドが叫ぶ。
「いや、ウェールズ様が倒れてる。間に合ってないよ、デルフ」
破られた扉から現れたのは、ワルドに殺されたはずの、アノンだった。
「アノン!」
「バカな!? 貴様は確かに殺したはずだ!」
ワルドは困惑して叫んだ。
現にアノンのシャツの胸元は血みどろで、確かに自分の杖が胸を刺し貫いていたことを物語っている。
顔にも、杖が掠めた傷が残っていた。
「たとえ急所を外していたとしても、あれだけの深手を負って……」
アノンは不敵に笑って、答えの代わりに、手に持った杖を軽く振った。
淡い光が、アノンの頬の傷を消し去る。
治癒、『ヒーリング』の魔法だ。それに、さっきの氷の槍。
「貴様…! 水のメイジだったのか!?」
それには答えず、アノンはルイズを見た。
「キミは一応無事みたいだね」
「アノン…あんた、メイジだったの……?」
「娘っこ。その話は後だ。今は……」
アノンが左手のデルフリンガーの切っ先をワルドに向け、右手に杖を構える。
「そう、今はこの裏切り者を倒さないとね」
少し冷静さを取り戻したワルドが尋ねる。
「貴様がメイジということにも驚いたが……なぜにここがわかった? ガンダールヴ」
「ルイズの視界が、ボクの左目に映った」
「なるほど、主人の危機察知したか」
「そうじゃなくても、殺されかけたんだ。次に狙らわれるのは、ルイズかウェールズ様に決まってる」
「それに気づくことができても、ウェールズはあのザマだがな」
ワルドが挑発する。
「それに、少々魔法が使える程度で私に勝てると思っているのか? ラ・ロシェールのときのように叩きのめしてくれる」
「戦いは、どんな相手とでもやってみなくちゃわからないよ」
アノンはそう言って、詠唱を始めると同時に、ワルドに向かって走り出した。
放たれた風の刃を身を屈めてかわし、一気に距離を詰めると、左手のデルフリンガーを斬り上げる。
だが、ワルドは杖であっさりとそれを受け流す。
「凄まじい速度と力だが、貴様は剣に馴れていないな? 予備動作で簡単に先が読めるぞ」
動きを完全に見切り、余裕のワルド。その顔前に、突如鋭い氷の矢が現れた。
「『ウインディ・アイシクル』!」
「なにッ!?」
近距離では剣を使うものと思っていたワルドは、顔面を襲う氷矢に、とっさに頭を下げた。
それでも、帽子の飾り羽が引きちぎられ、宙を舞う。
慌てて距離をとるワルド。
「おのれ…!」
「剣と魔法の併用は、基本なんじゃなかったかな」
今度はアノンが挑発する。
大きく顔を歪ませたワルドが、杖を掲げて言った。
「…ではこちらも本気を出そう。何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、その所以を身に刻むがいい」
何もさせまいとアノンが飛び掛ったが、人間離れした剣戟をワルドは器用に杖で逸らしながら、呪文を唱える。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
呪文が完成すると、ワルドの体から、分身が現れた。
ワルドと全く同じ格好をした四体の分身。
本体とあわせると全部で五人のワルドが、アノンを囲んだ。
「幻…? いや、実体がある。分身なんてできるのか」
「ただの『分身』ではない。風のユビキタス……。風は偏在する。風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」
「フーケといたのも、桟橋に上がるときに襲ってきたのも、その『遍在』ってことか」
ワルドはにやりと笑って、懐から仮面を取り出して見せる。
「そう。あの時、貴様に電撃を食らわせてやったのも、この『遍在』だよ」
「なるほど、あの時ボクに蹴り落とされたのも、この『遍在』か」
今度は挑発を挑発で返され、全てのワルドの顔が不快に歪む。
五体のワルドが、アノンに襲い掛かった。
まず、三体のワルドが『ブレイド』を振りかざして迫り来る。
アノンは、一体目の『ブレイド』をデルフリンガーで受け止め、そのまま力づくで押し返すように敵の体ごと弾き飛ばす。
次の瞬間、左右から二本の『ブレイド』が突き出されたが、アノンは身を捻ってかわし、風車のようにデルフリンガーを振り回して二体のワルドを蹴散らした。
そのままの流れで詠唱を完成させ、体勢を崩したワルドたちに氷矢を打ち込む。
が、
「『エア・カッター』!」
確実に標的を狙っていたアノンの氷矢が、空気の刃に阻まれ砕け散った。
後方から魔法を放ったのは、『ブレイド』を発動していない、二体のワルド。
「ッ!」
攻撃が途切れた隙に、弾き飛ばされたワルドたちは体勢を立て直した。
再び『ブレイド』がアノンに迫る。
先ほどと同じく、アノンは難なくデルフリンガーで受け止めたが、今度は即座に援護の魔法が飛んできた。
『ブレイド』を払いのけ、後ろに飛んでそれを避けるアノン。
だが、すぐさまその退路を遮るように『ブレイド』と『エア・カッター』が打ち込まれる。
身をかがめ、転がるようにして強引にかわすしかないアノン。
「くっ…!」
五体のワルドの内、三体が『ブレイド』で接近戦を挑み、残り二体が距離をとって遠距離攻撃で援護に回る。
この『遍在』たちは、ゴーレムのような操り人形ではなく、一つ一つが意思を持っているようで、前衛と後衛に分かれた緻密な連携でアノンを攻め立てる。
一人の杖を受けたと思ったら、すぐに背後から別の『ブレイド』が迫り、距離をとろうとすると詠唱の隙すら与えないように、すかさず風の刃が飛んでくる。
素早い『風』に加えて、五人分という圧倒的な手数。
いかな“超身体能力”に『ガンダールヴ』といえど、たった一人で全てを防ぎ切るには限界があった。
「どうした! こんなものか『ガンダールヴ』!」
五体のワルドに翻弄されながらも、何とか攻撃を防いでいたアノンだったが、ついにワルドの『ブレイド』が足を掠め、転倒した。
「しまった!」
そこに殺到する風の刃。
立ち上がる間もない攻撃を床を転がってかわし、すぐに飛び起きようとしたアノンは、ひやりとした空気を感じた。
この感じには覚えがある。雷の魔法『ライトニング・クラウド』だ。
(まずい…!)
氷や火球なら叩き落としたり、切り払うことができるが、剣で電撃は防げない。
見ると後衛の二体が、杖を掲げている。二人分の『ライトニング・クラウド』だ。
直撃すれば、絶命は必至。

「思い出した!」
その時、突然デルフが叫んだ。
「相棒! 俺を構えろ!」
「!? 前は防ぎきれなかったじゃないか」
「いいから構えろ!」
そう叫んだデルフリンガーの刀身が光り出す。
「コレは…?」
ワルドの杖が、雷の閃光を放った。アノンはとっさに刀身が光り始めたデルフリンガーを掲げた。
「無駄だ! 剣一本で避けられるものではない!」
が、アノンの体を焼き、命を奪うはずの電撃は、光るデルフリンガーの刀身に吸い込まれた。
その光が収まったとき、錆びだらけだったデルフリンガーが砥がれたように、その刀身を輝かせていた。
「これがほんとの俺の姿さ! 相棒! いやあ、てんで忘れてた! そういや、飽き飽きしてたときに、テメエの体を変えたんだった! なにせ、面白いことはありゃあしねえし、つまらん連中ばっかりだったからな!」
驚いたようにデルフリンガーの刀身を見つめていたアノンだったが、
「もっと早く言ってほしかったな。デルフ」
「しかたがねえだろ。忘れてたんだから。でも、安心しな相棒。ちゃちな魔法は全部、俺が吸い込んでやるよ! この『ガンダールヴ』の左腕、デルフリンガー様がな!」
このデルフリンガーは、相手の魔法をその刀身に吸い込み、無効化できる。
これは、メイジの戦いを根本から覆す能力だ。
ワルドは信じられない思いで、アノンの剣を見た。
「馬鹿な…完全に吸収したというのか? 私の『ライトニング・クラウド』を!」
「少し試すよ。デルフ」
「おう、何でも来い!」
威勢よく答えるデルフリンガーを振りかざし、アノンは遍在の一体に飛び掛った。
振り下ろされた剣を、遍在は『ブレイド』で受けようとしたが、デルフリンガーに触れた瞬間、魔法の刃は吸い込まれ、攻撃を防ぐことなく消滅する。
『ブレイド』の防御を素通りしたアノンの斬撃が、『遍在』を袈裟切りに斬り捨てた。
「うん。『ブレイド』も無効化できるみたいだね」
「こ、こんなことが……」
後ずさるワルド。
本体を庇うように『遍在』がアノンに立ちふさがるが、放つ魔法は全て無効化され、剣で切り伏せられるか、体に氷矢を生やして消滅していく。
魔法が弾かれるでもなく、受け止められるでもなく、吸い込まれるという信じ難い事実が、ワルドを激しく動揺させていた。
あっという間に前衛の『遍在』は全滅し、残る『遍在』は一体。
最後の『遍在』を盾に、ワルドはじりじりと後退する。
アノンは魔法を吸い込む剣を向け、ワルドを追うように距離を詰めていく。
「さて、そろそろ終わりかな」
「おのれ…使い魔風情に、この私が…!」
これが最後の攻撃だ。
まず、『ウインディ・アイシクル』で『遍在』を牽制、デルフリンガーで魔法を防ぎながら踏み込んで、本体を仕留める。
攻撃に備え、アノンが足に力を込めたとき…。
ごぼっと、アノンの口から鮮血が溢れた。

「ぐっ、ごほっ」
膝が折れ、倒れそうになる体を、アノンはデルフリンガーを杖にしてなんとか支える。
「持たなかったか……。相棒」
デルフの言葉にも答えられず、血を吐き、荒い呼吸を繰り返すアノン。
血は口からだけでなく、胸からも流れ出していた。
「く、くく……はーっはっはっは!」
その様子を見て、ワルドが笑い声を上げた。
「そうか、おかしいとは思っていたのだ。いくら水のメイジとはいえ、あれだけの深手を完全に治癒するなど!」
『遍在』が杖を構え直し、進み出る。
「旅の途中も、水の秘薬を持っている様子は無かった。貴様ができたのは、せいぜい応急処置程度だろう」
ワルドの言う通りだった。
治癒の魔法を見せつけ、挑発で煽り、平静を装って気づかれまいとしていたが、十分な治療ができなかった傷は、戦闘のせいでさらに開き、アノンの限界を早めていた。
血を吐きながらも立ち上がろうとするアノンに、恐れることなどないと『遍在』が杖を突きつける。
「終わりは貴様だ、ガンダールヴ。今度こそ死ね」
『遍在』が、杖を振り上げた。
その時、突如起こった爆発で、『遍在』の頭が吹き飛んだ。
「アノン!」
見ると、先ほどまで二人の戦いを、焦りながらも眺めるばかりだったルイズが、杖を掲げて立っていた。
「ルイズ!? だめだ! 逃げ…」
「邪魔だ! 下がっていろ!」
止めを邪魔されたワルドが、苛立たしげ杖を振った。
ルイズの体が、突風に吹き飛ばされる。
手足を投げ出して宙を舞うルイズが、アノンの目にひどくゆっくりに映った。
アノンの体が、大きく脈打った。
「ルイズ!」
同時に沸き起こる、今まで感じたことがない程の激しい感情。
左手のルーンが、これまでにない強い光を放つ。
頭の中が赤く染まり、アノンは咆えた。
「いいぞ! これだ相棒! そう! その調子だ! 思い出したぜ! 俺の知ってる『ガンダールヴ』もそうやって力を溜めてた!」
限界を迎えたアノンの体が、床を踏みしめ、力強く立ち上がった。
気圧され、後ずさりながらワルドが叫ぶ。
「ば、ばかな!? 立てるはずが…立てるはずがない!」
「いいか相棒! 『ガンダールヴ』の強さは心の震えで決まる! 怒り! 悲しみ! 愛! 喜び! なんだっていい! 心を震わせたときこそ、『ガンダールヴ』の本領だ!」
『ガンダールヴ』の力の源は、心の震え。
以前のアノンには、何よりも心を震えさせる、夢があった。
その夢への渇望が、地平線まで大地を削る程の力を『魔王』に与えた。
だが、夢破れ、その無意味さを悟って以降、アノンの心を震わせたのは、この世界や魔法への、好奇心くらいのものであった。
だから『ガンダールヴ』のルーンも、今までその力を十分に発揮していなかった。
しかし、ルイズを傷つけられ、使い魔の本能にも似た思いで激昂した今、ルーンはアノンに“本物”の『ガンダールヴ』の力を与えている。
アノンは強く想った。
植木と闘った時の様に。自分だけの世界を望んだ時の様に。
強く。
ルイズを守る、と。
咆哮。
傷の開いた体で、血を吐きながらもなお速く、アノンは駆けた。
ワルドが『ウインド・ブレイク』を唱え、突風をぶつけたが、全てデルフリンガーに吸収される。
「心を震わせろ、ガンダールヴ! お前の心の震えが、俺を振るんだ!」
ワルドの左腕が、宙を舞った。

「うおおおおおおおおっ!」
よろめき、腕を押さえて、ワルドが叫ぶ。
「くっ…」
ルーンの光が消えた。同時に、アノンは膝をつく。
重傷の体を支え続けた『ガンダールヴ』の力も、ここまでのようだ。
「まだだ! ガンダールヴ!」
ワルドが左腕をマントの切れ端で縛りながら、アノンを睨んだ。
「よくも私の腕を…! ここには、すぐに我が『レコン・キスタ』の大群が押し寄せる。だが! 貴様はここで、私が殺す!」
目を血走らせ、ワルドは杖を構える。
外からは砲撃の音や、兵士の断末魔が聞こえてきた。
決戦が始まったのだ。だが、このワルドを倒さねば、逃げることはできない。
ワルドが『エア・ハンマー』を放った。
アノンはそれを横に飛んでかわそうとしたが、体が重い。すでに『ガンダールヴ』の力は失われているのだ。
深手を負っている体では、避けきれない。
デルフリンガーでの防御も間に合わず、アノンは直撃を受けて吹っ飛ばされる。
アノンの体が床を転がり、その手からデルフリンガーが滑り落ちた。
「相棒ー!」
床を滑って行きながら、デルフリンガーが叫ぶ。
「ぐっ…」
ワルドは杖をこちらに向け、警戒しながら距離を詰めてくる。
遠くまで転がったデルフリンガーを拾うのは絶望的だ。
アノンは残された杖を握り締める。
ワルドは四体の『遍在』を失い、精神力を消耗しているが、それはアノンにも言えた。
アノンも傷の治療に加え、戦闘で魔法を乱発したため、もう精神力が尽きかけている。
トライアングル・スペルを、あと一回使えるかどうかといったところだ。
消耗し、追い詰められ、それでも起き上がろうと床についたアノンの手に、何かが触れた。
布、マントだ。
見ると、そこにはウェールズが横たわっていた。
アノンは、倒れたウェールズのところまで吹き飛ばされたのだ。
「う…」
ウェールズが、かすかに呻いた。
「ウェールズ様!」
死んでいるものと思っていたが、ウェールズはまだ辛うじて生きていたのだ。
「ウェールズめ、生きていたか。だが、今度は確実に首をはねてやろう。貴様をそうした後でな、ガンダールヴ!!!」
怒りの形相でワルドが、叫ぶように言った。
ウェールズは生きていた。
しかし、もう虫の息だ。闘うどころか、あと何分も生きていられないだろう。
だが、例え瀕死であっても、生きてさえいるのなら――。
アノンはウェールズの肩を掴んで、引き起こす。
それをワルドがあざ笑った。
「そんな死に損ないをどうするつもりだ?」
その言葉を無視して、アノンは大きく、大きく口を開いた。
「いただきます」
アノンは、ウェールズの頭を口の中に押し込んだ。
「なっ!?」
そのありえない行動に、目をむくワルド。
アノンはそのまま上を向き、ずるずるとウェールズを、自分の体の中に落とし込んでいく。
礼拝堂のステンドグラスから差し込む光が、床に大蛇を思わせるシルエットを映し出す。
最後につま先を飲み込むと、アノンは大きく舌なめずりし、落ちていたウェールズの杖を拾い上げて、ゆっくりとワルドの方を振り向いた。
その顔に浮かぶ、不敵な笑み。
「おまたせ」
「き、貴様、化け物か!?」
目の前の出来事を理解できず、ワルドは取り乱す。
アノンはウェールズの杖をワルドに向け、呪文を唱えた。
「『ウインド・ブレイク』!」
『風』の魔法による突風が巻き起こる。
「なんだと!?」
ワルドは身を屈め、風の障壁で何とかそれをやり過ごした。
「馬鹿な!? 貴様は水のメイジだったはず! それにもう精神力も……!」
「ああ、限界さ。だから、もう終わりにしよう」
ウェールズを取り込んだところで、傷が癒えるわけではない。
次で、終わらせる。
二本の杖を両手に構え、アノンは最後の攻撃に備えた。
(何を恐れる! 奴は疲労した上に傷も開き、死にかけているのだ!)
ワルドも、湧き上がる疑問を振り払い、最後の一撃を決めるべく杖を構える。
数秒の沈黙。
アノンが、走り出した。
ワルドもそれに反応し、弾かれたように走り出す。
アノンは走る勢いのまま、床を蹴って飛び上がった。
(勝った!)
飛び上がったアノンに、ワルドは勝利を確信した。
空は『風』の領域。例え相手が『風』を使えるとしても、スクウェアの自分が負ける道理はない。
ワルドも床を蹴り、空中でアノンを迎え撃った。
空中で激突する瞬間、ワルドが杖を突き出す。完全な射程内。
が、杖の先がアノンを捕らえる寸前、アノンの体がぐん、と後ろに移動した。
「なにッ!?」
アノンは『フライ』で真後ろに飛んだのだ。
ワルドの杖が空を切る。
一瞬虚を突かれたワルドだったが、すぐに空中で体勢を立て直す。
タイミングをずらされはしたが、なんのことはない。
『フライ』を使いながら、他の魔法を使うことは不可能。この時点で、もうアノンに反撃の手はないのだ。
なら、もう一押しすればいいだけだ。
だが、アノンは空中でワルドに、杖を向けた。
「ラグーズ・ウォータル・デル・ウィンデ」
「な、まさか…!」
「『アイス・ストーム』!」
アノンの杖から、氷の粒を纏った竜巻が放たれ、ワルドを襲った。
「ば、馬鹿な!? ぐおおおおおお!」
ワルドは、氷の粒に身を切られながら渦巻く風にまかれ、ステンドグラスを突き破って、礼拝堂の外に弾き飛ばされていった。
「ぐっ、げほっ」
アノンはよろめきつつも何とか着地し、床に血を吐いた。
アノンが『フライ』と『アイス・ストーム』を同時に使えた理由。それは、取り込んだ二人のメイジの能力を、使い分けたからだった。
かつて、神の『花鳥風月』とロベルトの神器を使い分けたときのように、より速く飛べるウェールズの『風』で『フライ』を唱え、モット伯の最後の精神力で『アイス・ストーム』を放ったのだ。
辛くも勝利したアノンは、よたよたと這うように歩き、倒れているルイズに近寄った。
ワルドの魔法に吹き飛ばされたルイズは、気を失っているようだったが、胸が上下していることから、呼吸しているのだとわかる。
抱き起こそうとして、アノンはそのままルイズの上に倒れこんだ。
体が、動かない。
深手のまま闘った肉体はとうに限界を向かえており、開いた傷からは、血がどんどん流れ出している。
辺りに轟音が響き、礼拝堂の壁が震えた。近くに砲弾が落ちたらしい。
「早く、にげ…ないと…」
意識が急速に薄れ、間近まで迫った決戦の音も遠のいていく。
「ルイ…ズ……」
アノンの視界が、闇に覆われた。





頬に受ける風の感触で、ルイズは目を覚ました。
「ルイズ! 目が覚めたのね」
横になっているルイズの顔を、キュルケが覗き込んでいる。
頭の後ろの柔らかい感触は、彼女の膝枕だ。
「ここは…? 痛っ!」
体を起こそうとして、全身の打ち身が激しく痛んだ。
「じっとしてなさい。あなたボロボロよ」
それでも何とか起き上がってみると、そこはタバサの風竜、シルフィードの上。
シルフィードは、アルビオンを離れ、雲の上を滑空していた。
「私達フーケを倒した後、すぐにタバサのシルフィードであなた達を追いかけたの。でも、アルビオンに着いても、勝手がわからなくて立ち往生。そしたらいきなりキーシュのヴェルダンデが穴を掘り出して…」
キュルケの指す方を見ると、シルフィードに咥えられたヴェルダンデが、不満そうな鳴き声をあげた。
「それを辿ったら、お城の中に繋がってて、倒れてるあなたたちを見つけたってわけ」
「…そうだ、アノンは? アノンはどこ!?」 
「ちょっと、落ち着いて。そこにいるわ」
アノンはシルフィードの背中で横になり、タバサの治療を受けていた。
「アノン!」
呼びかけても返事がない。
「今は意識がない。それに安静にさせておかないと、危ない」
「とりあえず、ラ・ロシェールまで急ぎましょう。ちゃんとした医者に見てもらわないと」
そう言われて、ルイズは頷いた。
「それにしても…アノンがこんなになるなんて、一体何があったんだね。それにワルド子爵は?」
ギーシュに問われて、ルイズはワルドの裏切りと、ウェールズの死を思い出した。
胸のポケットに手をやると、しっかりとウェールズから預かった手紙の感触があった。
アノンが守ってくれたのだ。こんな自分を、死ぬ思いをしてまで。
「…ラ・ロシェールに着いたら、話すわ……ワルドの、ことも…」
俯いて震えるルイズに、キュルケたちは黙って頷いた。
シルフィードが、雲の中に入った。
視界が白に染まる。
ルイズは意識のないアノンの手を、そっと握った。
その目から、涙がこぼれる。
「ありがとう…」
ルイズは、静かに呟いた。

「……ごめんなさい」



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