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ルイズと夜闇の魔法使い-20


「どうぞ」
「ありがとうございます」
 ややあってトリステインの未来予想図(妄想)から帰還した二人はエリスから水を手渡され、同時に息をついた。
 何故か満足そうな二人の一方で、柊はどこか疲れたように腕を組んで口を開く。
「……で、結局俺達に頼みたいことってなんなんだ」
「あぁ、はい。……どこまで話しましたっけ」
「同盟のために姫さんがゲルマニアに嫁ぐってとこ!」
 苛立たしげに柊がそう言うとアンリエッタは思い出したかのように手を叩いた。
 もはや王女に対する敬意も何もあったものではないがアンリエッタは気にした風もない。
「そう、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶのです。ですがそれは当然レコン・キスタにとっては好ましからざる事態……それゆえ同盟を妨げる材料を血眼になって探しているのです」
「……つまり、姫さんはその材料ってのに心当たりがあって、それをどうにかして欲しいって事だな?」
 この話の流れで秘密裏に頼みたい事がある、となればこれくらいは大体予想の範疇ではある。
 心なし低い声で柊が呟くと、アンリエッタははっとして彼を見やった後、気まずそうに顔を俯けた。
「そうなのですか、姫様?」
「……はい。以前わたくしがしたためた一通の手紙……それを確保して欲しいのです」
「手紙? どんな?」
「それは言えません。ですがもしそれが明るみに出れば、ゲルマニアはわたくしを許さず、同盟は破棄されるでしょう」
「そのようなものが……」
 ルイズは戦慄と共に呟いた。
 話が深刻なものになって流石にエリスもやや緊張した面持ちでアンリエッタを見つめている。
 それは柊もまた同様で、思案顔で顎に手を添えながら尋ねる。
「それで、その手紙ってのは何処にあるんだ?」
 手元にあるならさっさと処分してしまえばいいだけの話なのだから、その手紙は取り戻すことのできない場所にあるのだろう。
 問題はそれが何処にあるのか、だ。
「手紙はアルビオンにあります。今もレコン・キスタと闘っているアルビオン王家の皇太子……ウェールズ様がお持ちになっているでしょう」
「プリンス・オブ・ウェールズ……あの凛々しき王子様が」
「もはや王家……王党派の敗北は決定的とも言われています。そうなればあの方もいずれ囚われ手紙が明るみに出て……きっとゲルマニアの皇帝は『このビッチ!!』と怒り狂い同盟を破棄するでしょう!!」
「一国の姫さんがビッチとか言うなよっ!?」
 とりあえず突っ込んでおいてから柊は深く息を吐く。
 まあ既にレコン・キスタとやらの手中にあってそれを奪還して来い、などという事態にはならなかっただけマシというものだろう。
 だがいずれにしろ戦争中の国――それも災禍の中心に赴くという点ではあまり変わりはない。
 それに気付いているのかいないのか、ルイズはアンリエッタの前に進み出て恭しく跪いて見せた。
「委細は承りました。この件、土くれのフーケを捕らえたわたくしめにお任せ下さいますよう」
「ああ、ルイズ……本当にいいの? かの国は今や戦いの荒れ狂う混沌の地、しかも事が知れればレコン・キスタの者共が妨害に現れるでしょう。死地に赴くも同然なのですよ?」
「何をおっしゃいます! この身に流れるヴァリエールの血は祖国トリステインに捧げしもの、姫様に永遠の忠誠を誓っております!
 未だにわたくしなどをおともだちと言ってくださる姫様のためならば、地獄の釜の中であろうと竜のアギトの中であろうと喜んで参りましょう!!」
「ああ、忠誠……これがまことの忠誠なのですね! この天上にも昇る思いの丈を感動と呼ばず何と呼びましょう! わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません、ルイズ・フランソワーズ!」
 大仰な身振り手振りで二人はまくしあい手に手を取り合って語り合う。
 本人達はいたって大真面目なのだろうが、外から見ているエリスと柊からすればまるでどこぞの演劇でも見ているような気分だった。
「す、すごいですね……」
 呆れるを通り越してもはや感嘆の域に達してエリスがぽつりと呟くと、柊は頭が痛そうに眉を潜めてこめかみを指でかく。
「そーだな……けど」
 面倒臭そうに大きく息を吐いて、柊は最高潮の二人に向かって声をかけた。
「盛り上がってるところ悪いんだけど、ちょっといいか?」


「……何よ。まさか怖いからアルビオンに行きたくないなんて言い出すんじゃないでしょうね」
「いや。話も聞いちまったし、頼まれたんだから行くのは行くよ。けどな、」
 アンリエッタの手をしっかと握ったまま睨みつけてくるルイズに柊は再び溜息をつくと、静かに切り出した。
「なんでお前も行くことになってんだ?」
「……?」
 ルイズとアンリエッタの動きがぴたりと止まった。
 二人は同じような表情――言われた台詞の意味が理解できないといった感じでしばし柊を見つめる。
 ルイズが不思議そうに首を捻ると、柊は改めて言った。
「いや、だから。お前はアルビオンに連れて行かねえって言ってんだよ」
「………………なっ」
 まるで火山の噴火の兆候を思わせるような、そんな30秒ほどの間をおいてルイズは轟くような怒声を上げた。
「なによそれえぇっ!?」
 こうなるのは予想できていたし準備の時間もちゃんとあったので柊は耳を塞いでそれをやり過ごすと、腕を組んで言い聞かせるようにルイズに口を開く。
「お前が頼まれたのは俺を貸すことで、アルビオンに行くってのは俺が受ける依頼だろ。そうだよな、姫さん?」
「あ、はあ、それは……そうですが」
 柊が眼を向けるとぽかんとしたまま固まっていたアンリエッタが問われるままに頷いた。
 しかし勿論ルイズがそれで引き下がる訳がない。
「あんたはただのゲボクでしょ! これは小間使いじゃなくて王女殿下からの密命なの! ゲボク一人に任せられる訳がないじゃない!」
「その王女殿下が俺を指名してきたんだろうが……。大体な、アルビオンは今内戦中なんだぞ? タルブ村の時とは訳が違うんだ」
「危険だって言うんでしょ、そんなこと百も承知よ!」
「……承知なら言わせてもらうけどな。俺は侵――魔物とか相手の修羅場ならうんざりするほどくぐってきたが、人間同士の戦いに参加したことはそんなにねえ。
 無責任に守ってやるっていえるほど自信過剰じゃねえぞ」
「――ふっ」
 憤るルイズに対して憮然として柊が言うと、何故か脇で聞いていたエリスが小さく噴き出した。
「な、なんだ? どうした、エリス?」
「い、いえ。なんでもありません。ごめんなさい」
 不思議そうに見やる柊に、笑みを必死に押し殺しながらエリスが頭を下げた。
 彼はおそらく本気でそう言っているのだろうが、柊が実際に“そういった状況”になった時には躊躇なくそれを実行してしまう人間だという事をエリスは身をもって知っているのだ。
 柊はそんな彼女を怪訝そうに見つめた後、気を取り直すようにルイズに向き直る。
「……と、とにかく。最低限自分の身も守れない奴を連れて行くわけにはいかねえってことだよ」
「な、何よ。わたしが足手まといだとでも言うつもり……!?」
「端的に言うとその通り」
「!!」
 反応に詰まることでも期待していたのだろうか、しかし即座に断言されてルイズは絶句して固まってしまった。
 しかし柊としては特に理由もなく彼女を連れて行く道理などまったくない。
 ウィザードとして任務に赴く際には依頼主であるアンゼロットが戦力の調整などをやってくれるのだが、自分でやれと言うのならばこれくらいはやれるのである。
「そんな訳だから、エリスもここで留守番な」
「はい、わかりました。気をつけて下さいね」
 固まってしまったルイズを置いて柊がエリスに顔を向けて言うと、彼女の方はすんなりとすんなりと頷いた。
 エリスは一時期ウィザードとして柊達と共に戦いを潜り抜けた経験があるし、自分の力量を――ウィザードでなくなった事もちゃんわきまえていた。
 なのでこの状況で特に口を挟むことなど何もない。
 ……が、やはりもう一人の彼女はそうも行かないようだった。
「あ、あんたみたいな平民が一人で行ってどうしようっていうのよ!
 そりゃ王党派の所まで辿り着くことはできるかもしれないけど、そこで門前払いされるのがオチじゃない!」
 薄桃の髪を振り乱して詰め寄るルイズに、柊は僅かに眉を寄せて息を吐いた。
 別の方向からアプローチをしたようだが、そう来るのなら柊としてもやり方はある。
 彼は口を挟むことができず心配そうにやり取りを見守っているアンリエッタに振り返った。
「信用されりゃいいんだろ? 姫さん、そのウィールズ王子宛に手紙だか親書だかを書いてくれるか?」
「え、あ、はい」
 彼女は慌てたように周囲を見回すとルイズの机に向かい、そこでさらさらと所をしたため始める。
 それをいらいらとした表情で見つめながら、ルイズは柊に視線を移した。
「し、親書があるってだけじゃ身の証にはならないわよ。ちゃんとしかるべき人間が赴いて――」
「――って事なんで姫さん。何か身の証になるようなもの、ねえか?」
「えっ、はっ、はいっ」
 状況に押されてアンリエッタは年相応の少女のように慌てふためき、ペンを止めると探るように身体のあちこちに手を当てた。
 そして思いついたように顔を上げると、右手に嵌めていた指輪を抜き取り柊に歩み寄った。
「母より頂いた王家の秘宝たる『水のルビー』です。
 これを同じくアルビオン王家に伝わる『風のルビー』に近づければ虹の架け橋が浮かび上がる……何よりの身の証となりましょう」
 手渡されたルビーを確認して小さく頷き柊はルイズを見やる。
「これで文句ねえだろ……って、ルイズ?」
 と、何故かルイズは今までの剣幕がなかったように黙り込んでいた。
 訝しげに首を捻る柊を気にも留めず、彼女は柊の手元にある水のルビーを食い入るように見つめている。
「ルイズ? どうしたのですか?」
「ルイズさん?」
 少女二人の声もルイズの耳には届かない。
 今の彼女の頭の中に浮かんでいるのは、先だってのフール=ムールの言葉だ。
 始祖のルビーを手に始祖の秘宝と接触する事が正規の虚無覚醒の手順、と。
 巡り会わせがよければ始祖の遺産に辿り着くこともあるだろう、とも。
 ならばこれがその“巡りあわせ”というものではないのだろうか。
「……いやよ。わたしもアルビオンに行く! 絶対行くんだからー!!」
「お前なあ……っ」
 まるで癇癪を起こしたように叫んだルイズに流石にいらついてきて柊は唸った。
 何しろルイズがフール=ムールから得た情報は彼女自身半信半疑であったため柊やエリスには話していないので、彼らから見れば完全に駄々をこねているようにしか見えないのだ。
 彼女を諌めようとして柊が口を開き――かけた時。
 それを遮るように部屋の扉が勢い良く開け放たれた。

「話は全て聞かせてもらったわっ!!」

 バーンと威勢よく開いた扉と部屋に響き渡る声。
 燃えるような紅髪の少女――と、その彼女に続いて従者のように姿を現した青髪の少女の闖入に四人は完全に固まってしまった。
「つぇ、ツェルプストー……?」
「と、タバサ……?」
 呆然と掠れた声を漏らしたルイズと柊。
 凝固した場の空気と各々の表情を眺めやってキュルケは満足そうに笑みを浮かべると、つかつかとアンリエッタに歩み寄って恭しく膝を折った。
「恐れながら姫殿下、我が寮の壁は王宮のそれほど厚くはございませぬ。魔法を使わずとも聞き耳を立てる不埒者もおりますゆえ、お気をつけになられたほうがよろしいかと」
「…………」
 恭しく告げられた諫言にアンリエッタは眼を数度瞬かせた後、ふっとその場に倒れ伏した。
 どさりとアンリエッタの体がベッドに倒れこんだ音で部屋の中に時間が流れ始め、ルイズは烈火のような表情でキュルケに詰め寄った。
「ふ、ふふ不埒者のあんたがどの面下げて言ってるのよおぉぉっ!!!」
 しかし当のキュルケは一向に悪びれた様子はなく、むしろ不服だといわんばかりに息を吐いた。
「失礼ね、あたしはちゃんと放言して良いことと胸に秘すべき事の区別はわきまえてるわ。むしろ感謝されてもいいぐらいよ。“あんな不埒者”に聞かれたらどうなったことか」
 言いながらキュルケは顎で部屋の入り口のほうを示した。
 ルイズは怒りを露にしながらも、そして柊とエリスもそちらを見やる。
 その先にいたタバサが言葉もなく脇に動くと、その向こう――部屋の外の廊下。
 ……いい感じに丸焦げになったギーシュがぶっ倒れていた。
「ギーシュ……」
 返事がない。流石に生きてはいるようだが。
 無残な彼の遺体をよそに、キュルケは得意げになって鼻を鳴らしてルイズをねめつけた。
「それにあれだけおともだちだの何だの騒いでおいて誰にもばれないだなんて本気で考えていたの? それとも考えてすらなかったの?」
「くっ……!?」
 反論することができずにルイズは唇をぎゅっと噛み締めた。
 はっきり言ってキュルケ達の行為は出歯亀以外の何者でもないのだが、結果的には彼女達以外の誰にも漏れないように人払いをしてくれていたことになっていたという訳だ。
 黙り込んでしまったルイズを見てキュルケはふふんと勝ち誇ったように笑みを浮かべた後、改めて場の三人(アンリエッタは気を失っている)を見やってから自慢の紅髪を掻き揚げた。
「まあとにかく。そんな訳で話は全て聞かせてもらったわ」
「……ゲルマニア貴族のところも?」
「……ノーコメントにさせて頂きます」
 柊がおずおずと尋ねると、キュルケは珍しく穏便に――聞かれた瞬間こめかみに青筋が立ち拳を握り締めたが、それでも穏便に話を流した。
 いかな慇懃無礼の彼女とて、気を失ってはいるものの仮にもトリステイン国の王女であるアンリエッタに対して暴言を吐くことはできなかったのだろう。
 キュルケは平静を取り戻すよう努めて大きく深呼吸した後、改めて口を開いた。
「お偉方の決定だからその是非はおいておくとして、ゲルマニアとの同盟というならあたしにとっても無関係の話ではないわ」
 貴女だってそうでしょう? とキュルケはタバサに声を投げかけた。
 当のタバサは眠いのだろうか半分眼を閉じふらふらと頭を揺らしていて聞こえているかどうかすら定かではない。
 怪訝そうに声を上げたのはルイズだった。
「何? この子、ゲルマニアの人間だったの?」
 話の腰を折られて、そして更にゲルマニアの人間かもしれないという事でルイズの声音には明らかに不機嫌の色が浮かんでいる。
 しかしタバサは黙して語らず、キュルケは溜息をついて肩をすくめた。
「実はあたしも知らないのよ。トリステインのどこだかの貴族だと思ってるんだけど……ルイズ、あなたも知らないの?」
「知らないわよ。あんた、家名は?」
「……」
 ますます怪訝な表情になってルイズはタバサを覗き込む。
 視線を真正面から受けてタバサはようやく船をこぐのをやめたが、ルイズの質問自体はこれまで通りに黙殺――いや、一度だけルイズから眼を外してアンリエッタを見やった。
 タバサにとってアンリエッタが気を失っていたのは幸運だったかもしれない。
 もっとも、『彼女』がアンリエッタに逢ったのは一度だけであり、しかもそれは十年近く前の話だ。
 その時は“顔見せ”程度のもので会話らしい会話もなかったし、何より今の『タバサ』からは当時の『彼女』の印象や面影を見出すことはできないだろうが。
「まあいいわ。それより話を元に戻しましょう」
 タバサの微妙な空気の変化を読んでくれたのか、あるいはさほど興味がないことだったのか。
 キュルケは軽く手を叩いてから場にいる全員に顔を巡らせ、最後に柊に向かい合ってからにっこりと笑みを浮かべて口を開く。
「ダーリン、貴方アルビオンに一人で行くつもりなのよね?」
「なんだよそのダーリンってのはよ……」
「わたしも行くって行ってるでしょう!?」
 嘆息交じりに言いながらも柊は首肯し、そしてルイズが肩を怒らせてから口を挟む。
 しかしキュルケはルイズの怒号を委細気にせずに柊に向かって指を差し、軽く振って見せた。
「ダーリンなら力量は十分でしょうけど、王党派の拠点に行くまでの道程はどうするつもりなのかしら? こっちに来たばっかりでアルビオンどころかトリステインですら詳しくないでしょう?」
「……う」
 それを言われると流石に柊は口ごもらざるを得ない。
 ハルケギニアに着てから約一月程度しか経っておらず、しかもこの魔法学院からさほど離れたこともないのでキュルケの言う通り土地勘などないも同然だった。
 手当たり次第という手もあながち不可能ではないが、やはりある程度の前知識があるに越したことはない。
 するとルイズが嬉々として声を上げた。
「そ、そうよ。一刻を争う任務なのに迷子になったらどうするつもり? わたしなら一度アルビオンに行ったことあるから土地勘もあるわ。だから――むぎゅ」
 勢い込んだルイズの頭を押さえつけてキュルケが詰め寄った。
「そこであたし達の出番って訳よ。アルビオンには何度か行ったことあるからそれなりに土地勘もあるわ。それに何より……」
 言いながらキュルケはどこか蛇を髣髴とさせる、にやりとした笑みをルイズに向けた。
「ゼロのルイズと違ってあたしとタバサはれっきとしたトライアングル。自分の身は自分で守れるだけでなく、ダーリンの手助けもきっとできますわ。中々お買い得な取引だと思わない?」
「ツェルプストー、あんた……っ」
 ルイズは屈辱に顔を引きつらせ、頭を押さえつけているキュルケの手を払って睨みつけた。
 しかし当のキュルケは余裕綽々で敵意の視線を受け流して払われた手をひらひらと振っている。
 その態度がどうしても気に食わないが、ルイズはそれ以上に気に食わない事が一つあった。
 それは、キュルケの提言を聞いた柊が特に難癖(ルイズにとっては)をつけて断る訳ではなくそれを思案している事だった。
 理屈ではちゃんと理解していた。
 今のアルビオンが危険な場所であることも、そこへ向かうこの任務が危険なことも。
 魔法を使えない自分よりも魔法を使えるキュルケ達の方が戦力になることも、ちゃんと理解はしている。
 だが理屈でそう理解してはいても、感情がどうしても納得してくれなかった。
 柊が自分よりもキュルケ達を選ぼうとしている。
 それが間接的に自分がゼロで役立たずだと言われているようで、裏切られたような気がしたのだ。
 そして――それは“気がした”ではすまされなかった。
「……本当にいいのか?」
 柊がキュルケに向かって言ったその一言で、ルイズは完全に言葉を失い肩から力が抜けてしまった。
 そんな彼女の様子などお構いなしにキュルケは喜色を称えて柊に歩み寄り強引に手を取る。
「ええ、勿論よ! ダーリンの助けになるなら地獄の釜の中だろうと竜のアギトの中だろうとお供いたしますわ!」
「だからダーリンってのは……まあいいや。ただ、一つだけな」
「うん、なぁに? もしかしてタバサも一緒じゃなくて二人だけで行きたいの? ダーリンがそうしたいならあたしとしては心苦しいけどタバサには残ってもらうわ?」
「いや、そうじゃなくて……ある意味そうなんだけど」
 どんどんと詰め寄ってくるキュルケに柊はやや身体を仰け反らせながら、言った。

「連れてくのはタバサだけでいい」

 間。

「なンでタバサだけなのよぉォォォーーっ!?」
 まるで寮全体を震わせるようなキュルケの叫び声が響き渡った。
 直近でそれを受けた柊は顔を顰めながらも、彼女に向かって言う。
「いや、トライアングルっつってもピンキリだろうし、お前が実際どれほどのモンかわからねえし……」
 しかもデルフリンガーに『火遊びの達人』とまで言われてしまっては戦中の国――実戦の場所には連れて行きかねる。
 その点で言えばタバサはギーシュと初めての決闘をした際に少しだけ力量を垣間見ていた。
 魔法に関してはそこまで深くはわからなかったが、少なくとも身のこなしだけは相当なものだ。
 更に言うならタバサだけを――というより、『一人だけ』を選んだのにはもう一つ理由があるのだが、そこまでは彼女には言えなかった。
「どれほどですって!? だったらギーシュを見なさいよギーシュを!!」
 そんな柊の事情を知る由もないキュルケは怒りも露に廊下にぶっ倒れているギーシュを指差した。
「あんな風に生かさず殺さずミディアムレアに仕上げるのは並大抵の技量じゃできないのよ!!」
「……そうなのか?」
「そうなのよ!!」
「でもギーシュだしなあ」
「あんただってこないだ負けたじゃない!!」
「う、うるせえな!?」
 キュルケの怒りは収まるところを知らず、だんだんと床を踏み鳴らしながら苛立たしげに紅髪をかいてから次いでタバサを指差す。
「だ、大体ねえ! タバサは元々乗り気じゃないの! 今日のだってあたしが無理矢理連れてきただけなんだから! そのあたしが行かないのにこの子だけが行く訳がないでしょう!?」
 聞いている分には酷いいいようではあるが、タバサは一向に気にしている風はない。
 しかし話題が出てきて自然と注目がタバサに集まると、彼女は少しの沈黙のあと、ぼそりと呟いた。
「……行く」
「タバサ!?」
 出てきた肯定的な発言にキュルケは勿論のこと、この場にいる他の全員――提案した柊自身も含めて――が少なからずの驚きを浮かべた。
 しかしタバサは一切表情を変える事なく、僅かに眼を細めて柊を見据えて更に言葉を続けた。
「その代わり、教えて欲しいことがある」
「……」
 その表情と目つきで柊はそれが何なのかを理解した。
 彼女とのほぼ唯一の接点であったあの日に聞かれた事だ。
 柊は僅かに首を傾けると、諦めたかのように溜息を吐き出した。
「……わかったよ。けど、前にも言ったとおり知ったからってどうにかなるかはわからねえぞ」
「それで構わない」
「……もうっ、何なのよ一体!」
 お互いに頷きあった柊とタバサを見やっていたキュルケが溜まりかねた様に声を上げた。
 そして彼女は烈火のように柊を睨みつけると、タバサとの間を遮るように身を乗り出して床を蹴る。
「こんなの納得いかない! タバサが行くんならあたしだって行くわ!」
 すると今まで黙り込んでいたルイズが便乗して怒声を張り上げる。
「納得いかないのはこっちの方よ! ツェルプストーもヒイラギも、どいつもこいつもなんでわたしを無視して話を進めてるのよ!!
 これは姫様がわたしに持ってきた話なの! わたしがいなかったらそもそもこの話自体がなかったんだから!」
 言いながらルイズは感情任せにキュルケを突き押した。
 ルイズと同じく半分感情的になっている今のキュルケがそれを受け流せるはずもなく、顔を怒りに赤く染めてルイズに掴みかかった。
「戦力外通告されてんだから無視されて当然でしょう、引っ込んでなさいよゼロのルイズ!」
「な、なんですってぇ!?」
 そして二人の取っ組み合いが始まった。
 お互いの家名やら先祖やらを引き合いに出して口汚く罵りあう二人を眺めやりながら柊は本日何度目かの溜息をつく。
 タバサもそれをぼんやりと見ながら小さく息を吐いた。
 今まで完全に話しに入っていけなかったエリスは二人の喧嘩を止めることもできずおろおろとするしかない。
 どたばたとしたやりとりに流石に眼が覚めたのか、ベッドで気を失っていたアンリエッタが頭に手を当てながらふらふらと起き上がった。
 それを見やってから柊は苛立たしげに頭をかきむしり、押し合い圧し合いしている二人を制するように大きく声を上げた。
「ああもう、わかったよ! 連れて行けばいいんだろ!」
 その言葉に二人はぴたりと動きを止めて、同時に柊に眼を向けた。
「俺とキュルケとタバサ、そんでルイズも一緒に行く。それでいいな、姫さん?」
「え? あ、はい……よくわかりませんが、ヒイラギ殿のよろしいように……」
 起き抜けにいきなり話を向けられれば当然だが、アンリエッタはぼんやりとした調子で頷いた。
「なんでツェルプストーまで……」「なんでルイズまで……」
 予想通りの台詞を異口同音に吐き出した二人に、柊は首を捻りっぱなしのアンリエッタに視線を送ってから有無を言わせぬ態度で二人に言い放つ。
「王女殿下の認可は貰ったんだ、文句あるのか?」
「……」
 こういう形のやり方は正直好みではないが、こういう世界では一番効果的ではある。
 実際二人は顔には不満をありありと貼り付けていたが口答えするつもりはないようだ。
「そんで姫さん、腰折っちまったけどとりあえず親書を書き上げてくれねえか」
「は、はい。少々お待ちを」
 慌てて机に戻ってペンを手に取ったアンリエッタを見届けて、柊は次いでタバサに眼を向けた。
 完璧に我関せずといった調子で推移を見守っていたタバサに向かって、柊は口を開く。
「タバサも……それでいいな?」
 あえて念を押す形で問いかけた。
 すると彼女はしばし柊を見つめた後、はっきりと頷いた。
「あの……柊先輩?」
 と、おずおずとエリスから声をかけられて柊は彼女を振り返った。
 見つめてくる翠の瞳に込められた表情は「自分も行きたい」という風ではなく、むしろ柊の意図をなんとなく察しているようだ。
「……後でメール入れっから」
「はい、わかりました」
 エリスは特に何も聞くことなく小さく頷いた。
 それはそれで嬉しくはあるのだが、やはり彼女に対する申し訳なさも感じてしまう。
「悪いな、面倒ごと押し付ける風になっちまって……正直、この世界で一番頼りになるのはエリスだよ」
 すると彼女は眼を丸め、僅かに頬を染めて微笑んだ。
 頼りにされた嬉しさが半分、純粋に頼りにしかされていない寂しさが半分の、わかる人間にはわかる微妙な笑顔だったが生憎柊はわかる人間ではなかった。


※ ※ ※


 ややあってアンリエッタが書き上げた親書と託された水のルビーは柊が預かることとなった。
 これにはルイズが少し渋ったが、ものの重要性を考えれば事実上柊以外の人間には決して手が出せない月衣の中に入れておくのが一番安全――と言われては流石に引き下がるしかない。
 出発は翌明朝という事でこの場は一旦解散になり、柊も黒焦げになったギーシュを引き摺ってルイズの部屋を後にした。
 とりあえずギーシュを彼の部屋に放り込んでおいてから、柊はそのまま就寝はせずに寮の外へと赴く。
 そのまま学院の敷地から外へ出て、辺りを軽く見渡してから外壁に背を預け懐からO-PHONEを取り出した。
 エリスにメールを送信し終えると、彼はその場に座り込んで眼を瞑る。
 それから30分程経った頃合だろうか、柊の元に近づく気配があった。
 柊が眼を開いて訪れた相手に眼を向けると、それは果たして予想通り、タバサだった。
「通じてたみたいだな」
 安堵するように柊が息を吐いて言うと、タバサは答えるように小さく頷く。
「私も多分そうする」
 そうする、とは言うまでもなくルイズやキュルケを置いてアルビオンに出立することだ。
 端的に言ってしまって、国家間の同盟を左右するほどの任務に対して遊び半分――彼女等からすれば大真面目なのだろうが、だからこそ大問題だ――で参加しようとする人間など力量とか言う以前の段階で連れて行ける訳がない。
 なのであの場は妥協する形で収めておいて、こうしてすぐに出立することにしたのだ。
 柊としてはあまり面識のないタバサがそれを察してくれるか微妙なところだったので、もう30分ほど待って来なかったら本来の予定通り一人で行くつもりだった。
 だが幸い、彼女の気色はルイズ達より柊に近いらしい。
 翌朝になってルイズとキュルケは怒り狂うだろうが、必要なものはこちらが握っているので騒いでも後の祭りだ。
 ……二人の気性からして追いかけてすら来そうなのでエリスにメールで後詰を頼んでおいたのである。
「けど、本当にいいのか? そこまで知りたいってんなら別についてこなくても教えはするけど」
「それは公平じゃない。報酬に見合う対価は払う」
 一応改めて聞いてみたがにべもなくそう言われたので柊は黙り込むしかなかった。
 タバサは柊に背を向けて少し距離を取った後、空に向かって指笛を吹いた。
 静まり返った夜闇の中に刺すような音が響き渡り、ややあって大きな影――風竜が風を切って飛来してきた。
 風竜はタバサの側に降り立った後、その口を大きく開けてあくびを吐き出すと恨みがましげに彼女を見やる。
「アルビオンまで」
「……きゅい」
 幼体とはいえ仮にも竜であるその威容に見合わない、まるで愚痴を零すような鳴き声を漏らして風竜……シルフィードは頭を地面に下げる。
 その頭を軽く撫でてからタバサが振り返ると――柊は何故か微妙な顔つきでタバサとシルフィードを見やっていた。
「……その風竜ってお前の使い魔だったのか」
「……?」
 柊の言葉にタバサは首を捻ってしまった。
 てっきり彼が自分を選んだのは力量に加えて移動手段を確保するためだと思っていたのだが、その様子を見るとどうも違うらしい。
 柊は溜息を漏らした後困ったように頭をかいた。
「だったらキュルケはいてもよかったかもな……いや、まあ態度がちょっとアレだけど」
「……どういうこと?」
「コレで行こうと思ってたからよ」
 タバサの質問に柊は月衣からガンナーズブルームを取り出すことで答えた。
 何もない中空から現れた巨大なモノにタバサは眼を見開き、呟く。
「……破壊の杖?」
 タンデムシートなしでの三人乗りは非常に危険、という事は先日のタルブ村行きの際に嫌と言うほど体験していた。
 なのでこの箒でアルビオンに行くなら一人だけの方が望ましく、それならキュルケよりもタバサの方がいいだろう……というのが柊の思惑だったのだ。
 タバサはしばし破壊の杖を興味深げに眺めやった後、シルフィードに向き直ってから告げた。
「今回は留守番。帰っていい」
「きゅいっ!?」
 驚愕の声を上げて頭を持ち上げるシルフィード。
 しかしタバサは一方的な宣告を終えた後、話は終わりとばかりにシルフィードから離れ柊の方へと歩き出す。
 するとシルフィードは大口を開けて背後から彼女を咥え込み、ぎょっと目をむいた柊をよそに翼を翻してその場からタバサを連れ去ってしまった。
 柊から十分に距離を取った後シルフィードはタバサを解放し、そしてひそひそ声で“喋った”。
「ちょ、ちょ、ちょ、お、お姉様! どういう事!? あんな棒っきれでアルビオンに行くとかホザくなんて頭が沸いてるに決まってるのね! そんな奴の言う事を聞くの!?」
「今回の私は同行者。だから指示には可能な限り従う。それに……破壊の杖にも興味がある」
 言ってタバサは再び柊の元に向かおうとするが、シルフィードの巨体がそれを行く手を遮った。
「ほ、本気で置いていくつもり!? シルフィードはお姉様の使い魔……いわば右腕のはず……っ!」
「……私の右腕はここにある」
「!!!」
 自らの右腕を軽く叩いてタバサがそう言うと、シルフィードは愕然とした表情を浮かべて固まってしまった。
 そんなシルフィードの脇を擦り抜けてタバサは柊の下へと歩いていく。
 彼女が柊の傍に辿り着くと、彼はおそるおそるといった感じで彼女に声をかけた。
「お、おい、なんかすっげえ睨んでるぞ……」
 学院のすぐ側とはいえ街灯もない暗闇の中、シルフィードの怒りに満ちた双眸が爛々と柊を射抜いていた。
 殺気すら纏わせてガチガチと牙を鳴り響かせているその様は、隙を見せれば襲ってくる魔物のそれに等しい。
「問題ない。それで、破壊の杖でどうするの」
「お、おう……」
 ただならぬシルフィードの様子を完全に無視したタバサの言葉に促されて柊は破壊の杖――ガンナーズブルームを起動させた。
 中空に浮かばせたそれに跨ってタバサを促すと、彼女は普段の無表情な顔に興味を浮かばせてしきりに何か頷きながら観察し、箒に同乗する。
 ゆっくりと機体を上昇させながら柊はタバサに言った。
「アルビオンって確かここから北西だったよな? ラ・ローシェルの更に先」
 タルブ村などといった局地的な地理はともかく、流石に国やその主要都市くらいの地理はこちらに来たときに既に仕入れている。
 確認に首肯で返した彼女を見て柊は一つ頷くと、出発しようと機首を返し、
「うおっ!?」
 下方から飛び出した影に僅かに姿勢を崩された。
 今まで沈黙を保っていたシルフィードが唐突に飛び上がり、柊達を掠めるように旋回した後高く一鳴きしてそのアルビオンの方向へと向かっていったのである。
 その行動の意図はもはや言うまでもなく『挑発』だった。
「……箒と勝負しようってのか? 上等じゃねえか」
 流石に風竜というべきか、あっという間に夜闇の中に消えていったシルフィードを見据えながら柊は獰猛な笑みを浮かべた。
 彼は手前に乗せていたタバサの身体を片腕で抱いて固定し、背中越しに振り返った彼女に向かって告げる。
「魔法で風圧……風を避けられるか?」
「度合いによる」
「よし、なら飛ばして行く。辛いようなら言うなり合図してくれ」
 柊の言いようにタバサは僅かに眉を動かした。
 メイジでない彼は知らないのかもしれないが、エア・シールドなりを使えば例え物理的なモノでもかなりの防御効果があるのだ。
 なのでどれほどの速度であっても風だけなら辛いという事態にはまず陥らない。
 特に指摘するような事でもないので彼女はあえて何も言わなかった。

 ――箒の尾部スラスターがまるで破裂するように閃光を迸らせ夜の闇を切り裂いた。
 回りの何もかもが一瞬で吹っ飛んだのと同時に、彼女は自分の『常識』も一緒に吹っ飛んだのを感じた。


※ ※ ※


「遅い! 遅すぎるのね!!」
 二つの月明かりが照らす夜空の中を飛翔しながら、シルフィードは歌うように声を上げた。
 出立した魔法学院は既に遥か遠く、幾つもの山の向こうに消え去っている。
 彼女にとってはわかりきったことではあったが、柊達の姿などどこにもありはしない。
 なんだか楽しくなってぐるぐると切りもみしはじめながら、シルフィードは完全なる勝利の余韻に酔いしれる。
 このままアルビオンまでひとっ飛びした後は三日ぐらいかけてひいこらやってくるだろう二人を優雅に待ち受けるつもりだった。
 そうすれば少々空に浮かぶ程度のみょうちきりんな棒を持ったあの馬鹿もシルフィードの偉大さを思い知るだろうし、そんな偉大なる使い魔をないがしろにした主も己の浅はかさを悔いるだろう。

 柊:うわーだめだー、シルフィード様はなんて凄いんだー! それに比べて俺はなんて無知蒙昧な豚野郎なんだー!!
 タバサ:ごめんなさい。やっぱり私には貴方しかいない。
 シルフィード:だめだ許さないのね。でもシルフィードは鬼というわけではありません。これからは待遇を改善して毎日お腹一杯お肉を食べられるようにしてくれれば全て水に流してあげるのね。
 タバサ:そんな事で許してくれるなんてなんて優しいの……素敵、抱いて!
 柊:一生ついていきます!

「コレなのね!! もう無敵の未来しか見えてこない!! あっははははは、きゅいきゅいぃぃっ!!」
 夜の静寂をぶち破る馬鹿笑いを上げながらふらふらと空中で踊りだす。
 まるで人生の絶頂のような喜びに浸るシルフィードだったが、ふと後方で何かが光ったのに気付いた。
 何かと首をめぐらせた瞬間、その光は尾を引いて彼女へ向かって一直線に突進してくる。
 眼を覆うばかりの輝線がシルフィードを掠めるように駆け抜けて消えて行き、一瞬遅れて強烈な風が身体を襲う。
「!? ……!?」
 数瞬の忘我の後、シルフィードは慌ててその光を追って空を駆けた。
 全力で飛ばしてもなお追いつけない。
 尾を引いて零れ、掠れて霧散する光を辿ることしかできず、それにすら追いすがる事ができない。
「そんな……嘘……!」
 必死に翼を動かしながら、シルフィードは愕然と呻いていた。
 光とすれ違った瞬間に垣間見たもの。それはあの妙な棒に乗った人間とタバサだった。
 信じたくない思いとどれほど死力を尽くしても追いかけることができない事実に打ちのめされながらシルフィードは夜空を疾走する。
 やがてようやく空の向こうに光が見えてくると、しかしシルフィードはむしろ屈辱感すら覚えてしまった。
 なぜならこれはシルフィードがあの光に追いついたのではなく、あちらの方が明らかに速度を緩めてこちらに近づいているからだった。
 光の先頭――柊とタバサがシルフィードの隣に並ぶ。
 そして彼はにやりとした笑みを浮かべて開口一番こう言った。
「……俺の勝ちだな」
「!!!!!」
 ぎりぃっ、とシルフィードは牙を砕かんばかりに歯を食いしばった。
 生まれて初めて殺意が生じた瞬間だった。
 ぶち殺すのねヒューマン、という言葉すら吐き出せないほどの怒りが彼女の中に渦巻いていた。
 おそらく今ブレスを吐き出したらガリアの王城であるリュティス城すら吹き飛ばすほどの威力を叩き出していたであろう。
 しかし主人であるタバサが一緒に乗っている以上巻き添えにする事はできない。
 ……その主人であるタバサが、感嘆したようにぼそりと呟いた。
「シルフィードより、ずっとはやい……」
「!!!!!!!!!!!!!」
 その瞬間、シルフィードの中で何かが弾け飛んだ。
「サ、サラマンダーなんかとは違うのねーっ!!」
「おぉっ!?」
 意味不明の咆哮と共にシルフィードはこれまでにないほどの速度で柊達を一気に引き離し夜空の向こうへぶっ飛んでいく。
 まるで裡に溜め込んだ衝動やら何やらを全て放出するかのような猛烈な勢いであった。
 慌てて柊は機首を駆ってシルフィードを追い夜闇を飛翔する。
 地上から見れば流れ星と見紛う光の軌跡が、ハルケギニアの夜空を過ぎ去っていった。




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