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第九話 モット伯邸の攻防 後編



「ふん!!!」
モット伯の寝室では、主であるモット伯が戦っていた
『波濤のモット』の二つ名を持つ彼はトライアングルのメイジで、水の魔法の使い手である
花瓶の中の水を操り、襲ってくる魔物達を薙ぎ払う
「あら、中々やるじゃない。」
そんな彼の奮闘を眺めるのは、男女の二人組だった
女の方は、幼い少女のように見える外見と服装で、手には乗馬用の鞭を持っている
男の方は、長い青髪と白のジャケットを着込み、手には大きな棺のようなものを携えている
「この程度、私の敵ではないぞ、土くれのフーケめ。」
「あら、残念だけど私はそんなこそ泥じゃないのよね♪」
女はニコニコしながら、モット伯の事にそう答える
相手は今世間を騒がせている盗賊ではないらしい
「土くれでなかろうが、私の館を荒らす不届き者は例え女であっても容赦せんぞ。」
モット伯は操っている水を氷のダーツに変え、女に向かって放った
数本のダーツが狙い通り向かう中、男が割って入ってくる
「アリスちゃんを傷つける奴は許さないぜ!!」
即座に男は棺を開け、中から大剣を取り出した
すぐにその剣を振り払い、一太刀でダーツを全て叩き割った
「ぐっ、私の魔法を…。」
「ねぇ、モット伯爵…私達、貴方の持ってるマジックアイテムってのが欲しいの。」
焦るモット伯に対し、アリスと呼ばれた女はくすくすと笑いながら自分達の目的を話す
「水のアクアマリンだっけ、水の魔力を高める指輪…それを渡してくれたら命だけは助けてあげる。」
「貴様等、やはりこの指輪が狙いか…賊如きにこの指輪は渡さんぞ。」
左手に嵌めている指輪を庇う様にして、モット伯は杖を構える
「それが水のアクアマリンか…渡さないってんなら、力ずくで奪い取る!!!」
「ぬかせ、卑しい賊如きが!!」
モット伯が再び水を操り、水は竜となって二人の賊に襲い掛かる
水の竜が襲ってくるのに対し、男は大剣を構えて突進する
「こんなもん…でやっ!!!」
「なんと!?」
モット伯の放った水の竜は、男の一太刀でまたもや打ち砕かれる
そればかりか剣の衝撃で床が割れ、その破片がモット伯の腹部に突き刺さる
「ぐおっ、馬鹿な!?」
「喰らいやがれ!!!」
思わぬ傷によろめくモット伯に、賊の容赦ない一撃が襲い掛かる
大剣がモット伯を切り裂こうとした…その時だった
「魔神剣!!!」
「何!?」
その直前、横から男に向かって剣圧が飛んできた
横からの突然の攻撃に対処できず、男は剣圧に吹き飛ばされる
モット伯が入り口の方を見ると、そこには剣を構える才人とクラースの姿があった
「お、お前は…何しに此処に来た!?」
「何しにって、あんたがシエスタとの交換条件に出した本持ってきたら、この騒動に巻き込まれたんだっての。」
そう言いながら、二人はモット伯を庇うように彼の前に立つ
此処で彼に倒れられたら、折角の苦労が水の泡になる
「あんたの事、ちゃんと守ってやっから…必ずシエスタを返せよな。」
「何を、私が平民なんぞに助けられるなど…あたたたた。」
体を起そうとしたモット伯だが、傷が痛くて戦い処ではない
破片が刺さった腹部からは、血が流れていく
「モット伯、貴方は傷を治す事に専念しろ…賊は私達が抑える。」
「くっ…無念だが、此処は恥を飲むしかないか。」
クラースの言葉に従い、モット伯は破片を抜いて癒しの魔法を唱えた
ゆっくりとだが、彼が受けた傷は癒えていく
それを確認すると、二人は改めて賊である男女と対峙した
「いてて…畜生、やりやがったな。」
才人に吹き飛ばされた男は、仰向けの状態からすぐに起き上がった
先程の一撃は効いたが、致命傷という程のものではない
「デクス、大丈夫?」
そんな男…デクスを心配したアリスが彼の元に駆け寄る
デクスはまるで自分の聞いた事が信じられないといった表情で彼女を見る
「アリスちゃん…俺の事を心配してくれるのかい?」
「い、一応ね…あんたがいなくなっちゃ、私の盾が無くなっちゃうし。」
少し顔を赤らめながら、本音とは少し違う事を口にする
だが、それだけでもデクスのテンションを上げるのには十分だった
「アリスちゃんが俺の事を心配してくれるなんて……うおおおお、感激だああああああ!!!!!!」
余程嬉しかったらしく、感激のあまり絶叫するデクス
館中に響くのではとも思える絶叫に、才人達は唖然とする
「な、何だこいつ?」
才人は思った…こいつ、キモイしキショイ…それに何か臭いし
そんなデクスは感激の絶叫の後、才人とクラースを睨みつけた
「アリスちゃんのお陰で俺の元気は百倍、こんな奴等俺一人で片付けてやる!!!」
男は軽々と自分の大剣を振るうと、二人の前へと歩き出す
そして、一度後ろに振り返って、アリスに向けてポーズを決める
「見ててくれアリスちゃん、俺の勇姿を!!!」
「あ、そう…そんだけやる気あるなら、あんた一人で十分そうね。」
アリスは呆れながらそう言うと、後ろに下がった…事態を傍観するつもりらしい
そんな光景に呆然とする才人に対し、クラースは気を引き締めて構えを取る
「才人、気をつけろ…見かけはあれだが、相手はかなりの使い手だぞ。」
「えっ…は、はい。」
さっきのハスタといい、変人は強敵なのかもしれない
クラースの言葉で我に返り、才人は剣を構えた
「少年、さっきは不覚を取ったが…今度は本気でいかせてもらうぜ。」
剣を構えるデクス…そして、一気に才人に向かって切りかかった
反射的に攻撃を避けると、デクスの一撃は床をぶち抜いた
「あ、あぶな…防御しようと思ったけど、してたらやばかったな。」
「よく避けたな、少年…だが、次はどうだ?」
デクスは床から剣を引き抜くと、再び才人に向かって攻撃を開始する
今度はパワーがない分スピードのある攻撃で、才人はそれを剣で受け流した
しかし、相手が大剣使いな為、受け流すだけでも手が痺れる
「そらそらどうした、防御ばっかりだぞ。」
「わっ、うおっ!?」
デクスの容赦ない攻撃が続く…反撃したいが、受け流すので精一杯だ
何とか攻撃を…と思った時、デクスが大きく剣を振りかぶった
チャンス、と才人は素早くデクスの一撃を避け、後ろに回りこんだ
「これで!!」
「甘い!!」
後ろからの一撃を、デクスは大剣で即座に受け止める
鍔迫り合いが始まるが、此方が片手剣に対して相手は両手剣…分の悪いものだった
デクスは容赦なくぐいぐいと押すので、才人は押されっぱなしだ
「く、くそ…。」
「はっはっはっ、どうした少年、これで終わり…かぁ!?」
押し切られる…そう思った時、突然デクスの動きが鈍った
その隙をついて才人は剣の柄でデクスを殴り倒すと、すぐに間合いをあける
倒れたデクスの背中には、魔法で受けた傷があった
「私もいる事を忘れてもらっては困るな。」
「クラースさん。」
後ろに待機していたクラースが、術で援護してくれたのだ
デクスは剣を杖代わりに立ち上がると、二人をにらみつけた
「ちっ、中々やるな…だが、それ位で。」
起き上がったデクスは再び剣を構え、才人に襲い掛かった
才人は相手の攻撃を避けつつ、剣を振るう
「はっ、てやっ!!!」
振り払った剣は受け止められ、再び大剣による攻撃が繰り出される
才人がバックステップで避けると同時に、クラースが魔法を唱える
「バースト!!」
「うおっ!?」
光弾をギリギリでかわすデクス…そこへ再び才人が斬りかかってきた
すんでの所で防御するが、才人の攻撃は続く
徐々に…徐々にだが、クラースと才人の連携によってデクスは押されていく
「く、くそ、俺が押されてる…やっぱまだ本調子じゃないからか?」
「デクス、そんな奴等に押されて…大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、アリスちゃん。アリスちゃんの手を煩わせるまでもないよ。」
後ろで観戦するアリスにそう言うと、向かってくる才人を振り払った
後退する才人とクラースに向かって、デクスは不敵な笑みを浮かべる
「何てったって俺には奥の手があるんだからな。」
「えっ、奥の手!?」
一体どんな手を…そう思う才人に対し、デクスが胸元に手を入れる
クラースも用心する中、デクスは胸元からある物を取り出した
「これぞ、俺の奥の手…愛しいアリスちゃんのブロマイドだ!!!」
高々と掲げた先には、デクスの言う通り後ろの少女が可愛らしく写ったブロマイドがあった
それが奥の手…あまりに予想外な展開に、二人は止まった
そんな二人に構わず、デクスは取り出したブロマイドに見惚れる
「ふっふーん、やっぱりアリスちゃんはこのアングルが一番だな。」
「……バースト。」
「ぐほっ!?」
やがて、クラースが魔法をデクスのアホ面に向けて放った
ブロマイドに見惚れていたデクスは避ける事が出来ず、まともに受けた
「何が奥の手だよ、びっくりさせやがって。」
「ぐぐぐ、不意打ちとは卑怯な…って、ああああっ!!!!!」
デクスが体勢を立て直そうとした時、持っているブロマイドを見て大声を出す
彼が持っていたブロマイドが、先ほどの攻撃で上半分が消失してしまったからだ
「お、俺の…俺のアリスちゃんのブロマイドが…。」
「こんな時に、そんなの見てるからだろ。」
クラースのもっともな意見…それは才人も同意していた
「そんなの…俺のアリスちゃんをそんなのだって?」
だが、そのクラースの言葉でデクスの中の『何か』が切れた
体を震わせ、彼の中に怒りが満ち溢れていく
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
「な、なんだ!?」
突然天井に向かって叫び出し、才人とクラースは驚く
そして叫び声と共に、デクスは大剣を片手に突っ込んできた
慌てて防御する才人だが、今までとは比較にならない重い剣撃だ
「うっ、これは…。」
相手の剣は奇妙な軌跡を生み出しながら、此方を攻撃する
L、O、V、E、と…間違いなければ、そのように見える
これは彼の…デクスのLOVE、つまり『愛』による攻撃だ
それを何とか耐え切った才人だったが…

「ア・リ・ス・ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!!!!!!!!!!!」

デクスの絶叫と共に、彼を中心にエネルギーの渦が巻き起こる
それは才人を、クラースを、寝室のありとあらゆるものを巻き込んでいく
そして、それらは全て吹き飛ばされた

「わ、私の寝室が…私のコレクションが………。」
部屋の隅で自身を治療し、難を逃れたモット伯が目の前の光景に唖然となる
自身の寝室が、見る影も無く変わり果ててしまった事に…
そんな荒れ果ててしまった寝室の中心で、愛を叫んだデクスがいる
「ゼーハー、ゼーハー…ど、どうだい、アリスちゃん?」
少し息切れしながら、デクスはアリスの方を振り向く
俺の勇姿に、アリスちゃんは惚れ直したに違いない…と思っていたが
「デクス……やっぱりあんたキモイ。」
アリスの容赦ない一言が、デクスの胸に突き刺さる
そりゃないぜ、アリスちゃん…と、デクスは悲しさのあまり天を仰いだ
「それに、アンタあいつ等倒せてないし。」
「へっ?」
その言葉にデクスが向こうを見ると、乱雑した本達があった
小山のように積み重なったその中から、クラースと才人が姿を現す
「ぐっ…才人、大丈夫か?」
「く、クラースさん……。」
クラースは才人を抱え、何とか立ち上がる
二人とも無傷ではなく、あの攻撃で手痛いダメージを負っていた
特に才人は傍にいたので怪我が酷く、支えなしでは立てない程である
クラースは道具袋からアップルグミを取り出し、才人の口に入れる
「才人、アップルグミだ…回復を…。」
「そんな悠長に待ってると思うのか!!」
デクスは傷ついた二人に、容赦なく襲い掛かってきた
咄嗟に才人を向こうに突き飛ばし、クラースもデクスの攻撃を避ける
「しぶとい奴等だな…けど、その怪我じゃこれ以上は戦えないだろ。」
「くっ……。」
デクスはクラースをターゲットに、剣を振り回す
回復する間もなく、傷ついた体でクラースは攻撃を回避する
だが、それにも限度があり、回避し損ねて腕や足を剣が掠り、血が流れる
更に散らばっていた家具の残骸に足を引っ掛け、仰向けに倒れてしまう
「しまった…。」
「これでトドメだ!!!」
起き上がろうとするが、力が入らない…そこへデクスが剣を振り上げる
万事休す…その時、デクスの頭に分厚い本がぶつかった
「イテッ!?」
一瞬怯むデクス…その間にクラースは立ち上がってその場から離れた
よく見ると、回復した才人が近くにある物をデクスに投げているのが解った
「クラースさん、こいつは俺が抑えますから…召喚術を!!」
この状況を打破するには、召喚術を使うしかない
才人は傍に落ちていた剣を拾うと、デクスに向かって再び向かっていった
攻撃はすぐに受け止められ、弾かれるが諦めずに戦いを続ける
「才人……解った、すまん。」
ミックスグミを取り出し、口の中に放り込む…体力と精神力が少し回復した
クラースは立ち上がると、契約の指輪を嵌めて本を開き、詠唱に入る
「我が名はクラース・F・レスター…指輪の盟約に従い、この儀式を司りし者なり…。」
嵌めた指輪はガーネット…荒ぶる炎の化身、イフリートを呼び出そうとした
「はっ、てやっ!!」
ロングソードを振るい、才人は必死にデクスに攻撃を仕掛ける
クラースの詠唱が完了するまで、時間稼ぎをする為に
だが、剣を振るう手に力が入らない
「(駄目だ、さっきのせいでまだ体が…。)」
グミで回復したとはいえ、デクスの大技を受けた体は完全に回復していない
ふらふらで、身体が思うように動かない…が、此処で倒れるわけにはいかない
「どうした少年、そんなんで俺は倒せないぞ。」
そんな才人に、デクスは容赦なく反撃してくる
相手の大剣による攻撃で振り回され、更に足を引っ掛けられて床に倒れる
デクスは剣を才人に向かって振り下ろすが、床を転がってそれを避ける
起き上がり様にデクスに切り込むが、その攻撃は軽く受け止められる
「ちょこまかとうっとおしいな…そろそろ倒れろよ。」
「くっ…。」
再び鍔迫り合いになるが、気を抜けばすぐに押し返されそうになる
チラッと後ろを見ると、クラースはまだ詠唱を続けている
「(まだだ、もう少し…もう少し頑張らないと…。)」
両手で剣を握り、自分に残っている全身の力を引き出そうとする
此処で…こんな所で……
「負けて…たまるか!!!」
「何!?」
その時、才人の闘気が急激に上昇した
彼は気付いていないが、使用者の力を一時的に上げる技…剛招来を使ったのだ
渾身の力を込めて、デクスの剣を弾く
「うおっ…こいつ、何処にこんな力が!?」
驚くデクスに対し、才人は次の行動…突きの構えを取った
脳裏に浮かぶのは、あの時リカルドが自分に使った技、瞬迅槍
なら、その剣バージョンは…
「瞬迅剣!!!」
デクスに向かって、鋭い突きを放つ
防御はされたが、その一撃で相手を突き放す事は出来た
「クラースさん!!!」
「ああ、準備は出来た…出でよ、イフリート!!!」
詠唱を完了させたクラースは、イフリートを召喚する
彼等の前に巨大な炎が現れ、それは形となって具現する
炎の化身、イフリートの登場だ
「えっ、精霊!?」
「嘘だろ!?」
イフリートが出現した事にデクスだけでなく、後ろにいるアリスも驚く
クラースは予想が的中したと思いながら、イフリートに指示を出す
「いけ、イフリート!!!」
『承知した!!』
イフリートはクラースの指示に従い、その炎の豪腕を振り上げた
その状態のまま、デクスに向かって突進する
「せ、精霊相手って…此処は避けるしか…。」
向かってくるイフリートの攻撃をかわそうと、デクスは足を動かそうとした
だが、その足が動かない…まるで床に縫い合わされたかのように
動かない足を見ると、自分の足が凍っている事に気付いた
「な、なんじゃこりゃ、俺の脚が凍って…。」
「よくも…私のコレクションを…。」
慌てるデクスの耳に、か細いモット伯の声が聞こえた
見ると、回復中だったモット伯がデクスに向けて杖を構え、魔法を使っていた
モット伯の魔法で身動きが出来ないデクスに、イフリートの強烈なパンチが炸裂する
「ぐほぉわっ!!?」
その一撃をまともに受け、デクスの体は大きく吹き飛ばされた
窓を突き破り、屋敷の外へと吹き飛んだ
「デクス!!」
アリスが慌てて窓に駆け寄ると、地面に横たわるデクスの姿があった
ピクピクと動いている…どうやら、生きているようだ
安堵するアリスだが、そんな彼女に才人は剣を突きつける
「あんた達の負けだ…降参しろ。」
「……残念だけど、そうみたいね。」
そう言うと、アリスは窓に腰掛けて才人達を眺める
才人の後ろには、未だイフリートがおり、此方を見ている
この状況では分が悪い…そう判断しての白旗だった
「デクスを負かすなんてあんた達中々やるじゃない…流石異世界の人ね。」
「えっ、どうして…。」
「だって、あんなのこの世界の人間には出来ない芸当でしょ。それにあんた達からは同じ匂いがするし。」
「やはり、お前達も異世界からの来訪者だったか…。」
クラースはアリスに近寄ると、尋問を始める
「どうやらモット伯が持つ指輪を狙っていたらしいが…何故だ。」
「それは、そういう命令で動いているからよ…珍しいアイテムを取ってくるのが私達の仕事だから。」
その言葉から、彼女達の後ろには組織があるらしい
恐らく、強大なものが…あのディザイアン達とも関係があるかもしれない
「一体誰の命令で動いているんだ?」
「それは言えないわ、アンタ達に教える義理もないし。」
そう答えると、アリスはジッと才人・クラースの両名の顔を見る
「才人くんにクラースくんかしら?あんた達の顔、覚えたから。」
邪悪な笑みを浮かべるアリス、口元の八重歯が輝く
すると、彼女はそのまま後ろに倒れ、窓の外へと落ちてしまった
「お、落ちた!?」
驚いた才人が窓に駆け寄るが、その時何かが視界を通り過ぎていった
よく見ると、小さな鯨のような魔物が空に向かって飛んでいく
その背には、アリスとデクスの姿があった
「今度あった時は今日みたいにはいかないからね。」
捨て台詞を残し、去っていくアリス達…やがて夜の闇へと消えていった
空に逃げられては追う事は出来ない、才人はその場に座り込んだ
「逃げられた…けど、何とかなったな。」
終わった…安心したらどっと疲れが押し寄せてくる
そんな才人の肩に、クラースはポンと手を置いた
「頑張ったな、才人…君が頑張ったからあの二人を撃退する事が出来た。」
「クラースさん…いえ、クラースさんがいたから俺頑張れたんですよ。」
互いを賞賛しあうと、クラースは回復の為にグミを才人に与えた
それを食べる才人、今度はモット伯へと歩み寄る
「モット伯爵、あなたの援護で賊は撃退できた…感謝する。」
「ふん、この傷さえ負っていなければ、私一人で撃退出来たのだ。」
伯爵としてのプライドか、満足に戦えなかった事に苛立つモット伯
クラースは少し休憩しようと、その場に座り込んだ


その後、統率者だったアリス達が撤退した事で、魔物達の攻勢は衰えた

兵士達の活躍によって屋敷内の魔物達は撃退され、屋敷に平穏が戻る

とりあえずは、今回の襲撃事件は終わりを迎える事となった

「これが、召喚されし書物です。」
「うむ。」
その後、屋敷がある程度落ち着きを取り戻した所で場所をモット伯の執務室へ移し、取引が行われた
此処には才人とクラース、シエスタ、モット伯、それにリカルドの姿があった
本を受け取ったモット伯は鍵をあけ、ケースの中から召喚されし書物を取り出す
「おお、これが噂に聞く召喚されし書物か!!」
今回の事で手痛い思いをしたというのに、子どものようにはしゃぐモット伯
念願の本を手に入れ、ページを開いた事で更に喚起する
そんなモット伯の様子を見て、才人とクラースはこそこそと話し出した
「それにしても…召喚されし書物がただのエロ本だったなんて…。」
「ああ、世の中何があるか本当に解らん。」
そう、召喚されし書物の正体は、才人の世界にある只のすけべ本だったのだ
それも、随分と昔の…だが、これで約束は果たしたのは確かだ
「こっちは約束守ったんだからな…シエスタを返して貰うぜ。」
「ああ、構わん…シエスタ、お前はもう学院に帰っていいぞ。」
エロ本を読みながら、モット伯はシエスタに指示を出す
それを聞いたシエスタは喜んで、才人達へと駆け寄る
「ありがとうございます、クラースさん、才人さん。」
「本当、良かったよシエスタ…イテテ。」
感謝の抱擁を受ける才人だが、まだ完全に傷が治ってなかったので痛みも少し訴える
そんな二人を温かく見つめるクラース、やがてモット伯の傍へと歩み寄った
「モット伯…貴方に一つお願いがある。」
「ん、何だ?まだ何かあるのか?」
「貴方が持つ水のアクアマリン…よろしければ譲っていただきたい。」
その言葉に後ろにいた才人とシエスタが驚く
本を読み耽っていたモット伯も、自身の家宝を譲れとの言葉に立ち上がる
「貴様、この我が家の家宝である水のアクアマリンを要求するとは…図々しいにも程があるぞ。」
幾ら彼等が恩人でこの本を持ってきたと言っても、家宝を譲れとは
怒ったモット伯は杖を取り出して、クラースに突きつけようとするが…
「無論、只でとは言わない…私が持つ召喚されし書物と同じ位価値がある本を渡します。」
「何だと、本当か!?」
その言葉にモット伯の気持ちが揺らぐ
クラースが頷くと、彼は一冊の本を胸元から取り出してモット伯に渡した
悩ましい女性のポーズが表紙を飾っている本を、モット伯は開く
「おお、これは…何と、素晴らしい…。」
本の内容は召喚されし書物に勝るとも劣らないものだった…モット伯は食い入るように見つめる
「それだけで足りないと言うのでしたら、もう2冊追加しましょう。」
「な、なんと!?」
そう言って本当に本を二冊取り出し、テーブルの上におく
モット伯は夢中になって、本を読んだ
「うおおおおおおおおおっ、こ、ここここれは……ぶ、ブラボーーーーーーーー!!!!!!!」
興奮のあまり、意味不明な言葉を叫んでしまうモット伯
鼻血が出そうな程興奮している彼の顔を見て、思わず才人とシエスタは一歩下がる
「どうでしょう、この三冊と水のアクアマリン…交換してはいただけませんか?」
「う、うむ、そうだな………よし、その話了承しよう。」
こんな物、ハルケギニアを探し回っても手に入るものではない
交渉は成立し、モット伯は左手に嵌めていた水のアクアマリンを外した
「実はこの指輪は家宝でもなんでもない…以前ラグドリアン湖で拾った物なのだ。」
「そうですか…では遠慮なく。」
真実を聞かされても関係なく、差し出された指輪をモット伯から受け取った
交渉が上手くいき、笑顔でクラースは二人の元へと帰っていく
「よし、これで全部終わった…帰るぞ二人とも。」
「クラースさん…あれ何時も持ってたんですか?」
「ああ、あれは私の秘蔵品だったが…背に腹は代えられんからな。」
すけべ本とピンナップマグを装備できる召喚術師に不可能はなかった
才人は心の中でクラースに「すけべオヤジ」の称号を贈ろうかなと考えた

「そうか、結局あのハスタという男は逃げたのか。」
執務室での交渉後、クラース達はモット伯の厚意で用意された馬車で帰る事となった
一頭の馬に三人も乗れないし、そもそもその馬が今回の騒ぎで逃げ出してしまったからだ
その際、見送りに来たリカルドからハスタの話を聞かされる
「ああ、あと一歩という所でな…相変わらずの逃げっぷりだった。」
「そうか…奴から何か情報を得られなかったか?」
「あんな奴から何かを聞きだせると思うか?」
確かに…あんな奴とまともに話が出来るとは思えない
「何にせよ、次にあったら今度こそ倒す…何度蘇ろうとな。」
「そうか…やはり君は私達と同じ……。」
「クラースさーん、早く行きましょうよ。」
クラースが問いかけようとすると、才人が後ろから呼びかけてくる
才人としては、早く帰って横になって休みたいという思いがあったからだ
「今日はもう遅い…話の続きは、今度あった時にするとしよう。場所は……。」
「ああ、解った…それでは、失礼する。」
リカルドに一礼し、クラースは馬車に乗り込んだ
それを確認した御者が馬に手綱を打ち込み、馬は動き出す
真夜中の学院への短い道を、馬車はゆっくりと進み始めた

………………

「はぁーあ、今日はすげぇ戦いがあったってのに、おれっちの出番は殆ど無かったな。」
ある程度時間が経った頃、馬車の中でデルフリンガーが愚痴をこぼしていた
才人がクラースに自分を返してから、ずっと道具袋の中にいたからだ
「悪いな、お前を使う暇が無かったものでな。」
「おれっちだって武器なんだからよ、こういう時に活躍させてくれよ。」
デルフはクラースに不満をぶつけ、そんな剣にクラースは苦笑する
正面の席に座る才人とシエスタは、肩を寄せ合って眠っている
今回の事で疲れたのだろう、よく眠っている
「まー、よく眠るもんだわ…あれだけ色々あったら当然か。」
「ああ、彼はよくやってくれたよ…本当に。」
クラースは才人を賞賛するが、その反面複雑な思いを抱いていた
それに気付いたデルフが、クラースに問いかける
「ん、どうした相棒?」
「いや、私は彼に危険を冒して欲しくないと思っていたが…今回十分すぎる程彼を危険に晒してしまった。」
一歩間違えれば、あのデクスという賊にやられていたかもしれない
それを考えると、彼を同行させたのは間違いだったとも思えてくる
「まあ、仕方ねぇよ。この坊主は止めたって聞きゃしねぇのは今日の事でよく解った事だし。」
「しかし、これでは保護者としての立場がないんだが…。」
「それに、坊主がいなかったら相棒もやばかった所もあったしな。」
そう、デクスの大技を受けた時も、自分一人では危なかった
才人がいたから勝てた…そのせいもあって、こんなにも歯痒く感じる
思い悩むクラースに、デルフは助言を与える
「相棒、おめぇが坊主の保護者ってんなら、こいつが無茶しないようにちゃんと見てれば良いじゃねぇか。」
「それは十分承知しているが………まあ、それしかないだろうな。」
才人はまだまだ若い…勇気と無謀を履き違え、今後も色々と無茶をやらかすだろう
それが若者の特権というものだから…自分にもそんな時期があったので、よく解る
だからこそ、彼を見守る保護者として自分がいる必要がある
彼を無事に元の世界に返し、親御さんに無事な姿を見せるまで…
「まあ、肝心なのはこれからだな…これから…。」
クラースは疲れからそれ以上の会話を止めて、背を凭れる
揺れる馬車に身を任せながら、クラースは学院に到着するまで休んだ



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