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萌え萌えゼロ大戦(略)-36



 タルブの村に鎮魂の鐘と空砲の音が鳴り響く。
 メンヌヴィル小隊の襲撃は、駐留している銃士隊に大きな被害をもたらした。
駐留五個小隊中二個小隊が壊滅し、他の二個小隊も損耗が激しい。
だが、ほとんどの隊員が初めての実戦、しかも完全な奇襲にもかかわらず
村人の死者は一人もいないという功績がなしえたことは、記録されなければ
ならない。
 しかし、この戦いの記録を知る者は、そこに奇妙な記述があることに
気づくだろう。
 そう。最初の奇襲で居住区を警邏していた第五小隊が自らの命を省みず
村人を守る中、そして休養中だった第四小隊が即時集結して反撃と占拠された
村長の館などの奪還を試みる中、彼女たちを陰から支える異国の軍服に
身を包んだ男たちの姿があった、という記述に――



「やっぱり、掩体壕がなまってそう言われるようになったんだ」
「そう。武雄さんの発音が村のみんなにはそう聞こえちゃったみたいで。
私を含めて誰も正そうとしなかったし~」
 太陽が中天に昇る頃。銃士隊による後片付けもまだ終わらぬうちに、
あかぎとシエスタはルイズたちを『竜の羽衣』が安置されている
『イェンタイ』こと掩体壕に案内していた。
 二つある掩体壕のうち、最初に作られた規模の小さい方は、今は倉庫として
使われているということで、彼女たちがいるのは三十年前に作られたという
大きい方の前。巨大な鉄の防爆扉や人が出入りするサイズの鉄の扉には、
今朝までの戦闘の傷跡が生々しく残っている。とりわけ目立つのが、
ふがくの機関短銃の弾痕だった。
「あっちは大日本帝国式の掩体壕だからそれほど大きくないけれど、
こっちはブリゥショウ中将が監修したドイツ第三帝国式。そもそも格納する
数が違うから、比べてもあまり意味はないかもしれないわね」
「それにしても驚きの連続ですな。我々からは、すでにここまでベトンを
使いこなす技は失われています。劣化防止の『固定化』以外で魔法が
使われていないというのがまだ信じられません」
「私たちの歴史でベトン……コンクリートが使われなくなった時期が
あったのと、同じ理由でしょうね。きっと。でも、あまり吹聴されても
困りますから……」
「分かっていますよ。あ、ははは」
 あかぎの説明に一番聞き入っているのはコルベールだ。
そもそも二千リーブルを超える重さの砲弾の直撃に耐える施設など、
魔法を使ってもそうそうあるものではない。フル装備のあかぎと
さえない風貌のコルベールを見比べて、タバサが神妙な顔をする。
「……信じられない」
「どうしたの、タバサ?」
「今朝とギャップが激しすぎる」
「ああ……でも、そのギャップがいいわ。影のある殿方って、惹かれると
思わない?」
 親友の熱っぽい視線の先に、タバサは再び「信じられない」とつぶやいた。

 あかぎが飾り気のない鉄の鍵で扉を開ける。中は薄暗く、奥に何かあると
いうことがかろうじて分かる程度。コンクリートで固められた床が独特の
靴音を立てる。あかぎは入ってすぐの壁に取り付けられたレバーを上に
引き揚げる。その動作で天井付近にあるトーチカのような形状の明かり窓から
光が差し込み、掩体壕の中を明らかにする。
「それじゃあシエスタちゃん、お願いね」
「はい。いい運動になるんですよね、これ」
 シエスタはそう言うと、掩体壕奥の小部屋に入っていく。前回キュルケたちが
ここを見たときには入らなかった小部屋に、全員が興味を持った。
「三十分ほど待ってもらうことになるけど、いいかしら」
「どういうこと?」
 あかぎのその言葉に、ルイズが問い返した。
「今シエスタちゃんに発電機を回してもらっているの。入り口の防爆扉と
奥の昇降機を動かすのに必要だから」
 そう言って、あかぎは入り口に目を向ける。今入ってきた扉と違い、
とても人の手で開けられそうにない巨大な鉄の扉が、説得力を持って
立ちふさがっていた。
「『ハツデンキ』?それに『ショウコウキ』って……何?この前見せて
もらったあの『竜の羽衣』のほかに、何かあるわけ?」
 キュルケはそう言って掩体壕の中央に鎮座する『竜の羽衣』――濃緑色と
銀色に塗り分けられ、胴体と翼に日の丸が描かれた大型の四発機――を
指さす。がらんとした中にただ一機だけ鎮座するそれは、見方によっては
奇妙にも映る。まだ見たことのないルイズがそれに興味を示した。
「あれが『竜の羽衣』なの?言われてみれば色といい形といいふがくの
翼に似ているけど、知らない人が見たらこれが飛ぶなんて絶対思わないわね。
大きな鳥のおもちゃと思ったりして」
「あたしたちもそう思ったわよ。ふがくを知っているからこそ、
飛ぶんだろうなーって」
「ふがくちゃんにはこれが何か判るわね?」
「ええ。十八試陸上攻撃機『連山』。大日本帝国で開発中だった、
大型爆撃機。完成していたのね」
 ふがくはそう言って『連山』を見る。大日本帝国では実現が難しかった
陸上四発機。それが完璧に整備された状態でたたずんでいた。
「そう。武内少将と加藤中佐がこれに乗ってこの村に来たのよ。三十年前にね。
 …………で、普通はこれを見せただけでお仕舞い、ってなるのよね~。
 ふがくちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
 あかぎはそう言ってふがくを掩体壕の奥に連れて行く。そこにはワインを
詰める木箱が山積みされており、あかぎとふがくは手分けしてそれを
除いていった。
「これ、全部空箱?」
「擬装のためのものだから~。さあ、ちゃちゃっと横に片付けちゃいましょう」
 ルイズたちはあかぎとふがくが大量の木箱を片付ける様子を、真剣に
見つけている。そうして全部片付けたとき、ふがくが驚きの声を上げた。
「……なんで、こんなものがここに……?」
 それは黄色で描かれた、いわゆる表示帯だった。横十六メイル、
縦十三メイルの角を丸められた長方形を縁取るそれに、ふがくは驚きを
隠せなかった。
 そこに、シエスタが汗をタオルで拭きながらやってくる。
「あかぎおばあちゃん、準備できました」
 上気したシエスタの頭を優しくなでながら、あかぎはルイズたちに
向き直った。その表情はそれまでと違い、真剣そのもの。ルイズたちには、
あかぎの左腕の盾に配置された高角砲群が鈍く光ったように見えた。
何故彼女がフル装備でここにいるのか、その理由が分かった気がする。
「さて、ここから先は本来部外者立ち入り禁止。特に外国の方には防諜上の
理由で本当ならここに昇降機があることすら知らせたくはありません」
「あかぎおばあちゃん?」
 シエスタが驚きの声を上げる。
「今はなきフィリップ三世陛下やヘンリー陛下。それにマリアンヌ太后陛下と
アンリエッタ姫殿下、タルブ領主アストン伯爵閣下の許可が必要なのよ。
本当はね」
 挙げられた面々にルイズたちは思わず息をのむ。その様子をひとしきり
眺めた後、あかぎは相好を崩す。
「で・も~、今回はと・く・べ・つ・に、お見せしちゃいま~す。
もし咎められたら『あかぎが許可した』って言えばいいことだから~。
ささ、みなさ~ん、こっちに集まって~」
「な……び、びっくりさせないでよね、まったく」
 胸をなで下ろしたルイズを先頭に、手を振るあかぎがいるところに
集まる。何が起こるのかと思っていれば、シエスタが表示帯の角の一つに
跪き、隠された蓋を開けて中にある赤青のボタンのうち、赤いボタンを押す。
すると小さく揺れたかと思うと、チン……チン……と軽快な音とともに
ゆっくりと床が沈み始めた。
「何?何?」
 慌ててふがくにしがみつくルイズ。タバサも驚きながらも表情には
出さず、床とすれ違って上がっていく錘に目を奪われた。
 時間にして一分ちょっと。真っ暗闇に特殊な塗料で描かれた足下の
表示帯だけが淡く光る中に昇降機が降り立っても、ルイズたちは動けずに
いた。
「これは……」
 驚くコルベールに、あかぎが答える。
「これが昇降機。私の飛行甲板に付いているものと構造は同じね。
 私が模型を組み立てて、それを参考に設計図を起こして職人さんたちに
作ってもらったの。部品ごとに発注したから、これの全体像を知っているのは、
組み立てた私とルリちゃん、それに職人さんたちを手配していただいた
フィリップ三世陛下だけね。
 表示帯の蓄光塗料は私の持ち合わせ。さすがにこれはこっちじゃ再現
できなかったわ」
「確かに……これだけのものは『錬金』では出せませんが……しかし……」
 絶句するコルベール。『土』メイジであるギーシュなど、自分など
足下にも及ばない高度な技術にさっきから声も出せない。モンモランシーも
未知なるものと暗闇の恐怖からか、先程まで自分を助けなかったと
けんもほろろだったギーシュにしがみついたままだった。
 あかぎはそんな様子を楽しむように眺めた後、まるで見えるかのように
壁に向かって歩き、ぱちんと音を立ててスイッチを動かす。天井に設置された
明かりが灯り、そこにあるものに、ルイズたちは驚きのあまり声も出せなかった。

「……何……これ。これ、全部『竜の羽衣』なの?それにこの明かりは
ランプとも違う……?」
「電球ね。こっちでも作れたんだ……」
 ルイズとふがくのつぶやきに、あかぎが答えた。
「タングステンなんて手に入らないから、サハラのオアシスに自生している
竹をエルフの統領様とお話しして分けてもらったの。不活性ガスも簡単に
手に入らないからエジソン式の電球よ。球自体はランプ職人さんの手作りね。
 不活性ガスはルリちゃんに空気を『錬金』して窒素ガスを抽出して
もらおうとしたけれど、うまくいかなくて諦めたの」
「でも、こんなのここ以外で見たことないわ。……まさか、その職人って……」
 ルイズの問いかけにあかぎは笑みを浮かべるだけ。それですべてを
悟ったキュルケがあきれるように言う。
「……この村がワインと秘薬の村なんて、とんだカムフラージュね。
魔法衛士隊や銃士隊が駐屯する本当の理由が分かった気がするわ」
「いいの?わたしたちはこの国の人間じゃない」
 タバサの言葉にあかぎは笑顔で即答する。
「ひ孫が信頼する人たちですもの。それに、私にもあなたたちが悪い
人間だとは見えないわね。誰にも話さないって信じてるから」
 その言葉がタバサには痛かった。そんな心情を知らないルイズは、
シエスタを連れて『竜の羽衣』を見て回る。

 地上にあった『竜の羽衣』――『連山』とは異なり、ここに安置されている
四機はすべて単発機だった。ちょっとしたホールのような広い空間に
並べられ、昇降機に機首を向けたそれらの機体形状はすべて異なり、
特に奇抜な色で塗られたものはルイズの興味を強く引いた。
「ほかのは全部灰色とか緑とかの地味な色だけど、これだけ真っ赤ね」
「モモ隊長……モモヤマ飛曹長の『シデンカイ』ですね。どうして
こんな色に塗っているのか詳しい理由は聞けませんでしたが、いつも
『オレは誰かを守るために生かされている』って言って、その通りに
行動する人でした。
 あ、『モモ隊長』っていうのは、私が教えを請う時にそう呼べって
言われていたんです。名前のヨウジ先生って呼ぼうとしたら怒られて。
でも、半年前、暴走した貴族の馬車から子供を守って……」
「ふうん。シエスタの先生だった人か……会ってみたかったわね。
あっちの灰色のは?」
「あれはブリゥショウ中将の『グスタフ』です。…………」
 シエスタの説明を熱心に聞くルイズをほほえましく見ながら、あかぎは
コルベールたちを濃緑色に塗られた別の機体の前に案内していた。
黒く塗られたエンジンカウルに書かれた真っ白い『辰』の文字が、
それを読めないコルベールたちには神秘的に感じられる。
「これだけ椅子が二つあるわね。二人乗りってこと?」
 キュルケの問いかけに、あかぎは懐かしむように答える。
「これは複座零戦。一人乗りの零戦をラバウル基地で二人乗りに改造
したもので、武雄さん……佐々木少尉と、水島整備兵長が乗っていた
機体よ。これだけが六十年前からこの村にあるのよ」
「なるほど。『レイセン』というのがこの『竜の羽衣』の名前で、
二人乗りだから複座、ということですか。上にあった『レンザン』も
そうですが、名前の付け方が神秘的な響きですな。
 ところで、どうして士官と整備兵長が同じ機体に?あなたたちの国では、
整備兵も前線に出るのですか?」
 従軍経験のあるコルベールの問いかけに、あかぎの表情が曇る。
それから躊躇う様子で、静かに語り始めた。
「機上整備員って言って、搭乗員と一緒に乗り込んで作戦行動中の故障や
被弾の修理をするのが建前。でも、実際には搭乗員と一緒にそのまま
敵艦に体当たりすることになったそうよ」
 コルベールは言葉を失う。キュルケは理解できないと言わんばかりに
あかぎに問う。
「敵艦に体当たりって……それじゃこれは空飛ぶ棺桶だったってこと?
特に機上整備員って……あたしの国じゃ、そういうのは無駄死にって
いうのよ!」
 キュルケの剣幕を聞きつけたルイズたちも複座零戦の前に集まってくる。
二人が目の前に来るのを待って、あかぎは言葉を継いだ。
「最初からその目的のために造られたとしたら、そんな不幸なことは
ないわね。
 私がミッドウェイで沈んで、その後に行われたことだから、武雄さんたちに
聞いた以上のことは知らないのだけれど、『特別攻撃』として行われた
その一度きりだけだったはずが、敗色濃厚になって常態化したそうよ。
武雄さんと水島整備兵長も、ラバウル基地が敵の攻撃で孤立化した後、
ある参謀の命令でレイテ島奪回の大作戦を行う聯合艦隊を支援するために
死んでこいって言われたそうよ。いくら零戦が航続距離が長いからって、
届くわけもないのに。
 精神論の空砲で敵は倒せないって、開戦前から私はそう言い続けてきた
けれど、精神論を声高に唱えて拳を振り上げる人で実際にそれに参加した人は
ほとんどいなかったって。私が副官を務めていた司令官殿は、決戦の時に
志願して部隊を率いたそうだけれど、それは例外だったみたい。
 ……けれど、経緯はどうあれ実際に敵艦に突入した人たちは、みんな
祖国を守りたいから、愛する人たちを守りたいからって思っていたはずよ。
きっとね」
「だけど、それって悲しすぎるわ。死んだら、もう何も守れなくなるじゃない」
「ルイズ……」
 悲しげに語るあかぎの言葉に、ウェールズ皇太子を思い出しぽつりと
漏らすルイズ。ふがくはそんな彼女にかける言葉が見つからなかった。
あかぎはそんなルイズを見て、寂しげに、そして慈しむように言った。
「確かに、そうかもしれないわね」
 あかぎの言葉に空気が沈む。それを破ったのは、佐々木少尉たちの
愛機の横に安置されている機体の向きを奇妙に感じたタバサだった。
「……あの『竜の羽衣』だけ、反対向きに置かれている」
 タバサが指さした先には、プロペラが後ろにある、やけに脚が長い
『竜の羽衣』があった。尾翼が前、主翼が後ろにあるため、確かにこれだけ
前後逆に安置されているようにも見える。他の機体と異なりコルベールの
背丈よりも高い位置にある操縦席に乗り込むために、はしごがかけられていた。
あかぎはゆっくりと首を振り、タバサの言葉を否定する。
「あれで向きは間違っていないわ。あれはエンテ式の航空機で、
『震電』。ここだとカナール式って言う方が通じるかしらね。
 三十年前に白田技術大尉が乗ってきた機体で……そうね、ここにある中で
高高度を全速で飛ぶふがくちゃんを撃墜できる可能性が一番高い機体かしら。
桃山飛曹長の紫電改や武雄さんの零戦だと高高度はちょっと厳しいし、
ブリゥショウ中将のFw190G『グスタフ』は地上攻撃用の戦闘爆撃機だから」
 あかぎのその言葉にあかぎとふがく以外の全員が目を丸くした。
その中で最も早く現実に戻ったのは、誰の手も借りずに独学で初歩的な
レシプロエンジンを完成させた、コルベールだった。
「……なるほど。『エンテ』はゲルマニアの、『カナール』はトリステインや
ガリアの古語でどちらも『鴨』を意味します。『シンデン』でしたか、
この優美な『竜の羽衣』にふさわしい名前ですな。シラタ技術大尉には、
個人的に一度お話を伺ってみたい。
 ところで、これらの『竜の羽衣』はまだ飛べるのですか?」
 コルベールの問いかけに、あかぎは首を振った。
「空母型鋼の乙女の私が行った整備は完璧だし、ルリちゃんに『固定化』を
かけてもらっているから機体そのものは問題ありません。けれど、彼らは
もういないの。武雄さんが五年前に死んで、最後に残っていた桃山飛曹長も、
シエスタちゃんの話だと半年前に亡くなったそうだから」
 コルベールは、その言葉に三十年という時間の長さを思い知る。
キュルケも小さく肩を落とした。
「あたしたちの最初の目的は『竜の羽衣』を譲ってもらうことだったけど、
こんな風に隠してあるんじゃねぇ……上にある『レンザン』は大きすぎるし」
「そうね。その要求にはお応えできかねます。
 さて、これで『竜の羽衣』のお披露目はお仕舞い。ここで見たことは
あなたたちの胸の内だけにしまっておいてね。今朝の一件から解るように
そう簡単には制圧や強奪はできないでしょうけど、私はあなたたちに
砲口を向けたくないから。
 それから、ふがくちゃんはもう一晩この村に泊まって行きなさい。
整備してあげる」
 あかぎはそう言って見学を終了させる。傭兵メイジを消し飛ばした
あかぎの主砲の威力を彼らは見ていない。それでも、ふがくの機関短銃より
遙かに威力が高いと思われるあかぎの装備は、笑顔の裏で彼らに言外の
プレッシャーを感じさせていた。
 ルイズはあかぎの言葉を聞いて、コルベールを見る。自分たちが
ここに来たのはタバサの助命のためだ。あまり長居をしていいものでも
ない。
 コルベールはルイズの視線に気づくと、彼女が言葉を発する前に
こう言った。
「わたしたちが馬で学院に戻るより、ふがく君が飛んで帰る方が遙かに早い。
せっかくの機会だから、お言葉に甘えなさい。わたしたちが先に学院に
着いたら、わたしから学院長に話をしておこう」


 そうして。コルベールたちを見送ったルイズたちは、シエスタとともに
彼女の家にいた。なお、タバサは実家に戻る途中だったので、彼女の
使い魔である風竜シルフィードに乗ってコルベールたちとは逆の方向に
飛んでいった。飛び立つときにシルフィードの機嫌が悪いように見えたのは、
たぶん気のせいだろう。
 ルイズとふがくは、あかぎが手料理を振る舞ってくれるということで
食堂のテーブルについている。シエスタはあかぎを手伝うために台所へ。
シエスタの家族は今朝の後片付けに出かけており、家には彼女たちしか
いなかった。
「いったいどんな料理なのかしらね?『ヨーショク』って」
「一銭洋食って言ってね、あかぎの生まれた帝国海軍の拠点、日本一の
工廠都市呉でよく食べられていた料理よ。水で溶いた小麦粉を焼いて、
その上にうどん……小麦粉で作った麺と肉とたっぷりの刻みネギを乗せて
焼くの。それが焼けたらひっくり返して鉄板に割った卵の上に乗せて、
いい感じに焼き上がったらもう一度ひっくり返して半分に折って、
ソースを塗って食べるのよ」
「へぇ。なんか、すごい料理ね。そんな食材使ってたら平民じゃ口に
できなかったでしょう?」
 ルイズは興味深そうな顔で台所に視線を送る。言われたふがくは一瞬
何のことか理解できなかったが、ああそうか、と思い立った。

(こっちじゃ卵もさらさらの真っ白い小麦粉も、庶民の口にはなかなか
入らなかったっけ……日本じゃ庶民の味なんだけどね)

 食堂でそんなほほえましい会話が行われている頃、台所ではシエスタが
真剣な表情で鉄板と格闘していた。
「えいっ!」
 気合い一閃。鉄のへらで鉄板から浮き上がった一銭洋食が綺麗に裏返る。
シエスタはへらを握りしめたまま感極まった表情であかぎに向き直った。
「あかぎおばあちゃん!わたしにもできたよ!」
「ええ。うまいわ~シエスタちゃん。五年前はすごかったものね~」
 そう言ってあかぎは思い出す。一銭洋食はひっくり返すのに失敗すると
大惨事になる。小さい頃からおやつに食べていたシエスタは見よう見まねで
幾度となく挑戦し……結果は推して知るべしであった。
なお『ヨシェナヴェ』と違って『ヨーショク』がタルブ名物にならなかったのも、
貴族向けの上質の小麦粉を使ったりと食材が高い上にうまくひっくり返せないと
いう『事故』が多発したためだった。
「ジェシカちゃんはうまかったのよね~。大きくなったでしょうし、
今は魅惑の妖精亭の看板娘でしょうね、きっと」
 あかぎは懐かしそうに思い出す。ちなみにシエスタの母方の従妹で
あるジェシカがあかぎにせがんで覚えた一銭洋食はそのまま『ヨーショク』として、
事前予約なしでは食べられない、魅惑の妖精亭の知る人ぞ知る
高級裏メニューになっていることは、余談である。
「……ごめんなさいね。せっかく帰ってきたのに」
「え?」
 突然のあかぎの言葉に頭に『?』を浮かべるシエスタ。しかしその
理由に思い当たると、隣のあかぎにだけ聞こえるように言った。
「仕方ないです。貴族の皆様がいらっしゃるのに、『竜の羽衣』に
乗れることを知られたくないし。でも、補助発電機に乗るのも
いい運動になったし、全然気にしてないから」
「それならよかったわ。それに、基礎訓練も欠かしていないみたいだし。
 でも、まさか水飴製造所の水車の一部が水力発電機で、掩体壕の動力も
本来はそこから取っている――このことに思い当たる人なんてそうそう
いないわ。それを知っているのは私たち以外ではトリステイン王家と
ごく一部の方々だけで十分。本当は水飴製造所も全部電化したいところ
だけど、出力が足りないから仕方ないわね」
 あかぎは嘆息する。

 これこそが、タルブの村最大の秘密。海軍士官である前に飴屋の
三男坊だった武雄と鋼の乙女であるあかぎは、『土』のトライアングル
メイジであるルーリーとともにこの地で『ミジュアメ』と呼ばれる水飴を
製造、献上し、その利益で村に大規模な治水工事などを行ったが、
それらはあかぎが武雄やルーリーたち、自分を愛する者たちの生活が
苦しくならないようにするためだった。それは時を経て変貌したものの、
三十年前のある事件をきっかけにトリステイン王家の利害と一致し、
その秘密はより強固に守られていく。
 今回はシエスタの頼みもあって大幅に手の内を明かしはしたものの、
巧みな誘導と即応性がないと見せかけることで、秘密の根幹はその片鱗すら
垣間見せることはなかったのである。

「さて、料理もできたし、シエスタちゃんの新しいご主人様に食べて
もらいましょうね~」
 あかぎのその言葉に、シエスタは赤面した。
「そんな、ご、ご主人様って」
「あら、いいじゃない。私から見ても、いい娘だと思うわよ。素直じゃ
なさそうなところも、あの娘にそっくり」
 血のつながらないひ孫娘のシエスタをいじりながら、あかぎは一銭洋食が
載せられた皿をテーブルに運ぶ。
 目の前に並べられた『ヨーショク』にルイズがご満悦になるのは、
それからすぐのことだった。



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