あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-20


 雑談に見せかけた査問。ワルドとの会話を、マチルダはいつもそう感じている。
 今もそうだ。任務の確認に続く雑談で、ワルドはティファニアの話題を持ち出しているのだ。

「そうだね。あの子は虚無かも知れない」

 しばらくの逡巡の後、マチルダはワルドの言葉を認めた。
 否定しても始まらない。いや、否定すれば、否定を許さない証拠をワルドは目の前に出そうとするだろう。
 それは避けなければならない。

「まともな魔法は使えないよ。ああ、確かに。それに関してはヴァリエールの小娘と一緒だね」

 相手の望んでいるであろう答えを返す。それが出来ている限り、自分は疑われない。
 策を講じる者には、策が当たっているのかそれとも当たっていると思わされているのか、見分けを付けることなど出来ない。
 だから、当たっていると思わせる。そうすべきだとも忠告されている。

「ただ、ちょっとね」

 そしてほんの少しだけ、相手の疑念をかき立てる。ワルドのような相手では、策が通じきっていると思わせるのも危うい。何処かで策の破れている箇所を示さなければならない。
 それこそが、策の成功している証拠なのだから。
 このタイプの人間は完璧な成功など信じない。破綻し、繕ってこその成功だと考えているだろう。

「知っての通り、あの子はハーフエルフ。系統魔法もコモンマジックもまともには使えない子だけれど、先住魔法は少しばかり使えるってわけだよ」

 ティファニアは虚無魔法を使うことが出来る。
 しかしワルドは、ティファニアが始祖の秘宝を目にする機会があったわけなどないと思いこみ、それ故に虚無には目覚めていないと判断している。
 実際には、財務監督官であったティファニアの父が秘宝の一部を屋敷に置いていたのだ。その中に、始祖のオルゴールはあった。そしてティファニアは、そのオルゴールと同じように置かれていた指輪により、偶然とはいえ虚無の力に目覚めていたのだ。
 秘宝がそのように、ある意味ぞんざいに扱われていたなど、直接の血族たちですら知っているかどうかの話題だ。マチルダ自身とて、直接虚無魔法を見て、ティファニアに顛末を聞かなければ知らずにいただろう。
 マチルダは、出来うる限り虚無を隠匿すると決めていた。そしてそれを後押しもされている。
 ワルドが虚無魔法を何らかの理由で警戒しているのは確かだ。少なくとも、自分の邪魔になるものだと認識している。だからこそ、ルイズを手中に収めようとし、それが不可能ならば不具にしてでもその身柄を拘束しようとした。
 虚無を殺してはならない。とワルドは考えているらしい。
 理由はわからない。わからないが、ワルドはそのように行動している。
 ルイズを殺さないのではなく、虚無を殺さないのだ。
 虚無はアルビオン、トリステイン、ロマリア、ガリアに生まれると言う。
 ならば、ルイズを殺せば次の虚無が生まれるのか。そう考えれば、ワルドがルイズを殺さなかった理由は想像できる。虚無をルイズに固定するためだ。
 そして、アルビオンの虚無は現在ワルドにとっては不明である。
 最大候補は今のところティファニアだろうが、他に王の血筋がいないとは言い切れない。貴族王族の落とし種など、珍しくもない。
 しかし、このままティファニアの正体を隠し続けることが容易に可能だとは、さすがにマチルダも考えてはいない。時間の問題だろうということもわかる。そして隠しきれなくなったとき、自分の裏切りも露見するのだ。
 打てる手は全て打つ。マチルダはそう考えていた。

「その子が虚無に目覚めるのなら、諸手をあげて出迎えたいくらいだよ」
「目覚めるには、始祖の秘宝とやらがいるんだろう? アルビオンに伝わってたそれは、今やトリステインさ。どうしようもないね」
「その通りだ。しかし、虚無に目覚める可能性のある者をむざと見逃すつもりもない」
「それもわかってる。覚悟はしているよ。忠告してくれるなら、恩の字さ」

 この男に、エルフへの禁忌はない。あるのはただの、未知への好奇心だけだ。あるいは、未知への警戒心か。
 どちらにしろ、そこに恐怖心はない。
 ゆえに、この男は恐ろしい。
 だが、引き返すことはできない。自分のやったことが知られれば、間違いなく背信と受け取られるだろう。
 ティファニアが虚無使いであることを隠し、あろう事か使い魔まで喚びだしているのだ。
 今のマチルダは、密偵として各地を飛び回っている事が多い。その中でも暇を見つけて、ウェストウッドを訪れることもある。
 それも限界が近づいているとマチルダは感じていた。そもそも、無理があるのだ。ワルドは最初からウェストウッドのことを知っている。当然、何らかの監視は付けているだろう。
 逆に考えれば、マチルダがティファニアを気にするのは当たり前だからこそ、ワルドはそれを見逃していると考えることも出来るのだ。
 だからマチルダはティファニアを焚きつけた。使い魔を喚べと。
 彼女を守るに足る使い魔を喚び出すことが出来れば、マチルダは動きやすくなる。ワルドの手から抜け出すことも不可能ではないかも知れないのだ。
 そしてティファニアは使い魔を召喚した。
 そこに現れた少女の姿にマチルダは息を呑み、慌てて姿を隠す。
 何故? 何故、ここに学院のメイドが?
 しかも、よりによってあのルイズに一番近かったメイドではないか。そして、彼女が跨っているのはザボーガーのようなもの。
 飛び出したいのを堪え、マチルダはその様子を見続ける。覚えている限り、シエスタは乱暴な性格ではない。この状態とは言え、ティファニアに危害を加えるとは思えない。
 案の定、二人のやりとりは平和なものとなったようだ。
 マチルダは息をつき、二人の元へ姿を見せようと一歩動く。その瞬間、振り向いて杖を構え……
 マチルダの杖は弾かれ、地に落ちた。

「無駄なことはやめなさい。フーケ、それともロングビル? ここではマチルダの方が良いかしら?」

 貴様、と言いかけたマチルダは、目の前の姿に絶句する。
 そこには、一人の騎士の姿があった。
 かつて、烈風カリンと呼ばれた騎士の姿が。



 そしてカリンは今、ティファニアとシエスタの関係のみをルイズたちに告げていた。
 シエスタに刻まれたルーンはヴィンダールヴ。
 これでトリステインに虚無の使い魔が二人揃ったことになる。
 何故カリーヌがシエスタの存在を知ることが出来たのか、その問いにカリーヌは口を噤む。

「いずれお伝えします。しかし、今はどうかお許しください」

 言葉の内容とは裏腹に、それは依願ではなく事実上の命令だった。
 どちらにしろ、烈風カリンに強制できる者などトリステインにはいない。彼女が否と言えばそれは覆せないのだ。

「虚無は合計で四人でしたな」

 マザリーニが話題を換えた。
 虚無は四人。一人はルイズ。一人はティファニア。
 では、残る二人は。

「烈風殿はアルビオンからその娘を連れてきたと。ならばその主たる虚無はアルビオン王家の血を引く者」

 それは疑問ではなく断定。
 王家の血を引く者が市井にいる。それ自体は充分にあり得ることだ。
 そして、虚無の条件が始祖の血筋ならば、のこるはロマリアとガリア。ガリア王家と言えば無能王。ガリア王が魔法を使えぬ事は有名であった。
 そう、まるで、ルイズがゼロと呼ばれていたかのように。

「ガリア王自身が虚無……?」
「おそらくは」
「ならば、ロマリアは」

 アンリエッタに問われたマザリーニが記憶を探るように顔をしかめた時、突如兵士達の騒ぎが聞こえる。
 アニエスが確認しようと動き出すと同時に、銃士隊の一人が駆け込んでくる。

「何がありました?」
「迷い龍が周辺で発見されたとのことです」
「龍? 被害はどうなっています?」
「それが、見失ったと」
「それでは、去ったのですか?」
「未確認のままで、警戒は続いています」

 龍が忽然と消えるわけはない。見失うような大きさでもないだろう。
 そこへ別の銃士が。

「ミス・ヴァリエールに面会をしたいという者が来ております」

 ルイズが尋ねるより早く、カリーヌが告げる。

「ツェルプストー、グラモン、モンモランシ、加えてもう一人ではありませんか?」
「母さま?」

 ルイズには取り合わず、今度はカリーヌはアンリエッタへと目を向ける。

「お許しいただけるならば、四名をここに」
「説明は、しますね?」
「勿論です」

 はたして、銃士に先導されて来たのはキュルケ、ギーシュ、モンモランシー。そしてタバサとよく似た髪の色の、初めて見る少女である。
 アンリエッタの姿に、慌てて膝をつくギーシュとモンモランシー。そしてやや遅れて、これは儀礼的にキュルケ。
 一人残ってきょとんとしている少女を、モンモランシーが慌てて跪かせる。

「何があったのです?」

 直接に問うアンリエッタだが、ギーシュたちは王宮へと来たものの、さすがに姫本人にすぐさま目通りできるとは思っていなかった。そのため、話すべきかどうかの判断に迷う。
 もともとは、ルイズ一人に話す予定だったのだから。
 救いを求めてやってきた少女の正体が風韻竜シルフィードであること。
 タバサが拉致された場所がガリアであること。
 拉致したのは、風韻竜すら恐れる存在、三ッ首竜と呼ばれるものであること。
 どれ一つとっても、気軽に話せる内容ではない。

「話しなさい」

 カリーヌの言葉にギーシュは躊躇い、首を振る。

「ならば私から話しましょうか?」

 そこでカリーヌは、視線をずらす。
 シルフィードへと。

「どうします? イルククゥ」
「どうして!? どうしてシルフィの名前を知ってるのね」
「それは後ほどわかるでしょう。しかし、貴方達が来た理由を私は知っています。貴方達自身が話すか、私が話すか、それを貴方達が決めなさい」

 キュルケが立ち上がる。
 彼女にとって、トリステインの誰が相手であろうと関係ない。礼儀は守るが、盲目的に無条件で相手を敬うつもりもさらさら無い。
 筋が通るならば、相手が平民であろうと従おう。通らないと思えば、王家であろうと逆らう。それがツェルプストー、いや、キュルケのやり方。

「その前に、貴女が知っている理由を、お聞かせ願えますか?」

 ギーシュとモンモランシーが驚いたようにキュルケを見る。
 カリーヌは笑った。それは、キュルケを認めるような笑み。
 立場が逆ならば、言い方こそ違えど自分もそうするだろうとカリーヌは認めていた。

「ルイズ。そのマシンホークをよく見なさい。見覚えがあるはずです」

 ルイズは素直に従う。
 ザボーガーの好敵手でもあったマシンホークだ。ザボーガーの記憶を覗いたルイズに見覚えがあるのは当然だろう。
 だが、しかし。
 ルイズは気付いた。
 マシンホークがタルブに現れたのはシエスタのおじいさんの代。そして、ザボーガーがルイズの前に現れたのはつい最近。
 ホークとザボーガーが争っていた頃から、ザボーガーがハルケギニアに現れるまで、数年と経っていないのだ。
 それを、ルイズは室内の者に告げる。

「サモンサーヴァントが異世界に通じたのは虚無の力故でしょうか? ならば、同時に時間を超えることは不可能ですか?」

 不可能、と言える者は室内にはいない。そもそも、状況証拠だけを見れば可能という結論しか出ないではないか。

「ルイズ、貴方はいずれザボーガーを元の世界に帰さなければならない。そのとき、ザボーガーが自分の来た時代より前に帰ったとしたら?」

 シエスタが突然カリーヌを見上げた。

「……タルブを救った騎士様に、お爺ちゃんは何かを託したと聞きました。まさか……」
「ザボーガーは私がタルブでホークに出会うことを知っていた。だから、ホークに手紙を託していた」

 つまり、

「全て知っていた、ということですか」

 鼻白んだようにキュルケは言う。

「ザボーガーが召喚されることも、アルビオンの動乱も、タバサがいなくなることも!」

 並みの男なら気押されるような烈火のごとく熾った瞳を、カリーヌは涼しげに受け止める。

「知っていました。しかし、一つ歯車が狂えばどのような結末になるかは予測できません。託された言葉に従うしかなかったのです」

 悩んだ。とは言わない。現在見える結果だけをカリーヌは告げていた。
 理屈ではその通りだ。そしてその結果が今。それは覆しようのない事実だ。
 マザリーニはそう理解している。そしてアンリエッタも。
 それでも、理解と了承は別だ。
 カリーヌの冷たい眼差しを、キュルケは真っ向から受け止めている。
 ギーシュとモンモランシー、そしてルイズは慌てて両者の間に入った。するとキュルケは、唐突に言葉のトーンを下げる。

「理屈では理解できますわ。だけど、私には真似できないでしょうね」
「素早い理解に感謝します。伊達にヴァリエールと競ってはいませんね」
「娘さんには、連勝させてもらっていますわ」

 なに? とまなじりを上げるルイズ。
 それをキュルケはあっさりと無視。

「ですが、私の親友をそのまま見殺しにするおつもりなら、それなりの覚悟を決めていただきますわ」
「元より、娘の友人を救わぬなど言語道断」

 烈風カリンとして、カリーヌはタルブを救ったことがある。

「俺にホークを預けてくれた博士からだ。烈風と名乗る者がいたら渡してくれと言われたが、まさか本当に出会うとはな」

 そこで共に戦った秋月玄から託されたのは、キャベツのように幾層にもくるまれた紙の塊だった。
 一番外側にはしっかりと「烈風カリンへ」と書かれている。
 そして、その下にはかなり崩されてはいるが辛うじてギリギリ読める文字で「カリーヌならば、一層を剥がしなさい」と。
 自分の正体を知っている者がいる。
 カリーヌは慌てず、一層を剥がした。

「貴女が夫を得たとき、一層を剥がしなさい」
「貴女が娘を得、名前を付けた後に、一層を剥がしなさい」
「貴女が二人目の娘を得、名前を付けた後に、一層を剥がしなさい」
「貴女が三人目の娘を得、名前を付けた後に、一層を剥がしなさい」

 カリーヌはそれぞれを、指示された時期に従って剥がした。
 それぞれに書かれていた答えは、

「ヴァリエール」
「エレオノール」
「カトレア」
「ルイズ」

 最初の一層は酔狂で、しかし二層目からは恐れと期待で。
 そして気付いた。これは自分の筆跡。それも烈風カリンとしてではなく、夫を得、娘を得、公爵夫人として落ち着いた自分の筆跡。
 手段はわからないが、これは未来の自分から過去の自分へと宛てた手紙。
 ルイズが産まれた後、伝えられる内容は詳細になっていった。
 しかし、その殆どが起こるべき事を傍観せよと書かれている。
 カリーヌは何も出来ぬ自分を嘆いた。娘が命を懸けているときに何も出来ない自分を嘆いた。
 だが、それももう終わる。
 後少しで、塊は無くなる。そこからは、未知が待っているのだろう。

「ルイズ」

 カリーヌは、伝えられた最後の指示を果たすため、娘を呼ぶ。

「デルフリンガーを借りますよ」 





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