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虚無と最後の希望 Level26



level26「遭遇」


『……以上がレッドチームとODST中隊の任務です。 基本大気の心配はありませんが、念を入れて艦外活動と同等の完全与圧で出動してください』

 艦内のブリーフィングルームにて、スパルタン三名からなるレッドチームと各ODST中隊長と副中隊長、そしてそれを纏める大隊長に選ばれた十人がブリーフィングを受けていた。

「了解、ターゲットのイメージはないのか?」

 その中で大隊長を任されたトーマス・ミラー少佐がセリーナへと情報を求める。

『指定ターゲットのイメージを転送します、犬頭と豚頭ですね』

 それに応じて、セリーナは立体映像投影機に映像を転送。
 形成された三次元の異形を見て声を上げる。

「……まじかよ、何だこの怪物。 エリートやブルートのほうが可愛げあるぜ」
「エリートやブルートの方が可愛げがある? 冗談はよせ、似たり寄ったりの化け物だろ」
「コヴナントの新しい種族か?」

 ODST隊員が驚きの声を上げるが、対照的にレッドチームは無言を通す。
 その中で黒のチタンナノコンポジットボディスーツの上に、緑色に塗装されたチタン合金外殻を装備したニメートルを超える人間。
 ゴールドのバイザーのヘルメット頭頂部から縦一線に赤い塗装、右胸の装甲にも斜めに赤い一線を施された、レッドチームのリーダーを示すスパルタン。
 ジェローム S-092が青白いホログラムのセリーナを見ながら口を開いた。

「装備の使用制限は?」
「使用許可が出ているのはM6C/SOCOMとM7S短機関銃です、それと捕獲用に睡眠弾ですね」

 その返答にトーマスが眉を顰め、セリーナに疑問を返した。

「こんな未開の惑星でサプレッサー付きのハンドガンとサブマシンガンのみってのは何か理由があるのか?」
「銃声は響きます、原生生物ならまだしもこの惑星上の人類に感付かれるのは得策ではないと判断されています。 それに誰もその他の火器を携行してはいけないとは言っていませんよ」
「なるほど」

 セリーナが再度情報を送り、サプレッサーが付いているハンドガンかサブマシンガンの携行を必須としてもう一つの携行武器は役割に応じた物。
 接近戦を主とするクロースクォーターズにはショットガンやアサルトライフルなど。
 遠距離射撃を主とするシャープシューターには狙撃の代名詞であるスナイパーライフルに三点バーストのBR55バトルライフル、単発式のM392マークスマンライフルなど。
 そして偵察や斥候を主とするリコンには、積極的に戦闘を行わないためにM6C/SOCOMとM7S短機関銃を携行する事。
 無論それだけではない、人間をはるかに超える大型生物の存在も在り得るため大火力の火器、ロケットランチャーやスパルタンレーザーをいくつか携行する事など。

 これらを説明した後、状況に応じて他の火器の使用許可を出すとセリーナが言う。

「それを最後に大きな問題が一つ」

 危険な場所に送られる最精鋭のスパルタンやそれに続く精鋭のODSTとは言え。
 火器としては貧弱な部類に入るハンドガンと短機関銃の二つだけで送り出されれば、死んでこいと言われているようなもの。
 トーマスはそうではないと分かり一つ安堵のため息を付くが、それを打ち砕きそうな言葉をセリーナが言った。

「この惑星全域に非常に強力なジャミングか確認されています、推定ですが艦の半径1キロメートル以上離れれば通信は不可能となるでしょう」
「……まさか、コヴナントでも居るんじゃないだろうな?」

 恐る恐る、人類の天敵が居るのでは? とトーマス。

「ジャミングを発しているのがコヴナントか、と言われれば可能性は低いでしょう。 如何に優れた技術を持つコヴナントととは言え、これほど広域で強力なジャミングを発した記録は一度もありません」
「他に何があるってんだ? こんな事出来るのはコヴナントぐらいしか居ないだろう」
「一つだけ、UNSCやコヴナントを上回る技術を持つ存在が」
「……ああ、あの古代艦隊を作った奴らか」
 UNSC、人類の科学技術を容易く上回るコヴナントでさえ格下と言わざるを得ない超技術を保持し、遥か昔に栄えていたと思われる超古代文明。
 戦闘を主とするUNSCでは不可能、そのUNSCより高い技術を持つコヴナントでも不可能、だが超古代文明ならどうか。
 恐らくは可能、セリーナが閲覧した一部の記録では理解できた範囲で驚異的としか表現できない技術を保有していた。
 それこそ一から居住可能な惑星を作り上げる事も、それを実感させられたのはシールドワールドだった。

 大気が整った地表に、その地下には全長2.5キロメートルのスピリット・オブ・ファイアが悠々と進める広大な空間とまるでコロニーのような内側に地表と同じ環境が整った空間。
 そして人類が居住可能な惑星の上部マントルから内核に相当する部分には天候が変化する空と、惑星の中心に位置する人工的に作り上げられた太陽に相当する光源。
 地表と惑星内部に広がる反転したもう一つの大地、あれら全てが人工的に作られたと凄まじいの一言。
 人類どころかコヴナントですら劣化模作を作ることが出来ないだろう、それほどまでに超科学技術と言える超古代文明。
 もしかすればこの惑星もそうであり、あるいはそうではなくこの惑星に超古代文明の遺跡が残っているかもしれないと言う推測。

「アンプを経由すれば良いだけでは?」

 その推測の中スパルタンレッドチームの一員、同じく黒のボディスーツと緑に塗装された装甲を着けるアリス S-130が解決策を上げるが。

「無論中継機を背負ってもらいます、そうしても半径2キロメートルにも届きません。 本格的に通信距離を伸ばすには大型の設置型機器が必要になりますね」

 根本的な解決には至らない、通信無くして広域かつ迅速な判断が下せないと言うのは痛い。
 これがスピリット・オブ・ファイア周辺の動植物の採取という任務だからこそまだいいが、通信可能範囲外へと出なくてはいけない任務だと危険度が増す。
 作戦行動中に通信途絶が長く続けばMissing In Action、作戦行動中行方不明などと判断してもう存在しない者として扱う場合もある。
 そうなれば捜索隊を出さず大を生かすために小であるMIAの者たちを切り捨てる事も十分有り得るし、艦長であるカッターはその決断を下せる人物である。
 そうならないためにも通信可能範囲をなんとしても伸ばしておきたいが、ジャミングを解除する方法が分からず中継器などを通す位しか方法がないのが現状だった。

『最優先事項は任務の達成ではない、全員が生きて戻る事だ。 随時の撤退判断は各々に任せる、何らかの事情で通信が不可能になった際は即座に撤退をしてくれ』

 通信でセリーナの説明が終えるのを待っていたカッターは、作戦内容の確認などをして一言。

『それと各員兵器使用の自由を認める、危険だと判断したら迷わず撃て。 以上だ』
「了解」

 モニターの向こう側のカッターに敬礼を返し、作戦開始の為に各々が動き出した。

 ODSTとは略称のことで正確にはOrbital Drop Shock Troopers、軌道降下強襲歩兵の頭文字を取ったもの。
 名称の通り、惑星軌道上からHEV、Human Entry Vehicleと言う個人用降下ポッドで直接戦場に降りると言うもの。
 だがその降り事になる現在のスピリット・オブ・ファイアは衛星軌道上ではなく地表で横たわっている、故に今回はその足で艦から降りなければならない。
 ではどこから降りるかと言えば航空機格納庫からのロープで降りるというもの、頑丈なロープを結び上げて外装を伝って降りる。
 輸送機のペリカンでも使えば速いが、輸送機に見合うだけの音をエンジンが立てる。
 推進力を発生させた時の噴射発光も夜の帳が落ちている今では、それなりの距離でも目視出来るくらいに光を放つ。

 調査団がスピリット・オブ・ファイア周辺から離れて数時間、日中を飛んでも見えるし夜間を飛んでも見える。
 今現在緊急時以外には使えない代物となっているが、だからこそ出動準備を整え万全の状態で待機しておく。
 緊急時の増員とワートホグや主力戦車などの戦闘車両、汎用単座航空機のホーネットやその強化版のホーク。
 さらにはAC-220 ガンシップ、対地攻撃に重点を置いた重武装ガンシップのバルチャーなどを待機させてある。
 もしスパルタンやODST隊員たちの手に余り襲い掛かる存在が居れば、すぐさま出動して銃弾とミサイルの雨を降らせる事になるだろう。

 そこまでするのはこの惑星が未知の領域だからだ、無論そうでなくとも救援の準備は整えておくのは当然だった。
 そんな待機状態の航空機を尻目に、武器を背負った各員が整列して作戦における注意事項を聞いている。
 不用意に撃つな、採取以外の時に動植物に近寄るななど。
 予想外、例えば触れた瞬間強力な腐食性の酸を噴射する植物など存在しないと言い切れない。
 そう言ったことで命を落とす問題が発生する事も考慮し、念入りに理解させておく。
 こうして準備が万全に整った頃には日が地平線の向こうに落ち、二つの衛星が顔を覗かせていた。

「あの二つの衛星のお陰でかなり明るいな、まぁ森の中に入るから余り意味はないか」
『夜の木漏れ日とはずいぶんと幻想的ですね』
「目視も暗視も微妙な明るさだと困るがな、それじゃあ出動だ!」
『レッドチーム、先行して着地エリアの安全を確保してください』
「了解」

 時刻が1900、午後7時となり作戦開始時間。
 セリーナの言葉に三人のスパルタンは頷き、ロープの元へ歩む。
 片手にハンドガンやサブマシンガンを持ったまま、空いている手にロープを絡ませて2メートルほど開いた格納庫隔壁から身を躍らせた。
 下方を確認しながら外壁を伝い降り、二十秒も掛からず斜めに抉れた地面へと降り立つ。
 三人は武器を構え周囲を警戒、直線距離にして300メートルはあるだろう斜面を登って土砂で凸凹になった地面に足を踏み出す。

「……反応は」
「無し、クリア」
「こちらも無し、クリア」

 ジェロームがもう一度周囲を見渡した後。

「こちらレッドリーダー、エリアを確保」

 僅かにノイズが走る通信を入れ、それを聞いて続々とODST隊員たちが降り斜面を登ってくる。
 それを待つ間に緑色のヘルメット、暗視に切り替えたゴールドのバイザー越しにジェロームは周囲を見渡す。

 後方には抉れた地面とスピリット・オブ・ファイア、今自分たちが立つ土砂の上と散乱とした折れた木々、そして視線の先には無事な森。
 左を見れば大きく抉れた地面が地平線の向こうにまで続いている、どれ程の木々を圧し折ったのかは分からないが相当な環境破壊なのは分かった。

「随分と明るいな、やはりあの二つの衛星か」

 三人目のスパルタン、ダグラス S-042が言葉を発する。
 話題は空に浮かぶ二つの衛星、だが視線は変わらず周囲へ。

「日中でも見えてるらしいわね」
「自転と公転が同じって事か」

 アリスとダグラスの掛け合いを聞き流しながら、ジェロームの視線は森の奥へと注がれている。
 森の中はそこまで暗くは無い、暗視、ナイトビジョンに切り替えれば日中よりもはっきりと見えるだろう。
 降りる時に確認したが、この森は相当広い。
 明らかに人の手が入っていない、まさにこの惑星の自然だけで構築された森だった。
「随分と背が高いな、上からの援護は期待しない方が良さそうだ」

 それなりに幹が太く背が高い木々が乱立している、森の規模から考えて数万本は生えていてもおかしくない。
 しかも密集は言いすぎだが、生える木々の間隔がどれも10メートルも無い。
 そのお陰で森に葉の天井が出来上がっていて、森の上空から目視で見下ろしてもどこに誰がいるか判断できないだろう。
 マーカーで表示すればいいが、目視に比べ誤射や誤爆の可能性も上がる。
 緊急時以外には使用しない方が良いだろう、ダグラスから掛けられた声に返す。

「そうだな」

 ジェロームが振り返った先にはアリスとダグラス、その奥に各ODST隊員たちがバランス良く小隊へと編成している。

「スパルタン、一個中隊を付けるから原生生物のほうは頼むぞ」
「了解」
「よし、ゴルフとホテルとインディア小隊はスパルタンの援護に付け。 残りのアルファとブラボー、チャーリーとデルタ、エコーとフォックストロットは二個小隊を組み採取だ」

 行け行け行け! トーマスが通信で命令して全体が動き出す。
 レッドチームも動き出し、その後をゴルフ、ホテル、インディアの各小隊が付いていく。

 ジェロームを先頭に森の中に足を踏み込む、下には太い木の根が地面の上まで張り、少々足を取られて歩きづらい。
 上には月の木漏れ日が地面へと降り注ぎ、森の中は幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 だがそんな光景でも見蕩れる事は無く、一行は足を緩めず森の奥へと踏み込んでいく。

 枯れて落ちた葉と落ちて枯れた葉、踏みしめながら森の中。
 アクティブに動き回る小型の動体反応を幾つも捉えながら、捕獲対象の犬頭や豚頭を探す。
 そうして5分10分と歩き回るが、対象が一向に発見できない。
 スピリット・オブ・ファイアの半径1キロと言う範囲は狭すぎた、墜落してまだ一月も経っていない上に人間がその周囲に現れた。
 この森は人間の勢力外、稔り豊かな森に集まる動物たちに、それを目当てとするオーク鬼やコボルト、さらにはミノタウロスにドラゴンまで。

 言わば自然の世界、人間社会よりはるかに強力な弱肉強食が広がる領域に、何とも知れない巨大な物体が落ちて森を破壊し滅多に見ない人間が現れたらどうするか。
 危険を感じた動物たちは逃げるだろう、それを目的とした亜人たちも移動するだろう。
 つまり今現在のスピリット・オブ・ファイアの周囲は、自律的に動けない植物を除く生物が極端に少なかったのだ。
 捜索しているレッドチームとODST各小隊は、居るものを探しているのではなく、居ないものを探しているのに近かった。
 だが、近いだけで居ない訳ではなかった。

「………」

 先頭を歩くレッドチームのジェロームが、足を止めると同時に開いた手を肩の高さまで上げる。

『止まれ、前方を警戒』

 続いてその意を示すハンドサイン。
 それを確認した各ODST小隊の小隊長が、同じハンドサインを出して全体に伝える。

「………」

 70メートルほど先の前方、生い茂る草むらに脇。
 明らかに植物ではない、生物と思わしき足が草むらの向こう側に見えた。
 恐らく横になっている、倒れているのか就寝のために横になっているのかは不明だが、ターゲットの確率が高い為に慎重に動く。
 もう一度ハンドサインを出し、ジェロームは確認する為に右手にハンドガンを構えたまま歩く。

「………」

 アリスとダグラスはジェロームから離れて、左右から迂回する。
 出来るだけ音が鳴る草むらとの接触や、小枝などを踏み折らないよう屈んで進む。
 距離が60、50と近づく中、ジェロームは横たわっている何らかの生物の足のすぐ近くに、じわりと広がるものを視界に収める。
 それは見覚えのあるもの、作動させると視界全体に緑掛かる暗視を解除して、木漏れ日の月明かりだけでそれを確かめる。
 それはゆっくりと流れ出して作り上げる、血溜まり。
「………」

 右手に構えるハンドガンを支えていた左手を離し、アリスとジェロームに見えるよう上半身を僅かに捻ってハンドサイン。

『危険、自分が確認する。 フォローしてくれ』

 確認した二人は『了解』を示す。
 そうしてジェロームは、ゆっくりと一歩一歩踏み出す。
 距離が40、30と近づく、そうしてモーションセンサーの探知範囲内の25メートルに近づいた時、効果を発揮して動体反応を捉える。
 そうして視界を横切る物体、それはターゲットの一つである豚頭だった。
 無造作に投げ捨てられたのだろう、左の肩口から腹辺りまで大きく割られたような傷の豚頭が転がる。

 強力な攻撃を受け絶命したのだろう豚頭を視線から外し、恐れ知らずと言わんばかりに足を進めるジェローム。
 ゆっくりと、ゆっくりと近づき、草むらの傍に寄ってほんの少しだけ頭を覗かせた。

「フゴォ……」

 草むらの向こう側の20メートルほど先、一つ大きく鼻息を鳴らすように身長2メートルほどのスパルタンたちより大きな、2.5メートルはあろうかと言う一匹の筋骨隆々の牛頭人身がいた。
 右手には刃渡り30センチはあろうかと言う、血に濡れた巨大な斧を持ち、足元には何頭もの豚頭の屍骸が転がっている。
 それを確認したジェロームはすぐさま頭を引っ込め、スピリット・オブ・ファイアに通信を入れる。

『こちらレッドリーダー、スピリット・オブ・ファイアへ、オーバー』
『こち─スピリット・─ブ・ファイア、何か問題が?』

 ノイズが目立つ通信に返してきたのはセリーナ、それに対してジェロームは簡潔に要件を告げる。

『ターゲットの一団を確認、ですが全て死亡。 そのターゲットを殺戮した未確認の生物を確認、イメージを送ります』

 ジェロームのヘルメット左側面に付けられた、より映像を鮮明に捉える小型カメラのようなイメージアップリンクに保存されたイメージを転送。
 それはこの牛頭も捕獲するのか、と言う問い合わせに他ならない。
 じっと動かず待つこと数秒、帰ってきた返答は。

『捕獲─てください』
『了解』

 スパルタンたちと同じぐらいの身長の豚頭を、一匹で何匹も殺したのだろう牛頭。
 それを捕獲しろだなんて、この惑星の人間が聞いたら笑い飛ばすような内容。
 スピリット・オブ・ファイアの乗員は知らないが、牛頭、ミノタウロスに殺された豚頭、オーク鬼は経験を積んだ熟練の戦士五人分に匹敵する戦闘能力を持つ。
 そのオーク鬼が何匹も揃っていてなお、一方的に殺し尽くしたミノタウロスはどれ程強いのかはジェロームが見た光景が物語っている。
 ジェロームは再度顔を覗かせ、睡眠弾が収められているマガジンが入ったハンドガンの銃口を、背を向け歩き出していたミノタウロスに向ける。

『………』

 距離は30メートルほど、不安定な足場だとしても有効射程距離で的確に命中させるスパルタンは外す事はしない。
 狙いをつける時間は0.3秒ほど、ミノタウロスの首に向けて引き金を引いた。
 バスッ、とサプレッサーにて抑制された銃声をM6C/SOCOMは鳴らした。
 麻酔弾は一瞬で距離を詰め、首筋に突き刺さり、睡眠薬を注入する、はずだった。
 確かに当たったが、肌に張り付き薬剤を注入するはずの麻酔弾が弾かれ、回転しながら地面に落ちた。

 一方ミノタウロスは首筋に何か当たったのかと手で擦っているだけ。
 位置が悪かったかと、今度は今上げている腕と脇腹に連続して撃ち込む。
 だが首へと撃ち込んだ睡眠弾と同様に、ゴムに投げ付けたボールのように弾かれた。

『スピリット・オブ・ファイア、問題が発生した。 ターゲットは弾を受け付けない、繰り返す、弾を受け付けない』

 そうしてジェロームは右太股の磁気武器ホルダーにハンドガンを固定する。

『これより直接体内に撃ち込む』
 立ち上がりながら手前に転がっていた、豚頭が使っていただろう多少加工されていた木の棒を拾い上げ。

「行くぞ」

 ジェロームは走り出した、それと同時にアリスとダグラスも草陰から姿を現してミノタウロスへと駆け出す。
 行き成り左右から現れた存在に気付き、ミノタウロスは轟音のような雄叫びを上げる。
 ミノタウロスは左から走ってくる緑と黒の人型、アリスを見据えて右腕を振り上げ斧を振るおうとするも。

「ヴォッ!?」

 左側頭部に衝撃、視界がぶれる中で左から走り寄ってくる似た人型。
 拾った木の棒を高速で投げ付け、ミノタウロスの頭に当て間近に迫るジェロームに向かい、右手の斧を振り上げた。
 振り上げた斧を振り下ろそうとして、今度は右手に強い衝撃を受けた。
 それは一度の跳躍で2メートルまで飛び上がったアリスの蹴り、鋭い一撃がミノタウロスの右手、斧を支える指を打つ。
 だがミノタウロスの太い指は、人間であれば骨をへし折り皮膚から飛び出させる蹴りを受けてなお、骨折の一つ無くただ斧だけを手放した。
 宙に舞う大斧、それを視界に収めながらミノタウロスは接近を防ごうと腕を適当に振り回す。

 その腕を払いながら拳を打ち込んだのはジェローム、砲弾のような右拳がミノタウロスの左脇に突き刺さる。
 打撃の衝撃で口から粘性の高い涎を撒き散らしながら、さらに視界の外からの攻撃によろめいた。
 蹴りを指に放ったアリス、右拳を左脇腹に撃ち込んだジェローム、そしてサッカーボールを蹴れば弾けそうな威力のローキックをミノタウロスの左ふくらはぎへと打ち込むダグラス。
 流れるように打ち込まれた攻撃を前に、ミノタウロスは体勢を崩して膝を着いた。
 だがスパルタンたちは攻撃を緩める事は無い、アリスは飛び蹴りから着地してさらに回転。

 ミドルキックをミノタウロスの胸部に蹴り込み、再度涎を撒き散らして仰向けに倒れるミノタウロス。
 すかさずアリスとダグラスは、ミノタウロスの右左の腕に関節技を決めて締め上げ、動けないよう地面に縫い付ける。
 視界内からの二方向からなら凌げたかもしれないが、視界外を含む三方向では対処できなかった。
 視界外からの攻撃を防ぐ事が出来ず、気を引き付けられ何度も攻撃対象を変えたことも原因だった。
 そうして何度もまともに攻撃を受け倒れてしまった、一点に集中していればまだ変わっていただろうが後の祭り。

 腕を拘束されもがくミノタウロスを見下ろすジェロームは、右太股に留めていたハンドガンを手に取り、離せと叫んでいるようなミノタウロスの口に向けて引き金を引いた。





 スピリット・オブ・ファイア周囲の動植物採取の作戦はつつがなく終了した。
 死傷者は一人も出ず、負傷者すら居ない。
 一番危険だったスパルタンたちも全く問題が無い、植物採取組みのODST隊員たちも問題無く植物の採取を終えている。
 スパルタンたちの援護についたODST隊員たちも、結局やる事が無く暇していたほどだ。
 牛頭、ミノタウロスを捕獲した後は他の原生生物に遭うことも無く、オーク鬼の屍骸から肉片や血液を採取後、体重200キロはありそうなミノタウロスを両手両足を縛って担ぎ戻った。

 舌を出し涎を垂らして熟睡するミノタウロスを密封型のケージに押し込み、先にロープを上って行ったアリスとダグラス。
 下に残るのはジェロームとまだ艦内に戻っていないODST隊員たち、上から引っ張られて上昇していくケージを見送りつつも視線は空に浮かぶ二つの衛星に向けられていた。
 艦内に全員帰還して一時間ほど、スパルタンたちと各ODST隊員が採取してきた動植物をアンダース教授が気密服を着て調べている頃。
 ブリッジには滅菌消毒を済ませたトーマスとスパルタンの三名が揃っていた。

「君たちの目で見て、外はどうだったかね」

 切り出したのはカッター、それに答えたのはトーマス。

「場所が問題ですね、人が大勢住む街とは違いここは人の手が入ってなさすぎます。 植物などもかなり違いが出てるんじゃないでしょうか」

 地域によってその植物の性質が変化する事も珍しくない、この森で危険な植物も街の近くに生える同種は無害なんていう事も十分ありえる。

「なるほど、やはり活動圏はそちらに向けた方が良さそうだな」
「接触を考えるなら、いずれ人員を派遣しなければいけませんね」

 セリーナの言葉にカッターは頷く、ずっとコールドスリープで眠り続けるのは不可能。
 眠っている間に救助が来ればいいが、その可能性もかなり低いと言わざるを得ない。
 いずれ地盤を築かなければいけない時がくるだろう、その時の為に手を打っておかねばとカッターは考えた。

「レッドチーム、そちらはどうだった」
「牛頭と戦って気になった点が、拳を打ち込んだ際妙な手応えを感じました」
「こちらも同じです」

 ジェロームの言葉に、アリスとダグラスも同意を示す。

「手応えがどうした?」
「まるでゴムを殴りつけたような感触でした、かなり力を入れたのですが気絶させるには」
「ふむ、睡眠弾が刺さらなかったのもそれと関係が有るかもしれんな」

 スパルタンの打撃は致命的な一撃になる、人間相手ならば腕や足でなければ一撃で絶命する。
 人間よりはるかに屈強なエリートや地球のゴリラに似たブルートでも、エネルギーシールドを纏っていなければ二発ほど殴れば息絶える。
 となれば牛頭はエリートやブルート並みか、それ以上の耐久力を持っているかもしれない。
 立体映像投影台に浮かぶ、三次元ホログラムとして映される牛頭を見る。
 カッターは右手を顎に当て、一つ頷く。

「この惑星の人間と接触してみなければならないか」
「墜落途中の映像を基にしたマップを表示します」

 そうセリーナが言って牛頭のホログラムから、広大な大地にホログラムが切り替わる。
「ここが現在の地点」

 ホログラムの端に赤い点、『▼ Spirit of Fire』とマーカーが付き。

「人間が確認できた地点は無数に」

 不明瞭な領域が多くを占めるが、直線状にはっきりと起伏まで立体映像化された地形上に緑の点が複数表示される。
 数は十を超え、それなりの数の人間が住んでいることが分かる。

「お勧めはこちらですね」

 と、セリーナは赤い点、スピリット・オブ・ファイアから一番近い緑の点を示す。

「人口は数百人規模と予想されます」

 また映像が切り替わり、ホログラムではない上空から見た実際の映像が映し出される。
 建築物を見る限り、やはりそれほど技術水準はさほど高くないように見受けられる。

「まずは何名かで、旅人などに装って送ってみては?」
「それが良いだろうな。 少佐、スパルタン諸君、完全に疲れは癒えていないだろう。 また今回のような任務を与えるかもしれん、十分に休息を取ってくれ」
「了解」

 そうしてトーマスとスパルタンたちは敬礼をして、ブリッジから退出する。
 残るカッターはセリーナに命令を下す。

「セリーナ、通訳機無しで喋れる者が居るか確かめてくれ。 それと教授に連絡を、この件について話を聞いておくべきだろう」
「アイアイサー」

 また調査団が戻ってくる前に、出来る事をやっておかねばならんかとカッター。
 シールドワールドから脱出して一月、この惑星上で目覚めて三週間ほど。
 第二の地球とも言える惑星リーチや、コール議定書によって守られる人類発祥の惑星、地球へと帰るには余りにも前途多難だった。


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