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萌え萌えゼロ大戦(略)-35



「……起きろ、あかぎ」
 もう目覚める必要がないかと思っていた自分に、懐かしい声がかかる。
状態を休眠から起動に移行させ、ゆっくりと目を開ける。ルリちゃんに
『固定化』をかけてもらってはいたものの、それなりに時間が経って
いたのだろう、体がきしむ感じがした。
「あふ……。おはよう、武雄さん」
 ガラスの棺から目覚めたあかぎの前に立っていたのは、この世界に
迷い込んでから出会い、そしてずっと側にいてくれた人。武雄はそんな
彼女に肩を落とすが、すぐに真剣な表情に戻った。
「相変わらずのんきだな、お前は。
 ……村が襲われてる。アニエスやエミリーも頑張っちゃいるが、手練れの
連中に苦戦してる状況だ。今の俺たちはそうそうこっちに干渉できねえからな。
村人を逃がすので手一杯だ」
「あらあら。エミリーちゃん、銃士隊に入っちゃったの~?」
 目を丸くするあかぎ。それから目を閉じて電探を起動させる。
超重爆撃機型のふがくと異なり、空母型鋼の乙女であるあかぎに搭載
されている電探の索敵範囲は広大だ。タルブの村すべてどころか
トリスタニアや魔法学院、ラ・ロシェールまでを探査し、状況を把握する。
「俺が幽霊でよかったな。そうでなきゃ今頃ローストチキンだ」
「……識別不能なところが多いのは仕方ないわね。ルリちゃんと戦っている
相手と似たような反応を敵とすれば、確かに状況は良くないわね」
 苦い表情の武雄の抗議をさらっと無視したあかぎはそう言うと、
目を開けて横に組み上げられた鉄の艦の模型――いや、空母の模型に
擬装された自分の装備を身につける。動作確認し、装備に異常がない
ことを確認する。それが済むと、あかぎは武雄に向き直った。
「それじゃあ、私は行くわね」
「ああ。元気でな」
 真剣な表情の武雄が海軍式の敬礼で見送る。そのとき、二人がいる
護国神社――村人から『オヤシロ』と呼ばれているもの――の外で、
ルーリーと戦っている男の雄叫びが聞こえた。
 あかぎは片膝を立てて、左脚に装備されている六門の単装砲に砲弾を
装填する。電探と連動させ、神社の外にいる目標に狙いを定める。
「ルリちゃん伏せて!」
 そう言うが早いか。あかぎは主砲の斉射を行った。木製の両開き引き戸を
たやすくぶち破るその咆哮は、あかぎの帰還を知らしめる凱歌となった。


 ふがくは轟音とともに傭兵メイジが消し飛び、『オヤシロ』から現れた
人影に己の目を疑った。
 太ももまで届く黒く長い髪。真っ白い千早に丈の短い緋色の袴。
膝に届く鉄(くろがね)の脚甲。両腕に装備された腕全体を覆い隠すような盾――
ふがくは最後まで抵抗していた傭兵メイジを片付けると、『オヤシロ』の
前に降り立った。
 ふがくの姿を確認した彼女は、包み込むような笑顔をふがくに向ける。
そこにルーリーも起き上がり、声をかける。
「……まったく。いつまで寝てる気だい?」
「ごめんね、ルリちゃん。武雄さんに起こされるまで、こんなことに
なってるなんて気がつかなかったの」
「あ……」
 声が出ない。その胸に飛び込みたいのに、ふがくは固まったように
その場から動けなかった。そんなふがくに、あかぎは嬉しいような、
悲しいような顔をした。
「ふがくちゃんも、こっちに来ちゃったのね」
 そう言って、あかぎはふがくに手をさしのべる。その手に取り付くように、
ふがくは何度もあかぎの名前を呼んだ。
「あかぎ。あかぎ……あかぎぃ!」
「あらあら。ふがくちゃんったら。泣き虫さんになったのね~。
 でも、その前に……」
 あかぎはそう言うと、ふがくの体をゆっくりと離し右手の人差し指を
口元に寄せる。
「みんなの疲れを私が癒してあげるわね」
 その言葉とともに、ふがくたちを淡い緑の光が包み込んだ――


「……とりあえず終わったか」
 メンヌヴィルが斃され、アニエスの元に残存部隊からの報告が入ってくる。
それは惨々たるものだった。
 最初の奇襲で村長の館と居住区を警邏していた第五小隊が壊滅。
そして村長の館と居住区の奪回で第四小隊が大打撃を受け、『竜の道』で
奇襲を受けたまま何とか立て直した第三小隊はその後の防衛戦で壊滅。
姫殿下の警護のためトリスタニアにいる第二小隊と第六小隊を除けば、
ここにいる銃士隊でまともに作戦行動が取れるのは第一小隊と第七小隊だけに
なっていた。
 この状況はそれでも天運だ。あかぎの『癒しの抱擁』がなければ第一小隊も
第四小隊も壊滅状態に陥っていたはずだったのだから。『竜の道』はふがくと
ルーリーの奮戦で持ちこたえ、村長一家は隠れていて無事、宿泊していた
貴族も大半は脱出して目の前で一緒に戦っていたが、そうでない者も
救出に成功し、そちらの被害が皆無だったことがわずかな救いだった。
「散々だな。手練れのメイジ一個小隊、しかも分散降下してそれぞれは
分隊規模でこの状況。やはり実戦経験の差か」
 アニエスはこの惨状をそう分析した。五年前にアンリエッタ姫殿下が
自ら設立した銃士隊だが、実戦を経験したことがあるのは村を飛び出してから
賞金稼ぎをしていたアニエスのほか、片手で数えられるほどしかいない。
全員が志願兵のため士気は高かったが、採用条件が平民の若い女性に
限定されていたことがその一因であることは言い訳のしようがない。
訓練を積み、魔法衛士隊との合同演習などを経験していても、やはり
実戦は違うのだ。
 それと同時に、アニエスは残存部隊のうち第七小隊の処遇も考えなければ
ならなかった。秘密裏に開発されていた新型長銃を許可なく実戦に投入
したことは、厳罰に値する。しかし、それが故に最重要拠点の防衛に
成功し、人員の損失もなく新型長銃も一挺も失うことがなかったのだから、
頭の痛いところだった。
「いや、まだ終わっていない。その前にやらねばならぬことがある」
 アニエスはそうつぶやくと、報告のために集まった銃士たちをそこに留め、
ルイズたちが集まっている場所に足を向ける。最初に気づいたのは、
コルベールだった。コルベールは周りにいるルイズたちや自分に腕を絡める
キュルケに道を空けるように指示して、アニエスと向き合う。
 アニエスは手にした『サンパチ』をコルベールに向ける。銃弾は装填され、
安全装置も解除されている。銃士たちが驚きの声を上げ、ルイズたちにも
緊張が走る。
「……二十年前のダングルテールを、知っているか」
「知っている。忘れるはずもない。
わたしが当時の『アカデミー』実験小隊隊長だった。
そこに転がっているメンヌヴィルは、当時の副長だ」
 静かに語るコルベール。アニエスは憎々しげにコルベールを睨む。
コルベールは、あのヴェストリの広場で拾ったふがくの機関短銃の薬莢を
調べているときに見た幻視を、そこに重ねた。
「貴様が生きていたことを神に感謝する。
 さぁ、正々堂々、決着をつけようじゃないか。
 杖を抜け」
 アニエスは立ったまま銃床を脇に当て、片手で『サンパチ』を構える。
しかし、コルベールは杖を構えない。それどころか杖を地面に捨てると、
その場に座り込んだ。
「どうした!杖を取れ!」
「わたしを撃ちたまえ。貴官にはその権利がある」
「なんだと?」
 唇をゆがめるアニエス。その様子をキュルケが刺すような視線で
にらみつけていた。
「貴官が『姫殿下の剣』であるように、わたしも、かつては『王国の杖』だった。
命令に従い、忠実に実行する。軍人とはそうでなければならない。
 わたしは『焼き尽くせ』と言われたら、忠実にそれを実行した。
表向きは疫病の蔓延を防ぐため、その実、秩序を脅かす新教徒と、
そうでない村人の見分けがつくかと問われ、そういうことだと命じられれば、
その通りに実行する――それが軍人の、貴族の正しいあり方だと、
ずっと思っていた」
「黙れ!」
 アニエスは叫び、銃を片手ではなく両手で構える。
その銃口はコルベールを捉えて離さない。
「しかし、貴官の村を……いや、罪なき人々を焼き払ったとき、それが
間違いだと気づいた。わたしは『王国の杖』である以前に、一人の人間
なのだ、と。どのような理由があろうと、罪なき人間を焼いていいわけが
ない。命令だろうとなんだろうと、赦されることではないのだ」
「だから杖を拾えと言っている!」
「最後に焼いたのは、ダングルテールでの任務完了直後にわたしに杖を
向けたメンヌヴィルだった。訓練は嘘をつかないな。茫然自失しているのに、
体が勝手に動いたよ。そして、それ以来、今日、再びメンヌヴィルを
焼くまで、わたしは魔法で人を傷つけることなく、研究に打ち込んだ。
一人でも多くの人を幸せにすることが、わたしにできる贖罪だと、考えた。
いや、『贖罪』ではなく『義務』だな。わたしには、狂うことも、
死を選ぶことすらも、赦されないのだから」
「貴様は……貴様は、そうすることで罪が消えると思っているのか?
私の家族の、友人の、貴様に焼かれたすべての無念が晴れるとでも
言うのか?」
「晴れるわけがない。消えるわけがない。それが罪だ。たとえこの身が
滅んでも、罪は消えぬ。そして、わたしに審判を下せるのは、唯一、
あの村の生き残りである貴官だ。貴官だけが、わたしを彼らの慰めのために
殺す権利を持っているのだ」
 アニエスは目をつむった。そこに、十六でこの村を出るときに聞いた
言葉がよみがえる。

 ――アニエスちゃんは、ヘラクレスの選択を続けるのね――
 ――ヘラクレス……?以前あかぎ母さんが聞かせてくれた、異国のイーヴァルディのような勇者のことか?――
 ――そう。ヘラクレスは神の試練を受けるため、自ら進んで多くの困難に立ち向かったわ。あなたも、その道を選ぶのね――
 ――私は、本当の両親や、友人の復讐をするために生きてきたんだ。これまでも、これからも。だからここにはいられない――
 ――復讐は終わることのない憎しみの連鎖。だけど、それを終わらせる方法もあるの。それはね――

「杖を取れ!コルベール!」
 アニエスは叫ぶ。コルベールは目をつむらない。そんな彼をかばうように、
キュルケとルイズが身を乗り出す。キュルケはコルベールに覆い被さり、
ルイズはアニエスの前に立ちふさがるようにして、それでも撃たれる
恐怖に目をつむる。

 朝焼けの空に銃声が木霊した。


 思わず目をつむったルイズとキュルケが目を開けると、アニエスは
両足を強く踏みしめ、『サンパチ』を天に掲げるように撃っていた。

 ――それはね、『赦す』ことよ――

「……今私が貴様を撃てば、貴様の生徒たちが私を焼き尽くすだろう。
そうすれば、生徒たちは銃士隊に射殺される。そうなれば子を撃たれた
親は怒り狂い、憎しみの連鎖は消えることはない……」
 アニエスは大股でコルベールに近づくと、行かさじと頑張るルイズと
彼に覆い被さっているキュルケをはねのけ、その首筋の服を短剣で裂く。
 そこには……引き攣れたような火傷の痕が覗いていた。
 アニエスは、その痕に覚えがあった。炎に包まれた村。燃え盛る炎の中、
自分を背負っていた誰か。その首筋には、醜く引き攣れた火傷の痕が
あった。
 気がつくと、自分は浜辺で毛布にくるまれて眠っていた。気まぐれなのか、
罪の意識からなのか、その理由は分からない。
 両親を、友人を、故郷を失って。それから自分を見つけた神父に
連れられた孤児院を逃げ出してチクトンネ街で残飯をあさっていたところを
店主のスカロンに見つかり、たまたま店に来ていたあかぎと武雄に
引き取られて。そのぬくもりに戸惑って、やがて耐えきれなくなって
村を出た自分。村を出て賞金稼ぎになっても、運命の悪戯でお忍び中の
姫殿下に出会い、銃士隊の隊長に任ぜられても、ずっと消えなかった痕が、
目の前にある。
 どうして自分を助けたのか……そんなもの、尋ねる気にもならない。
 今となっては、どうでもいいことだ。
 短剣を鞘にしまいながら、アニエスは低い声で告げた。
その瞳に強い意志を宿らせて。
「だから私が終わらせる。百二十九人。覚えておけ。貴様は、その十倍、
いや、百倍の人間に尽くせ」
 その言葉にコルベールは悲しそうに首を振る。
「百三十一人だ」
「何?」
「妊婦の方が二人いた」
 アニエスは天を仰ぐ。その目からは涙があふれている。鉄の塊のような
銃士隊の隊長が人目をはばからず涙を流す。そのとき、誰かの視線に
気がついた。

 『竜の道』から、ふがく、あかぎ、ルーリーが歩いてくる。アニエスの
選択を見たあかぎは、それを褒めるように、優しく微笑んでいた。


 ――それから半日後。アニエスより至急の伝聞を携えた鳩のガーゴイルを
受け取ったアンリエッタ姫は、自室で爪を噛む。
「魔法学院と予想していましたのに、タルブを……」
 『レコン・キスタ』の特殊部隊がトリステイン王国のどこかを奇襲すると
いう情報は、『ゼロ機関』の決死の情報収集により確定的となっていた。
アンリエッタ姫は近々銃士隊を銃後の訓練名目で魔法学院に派遣し、
その防備を固めるつもりだったのだが、敵はその先手を打ってきた。
「私の方で調べましたところ、姫殿下が強行偵察を命じられている竜騎士隊
第二大隊の穴埋めを担当する第一大隊の一部小隊長に、賄賂とともに
数日間ある時間のあるルートの警備を緩めるよう働きかけがあったようです。
同様のことが、空軍艦隊の一部艦長にも」
 そう答えるのは、ワルド。今の彼は魔法衛士隊グリフォン隊隊長ではなく、
『ゼロ機関』のエージェントとしてそこにいた。アンリエッタ姫の特命で
アルビオンに渡ったシンたちの仕事を引き継いだのだが、アンリエッタ姫に
暴かれて『レコン・キスタ』と『ゼロ機関』の二重間諜となったワルドは、
内心自分がこちら側に立てることに胸をなで下ろしていた。
「……やはり。幼き頃のわたくしに向けられたあの笑顔は、偽りのもの
だったのですね」
 アンリエッタ姫の言葉は静かな怒りに震えている。ワルドはそのような
アンリエッタ姫を見るのは初めてだった。
「銃士隊はつくづく彼と縁がありますな。銃士隊隊長のミス・ミランを
筆頭に、第二小隊長ミシェルくん、第四小隊長ペリーヌくん……。
皆、彼の欲のために、その人生を狂わされた。
 ところでミシェルくんの処遇はどのように?必要であれば、私が向かいますが」
「それはわたくしが考えます。ワルド子爵。
 アニエスとペリーヌをトリスタニアに呼びます。第四小隊の再編成と
第六小隊との交代という名目でいいでしょう。
壊滅した第三小隊と第五小隊は第四小隊に編入します」
「タルブの守りが手負いの第一小隊と第七小隊だけになりますが、
よろしいのですか?」
 心配するワルドに、アンリエッタ姫は微笑む。
「あかぎさまが目覚めたというなら、第七小隊だけにしてもいいくらいですわ」
 アンリエッタ姫はそう言うと、マザリーニ枢機卿を呼ぶ。そのときの
アンリエッタ姫の笑顔は、ワルドには一生忘れられなかった。



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