あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第32話 幕間




 次元空間に浮かぶL級巡航艦アースラ。
 現在は状況の変化に備えて待機するのが任務となっているため、激務と言われる『海』の仕事の中でも巡航中と並んで確実に休暇の取れる日々が続いている。
 先ほど定時連絡が届いたため、私信を受け取った待機中の要員は、皆私室で家族からの手紙に涙していることだろう。
 危険度は低いが機密性が微妙でかつ任務が長期にわたると、こういう状態になりやすい。
 特に今回は直接通信が阻害されているため連絡が往復するのにちょうど一週間ほどかかるので、オンライン時代からはあまり考えられない状態が出現している。
 かくいうクロノ=ハラオウン提督も、個室内で部下には見せられない緩んだ顔で妻と子供達の顔を想像しながら自分宛の私信ファイルを開いていた。
 何せ海の提督ともなると長期に家を空けることもしょっちゅうであり、元同僚で理解ある妻はともかく、子供達が父親の顔を忘れると言うことになりかねない。
 なのできまじめな彼は今回のような状況ではなくてもこまめにビデオレターを出していたりする。そのほうが子供達には印象的になると思って。
 これが実は、かつてとある事件で増えた義理の妹がその親友達とやっていたことを参考にしているのはクロノと妻だけの秘密である。
 それはさておき。当然届いていた妻からのメールと、公のものにするほどではない部下からの報告に混じって、少し意外な名前が一覧の中にあった。
 ユーノ=スクライア。
 彼とは親しい友人であるが、今の彼との関わりはむしろ公的なもので、私信を送ってくる理由が考えられない。直接会える環境ならともかく、今のような状態の時には、むしろ私信は遠慮するタイプの人物だ。
 しかもファイルの容量が妙に大きい。まるで山ほどの資料をパッキングしてあるみたいだ。

 何か、ある。

 そう思ったクロノは、妻からのメールより先にこちらを開くことを優先した。もっとも彼は楽しみは後に取っておくタイプで、妻からのメールを見るのもいつも最後だから別段特別なことではなかったりする。
 そうしてメールを開こうとしたところ、機密解除のパスワードを要求された。しかもこれは第一級機密、提督個人にしか閲覧が許可されない指定になっていた。
 確かにユーノならこれを掛ける権限を持っている。彼は無限書庫の司書長だ。
 無限書庫は意外に機密性の高い部署である。内容そのものはともかく、執務官が事件の手がかりを求めて協力を要請するのは日常茶飯事であり、その過程でどうしても司書は機密性の高い情報に触れてしまう。
 そしてユーノは本人が最上位の腕を持つ司書であり、かつあまたの司書を統括する司書長なのである。無限書庫から禁断の情報を引き出したことも山ほどある。人体改造法の詳細を記載した研究書など、枚挙にいとまがない。
 それゆえユーノは、このような特定個人のみに開封を許可するための機密指定コードをほぼ自由に扱い得る立場にある。だが彼は決して公私混同をする性格ではない。ましてや機密コードでエロ本を送るようないたずらも決してしない。
 となれば、このファイルにはそれだけのものがある。そうクロノは判断し、提督の個人私室であるというのに、盗聴器を初めとする情報漏洩対策を再確認した後、さらに個人で結界を張った。
 そうしてファイルを開いたクロノは、何故彼がわざわざ機密指定を厳しくしたのかを理解した。
 「……これは確かに、はやてやフェイトには見せられんな」
 内容そのものは実のところそう機密性の高いものではなかった。だがこの事実を今の段階では知られたくない人物が艦内には2名ほど存在していた。
 一人は提督副官であり、この艦内では提督、艦長に続いて3番目に位の高い人物で、かつクロノに何かあった時にはその代行となる人物である。それゆえ公的にこれが送られてきた場合、彼女には提督と一緒に内容を確認する義務が生じる。
 もう1名は彼の妹であり、女性の身で彼の私室に入ってきても何らおとがめのない人物である。不調法はしない人物ではあるが、万一これを見られたら取り返しが付かない人物であり、かつ何故かそういう不幸な場所に居合わせそうな巡り合わせの悪さもある人物でもある。
 資料の内容は、前回送ってきた『ハルケギニア』と『聖王遺産』の関わりに関する追加報告であった。

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 クロノ、こんな手紙をもらって驚いていると思うけど、これから先のことは心して読んでほしい。



 あれからの追跡調査で、目的の人工惑星『ハルケギニア』が、かつてアルハザード文明の手によって作られ、古代ベルカの初代聖王が受け継いだことはほぼ間違いがない。
 元々ベルカの初代聖王は聖王教会が信仰しているように、王としての側面に加えて、宗教的な『奇跡』の逸話が多い。これに関して、研究者の間では初代聖王が、滅びたアルハザードの『遺産』を受け継いだというのは定説に近い。
 一つには歴代聖王の纏う『聖王の鎧』、七色の魔力光がある。かつてのアルハザード文明において有力者だったと目される一族も、また聖王と同じ『七色を纏うもの』と表されているしね。
 実際、聖王遺産を初めとして、現在発見・確認されているロストロギアの中には、『使用に七色の魔力光による認証』が必要なものが意外に多い。聖王のクローンたるヴィヴィオが作られたのも、ゆりかごを起動させるための『鍵の聖王』としてであったし。
 詳細は不明だし、追跡調査中でもあるけど、初代聖王の時代には、ベルカを国として成立させるだけの様々な『奇跡』を行えるだけのロストロギアが存在していたのもほぼ確実だといえる。
 『人工惑星ハルケギニア』も、そういったものの中の一つだったみたいだ。ただ、記録によると初代聖王は存在の確認はしたもののそれ以降アクセスした様子は無いらしい。
 彼の手にした遺産には、その人工惑星を建造するために使われた技術そのものがまだ残っていたから、わざわざそこまで行くのが手間だったらしいね。
 もっともそのおかげで、その人工惑星には初代聖王が保持していた『奇跡の技術』が、古代ベルカ滅亡後もそのまま維持されている可能性が高いというのは歴史の皮肉かもしれないけどね。
 ……と、これで話が終わっていれば、こんな風にわざわざ鍵を掛けるまでもない話で終わったんだけど。
 これがどうも変な方向に繋がるんだ。
 ボクがこの一連の記録にたどり着いた時、この記録が過去に閲覧されていたことに気がついた。まだボクが無限書庫から情報を効率よく引き出すための検索魔法を確立していない頃だよ。
 それこそ蔵書百万冊の図書館からただ一冊の本をタイトルだけを頼りにしらみつぶしに探すような苦労があったことは間違いないと思う。問題はその閲覧者の名前だ。

 プレシア・テスタロッサ

 確かに彼女なら不思議でもなんでもない。死んだ娘のために一時期はプロジェクトFにも関わっていたと目される彼女なら、無限書庫の閲覧を許可されても不思議じゃないし、その手段としてアルハザードに目を付けてもおかしくは無い。
 でも、この『ハルケギニア』の存在があると、当時の事件の様相ががらりと変わる可能性がある。
 当初プレシア女史は思い詰めた果ての狂気によってアルハザードという『妄想』に取り付かれてあの事件を起こしたとされていた。
 当然だよね。次元断層を作り、虚数空間を越えた先にアルハザードがあるなんて、そんなものどう考えたって狂人の妄想に過ぎない。だけど、もし彼女が『ハルケギニア』の存在を知っていたとしたら?
 聖王が信仰の対象として今も残るほどの『奇跡』を成し遂げた源泉。それが手つかずのまま残っているかもしれない『アルハザード製の人工世界』。
 つまり彼女は、充分な勝算があってジュエルシードの強奪をもくろんだ可能性が俄然高くなる。
 ところがそうなるとまた別の矛盾が生じてくるんだ。
 それはPT事件そのものの構図だ。
 もしあの計画が狂気ではなく理性的なものだとしたら、強奪の過程がずさんすぎる。加えてジュエルシードが海鳴に落ちた過程に、ものすごく不自然なところがあるんだ。
 そもそもボクは当時まだ子供だったし、ジュエルシードの回収にばかり目が行っていて、何故ジュエルシードが海鳴に落ちたのかまでは考えもしなかった。
 でもクロノ、冷静に考えてほしい。
 PT事件において、ジュエルシードは次元航行中の輸送船が襲撃され、その過程でジュエルシードが流出、第97管理外世界『地球』の海鳴市に落着した、となっている。
 実はここだけで相当な疑問点があることに、今のクロノなら気がつくはずだ。
 まず、確実な奪取が必要なら、ジュエルシードを流出させるような不手際がそもそもおかしい。フェイトの魔力ランクなら、直接強奪したほうがまだ成功率が高い。
 次に、次元空間に流出した物体が、管理外世界に落ちる事自体が天文学的確率だ。そもそも次元航行艦の航路は、偵察任務がある当時のアースラみたいな軍艦ならともかく、ロストロギアを輸送する船が管理外世界の至近を通るなんてあり得ない。
 現に襲われた輸送艦も、地球とは充分に離れた航路を取っていた。それなのにジュエルシードは、ピンポイントで狙ったかのように海鳴市に落着しているんだ。
 そしてもう一つ。この件についてある人物が一切動いていなかったのが気になる。
 ジュエルシードは願望発動型のきわめて危険なロストロギアなんだ。しかも一度発動すれば探知はたやすい。だとすると、気がつかなかったはずはないんだ……リーゼ姉妹が。
 当時は新暦65年4月。つまり闇の書が起動すると目されていた6月の直前。
 そんな重要な時期にあのグレアム提督がはやてに監視を付けていなかったはずはない。そんなところにあんな危険物が飛び込んできたとしたら、絶対に動いていたはずだ。
 発動の事件にはやてが巻き込まれたんならフォローのしようもあるけど、もし万が一はやてとジュエルシードが接触したら大変なことになる。
 何しろ当時のはやての願望は『家族がほしい』だ。そしてはやてには闇の書との繋がりがある。うかつに彼女がジュエルシードを手にしたら、一気に闇の書が覚醒する危険があったんだ。
 基本は防衛に徹したとしても、この事件を長期間放置するのは危険だと判断したはずだよ。
 ところが当時の調書をいくら調べても、提督とPT事件に関しての関連性が一切出てこない。どう考えても何かがある。そう思ってもう一度PT事件のことを洗い直してみたら、とどめの一撃が出た。
 フェイトが拠点にしていたマンションだ。
 地球は魔法がないとはいえ、文明の発展度はミッドに匹敵する先進世界だ。特に日本は戸籍制度なんかもあって、そう簡単に部屋を確保できる環境じゃないんだ。
 実際、海鳴は観光地だし、フェイトの容姿は日本人離れしているから、拠点を確保するなら期間を考えてもホテルを利用したほうが遙かに安全なんだ。
 適当な観光旅行の家族をでっち上げて、本来同行する予定の両親が仕事で遅れたため、アルフとフェイトの姉妹が先行してきたとでも言えば多少は不審がられてもそれ以上の詮索はあまりされない。
 デポジットで充分なお金を振り込んでおけば食事その他も遙かに問題が少ない。
 にもかかわらず、フェィトの拠点は『確保されていた』。
 そう。どう考えても、まるで『ジュエルシードが海鳴に落ちてくることが予想されていた』としか思えない状況があるんだ。
 こう考えると、フェイトが初めて回収したジュエルシードをプレシアの所に持って行った時に虐待されたことに関しても穿った見方が見えてくる。
 あの時点でプレシアがフェイトを虐待するのは実は少しおかしいんだ。アルフは虐待のための虐待だと思っていたようだけど、あの時点でのフェイトは貴重な手駒だ。
 戦闘が予想される場面で戦力を低下させることは本来の目的の成功率を下げることになる。
 いくらフェィトが憎くてもそれは本末転倒だ。アリシア第一のプレシアが成功率を下げるような真似をするはずがない。ましてや理性が残っていたのなら。
 だとするとプレシアはフェイトが本当にサボっていた……つまり、ジュエルシードの回収になのはやボクが出てくることを予測していなかったという可能性が見えてくる。
 つまりプレシア本来の予想では、誰も知らないところに無造作に落ちているジュエルシードをただ回収してくるだけ……つまり子供のお使い程度の難易度を想定していたということになる。
 そう考えていたのなら、未知の世界に浮かれてお土産なんかを買ってきたフェイトを叱ったとしてもおかしくはない。叱り方が常軌を逸していてもね。
 でもそれは逆に、プレシアはジュエルシードを海鳴に落とすところまで計算済みだったと言うことになる。というか、あの日あの場所でジュエルシードが流出した場合、それがピンポイントで海鳴市に落ちると言うことを予測していたとしか思えない。
 加えてそれを管理局が邪魔しないと言うことまで織り込み済みでね。

 ……そう思ってボクはある確認を取ってみて落ち込んだよ。

 プレシアに無限書庫の使用許可を出していたのは……最高評議会だった。



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 手紙はまだ続いていたが、クロノはここで一旦読むのを中断した。
 PT事件。クロノがなのはやフェイトと出会い、ひいては自分に義理の妹が出来ることになった、発端の事件。
 人生こんな筈じゃなかったことばかり、哀しき狂気の犠牲になったのが妹だと、そう思っていた。
 だが、どうやら人生、まさにこんな筈じゃなかったことばかりらしい。
 もしプレシアがジュエルシードを全て集めていたら。
 ひょっとしたら、彼女は今回発見された次元回廊を開き、ハルケギニアに至っていたのかもしれない。しかも管理局の闇の黙認を受けて。
 JS事件ののちに知られた最高評議会の実体……脳だけになった彼らがこれを知ったのなら、間違いなくバックアップをしたはずだ。死者すらよみがえらせる技術があるなら、彼らに新しい肉体を与えることなど造作もなかったであろうから。
 そう考えれば、PT事件において不鮮明だった謎が全て説明できてしまう。ジュエルシードという危険性の見込まれるロストロギアの輸送計画が漏れた件など特にだ。
 ただ、だとするとこれから向かう地……今なのはがいる土地は、正真正銘、惑星規模のロストロギアである可能性が高い。
 そんな地で彼女がどんな生活をしているのか。頭の痛いクロノであった。




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