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萌え萌えゼロ大戦(略)-32



 ルイズが『始祖の祈祷書』を受け取った頃、エレオノールもまた、
竜籠で急ぎトリスタニアの研究室に戻っていた。それほどの期間を留守に
したわけではないが、部屋に入ったとたんに落ち着いた気持ちになった
のは、そこが自分の城であるためか。
 エレオノールは、ブルドンネ街の骨董市で見つけたお気に入りの年代物の
ゆったりとした椅子に深く腰を下ろし、その手に金属製の筒をもてあそぶ。
それはルイズとカトレアが食べたパイン缶だったが、その真ん中には
撃ち抜いたような同じ大きさの穴がいくつも開いていた。
「……まったく。こういうものを食べるときは、わたしも呼びなさいよね……」
 エレオノールは渋面を隠さない。妹たちだけで滅多に手に入らない
おいしいものを食べたということで、いささか寂しい思いをしていたの
だった。
 そうしているうちに、研究室のドアがノックされる。扉の向こう側から、
いささか覇気に欠ける声がする。
「……私だ」
 彼女が急ぎ帰還した理由が、そこにいた――


 同時刻。高等法院の隠し部屋――
 そもそも高等法院にそのような部屋があること自体が問題であるが、
元々あった部屋に仕切りを立てて隔離したその小部屋は、そうされてから
十年を越える歳月と、幾重にもかけられた『サイレンス』の魔法により、
外界から漏れない内密のことを行うにはうってつけの部屋となっていた。
 そこに、高等法院長リッシュモンと……タルブに向かった銃士隊隊長
アニエスの留守を預かっている銃士隊副長ミシェルの姿があった。
 リッシュモンはミシェルより渡された羊皮紙の束――報告書に目を通すと、
ミシェルに鋭い視線を向ける。
「……手を回すのが遅かったようだな」
「は、はい。先日の銃士変死事件以降、新型銃『サンパチ』の工廠と
訓練を行う射撃場には隊長の許可なくては立ち入れなくなりました。
また、第八小隊の行方も……」
 声を震わせるミシェル。それをリッシュモンはつまらぬものでも
見るかのように吐き捨てる。
「ふん。前回の報告にあった姫殿下の秘密部隊か。私にも尻尾を
掴ませぬとは……忌々しい。
 まあよい。そちらは私が処理する。貴様はこれまでどおり、情報収集に
努めよ。決して尻尾を掴ませぬようにな」
「は」
 一礼して隠し部屋を辞すミシェル。その先は法院長室。国王以外で
許可なく立ち入ることはできず、またその部屋からは誰にも知られず
外に出る隠し通路が存在していた。
 ミシェルの姿が消えてから、リッシュモンは人知れずつぶやいた。
「……ふん。誰に仕えているかすら知らぬ愚か者め。
 実物が手に入るに越したことはなかったが、すでに手は打ってある。
ニューカッスルで皇太子の死体が手に入らなかったことは誤算だったがな……」
 トリステイン王国に三十年にわたって奉職する王家の信頼厚き高等
法院長リッシュモン――その裏の顔は自らの職権を濫用して私利私欲に
走り、あまつさえ王家への忠誠を金貨に替えて祖国を釜ゆでの蛙のごとく
弱体化させたばかりか『レコン・キスタ』に内通する売国奴の首魁であった。


 そして、夕暮れのトリステイン魔法学院。早馬で届けられた二通の
信書を開封したオスマンは、学院長室にルイズとふがくを呼び出していた。
「タルブの村へ、ですか?」
 机の上に置かれた一通の信書。それを前にしてルイズが聞き返す。
「そうじゃ。タルブの村でミス・タバサが銃士隊に拘留されておるらしい。
誤解じゃろうが……銃士隊からの身分照会と、ちょうどフィールドワークに
出ておって合流したミスタ・コルベールから助命嘆願書が届いたのじゃ」
「それで、オールド・オスマンが記したタバサの身分証明書を私に届けて
欲しい。そういうことね」
 そう言うふがくに、オスマンは微笑んだ。
「話が早くて助かるの。ミス・ふがく。
 早馬を出すよりおぬしに頼んだ方が何倍も早いからの。ちいとやっかいな
ことになっておるようじゃし、行ってくれんか?」
「別にかまわないわよ。私もタルブに用があったし。そういうことなら
シエスタも連れて行った方がいいわね。
 ……ということで、いいわね?ルイズ」
「もちろんよ!タバサはわたしの大切な友人よ。困ってるなら助けないと!」
 意気込むルイズ。そんな二人に、オスマンは忠告する。
「時期的にぴりぴりしておるからの。二人とも、くれぐれも銃士隊を
刺激せんようにな。
 無理なようなら帰ってくるんじゃ。ワシから姫殿下に話を通す」
「わかりました」
 ルイズのその言葉で話は決まった。ルイズたちは食堂で夕食の準備を
していたシエスタを連れ出し(もう学院のメイドではないので、その交渉は
スムーズに運んだ)、タルブの村へと急行した。

「うわあ。やっぱり速いです!もうタルブの村が見えてきました!」
 それから二時間後――ふがくに抱えられたままのシエスタが上空から
見る故郷に感激する。反対側にはルイズ。時間がないのでルイズは制服のまま
着替えだけを鞄に詰めてふがくに渡し、シエスタはさすがにエプロンドレスで
帰郷するわけにもいかず私服に着替えている。こちらは自宅に戻れば
着替えはあるとのことで、ちょっとしたお土産だけをふがくに預けていた。
「真上から見ると……やっぱり前線の航空基地って感じね。ちょっと
暗いけど滑走路に降りるわよ」
 ふがくはタルブの村上空を旋回すると、村外れの『竜の道』――やや
荒れているがどこからどう見ても滑走路。しかも横に見張りの櫓や大小の
掩体壕まで見える――にアプローチする。ふがくが上空を旋回したことで
『竜の道』に松明を持った人間が出てきたことが確認できるが、どう見ても
誘導のためではない。ふがくは面倒なことになったと思いつつも、
『竜の道』にタイヤを鳴らしつつ着陸する。
まるでコンクリートに降り立ったかのような予想外に硬い路面に一瞬
面食らうが、それでも両脇の二人には衝撃を与えないようにうまく停止した。
 ふがくが着陸したとたん、三人を松明を手にした銃士たちが取り囲む。
マスケット銃には弾が込められており、風に乗って火縄のにおいが緊張と
ともに漂う。ふがくはわざと翼端灯を消さず、悠然と銃士たちを見た。
「動くな!」
 銃士の一人が叫ぶ。多数の長銃を向けられて、ふがくの千早の袖を
掴んで怯えるシエスタとは対照的に、ルイズは怯えを悟られないように
一際大きな声を出す。
「わたしラ・ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・
ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステイン魔法学院の学院長オールド・
オスマンから、信書を預かってきたわ!隊長を呼んできなさい!」
 その言葉に、銃士たちの囲みが割れ、他の銃士たちと違い鎖鎧に純白の
サーコートをまとった銃士が現れる。銃士隊隊長アニエスである。
「わたしが銃士隊隊長のアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ。
ラ・ヴァリエール家の者と名乗ったな?証拠はあるのか?」
 そう言って、アニエスはふがくたちを見定めるかのように見る。
同時にアニエスの姿を見つけたシエスタは、助けを求めるように声を
上げた。
「アニエス姉さん!わたしです!シエスタです!」
「な、シエスタ?何故こんなところにいる?……全員、銃を下ろせ!」
 アニエスの号令で銃士たちが一斉に銃を下ろす。自分を見下ろす
アニエスに、ルイズが信書を突きつけた。
「これがオールド・オスマンから預かった、ミス・タバサの身分証明書よ!
彼女をすぐに解放しなさい!」
「……なるほどな。その髪の色といい目元といい公爵夫人によく似ている。
 いいだろう。だが、内容を検分させてもらってから、だ。
それからあいつの翼端灯を消させろ。まぶしくてかなわん」
 アニエスはそう言ってふがくの翼を親指で示す。その言葉に、ふがくが言う。
「こっちもいろいろ聞かせてもらいたいことがあるみたいね」
「ああ、同感だ」
 アニエスはそう言って、三人を詰所に案内した。


「タバサ!」
 程なくして。縄を解かれ杖を返却されたタバサを真っ先に出迎えたのは、
他の誰でもないキュルケ。その豊満な胸で力一杯抱擁する様を、ルイズは
気の毒なものを見るような目で見ていた。しばらくタバサを抱きしめた
キュルケは、おもむろにルイズに向き直ると今度はルイズを抱きしめた。
「ありがとうルイズ!あなたたちのおかげよ!」
「は、離しなさいよ!苦し……」
「まぁ事情は詰所で大体聞いたけど、災難だったわね」
「…………ありがとう」
 キュルケに圧殺されかかっているルイズを横目に、ふがくがタバサを
ねぎらう。だが、ここにいる真の目的を話せないタバサは、そのことを
負い目に感じていた。

(どうして……知らないなら、そのまま利用すればいいだけなのに。
どうしてこんな気持ちになるの……)

 そんなタバサの思いを知らず、キュルケやルイズをはじめ、ここに
居合わせた魔法学院の人間は揃ってタバサの釈放を喜んでいた。
そこに、しわがれた老女の声がする。
「……やれやれ。しばらく静かになったと思ったら、また騒がしくなったか」
 全員の視線が老女に集中する。腰の曲がった、齢八十に達しているで
あろう老女。メイジの証である節くれ立った杖を手にした彼女は、全員に
注視されても動じることもなく騒がしい一団の中に見知った顔を見つけ、
声をかける。
「帰ってきたのかい?シエスタ」
「ただいま。ルリおばあちゃん」
 シエスタがにっこりと微笑む。不思議に思っているルイズに、シエスタが
老メイジを紹介する。
「ルイズさま。こちらがミス・ルーリー・エンタープライズです。
ルリおばあちゃん、こちらがわたしがお仕えしているミス・ルイズ・
フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさま。こちらが
前に手紙で知らせたふがくさんです」
 それを聞いてルーリーが「ほぉ」と二人を見る。その視線に懐かしい
友人を見るような視線が含まれているとふがくが感じたのは、間違いでは
ないだろう。
「……『鋼の乙女』を見るのは久しぶりだね。しかも航空機型のは
もう何十年も見てない」
「じゃあやっぱり、あのガソリンは……?」
「口に合ったようでなによりだ。なんならもう少し分けてやろうか?
みんな逝ってしまって使う者がいなくなったからね。
シエスタの知り合いなら金は取らんよ」
 その言葉にふがくが深々と頭を下げる。ガソリンなど影も形もない
この世界で、それを作り出すには大変な労力と時間を必要としただろう。
それに対する深い感謝が自然とそうさせていた。
「ところで、さっきアニエス姉さんから聞いたんですけど、皆様この村に
『竜の羽衣』を見に来られたとか」
 詰所でルイズたちと一緒にタバサが勾留された理由を聞いたシエスタが
キュルケたちに問いかける。それに対するキュルケの返事はあまり良い
ものではなかった。
「……見せてはもらったんだけどね。あたしたちはふがくを知ってるから
『あーこれ飛ぶんだなー』って思えたけど、そうじゃなかったらただの
大きな鳥の形したおもちゃにしか見えなかったでしょうね。
ミスタ・コルベールとギーシュは違ったところを見てたけど」
「そうですね。私は『竜の道』と『イェンタイ』を構築している建材に
驚きました。何でできていたと思います?ミス・ヴァリエール」
 そう言ってコルベールはルイズに質問する。だが、着陸するやいなや
銃士隊に囲まれたルイズには分かるはずもない。コルベールは学院で
生徒に授業をするかのようにルイズに答えを教える。
「『ベトン』ですよ。かつての大王ジュリオ・チェザーレ時代のロマリアで
多用された建材です。火竜山で取れる火山土と砂、砕いた軽石を水で
混ぜ合わせて作る長い風雪にも耐える強固な建材ですが、『錬金』と
『固定化』が多用されるようになった現在ではその製法すら失われたものです。
 私も遺跡以外で実物を見たのは初めてですよ。しかもその製法まで
残っているとは……」
 コルベールは感動にむせぶ。それにしても大王ジュリオ・チェザーレの
時代といえば何千年も前の話。ロマリアに旅行したことのないルイズには、
そう言われても今ひとつピンと来なかった。一方で、ふがくはその説明に
納得するように言う。
「なるほどね。コンクリートの上に降りたんじゃ、あの感触も納得だわ」
「こんくりーと?そういえば今回の降り方はいつもと違ってたわね」
「私の国でベトンのことをそう呼ぶのよ。それに、あれが本来の私の
着陸の仕方よ」
 ふがくはそうルイズに答える。その様子を見て、シエスタは溜息ひとつ
ついた後、ルーリーに尋ねた。
「やっぱり……。ねえルリおばあちゃん、ルイズさまをはじめ、皆様
信用できる方ばかりなんです。だから、見せてあげてもいいかな?」
 シエスタの言葉に、ルーリーはしばし目を閉じて……それから刺すような
視線で全員を見た。
「……本当に信用できるのかい?」
「はい。皆様とても良い方ばかりです」
 しばしの沈黙。それからルーリーはシエスタに背中を向け、一言。
「……好きにしな」
 それだけ言うと行ってしまった。その背中にシエスタは深々とお辞儀をする。
それから、ルイズたちに向き直ると、言った。
「それでは、明日、改めて『竜の羽衣』をご案内致します」
 その言葉に眼鏡の奥の瞳をきらりと光らせた者がいたが、シエスタは
気づかなかった。


 その頃――アルビオン大陸のとある村……

「タルブへ……?」
 夜の帳が降りて静まりかえった森の中。そこにひっそりとたたずむ
小さな村の一軒の家で、流れるような金髪に透き通るような白い肌、
まるで妖精のような少女が言う。その言葉を、粗末な木製のテーブルを
挟んで座る、まだ少年の気配が残る青年が静かに受ける。
「ええ。アルビオン王党派を葬った『レコン・キスタ』への報復に、
ゲルマニアとの同盟を果たしたトリステインが動くという噂が広まって
います。マチルダさんから聞いていると思いますが……」
「確かに、マチルダ姉さんからは、ここが危なくなったらトリステインの
タルブの村にいるミス・エンタープライズを頼るようにって……。
本当に危ないんですか?スピノザさん?」
 少女の言葉に、スピノザと呼ばれた青年は無言で頷いた。
「……確かに、マチルダ姉さんやスピノザさんたち、お父様のために
戦ってくれた貴族が助けてくれるから、わたしはこうしてここにいられる。
でも、わたしがここを離れても大丈夫なのかしら。わたしの魔法で今まで
ここを忘れてもらって過ごしてきたのに」
 少女はそう言って自分の耳に手を触れる。つんと尖った耳。それは
彼女がエルフの血を引いていることの証。その耳が彼女の心境を表すように
わずかに垂れ下がる。
「大丈夫ですよ。私たちがいます。マチルダさんも、あなたに何かあったらと
思うと気が気でないでしょう。ニューカッスルのことは先程お話ししたと
思いますが、ここがあのような大規模な破壊に巻き込まれたら、マチルダさんは
どう思うでしょうね。心配はさせない方がいいと思いますよ」
 そう言ってスピノザは少女の不安を消そうとする。その微笑みは、
あの大乱のさなかに彼の父親が少女に向けたものによく似ていた。

 スピノザ――スピノザ・サンダーヘッドは、モード大公の叛乱の際、
大公の直臣であるサウスゴータ家、エンタープライズ家と杖を並べて
戦った、雷の使い手サンダーヘッド家の生き残りである。大公が投獄
されたときに叛乱に荷担したとして他の二家と同様にサンダーヘッド家は
取り潰されたが、嫡男のスピノザは王家の追撃を逃れていた。
 そんな彼がマチルダの前に姿を現したのが二年前。今は名を変えて
商人になったと話しているが、詳しいことはほとんど話さず、追求する
マチルダには「あなたにも言えないことがあると思いますが」と釘を刺して
しまっていた。
 そんな状況ではあったものの、彼はこの少女の前では偽名を使わず、
マチルダと同様かそれ以上の援助を彼女に行い、またマチルダからの
送金も彼の商会を通すことで余計な『手数料』を抜かれることなく彼女の
元に届けられていたのだった。

「私はこれで失礼しますが、三日後、私の別のフネがロサイスに到着します。
数日留まりますから、子供たちと一緒にそれに乗れるよう手配しておきましょう。
そうですね。この宿屋に泊まって待っていて下さい。ハーマンという女性を
使いに出しますから」
 そう言って、スピノザは懐からメモとして使っている羊皮紙のカードを
取り出すと、それにさらさらと書いて少女に手渡した。
「大丈夫ですよ。ティファニアさん。何も心配することはありませんから」
 なおも心配そうな顔をする少女に、スピノザはそう言って笑って見せた。



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