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虚無と最後の希望 Level25


level-25「過去」


「艦長、起きてください。 これは一体どういうことでしょう?」

 女性の声で艦長と呼ばれた男が、斜めに傾く開かれたコールドスリープポッドから足を出す。
 それと同時に冷気が溢れ出て、室内の温度差により白く染まる。
 艦長、初老の男は目頭を右手の指でも揉みながら問い掛けてきた声に返す。

「何があった」
「不明です、判っていることは今現在スピリット・オブ・ファイアは未知の惑星上に不時着している事だけです」

 白髪交じりの灰色の髪を掻き揚げて、星の上に翼を広げた鳥が描かれUNSCのシンボルが入った帽子を被る。

「どれ位眠っていた」

 初老の男、ジェームズ・グレゴリー・カッターはコールドスリープルームから歩を進めて出る。
 ブリッジへと進みながらスピリット・オブ・ファイアの艦載A.I、セリーナへと聞く。

「シールドワールドから抜け出て一月、艦長が眠ってから七日も経っていません」

 艦内を歩み、ブリッジへと辿り着く。
 そこに人は誰も居らず、存在するのは計器のが灯す光だけ。

「艦長、艦外の映像を映します」

 ブリッジ入り口の近くにある立体映像投影台の端に、青いホログラムにて小さな女性が手を後ろに回して立っていた。
 周囲の測定された地形が立体映像投影台に映され、カッターは艦外の状況を俯瞰的に眺める。
 立体映像の中心にはスピリット・オブ・ファイア、その周囲は深い森、そして艦の後方には地面が長く大きく抉れた跡。
 艦の近くには山もあり、どう見ても人の手が入っていない空間である事が分かる。

「……不時着した経緯は」
「それも不明です、いえ、理解できないと言ったほうが正しいですね」
「分かる範囲だけで良い、説明してくれ」
「了解、艦長がコールドスリープに入ってから139時間36分27秒後、艦の前方に突然謎のワームホールが出現、回避を試みましたが結果は空しく5秒後にはこの惑星の大気圏内でした」

 確かに、セリーナの説明通りならば理解しがたい。

「スリップスペースゲートか」
「恐らくは違います、スリップスペースにしては余りにも早過ぎます」
「どう言う事だ?」
「この惑星がある銀河系は未だ人類が到達していない領域にあります。 もし我々のFTLドライブ、超光速航行技術でこの銀河系に到達するのなら天文学的な数値でも非常に少ないと言える年月が掛かるでしょう」
「……5秒の間に気が遠くなる距離を移動したのか」
「正確にはスリップストリームスペースにすら突入していません、艦首がワームホールに接触した瞬間には艦首は惑星の大気圏内でした」

 艦首は何処かの銀河系の惑星の大気圏内に入り、艦尾は宇宙空間に残っていたと言う事。

「つまりは……」
「膨大な距離を隔ててある、空間と空間が繋がったと考えた方が納得しやすいかと」

 FTLドライブですらないとは、一体どういうことか。

「……惑星上に知的生命体は見られるか?」
「恐らく存在しています、これをご覧ください」

 艦外の映像から変化、それは明らかに文明が作り上げたのだろう上空から映した街並みが表示されていた。
 映像投影台に両手をつき、俯瞰的にそれを見るカッター。

「生命体の形状は人型です、人類と同じく一つの頭部に胴体と、そこから生える二本ずつの両手両足。 人類に極めて類似した二足歩行の知的生命体、世紀の大発見ですね」

 おどけた様に言うセリーナ、日ごろからそういう傾向があるがカッターは咎めない。
 地球人類は地球外知的生命体と敵対している、その相手は一つの頭部に胴体、二本ずつの両手両足がある。
 言葉を絞れば敵対存在、コヴナントの大多数が人型と言えるような姿かたちをしている。
 流石に人類と類似している地球外知的生命体は居なかった、そういう意味では世紀の大発見となるだろう。

「本当に人類の植民地ではないのだな?」
「はい、何度も確認をしましたが一致する殖民地はありませんでした。 そもそも緑や赤の髪色をした人類など、意図的に染めなければ存在しないと思われますが」

 地毛だとしたらどんな遺伝子構造をしているか気になりますね、とセリーナ。

「………」
「恐らくはここへ向かってくるでしょう、多くの存在が艦を目撃しているでしょうから」
「良い状況ではないようだな。 セリーナ、艦の状態はどうだ」
「地力での航行は不可能ですね、不時着した時の衝撃が多すぎました」
「修理は出来るか?」
「それも不可能です。 正確に言えば航行を可能とする修理を施すにはドッグに入らなければいけません、宇宙を飛ぶ戦艦ではなく一つの住居としてなら修理は出来るでしょうが」

 床を床と認識させる艦内の重力制御、全クルーを賄えるだけの水や食料。
 生活に支障をきたす物の問題は無いようで一先ず安心する、コールドスリープが何らかの理由で使えなくなったりすればクルーたちに必要となるためだ。

「……出来ることは少ないか、直ちに整備技術官を全員叩き起こせ。 教授と戦闘要員……、それとスパルタンもだ」
「了解」

 艦長であるカッターの命令に、セリーナは軽く敬礼をして命令を受諾した。





 今から約百年ほど前、ハルケギニアの地に山が落ちてきた。
 エルフが占拠していると言われるサハラより東から、巨大な山と見間違えるほどの何かが落ちてきた。
 これに慌てたのは当時の各国政府、遠くからも見える巨大な物体が轟音を立てながら空を横切るのだ。
 100リーグを越える距離でも、何かが飛んでいると分かるほどの巨体。
 飛んできた方向が方向なので、エルフの攻撃かと慌てる貴族も少なくなかった。

 東から現れ、ゲルマニアの上空を通り過ぎ、トリステインの北に着陸、大地に百数十リーグと言う巨大な爪痕を残し、トリステインの北西で動きを止めた。
 当時に生きていて空を見上げた者たちは、その異様さに恐れ戦いたのだろう。
 空を飛ぶものはフネ、翼を持つ幻獣や鳥など、残るはフライやレビテーションで飛び上がるメイジくらい。
 フネで大きくても数十メイル、それの数十倍以上もある巨大な物体が落ちてきたのだから恐れてもおかしくは無いだろう。

 その巨大な物体が墜落してから数日、各国からトリステインへ「あれはなんだ」と問い合わせが殺到。
 当時のトリステイン王は調査団を派遣する事を決める、もし本当に落ちてきた物体がエルフの攻撃ならいの一番に被害を受けるのは国土内であるトリステインだからだ。
 調査団を送るから少し待ってくれと各国への返答を送り、いざ編成した調査団を送って報告を待てば増援が欲しいとの結果。
 その理由は『落ちてきた物体が大きすぎる』との事、正確には分からないが少なくとも2リーグ、2000メイル以上はあると調査団。
 大きい大きいとは思っていたが、予想以上の大きさに調査団の増員と各国の調査団の立ち入りも許可する事となった。
 危険が無いかハッキリさせたいトリステインは、立ち入り拒否による疑惑の払拭と共に調査費用の軽減を狙っての立ち入り許可だった。

 そうして調査団は数百名と膨れ上がり、調査を始める事となった。
 移動するトリステインの増援調査団と各国の調査団はその落ちた物体が長距離地面を滑って削ったのであろう。
 百数十リーグと延々に続く幅800メイルほどもある巨大な溝を見て驚く。
 そしてその溝の終着点にある物体を見てさらに驚く、全長2リーグ、幅500メイルは確実だろう巨大すぎる物体に目を剥く。
 余りにも巨大な物体、明らかに人の手によって作れないほどの巨大さ。
 あれは一体なんだ? 上がる話題はそればかり。 そんな議論など調べてみなければ分からない、そのために来たのだからまずは調べてみよう。
 巨大すぎる物体の脇の天幕を張り、百名を越えるメイジたちはその物体に恐る恐る取り付いてディテクトマジックを掛ける。
 だが分からない、意味不明なものではなくて大きすぎて全体を捉える事が出来ないのだ。
 一体どんな物かを調べるディテクトマジック、大きすぎる故に発揮される魔法の効果は部分的なものしか捉えない。
 それにて分かったのはこれが知らない金属で構成されている物だと言う事、実際非常に難解だった。

 錬金を掛けても非常に効果が薄い、まるで固定化が掛けられているのかと思うほどだ。
 並みのメイジでは僅かにも変質させられないだろう、他のメイジは鉄をも切り裂くブレイドで切りかかっても小さな傷跡を残すのが精一杯だった。
 炎を浴びせても溶かせず、鋭い風の刃を打ち込んでも傷が付かず、20メイルのゴーレムを作り上げて殴りかかっても凹みもしない。

 硬い上に錬金も効きづらい、こんな金属があっていのだろうかと、恐らくは全体がこの謎の金属で構成されている巨大な物体に僅かばかりに恐れを抱いた。
 だが一部のメイジたちはその謎の金属の有効性に気が付く、この金属で杖などを作ればより強力な物になるのでは? と。
 全体の調査を早々に諦めて表面の金属だけにディテクトマジックを掛け続けたりし始める者も、結局調査団と言っても協調して動くものではなかった。

 そんなこんなで各国の調査団はその巨大な物体の四方を囲み各々で調べる方向となり、手に入れられる物は出来るだけ持ち帰ろうと時間を掛けて調べる事になる。
 数日から一週間、一週間から数週間と時間が経つ中で、巨大な物体が落下したことで逃げ出していた動物たちが戻り始めた。
 もともと巨大な物体が落下した地点は開拓されていない森の中、身の危険が無いと分かれば戻ってくる動物も多い。
 動物が戻ってくるだけなら問題も無い、何せ百を越えるメイジたちが居るのだから。
 問題はそれを追ってきた亜人たち、オーク鬼やオグル鬼だった。

 これでも問題は無い、それなりに数が居ようとスクウェアクラスのメイジたちに掛かれば瞬く間に焼き焦がされ切り裂かれ突き刺される。
 コボルトも現われたが、やはり数が居るだけでメイジたちの相手にはならない。
 一番大きな問題はそれらと比較にならなかった、大空を翔る竜や亜人の中では最も厄介なミノタウロスまで現われたのだ。
 空を飛べば竜が襲い掛かり、地上に降りれば亜人たち。
 この場に留まり調査し続けるなら、亜人や竜を排除しなければ何れ邪魔になる。

 調査団としてはまだ離れたくは無い、半月ほどの時間で分かっているのは途方も無い大きさで鉄よりも強靭な金属の塊だと言う事。
 2メイルを越える分厚い謎の金属の壁の向こうには空洞があることも、ディテクトマジックで分かっている。
 その空洞の先には何があるのか、同じように謎の金属の壁が続いているのか、ディテクトマジックが届かない先に何かあるのではないかと。
 ならば亜人などを駆除しないければならないだろうと、駆除を各国の調査団と分担しようとしたトリステインの調査団は耳を疑う言葉を返された。
『ここはトリステインの国土、ならばトリステインの方達が進んで駆除すべきでは?』

 砕いて言えば、「駆除なんて調査に使う精神力や時間が勿体無いから、トリステインのお前らがやれ」と言うものであった。
 無論怒り心頭なトリステインの調査団、だが調査団を指揮するメイジは他のメンバーを宥める。
 この返答を含め報告を纏めて国王へと渡し、判断を仰ごうと他のメンバーも賛同して報告書を送る。

『調査の邪魔になる亜人などの排除に他国の調査団は非協力的であり、我ら調査団の戦力では難しいと言わざるを得ない。 戦力の増加や調査団の撤退など、今後の行動に関しての陛下のご判断を待つ』

 それを足の速い風竜で片道三日の時間を掛けて送り出し、返信が来るまで調査を諦め陣地に入り込んでくる亜人をちまちま排除する事となる。
 待つ間にコボルト数十体、オーク鬼などを数十匹ほど倒した一週間、すぐに回復する訳でも無い精神力が全体の半分を切った頃に伝令が戻ってきた。
 すぐさま調査団のリーダーは命令書を受け取って、その命令を読む。
 書かれている命令は調査団の撤退、調査し始めて早一ヶ月が経ち、その巨大な物体が危険な物かどうか。
 報告書を見て時のトリステイン国王は危険では無いと判断した、それを見た調査団のリーダーは笑みを浮かべ、他のメンバーたちも流石陛下と褒め称える。

 たった一ヶ月の調査で安全と決め付けるのは間違いなく早計、勿論トリステイン側も一ヶ月とは言わず年単位で調べる心算さえあった。
 だがそれを断念させたのは他国、次々と送られてくるトリステインへの要望にトリステイン国王は辟易しはじめていた。
 やれ中継地点を作るからこの場所を開拓しろ、やれ調査団が必要とする物資を送る為に上空の通行許可を発行しろだとか。
 そんな要望書の最後には決まってこう書かれていた、「エルフの攻撃であれば危険だから、ハルケギニアの安全の為にもトリステインは最大限の援助をして欲しい」と。
 それを見てトリステイン国王はその要望書を握りつぶし、しているではないかと叫んだりもした。

 調査団を招き入れ、食料や資材も提供し、増員としたそれなりの数のメイジさえ受け入れた。
 規模としては僅かながらの時間ではあるがトリステインの一軍と戦える規模、侵略しようとすれば間違いなく混乱するほどの数。
 ハルケギニアにある多くの国々で最も格式高く、プライドも高いトリステインが他国の成すがままと言うのは非常に気に入らないのだ。
 巨大な物体から何かが出てきた訳でも攻撃してきた訳でもない、逆に注意を払うべきは各国の調査団に傾いていたのだ。
 密偵でも送り込んで来てはいないかなど、勘ぐり始めてさえ居る。

 王を含めた自尊心が高い者たちで固められている故現状に不満を持ち、ついにはそれが爆発した訳だった。
 トリステインは落ちてきた物体に危険は無いと判断して調査団の撤退を決め、それに伴う巨大な物体の周囲の一角に穴が開いた。
 無論他国はそれに対して抗議する、何故撤退させる必要がある、もっと詳しく調べるべきではないかと。
 調べたければ幾らでも調べたら良い、長期間の滞在を許可するし物資運搬の通行許可も出すとトリステイン国王は強気で返した。
 現状危険は無いと判断し、亜人や竜が徘徊している以上調査団の無事を優先すると送り返す。

 長期間の滞在許可と上空の通行許可、この二つだけでも破格の待遇とも言える。
 軍事的な緊張さえ生じると言うのにと、当時の各国の王たちはトリステインの王に何も言えなくなった。
 同じ状況を迎えたとしてそれと同じ許可を認める事が出来るかと、各国の王は即答できないだろう。
 トリステイン側も完全に引くわけではない、怪しい行動をしないかの監視を残しての撤退。
 そうしてトリステインが調査団を引いて、その穴を埋めるように各国の調査団がキャンプを広げて穴を埋めた。





「一つの団体が引いたか」
「個別に動き全体としては統率が取れていないようですから、彼らの間で何らかの問題が発生したのでしょう」

 そんなトリステインの調査団が撤退する様子を艦内から眺めるのはカッターとセリーナ、さらにブリッジクルーと白衣を着た女性。
 周囲の様子を立体映像で投影し、俯瞰的に見る。

「この後はどうしますか? このまま外壁を削り続けられるのも得策ではありませんが」

 その投影台の端に映し出されるのは小さな青い女性、長いストレートヘアーを左の七三で分けたセリーナ。
 両手を後ろ手で組み、凹凸のある体のラインから女性型と一目で分かるセリーナが帽子を被る艦長、カッターへと視線を向けた。

「………」

 カッターは黙して腕組み、艦を中心とした青い立体映像を見ながら思案していた。

「何故か言語は通じますが、接触するのはまだ早いかと」

 短めの黒髪を右の七三に分け、投影台を挟んで初老の男へと自分の案を語る女性。
 上に白衣を纏い、毅然としてカッターを見る。

「確かに、やはりこの惑星に人類が殖民してきた訳ではなさそうだ。 セリーナ、戦闘要員は継続して待機。 教授は彼らの観察を」
「了解」
「任せてください」

 教授と呼ばれた女性は踵を返してブリッジを出て行き、ブリッジクルーとカッター、そしてホログラムにて映し出されたセリーナが残る。

「艦長、彼らの生態を調べた後に接触するつもりで? 状況的にはあらゆる可能性が存在しますが」
「選択肢の一つだ、必要ならばやらねばならん」
「機械類を一切用要らず反重力作用を引き起こす原住民に接触すると? 中々にスリリングな事で」

 二週間ほどすれば艦を調べに来たのだろう一団が現れ、艦内から観察していれば一団の数名が唐突に浮かび上がった。
 背面にジェットパックを着けている訳でもなく、重力リフトなどの道具を見当たらない。
 そのくせ反重力作用を引き起こすのだから、その光景を眺めていた者たちは数分口を開く事が出来なかった。

「第一に帰還を目的とし、クルーの安全を優先しなければならん」
「なるほど、それは艦長の責務でありますね」
「だが帰還できない場合も想定しておかねばならん」
「見た限り彼らの技術レベルは我々とは比較にならないほど低いでしょう、それこそ人類とコヴナントの技術差以上に」

 変わらずの姿勢でセリーナはカッターを見る。

「ですが特筆すべき事に彼らは我々が成し得ない事を可能としています、もしも戦闘になった際持ち得る戦力の全てが通用しない可能性も」
「だからこそ接触と対話の可能性も考慮しておく必要がある」

 カッターとしては切り捨てるのは簡単だが、その捨てられた可能性に活路があったなどと言う真似は避けたいのだ。

「……セリーナ、時間を掛けても修復は出来ないんだな?」

 三度目の正直と言わんばかりの問いかけに、セリーナは確固として断言する。

「不可能です」

 艦の現状はどう好意的に見ても良い状態とは言えなかった、何せ2.5キロメートルもある巨体が速度を落としていたとは言え地面に墜落したのだ。
 想像を絶する衝撃は転倒所か天井に叩きつけられるほどのもの、だが被害は少なくほぼ全てのクルーがコールドスリープで眠っていた為に死者はごく僅かだった。
 艦の制御に尽力し、その程度に抑えたセリーナのお陰で死者が少なく艦が原形を留めている。
 最大減速に艦首上げによる頭からの墜落の回避、この二つがなければ墜落の衝撃で艦は崩壊し幾つにも艦体が千切れて助かる理由もなく数千のクルーは全滅。
 速度を落とせていなければこの巨体が音速を超えて大気圏内を飛び計り知れないソニックブーム、衝撃波が広範囲に渡って地表にある物は根こそぎ吹き飛ばされていただろう。

 もとより修理を施し航行に問題が無くなってるとは言え、人工惑星内部に太陽に相当する光源があるシールドワールド内でコヴナント軍のCCS級巡洋戦艦と戦闘を繰り広げている。
 超至近距離、艦が接触して損傷を受ける距離での砲撃を撃ち交わしているために被害も相当だった。
 それでも何とか凌ぎ、多くのクルーの命を払い崩壊するシールドワールドから離脱出来て一ヶ月も経たぬ間にこの惑星へ。
 とりあえずはセリーナの懸命の努力で艦の原形を残し大地に巨大な爪痕を残すに留めたは良いが、二度と飛ぶ事は出来ないほどのダメージを負った。
 機械類の動作に必須の電力と、艦の推進力を生む核融合反応炉も大きなダメージを受けていた。

 だが幸いにも核融合反応炉は完全に使用できないほどではなく、処置や修理で継続して稼動させる事が出来た。
 しかし艦を形作る艦体には大きなダメージ、歪みが発生して船の工廠でなければ直せないダメージ。
 もしこのまま宇宙に放り出しても、満足に航行する事は出来ない。
 そんな状況では地力でこの惑星から脱出できるはずもなく、脱出できたとしてもこの惑星がどの銀河系にあるかすら不明な状態。
 救助を待つか、最悪それも諦めてこの惑星で暮らしていくか。
 取れるべき選択肢はこの二つしかなかった。

「救援を待つ方針を採ると思われますが、それが期待できなくなった場合の対策を講じる必要もあるかと」

 コールドスリープは十全に機能している、艦に致命的な何かが起こらない限りは後数百年はコールドスリープにて眠り続ける事が出来る。
 そのコールドスリープにて救援を待ち続ける事が出来なくなった際の行動、それを決めておかねばならない。

「今外に居る者たちと接触を図るか、戸籍システムが無ければどこか別の土地に移るなどの案もありますが」
「まずは彼らについて詳しく調べなければならんだろう、不用意に接触して戦闘になるのは避けたい」

 艦内の戦闘用車両や航空機など、不時着の衝撃で使えなくなっている物も多い。
 破壊力と言う点では主力戦車や爆撃機など、歩兵とは比べ物にならない。
 使用できる数が限られている以上、戦闘になる可能性があるため上手く運用しなければならない。

「アンダースの観察結果待ちですね」
「うむ」

 そうして一団、トリステインの調査団が撤退してから数日。
 変わらず艦内から観察している時、日が落ちて就寝の時間になったのだろう。
 調査団の動きが鈍り始め、歩哨が立ってから数時間。
 スピリット・オブ・ファイアの乗員や調査団の面々が予想だにしない事が起きた、それは百に届きかねない亜人の襲撃だった。
 正確に言うとコボルトだった、身長150センチほどの犬頭の亜人。

 そのコボルトが大挙して調査団に襲い掛かったそれは夜襲であった。
 だが調査団のメイジは優れた者たちばかりであった、トライアングルにスクウェア、一つの魔法でコボルトの群れを吹き飛ばす。
 そうなるはずであった、コボルトの群れの後方に居たコボルト・シャーマンが居なければ。
 数十のコボルトを焼き尽くす炎を土の壁で防ぎ、爆砕して砕け散った土の壁は土埃を起こす。
 その隙に乗じてコボルトはメイジへと襲い掛かり、メイジもやられまいと反撃を繰り出していた。

「一体何が起こっている」

 それをモニターを介して見る。

「見た通り、外に居る調査団が襲われていますね」
「……亜人とは随分と好戦的だな」
「むしろ想定通りでは? 犬頭に豚頭、これで人間並みの知能を保有していたらこの惑星の人間は戦いを強いられていたでしょうね」

 技術を生み出すだけの知能を有していれば、何らかの争いが起こっても不思議ではない。
 同じ人間同士でも些細な違いで争いが起きるもの、これほどまでに大きな違いがあれば起きないほうがおかしいだろう。

「介入しますか?」
「攻撃されかねんな、彼らには申し訳ないがここは観察する。 始まった戦闘は全て映像に収めてくれ」
「了解」

そうしてモニターに視線を戻せば、カッターの想像以上の戦いが繰り広げられていた。
 口を動かし何かを口走れば、手に持つ木の棒や金属製の刺突を主とした剣の先から火炎放射器も真っ青な巨大な火炎が噴出したり。
 氷柱の様な氷が空中に現れコボルトの群れの上に降り注いだり、風が渦巻き竜巻となってオーク鬼などを吹き飛ばす。

「………」
「なるほど、やはり『魔法使い』と言ったところでしょうか?」

 セリーナが言った通り、カッターは何も言えずにその映像を眺める。
 以前からカッターたちは集音にて調査団の音声も拾っていた、その理解できる言語の会話の中に『魔法』や『メイジ』という単語が出てきた。
 それはカッターが自身の子に聞かせ読ました童話のような現象、呪文を唱え杖を振れば不可思議なことが起きる魔法。
 その話の形態上の分類はファンタジーと呼ばれる物、不思議の国のアリスやオズの魔法使いなど。
 多くの者が知るそれは言葉通りの幻想、現実的な観念にて発展してきた科学技術によって足元を固めてきた人類にそんな物が実在していると信じる者は少ない。

 だが現在進行形で科学では説明できない出来事、夢物語のファンタジーに分類されるような事が起こっている。
 空に浮かび上がったのも実は高度な科学技術を用いていると、今映像で映し出されている風景も高度な科学技術にて構成されていると言った方がまだ納得できる。

「セリーナ」
「物理学上から見ればあれはまさしく自然現象ですね、炎は熱を感じられますし、氷は周囲の温度の低下が見られます」

 それを聞いてカッターは目頭を押さえる。

「……他に何か感知できるか?」
「そうですね、炎については燃える為に必要な燃料が見当たらないのでよく分かりませんが、氷でしたら周囲の水蒸気が急激に集まり、第一種相転移を起こして気体から固体へと変質しています」

 恐らくは液化熱にて急激に熱を奪っているのでしょう、その急激な液化熱を起こしている原理は不明で水蒸気が集まる原理も不明ですが。
 と、セリーナは続けて言った。

「まさに超常的な力か」
「言い得て妙ですね、科学的に説明できない事が多いです。 さらにあの竜巻ですが、どうやって大気に干渉しているのか全く持って不明です」

 一人の人間が持つ力にしては非常に大きい、一個の生物を殺すと言う点では銃に劣るが、複数の存在を纏めて葬るには生半可な銃より勝る。
 あれが誰にでも扱えるのかと言う点も非常に気になる、もしこの惑星の人間が皆魔法を使えるとしたら戦力的に拙い。
 白兵戦で下手をすればスパルタンでさえ負けかねない、あれだけの規模の街を作り上げるのだから千や二千では済まされない人数だろう。

「やはり接触は控えるべきか」
「要調査、ですね」

 そうして過ぎていく時間は十分にも満たなかった、襲撃を掛けた亜人たちはメイジたちの猛攻を受け散り散りになって逃げ出していく。
 それを見て調査団のメイジたちは鼻で笑う、貴族に歯向かうとは低俗な亜人め、と。
 音声を拾い、少しずつだが社会形態が見えてきた。
 逐一音声を拾って会話の流れから、話題に上がる単語から社会形態を推測し構築していく。

 いわく、魔法を使える者はメイジであり貴族でもある、支配階級として国を治めている。
 一方平民は魔法が使えない、社会の労働基盤となっている。
 魔法と言う点を除けば、何百年前の地球と似ているかもしれない。

「……教授、今の映像を見ていたかね」

 カッターの言った教授、エレン・アンダースはスピリット・オブ・ファイアに乗船する研究者。
 専攻分野は生物学に心理学などの博士号を持つ、人間を含めた論理的宇宙生物学を修める天才。
 出自としてはONI、海軍情報局から招かれスピリット・オブ・ファイアに乗船して、多数の地球外生命体で構成されるコヴナントの侵略行為などを調査をしている。
 人類とは懸け離れたコヴナントの種族からしてみれば、極めて人類に類似したこの惑星の人間はコヴナントよりも分かりやすいだろう。
 そのエレン・アンダースにカッターは通信を入れる。

『はい、正直に言って非科学的な事ばかりですね。 魔法と言う非科学的なものを除けば、ある程度人類と似通っていると分かりますが」
「教授、彼らと接触についてはどう思う」
『高い確率で何らかの事を要求されるかもしれません、貴族との接触は控え大多数を占めるでしょう平民から接触を図ったほうが得策かと」
「ふむ、教授、他に何か必要な情報はあるかね」
『そうですね、映像の亜人や周囲の植物のサンプルが欲しいですね。 大気は問題ないとは言え、何気ない植物の花粉など我々に致命的なダメージを与えるかもしれませんし」
「分かった、そちらの方は彼らが引かなければ難しいが採取の検討をしておく」





 その言葉は一週間も掛からず実現した。
 調査団が撤退を始める事となる、その理由はやはり亜人たちであった。
 翌日から亜人の夜襲が継続して行われ始めた、警備を残して寝静まる頃にだ。
 設営されている天幕に、警備の目を掻い潜って襲い掛かるのだ。
 中で寝ている者は堪ったものじゃない、幸い死傷者を出さず撃退できたがそれでも天幕などの被害が出た。

 亜人の中に戦術を理解している者が居り、挟撃や囮などに惑わされてついには調査団の一人が怪我を負った。
 朝から昼は調査に明け暮れるのだが、睡眠を妨害されては眠気でまともに調査など出来ない。
 明らかな嫌がらせだった、戦闘に明け暮れているわけでもないのに日に日に疲労が溜まっていく調査団。
 亜人風情が我慢ならんと討伐に向かうメイジも居たが、森の中でミノタウロスに遭遇して逃げ帰ってきた始末。
 増援の希望を出すのにも返答に一週間は確実に掛かり、その間に致命的な損害を受ける可能性もあるとしょうがなく撤退が始まった。

 無論装備や人員を整えて戻ってくるだろう、隅々まで調べ尽くす気はある様だった。

「どれ位で戻ってくるか、それが問題だな」
「以前に撤退した一団から予想して、数週間は掛かるでしょう」

 大きな翼が生えた白い馬に乗って飛んでいくメイジや、妙に腕の長い竜に乗っていく者など。
 地球やその他の植民地と化した惑星では見られない生物、それをモニターで眺めながら行動を決める。

「……良い機会か、レッドチームを出撃準備を掛けろ。 任務は周辺の動植物の採取だ」
「了解、海兵隊は必要でしょうか?」
「そうだな……、ODSTを完全与圧で準備を。 クロースクォーターズとシャープシューター、リコンをそれぞれ一個中隊ずつだ。 選抜はセリーナに任せる、能力最優先だ」
「作戦開始時間は」
「日没直前だ」
「1900、了解、レッドチームに通告します」

 セリーナの返事にカッターは頷き、更なる命令を出す。

「運搬用のワートホグやペリカンも準備だ」
「了解、未開の惑星での冒険とは心躍りますね」

 モニターを眺めながら心躍るだけで済めばいいが、とカッターはセリーナの声を聞いて考えていた。


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