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萌え萌えゼロ大戦(略)-31



 タルブの村が緊張に包まれていた時刻より時をさかのぼり……
まだ太陽が中天にある頃。トリステイン王国の王都トリスタニアにある
王宮。その大会議室は喧噪の中にあった。

「アルビオンへの即時派兵ですと?港の封鎖だけでは不十分だと
おっしゃるか!」
「……貴族派の兵力が壊滅状態にあるとは、到底信じられませぬな」
 居並ぶ貴族たちからアンリエッタ姫が提出した議案への反論が続く。
その多くは『レコン・キスタ』に懐柔された内通者。だが、彼らは
その尻尾を見せることなく、ゆっくりと自らの祖国を破滅へと導こうとする。
アンリエッタ姫は彼らの剣幕に臆することなく、落ち着いた口調で言葉を
発する。
「ギンヌメール伯爵率いる竜騎士隊第二大隊が継続して強行偵察を続けている
結果から導き出した結論です。
 ニューカッスル城郭周辺には焼け焦げた無残な骸が山のように野ざらしとなり、
またロサイスの船渠では大破した『レキシントン』号をはじめ多くのフネが
修復中とのこと。失われつつある王政を復古し、我が国を守るためには、
今打って出ることが重要なのです」
 アンリエッタ姫の元には、ギンヌメール伯爵からだけでなく『ゼロ機関』からも
情報が入っている。強行偵察を続行する第二大隊には徐々に未帰還が増えつつ
あり、それが敵側に属する鋼の乙女の仕業であることも、アンリエッタ姫を
焦らせていた。

(三十年前、おじいさまに味方し、若き日のギンヌメール伯爵や
『烈風』カリンとともにこの国の危機を救ったという『竜の羽衣』の
乗り手たちが今ここにいれば……。いいえ、ルイズの使い魔の
鋼の乙女、ふがくの力を今一度……)

 そこまで考えて、アンリエッタ姫ははっと顔を上げる。横にいる
マザリーニ枢機卿から「いかがしましたか?」と問われるものの、
曖昧な返事を返すことしかできなかった。

(わたくしったら、今何を考えていたのかしら?彼らは世に知られることを
拒んだ過去の伝説。それに、ルイズは兵器じゃありませんのに……)

 会議は踊る。されど進まず――トリステイン王国が正式にアルビオン
派兵を決定するまでには、まだ決定的な『何か』が足りなかった。


 時を戻し、タルブの村――部外者の立ち入りを禁じられている『オヤシロ』の
中で、タバサは祭壇へと歩みを進める。素足の一歩ごとに木の床が音を
立て、それがタバサに近づくことを考え直させている声にも聞こえた。
 それは奇妙な祭壇だった。すべて木製であることもそうだが、ガラスの
棺の横にはいくつものパーツを組み合わせて形作られたような奇妙な
鉄のフネらしき模型が置かれ、それらの後ろには固く閉じられた大きな
木製の門がある。裏手から回ったときの厚みからほとんど何かを格納する
余裕はないように思われるが、何故このような構造になっているのか、
タバサには理解できなかったし、その必要もないと思われた。
 タバサはゆっくりと祭壇を昇る。ガラスの棺の横にある奇妙な鉄の
フネの模型は、甲板上に構造物がほとんどなく、そののっぺりとした
甲板には薄い木の細板が敷き詰められ、白線で直線を組み合わせた模様が
描かれている。タバサが知っていれば、その外観はハルケギニアの
最新鋭艦種である『竜母艦』に近いと思ったはずだが、ガリア両用艦隊
(バイラテラル・フロッテ)にはまだ存在しない艦種であり、フネに詳しくない
タバサは事実それが思いつかなかった。
 ゆっくりと、タバサはガラスの棺を覗き込む。腕の立つ職人が作り上げた
クリスタルガラスが月光を受けて幻想的な輝きを放ち、中に眠るものを
神々しく浮かび上がらせる。

 そこには、一人の長い黒髪の女性が眠っていた。

「…………この人は……?」
 タバサはどこかにこの女性のことを記した手がかりがないかを探したが、
それらしきものは見つからない。
 女性は眠っているようであったが、呼吸をしているようには見えない。
ただ超然とそこにいる。それだけだが、その存在自体が神々しくさえ思えた。
 手がかりとなりそうなものはその衣装で、それはふがくが着ているものに
似ていた。出るところが出て引っ込むところが引っ込んだ女性として
羨ましくなるくらい魅力的な肢体を包む紺色のボディースーツのような
インナーの上に、緋色の布で裏打ちされた白い上着、緋色の丈の短い
スカート。スカートからこぼれる肉感的な太ももを包むのは、緋色の
止め紐がついた白いニーソックス。それらは長い時を経たらしく
ややくすんでいるものの、ほつれや破れなどどこにも見当たらなかった。
タバサが知っていればその衣装は千早と袴だと認識されたのだが、
今の彼女にそれを知るすべはない。
 タバサがガラスの棺の蓋に手をかけようとしたまさにそのとき。
『オヤシロ』の両開き引き戸が勢いよく開けられ、怒号が響いた。
「そこから離れろ!」
 驚きの表情とともに振り返るタバサ。複数の銃士が掲げる松明で照らされ
逆光になっているが、入り口に立っているのは憤怒の表情を浮かべた
銃士隊隊長、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。彼女は素足で
ずかずかと床を鳴らしながらタバサのところまで歩み出る。
「……ほぉ。ちゃんと靴を脱いでいたか。よく知っていたな。土足で
穢していたなら問答無用で斬り捨てていたところだ。
 入り口には鍵がかかっていた。どこから入った?」
「タバサ!」
「土足で上がるな!ここは神域だ」
 入り口から叫ぶキュルケを一喝し、アニエスは剣を抜いてタバサに
突きつけ問う。その冷たい表情は今にもタバサに斬りかかりそうな怒りを
押し隠している。タバサは嘘をつくことなく、それでいて真実をすべて
話すこともなく言った。
「散歩をしていたら奇妙なにおいが風に乗ってきたからそれを追った。
 そうしたら森の中で三人の男たちに囲まれて、なんとか逃げ出した後
老人に助けられてここに連れてこられた。
 入ったのは、この祭壇の裏。嘘じゃない」
「……老人?」
「黄色い肌の、人なつっこく笑う男の人。名前は聞かなかったけど、
アイツなら絶対わたしを助けると思ったって、この棺を見た」
「なんだと?それに祭壇の裏?バカな……そこを知っているのは
もうわたしとシエスタしかいないはずだ」
 タバサの言葉に、アニエスは片手で顔を覆う。その顔は信じられないものを
見たかのよう。しかし、それも一瞬のこと。気を取り直したように背筋を
伸ばしたアニエスは、無言のままガラスの棺の蓋をいとおしそうに指で
なぞり、言う。
「……確かに、お前の話を信じるなら、いや、あの二人ならばそうした
だろうな。そういう人だ」
 アニエスの言葉には、どこか遠くにいる相手を懐かしむような感じがする。
タバサは思わず問いかけた。
「……この人は?」
「わたしの育ての母だ。そして、お前を助けたのは……ありえん話だが、
そんな人間はこの村には一人しかいない。わたしの育ての父……五年前に
死んだ、な」

 ――そうして。タバサの身柄は銃士隊詰所に送られた。取り調べを
行うのは、隊長であるアニエス本人。ランプ一つと机、それに二人分の
簡素な椅子しかない殺風景な部屋で、二人は向かい合う。
「……お前は夢でも見ていたのか?」
 アニエスはタバサから事情を聞くやいなやそう断言した。無理もない。
タバサが挙げた、墓地の森で襲ってきたという軍人の名前は、アニエス、
いやこのタルブの村の人間であればそう思わずにはいられなかったからだ。
「嘘は言ってない」
 タバサは表情を変えず答えた。杖を取り上げられ、身体検査で武器を
持っていないことが証明されているタバサは、アニエスから目をそらさない。
アニエスは記録していたペンを置き、ゆっくりとタバサの後ろに回ると、
その小さな肩に手を置いた。
「いいか、お前が今挙げた名前の人間は、少なくとも半年前までに全員
死んでいる。いったいどこでその名を仕入れたんだ?
嘘をつくならもう少し考えろ」
「嘘じゃない」
「そもそも、お前の素性すらまともに話していないな。留学生だと言ったな?
貴族なら家名が言えるだろう?」
「…………」
「黙秘か。まあいいだろう。学院長オールド・オスマンに照会を依頼した
結果が戻るまで、しばらく留置させてもらう」
 アニエスはそう言うと指を鳴らして外に控えていた銃士を呼ぶ。
杖もなく縄をかけられ両腕を銃士たちに拘束されたタバサは、
抵抗することなく連れ出された。

「……タバサ、大丈夫かしら?」
 タバサの取り調べを、キュルケたちは心配そうに待っていた。
そのタバサが縄をかけられ両側から銃士に拘束された状態で出てくると、
その表情は一変する。
「タバサをどうする気?」
「身の潔白が証明されるまで、しばらく留置させよとの命令です」
 キュルケの問いかけに、銃士はそう答える。
「留置って……どれくらい?」
「魔法学院の学院長殿に、身分の照会を依頼しております。少なくとも
その結果が戻るまでは、この村に身柄を拘束されることになるかと」
「それじゃ一週間はこのままじゃない!タバサはわたしの同級生、親友よ!」
「そうは言われましても……」
 詰め寄るキュルケに銃士が困った顔をする。その肩を、コルベールが
押しとどめる。
「待つんだ、ミス・ツェルプストー。そんなことをしても状況は好転しない。
むしろ彼女の立場を悪くするだけだ」
「じゃあどうすればいいんですか!ミスタ!」
 コルベールに詰め寄るキュルケ。その顔をまっすぐ見るコルベールは、
苦渋の表情を浮かべながら彼女を落ち着かせるようにゆっくりと言葉を
紡ぐ。
「……待つんだ。わたしからも学院長に早馬で報告書を送る。我々も、
ミス・タバサの潔白が証明されるまで、この村で待とう」
 その言葉に、傍らにいるギーシュやモンモランシーも、反対することは
なかった。


 その二日後。タルブの村の状況を知らぬルイズは、学院長室に呼び出されていた。
彼女は昨日ワルド子爵に空路ラ・ヴァリエール領から魔法学院まで送って
もらっている。そのときにシエスタを抱えてなおグリフォンを置いてきぼりにする
ふがくの速度に子爵が舌を巻いたことは、余談である。
 学院長室には、オールド・オスマンとルイズの二人しかいない。
秘書であるミス・ロングビルは、東方のロバ・アル・カリイエから
取り寄せたという珍しいお茶を二人に淹れた後、席を外していた。
「旅の疲れは癒せたかな?」
 オスマンは優しくルイズをねぎらう。アルビオンへ姫殿下の密命を
帯びた旅、そしてラ・ヴァリエール領への帰郷。安らぎ以上につらく
悲しいことがあったのは、今更言うまでもないとオスマンは考えていた。
「おぬしたちの活躍で同盟が無事締結され、トリステインの危機は去った。
 アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝との結婚式も、来月執り行われることが
決定した。
 きみたちのおかげじゃ。胸を張りなさい」
 それを聞いて、ルイズは少し悲しくなった。幼なじみであるアンリエッタ姫は、
政治の道具として、好きでもない皇帝と結婚する。同盟のため、国のためとはいえ、
ルイズは、アンリエッタ姫の悲しそうな笑みを思い出すと、胸が締め付けられる
ような気がした。
 黙って頭を下げるルイズを、オスマンはしばらく無言のまま見つめていた。
それから、王宮から届けられた一冊の本をルイズに差し出す。
「――それで、王宮から『これ』をそなたへと……」
 それは古びた、ぼろぼろの本だった。飾り気のない革の装幀も長い
年月を経て触っただけで崩れてしまいそうになり、色あせた羊皮紙の
ページは、その年月を物語るかのように茶色くくすんでいる。古い本が
放つ独特の香りが、ルイズの鼻腔をくすぐった。
「これは?」
 ルイズは、怪訝な顔でその本を見つめる。
「『始祖の祈祷書』じゃ。
 王室の伝統で、選ばれた巫女がこの本を手に、式の詔(みことのり)を
詠み上げる習わしとなっておる」
「はあ」
 それは王室に伝わる伝説の書物。国宝である。多くの偽書が存在し、
それらを合わせれば図書館ができると言われるもの。だが、ルイズには
古書の収集癖がなく、またそこまで宮中の作法に詳しくなかったので、
気のない返事をした。
「その巫女に、ミス・ヴァリエール、そなたが選ばれた」
「はあ……え!?」
 惰性のような返事をするルイズ。だが、言葉を咀嚼するうちに……
真っ赤になって大声を上げた。
「えぇええ!?
 わっ……わたしが巫女に……!?」
「これは大変に名誉なことじゃぞ。
 王族の式に立ち会い、詔を上げるなど、一生に一度あるかないかじゃからな!」
 オスマンはそう言うと、ルイズに微笑む。一方で、ルイズはあまりのことに
困惑していた。
「で……でも、わたしなんかに、このような大役、務まるでしょうか……」
「これこれ……
 『わたしなんか』などと口にしてはいかん」
 気弱なことを言うルイズを、オスマンはそう窘めた。
「姫殿下の強い希望でそなたが選ばれたのじゃ。幼い頃ともに過ごした
そなたならば、姫の心が解るじゃろ?誇りを持って姫の気持ちを受け止めねば
ならんぞ」
 オスマンの言葉に、ルイズは幼い頃、アンリエッタ姫と遊んだ日のことを
思い出す。いつも笑っていた、お日様のような笑顔。
そして、それが今の姫の顔に重なった。
 ルイズは顔を上げると、オスマンと向き合う。その顔は真剣そのものだ。
「わかりました!謹んで拝命いたします!」


「――とは言ったものの……ねえ『伝説の剣』?」
 学院長室を辞して自室に戻ったルイズが、先程の勢いはどこへやら、
ベッドに突っ伏した。
「なんだ?『伝説の魔法使い』」
 部屋の隅に置かれたままのデルフリンガーは楽しそうに答える。
ふがくは今この部屋にいない。デルフリンガーによれば、シエスタに
呼ばれて出て行ったとのこと。そういえば、あの娘もなし崩しでわたしの
メイドになっちゃったのよねと、ルイズは思い出した。
「これって……アレよね?」
 ルイズはぼろぼろの『始祖の祈祷書』を両手で掲げ持つ。
「そう思うんだったら、『水のルビー』をはめて読んでみな。
まあ、娘っ子にはもう答えが分かってるだろうがな」
「う、うん」
 ルイズは机の引き出しから宝石箱を取り出し、鍵を開ける。大切に
しまい込んだ『水のルビー』を取り出すと、それを右手の薬指にはめた。
 『水のルビー』の輝きが増し、それと同時に『始祖の祈祷書』が同調
するように淡く輝く。ルイズはゆっくりと『始祖の祈祷書』のページを
めくった。『水のルビー』とルイズの『虚無』が、白紙に封印された
文字を浮かび上がらせる――


 これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。
 『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。
 『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。
 詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。
 したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
 選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。
 されば、この書は開かれん。

 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ


 以後は古代語の呪文が続く。読めたのは『始祖のオルゴール』から
学んだ『爆発』(エクスプロージョン)だけでなく、『幻影』(イリュージョン)と
『解呪』(ディスペル)と記される呪文も。だが、それでも白紙のページの方が
圧倒的に多い。読み終えた後、ルイズは呆然としてつぶやいた。
「ねえ、始祖ブリミル。この前も思ったけどやっぱりあんたヌケてるてん
じゃないの?
 この指輪がなくっちゃ『始祖の祈祷書』は読めないんでしょ?
その読み手とやらも……注意書きの意味ないじゃない」
 おそらくは、かつては王家に口伝があったはず。だが、それも六千年の
歳月が喪わせてしまったのだろう。まるで鍵をしまい込んだ金庫ね、と、
ルイズはあきれた。
「それ以外の呪文は、たぶん、娘っ子が必要になったら読めるはずだぜ」
「そう言われても、これ国宝だから、式が終わったら返却しないと
いけないのよね。
 っていうか、詔、どうしよ……」
 ルイズは頭を抱える。まさか『虚無』の呪文を現代語訳して詩にする
わけにはいかず……『始祖の祈祷書』を両手で抱えたままベッドに転がり、
再び大きな溜息をついたのだった。



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