あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔はじめました-21


使い魔はじめました――第二十一話――


キラキラした宝石が散りばめられた小箱。
開いた内側には、アンリエッタの肖像画が貼られている。
「宝箱でね……」
はにかんで笑う青年は、アルビオン王国の皇太子ウェールズだ。
その中から取り出した手紙を、じっと見つめた後で、
未練を振り切るように、ルイズにそれを手渡した。
「では、これをアンリエッタにお返ししよう」
「ありがとうございます」
それを神妙な面持ちでルイズは受け取った。
今、彼女達が居るのはアルビオンにあるニューカッスル城である。
正体を明かしたウェールズに連れられ、秘密の通路を抜けてここを訪れたのだ。
手紙を懐にしまいこみ、しばらく視線を彷徨わせた後、ルイズは問うた。
「殿下。王軍に勝ち目はないのですか?」
「無い、だろうね。何しろ向こうには悪魔がついている」
その言葉に、ルイズがぎょっと目を剥いたのを見て、
ウェールズは苦々しげに答える。
「一度、クロムウェルを戦場で見たことがある。奴の傍らには、
 明らかに、人ならざる姿をしたものが立っていたよ」
「その、オークや何か、あるいはガーゴイルではないのですか?」
首を横に振る。
「違った。一目見て分かったよ、あれは悪魔だ、と」
ルイズは慄いた。まさか、始祖ブリミルに祝福されたこのハルケギニアに、
悪魔が存在するなど、おぞましい、と。
「……こっちじゃ、魔族って珍しいのかな?」
その反応を見て、チョコが小さくサララに問いかける。
そうみたい、とサララも小声で答えた。
だんじょんの町では、魔族は珍しくない。それどころかお得意様だ。
一緒にダンジョンにも潜るし、敵として相対しもする、そういうお得意様。
サララは勘違いしている。珍しい、ではなく存在しないのだ、このハルケギニアには。
「奴らは、この国を征服し、ひいては世界さえ制すると嘯いているよ」
「まあ、何て恐ろしい……」
ルイズは、一瞬言葉を詰まらせた。そして、深く一礼する。
「殿下、失礼をお許しください。恐れながら、申し上げたいことがございます」
「なんなりと、申してみよ」
「殿下、トリステインに亡命なされませ!」
「ルイズ?!」
その発言に、傍らに控えていたワルドがぎょっとする。
その隣で、サララとチョコは『ぼうめいってなんだろう?』と首を傾げていた。
「それは出来ぬよ。私はこの国の王族だ。王族が、守るべき国を捨てて逃げて良いものか」
「ですが……!」
未だ納得できないルイズが声を荒げるのを、ウェールズは無理やり遮る。
「今から、城で最後のパーティーが開かれる。よかったら、参加してくれたまえ」
ウェールズは微笑んだ。白い歯が魅力的だった。
「……ルイズ、殿下の言う通りだ。さ、行きたまえ」
「よくわかんないけど、多分、このままここに居ても無駄だと思うよ」
チョコがワルドに賛同する。サララが、ルイズの手をとって部屋を出た。
後には、子爵と皇太子だけが残る。
「恐れながら、殿下に一つお願いがございます」
ワルドがウェールズに語った願いを、人間よりも優れた聴覚を持つチョコだけが、聴いていた。
そうして、その中身を、サララにだけ告げた。
ルイズには黙っておいた方がよさそうだ、と判断して。
それを聞いて、思うところがあったが、今はまだ、行動に移す時ではない、と、
ルイズを連れて、パーティー会場へ向かうことに専念した。
城のホールで行われたパーティーは華やかな、しかし悲壮なものだった。
皇太子に聞いた話では、ここの城が最後の砦であり、
明日の正午には、総攻撃が仕掛けられるというのだ。
数の差は圧倒的。参加している貴族たちは、明日の今頃、どれだけ生き残っているだろうか。
そう考えると憂鬱で、ルイズはため息を溢す。
「ボク達、ここに来るまで、戦争について、あんまり考えてなかった」
ハチミツが塗られた鳥を齧っていたチョコが、呟いたので、ルイズは彼を見下ろした。
サララ達の居た世界は、武器が流通し、戦闘を生業とする者達が居ながらも、平和であった。
少なくとも、サララとチョコはそう思っている。
「理解、できない。人間同士が、こんなにたくさん、殺し合うのが」
「……私だって、これだけの人が、死ぬ、なんて、想像もつかないわ」
ルイズとて、話や歴史としては知っていても、直接戦争に参加したわけではない。
殺し合いが行われているような、血生臭い現実は、遠いものだと思っていた。
でも、今は。こんなに身近に死がある。それが、恐ろしかった。
「ね、サララ。貴族は、逃げちゃいけない、って私言ったわよね」
ワインを飲んでいたサララに、ルイズは声をかける。
「でも……時には、敵に背を向けることも、必要なのかしら」
わかりません、と常にないような声で、サララが答える。
そして、昔、ある本で読んだ話なのですが、と語り出す。
人間が大好きな魔女が居て、でも、魔族に恋をした。
その魔族が人間を殺すのを、止めたかった、でも、止められなかった、そうです、と。
止められるものと、止められないものとがあって、この戦争も、
きっと、止められないものなんです、と。
ルイズは、サララを見下ろした。前髪に隠された表情は、読めない。
ただ、寂しそうだな、というのだけは、何となく分かった。
「止められない、のね」
ルイズも、寂しげに呟いて、目の前の人々を見据えた。
サララは思いを馳せる。人間が大好きなのに、魔族に、魔王に恋をした魔女。
遠い遠い昔の、自分の先祖、同じ『サララ』という名前の魔女は、
一体、どんな想いをしていたのだろうか、と。
彼女の読んだ本、魔女の日記の中からは、その『サララ』の想いは、読み取り切れなかった。
そう、戦争は止められない。でも、止められるものは、ある。
少し失礼します、とルイズに告げて、サララはその場を離れる。
傍にチョコを残しているから、何かあれば連絡が入るだろう。
サララが向かった先は、先に自室に戻った皇太子の下であった。
こんこん、と控え目なノックの音。
「誰だ?」
ウェールズの問いに、サララです、と答えが返る。
「やあ、使い魔君か。入りたまえ」
薄暗い部屋の中、ウェールズはアンリエッタの肖像を眺めていた。
恐らく、恋人に最後の別れを心の中で告げていたのだろう。
「遠い場所からメイジの商人、という話だったね、君は」
サララは頷く。
「……この戦争に、勝つ手段は売っていないものかね」
おちゃらけた様子で、問う。それは袋には入らないですね、と彼女も笑みを返す。
「そうか……、そうだな。いや、すまない。猫の手も借りたい有様でね」
ウェールズが話をしたそうだったので、サララはそれを聞くことにした。
「勝ちたいさ、本当は。ここは僕の国だし、アンリエッタにも、また会いたい」
怒りと、悲しみを浮かべた目を細めて、吐き出す。
「でも、それが出来ない。だから、潔く、死ぬしかないんだ」
ウェールズの、貴族のその考え方を、サララは理解できない。
それは多分、一度死んでも所持金さえ払えば甦らせてもらえる世界の在り方や、
それでもなお、自らの誇りより命を大事にする彼女自身の考え方によるものだろう。
敵の数は、数万。そんな人数を見たことがないサララには、見当もつかない。
そして、きっと自分が手を貸した所で、無意味だ、と分かってしまっている。
「それで、何か用事があってきたのだろう?」
問われて、サララは首を縦に振る。
せめてもの、餞にと彼女は袋の中からあるアイテムを取り出した。
そう、彼が最後まで敵に立ち向かって、死ねるようなあるアイテムを。
ルイズには教えていない。自分が残酷なことをやっている自覚はあるからだ。
渡したアイテムについて説明する。ウェールズは微笑んだ。
「贈り物に、感謝しよう。生憎、僕がお礼に渡せるものはないが……」
辺りを見回して、苦笑する。金に換えられるものは、戦争の資金に換えた後なのだろう。
差し上げたものですから、とサララは首を横に振った。
「そういえば、聞いているかね。ワルド子爵は、君の主と明日結婚式を挙げるそうだ」
はい、とサララは答える。だからこそ、それを贈ったのだ、という言葉は内に秘めて、
彼女はただ、いつも通りの笑顔を浮かべた。

そして、翌朝。
始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、ウェールズは新郎新婦の登場を待っていた。
礼拝堂に居るのは、彼の他にはサララとチョコだけだ。皆、戦争の準備で忙しいのである。
ウェールズも、式を終わらせればすぐ戦争の準備に駆けつけるつもりであった。
暗い紫のマントを身に着け、帽子にはアルビオン王家の象徴たる七色の羽がついている。
扉が開いて現れたのは、誰だろう、ワルドとルイズである。
ルイズは、ワルドになすがまま、と言った態でぼんやりとしている。
借り入れた新婦の冠と、純白のマントの清楚さが良く似合う。
サララは、膝の上にチョコを乗せ、傍らに袋を置いている。
式さえ終われば、彼女達はグリフォンによってトリステインへ戻る予定である。
予定は未定、という言葉は昔から存在するわけだが。
「では、式を始める」
ウェールズが詔を告げる。ワルドはルイズを新婦とすることに同意した。
次は、ルイズの番である。ここに至ってようやく、彼女は自分が
結婚式の真っただ中であることに気が付いた。
隣に立つのは、憧れの子爵様。自分の恋を叶えることが出来なくなった王子様を、証人に。
なんともロマンチックであったが、ルイズの心は動かない。
気分は沈んだまま。とてもではないが、結婚出来ない。
「ルイズ……、緊張しているのかい?」
ワルドに声をかけられて、そちらに向き直る。
だが、どうしても彼の顔が見られない。戸惑いにそらした視線の先に、サララが居た。
ああ、そうだ、と思う。自分はまだ、結婚なんか出来やしない、と。
「ごめんなさい、ワルド様。私、まだ結婚できないわ」
「何……?」
スッ、とワルドの声の調子が変わった。びくり、とルイズは身を振るわせる。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
驚いたウェールズの言葉に、それでもルイズははっきりと答える。
「はい。私はこの結婚を望みません」
自分が結婚するのは、あのサララに負けていない、と
胸を張って言えるようになってからだ。今の自分は、未熟過ぎる。
「そうかい……いやあ、残念だったね、ワルド子爵」
心底残念そうに、ウェールズはワルドへ向き直った。
「……僕のものになってはくれないのかい?」
ワルドの声が、怖い。ぬめり、と湿度を持って体中を這い回るような感覚。
ああ、そういえば前に見た、彼が蛙になってしまう夢は、
ひょっとしたら、これの予知だったのかもしれない。
「だったら、諦めよう。僕の目的は、二つあったんだ」
「ワルド様、何を……」
「一つは、君を手に入れること。そして、もう一つは」
瞬間。ワルドは二つ名に相応しい、閃光の速度で杖を抜き、呪文を詠唱を完了。
「貴方の命だ、ウェールズ殿下」
風の刃を纏った杖が、ウェールズへ向かって突き出される。
瞬間、己を襲った錯覚にワルドはうろたえた。
ウェールズの姿が、始祖像の影に紛れて、消えたように見えたのだ。
杖は、空しく彼の隣の空間を通過する。
しかし、その戸惑いも一瞬のこと。かわされる可能性も視野に入れていた。
こちらを振り向き、杖を構えたウェールズの背後。
そこに、仮面を着けた男が杖を振りかぶっている。
「ウェールズ様!」
ルイズの悲鳴は、遅い。仮面の男は、彼が仕込んでいた風の遍在だ。
咄嗟に振りかえったウェールズの胸が切り裂かれる。
今度こそ殺った、と口元に笑みを浮かべた。
次の瞬間に、突如としてその場に崩れ落ちる。
「ぐっ?!」
ワルドの体を、一本の剣が貫いていた。
水色の刀身を持つそれを握りしめていたのは。
「サララ!!」
ルイズの、困惑と喜びに満ち溢れた声が礼拝堂に響く。
「貴様……、読んでいたのか……ッ?!」
相手の顔色を読むのは、商人の十八番ですよ、と不敵に笑った。
「成程、そういうことかね!」
そう愉快そうな声を上げたのは、先程切られたはずのウェールズだった。
油断しきっていた仮面の男を一閃する。
「君のくれたお守りのお陰で助かったよ」
首から下げ、服の中にしまっていたお守り。
それが、風の刃が致命的な怪我を与えるのを防いだのだった。
サララは、ワルドのことを、商人の勘から訝しんでいた。
もし彼が敵の内通者なら、望むことは何か。
目的の一つが恐らくルイズだというのは、やたら構いたがっていたので分かった。
そして、もう一つは、と考えていた彼女は、ワルドが
この式を挙げる立会人に、ウェールズを指名したことで気が付いたのだ。
彼の目的が、ウェールズの命を奪うことにある、と。
それを阻止するために、サララは彼にあるアイテムを渡した。
一つは、彼が身につけている暗い紫のマント。闇に紛れる力を持ち、
敵からの不意打ちを防ぐ、『闇のまとい』
もう一つは、彼が首から下げていたお守り。致命的な怪我を防ぐ、『厄除けのお守り』
それらが、ものの見事に効力を発揮して、ウェールズを卑劣な不意打ちから守ったのである。
ワルドの体を刺し貫いたまま、サララは告げる。
早く、本体も姿を見せたらどうですか、と。
「……くくく、そこまで読まれていたか」
笑い声。すぅ、と貫かれたワルドの体が風にかき消えた。
ばん、と開いた礼拝堂の扉。そこに、ワルドが立っている。
「いやはや、恐れ入ったよ。どうやら、本気でかからねばならぬらしい」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、ワルドが呪文を唱える。
「ユビキタス・デル・ウィンデ」
一つ、二つ、三つ、本体を含めて、三人のワルドが姿を見せた。
チョコは全身の毛を逆立て、袋を咥えてサララの後ろへ、
ルイズとウェールズを守るような位置に陣取った。
やっぱり、とサララは呟く。
彼女が握っていたのは、幻に対して威力の上がる、その名も『まぼろしの剣』
「多少、アイテムの使い方は上手いようだが、ガンダールヴでもあるまいに!
 僕に、僕達に勝てるものか!!」
「ガンダールヴ……あーそうだ、相棒のお仲間だな」
袋から顔を出したデルフリンガーが、かちゃかちゃと鍔を鳴らす。
「俺っちも、昔はそいつに握られてたもんさ」
「こんな時に思い出話なんかしてる場合じゃないだろ!」
チョコがデルフリンガーを窘める。
「まずは、その厄介な剣から処分させてもらおうか!」
唱えられたのはウインド・ブレイク。サララの手から、まぼろしの剣が吹き飛ばされる。
始祖像の手前まで飛ばされた剣を拾いに行く余裕はない。
デルフリンガーを手にし、袋の口から出た紐を腰に巻きつける。
不格好だが、正面突破で勝てる相手ではない。
あらゆる搦め手を使わなければ、自分達にきっと先は無い。
いつにない緊張感を抱いたまま、サララはキッ、とワルドを見据えた。
前髪が邪魔をして、その険しい視線は誰にも気づかれなかったが。



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