あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-19


 かつてマシンホークを駆り、大門豊と闘った男。秋月玄。
 彼はΣ団に恩があったわけではない。ただ、大門豊に、ザボーガーに匹敵するマシンホークの主として、勝負を挑んだだけだった。そこに善悪は存在しない。少なくとも、彼自身の思想でΣ団に与したわけではなかった。
 二人の戦いは一度では終わらなかった、そして戦いの中で、秋月は一人の少女と知り合う。
 秋月と同じく孤児として育った少女は、いつしか秋月を実に兄の様に慕い始めた。
 そして秋月はその少女……冬子のためにも大門との戦いを終わらせようと決意し、最後の戦いを挑んだ。
 結果として大門に敗れた秋月は、戦いからきっぱりと身を退くことを決意する。
 秋月は、冬子の暮らす孤児院施設「太陽の家」へ、彼女と共に向かっていた。

 そこで何かあったのかは、今となってはわからない。いや、とうの本人達にも何が起こったのかは正確にはわからなかったのかも知れない。

 気を失った二人が次に気づいたとき、空には二つの月が輝いていた。
 二人はどうにか近くの村へとたどり着き、紆余曲折の末、その村に永住することとなった。
 村の名はタルブ。
 元々流浪の人生を歩んでいた秋月と、身よりのない冬子である。行くところのない二人をタルブの村人達は受け入れた。
 もちろん、最初から簡単に受け入れられたわけではない。そのため秋月はマシンホークを駆り、村の危機を何度も救うこととなる。
 いつしか村にとけこみ、村の用心棒のような位置にいた彼の前に現れたのが、烈風カリンだった。
 二人は共闘し、ある巨大な危機から村を救うこととなる。

 その後、秋月は一生を独り身のまま暮らし、この世を去った。
 しかし、彼は村人と結婚した冬子の息子を、自分の子の様に可愛がった。マシンホークの操作を子供に、そしてさらにその娘に教えた。
 冬子の孫であるその娘の名はシエスタ。

 シエスタが初めてザボーガーを見たときに思い出したのは、マシンホークである。しかし、マシンホークの存在はタルブの秘密とされていた。
 それは、カリンの忠告でもあったのだ。
 カリンは異世界から来たという秋月の話を最終的に信じ、そのマシンが余人に渡ることはハルケギニアのためにならないと判断したのだ。
 今ではマシンホークに乗るのは事実上シエスタだ一人だ。彼女にしても、普段から乗り回しているわけではない。
 学院でルイズからザボーガーを見せられたシエスタはタルブに里帰りした後、確認の意味も含めてマシンホークを動かしていた。
 そしてその途中、サモンサーヴァントによってアルビオンへと召喚される。
 彼女を召喚したのは、サウスゴータ近くのウェストウッド村に住むティファニアという少女だった。
 シエスタはティファニアの境遇を知り、使い魔ではなく友人となった。二人は話し合い、シエスタはタルブに戻ることになった。
 そこで彼女を待っていたのが、今ではカリーヌと名乗るカリンだった。

「黙っていて申し訳ありません、ルイズ様」

 シエスタの謝罪をルイズはあっさりと受け入れる。黙っていた理由は理解できるものであったのだ。
 ザボーガーの様なものがタルブに村にあると知られれば、良くてアカデミー、悪くて無遠慮な好事家がやってきて、代償が与えられるならまだしも、無償でマシンホークとやらは奪われかねない。
 平民に過ぎたアイテムだと言われれば、返す言葉はないだろう。
 それになにより、カリーヌの忠告である。ルイズに逆らえるわけがない。

「いいのよ。それより、そのマシンホークはここにあるの?」
「はい、あ、あの、室内に入れるわけにはいきませんから」

 ルイズが振り向いて何か言うよりも早く、アンリエッタは立ち上がっていた。

「構いません。マシンホークとやらをここに。ルイズ、貴方のザボーガーも呼んでください。アニエス、銃士隊を展開して、余計な騒ぎを起こさぬよう」
「はっ」

 速射破壊銃の銃弾のこともある。最初から、そのつもりでこの部屋にいたのだ。
 アニエスはすぐに銃士隊を廊下に並べ、無関係な者が近づかない様に対処する。
 その中をまずはザボーガーが電人形態で。そしてその後ろを歩くのは同じく電人形態のマシンホークであった。
 ザボーガーに比べるとホークはより鋭角的なフォルムを持ち、見ようによっては華奢に見える。これは、ザボーガーが基本的に重戦志向であることに対し、ホークが軽戦志向であるためだろう。
 実際に電人形態のホークの機動力はザボーガーよりも高く、火力が劣っている。
 また、ホークは短期間ならば飛行……正確には跳躍からの滑降……が可能だ。

「これがホークですか」

 二機に見惚れる様に眺めているアンリエッタ。
 ハルケギニア既存のゴーレム類とは明らかに異なったフォルムに、アンリエッタは魔法を使う者としての興味を惹かれていた。
 そしてマザリーニは超技術に対する目で、アニエスは兵器に対する目でそれぞれ、ザボーガーとホークを見つめている。

「ルイズ」
「はい。母さま」
「貴方は虚無に目覚めたのですか」

 瞬間、ルイズとアンリエッタは互いの顔を見合わせる。そして、すぐにアンリエッタはシエスタを見た。
 シエスタがヴィンダールヴだとカリーヌは確かに言った。
 ならば、今更ルイズの虚無を隠し立てする意味はない。ザボーガーの存在を明らかにすれば、どうしてもガンダールヴの話も出さざるを得ないのだから。

「はい」

 ザボーガーを召喚したことから、ガンダールヴとなったこと。そして、アルビオンへ向かったことをルイズは余すことなく告げる。
 自分がアルビオンへ向かったわけ、腑抜けた頭をギーシュ達に冷まされたことも。
 そして、ワルドの裏切りを。

「母さまに、お聞きしたいことがあります」

 それはワルドの言葉。

「国は母を愛さなかった」
「そうか。やはり貴様も、あの女の血筋という訳か!」
「巫山戯るなッ! 貴様らに、僕の母の何がわかるッ!」
「ははっ、ルイズ。みっともないなぁ。名門の娘が、ヴァリエールの娘が、あの女の娘が、ずいぶんとみっともないじゃないかぁ!」

 戦いの中での悪口雑言。戦いの中であればそれはある意味当たり前なのだろう。ワルドとて常軌を逸していたのだろうから。
 だが、しかし、それにしては、とルイズは思っていた。
 何故、母さまが出てくるのだろう。
 いったい、ワルドと母さまの間に何があったというのだろう。

「そうですか。ワルドがそのようなことを」

 カリーヌには身に覚えなどない。ワルドが自分を憎んでいる理由など……
 いや。果たしてそうだろうか。
 自分が思い至らないだけで、ワルドにとっては充分な理由があるのかも知れない。
 人の恨みなどとは、そんなものだ。

「今の私には思い至る節はありませんが、出来るだけ思い出してみましょう」

 それが、ワルドが今の状態へと導かれた理由に繋がるのかも知れないのだ。
 アンリエッタはメイドを呼び出し、六人分の夜食を準備させる。
 話は長くなる、と六人ともが思っていた。
 ザボーガーのこと、ホークのこと、アルビオンのこと。話すべき事はいくらでも出てくるのだ。
 まず、カリーヌはシエスタに話を促した。



 決して近づいてはならぬモノがある。
 竜の世界に古文書などはない。人とは違い、韻竜の歴史を口伝だ。
 故に、「記すことすら憚られる」モノを、竜は「語ることすら憚られる」モノと呼ぶ。
 そしてシルフィード、いや、イルククゥもそれを知っている。
 それは、人の精神を、いや、生命体の精神を破壊し操るモノ。
 それは、異形の魔戦士を生み出し、駆使するモノ。
 だから、シルフィードはタバサの前に立ちはだかっていた。

「駄目なのね。これ以上は絶対に駄目なのね」
「どいて」
「お姉さまは、アイツの所へ行くつもりなのね! それは危ないのね!」

 二人の様子を、カステルモールの身体を操る地下水が面白そうに眺めている。

「おいおい、使い魔は主に絶対服従じゃなかったのか」

 言ってから、地下水は笑う。

「ああ、うちのミョズニトニルンも主にゃ反抗的だったな」
「ミョズニトニルン……?」
「知らなかったか。今のガリア王は虚無だ」

 タバサの視線が揺らぐ。
 それは、ジョゼフの力の一端を知ったために。
 一国の王にして虚無使い。自分との差が、どれほどだというのか。
 何故、これほどの差がつくのか。
 血のにじむ思いでトライアングルになった自分すら、何の意味も無いというのか。
 ならば、必要な道は一つではないのか。

「お姉さま」
「邪魔をしないで」
「違う。シルフィのお姉さまは、そんなことは言わないのね!」
「邪魔」
「お姉さま」

 タバサの杖が上下に動いた。
 頭を殴られたシルフィードの顔が驚愕に歪む。
 殴られたことは初めてではない。それでも、こんな理由で殴られたことなどない。
 シルフィードは、思わず一歩引いていた。
 タバサは無言で、開けられた道を歩く。
 後を追いかけたシルフィードは、タバサが館の中へと進むのを見て人化する。
 タバサの後ろをシルフィード、そしてその後ろを地下水が進んでいく。
 シルフィードの顔は真剣に、唇を堅く噛みしめ、視線は真っ直ぐタバサに向けられている。
 やがて三人は、閉ざされた扉の前で歩みを止める。
 振り向いて地下水を見るタバサ。間にいるシルフィードには視線すら向けない。
 地下水はタバサの前に出ると、ドアに仕掛けられたこの世界にはそぐわない装置を操作する。
 ゆっくりと開くドアに、シルフィードは何を感じたのか悲鳴の様に喘ぐ。

「駄目なの、お姉さま。悪いモノが、邪悪なモノがいるの!」
「今の私には、それが必要」
「……お姉さま?」

 タバサは振り向きもせずに入ってきた方角、シルフィードの背後を指し示す。

「さよなら、シルフィード」
「……え」

 立ちつくすシルフィードを置いたまま、タバサは足を速める。
 シルフィードの視界からタバサを隠す様に間に入る地下水。

「退くのね、お姉さまが追えないのね」

 地下水が、わざとらしくよろめいて道を開ける。
 シルフィードの前に、タバサの元へと続く道が生まれる。

「いかんな。この人間の身体、思ったより脆いぞ」

 きゅい、と一声大きく啼いたシルフィードが走る。
 地下水の横を走り抜け、さらに地下へと続く扉を潜り抜け、タバサの後を追う様に部屋へと入り込む。そこには、まるで広間の様に巨大な地下室があった。
 そして、シルフィードは凍り付いたかの様に動きを止める。

 ……韻竜か。

 部屋の向こう側、闇に閉ざされた一角から波打つようにもたらされる気配。
 間違いはない。シルフィードに直接の面識はないが、この気配に間違いはない。
 邪悪なる竜。

 ……好きに呼べ。三ッ首、ドラゴーンの神、リーヴスラシル。全て、余のことだ

 どのような名で呼ばれようとも、その本質に変わりはない。
 否定すべきモノ。
 邪悪なるモノ。
 遙かな世界へ棄てられたモノ。
 だから、シルフィードにはわかる。
 自分は三ッ首には逆らえない。韻竜は、魔竜の前に頭を垂れるしかない。
 だが。

「どうして、こんなおチビなのね」
 ……ほう?
「こんなおチビじゃ、三ッ首さまのお役に立てるわけがないのね」

 周囲が広い空間になっていることを確かめると竜の姿に戻り、シルフィードはタバサを睨みつけていた。

「こんな役立たずのニンゲンより、シルフィのほうが三ッ首さまの役に立つのね」
 ……韻竜の子よ。余に仕える、と?
「韻竜は魔竜に勝てないのね。それが竜のさだめなのね。逆らうのはお馬鹿なのね。だけど、このおチビはもっと役立たずなのね。だから、棄ててしまうのが一番良いのね」

 シルフィードはタバサを頭から呑み込もうとする。

 ……余の役に立たぬものは棄てるか
「それがいいのね。シルフィが棄ててくるのね」
 ……お前の主ではないのか?
「いつもシルフィのことを殴るし、ご飯も少ししかくれない、駄目駄目なご主人様なのね」
 ……故に棄てるか
「棄ててくるのね。三ッ首さまのお役に立つのは韻竜のシルフィが相応しいのね」
 ……棄てる必要はない
「棄てるのね。役立たずのおチビがここにいても仕方ないのね」
 ……ならば、食らえ
「はい?」
 ……そのニンゲンを食らえ。骨を砕き、肉を噛み千切り、血を啜れ
「おチビは……不味いのね」
 ……ならば、殺せ。余の前にその生首を献上せよ
「す、棄ててくるのね」
 ……殺せ。噛み殺せ
「棄てて……」
 ……噛み砕け

 顎に力が入りはじめたことにシルフィードは気付く。
 それは、自分の意志ではない。
 慌てて制御しようとして、自分の意志を裏切る身体を目の当たりにする。

「韻竜は魔竜に逆らえない」

 それは、文字通りの意味でもあったのか。
 シルフィードは、身体ごと頭を振り回してタバサを吐き出した。

「あ……あ……お姉さま……」
「三ッ首さまが呼んだのは、私」

 タバサは何事もなかったかの様に立ち上がり、シルフィードに背を向けると歩き出す。

「邪魔者は帰りなさい」
「お姉さま!」
「帰れ。イルククゥ」

 もう、シルフィードではない。
 タバサの言葉は、シルフィードを拒絶していた。

「お姉さま……シルフィは……」
「お前は、イルククゥ」
「シルフィは、シルフィなのね!」

 ゆらり、と一角の闇が動いた様な気がした。
 瞬間、タバサの杖が掲げられ、呪文が唱えられる。

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」

 氷の矢群に襲われ、悲鳴を上げて後ずさるシルフィード。

「邪魔。何処かへ行って」

 小さく、囁く様に、しかしはっきりとシルフィードに伝わる声が追加される。

「早く!」

 口を開きかけたシルフィードは、その言葉を呑み込んだ。
 そして、韻竜の感覚がタバサを見る。
 シルフィードは理解した。
 人の姿をとり、振り向いて駆け出す。
 韻竜の感覚は知った。タバサが既に三ッ首に捉えられていること。シルフィードは知らず、それはかつてのイザベラの母と同じ状態だった。
 三ッ首は知っている。同じ血を引く者に対してであれば、同じ操作ができること。そして、ミョズニトニルンとなっているイザベラには効果が薄いこと。
 故に、タバサなのだ。
 操作されつつあると気付いたタバサはシルフィードを逃がしたこと。しかし、三ッ首にとってはどうでも良いことだ。
 ハルケギニアに、自分に対抗できるものはいない。
 かつて地球でストロングザボーガーと相撃ちになったときは、地球上であるという理由で自分の力は万全ではなかった。
 今は違う。この地ハルケギニアであれば、例えザボーガーといえども自分を倒すことは出来ない。
 負ける要素はない。
 ただ、無様に足掻く姿を愉しむだけ。

 ……さて、タバサ。余に仕えるのなら褒美をやろう

 タバサは闇を見つめる。
 まだだ。
 まだ、操られ切っているわけではない。
 最初に異変を感じたのはジョゼフから離れた直後。あの部屋に何らかの仕掛けがあったに違いない。薬だろうか。
 意識は少しずつ薄れていく。気絶ではなく、自分の意志が欠けていくのがわかる。別の意志が自分の中に生まれているのがわかる。
 だが、それも見覚えのない意志ではないのだ。
 昔聞いたことがある。

「洗脳では、本当に自分が望まないことをさせることなど出来ない。ほんの小さな欠片でも意志があれば、それを増幅するのが洗脳というものだ」

 ならば、これは自分の中で押さえつけていた意志。
 そうだ。あの時、土くれのフーケに看破された自分。

「あんたも“人でなし”なんだね」

 “人でなし”としての自分。父さまの仇を討つために、母さまの無念を晴らすために……。
 自分であって自分でないものが、自分の中で膨らんでいく。
 自分でない自分になっていく。
 今なら。今ならまだ。
 シルフィードは逃がした。きっと、あの子ならキュルケやルイズの所へ行ってくれる。
 ザボーガーなら、きっと……
 まだ、三ッ首に全てを委ねてはいけない。闇に身を投じてはいけない。
 それがどれほど甘美なワナであろうとも。

 ……ジョゼフの命など、くれてやろうか?

 どくんと大きな音がしたような気がした。

 闇は、あまりにも甘美だった。





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