あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

天才と虚無-02




「あんた、だれ………?」

 桃金色の髪をした少女にそう問われた時、レメディウスは混乱の極致にいた。
 おかしい。
 レメディウスは思考する。
 自分は先程まで、ウルムン共和国で牢獄に幽閉されていたはずだった。
 ウルムンとはツェベルン龍皇国の南西に位置している、砂漠の国だ。
 少なくとも絶対に、こんな果てがあるのか怪しい平原は存在しない。
 また、自分は牢獄にいたはずなのに、鉄格子はおろか、自分を囲っていた石壁のかけらすら見つけることが出来ない。

「えっと、あ、あれっ?」

 なにが起こったのかまったくもって見当がつかず、レメディウスは周囲を見渡す。
 しかし、視界に入るのは平原と、その先にある中世風の建築物。それと、目の前の少女のみ。
 レメディウスに理解できたのは、少なくともここがウルムン共和国以外の何処かであるということだけだった。

(って、少女?)

 きょろきょろとさまよわせていたレメディウスの視線が、少女のそれと交錯する。
 レメディウスと同じく白色系人種で、瞳は鳶色。
 唯一見慣れないのは桃金色の髪だが、染めてあるのとは違うのだろう。染色独特の違和感などが無かった。

「あのぅ――――――」
「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」

 誠に失礼ですがここはどちらでしょうか。
 そう続けようとしたレメディウスの言葉は、不意に誰かが発した言葉によって遮られた。

「あの格好は平民って言うよりは奴隷か何かじゃないか?」
「ははっ! あんな格好、うちの使用人だって恥ずかしくてさせられない!」
「奴隷を呼びだすなんて、流石ゼロのルイズじゃないか! 絶対にまねできないな!」

 視線を向ければ、そこにいるのは二〇から三〇人ほどの、一様に同じ格好をした少年や少女。
 年齢からして学校の制服だろうか? レメディウスに取って不思議だったのは、全員が同じ色のマントを着けていることだった。

(あんまり、いいかんじはしないなぁ………)

 召喚、平民、ゼロ、と幾つか聞き慣れない単語が出てきたが、恐らく罵倒の類であることがレメディウスにも理解できた。
 そして、恐らくその言葉を向けられているのは目の前の少女だろう。
 名前は多分、ルイズだろうと、少年らの言葉から推測する。

「うるさいわね! 少し間違っただけよッ!」
「少し間違っただけって、ルイズはいつもそうじゃないか!」

 ルイズというらしい少女が、少年へと怒鳴る。
 それを聞いた別の少年がさらに囃したて、その言葉にほかの少年たちが笑いに包まれる。
 桃金色の髪をした少女は、怒りと羞恥の入り混じったような表情浮かべると、真後ろを振り返る。
 レメディウスが視線を辿ると、ローブを着た禿頭の男がそこに立っていた。

「ミスタ・コルベール! 再召喚を要求します!」
「それは許可することができないな、ミス・ヴァリエール」
「しかし、彼は人間で、しかも平民です!」

 少女がレメディウスを指差す。

「これは伝統なんだ。ここで召喚された使い魔から、進むべき系統を見極める。一度召喚されてしまった以上、好む好まないに変わらず、彼を使い魔にするしかないんだ」

 禿頭の男が、少女の両肩を掴んで、諭すように言った。

 口をはさめる雰囲気ではないため、レメディウスは沈黙したまま成り行きを見守る。
 使い魔とは確か、幻想文学における魔法使いの下僕だったろうか? と頭の片隅で考えた。

「さて、では彼と儀式を続けなさい」
「えぇ……彼と?」
「そうだ。早くしないと、次の授業が始まってしまうからな」

 少女の瞳が、困ったようにレメディウスを見つめる。
 まったくもって状況が理解できていない自分に助けを求められても困るのだが、とレメディウスがその目を見返した。

「ねえ」

 少女がレメディウスに声をかける。

「うん?」
「あんた感謝しなさいよね。平民のあんたが貴族にこんなものしてもらえるなんて、普通は一生ないんだから」
「いや、僕も一応は爵――――」
「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

 爵位を持ってる、そう言おうとしたレメディウスの言葉を遮って、少女が言葉を紡ぎ始める。
 瞬間、レメディウスは声を紡げなくなった。
 少女の躯から、人間にしては強すぎる咒力が溢れて、流れ出しているのを感じ取れた。
「五つの力を司るペンタゴン」

 凄まじい勢いで咒力が少女の躯から溢れ、うねる。
 奔流は少女の握る杖の先端に収束し、レメディウスには知覚できない方向へと流れを変える。

「この者に祝福を与え――――」

 少女の言葉が続く。
 咒印組成式の隠蔽された、しかしあまりに巨大な咒式が完成しつつあることを、レメディウスは感じ取っていた。
 何が起きているのか、察することすらできない。少女に問いたくても、口が動かない。
「使い魔となせ!」
「……………えっ?」

 瞬間、構築されていた咒式が、燐光一つ残さずして消失した。
 少女の躯から流れる咒力の奔流が止まり、量子干渉の気配が感じ取れなくなる。
 そのことに呆然とし、レメディウスは次の瞬間に起こったことへの反応を遅らせた。

「んっ………」

 くぐもった声が、青年の耳朶を打つ。
 少女の桜色の唇が、レメディウスのそれに重ね合わせられていた。

「へっ? な、えっ? はっ?」

 困惑したレメディウスの口が、言葉を紡ぐのをやめる。言葉にならない疑問符つきの声だけが喉の奥から零れた。

「終わりました」

 少女はそんなレメディウスをしり目に立ち上がり、口元をハンカチでぬぐいながら言う。
 もしかしてこれが『儀式』とやらだろうか?
 いったい何の意味が?

「サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんと成功したようだね」

 禿頭の男が嬉しそうに言う。

「相手が平民だから成功したんだよ!」
「そいつが高位の幻獣だったら絶対に契約は失敗だって!」

 少女が失敗しなかったことが面白くないのか、少年たちが不満げな声を上げた。

「五月蝿い! 私だってたまには成功するわよ!」
「ほんと、たまによね。ゼロのルイズ」
「ミスタ・コルベール! 洪水のモンモランシーが私を侮辱しました!」
「ちょっと、誰が洪水よ! 私の二つ名は香水でしょ!」

 金髪のよくわからない髪型をした少女と、桃金色の髪をした少女が怒鳴り合う。
 はて、「サモン・サーヴァント」「コントラクト・サーヴァント」とはいったい何のことだろうか?
 聞いたことのない単語に、レメディウスが再度首をひねる。
 直後、レメディウスの左手に、灼熱が走った。

「――――――っ!? な、なに!? これはいったい!?」

 レメディウスの視線が、自分の左手を捉える。
 手の甲に輝くのは光。何らかの文字のようにも見えるそれは、確かな熱量を持ってレメディウスを責めさいなむ。

「使い魔のルーンが刻まれてるだけよ。じっとしてなさい」

 ルイズが冷やかに言う。

「使い魔のルーン…………? あ、終わった」

 左手の甲が発光をやめる。
 光が消えた後、レメディウスの左手の甲には、古代イプカ文明の文字に類似しつつも微妙に違う文字が幾つか、並んでいた。

「な、なにこれ………」

 続く理解不能な展開に、レメディウスが辟易する。
 こういうことをするのなら先に言ってほしい、というか、他人の体に勝手にこういうものを刻むのはいったいどうなのだろうか?

「ふむ、珍しいルーンだな…………」

 禿頭の男がレメディウスの左手を覗き込み、その文字を手に持っていた写生帳に書き写した。
 恐らくこの文字はルーン文字という名前なのだろう。

「ガン……ダ…ルフ……?」

 イプカ文字で無理矢理に訳して読むなら、こんな感じだろうか?
 しかしレメディウスは、それに類似する言葉を知らない。
 読み方が違うか、何かの名称か。或いは、文字列そのものには意味が無いのかもしれない。
 レメディウスの思考と呟き声は、しかし誰の耳に届くこと無く虚空へ消えていった。

「ではみなさん、教室へ戻りますぞ!」

 禿頭の男はそう言ってローブを翻す。
 そのまま踵を返すと、手に持った杖を一振りし、宙へと浮き上がった。

「!?」

 レメディウスが声を失う。
 彼には、コルベールと呼ばれていた男が咒式を発動しているようには見えなかった。
 それに、人間一人を宙に浮かせて移動させるなどという咒式を、レメディウスは知らない。

「おまえは歩いてこいよな!」
「『フライ』どころか『レビテーション』すらまともに使えないんだぜ、あいつ!」
「その平民の使い魔、あんたにはお似合いよ!」

 嘲笑を残し、生徒らしき少年や少女も、次々に宙へと浮かびあがり始める。

 レメディウスにとって多人数の人間が宙を舞う光景は、圧巻の一言に尽きた。
 全ての少年・少女が飛び去り、平原にはレメディウスと、ルイズと呼ばれた少女だけが残った。

「すごいなぁ………、いったいどういう原理で飛んでるんだろう?」

 レメディウスが呆然とした口調で呟く。

「なに? あんた、メイジが飛ぶのがそんなに珍しいの?」

 馬鹿にしたような口調で、少女がレメディウスに言った。
 レメディウスはしかしそんなことがまったく気にならなかったように、首肯し肯定する。

「あんなことができる咒式なんて、僕はまったく知らないんだ」

 正確には「人間にできるもので」人間が宙を舞うような咒式を、レメディウスは知らない。
 <古き巨人>や<竜>などの<異貌のものども>ならば、常に飛行咒式を発動しているものもいる。
 しかし、竜どころか禍つ式にさえ咒力・演算力などにおいて遠く及ばない人間には確実に不可能だ。
 そんなレメディウスの思考を、少女の言葉が断ち切った。

「ジュシキ? なにそれ」
「へ? なにって………?」
「あれは魔法よ。フライとかレビテーションとかの」

 一瞬、レメディウスは少女がなにを言っているのか理解できなかった。

「魔法、?」

 少女の言葉をそのまま鸚鵡返しにする。
 その単語は非現実的で、理論も根拠も存在しない、自分たち科学者の敵。
 エルキゼク・ギナーブ実験で咒式という技術が確認される以前の、全ての思考を放棄した名称だった。

「そうよ、魔法。あんた、そんなことも知らないなんていったいどんな田舎からきたのよ」
「えっと………ツェベルン龍皇国」

 逡巡したのは、ウルムンという小国よりも、巨大な皇国のほうが解りやすいだろういう、レメディウスの判断。

「ツェベルン? 知らないわ、何処の辺境なの?」
「少なくともここよりはずっと都会だと思うんだけどなぁ………」

 少女の返答に、レメディウスは頭を抱えた。
 神聖イージェス教国やラペトデス七都市同盟にこそ劣るものの、世界でも有数の巨大国家たる龍皇国。
 それを知らないなんてことは恐らくあり得ないだろう。

「ごめん、無知を承知で聞くんだけど、ここって何処? なんで僕はこんなところにいるんだい?」

 レメディウスは頭の中に一つの仮説を立てながら、少女に問いかける。

「トリステインよ、それでここはかの有名なトリステイン魔法学院! あんたがここにいるのは私が召喚したから!」

 本当はグリフォンとかマンティコアとかドラゴンとか――――と続く少女の言葉を、しかしレメディウスは聞いていなかった。
 レメディウスの脳内ではその時、凄まじい速度で演算が行われていた。

 トリステイン王国という自分の知らない地名。
 杖を振り、宙を舞っていた少年や少女、禿頭の中年男性。
 中世のような建築様式。
 召喚、使い魔、そして魔法。

 ここで見聞きしたもののの全てがレメディウスの脳内で連結し、打ち立てた仮説を裏付ける事実となっていく。

「まさか………いや、そんなことは……しかし……」

「? どうしたのよ?」

 仮説を否定できる事実が無く、仮説は結論へと固まりつつある。
 そのことに呻き声を上げるレメディウスを、少女が胡乱気な瞳で見る。

「いや、もしかしたらなんだけど…………可能性があるというだけかもしれないんだけど………」
「何よ! 言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」

 高圧的な態度で怒鳴るルイズ。
 答えていいものだろうかと、レメディウスは逡巡する。
 自分でも信じられない結論を、この少女に伝えてもいいのだろうか?
 いや………あくまで可能性の一つとして、伝えておくべきか。

「僕は多分、他の世界からここに来たんだ」
「――――――――――――、は?」
「逆に言うなら、僕にとってここは異世界なんだよ」

 少女は、レメディウスの顔を凝視する。
 きっかり二〇秒、少女はレメディウスの顔を見つめていた。
 やがて、少女は視線を遠くの建物のほうへと向けた。

「とりあえず、話しは部屋で聞くわ。ついてきなさい」

 そう言って、レメディウスの手を掴むと、少女は草原を踏みしめて歩き出した。 



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