あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

悪魔の虹-02



「まったく、何であんたなんかがあたしの使い魔なのよ!」
 夜、自室へと戻ってきたルイズは床であぐらをかく平民を睨みながら喚いていた。
 当の本人も膝の上で頬杖を突きながら憮然としている。
「うるせえな。俺だって好きで呼ばれた訳じゃねえよ」
 名は、ヒラガサイトという変わったものだ。
 彼が言うにはチキュウの、ニホンとかいうハルケギニアでは全く聞いた事のない国の、トウキョウという町をジュクという所を目指して歩いていたら光の鏡が現れ、興味本位でそれに触れたらいつのまにかあの場所に召喚されたのだそうだ。
「信じられないわね。そんな別世界があるだなんて」
 もちろん、ルイズは彼の話を信じようとはせずに否定する。
 ……それに何より、こんな何の変哲のない平民が自分の使い魔な訳がない。
 いくらコントラクト・サーヴァントで契約を結んだとて、その証でしっかりルーンが浮かんでいるとはいえ、こんな平民が使い魔など、ルイズは絶対に認めたくはなかった。
 それに自分にはちゃんとした使い魔が召喚されたはずだったのだ。……まだ、生まれてはいないけど。
「それより、早く俺を元いた所に帰してくれよ。塾は行きそびれちまったけど、家じゃみんなが待ってるんだから」
 あれはまだ生まれてはいない。だからあの場で契約をしようにも時間が経かる。
 ……一応、間違いとはいえこの平民も自分のサモン・サーヴァントで呼び出されたには違いないのだ。
 あれが生まれるまでの、仮の使い魔として扱うしかないだろう。
「……無理ね。一度契約したらそれは絶対なんだから」
 諦めたように返しながら、ルイズはシャツのボタンをはずしていく。
「そんな簡単に言ってくれるな……! って、何だよこれ! それよりお前、何してるんだ!」
「寝るから着替えてるんじゃないの」
 喚くサイトに脱いだ制服を投げ渡し、ネグリジェに着替えていくルイズはパチンと指を鳴らした。
 テーブルの上のランプの灯りが消え、闇が落ちた部屋は月明かりのみで薄っすらと照らされる。
「それ、洗濯しておいてね。それじゃ」
「あ! おい! ちょっ……」
 ベッドに潜り込んだルイズはサイトの呼びかけを無視する。
 今は彼の事などよりも、あの虹の卵の事で頭がいっぱいだった。
 一体、あの卵の中には何がいるのだろうか。普通の動物はあり得ないだろうから、間違いなく幻獣だろう。
 できることなら凄い大物が生まれてきて欲しい。そうすれば、もうゼロのルイズだなんて馬鹿にされる事もなくなる。
 もう既にサイトという平民と契約をしているとはいえ、ルイズもまだ諦めていなかった。
 せっかく、凄い幻獣が使い魔になるのかもしれなかったというのにそれを逃してしまうなんて嫌だ。
 何とかコルベール先生や学院長にもお願いしてあの卵から生まれてきた幻獣を自分の使い魔にしたい。
 そうすれば、この平民も厄介払いできるかも。


 二年生達の使い魔召喚の儀式が終わってからというものの、コルベールは学院の図書館に篭りきりだった。
 ミス・ヴァリエールが召喚した、世にも珍しい使い魔達。
 見た事の無い異国の服を纏った平民の少年。彼の左手に浮かび上がったルーンははっきり言って、全く見覚えが無い。今までコルベールが見てきたものとは全てが異なる印だった。
 自身の記憶に無ければ、過去の記録に頼るしかない。あのルーンは、普通ではないのだ。
 日が落ち、さらには寝る間も惜しんで彼は図書館の書物という書物を読み漁り、やがて彼が抱く疑問の一つが解決される発見があった。
「……これは……まさか……!」
 とある書物に記された記録。それと彼が昼に目にした記憶と一致する。
「……間違いない、これだな……!」
 一つ目の疑問はこれで解けかけた。だが、それでも単なる憶測の域に過ぎない。まだ調査は必要だろう。
 しかし、一つ目の疑問に結論が出ても、まだ……。
 コルベールはさらに書物を読み漁り、二つ目の疑問を解決しようと奔走した。
 既に夜は明けかけている。……それだけの時間を尽くしても、二つ目の疑問は解決の糸口さえ見つからない。
 あらゆる動物、魔物、幻獣に関する書物を読み漁ろうと、どれにも載っていないのだ。
 目元に小さなクマを作りつつ、コルベールは毅然にも姿勢を正したまま椅子に座し、書物を閉じる。
「一体、何なのだ? こいつは……?」
 机の上に置かれた布に乗せられる、怪しげな虹色の光沢を放つ卵。
 大きさや形状、感触からして、哺乳類や鳥類といった類の物でない事は確かだろう。カエルのような両生類など、持っての他だ。
 魔物や幻獣の類でも、このような卵は実に珍しい。飛竜の卵でさえ、こんな光沢は持たないはずだ。
 では、一体なんだというのか。この怪しい虹の卵は。
「……やはり、オールド・オスマンにも頼るしかないか……」
 コルベールは虹の卵を懐に入れつつ椅子から立ち上がったが、その体はすっかり疲れ切っていた。足元はおろか、体全体が重く感じる。意識もあまりはっきりしてこない。
 無理も無いだろう。半日以上、しかも寝る時間すら費やしてここまで調べたのだから。
 だからと言って、これから寝る時間すら彼には無い。
 大切な教え子達に、自らの知識を与えなければならないのだから。


 夜が明ける頃、図書館から誰かが去っていく。とても疲れた様子だ。余程長い時間、調べ物をしていたのだろう。
 それは前日の授業が全て終わってからここに来ていたタバサも同じだった。寝る時間すら惜しんで図書館の書物を読み漁り、調べ物をしていたのだ。
 ちらりと隣を見ると、親友のキュルケが机の上でクークーと寝息を立てながら眠りに就いている。
 夜が更ける頃に〝もう帰りましょう〟と言ってきたのだが、タバサは首を振った。……どうしても、気になったからだ。
 タバサが拒んでも、キュルケはずっと一緒に付き添ってくれた。もちろん、その内自然と眠りに就いてしまったが。
 だが、そんな彼女の心遣いに対してタバサは今になっても何の発見も無かった。
 ミスタ・コルベールが現在、預かっているはずのあの虹の卵。あれが何なのかを知るためにこうして調べているのに、どの書物にも載っていない。
「……うぅん」
 ふと、隣で寝ているキュルケが唸りだす。
「……あら、タバサ。おはよう……」
 軽く伸びをしながら、口に手を当てて欠伸までするキュルケ。
「どう? お目当ての物は見つかった?」
 机の上で頬杖を突き、興味深そうにタバサの顔を覗き込んでくる。 
「見つからない」
 と、一言だけ答えた。実際、それが事実なのだから。
 キュルケは「あらそう」とつまらなそうにはぁと息を吐いている。
「本当にあの卵、ルイズが召喚したものなのかしらねぇ。本当は、あの平民の使い魔君が落とした物なのかも」
 即座にタバサは無言で首を横に小さく振る。
 彼自身、あれを初めて見るような目をしていた。反応も極自然だ。
「……それにしてもあれ、本当に動物か幻獣の卵なら中には何がいるのかしら」 
「分からない」
 どの書物にも記録が載っていない以上、あれが孵化した時にしか分からないだろう。
 ……ただ、これだけははっきりする。
 自分達が知っている幻獣みたいな生易しい物ではない。
 事実、タバサの使い魔シルフィードが敏感に警戒し、さらには極度に怯えていたのだ。
「まあ、どんなのが生まれてきたってゼロのルイズにはもう関係ないわよね。もうあの子には変わった使い魔君がいる事だし」
 そして、たとえルイズがあの卵だけを召喚し、契約をしたとしても決して彼女に従うような物ではない。
 いや、どんなに腕の立つメイジであろうと扱える物ではないだろう。
 ……そんな気がする。
「ちょっと、大丈夫?」
 もう用は済み、椅子から立ち上がったタバサだが、やはり体は疲れ切っていたようだ。がくりと膝を突きかけるとキュルケがその小柄な体を支えてくる。
「今日の授業が始まるまで、まだ時間があるから少し休みなさい」
 キュルケに体を支えられたまま、タバサは図書館を後にしていく。
「朝食になったら起こしに来てあげるから」
 自室のベッドに横たわるタバサにキュルケはそう言い、退室していく。
 精神的にもあまりに疲れていたタバサは、すぐに眠りへと就いていた。


「ミス・ロングビル……。すまないが、席を外してはくれぬかな?」
 学院長室にて、豊かな白い髭を蓄える学院長オールド・オスマンは眼鏡をかけた緑髪の秘書、ミス・ロングビルに顔を向ける。
 彼女は涼やかな表情のまま一礼し、退室しようとするがその眉はピクピクと痙攣していた。
 それもそのはず、つい先程彼女に対して悪戯心でセクハラをしたのだから当たり前だ。
「これは伝説にのみ存在する使い魔のルーンじゃぞ?」
 彼女の代わりにオスマンと対面するのはミスタ・コルベールだ。目元にクマを作る程の時間、図書館で調べ物をしていたと聞いている。
 その彼が何かを発見したらしく、こうして報告に来たのだ。
「まして、それをあのヴァリエールの三女が召喚するとはのぉ……」
 実に奇妙な平民を召喚したというあのミス・ルイズの使い魔のルーンが普通ではない。そうコルベールは知らせてきたのだが、オスマンは懐疑的だった。
 その使い魔の左手に浮かんだというルーンは何千年もの間、確認された事が無いとされるものだ。それがまさかヴァリエール家の三女、ミス・ルイズの使い魔に浮かんでくるなど前代未聞である。
 ただでさえ、平民の使い魔を召喚するなどという前例が無いというのに、さらに前例のない事態が重なるとは。
「事の真実はどうあれ、この件は一切……口外してはならぬぞ」
 もしもこの事がトリステイン王宮の高官や他国にでも知れ渡ったら、この魔法学院にも何かしらの危険が迫るかもしれない。ミス・ヴァリエールが召喚したというあの使い魔のルーンについてはもうしばらく様子を見る必要があるだろう。
「承知しました。それからもう一つ……」
 頭を下げるコルベールは懐を探り、ある物を取り出す。
 オスマンは目を丸くして、机の上に置かれたそれを凝視した。
「これもミス・ヴァリエールが召喚したものらしいのです」
 机の上に置かれた布の包みが広げられ、中から出てきたのは怪しげな虹色の光沢を放つ卵状の物体。
 窓から射し込む日の光に照らされ、その光沢はさらに強くなる。
 さらにオスマンはその物体に顔を近づけ、それを手に取ろうとした。
「おおぅ、冷たい……」
 ひんやりとした冷たい感触で、思わず手を引っ込める。
「何かの幻獣の卵かと思われるのですが、図書館の書物には一切の記録がありません。オールド・オスマンはご存知ありませんか?」
「……うーむ。……これは……」
 その虹の卵を手に収めつつ、間近で睨みつけるオスマン。その鋭い眼光は、普段は飄々とした気の良い老人である彼とは程遠く、この魔法学院を統括する者として、そして三百年近く生きてきた彼の威厳さを表している。
「ワシにも分からぬ……。」
 しかし、三百年を生きてきた彼であってもこの卵の正体は分からなかった。実に初めて見るのだ。こんな物は。
「じゃが、これからいずれ生まれるであろう命は決してただの幻獣などではない。……まして、ミス・ヴァリエールが使役できるような存在ではなかろうて」
 だが、触れただけで感じたこの悪寒は今までに感じた事のない程のものだった。
 きっと何か、恐ろしい事が起きるかもしれない。そうオスマンは判断する。
「そのミス・ヴァリエールなのですが……あの様子ではこの卵から生まれる存在を、未だに使い魔にしたがっているはずです」
「……それは宝物庫へと厳重に保管するのじゃ。……よいな。決して、ミス・ヴァリエールにそれを触れさせるでないぞ」
「承知しました……彼女の方は、私からも何とか説得をしてみますので」
 虹の卵を包みに戻し、懐に入れるコルベールは一礼して厳かに退室していった。
「……何も、よからぬ事が起きねば良いが」
 厳しい顔つきで、オスマンは低く唸った。
 あの冷たい感触……思い出すだけで恐ろしい。


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