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『零』の使い魔-6

ヴェストリの広場には、既に呆れるほどのギャラリーが集まっていた。
双識が来たことを確認すると、ギーシュは高らかに告げた。

「諸君!決闘だ!哀れな子羊が今到着した!」

ギーシュに呼応して、ギャラリーが歓声を上げる。

「長々と観客を待たせるのも悪い。さあ、はじめようか」

ギーシュが手に持った造花を振ると、一体の青銅の彫像が現れる。
それはまるで意思を持っているかのように動き、ギーシュの横に直立不動で立った。

「ぼくに忠実な青銅のゴーレム『ワルキューレ』さ。言うなればぼくの手足だ」

得意げに自分のゴーレムについて語るギーシュ。
そこに慢心を見て取った双識だが、それを表情に出すことは無い。

「だったら、私も一つきみに重要な情報を教えてあげよう」

「ふん。聞いておいてあげるよ。君も、負けたときの言い訳が欲しいだろうからね」

勝利を確信して疑わないギーシュはいよいよ調子に乗ったらしい。
あろうことか敵である双識から目を逸らし、ギャラリーに向かって微笑みかけたのだ。
双識は、その隙を見逃さなかった。

「――私はきみが持っている杖しか狙わな……いッ!」

言葉の余韻すら消えないうちに、双識は踏み込んだ。
一足飛びに半メイル程まで接近すると、ギーシュの持つ薔薇の造花に手を伸ばす。
だが、ここで双識にとって予想外の事態が起こった。
急に目の前に現れた双識に驚き、ギーシュがすとんと尻餅をついたのだ。
一瞬前までギーシュの杖があった位置を、双識の手が薙ぐ。
軽く舌打ちをすると、双識は再び杖を狙って手を伸ばそうとする――が、飛びすさってギーシュから離れる。
双識を狙って放たれたワルキューレの拳は空を切った。

ギーシュは驚いていた。
この平民がここまで素早く動くとは思ってもいなかったのだ。
ワルキューレに身を守らせつつ、すぐに距離をとって立ち上がると、杖――薔薇の造花を油断無く構えた。

「転ばなければ負けていた……ならば、こちらも本気で行かせてもらう!」

ギーシュが再び杖を振る。さらに追加で五体のワルキューレが出現する。
総勢六体のワルキューレが、双識とギーシュの間に立ち塞がった。


「っく!だが!空中に出たのが運の尽きだ!」

予想外の動きをした双識に驚いたのもつかの間、杖を双識に向け、短くルーンを唱えるギーシュ。
ギーシュの杖から、青銅の塊が唸りをあげて双識に襲いかかる。
飛んでくる拳大の金属は、確かに決め手に相応しい威力を秘めていることが伺えた。
空中にいる双識には蹴るための地が無い。つまり、方向を変えることができないのだ。
だが双識も、伊達に『普通』から逸脱しているわけではなかった。

「――っと!!」

双識は空中で体を捻り、その塊を受け止める。強い衝撃が左手に伝わるが、双識は辛うじて体勢を保つ。
ギーシュの決死の迎撃は、たった今、双識によって封じられてしまった。
数瞬後には、双識は確実にギーシュの杖を奪っているだろう。
落下途中の双識の視線と、敗北途中のギーシュの視線が、一瞬交錯する。
最早どうしようもないはずのギーシュは、込み上げる笑いを抑えきれないといったように、笑っていた。

その理由は、双識が考える間もなく氷解することになる。
今や隠しようも無く笑っているギーシュの前に、ワルキューレがいきなり現れた。
『振りかぶった状態で錬金されているワルキューレ』が。

双識の顔が引きつる。どうにかその拳を避けようと、双識は身を捻る。
だがどう頑張ったところで、飛礫を受け止めた双識には、それは致命的に防げないものだった。
見事に体の真芯を捉えた一撃に、双識は吹き飛ばされた。


「っ……痛いなあ……」

双識は立ち上がると、殴られたところを撫でるように触る。幸いどこも折れたところは無いようだ。
喉の奥に痰が絡みつく。吐き出してみると、真っ赤な血だった。骨が折れていない分、全て衝撃が内臓に行ってしまったらしい。
双識とギーシュはおよそ五メイル程の距離をおいて、再び相対する。

「うふ、うふふふ、そうか。完璧にしてやられた気分だよ」

ワルキューレ六体と青銅の塊を囮にしての、渾身のカウンター。それがギーシュが狙っていたものだったのだ。

「『本気』という僕の言葉に騙されて、ワルキューレが六体だと油断した君が愚かだったのさ」

「成程、青銅の塊を私に掴ませたのも、計算の内だったという訳だね……」

苦しげに立つ双識の口の端からは血が滴っていた。
その姿に思わず、ルイズは自分の使い魔の名前を呼ぶ。

「ソーシキ!」

「ああ、初めて名前を呼んでくれたのはいいんだが――その発音だと、まるで私が死ぬみたいだね」


これだけの一撃を食らっても、なお冗談めいた口調で軽口を叩く双識に、ギーシュは軽く眉を上げた。

「君はぼくの奥の手まで引きずり出した。その努力に敬意を払おうじゃないか」

ギーシュは錬金で一振りの青銅の剣を作り出すと、それを双識に向けて放った。

「これ以上続ける気があるのならば、その剣を取りたまえ」

ルイズが物言いたげな目で見ていたが、双識は地面に突き立った剣を抜いた。
同時に、双識の左手のルーンが輝き出す――驚くほど体が軽くなっていた。
どうせギーシュが魔法でもかけたのだろうが、大きなお世話だ。
双識はゆっくりと首を横に振る。

「俺はお前みたいに浮気者じゃない。女にも得物にも、一途な男なのさ。
 ――だから、こんな剣はいらない」

そう言うなり、双識は剣の刀身を掴み「てい」とへし折ってしまった。


その挑発的な態度に、ギーシュの顔が怒りで歪む。

「言ってくれるじゃないか。やってくれるじゃないか。もう謝って済む問題では無くなったぞ」

「うふふ。元より謝って済ませてもらおうなんて思っちゃいないさ」

全く意味のわからないことを言う双識に、ギーシュは不思議そうに尋ねた。

「じゃあ君はそんな体で、どうやってこの場を切り抜ける気なのかね?」

「この状況で戦わず、謝らない手段なんて、それこそ一つしかないだろう?」

ギーシュの脳裏に、さっきの杖を奪われそうになった記憶が蘇る。
警戒するギーシュに、双識はごく自然に背を向けた。

「ルイズちゃん、後はよろしく。じゃ♪」

双識はルイズにウインクをすると、脱兎の勢いで人垣を飛び越し、走り去っていった。
ルイズだけでなく、ギーシュまでもがぽかん、と口を開ける。
人垣の中から聞こえた間の抜けた声で、ようやくルイズはこの現状を把握した。

「に、逃げたあ?」


平民が貴族との決闘を放棄して逃げた。
その事実に、ギャラリーが爆笑の渦に包まれる。

「おいおいルイズ、使い魔が逃げちまったぞ!どうすんだ!アッハッハッハ!」

「平民が貴族に勝とうなんて、はなっから無理だったんだよ!」

ルイズの顔が白から赤、赤から白に変わる。怒り心頭、といった表情だ。

「待ちなさい!ソーシキ!」

そう叫んで双識を追いかけようとしたルイズの肩を、ギーシュが掴む。

「待ちたまえ。使い魔の責任は、即ち主人である君の――ひでぶっ!」

最後までセリフを言い切ることもできず、ギーシュは崩れ落ちる。顔面に深々と拳をめり込ませて。
ギーシュに一瞥もくれることなく、双識が逃げた方向へ、ルイズは黙って歩き出す。
進路の先の人垣は、ルイズが近づくと綺麗に割れていった。
般若と化したルイズを止めるものは、誰もいなかった。

「……あの変態、絶対に許さないんだから!」


(青銅のギーシュ――不合格)
(第六話――了)

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