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萌え萌えゼロ大戦(略)-29



 アルビオン空軍工廠の街ロサイスは、首都ロンディニウムから南に向かい、
さほど離れていない場所に位置している。『革命戦争』と彼らが呼び慣らわす
内戦に勝利した貴族派『レコン・キスタ』がこの国の主となる前から、
ここは王立空軍の工廠だった。
 王党派の撤退時に工廠としての機能を喪失したこの街も、貴族派による
『解放』の直後から急ピッチで復興され、今も先の戦争で傷ついた艦隊が
その傷を癒していた。
 その中心部。『レコン・キスタ』の三色旗が誇らしげに翻る赤煉瓦の
大きな建物は、王軍時代から変わらず空軍の発令所である。そこの窓から
見えるのは、乾ドックに入渠した天を仰ぐばかりの巨艦。
 雨避けのための布が、巨大なテントのように巨艦――アルビオン空軍
本国艦隊旗艦『レキシントン』号を覆っている。全長二百メイルにも及ぶ
巨大帆走戦列艦は、今、大破状態から新たなる装備を得て、静かに復活の
刻を待っていた……


 太陽が中天に昇る頃……練兵場に立つルイズはふがくの横で苦り切った
顔をしていた。
 その視線の先には、魔法衛士隊の制服に身を包み、大きな羽飾りがついた
隊長職の帽子をかぶり、幻獣マンティコアの大きな刺繍が縫い込まれた
黒いマントを羽織った凛々しい男装の麗人――ラ・ヴァリエール公爵夫人
カリーヌ・デジレがいる。カリーヌは顔の下半分を覆い隠す鉄の仮面を
つけており、その表情は見えない。しかし、その鋭い眼光は、ルイズ
のみならずふがくをも射貫こうとしていた。

「……なんでこうなるのよ……」
「さあ?子爵殿に聞いてみれば?」
 今にも頭を抱えそうなルイズの横で、ふがくはカリーヌを見る。
カリーヌの出立ちは確かに色あせ、年月を経たもの。
しかし、よく手入れされており綻びや破れの一つ見当たらない。
そして、カリーヌの横には、老いてなお巨大な幻獣マンティコアが臨戦
態勢で控えていた。
 本気ね――ふがくはカリーヌの視線を真っ向から受け止める。そこに
立っているのは、雅な貴婦人ではなく、『厳しい』という言葉を十分に
こねてから鋳型に納め、『恐怖』という名の炎で焼き固めた騎士人形。
今から行われることは座興であるものの、同時に真剣勝負でもあった。

 ――そう。ワルドが提案したことは、有り体に言えばエアレース。
広大なラ・ヴァリエール領の中心地であるシャトー・ラ・ヴァリエールから
東にある街オトヴィル=シュル=フィエルの時計台の鐘を鳴らし、
次にそこから南西に向かって走るリュミリー街道の途中にあるル・ペゼ村の
鐘楼の鐘を、最後にさらに南西にある街リュミリーの時計台の鐘を鳴らして
そのまま幹線道路であるヴァリエール街道を北進してシャトー・ラ・
ヴァリエールに戻り、ラ・ヴァリエール城の尖塔の間をくぐるという、
直線距離にして一辺の長さ五十リーグちょっとの二等辺三角形を描く
コース。
しかし土地勘のあるカリーヌと不慣れなふがくの勝負であり、同時に
ふがくは土地勘のなさをルイズと協力することで補うことになっていた。
しかも、この提案があった時点でワルドの『偏在』が各ポイントに回り、
協力を取り付けているという手回しの良さである。
 ちなみに、この勝負に賭けられたのはルイズの身柄。ルイズたちが
勝てば無罪放免。負ければそのまま謹慎である――

「さて、三人とも準備はよろしいかな?」
 緊張高まる中、ワルドは平然と言う。その言葉に、カリーヌとふがくが
頷いた。
「ところで閣下、鐘を鳴らす方法は問わないのかしら?」
「壊さなければどんな方法でも。僕だったら『風』(ウインド)の魔法を
使うかな」
「つまり、模擬弾で撃っても平気ってことね」
 機関短銃を見せるふがくの問いかけに、ワルドは笑って肯定の意を示す。
「さて、この座興の理由は、ちゃんと聞かせてもらえるのでしょうね?
ジャン坊や」
「もちろんルイズと使い魔であるふがく君の絆を知っていただくためですよ。
カリーヌ様。
 ふがく君がルイズに害を与える存在であれば、協力して事に当たることなど
できませんからね」
「なるほど。わたしは古い貴族ですから、杖で解決することに異存は
ありません。遠い異国が生み出した『鋼の乙女』の力、今一度見せて
もらいましょう」
 カリーヌの射貫くような視線にもワルドは怯まない。
ある意味、この場で一番肝が据わっている人間と言える。
「さて、準備が整っているようでしたら、出走開始ということで。
このハンカチが地面に落ちたときが合図ということにしましょう」
 ワルドの言葉を合図に、カリーヌがマンティコアに騎乗し、ふがくが
ルイズを抱える。それを見たワルドが、優雅な手つきでハンカチを放り投げた。
 ルイズ、ふがく、カリーヌ、そしてエレオノールとカトレア、
一歩下がってシエスタが見守る中、ハンカチがゆっくりと地面に落ちる。
その瞬間、ふがくとカリーヌはほぼ同時に飛び立った。
「……まあまあ。母さまのマンティコア、まだあんなに速く飛べたのね」
 カトレアが驚きの声を上げる。
ふがくが先陣を切るのは予想できていたことだが、カリーヌのマンティコアも
まだ十分現役が務まりそうなほど力強く飛び去っていく。
その横で、エレオノールがワルドに詰め寄った。
「さて、ジャン。わたしにも分かるように説明してもらいましょうか?」
「何をかな?ネリー姉さん」
「この勝負、母さまに勝ち目はないでしょうが!あの速度差、どう見ても
五倍はあるわよ!?あれじゃ母さまのマンティコアでも追いつけっこない
じゃない!一体あなた、何を考えてるの?」
「大丈夫さ。僕はいい勝負になると思ってるけどね。カリーヌ様だって、
絶対勝てない勝負を受けるはずがないだろう?
 第一、ルイズはこのラ・ヴァリエール領を空から見たことがない。
ふがく君がいくら速く飛べても、道案内が頼りなければそれだけで大きな
負荷になるよ。実際にふがく君が飛んだ方向、気づいていたかい?」
「……確かに、あのまままっすぐ飛んでしまえばオトヴィル=シュル=
フィエルをかなり北に行きすぎるわね。あの子、たぶん川と街の位置を
把握しないで街道沿いに飛ばそうとしてるから……って、まさか、ジャン、
そこまで考えてこの勝負を言い出したわけ?」
 エレオノールの言葉に、ワルドはにっこりと笑う。そして、空を見上げて
言う。
「……空を飛ぶものはね、ずっと地面にいると気分が晴れないものなのさ」

 その頃。ワルドが予想したとおり、ルイズとふがくは見当違いの方向に
飛んでしまい方向転換を余儀なくされていた。だが、全速で飛べば四分ほどで
行きすぎてしまう街を探すのに手間取り、オトヴィル=シュル=フィエルの
上空に達したときにはさらに十分ほど時間を浪費していた。
「中央広場の時計台……あれね。
 まったく。私の方が速いからって街道沿いに進むのはいいけど、道を
見失うなんて信じられないわよ!」
 右手に機関短銃を構え左手一本でルイズを抱えたふがくが愚痴る。
「あんたが速すぎるのよ!ところで、母さまはもう鐘を鳴らしたのかしら?」
「まだよ。一リーグ西。こっちに向かってくるマンティコアが見えるわ。
……って、何?あの機動?」
「どうしたの?」
「まだ街まで一リーグはあるのに向きを南西に変えた……って、ええっ?!」
 ふがくがそう言うが早いか。一陣の猛烈な風が吹き抜け、時計台の鐘を
高らかに鳴らす。そう。カリーヌが通常のメイジの常識を逸する遠距離から
放った『風』の魔法が、周囲の被害もなく鐘だけを鳴らしたのだった。
「……嘘」
 思わずぽかんとするふがく。ルイズも同様。だが、立ち直ったのは
ふがくの方が早かった。
 時計台まで三百メイルの距離まで近づいてから、タタン……と撃ち出された
模擬弾が余韻が残る鐘を再び鳴らす。そして、そのまま南西に翼を向ける。
「ルイズ!失速ぎりぎりまで速度を落とすから、今度は見失わないでよね!」
「そ、それで母さまに追いつけるの!?」
「できれば追い抜きたいけど……。ああもう!考えるより今は動く!」

 次の目的地ル・ペゼ村はリュミリー街道の途中。ふがくとルイズが
やや迷いながらもル・ペゼ村にをその視界に捉えたとき――鐘楼の鐘が
鳴り響く。カリーヌは抜き撃ちの『風』の魔法で鐘を鳴らすと、そのまま
飛び去っていた。
「動きに無駄がなさ過ぎるわね。ルイズ、アンタのお母さんって、
元軍人なんでしょ?」
「ええ。男装して魔法衛士隊マンティコア隊の隊長を務めていたわ。
三十年前の話だけど、『烈風』カリンと呼ばれてて、『烈風』が出陣
したって噂が流れただけで敵が撤退したこともあるそうよ」
「やまとみたいね……それ」
 言いながら、ふがくも飛ぶ速度を緩めず模擬弾で鐘を撃ち鳴らす。
聞き慣れない名前に、ルイズが思わず問い返す。
「ヤマト?」
「や・ま・と!戦艦型鋼の乙女で、空は飛べないけどその防御力と打撃力は
世界最強。その四六サンチ……こっちの単位で言えば四六サント砲で
破壊できないものはないわ。私と同じ大日本帝国の秘密兵器よ」
「よ、四六サント砲!?何よ、そのお化けみたいな大砲は!?」
 ルイズは想像する。ふがくのような鋼の乙女が、翼の代わりにハルケギニアの
常識を覆すような巨砲を背負っている姿を――――想像できなくて諦めた。
どう考えても持てるはずがないとしか思えない。ふがくにしても
どうやって飛んでいるのかは理解できないし、ダイニホンテイコクの
技術力は、ハルケギニアから見れば異質としかいいようがない。
 そんなルイズを横目に、ふがくはカリーヌを追いかけて飛び続ける。
ふがくはまだ勝算があると思っている。そう。リュミリーの時計台の鐘を
鳴らしさえすれば……

「ルイズ、リュミリーの街って、この先よね?」
「え?ええ。もう見えるはず……」
 そのとき、鐘の音が聞こえた。カリーヌが鳴らしたのだ。
遅れてふがくもリュミリー上空に達する。中央広場の時計台はまだ余韻に
揺れている。その鐘を模擬弾で撃ち鳴らし、ふがくは北に進路を変えた。
「……街道はこのままシャトー・ラ・ヴァリエールまで続いてるわね?」
「ええ。ヴァリエール街道はこのまま、まっすぐよ!」
「それじゃ……一気に駆け抜けるわよ!」
 ふがくはそれまでルイズが目印になる街道を見失わないように落としていた
速度を、一気に最高速まで上げる。そのまま、先を行くカリーヌを抜き去った。

「……今のは……」
 轟音を残して真上を飛び去った機影に、思わずカリーヌは空を見上げる。
昨夜見たあの後ろ姿は、やはり全力ではなかったらしい。
「なるほど。竜籠より速い、どころではなく、風竜をも置き去りにする速度、
ということですか」
 カリーヌのつぶやきに、騎獣であるマンティコアが一鳴きする。
その背をカリーヌは優しくなでる。
「久しぶりに無理をさせたわね。ジョエ。けれど、最後まで『烈風』としての
矜恃を見せるため、もうひとがんばりしてもらいます」
 かつては主人とともに遙か遠くへ、そして遙かな高みへと達した幻獣も、
やはり老いには勝てない。しかし、その眼光と矜恃はまだ失われていない。
主人の言葉に応えるように大きく吠えると、力強くその翼を再び北へと
向けた。

「リュミリーの鐘を先に鳴らしたのはカリーヌ様だね。次にふがく君。
もうすぐ戻ってくるよ」
 ワルドが自身の『偏在』を通じて見た勝負の行方をエレオノールと
カトレアは興味深く聞いていた。
「さすが母さまね。
おちび、あんなこと言っておいてやっぱりたいしたことないじゃない。
途中で息切れするなんて」
 ほら見なさい、という顔のエレオノール。そこにカトレアが静かに告げる。
「それはどうかしら?」
「どういうこと?」
「ふがくは、このラ・ヴァリエール領のことを何も知らないんですよ。
それに、道案内するはずの小さいルイズも、竜籠に乗ったことがないんです。
ルイズの知っている知識を頼りにするために、母さまを先に行かせて
追いかけている、と考えたら、どうかしら?」
「はあ?カトレア、そんなことをしたら勝てないじゃない。
そうする意味があるの?」
 納得いかない表情のエレオノール。カトレアは耳を澄ませるようにして
ヴァリエール街道から続く城門に目を向ける。
「……聞こえませんか?この音……」
「音?」
 カトレアに促されるように、エレオノールも耳を澄ます。ワルドは、
南の空を見てかすかに笑う。
 それは、クマンバチのような音。だんだんと大きくなり、豆粒以下の
大きさだったものが一気にその姿を現す。その音に、周りの雰囲気に
沈みそうだったシエスタの顔がぱあっと輝く。
 ふがくとルイズは、全速のままラ・ヴァリエール城の尖塔の間を突き抜ける。
そして大きく旋回してから、練兵場の柔らかい芝の上にキュキュッと
音を立てて降り立った。
「私たちの勝利ね」
 ふがくはルイズを降ろすと、ワルドに向かって言う。ワルドは驚いた顔で
二人を迎えた。
「驚いたな。姫殿下から、魔法学院からアルビオンまで一晩で飛んだと
聞いたときには半信半疑だったが……。なるほど、あの速度なら得心したよ」
 ワルドは表情には出さないが、内心舌を巻いた。リュミリーから
このシャトー・ラ・ヴァリエールまで、まっすぐな幹線街道とはいえ
馬で二時間はかかる。それを四分ほどで飛んできたのだ。
ワルドも魔法衛士隊グリフォン隊の隊長である。軍人として、脅威に
対する対策を講じることは自然と身についている。
 だが、この速度で強襲された場合、対策が打てるだろうか?今考えられる
唯一の対策としては近づく音を聞き分けて迎撃する……であるが、速度差が
大きすぎる。

(確か、竜騎士隊第二大隊のギンヌメール伯爵が風竜に倍する速度の敵に
対応する、と訓練していたな……。僕を含めた衛士隊の隊長クラスは
全員彼を愚か者扱いしていたが、一度話を聞いてみる必要があるな)

 ギンヌメール伯爵がそれを掲げたのはもう三十年も前からになる。
その訓練の方法も全速で飛ぶ風竜からさらに魔法で撃ち出した標的を
撃ち抜くなど、奇抜なもの。そのため、かの部隊は精鋭の第一大隊、
外人部隊の第三大隊と異なり吹きだまり扱いされ、彼の部下たちですら
誰もが最初は自分の上官を狂人扱いすらするが、何故かしばらくすると
ぱったりと批判しなくなるのだった。
 そして、そんな伯爵を先王は信頼し、魔法衛士隊の隊長でも、先代の
マンティコア隊隊長である『烈風』カリン――つまりラ・ヴァリエール
公爵夫人カリーヌ・デジレ――だけは、彼を狂人扱いしなかった。
誰もそのことについては語らないが、よくよく考えるとおかしな話だ。
 それを不思議に思わなかったのは愚かなことをしていると歯牙にも
かけなくなったから……だが、アンリエッタ姫が今回の強行偵察に迷う
ことなく下命したのがかの部隊。もしかすると、亡くなった先王、そして
アンリエッタ姫は彼らが何をしているのか、いや、何を仮想敵として
いるのかを、知っているのかもしれなかった。
 そんな考えを中断させたのは、ルイズだった。
「子爵さま。母さまはやっぱりすごいわ。風の魔法をあれだけ正確に
使いこなすなんて」
 ルイズの言わんとしていることは、『偏在』を通してこの勝負を見ていた
ワルドにも分かる。一リーグ先から正確に目標に『風』を命中させるなど、
できるメイジが何人いるか。
 ワルドがそうやってルイズの話を聞いていると、カリーヌがラ・ヴァリエール城に
戻ってくる。尖塔の間を抜け、練兵場に降り立った彼女は、鉄仮面を
外すと真っ先にふがくのところに向かった。
「見事でした。あなたがこの地の地図を熟知していたならば、もとより
勝負にもならなかったでしょう」
「これが競争じゃなくて、実戦だったら、こっちの射程外から撃墜されていた
可能性もあるわね。空戦であの射程と命中精度は脅威だわ」
 ふがくの言葉に、カリーヌはふっと何かを懐かしむような笑みを浮かべた。
「……昔、あなたほどではありませんが、風竜よりも速く飛び、強力な
攻撃力を持つものとともに戦ったことがあります。
 そのときは味方でしたが、もし同じような能力を持つ敵が現れたなら……
先程あなたたちに見せた技は、その問いに対する答えの一部です」
「え?それって……まさか」
 ふがくの言葉に、カリーヌは応えなかった。


「……子爵さまは、ご存じだったんですね!」
 満天の星空の下。幻獣グリフォンの背に、ワルドとルイズがいる。
ルイズは、ワルドから今回の競争を提案した意味を聞かされ憤慨した。
「ははっ。幻獣と一緒にするつもりはないけれど、空を飛ぶものを
ずっと地面に縛り付けておくと機嫌が悪くなるものだからね。
カリーヌ様の心配を解くのも理由だったけれど、一目見てそっちも何とか
しないといけないと思ったからね」
 それ以外にも理由はあるがね――ワルドはその言葉を飲み込んだ。
何故なら、ワルド自身が、ふがくの性能を見ておきたかったというのが
最大の理由だからだ。
「でも、意外。母さまがふがくと一緒に飛びたい、なんて。今頃二人で
何を話しているのかしら」
「さあね。でも、悪い話ではないと思うよ」

 その頃、ふがくはカトレアと同じようにカリーヌを抱いて高度一万五千メイルの
高みにいた。ルイズたちがいる高度千メイルとは比べものにならないほど
空が近く感じられるそこで、カリーヌがふがくに話しかけた。
「……手間を取らせましたね」
「いえ」
「カトレアをここに導いたときよりは、速く飛んでいたようでしたが?」
「ええ。カトレア様と違い、奥様は高高度に慣れているようでしたので」
 気まずい空気が流れる。それを破ったのはカリーヌだ。
「……昼間の競争の時のような話し方でかまいませんよ。
もっとも、狎れてもらっては困りますが。
 それにしても……昔、わたしがジョエの背に乗って見たこの空を、
もう一度見られるとは思いませんでした」
「あなたの娘たちが言っていたこととは違うわね。あなたたちが
『風の門』と呼ぶ偏西風を抜けた人間はいないと言っていたのに」
 ふがくの疑問に、カリーヌは即答した。
「誰も喜んで異端の烙印を押されたいとは思いません。詩に出てくる
ガリアの竜騎士は失敗したことにされ、わたしはそもそもいなかったことに
されただけです。ガリアの竜騎士が墜ちたと言うことは事実ですが、
それも『風の門』を抜けてからのことです」
 カリーヌは言う。昔、各国の冒険心あふれる貴族がこぞって『風の門』に
挑んだこと。そのほとんどは失敗したが、『烈風』カリンと名乗っていた頃の
カリーヌと、そのガリアの竜騎士だけは『風の門』を突破することに
成功した――
「ですが、彼は高高度の過酷な環境に耐えきることができず、無念にも
墜ちていきました。わたしも息も絶え絶えになり血を吐きながらこの高度に
達し、この空を見たのです」
 そう言って、カリーヌは再び空に目をやる。黒いほどに青く、遙か彼方に
ある太陽の輝きによって二つに分かたれた空に。
「わたしたちがあれほど苦労したこの空にいるのに、まったく息苦しさも、
凍えるような寒さも、血を吐くほどの痛みも感じないとは……大日本帝国が
このトリステイン王国の手が届くところにないことを、始祖に感謝するしか
ありません」
「昼間も思ったけれど、あなたは鋼の乙女と一緒に戦ったことがあるの?
それも私と同じ航空機型の」
 ふがくの問いかけに、カリーヌはしばし沈黙し……静かに言った。
「タルブに行きなさい。そこに答えがあるでしょう」



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