あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの騎士-07

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その日ラムザは気苦労を重ねていた。
街に行った日から2日が過ぎている。ルイズにはなんとか機嫌をなおしてもらっていた。
そして夕食を済ませた後、部屋に戻り支度をしてデルフリンガーを携え図書館に行こうと部屋の扉を開けた。

正確には開けようとした、だ。
手をかけようとした扉はラムザの手が届く前に開いてしまったのだ。

開いた扉の前にはなにやら包みを抱えた褐色の肌の女性が立っていた。

「あら、ダーリン。私の為に出迎えてくれたのかしら?」

扉の前の女性はキュルケであった。その後ろにはタバサも控えている。
といってもこちらはなにか用事があるのではなくキュルケに連れて来られたというのがありありとみてとれた。

そんなキュルケを見てだまっていないの部屋の主である

確かにノックもせず勝手に入ってきているのだからその怒りももっともなのだがその目的がさらにルイズをいらだたせることとなる。

その目的とはキュルケの抱える包み、これをラムザに渡すというものだったのだがその中身が問題だった。
なんと中身は先日街で見た立派な大剣、例のルイズが店主に勧められた剣だったのである。

もともと受け取る気もなかったのだがルイズの手前更に受け取る訳にはいかないとこれの受け取りを断ったラムザにキュルケは言う。
「あら、ならダーリン。これを受け取ってくれたら先日の貸しを無しにしてあげるわ」

先日の貸しとは街でルイズに置き去りにされた際にタバサの風竜によって学園までつれてきてもらったことだ。
こう言われてはラムザも無碍に断ることもできなくなった。
しかし受け取ろうとしたラムザに、それまでキュルケに向けて発せられていたルイズの罵声がとぶ。
曰わく「ラムザはすぐ色香に惑わされる発情魔」だとか
曰わく「結局立派な剣が欲しかったんじゃない」だとか

本来なら剣をうけとらざるをえなくなった原因が言う事に耳を貸すこともないのだがここでルイズの機嫌を損ねてはまた面倒くさいことになるのは目に見えている。ラムザは受け取るか受け取らないかを選択できずに時間だけが過ぎていく。
そうやっている間にキュルケとルイズによる受け取るか受け取らないかの問答がだんだんとラムザの手を離れたところで行われるようになり遂には決闘で進退を決めることになってしまった。
止めるラムザの声は虚しく響くだけで助けを求めタバサに視線を送るも彼女は彼女で我関せずの態度を固めてしまっているようだった。

そして現在-
学院の中庭においてキュルケとルイズが対峙している。

「覚悟はいいわねツェルプストーっ!」

「あら、そっちこそ今ならまだ止めてあげてもいいのよ?」


どうやらどうあってもお互い退く気はなさそうだ。全くもってお互いに難儀な性格である。

そしていよいよ決闘が始まろうとしている。
「ルールはこの中庭からあの壁の的に向かって魔法を撃ち先に当てた方が勝ち、ってことでいいかしら?」

ラムザ達四人とタバサの風竜の他には誰もいない中庭、そこから見える壁にタバサがキュルケの言う的を貼ってきていた。
無論そんな所にただ壁だけがあるはずもなくそれは建物の壁なのだがキュルケ曰わく壁には固定化の魔法がかけられていてちょっとやそっとじゃ崩れないらしいが…。


「異論ないわ! さぁ始めましょう!」

もうラムザには止めようがないのである。

「はぁ…」
「相棒も大変だねぇ…」

今ラムザの苦労を分かってくれるのはこのデルフリンガーだけだ。
あれから短い間しか経っていないがそんな一人と一振りの間には幾何かの連帯感が生まれていた。仲裁を諦めたラムザが二人から離れると一斉に呪文を唱える。

「「ファイアーボールッ!」」

次の瞬間キュルケの前に人の頭ほどの火球が現れ的に向かって飛んでいく。

一方同じ呪文を唱えたはずのルイズの前には何も現れていない。

「さすがはゼロのルイズね、この勝負もらったわ!」

キュルケが勝ち誇った声をあげると同時に凄まじい爆裂音が鳴り響いた。

「え?」

先程まで自分の勝ちを確信していたであろうキュルケが気の抜けた声を出す。

そう、爆裂音はキュルケのファイアーボールで起きたものではなかったのだ。
吹き荒ぶ土煙の向こうにキュルケの放った火球が飲み込まれていく。

「だぁーれがゼロですって?」

うってかわって先程まで泣きそうな顔をしていたルイズが勝ち誇った顔でキュルケに相対する。

「引き分け」

「「え?」」

タバサの一言に二人が声をあげる。

「二人とも魔法が当たっていない」
そういって煤けた紙を取り出す。
それは先程まで壁に貼られていた的であった。
「爆風で飛んできた」

それを見せられては二人とも自分の勝ちを主張することはできなかった。
押し黙る二人を後目にタバサが次の言葉を紡ぐ。

「そして壁が壊れた、早く逃げないと音に気づいて人が出てくる前に…」
しかしそのタバサの言葉を遮る轟音が鳴り響いた。

「こ、今度は私じゃないわよ!?」

「分かってるわよ! なに…あれ…ゴーレム…?」



…………………………

「して、君らは犯行を目撃したのかね」

白く長い髭を蓄えた老人、オスマンは問うた。

「はい、オールドオスマン」

オスマンの前に立つルイズが静かに答える。
視界が晴れた後その場を去ろうとした一行は駆けつけたオスマンに捕まり現在任意という形で質問をうけている。


「そうか…。それでは君達が一番犯人について詳しいということになるかのう…?」

「…オールドオスマン?」

いつもの明るさと違う雰囲気を纏う老人にルイズが声をかける。

「ここに来る前に壊された棟をみてきた。知っての通りあそこには宝物庫があるからのう。そして、じゃ。こんなものをみつけた」

そう言うとオスマンは一枚の紙を出した。それを受け取り読み上げるルイズ。
「審判の宝珠頂戴しました。土塊のフーケ…これって…」


「そう、犯人は都を賑わせている盗賊のフーケらしいのう。そして確かにそこに書かれているものがなくなっておったわ。これは由々しき事態じゃ、学院としてはすぐに追跡を開始しようと思う」

周りでは何の騒ぎかと出てきた生徒や教師が出てきていた。そんな中でなにかもったいつける様な含みのある言い方がラムザは気になっていた。

「それで、僕たちに追跡をしろと…?」

「そうじゃ、事は一刻を争う。すぐにむかってもらいたい」
このオスマンの申し出に対しラムザは疑問を抱かざるをえなかった。そしてこの申し出だけでなくラムザには気になっていることがある。
何故学生に盗賊追討を命じるのか、何故オスマンは駆けつけてすぐ自分達のもとへ来たのか。この疑問をぶつけようとした時、ラムザの隣にいたルイズとキュルケが口を開いた。

「わかりました。オールドオスマン! すぐに出立いたします!」

「私に任せていただければ賊の一人や二人、すぐに捉えてきますわ」

そう言うと二人はタバサの風竜の背に乗る、そしてタバサもそちらへむかっている。
それを見てラムザが声を上げようとするがそれはオスマンによって止められた。

「ラムザ君、不満はあるだろうが何も言わず今はむかってくれ、盗まれたものは普通のものではないのじゃ」

「普通のものじゃ、ない…?」

オスマンに対しラムザは訝しげな目を向ける。

「行けばわかる、君なら。賊がどっちに向かったのかはわかっているじゃろう? 急いでくれ、わしはここを纏めなければならん。」

「何をいって…」
「ラムザ早くしなさい! 置いて行くわよ!」

オスマンを問いただそうとするラムザにルイズから声がかかる。ルイズ達だけで向かわせることはできないとラムザはオスマンを一瞥してルイズ達の方へ走った。

「頼んだぞ、ラムザ君」

風竜が飛び立つのを見るとオスマンは人集りが出来始めている壊された建物へむかって歩いていった。



…………………………

「まだ賊が逃げてからそう時間は経っていない。が、向こうも素人じゃない。必ずしも逃げた方角に向かっているとは限らない。全景をみて近くを動いてるものを探し出す!」

「わかったわ!」

ラムザの声にキュルケとルイズが応える。

こうは言ったものの正直ラムザはフーケ探索は難航するだろうと考えていた。
森の中で息を潜められたら空から追う自分達がみつけるのは困難である。
しかしその時、ラムザは妙な感覚をうけ辺りをみた。
この感覚は以前にも感じたことが…

「ルイズ、さっきの決闘、引き分けじゃあ納得できないわよね?」

「ええ、私もあなたと同じことを考えていたところだわ、今からフーケを見つけ出し捕らえた方が勝者よ!」

そんな事を言い合うキュルケとルイズの横でラムザは記憶を辿った。
忘れていたわけではない、しかしこの感覚はまさか…

「タバサ、ここから南西の方角にむかってくれ!」

「…わかった」

タバサの合図で風竜は旋回、加速した。
突然のことにキュルケとルイズは小さく悲鳴をあげる。
そして驚きの声をあげた。

「ダーリン、フーケを見つけたの!?」
「見つけたのかはわからない、しかしきっとそこにいるという感覚がある、忘れもしないよ、これは…」

そこで言葉を止めるラムザを三人は見た。
しかしラムザはそのあとの言葉を継がないうちに風竜から飛び降りた。

「え?」
「ラムザ!」

ルイズが三人の視界から消えた人物の名を呼び、キュルケは突然の事に驚き声をあげた。タバサはすぐに風竜に合図を出しラムザの消えた場所へと向かう。



三人がラムザを見つけた時、彼は何者かと対峙していた。
暗闇の中で黒いローブを着込み顔はフードで覆われていて確認できない。
だがこれが目的の人物であろうことを全員が確信していた。

「観念しろ、賊」

ラムザが黒ローブの人物に投げかける。

「まさかこんな早く追っ手が出るとはねぇ…、だがこの土塊のフーケ、子供相手に捕まるような小物じゃないよ!」

そう言ってフーケは杖を振った。すると突如足下の土が盛り上がりラムザ達とフーケの間に瞬く間に巨大な土の人形が現れた。



「くっ! そう簡単にはいかないか! デルフ!」
「あいよ相棒! ようやく俺の出番だな!」

デルフリンガーに手をかけるラムザの左手のルーンが光を放つ。


足の筋肉を引き絞り、解放-
土塊に向かって駆けるラムザの後ろから火球とそれを後押しするような空気の壁が飛ぶ。
一瞬早くたどり着いた火球、できた皹に滑りこむ刀身。
切り抜けたラムザはそのまま距離をとる。抜けた軌跡から光がこもれ、閃く。
光が消えるとそこに何もなかったかのように空いた空間が残る。
タバサの風に支えられたキュルケの火球を頼りにラムザが切り抜け、とどめのルイズの爆発、狙いすましたかのような流れが起きる。
だがそれでも土人形は倒れない。
空いた隙間に地面から土塊がねじ込まれる。
一瞬バランスを崩すものの倒れることはしない。
不安定だからこそ安定している、矛盾しているような表現であるが確かにその人形は留まらないからこそ見た目には留まっているのだ。
上空から魔法を放つ三人の淑女に地を駆ける剣士、そして人形はまるで夜の闇の中を一人不格好に踊るピエロのようである。

「けど、これじゃ埒があかないわ」

呟くルイズにキュルケが応える。

「えぇ、いずれどちらかの精神力が尽きるまで続きそうね、それか…」

「ラムザが持たない」

キュルケの言葉を継いだタバサの一言によってルイズの心臓が早鐘のように拍動しだす。
それはルイズにもわかっていたことだった。
この世界で平民は貴族に勝てない。そう言われるのは必然といえる力の差があるのだ。

「ラムザ…」

ルイズの言葉は風竜の切る風の中に消えていく。


………………………………


切っては走り、転回、跳びまた切る。
ただ繰り返しているだけの動きの中でラムザは思考を巡らせていた。
タバサとキュルケの魔法では傷はついても土塊の動きに大きな支障を出させるには厳しいものがある。
ルイズの爆発は確かなダメージを相手に与える、しかし命中率が悪い。先ほどから中空に閃光を瞬かせるだけで肝心の土塊にあたっていない。いくら強力な魔法でも当たらなければ意味がないのだ。
かといって当たるまで待つわけにはいかない。
単調な動きといえど激しい動きだ、疲れで先に潰れるのは自分だろう、ではどうすれば…

一瞬の隙

切り抜けた後に草に足をとられ地に伏すラムザ。


… ………………………….



「あ…」
思わず漏れ出たルイズの声、次の瞬間少女は空に身を投げ出していた。


「ちょっと、ルイズ! あー、もう! あの子ったら!」

キュルケの声も今のルイズには聞こえない。地面が近づく中ルイズは呪文を唱え続ける。
呪文を結んだルイズは次の事を考えた。着地のための魔法が使えない。
自分が'ゼロ'である事を悔やむ。
自分が助かりたいから魔法を使いたいのではない。誰かを守れる力が欲しかった…。

地面が自分を呼んでいる。重力のままに叩きつけられ、その華奢な体はバラバラになるのか?
そんな思考が頭をよぎる。しかしルイズはその考えを信じてはいなかった。
そして目の前に現れた影に確信をもつ。

ルイズは地面に叩きつけられることはなくラムザの腕の中にいた。
地に伏したラムザがルイズの落下を見た瞬間すぐさま疲れた体に鞭打ち立ち上がり駆けだしていた。
しかしいくらラムザといえど倒れた状態から落ちてくる少女を走って受け止めにいくような真似は本来なら不可能だ。
そこはキュルケ、タバサの迅速な行動の賜物であった。
ルイズが飛び出た瞬間キュルケはそれまで唱えていた魔法の詠唱を中断、浮遊の呪文を唱える。
そしてタバサはキュルケを欠いた弾幕の穴を埋めるべくさらに広範囲の魔法を展開する。
これにより落下速度を落としたルイズを受け止めることができたのだ。

そしてルイズがその身を投げ出した理由。
彼女は風竜からただ飛び出したわけではない。
彼女は土塊の前へ、確実に自分の爆発を当てるために飛んだのだ。
その行動はラムザを土塊の手から守るために咄嗟に行ったことであり後先を考えておらず非常に危険ではあったが、なんとか彼女は無事であった。
そして彼女の結んだ魔法は確かに土塊の片足を吹き飛ばした。


閃光とともに消滅した人形の右足をみてフーケが嬌声をあげる。

「はっ! 決死のダイブだったようだが残念だねぇ! そのくらいでゴーレムは倒れないよ!」

言葉通りに右足を再構築させるフーケ。ルイズはの眼前で元通りに組み上げられる土人形。

「さて、この新しい足でまずはお二人さんから踏み潰してあげようか!」

そういって動き出す土塊。
この土塊に近づくために飛んだルイズの落下点は言うまでもなく至近距離でありとてもよけきれるものではない。
ルイズは踏み潰されることを覚悟した。


しかし土塊の右足が持ち上がることはなかった。

「なんだいこれは!?」
思わずフーケも声を上げる。

土人形の右足から蔦のようなものが生えその動きを抑えているのだ。

「風水、蔦地獄」
ルイズが呟くラムザの顔を見る。
「今の、ラムザが…?」

「ルイズまだ戦いは終わっちゃいないよ。ここは危ない、走って逃げるんだ」


そういうとルイズを下ろしラムザは再びデルフリンガーを構え駆け出す。
取り残されたルイズも呪文を唱える。
ラムザの言葉に反発するようにルイズは大きく引くことはしなかった。至近距離からの爆発により土塊の体が崩されていく。
切り崩され、爆発。上空から降り注ぐ火球と氷柱。しだいに削られてゆく人形、しかも土を補充すればそこからは蔦が突出し動きが縛られていく。
そうして人形の表面が覆われ動けなくなるのも時間の問題であった。
しかし完全に動きが止められる直前、急に土塊が形を崩した。

「はっ!ゴーレムが動けなくなれば負けを認めるとでもおもったのかいっ!?」

そういうとフーケは杖を振り魔力を解放した。

次の瞬間土でできた壁が噴出。
蔦をまきこみながらラムザ達の前に聳え立った。
吹きあがる土煙に巻き込まれ視界を失うラムザとルイズ。

「キュルケ! タバサ!」
ルイズが上空の二人に追撃を求める。

しかし帰ってきた答えはルイズの予想に反したものだった。

「いないわ、どこにもいない。フーケがどこにもいないわ!」
「そんな…」
キュルケの声に動揺するルイズ。
逃げたのならすぐわかる。

「こりゃぁ、まだ近くにいるな」
デルフリンガーの言葉にラムザがうなづく。

不意を打ってくる気か、それとも…。
キュルケとタバサには上空からの監視をつづけてもらうよう言った。
そしてルイズを引き上げてもらうようにいうがそれを頑なに拒否するルイズ。
周囲に気をはりながらルイズを諭すように言う。

「ルイズ、ここは危険だ。タバサの風竜のところへいくんだ。」


しかしルイズは頑として譲らない。
「ここで私だけ安全な場所からあなたが戦うのを見ていろというの? 私は貴族よ! 貴族とは、魔法を使えるだけの者を言うんじゃないわ。
誇りをもって決して何事からも逃げないものを貴族というの! ここであなただけ危険な目にあわせるわけにはいかないわ!」

「君の考えは素晴らしい、ただ血筋だけで貴族を名乗る脆弱な者もいる中でその意志は本来の貴族の在り方を知る者の誇り高きものだ。
しかし、今僕が言っているのは君の考えには反しない。これは背を向けて逃げ出すことじゃない、敵を知りリスクを減らしているだけだ。
僕がここに残るのに適役で君にはやれることがほかにあるだろう?」

「…私がここにいると邪魔になるから? ゼロのルイズだから?」

「違う」


「違わないわ、さっきから私あなたの邪魔しかしてないわね…。飛び降りたとき助けてくれたのもあなた、ゴーレムの動きを封じたあの蔦も、あなたなんでしょ?」

「ルイズ!」

後ろ向きな発言を続けるルイズが突然のラムザの大声に驚き顔をあげる。
そこで彼女が見たものは予想していた叱責の強張った表情ではなく慈愛を感じさせるようなとても優しいものだった。


「ルイズ…、僕は一度だって君を邪魔だなんて思ったことはないよ。君のさっきの命をかけた行動のおかげで僕は助かったんだ。君にはできることがある。
できないことを見て悲観してはいけない、君にしかできないことがあるんだから。できることさえせず背を向ける事を君の誇りは許すことができるのかな?」

「ラムザ…。」

目の前の男から発せられる言葉にルイズは自らを恥じた。これではまるで駄々をこねる子供ではないか、自らの発言を矛盾させる行動をして今の私こそ彼を困らせている。
涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえる。下を向き、再び顔をあげたルイズはラムザに告げた。

「わかったわ、地上はあなたに任せる。でも…無茶はしないでね?さっきみたいなことになったら私…」

言葉を紡ぐ最中、ルイズの体が浮き上がった。
それがタバサがルイズを引き上げるために行使した魔法によるものだとわかるとルイズは何かに気づいたかのようにハッとしたかと思うと顔を真っ赤にしながら声を大きくしていった。

「べ、べつにあんたのこと心配してるわけじゃないんだからね! あんな賊に後れをとったら承知しないんだから!」

それだけ言い残しルイズは引き上げられていった。
ラムザは苦笑いしたがすぐに思考を巡らせる。

フーケはここにまだいるのか、まさか地下に仕掛けを施し逃げたのではないか、そんな考えが一瞬頭をよぎったがすぐに否定した。
先ほどからラムザが感じている感覚、それがフーケがまだここにいることを伝えている。正確にはフーケの所持物が、だが。

フーケはこの土壁を使って隠れている、ではどこに?
地下か、壁の中か、それとも木の上にでも潜んでいるのか。
感覚を研ぎ澄ませるがその詳細な位置を把握することができない。
このまま留まることはフーケにとって不利な状況を招くことは分かっているはずだ。それでも姿を表さないということはフーケの狙いは不意打ちか、もしくは…


「これじゃ埒があかないな」

「ああ」

デルフリンガーの声に答えるラムザ。
ラムザは己が体に走る焦燥を押さえ込み思考を巡らせる。
フーケが姿を眩ませてから幾分かの時間が経った。しかし一向に動きを見せない様に風竜に乗る三人も不安を覚えていた。
その視界の中になにか異変はないか懸命に探す。下に居る青年も常に気を払いながら行動している。その彼の為に今自分たちができる事をやらなければならない。
そんな中、風による探索をかけていたタバサがゆっくりと動く物体を見つけた。
「森の中で動くものがある、野生動物ではない」
タバサの言葉を聞きそれを下にいる青年に伝えるためルイズが声を上げた瞬間

「ラムザ!」

その青年に向かって数多の矢が射かけられた。

四方八方から飛ぶ矢に対して回避行動をとるラムザ。
しかしいくらなんでも同時に放たれた矢を全て避けることはできずその命を狙う矢をはじき落とすも何本かががラムザの体を傷つけた。
受けたのはかすり傷程度だがそれよりも矢に気を取られた一瞬が痛かった。

矢を放ったのは森の中、巧妙に隠匿された固定弓。
フーケが動かなかったのはその固定弓を密かに錬金し配置していたからだった。
矢が放たれたと同時に土壁がはじけあたりに土煙をあげる。それに乗じてその場を離れようとする者がいるのをラムザは感じていた。
フーケの矢はラムザを討つためのものではない、ラムザの隙をつくるためのものだったのだ。

一瞬絶望的な考えがラムザの頭をよぎる。
そしてフラッシュバックする光景。

辺りを血の臭いと死の気配だけが包む城、全ての恐怖を体現した存在。

二度と…あの悲劇を引き起こす訳にはいかない……!


ラムザの感情が燃え上がる。それに呼応するように左手のルーンが輝きを増す。

「ああああああああああああっ!!」
「相棒っ!」

疾走する叫び,それはデルフリンガーの呼びかけさえ消し去る。
フーケが振り返るとそこには居るはずのない声の主がその身に迫っていた。

「返してもらおうか」

「ヒッ」
フーケの口から漏れ出る声。

そのまま後ろから肩を掴まれ地面に押し付けられる。草地に顔が飲み込まれるように叩き付けられその衝撃にフーケは意識を手放した。

「はぁ、はぁ……」

「相棒、大丈夫か?」

「あぁ、ちょっと、うん、はぁ、気持ちの整理が、はぁ、うん、もう大丈夫」

デルフリンガーの心配そうな声、呼吸を乱していたラムザもどうにか息を整える。

なんだ?今のは…?
力への渇望が、確かにあった。しかしそれが形に現れるなんて都合のいいことが起こるはずがない。自分に起きた異変。ありえない速さ。
ヘイストの呪文をかけられた時のような加速度。いや、それ以上かもしれない。しかし自分は呪文など唱えていない。

「……?」
不思議に思うラムザの手の中でデルフリンガーの中にも疑問が生まれていた。
前にも見たことのあるようなその光景、しかしその既視感に対する答えが出ないでいた。

「ラムザ!」
そんな一人とひと振りのところにルイズ達が駆け寄ってきた。

「フーケを捕まえたのね」

その声にラムザは思考から復帰し答える。
「ああ、気絶しているうちに杖と盗品を取り上げて縛っておこう」

「そうね。とりあえず杖を、そしてこれが審判の宝珠?」
そういってルイズがフーケの懐から取り出したもの、それはラムザの予想通りのものであった。
「何故これがここに…」


「? 今なんて?」

ラムザの呟きにルイズが聞き返す。
「いやなんでもない」
しかしラムザは答えはしない。

「?」
一瞬どこかつらそうな表情を見せたラムザをそれ以上追及するのははばかられた。
しかしそこはルイズ、疑問をそのままにしておけるたちではない。もう一度聞こうとしたしたがそれは偶然キュルケの声によって押しとどめられた。

「ねぇ、これって…」
「え?」


フーケのローブを脱いだ顔をみるとそこには見知った顔があった。

「ミス・ロングビル?」
そう、それはオスマンの秘書ロングビルその人であった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

驚きと疑問の尽きない一同であったが夜も更け一度学院に戻ることにした。
学園に着いたとき、騒ぎはある程度沈静化していたようだ。普通ならこれだけの騒ぎがあればもっと人が出ていてもおかしくないものだが、これはオスマンによるものだろう。
そうあたりをつけまだ人の残るあたりに向かう。
予想通りそこには教師らしき人物が数人とオスマンがいた。
ラムザ達に気づいたオスマンはそれまでしていた話を切り上げ駆け寄ってきた。

「無事じゃったか、さすがの手際じゃな。して、盗まれたものは…?」

「ここにあります、オールドオスマン」

「おお! よくやってくれた!」
そういってルイズによって差し出されたものに手を伸ばすオスマン、しかしそれは先に手を出したラムザによってさえぎられる。

「ちょっと! ラムザなにやってるのよ!」
訳が分からないルイズは非難と疑問のまじった声をあげる。しかしそんなこと意に介さずラムザはオスマンに向かって話しだした。

「これが何か知っているようですね、ならばそうやすやすと渡すわけにはいきません」

「ラムザ?」
毅然と構えるラムザの様子にルイズ達は気圧される。
「ルイズ、それを僕に」
いわれるがまま手に持っていたものをラムザに渡す。
その間もラムザはオスマンに対し注意を向けている。
そんなラムザに対しオスマンはそれまでの厳しい顔を崩し話す。

「ほっほ、たしかにそうじゃの。君にとってこれは忌まわしき物じゃろうしのう、べオルブ君。それは君に預けよう。君なら心配ないじゃろう、しかし仕掛けをほどこさせてもらう、それに君に話さなければならないこともある。来てくれるかね?」

「行かなければならないようですしね、詳しく聞かせていただきましょう」
ふたりの会話についていけない周りは押し黙ったまま立ち尽くしていた。
そんな彼らにオスマンは声をかける。
「君たちはフーケを拘束し王院にその旨を連絡…、む、フーケはミス・ロングビルであったか…。残念な事じゃ…彼女には期待しておったのにのう……。
あぁ、それが終わり次第部屋に戻ってくれてかまわん。君たち生徒は今夜は部屋に戻りなさい、今日は本当によくやってくれた。
おってまた話を聞かせてもらうと思う、またその時に褒美も出そう。」

そういうとオスマンはラムザをつれて自室に向かっていこうとする。
教師たちは言われたとおりに動きだした。
フーケの正体に関しても自分たちの活躍にしてももっと言及されると思っていたキュルケは唖然としている。
タバサも表情はあまり変わらないが驚きはあるようだ。そしてルイズは連れられていく自分の使い魔を黙って見送ることができずオスマンに駆け寄っていった。


「待ってくださいオールドオスマン!」

その声を聞きオスマンは振り向く。そしてこういった。
「おお、そうじゃった。ミス・ヴァリエール、君の使い魔は今夜はわしのところに来てもらう、話すことがあるのでのう。後々君にも話すことがあるのじゃがそれは今夜は無理じゃ、今夜は部屋に戻ってもらえるかのう?」


やさしく話すオスマンに対しルイズが不安そうに尋ねる。

「あの、ラムザがなにかしたのでしょうか?」
それに対し帰ってきた言葉はこうであった。
「そういうわけではない、君は心配せずに部屋に戻り明日の授業に備えなさい。それに明日は大事な日じゃろう?」

そこまで言われれば食い下がるわけにもいかずルイズ達は気にかけるように幾度もふりかえりながら寮塔に向かっていった。

「では、わしらも行こうかのう」
そういって歩き出したオスマンの後ろをついていくラムザ。
長い夜はまだ終わらない。


第7話end…


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