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風の鮫

「ふむ……なんだろうな、これは」
 ガリア王国の首都、リュティスのヴェルサルテイル宮殿で、この王国の王ことジョゼフ一世は柄にも無く途方にくれていた。
 とりあえず、冷静になって状況を整理し、目の前のものを観察してみる。
「サモン・サーヴァントとやらを試してみたつもりだったのだが、これは失敗したか……いや、召喚はできているから成功したのかな?」
 見上げた先には、宮殿の中庭で噴水や花壇を押しつぶしている巨大な物体が鎮座している。
 物体……いいや、青く輝く目や、鋭く裂けた口があることから生き物なのだと思うが、そのサイズがケタを外れていた。
 ざっと見渡すだけで、全長はおよそ50メイルはあり、ハルケギニア全土を探してみてもここまででかい生き物はいないだろう。
 姿かたちは、海に住んでいるという鮫という生き物によく似ており、背中には鮫の特徴である巨大な背びれもあるが、反面前足はヒレではなく、モグラのような巨大な爪のついた足になっている。
「わからんな……だが、まあいいか」
 結局正体はつかめなかったが、どうせサモン・サーヴァント自体暇つぶしでやったことなので別にいいと、ジョゼフは周りでパニックになっている衛兵や召使を無視して、その鮫とコントラクト・サーヴァントをおこなった。
 ルーンは鮫の前足あたりに刻まれ、使い魔の儀式は成功したかに思われた。
 すると、これはどういうわけか、それまで完全に停止していた巨大鮫は突然動き出し、前足で土をかいて地中に潜り込むと、そのまま背びれだけを出して地中を泳ぐように移動し始めたではないか。
「うわっ! と、止まれ」
 驚き慌てる衛兵たちは、唖然としているジョゼフの横をすり抜けて迫ってくる巨大な背びれに向かって叫んだが、当然そんな言葉が届くはずも無く、背びれはそのまま宮殿の建物に激突し、
壮麗な白亜の宮殿をおもちゃの城のように破壊していくと、勢い衰えぬままに第二宮殿であるプチ・トロワも体当たりして破壊した。
「きゃああっー! なんだ、いったいなんなんだぁー!」
 崩れゆくプチ・トロワから、ほこりまみれになったジョゼフの娘の王女イザベラが、はだしのままで慌てふためいて逃げ出してくるが、そんなものはジョゼフの目には入らない。
「ふ、ふははは。すごい、これはすごいぞ」
 歓喜の笑いを漏らすジョゼフの声に応えるように、地上に高さ20メイルほどの背びれを突き出した巨大鮫は、リュティスの街に躍り出ると、人々でごったがえしている市街地を思う様に蹂躙していった。
 商店街も、貴族の屋敷も、リュティスの魔法学院も、次々と巨大鮫は背びれをぶつけて破壊していき、街は逃げ惑う人々の阿鼻叫喚の地獄となる。
「すごい、おれはなんとすごいものを呼び出したのだ。ふははは! 燃え盛る街、泣き叫ぶ人々、おれが求めていた光景はこれだ。だがまだ足りぬ。さあ我が使い魔よ、ガリアを、いやハルケギニアを火の海に変え、我が心を痛めてくれ!」
 常軌をいっしたジョゼフの哄笑が木霊し、リュティスはその日、灰燼と帰した。

 その後、巨大鮫はガリア全土の街や村を次々に襲い、破壊していった。
「うわあっ! 逃げろ」
「地の精霊よ……わあっ!」
「なによあのバケモノ、人の餌場を勝手に荒らしてくれちゃってさあ」
 人間はおろか、強力な先住魔法を操る亜人や、吸血鬼などでさえ、呆然と地の鮫の猛威を見送ることしかできない。
 一月ほどかけ、ガリア全土をほぼ壊滅させると、恐るべき地の鮫は今度は隣国ゲルマニアに侵入、ガリアのときと同じく国土を蹂躙しはじめた。
 むろん、ゲルマニアは全軍をあげてこの地の鮫を迎え撃ったが、なにぶん敵は地底を高速で移動できるためにまともに攻撃を仕掛けることができず、待ち伏せして攻撃をしようとしたら、
地の鮫は地上に突き出した鼻先から強力な破壊光線を発射して軍勢を蹴散らし、ゲルマニアもまたガリアと同じ運命をたどった。
 家を失った被災者は50万人にも達し、その悲惨さをうれいたロマリアの教皇聖エイジス32世は、このとき内密にあらゆる動物を操るという伝説の使い魔ヴィンダールヴを地の鮫の制圧に向かわせたが、
どういうわけかヴィンダールヴの力も地の鮫には通じず、彼は重傷を負ってやっと逃げ帰ってきた。

 ゲルマニアが蹂躙されたら、次は隣接する小国トリステインの番である。
 即位したばかりのトリステイン女王アンリエッタは、ゲルマニア西端ツェルプストー領を破壊し、まっすぐやってくる地の鮫を、国の最東端ヴァリエール領にて全軍をもって迎え撃った。
「ここを突破されたらトリステインは滅びます。全軍、命を捨てて戦いなさい!」
 陣頭指揮をとるアンリエッタに率いられ、最強のメイジ『烈風』カリンを筆頭に、国中から集められた軍勢が立ち向かう。
 だが、ありとあらゆる魔法、武器による攻撃も地の鮫の進撃を止めることはできなかった。
「もはや、これまでか……」
 ここを突破されたら、もはや国内に守りはない。地の鮫の猛威に、トリステインもガリア、ゲルマニアと同じく灰燼に帰すしかないのか。
 誰もが、そう絶望しかけたとき、奇跡は起こった。
 それは、最後の防衛ライン、トリステイン魔法学院の生徒たちによる、戦力にもならないと思われた薄い防壁。
 そこで決死の覚悟で待ち構えていた生徒たちを蹴散らしていく地の鮫に、せめて一矢をと、その背中に飛び乗った一人の少年の左手のルーンが輝いたとき、ルーンを通して少年の頭に地の鮫の正体が伝わってきたのだ。

「こいつは生き物なんかじゃない! 人間が作り上げた兵器、ロボット怪獣なんだ!」

 あらゆる武器を操るという伝説の使い魔ガンダールヴの力が、地の鮫の謎のヴェールを引き剥がした。
 それは、異世界で作られた兵器、『地底鮫ゲオザーク』だったのだ。
 こいつは、外見上は生き物だが、それは偽装で、内部にはメカニックがつまった金属の塊、ヴィンダールヴの力が通用しなかったのもこのためだ。
 しかし、どんな武器の使い方でもわかるガンダールヴならば話は別。
 ガンダールヴの少年、平賀才人はこいつを止められるのは自分しかいないと、制止する主人の少女を振り切って、友人の青い髪の少女に頼み込んだ。
「タバサ頼む! シルフィードでこいつの口の中に俺を連れて行ってくれ」
 なんと才人は、ゲオザークを外部から破壊することはできないと、体内に入ってメカを直接停止させる作戦に打って出た。
 もちろん、彼の友人たちはそれを止めたが、トリステインを救うにはそれしかないと、一か八かの作戦は決行され、なんとかゲオザークの体内に入り込んだ才人は、内部で何度も感電や窒息の危機に陥りながらも、ついにゲオザークのメイン電源を発見した。
「鮫は鮫らしく、打ち上げられたら干からびてろ!」
 愛刀デルフリンガーの一撃で、中枢を止められたゲオザークは、目の光を失うと急速に停止した。
 こうして、一人の少年の命をかけた行動によってトリステインは救われた。

 その後、地の鮫を呼び出したジョゼフ王は、すでに対抗する兵力も失っていたのであっけなく退位に追い込まれ、その後にシャルロット女王が即位した。
 一躍英雄となった才人は、『ヴァリエール領会戦の勇者』と呼ばれるようになり、その勇敢な戦いぶりを間近で見ていた『烈風』カリンやヴァリエール公爵に気に入られ、おかげで彼の主人であるヴァリエール三公女の末娘は、長女と次女を差し置いて彼と結婚することになった。
 ガリアの復興はシャルロット女王の手腕の下で急速に進み、負けじとゲルマニアも復興のペースを上げていった。
 また、唯一被災を免れていたアルビオン国は内戦状態にあったが、どういうわけか反乱軍レコン・キスタの勢力が急速に衰えた結果、王政復古に成功している。

 なお、残されたゲオザークは、これのせいで家や家族を失った人々のために、見学者を集めて爆破する予定だったが、ここで思わぬ事態がゲオザークの運命を変えた。
 それは、ロマリアから急遽ハルケギニア中に発表された。
『ハルケギニア全土は、数年のうちに地下に堆積した風石によって、大地ごと空に舞い上げられて壊滅する』
 という、人知では解決できない大災害の回避に、ゲオザークが使えるのではということだった。
 なにせ、風石が埋蔵されている地層は人間では潜れない地下深くにあるが、ゲオザークのパワーでならばたやすいものだ。
 こうして、急遽修理し、人間が乗り込んで操縦できるように改造されたゲオザークは、才人の操縦によってすさまじい勢いで風石の除去を完了させていった。
 だがいかにゲオザークが強力だとはいっても、一体しか存在しないのでは数年の猶予があっても、ハルケギニア全土の風石の除去はとうてい間に合わなかっただろう。
 けれども1年後にはゲオザークを元に、ハルケギニア中の技術者が全力をあげて簡易地底戦車モーラットの製作と量産に成功したことにより、3年後にはどうにかハルケギニア中の除去が完了した。

 ハルケギニアには再び平和と安息が戻り、その後は長いあいだ大きな戦争も無く、穏やかな歴史が続いた。

 役目を果たしたゲオザークは、今はヴァリエール領に建設された巨大な博物館に、じっと鎮座して人々に過去を語りかけている。
 どんな力も、使う人によって破壊にも救済にも変わる。そのことを教えてくれた地の……いいや、『風の鮫』を見に訪れる人が絶えることはない。

 完



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