あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの双騎士 第七話

煤だらけになった壁や机をはたきでポンポンと叩く。
上から下へ汚れを落とすようにするのは掃除の基本だ。
剣も鎧も掃除には邪魔だから外して教室の隅に置いてあるが、騎士がはたき片手に掃除をしている様はあまり見栄えのするものではない。
…戦友達にこんな姿を見られたらどうからかわれることか。
特に三度のメシより噂話が好きだったプリーストとか。

『ねーねー聞いて聞いて!パルパレオスったら、10歳以上年下の女の子の召使にされて掃除やらされてるのよ、はたき片手に!』

…いかにもありそうな想像に、思わず苦笑してしまう。
彼女に秘密がバレたら、2時間後には仲間全てに知れ渡る。
3日後には国中に広まるだろう。それほど噂が好きなのだ。
この場に彼女がいないことに心底ほっとする。

「…可笑しいでしょうよ、貴族なのに魔法もまともに使えない私が可笑しいでしょうよ!」

吐き捨てるように怒りをぶつけるルイズの声に、意識を戻される。
煤だらけだった机を軽く払って腰掛けている。
掃除を手伝うでもなくさっきからうなだれていたようだった。
落ち込んでいる様子の上、酷く不機嫌そうでもあったからあえて声など掛けなかったのだが…
どうやら、思い出し笑いをルイズに対する嘲笑と勘違いされたらしい。

「…いや、君を笑ったのではないよ。
 騎士である私がはたき片手に掃除をしている姿を戦友達に見られたらと想像したら…つい、な。
 気を悪くしたのなら謝ろう」

「…そう。でも、情けないと思うのではないの?
 魔法使うたびにこんな爆発だもの。
 …今回のは特別酷かったわ…ここまで汚しちゃうなんて」

「普段はここまで大量に煤が出たりはしないのか?」

「いつもこんなだったらとっくに退学になってるわよ」
…ふむ。
後に残る濃く黒い大量の塵が、暗属性の特徴の一つである。
しかし、基本的に竜の力を借りずに暗属性の魔法や技を使えるものは少ない。
グランベロス帝国の女将軍ラディアなどは、その強大な魔力から単独で「ナイトメア99」という暗属性魔法を使うことができる。
ただ、彼女はほとんど規格外だ。
恐らく突然変異であろうその魔力から「幽谷の魔女」などという二つ名が存在する。
魔法研究が最も進んでいるゴドランドにおいて、同じく魔法使いとしてそれを捻じ伏せた幽谷の魔女。
その名に誇張があるとしても、決して虚名ではないのだ。

そんな彼女ではあるが、一方で良くない噂も存在した。
公にはされていなかったが、外法の研究に手を染めていたらしいのだ。
旧反乱軍とグランベロス帝国ゴドランド方面軍との間に起こったゴドランド解放戦役。
そこで、ブレイドガード、マジックガードなどと呼ばれる魔法使いらしき戦士が出現したことがある。
これが尋常な魔力ではなく、単独で暗属性魔法を行使して帝国側に与して戦ったことが確認されている。
だがグランベロス帝国軍にそのような魔法戦力は存在していなかった。
正式名称においても、コードネームや隠語だとしても、その名に該当する存在は確認されていない。
従えていた下級兵や剣を交えた反乱軍戦士の証言では、まるで人形のように感情を見せず、淡々と戦ったという。
遺体を調べた反乱軍医療部隊から「改造された魔法使いである」という報告があったことが後に確認された。

また、同戦役においてアンデッドの大量発生も確認された。しかも改造済みアンデッド、である。
結局戦闘中にラディアが反乱軍に討たれ、黒幕はうやむやになった。
が、十中八九彼女の仕業というのが関係者の共通認識であったのだ。
そのようなことをしでかす人間なら、自らの体に魔力増大のための改造を施していたとしても何の不思議もない。
恐らくこれが暗属性魔法を操れる魔力の秘密だ。

この情報は、オレルスではほとんど知られていない。
帝国の支配下でなお自治を保っていたゴドランド政府からすれば、同じ魔法使いのスキャンダルは隠しておきたかったのだろう。
反乱軍首脳もこれを機密扱いとして隠匿することに同意している。

余談が続いたが、つまりは「普通の魔法使いが暗属性魔法を単独行使することは不可能」なのだ。
なのに、ルイズは(不完全な威力であるにしても)暗属性魔法を使った。
考えられる可能性は二つ。
ルイズが改造魔法使いであるか、でなければあの魔法が単独行使ではなかったかだ。
当然ルイズに改造など施されているわけがないから、おそらく後者。
サラマンダーの魔力が流れ込んでしまったのだろう。
「前とは明らかに爆発の仕方と結果が違う」というのも、サラマンダーの出現でルイズの魔法が暗属性魔法へと変質しかかっているのが原因なのだろう。
パルパレオスはそう推測した。

であれば、火属性や水属性、回復属性などの魔法も使えるようになっているのだろうか。
ドラゴンは、原則として主や仲間と認めた者にしか魔力を貸さない。
だからこそ戦竜隊の隊員は皆ドラゴンを大事にする。普段の世話も欠かさない。
よくドラゴンを思いやり、それでいて主人としてしっかり立つ。そうでなければならないのだ。
サラマンダーは随分ルイズに懐いていたようだから、力を貸すことは充分考えられる。
マスタードラゴンだからサラマンダーも暗属性の魔力を持っている。矛盾は無い。
「…どうしたのよ、黙り込んじゃって」

ルイズの声に元気は無い。
ゼロだ何だと馬鹿にされながら、それに負けぬよう彼女は努力を重ねてきたのであろう。
主人の性格と負けん気の強さを思えば、その様子は容易に想像できる。
なのに、今日の魔法は普段より酷かった。
努力したのに改悪という結果になったことが、酷く堪えたらしい。

「悪くなったと思うか?」

「…え?」

「ルイズの魔法が今までより大きな爆発を起こした。これは、悪いことだと思うか?」

「当たり前じゃない!失敗魔法の爆発がもっと酷くなったんだから」

「あれは、失敗魔法ではない。暗属性魔法だ。オレルスでも扱える者は極めて限られる強力な魔法…」

「…説明なさい」


+++++
「…嘘でしょ…私がそんな強力な魔法を…!?」

オレルスの魔法について。
オレルスの魔法使いについて。
オレルスに存在する属性について。
オレルスの竜と魔法の関係について。
そして、暗属性の特徴について。
オスマンに話していたことよりも踏み込んだ内容で、ルイズに説明してやったのだが…。

ルイズの目が、輝いている。

これまで使えなかった魔法が使えるようになる。
その可能性を提示された喜び。
暗かった主人の顔に光が差したことは良いが、一方でパルパレオスは懸念を感じてもいた。

あの魔法の強力さと、同時に術者の幼さ。
ハルケギニアの系統魔法の内容と歴史。
ハルケギニアの現在の国際情勢。
それらを踏まえて、国家組織に身を置いていた自身の経験を加味する。

(…戦争に利用されるか、異端扱いされるか…そうでなければ研究材料だな)

いずれにせよ、碌なことにならない。
どうもこの件を公にするのは楽しい未来図に繋がらないらしい。
ルイズに炎の魔法や水の魔法を覚えてもらうのはいい。
主人の地位向上は望むところだし、それに自分が一枚噛むとなれば主人から軽視されがちな私の立場もよくなるだろう。
ただし、あの爆発を起こさないようコントロールできるようになる必要がある。
また、必要に応じて爆発(暗属性)とハルケギニアの系統魔法を使い分けられるようになる必要もある。
当然、爆発が暗属性であること、それをコントロールできること、竜の魔力を借りれば使えることなどは秘匿せねばならない。
説明と説得に少々手間がかかったが、ルイズは納得してくれた。

…後は、一部始終を見ていたであろうオスマンをどうするか、だ。

パルパレオスの頭は、激しく回転を続ける。


+++++
「…ん~…っ、やっと終わったぁ~…」

差し込む夕陽が眩しい廊下。
講義を終えて教室を出たルイズは、ぐーっと伸びをしてみせる。

「お疲れ、ルイズ」

あれから数日、特に大過なく日々を過ごしている。
変わったことと言えば、ルイズの活動が以前より精力的になったことだ。
系統魔法修得の可能性が見えたのがよほど励みになったのか、毎晩サラマンダーを交えて二人と一頭で魔法訓練をしている。
あの後オスマンに少し話をしておいたのだが、彼の考えはパルパレオスと一致した。
亀の甲より年の功とでも言おうか、暗属性魔法について聞いて彼もすぐにその可能性に思い至ったらしい。
結局パルパレオスは隠し通しても無駄だと考えたのだ。
ルイズとパルパレオスの話を聞いていたのであれば、暗属性についても知られていると見るべき。
であれば、全てを正直に話した上で協力を要請するしかない。
パルパレオスは、何度かオスマンと話す機会を得て、彼の洞察力や思考力を信用してもいいと思うようになっていた。
その考えに従い、賭けをして、そして勝った。
サラマンダーの魔力を借りた魔法訓練を行うことにも許可を貰った。

「さぁ、夕食食べたら訓練するわよ!」

まだ系統魔法成功には至っていないものの、その兆しは見えてきていた。
ゆっくりと、だが確実に進歩し始めた自分に、ルイズは自信を持ち始めている。

「あぁ、付き合うぞ」

…良い傾向だ。
明るい主の顔を微笑ましく眺めつつ、共に食堂へと向かった。


+++++
杖を構えて、イメージする。
炎。ゆらゆらと燃える炎を。
体から、腕、指、杖へと流れる魔力を。
放出されて、空気を固め、擦り合わせて熱を生む様を。
できるだけ明確に。
イメージを固めながら、詠唱する。

「…ウル・カーノ!」

やすりに布を擦りつけたような音と共に、杖の指し示す空間から一筋の煙が上がった。

「…以前よりも成功に近づいているのではないか?」

「そうね…小爆発はしなくなったし…。
 煙が出たところを見ると、発熱させられてはいるのかしら…」

額に汗を浮かべながら杖を振る主人を、何度見たか。
パルパレオスはルイズの根性とひたむきさに、内心舌を巻いていた。
自分が来る前からこんな風に練習を繰り返していたのだろう。
訓練、それ自体は慣れているようだった。
最も訓練方法は少々ズレていたようだったが。
それまでのルイズは、単に力んで詠唱して杖を振るだけだったのだ。
パルパレオスは魔法については門外漢だが、クロスナイトとして超常現象を起こす必殺剣を扱うことはできる。
それを会得する過程で行っていたイメージ修行の重要さが系統魔法にも通じるかもしれないと思い、ルイズにもやらせてみたのだが…
これが大当たりだった。確実に進歩している。

ただ、まだ何かが足りないようだ。
魔法に関して素人の私ではこれ以上の指導ができない。
さてどうしたものか…と考えつつ、果敢にリトライするルイズを眺める。

「クアァァッ!」

「えぇ、ありがとサラマンダー!」

破顔して返すルイズ。微笑ましいやり取りである。

(…ん?)
人の気配がする。学院のほうから人影が近づいてくる。
シルエットからして…メイドかな。

「お疲れ様です、ミス・ヴァリエール、パルパレオスさん」

「おや、シエスタか。どうしたのだ?」

「熱心に訓練されているようなので、お疲れかと思って…。
 お茶と軽食を持ってきました。いかがですか?」

「ありがとうシエスタ。ちょうど喉渇いてたのよ。そろそろ休憩にしましょうか」

「お疲れ、ほら」

杖を下ろしてこちらへ歩いてくるルイズにタオルを渡してやる。

「さ、どうぞ」

水筒からカップに移したお茶をシエスタから受け取ると、美味しそうに飲み干す。

「んっ…んくっ…ふぅ…生き返るぅ~♪」

「ふふっ、よく冷やしておきましたからね。さ、パルパレオスさんもどうぞ」

「あぁ、ありがとう」

お茶を貰い、シエスタお手製のサンドイッチを頬張る。
ふわふわのパンに挟まれたシャキシャキのレタス。
軽い塩味のついたベーコン、風味豊かにとろけていくチーズ。
運動後の上、ちょうど小腹の空く時間帯である。
量も塩気も丁度良い。
シエスタの気配りが行き届いた差し入れに気遣いと真心を感じながら、皆で舌鼓を打った。

「ほら、サラマンダー」

半分に千切ったサンドイッチをサラマンダーの前へ置いてやると、美味しそうに頬張ってみせた。
もっとくれ、と言うように顔を寄せてくる。

「悪いなサラマンダー、もうないから我慢してくれ。また今度シエスタに作ってもらおうな」

甘えるようにクゥと一声鳴いてシエスタを見つめるサラマンダーに、つい笑ってしまう。

「ふふ…っ、可愛いですねこの子。サラマンダーって言うんですか…立派な竜ですね」

「でしょ?人懐っこいし賢いし…よしよし」

少女二人に撫でられてご満悦のサラマンダーである。

「子供の頃から人に育てられた竜だからな…ところで、見るならこっちへ来て見たらどうだ?」
「あら…バレちゃった?あんまり根詰めてるもんだからつい気になっちゃって、ね」

側の木陰から二人の少女が出てくる。
キュルケと青い髪の少女。こちらは初めて見る顔だ。

「ツェルプストー…覗き見とはいい趣味だわね…タバサまで」

「…連れてこられた」

「…相変わらずタバサを振り回してるのね、アンタ」

「放っといたらいつまでも本読んでるような子だもの、このくらいで丁度いいのよ」

呆れ顔で言うルイズに、気を悪くした風もなく笑うキュルケ。
案外、いい友達なのかも知れない。

「…ところでキュルケ、そちらの子は?確か教室に居たと思うが」

「あぁ、紹介が遅れたわね。この子は"雪風"のタバサ。風のトライアングル。
 貴方の言うとおり、私やヴァリエールのクラスメイトよ」

「…(ぺこっ)」

「ルイズの使い魔、サスァ・パルパレオスだ。よろしくな」

言葉を発さず軽く頭を下げるタバサ。
気にした風もなく返してやると、これで用は済んだとばかりに本を開いて読み始める。
無関心なのかマイペースなのか…思わず苦笑してしまう。
「ところでヴァリエール、火の魔法の訓練してたの?」

「えぇ、基本の『発火』の魔法からやってるけど…何よ?」

「そう…とりあえずやってみて?」

「…まぁ休憩は終わったし、別にいいけど…」

怪訝そうな顔をしながらもう一度杖を構えて詠唱するルイズ。
結果は先ほどとさほど変わらず。

「へぇ…爆発もせず、発熱もちゃんとできてるとはね…」

感心したように呟くキュルケ。僅かながら驚きの色も見てとれた。
タバサも、ちらりと本から視線を上げて、ルイズの試技を見ていたようだ。

「パルパレオスのアドバイス受けながらどうにかここまで出来たわ」

「えぇ、ちゃんと進歩してるじゃないの!
 そうね…イメージは出来てるみたいだから、次は…」

とても自然にルイズの指導に当たるキュルケに、感謝の念を抱いた。
魔法の細かい指導は私ではできないからだ。
弁の立つキュルケだけに説明も指導も分かりやすい。
ルイズも反発せずひたむきにやっている。

…無事成功する日も近いな。
子や生徒を見る親や教師の心境とはこんなものだろうか。
そんなことを考えつつ、訓練の様子を見守っていた。


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