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お前の使い魔 28話


「きゃああああああっ! 速い!! 速いって!!」
「落ち着け娘っ子! うまくコントロールしねえか!!」

 青年の『記憶』と『経験』を身に宿したわたしは、空を駆け抜け、トリステイン魔法学院からタルブへ一直線……だったはずなのだが、実際はそう簡単ではなかった。
 まず、どれだけ青年に経験があろうと、わたし自身はフライすら使えないゼロなのだ。
 感覚ではわかる。わかってはいるのだが、実際にそれを行うとなると話は違う。

「こここコントロールって言われてもわかんないいいいっ!! ひいいいいっ!! 今度は落ちる!! おーーーちーーーるーーーー!!」
「うおおおおっ!? って俺様を離すなああああっ!!」

 そんなこんなで急上昇したり急下降したり、左に旋回したかと思えば今度は右へ。あまつさえ戻ったりもした。
 まあ、それでも以前、風竜でトリスタニアへ行った時よりも速く移動していたりする。全く、とんでもない力を彼は使っていたものだ。

「よ、ようやく慣れてきたわ……」
「落っことされねえなら何でもいいや俺様……」

 どうにかこうにか慣れてくると、今度は別の事に思考が傾く。

「ねえ、この剣なんだけどさ」
「ん? 俺様のことか?」
「違うわよ。黒い剣の方」

 わたしは、自分の右手に持った黒い剣に視線を向け、考えていたことを話す。

「そもそもこの剣って、一体なんなのかしら?」
「知らね」
「……役立たず」
「ひっでえ! だって仕方ねえだろうが。俺様は入れ物として使われただけだってのは娘っ子だって知ってるだろ?」

 デルフの言うことはもっともだ。だが、よくわからない物を自分の中に入れるという思考がわからない。気持ち悪くないんだろうか? まあ、こんな風に普通にしゃべっても剣なんだし、人間とは思考が違うのも仕方ないことなのか。
 どちらにせよ、黒い剣に関してはデルフはわたしより知らないことばかりのようだ。だとすれば、自分だけで考えるしか無い。まだ時間は少しあるようだし、ちょっとだけ整理してみよう。
 この剣は元々、青年が持つよりも以前、その世界で覇王と呼ばれていた者が持っていた。そして、覇王が倒れ、それから長い時を隔てた後に世界を喰らうものを総べていたギグという男を封じ、青年の手へと移った。そしてこの世界へと来た青年の手に持っていた剣はデルフへと封印され、今はデルフと共にわたしの手の中にあると。

「あれ?」
「どうした娘っ子?」
「いえ、何かが……何かが引っかかるのよ」
「何かって何が?」

 デルフの問いに答えようとしたものの、うまい具合に言葉にならない。自分でも、何が引っかかったのかよくわからないのだ。
 だけどわたしは、何か重要なことを見落としている。そんな気がして仕方がなかった。

「おっと、娘っ子。見えたぞ」

 デルフの言葉に我に返ると、遠い場所で赤と黒の二色が混在しているのがわかった。

「なによあれ……」
「ひでえもんだ」

 そんな事を言ってる間にも景色は近づき、今では燃える村や森、そして火を放つ竜や、その背に乗る騎士の姿さえもはっきりと見えるようになった。
 わたしの中で何か熱いものが流れる。思考が怒りで流されていくのがわかる。

「許さない……」
「娘っ子、落ち着け」

 遠くでデルフの声が聞こえたが、すぐさま自分の中の怒りの濁流が消し去る。
 あんた達が火遊びをしている場所がどこか知っているの?
 そこには誰がいるか知っているの?
 そこは――

「よくも……よくも……」

 わたしの口は、かつてどこかで聞いた誰かの言葉と同じ言葉を吐き出していた。



「もう少し、もう少しの辛抱だからね?」

 ぐずる弟達に、そんな気休めの言葉をもう何度言っただろうか?
 私は、弟達に見えないよう溜息を付き、後ろにある石を見つめた。

「本当にここは安全なのでしょうか?」

 私の問いに、台に置かれたこぶし大の石が赤い光を優しく灯した。
 私は、その光を見て少しだけ安心する。

「大丈夫ですよね……あの時だって助かったのですし」

 またほのかに赤く光る石に触れてみると、いつも元気に溢れていた少女を思い出した。

「ふふ……」
「どうしたのお姉ちゃん?」

 思わず漏れた笑いを聞いていた弟が、怪訝な顔で尋ねてきた。表情に少し硬いものがあるのは、もしかすると私の気が触れてしまったとでも思っているのだろうか?

「ごめんね。ちょっと……友達の事を思い出していたの」
「友達?」

 あなたの事を友達と弟に話したと聞いたら、怒られてしまうでしょうか? それとも、笑ってくださるかしら? いや、きっとキョトンとした後、何を当たり前のことを言うんだと言ってくださるのでしょうね。

『私とお前は、もうとっくに友達ですよメード』

 かすかに、そして一瞬だけ、触れていた石からそう聞こえた気がした。
 気のせいだろうか? 第一、もしそうだったとして、人が石になるなんてあり得ない。きっと気のせいだ。疲れきっていて、幻聴が聞こえてしまったのだ。
 だけれど、幻聴だとしても嬉しかった。
 此処に来る直前、私達がドラゴンの炎で焼かれる数瞬前、赤い光が私達を守ってくれた。そして、今もなお、私達を守ってくれている。まるで、自分の身を盾にするように。

「今度お会いしたら、私のことはメードではなく、シエスタと呼んでもらえますか? そうしたら私も、失礼ながらダネットとお呼び致します。そして、一緒にとっておきのお菓子を食べましょう」

 また一瞬だけ、でも今度ははっきりと、彼女が笑った声がした。



 竜騎兵である彼は、正直退屈していた。
 ここ最近、軍部の動きがおかしいとは感じていたが、今回の争いはその中でも飛び切り奇妙で、かつ簡単なものであり、自分が必要だとも感じない。
 彼は職務に忠実であり、上からの命令に対して否と答える口は持っていない。
 自分に課せられた任務を淡々とこなす。それが、タルブという小さな村の焼き討ちという退屈極まりないものであってもだ。

「ん……? あれは何だ?」

 退屈していたからだろうか、燃える眼下の森や家を余所目に、彼は誰よりも早く『それ』に気付いた。運の悪いことに。 
 最初は小さな点であった『それ』は、見る間に人だと視認できる大きさとなり、今もなお信じられない速度で自分たちの元へと向かって来ていた。

「何か来るぞ!!」

 自分のあげた悲鳴じみた声に驚きながらも、周りに知らせることができたのは、彼が軍人であり、それに見舞う胆力を持っていたからに他ならない。……が、遅すぎた。

「ひっ……!」

 小さな悲鳴は『それ』に一番近いところに居た騎士から漏れたものか、他の騎士のものだったかはわからない。唯一わかる事といえば、一番近い場所に居た騎士の乗る竜の首が空を舞っているいることだけだった。
 次に目に入ったのは、ビクンと身体を震わせる首の無い竜が落ちていく姿と、放心状態で竜の背に乗ったまま落ちていく騎士の姿。

「な、何者だ!!」

 どうにか喉から漏れるひゅうひゅうという呼吸を押しのけ、数瞬前まで落ちていった竜騎兵の居た場所へ向かって叫ぶ。だが、そこには焦げ臭そうな黒い煙しか残っていない。
 気付くと、周りから悲鳴や怒号が聞こえてきた。訳も分からないまま、退屈であった任務が鬼気迫るものとなり、辺りに魔法や炎が飛び交う。

「やめろ! 味方に当たるぞ!! やめるんだ!!」

 必死になって呼びかけると、段々と魔法や炎が少なくなっていくのがわかった。そうだ、落ち着いて相手を見極めればいい。対処するのはそれからでも遅くはない。
 そう考える彼自身、混乱の中にあると知らず、そんな事を考えていた。少なくとも、数瞬前の『それ』の動きを見ていたにもかかわらず。
 何一つわかっていなかったのだ。魔法や炎が収まったのは、決して落ち着いたからではなく、誰一人として自分の周りに居なかったということを。

「なんだよこれ……なんなんだよこれ……なんなんだよお前は!!」

 そして、静かに目の前に降り立った赤い髪の少女が、自分の見た『それ』であることを。



「どうしたの急に!?」

 シエスタは目を見開いて、目の前の台座で激しく赤く輝く石を見つめた。

「まさか……誰か来たの? あ、あなた達は隠れて!!」

 赤い光が危機を感知しているのだと思い、泣きじゃくる弟達を慌てて部屋の隅に押しやる。
 しかし、部屋の中は円形で見晴らしもよく、空を飛ぶ魔法の使えるメイジならいざ知らず、平民でしか無い自分たちでは隠れることすらままならない。
 だとすれば、この子達を守れるのは自分しかいない。シエスタはそう考え、震える弟達を背に、自分自身もカタカタと震えながらも、気丈に小さな入口を見つめていた。 

「……誰かいるの?」

 入り口から聞こえてきた、聞き覚えのある声にシエスタはピクンと反応する。

「もしかして……ミス・ヴァリエールですか?」

 自分の聞き間違いでなければ、今の声は彼女のものだと思い、かすれるような声でシエスタが呼びかけると、驚いたような、安堵したような声が返ってきた。

「ええそうよ! 待ってて、今行くわ!」
「は、はい!」

 心から安堵して、シエスタは胸に溜め込んでいた思い空気を吐き出し、今も震える後ろの弟達に優しく呼びかけた。

「安心してあなた達。あの方はついこの間、家にいらっしゃった私の仕える学院の貴族様よ。きっと、村の危機を知って学院の方々が救援に来てくださったのだわ」

 だが、信頼する姉の言葉にも、弟達は表情を険しくしたままだ。

「どうしたの?」

 優しく尋ねるシエスタに、弟達は震える指でそれを指さす。
 弟達の指差す方へ、ゆっくりと振り向く。カタカタと震える足と、歯の根が咬み合わない口を必死に手で押さえる。
 わかっていたのだ。だがあえて考えないようにしていた。幸せな妄想で自分を騙していたかった。ゼロと呼ばれ、魔法が使えない彼女が、どうやってこの戦場までやって来れたのかなど考えたくはなかった。争いの始まったばかりのこの村へ、こんなに早く救援が来るはずないという現実なんて考えたくなかった。
 涙の浮かぶシエスタの眼には、部屋の中心で赤い光を激しくするだけではなく、何かを恐れるかのようにカタカタと震える石と――

「い……いやああああああっ!!」

 ――入り口に立つ、血に濡れた身体と、血の滴る二つの剣を携えた見覚えのある少女の姿が映っていた。


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