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ゼロの黒魔道士 Interlude No.IX


宛ても無く、彷徨っていた。
手がかりも無く、探し続けた。

何を?と言われても困る。
とにかく、探し続けていた。
何かを。足りない何かを。
自分には欠けているモノがある。
それを探し続けていた。

はて、自分。
そう考えている自分とは何者なのだろうか。
どうやら、名前すら落したらしい。
これは困った。
まずは自分というものを見つけなくてはならないらしい。

まず、ここはどこだろう。
何やら大きな流れの中であることは間違いないらしい。
薄淡い緑色の光、あるところではそれが渦巻き、
あるところではそれが滝のように流れ落ちていく。
どうやら自分もこの流れの一部であるようだ。
特に何も考えなければ、そのままふよりと流れて行ってしまいそうになる。

だが今、自分は考えている。
それがゆえ、流れに乗りきれず、流されぬまま漂い彷徨う。
自分は何者か。
自分は何か果たすべきことがあったのではないか。
何か、苦しい。
見つけられそうなのに、見つからない。
苦しいならばいっそ、流された方が良いのではないか。

流れの外、河原とでも言うべきか、そこにある者を見つけ、
苦しみの思考が、一瞬止まった。
灰色の花畑に、虹色の蝶。
その中心に、男が一人座っている。
虚ろな瞳で、こちらを見つめていた。
こちら、というか、流れそのものをか。

「あの……すいません」

思い切って、声をかけてみることにした。
男がちょっと驚いた顔を見せた。


「あの、すいません!」
「――驚いたなぁ。まさかここで話しかけられる日が来るとはね」

良かった。どうやら言葉までは忘れてしまったわけではないらしい。
これで、最低でも一人ぼっちで迷子という事態は避けられた。

「あの、ここ……どこなんでしょう?」
「ここか……うーん。説明が難しいなぁ。
 飛ぶ鳥の、向こうの空ってところかな?」
「……?」

男は、ゆるゆると頭を振った。
言い難いことを、言う直前のように、やれやれといった様子で。

「――異界、とでも言うかな。
 生者が必ず最期に訪れる場所なんだ、ここは」
「え……」

男は、真面目くさった顔をして、こう言った。
それが、真実の重みだと言う風に。

「つまり、君は死んだんだよ」



ゼロの黒魔道士
~Interlude No.IX~ 生命の調べ


「そ、そんなっ!!死んだなんて……」

信じられるはずが無い。
そうだ、さっきまで生きて自分は……
生きて?生きて……何をしていたというのだろう?

「皆、そう思うらしいね。
 なんで?や、どうして?って。
 だが、ここはそういう場所さ」

男が、上の方を仰ぎ見た。
光が螺旋状に立ち昇り、幾層もの輪を成している。
広がりながら、柔らかになりながら、
それはどこまでも続いていた。
美しい、と同時に、どこか寒気のする光だった。

「――全部、魂、らしい」
「……」

なんとなく、そんな予感はした。
自分が死んだと言われて、そう思った。
ふと、自分の姿を見てみる。
なるほど。
気がつかなかったが、どうやら自分もあれらと同じ、ということらしい。
少しだけ色のついた煙のような存在。
それが、今の自分。
生前の姿も思い出せない、淡い異物。
死んだら、みんなこうなるというのか。
わずかばかりの質量も持たない、おぼろな光の欠片に。
……いや、待てよ。

「……あの、あなたはここで何を?」

それでは、この男は形を保っていられるのだ?
生前の姿を留めることは、可能ということか?

「僕は、ここでそれを見守るだけ……それが、償いなのかな……
 生まれ変わることも許されない、見ることしかできぬ存在……」
「そんなの……」

察するに、永遠にも等しい時を、ここで過ごしてきたのだろう。
狂うことも許されず、ただ、死と生が繰り返すのを見るだけ……
それが償いというならば、どれだけの大罪を犯したというのだろうか。

「どうしようもないよ。
 僕は、守ることができなかったからね。
 ……大切なものを……」

自分の思考を読まれたのか、苦しそうに笑いながら、男が答えた。
寂しい、寂しい笑顔だった。

「守る……?」

その一単語が、自分の心にひっかかる。
守る、何を?守る、誰かを?
記憶の片隅に、何かがつっかえる。
何だ、何だ、自分は、何だ?


≪おねえちゃん……≫

語りかけたのは、少年の声。
遠くから、深いところから、聞こえる、懐かしき友の声。

「っ!?」

そうだ、自分は……!
自分は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!!
なんということだ、貴族たる自分が名すら忘れてしまうなど!!
堰を切るように、急速に記憶が溢れだす。
馬鹿にされ続けた日々、優しい少年との出会い、いくつもの冒険。
……そして、自分が守らなければならない物、倒さなくてはならない物……

記憶と共に、自分の形が戻っていく。
桃色の髪も、色々な想いを抱いた小さな胸も、
貴族の誇りを背負うべき背中も、未来をつかむための手も、
前へ踏み出すための足も。

「おや、可愛らしいお嬢さんだったか」
「っ!!こうしてはいられないっ!戻らなきゃ!!」

踵を、返す。
この男性には自分を取り戻すきっかけをくれたことに感謝せねばなるまいが、
今は一刻を争う。

「戻って、どうすると?」
「守るのっ!みんなをっ!!」

自分が死んだ?それならそうで構わない。
自分は、守らなければならないのだ。
みんなを、友を、未来を。

「一人でかい?無理をするね……」
「無理なのは分かってるわ!」

自分が無力である。
それは重々承知している。
ずっとずっと、『ゼロ』と馬鹿にされ続けてきた。
ずっとずっと、一人ぼっちの馬鹿娘だった。
でも、今は。でも、今なら。

「ほう?」

おもしろそうに、男が笑う。
父親が、幼い娘を見るような眼差しで。

「でも……私にはみんながいる!!」

かつての彼女に、最も足りなかったもの。
それが、今の彼女にはある。
仲間が。頼るべき、背中が。
支え合える、友が。

「みんながいるから、『ゼロ』じゃないの!可能性も、何もかも!!」

自分は、相変わらず無力でも、それでも、ただ『ゼロ』というわけではない。
だから、少しでも、何か可能性があるならば、自分は帰らなければならない。
仲間のために、みんなのために……
それが、貴族としての、いや、彼女が彼女としてのあるべき姿なのだから。

「ハハハ!!言うね!!」
「笑ってる場合じゃないわ!帰り道知らない?
 私、帰らなきゃ……奇跡でも何でも使っても!!」

男は、笑いすぎてこぼれたのだろうか、流した涙の粒をぬぐった。
久方ぶりに、笑い方を思い出した。そんな笑い方だった。

「奇跡、か――奇跡は、僕の得意技さ。
 だが……僕一人では、どうしようもないな」

そして神妙な面持ちで、ゆっくりと腰を上げる。
思ったよりも背が高い。
それと……何か、妙な懐かしさのようなものを、この男から感じる。
この男は、何なのだろう……

「ふむ……」

渦の中心へ、男が歩み寄っていく。
銀色の花をかきわけて、男がその位置に立つ。
ざっ、と空気が湧き立った。
死んだ身なのに、肌が逆立つのを感じる。

「『宛てもなく彷徨っていた♪』」


男が唱えた物、それは、歌。
優しく、シンプルなメロディ。

「『手がかりもなく探しつづけた♪』」

空気に触れると、じんわりと伝わり拡がっていく。
まるで、小石を水面に落した時にできる、波紋のように。

「『あなたがくれた想い出を♪』」

ルイズは、不思議と心が落ち着くのを感じていた。
懐かしい。母親の腕に抱かれたかのような暖かさだ。
それが故に、何をしているのだ?と、男に問うより先に、

「……『心を癒す詩にして♪』」


続けて、歌いだした。
それが、当然であるかのように。
歌詞もメロディも知らないのに、自然に。
だがルイズは、そうすることで自分もまた、
空気の一部となるのを感じていた。




「『約束もすることもなく
  交わす言葉も決めたりもせず♪』……」

歌ってから、アンリエッタは自分の唇を押さえた。
はて、どうしたことだ。
自分が歌など紡ぐとは……

「どうされましたか、陛下?お疲れでは……」

確かに、疲れている。
トリステイン城はさながら野戦病院の様相であった。
民家よりもはるかに耐久性のある城内へと避難民を受け入れることを決めたのも、
陣頭に立って負傷した民を治癒することを決めたのも、アンリエッタ自身であった。
これが、彼女なりの戦い。
これが、彼女なりに考えた、己のできることであったからだ。

「ううん、なんでもありませんわ。
 何か、美しい歌が聞こえたものですから……」

その最中、ふっと耳をなでたあの歌はなんだったのだろうか。
空気に満ちるような、あの歌は……

「あぁ、いけませんわ!治療を続けましょう!」
「はっ!!――おい、子供の怪我人はまだいるかー!?」
「こっちを!止血は終わったんですが傷がふさがって無いです!頼みます!」
「分かりました!」

まだ、為さねばならぬことは山ほどもある。
ルイズ、友よ。貴女も今どこかで為すべきことを為しているのでしょうか。
呟いた歌に、友のことを思い出し、アンリエッタはそっとそう思った。



「『抱きしめそして確かめた
  日々は二度と帰らぬ♪』……」

かつての、日々はもう戻らない。
そう分かっている。分かっているというのに。
どうしてだろう、それが怖くなる。

「きゅい?お姉さま?」
「なんでも無い」

タバサとシルフィードは今、闇の中にいた。
向かうべき場所に赴くために、闇の中にいた。
静寂の闇、見たくない物を見る、闇。

「きゅい?涙?」
「……大丈夫」

タバサの頬が、静かに濡れている。
それに気付き、タバサは自らそっとぬぐった。
まさか、自分の鼻歌に泣かされるとは。
それも、急に頭にメロディが飛び込んできた妙に懐かしい歌に。

「行こう」
「きゅいっ!了解なのねっ!」

自分は、行かねばならない。
自分は、行くことができる。
自分は、行くだろう。
自分の、そして友の為に……
タバサは、闇の中、また一歩を踏み出した。



「『記憶の中の手を振るあなたは♪』」

すぅっと音が駆け抜ける。
マチルダはそういう印象を受けた。
どこからともなく飛び込んできた音が、
何故か懐かしい音が、
空気を優しくなぜて、風のように駆けていく。

「?……何だってんだろうね」

ポトリ、手綱を握る手に、水が一滴。
雨?いや、空は曇ってはいるが虹の雲だ。
雨など降る理由が……

「涙?歳はとりたく無いねぇ……変なところで泣きたくなりやがる」

なるほど、自分は思い出してしまったわけだ、とマチルダは納得した。
記憶の中の、父と母を。
想い出にしか残っていない、自分の両親を。

「クェ?」

自分がまたがる鳥馬が心配そうな声を上げる。
やれやれ、様ぁ無い。
タルブ平原の戦線はまだ終わったわけではないというのに、
指揮官がこんな面してどうするというのだ。
スパンッと自分の頬を張って気合いを。
何、伊達に女を続けちゃいないさ。まだまだ戦える。

「……あんたに心配されるほどじゃないさね。さぁ!もうひと踏ん張りだ!!」

杖を真上に掲げ、ヨルムンガント部隊に指示を出す。
想い出は大切。
だが、それを乗り越える強さを、マチルダは持っていた。



ここは、どこだろう……
私は、誰だろう……
何か、聞こえる……
これは……歌……?

「……『わたしの名を呼ぶことが出来るの♪』」

口に出した途端、歌が優しく包み込む。
なんと、懐かしく、暖かい……

「――ベラ様!イザベラ様!!」

どうやら、自分の名を呼ばれたらしい。
イザベラ?なんと高慢な名前だろうか……

「ん?……あぁ」
「(お目ざめですか)」

瞳を開けると、ボケナスな部下の顔と、
自分の持つ短刀の声がした。

「っ痛ぅ……」

頭が痛い。
そうか、自分は気絶していたのか。
少々、魔力を使いすぎたようだ。

「イザベラ様!ご無事で!!」
「あぁ、カステルモール……戦況は?」

四肢の一つ一つを順に動かす。
よし、体は問題ない。
魔力は……まぁ、元から無いようなもんだ。
命を拾っただけでも儲けものだろう。

「はっ!大通りは奪還!現在広場を中心に掃討中です!」
「ふん、じゃぁボサッとしてないで行くよっ!!」

魔力が無いなら、ここからは指示に徹することができるというもの。
単純な理屈だ。
イザベラは、起き上がった。
自分の足で立たずして、何が王か。

「はっ!!」
「(やれやれ、無理をなさるお方だ)」

無理?何を馬鹿な。
これは、彼女の理。
これが、女王の理。
イザベラは、理によりて、前を見据えた。




ルイズと、その男の体は、光に包まれていた。

「『あふれるその涙を♪』」
「『輝く勇気に変えて♪』」

声が、重なる。
メロディが、繋がる。
どこまでも、どこまでも。それはさながら、

「「『いのちはつづく♪』」」


そう、命の鎖のように、どこまでも、どこまでも。
ルイズは感じていた。始めて虚無の魔法を使った、そのときと同じ感覚を。
奇跡が起こる、そんな感覚を。




女の子の、声がした。
自分が命を奪った子の?
それとも、他の誰かの?
歌だ、歌が聞こえる……

「『夜を越え
  疑うことのない
  明日へとつづく♪』……?」
「――気付きよったか、コルベール君?」


薬草と、ポーションの匂い。
ここは……医務室か?

「……オールド・オスマン?ぐっ……」

起き上がろうとすると、胸の辺りに激痛が走った。
どうやら、骨も内蔵もボロボロらしい。

「無茶はするでないぞ。お互い生きておるのがラッキーじゃからの」
「す……すみません……ありがとうございます……」

ここは、言葉に甘えさせてもらうより他は無い。
コルベールは、ゆっくりとベッドの背にもたれていった。
よくもまぁ、生きていたものだ。
バケモノと化したメンヌヴィルと対峙して、よくも……

「感謝なら、そこの2人にすることじゃな。
 彼女らの献身的な介護あってこそじゃよ」
「……はい」

その功労者は、二人とも、コルベールが眠っていたベッドに、
頭だけをそっと乗せて眠っていた。
まるで、天使のような寝顔だと、コルベールは小さく笑った。
彼女達には、感謝してもしきれない。
そしてもちろん、オールド・オスマンにも。

「ふむ……しかし、妙なもんじゃの。
 お主達の寝言とわしの鼻歌が調和するとはの」
「……?」
「いや、何。気にするでない。もちっと寝ておれ。
 美女二人に付き添われながら寝るなど、そうそう経験できまいて?」
「は、はぁ……」

痛む体をなんとかシーツの下に押し込めながら、
コルベールはゆっくり目を閉じる。
他の生徒たちは、無事だろうかと考えながら。

「……『飛ぶ鳥の向こうの空へ
 いくつの記憶預けただろう♪』……」

誰かの、歌声が聞こえる。
これは……オスマンの?
それとも、他の誰かの……?
そんなことを考えながら、コルベールはゆっくりと眠りに落ちていった。




二百メイル近くある、白亜の塔。
エルフが築き上げた、まさしく智と調和の象徴である建物。
それが今、半ばまで崩れていた。
銀竜達の咆哮が、鳴り止まない。


「『儚い希望も夢も
  届かぬ場所に忘れて♪』」

そんな中、声がする。
若い女の声だ。
薄いブルーの瞳で、濁った空と、その向こうの聖地を見ていた。
戦の最中の小休止、といったところで、彼女はふと歌を紡いでいた。
エルフの歌とも、おそらくハルケギニアの歌とも、また違うその歌を。

「――何だい、今のは?」

ガランッと瓦礫の崩れる音。
婚約者が無事な姿を見せたことで、ルクシャナはニッと良い笑顔を見せた。

「さぁ?でもいい曲よね。私達の先住魔法の呪文に近い?」
「それともまた違う気がするが……」

どうやら、魔法的な韻は含まれているようだが、
理論が確立されていない時代のものなのか、どこか原始的。
そんな響きが、この歌には含まれていた。

「さて、まだ油断はできないぞ!」

アリィーの言うとおりだと、ルクシャナは頷いた。
事態は落ちつきつつはある。
聖地の方向もここから見る分には問題無い。
街が立ち上がって動き出した時はどうしたものかと思ったものだが。

しかし、頭コチコチの評議会様が蛮人の忠告に従うとは。
いざ事が起こって見れば、言うとおりにしておいて良かったと、
胸をなでおろさずにはいられない。

「えぇ、ガンガンやっちゃいましょ!」

それでもなお、逃げ遅れた者や防がねばならない被害は続いている。
ルクシャナはパンッと拳を握り締めて笑った。

「……なんで嬉しそうなんだよ……」

アリィーが、それを見て溜息をつく。理解できない、といった風に。
でも、嬉しいのだ。
婚約者とこうして共に闘えることが。
そして、まだ自分達が無事であることが。
ルクシャナは、そんなことを考えながら、先ほどの歌をまた口ずさんだ。
何か懐かしい、あの歌を……



「『めぐり逢うのは偶然と言えるの
  別れる時が必ず来るのに♪』……」

何故か、視界がぼやけるのをウェールズは感じていた。
安全空域にまで到達し、ふと気が緩んだか。
はたまた、脳に流れ込んできたこの歌のせいか。
いずれかは分からないが、無性に泣きたくなった。

「艦長?」
「いや、支障無い!半刻だけ、舵を任せる!」
「はっ!」

部下の前で、情けない姿は見せられない。
舵を預け、甲板へ。
痛々しく欠けた船体が、失った部下達の血の痕が、
心に静かに突き刺さる。

繋がる命があるならば、次へと残せる想いがあるならば。
軍人の本務とは、命を繋ぐための戦いであり、
そのためには、命を張らねばならぬ。
矛盾してはいるが、ウェールズは覚悟していた。
だが、それでもなお、失った重みは消え去らない。

「……アンリエッタ……」

会いたい。愛する人に、会いたい。
ウェールズの両眼から、溢れるばかりの涙がこぼれ落ちた。



「『消えゆく運命でも
  君が生きている限り♪』……」

その曲が、あまりにも美しかったから、
自分が死んだかと、その兵士は疑った。
天上の天使が奏でているものだと思ったのだ。

だが、瞳をうっすら明けてみれば、
瓦礫と化した城の中。
あぁ、戦闘中に倒れていたのかと気付く。
耳を澄ます。忌まわしい銀竜の咆哮は……どうやら聞こえない。
助かったか?様子を見ようと頭上の瓦礫をどけようとする。
重い。倒れている間にこいつがのしかかってこなくて良かった。

「くっ……!?ぺっ、砂埃かっ……」

アーハンブラの街は……
焼け野原。それが一番妥当な評価だろう。
しかし、敵の猛攻は押さえられたか、やけに静かだ。
耳が痛くなるほどに……と、目がある一点で止まった。

「っ!お前……っ!!」
「よう?どうした?しけた面しやがって」

分かれて戦っていたはずの、戦友が。
同じ部隊の生き残りが、どうしようもなく夢見がちな馬鹿が、
砂と血にゃまみれているが、生きてやがった!!

「無事だったか!?」
「『いのちはつづく♪』……ってな?」
「あれ?なんでお前もその曲を?」
「いや、なんか聞こえて……お前もか?」

奇妙な偶然に、思わず笑ってしまう。
どうやら、こいつと俺はとんだ腐れ縁で繋がっているようだ。

「何なんだろうな、この歌……」
「さぁて?俺達にゃ女神の加護でもついてるかな?」

やっぱり、夢見がちな大馬鹿だ。
そう思いつつ、名もなき兵士はただただ笑った。
この糞っ垂れの世界で、まだ生きていることに、
こいつと出会えたことに、感謝しながら。



「『永遠に
  その力の限り……どこまでも♪』!!」

運河の水を、消火剤と水魔法の触媒へ。
アクイレイアでまた、風魔法による水柱が上がった。

歌、か……
カリーヌは、その歌に、何かを感じとった。
それは戦士としての実力からか、あるいは……

「かあさ……カリン殿!こちらは鎮圧いたしましたわっ!!」
「……そう」

エレオノールが息を切らせて走り寄る。
そうか、なるほど、と合点がいった。
どうやら、娘『達』は立派に働いているらしい。

「かあさま……?」
「ん?いえね……貴女達の母親でいれて、良かったと思いまして」
「……へ?突然何を?」
「いいえ――なんでも」

仮面の下の、顔がほころぶ。
どういう理屈かは分からないが、聞こえた歌は間違いなくあの娘のもの。
それが、世界を満たし、何かを守ろうとしている。
彼女が、貴族として、人として、それを為そうとしていることが……
親として、誇らしくなり、カリーヌは、そっと一礼をした。
遠く、東の方へ……




「『わたしが死のうとも
  君が生きている限り♪』」

過去からの声が重なって、
全ての声が連なって、
新たなハーモニーの層を成す。

「「『いのちはつづく♪』」」

誰にも語られることの無かった物語を、
閉じられる前に、閉じられぬように、
一つ一つの音が紡いでいく。

「『永遠に
  その力の限り♪』」

「「『どこまでもつづく♪』」」

「……今です!全ての力を――『エクスプロージョン』の応用ですっ!!」
「いいです……ともっ!!ブリミル様っ!!」

『ゼロ』という数字は、決して何も無いという数字では無い。
それは、全ての始まりの数字、
それは、全ての可能性を持つ数字。
それは、『0』と輪を成す調和の数字。
『ゼロ』と『ゼロ』が重なれば、その可能性はさらに広がっていく。
生命の調べのように、どこまでも、どこまでも。
それこそが、『∞』、すなわち――

「「『インフィニティ』!!!!」」


少女は、願った。守ることを。
それは光となって……世界を満たしていった。
輪となして、どこまでも、どこまでも……



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