あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-16a


 ……助けて

 その叫びは誰にも聞こえない。
 声にならない叫びは誰にも聞こえない。
 三対の凶眼だけが、絶望の表情を楽しげに眺めている。彼女の絶望を眺めている。

 ――お前は私に従うのだ。巫女の血を引きしものよ
 ――我に仕えよ、青き髪の末裔よ
 ――戻る術など、元より無いのだから

 ……助けて

 女は男の名を呼ぶ。
 男なら、きっと自分を救い出してくれると信じて。
 女は男を愛していた。
 女は男を信じていた。
 誰からも無能と蔑まれる男を、女は心から信じていた。
 どれほど蔑まれていようと、例え魔法が使えなくとも、女は男を信じていた。
女は救いを待つ。
 混濁する意識と破壊される自我の中で、女は助けを待ち続ける。

 ……助けて

 言葉すら、喉の奥で散り散りに別れていく。
 意志はかき消され、押しつぶされ、欠片すら残らぬほどに擦り切れる。
 思考はとぎれとぎれに、記憶の断片が乱雑に積み重ねられ変貌していく。
 変貌する寸前の断片が女の脳裏を通り過ぎていく……





 ……これを「マザー」と読むのですか?

 ……うむ。異世界では「母親」という意味だそうだ

 ……それではこちらが「父親」ですか?

 ……そう、ファザーと読むのだそうだ。

 夫の言葉に彼女は微笑んだ。
 面白い。
 こんな事は無意味だという者がいることも彼女は知っている。
 気の触れた放浪者の言葉を学ぶなど、時間の浪費以外のなにものでもないと、彼らは蔭で笑っている。
 それでも彼女は夫を支持する。
 言葉の多様性を学ぶことがそれほど無意味だろうか。たとえ自分が使うことのない言葉であろうと、完成された言語体系とはそれだけで一つの世界ではないか。
 そもそも、無駄な知識などこの世にない。あるのは、知識を活用出来る者と活用出来ない者の違いだけだ。
 国一番の蔵書を誇る館で出会った男の言葉に、かつて彼女は感銘を受けた。そして何度も逢瀬を重ね、やがて恋に落ちた。
 王家の中心に立つことのできる男と、その小さな傍系の一人に過ぎない女は、知識によって知り合い、互いに好意を持った。

「イザベラ。貴方のお父さんは、立派なかたよ」

 彼女は腕の中の娘に言い聞かせる。

「そうだ、イザベラにも言葉を教えてやろうか」
「あら。早すぎますわ」
「初めて話す言葉が異国の言葉。面白くはないかな?」

 他愛のない悪戯に、子供のように目を輝かす夫が彼女は好きだった。

「マザー」
「ザー」
「マザー」
「ザー」

 夫は根気よく、娘に言葉を伝える。
 言葉のまだ殆どわからぬ娘が、父親の真似をして紡ぎ出す音が、何よりの心楽しい音だというように。

「マザー」
「……ザー」
「マザー」
「メ……ザー」
「惜しい」
「しー?」

 やがて娘は、はっきりという。

「メザー」
「……すまん、どうやら間違って覚えてしまったようだ」
「構いません。この子がそう呼ぶのなら、きっとメザであっているんです」
 渋い顔の夫に、彼女は微笑む。

「イザベラは、新しい言葉を作っているのかも知れませんわ」
「なるほど、そうかもしれん」

 夫も笑い、イザベラがつられたのかニコニコと笑う。

「ほら、笑っていますもの」
「うむ」

 彼女は幸せだった。
 夫も同じく、彼女と共にいられるのなら、無能の烙印すら喜んで受け入れようと微笑む。
魔法が使えぬ王族故に無能と誹られるのなら、その地位など喜んで投げ捨てよう。幸い、有能な弟の存在がある。
 弟なら、王家に相応しい。
 弟にも、妻がいる。つい最近に娘も生まれた。
 ならば弟にもわかるだろう。愛する家族を持った気持ちが。その喜びは王位継承などとは比べられないことを。

 ……王位は、弟シャルルが継げばいい

 それが、ジョゼフの掛け値ない想いだった。
しかしシャルルの娘が生まれた数年後、一つの歯車が狂う。
狂ったのは、彼女がロマリアを訪れた日。

「状況を報告しろっ!」

 混乱と喧噪の中、シャルルは一番近くにいた近衛を怒鳴りつけるようにして状況を尋ねる。

「そ、それが、突然のことで誰も事態が把握出来ていません」
「ならば、すぐに把握しろ。とりあえずは君が指揮を執れ。今後の報告は全て君を通す。いいな」
「わかりました」
「それから、義姉上は何処に行かれた? すぐに身柄を確保するんだ」
「ただいま、捜索中であります。閣下にはしばらくお待ちを」

 使者としてロマリアを訪れたシャルル達の前でいきなり一つの建物が倒壊し、異形の亜人の軍団が現れたのだ。
 竜の頭に人間の身体。これまでハルケギニアでは見られたことのない種の亜人である。
 混乱の内に一行は分断され、従者の半分近く、そしてシャルルの義姉となる王女の姿が見えなくなっていた。
シャルルは焦っていた。兄の妻である。自分の責任がどれほどかと考えるだけであまりの不甲斐なさに胸をかきむしりたくなってくる。
 自分がどうであろうと、彼女だけは無事にガリアへ帰さなければならない。
だが、それは叶わぬ願いとなる。
 この日、ロマリアの虚無ヴィットーリオによって、ガリア第一王子ジョゼフの妻は永遠にハルケギニアから姿を消す。




 あらゆる武器を操る使い魔がいた。
 あらゆる魔道具を操る使い魔がいた。
 あらゆる幻獣を操る使い魔がいた。

その武器を作ったのは?
 その魔道具を作ったのは?
 その幻獣を生み出したのは?

武器を作り、魔道具を作り、幻獣を生み出す。それが、第四の使い魔。

 使い魔は考えた。
 ガンダールヴなど、ミョズニトニルンなど、ヴィンダールヴなど、自分がいなければ何も出来ないのではないか。
 ブリミルに最も近いのは自分ではないか。
 いや、自分は、ブリミルすら越えているのではないか。
 おお、我こそが、この世界を従える力の持ち主ではないのか。
 ブリミルよ、その使い魔たるガンダールヴよ、ミョズニトニルンよ、ヴィンダールヴよ、我に跪け。我を称えよ。我を崇めよ。
傲慢に見合った力を得た使い魔は、世界を巻き込む争いの末に封印された。それはいつしか、語ることすら憚られる使い魔と呼ばれる。
 そして六千年の時を経て、使い魔は復活した。
 幸か不幸か、使い魔を召喚することによって復活させたのは既に虚無に目覚めていたヴィットーリオだった。
 彼は知っていたのだ。虚無といえど、単独で使い魔を倒す、あるいは封じることなど不可能だと。
 だからこそ彼は、おのれが召喚した使い魔を即座に追放した。自由を得ようと暴れる使い魔を、虚無魔法「世界扉」により開いた世界へ落とし込んだのだ。
 ヴィットーリオの誤算は、使い魔の力だった。使い魔は決してあっさりと追放されるような存在ではなかったのだ。
 抵抗し、荒れ狂い、追放は不可能かと思わせるほどに抵抗した。
 ヴィットーリオは躊躇わずに全力で扉を開き、使い魔を奈落へと落とし込む。使い魔はあらがい、逃げようとした。
 そこにガリアから訪れた使節団がいたのは、決してヴィットーリオのせいではない。
 使い魔の捕らえた女性をヴィットーリオは見た。しかし、そこで手を休めれば自分が敗北することもわかっていた。

 ……すまない
 刹那の瞬間すら、迷わなかった。世界と一人の女性。その女性が何者であろうと、天秤にかけるという発想すら湧かなかった。
 時間をかければ使い魔は完全覚醒するだろう、そうなれば自分の虚無魔法ですら立ち向かえるかどうか。
 どちらが重要か、それは考えるまでもないことだった。
 例えそれが、ガリア第一王子の妻であろうとも。
 確かに、簡単に済ませられる問題ではない。
 目撃者はいる。忌まわしい異形竜が現れ、王女をさらったのだと目撃した者はいる。
 異形竜はロマリアの手の者によって滅ぼされたと目撃した者もいる。
 では、肝心の王女は何処なのだ。
 ヴィットーリオは口を閉ざす。言えるわけもない。自らの手で竜と共に異世界へ落としたなどと。それが必要であることを彼は疑わない。
しかしそれが、万人にとって疑いのないことだとは彼も思っていない。
 事実は告げない、異形竜に屠られたと判断されるのならそれはそれで仕方ない。
 罪に問われるのならば自分が問われよう。
 第四の使い魔は、隠匿されねばならない。始祖ブリミルの名のために。

 突然現れた異形の魔物により殺された。
 それが、公式の調査結果となり、やがては旅先での病死と発表されることとなる。
 しかしその後、事実は奇妙に歪曲される。
 二人の王子、いや、二人の王子を旗とする者たちの確執によって。

 ……ロマリアへの使節団。どうしてシャルル殿はジョゼフ様の……
 ……ガリアでも屈指の名門の出であれば無能王の烙印が少しは免れたものを……
 ……無能には相応しくない才媛でしたな……
 ……名門とはいえ所詮は傍流。何を企んでいたものやら……
 ……無能に取り入るとは滑稽な……
 ……兄を落としいれんがために……
 ……無能とはいえ、邪魔は邪魔……
 ……妙な噂がありまして……
 ……イザベラ様のお父上がジョゼフ様でないなどとお戯れを……

 歪曲が己の旗を汚すとも知らず、いや、あるいは知ってのうえか。
 言葉の毒は深く、静かに蝕んでいく。




 壊れた女を、使い魔は横たえる。
 壊れた心と偽りの記憶に満たされた精神を使い魔は愛でた。

 ――名を名乗れ

 女は、口を開く。
 それは、女の名ではない。
 人の名前ですらない。
 それは、女の心に安らぎをもたらす言葉。
 いつか何処かでそう呼ばれた。大切な人にそう呼ばれた。だけど思い出せない言葉。
 心を満たす言葉。

 ……メ、ザ
 ――では名乗るが良い。王女メザと

 一つの傀儡を作り上げ、異形の使い魔は身を震わせた。
 異世界であろうと、己の力に対する不安も躊躇いもない。
 一つの世界を滅ぼし、自らの世界を作り上げれば良いだけ。
 ならばこの世界の神となろう。
 我こそが神ではないか。
 ならば我は神を名乗ろう。
 古代の民が信じた神に。
 古代ドラゴーン人の神に。
 我が名は三ッ首。
 魔神三ッ首。
 この地球にて、六千年の眠りより目覚めるもの。

 三ッ首は、二人目の傀儡を待つため、少しの間眠ることにした。

 やがて二つの傀儡~王女メザ、悪魔ハットと共に三ッ首は人類滅亡への進軍を開始する。
 その前に立ちはだかるのは大門豊。そして、電人ザボーガーである。



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