あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの双騎士 第六話

教室へ一歩踏み込んだ瞬間、教室の空気がガラリと変わったのが感じ取れた。
自分への視線が集まっている。
あるいは奇異、あるいは恐怖、あるいは不審。
人間の使い魔という時点で既に前代未聞なのだ。
更にギーシュ相手にあれだけの実力を示した後と来れば、当然の反応だろう。
とりあえず気にしないことにして、席へと向かう。

「私はどこにいればいい?」

「使い魔の席は無いんだけど…人が立ってるのもアレだしね…座ってなさい」

幸い、席には余裕があったのでルイズの隣に腰を下ろす。
こちらが平然としているので興味が移ったのか、生徒達は友人たちとのお喋りを再開していた。

周りを見ると、使い魔と思しき生き物が多くいる。
ネズミ、蛙、鳥、犬、猫などなど。
竜、サラマンダーなど大型の使い魔は流石に教室にはいなかったが。
…私もこいつらと同じ立場なのだ、と思うと少し複雑になる。

「さぁ皆さん、お静かに。講義を始めますよ」

教師と思しきローブ姿の女性が入ってきた。

「皆さん、春の使い魔召喚は無事成功したようですね。
 私は、毎年生徒達の使い魔を見るのを楽しみにしているのですよ」

慈愛に満ちた目で教室内を見回す。
教師に向いた人格者のようだ。
ふと、私の方へ目を向けたところで視線が止まる。

「随分と変わった使い魔を召喚したようですねぇ、ミス・ヴァリエール」

別段悪意のある口調ではなかったのだが、そこで生徒が茶々を入れる。

「ゼロのルイズ!召喚に失敗したからって剣士だかメイジだか分からん妙なヤツを連れてくるなよ!」

「私はちゃんと召喚したわよ!」

「嘘つけよゼロのルイズ!魔法を失敗してばかりのお前だ、サモン・サーヴァントだって出来ないに決まってる!」

教室内に大きな笑い声が起こった。

「ミセス・シュヴルーズ!かぜっぴきのマリコルヌが私を侮辱しました!」

「事実を言って何が悪い!それに僕はかぜっぴきじゃない、"風上"のマリコルヌだ!」

「アンタの鼻声は風邪引いてるようにしか聞こえないのよっ!!」

全く、ルイズももう少し悪口を受け流すことを覚えるべきだな。
しかし他人を笑いものにしている人間を見るのはやはり不愉快だ。
相手の成長を促すためにあえてキツい言動を取るとかいうならまだしも、この言葉にそんな意思は毛頭感じられない。

「…ククッ、浅い男だな」

「何だと!?平民が貴族に向かって何と言った!」

ほら、また乗ってきた。
ギーシュという小僧もそうだったが、貴族のボンボンはこうも沸点が低いのか。
あぁ、そういえばルイズもプライドばかり高い子供だな…などと考えつつ、言葉を継いだ。

「貴族?それが何だと言うのかね。
 君が貴族であることに関して、君はどれほど寄与したと言うのだ?
 君の貴族の称号は君自身の力でもぎ取ったものか?違うだろう。
 敬意を払われるべきは貴族の称号を手に入れた君の先祖であって、君自身ではない。
 大体、地位や家柄を尊んでいる時点で君の考えはズレている。
 尊ぶべきは地位や家柄に相応しい人間であるよう努力することだろう。
 翻って君の行いはどうだね?
 他者を貶めて笑いものにしている。それも、年端も行かぬ少女を相手に、だ。
 君はそれが貴族とやらの正しい在り方だと思うのか?
 貴族の称号を手に入れた君の先祖に対して恥ずかしくない行いだと、胸を張って言えるかね?
 …君もだぞルイズ。他人を侮辱しても自分が貶められるだけだ」

『うっ…』

二人揃って口を噤んだ。
全くの正論、まともな良心と倫理観を持っていれば言い返せるわけがない。
子供相手にここまで言うのは少々大人気ない気もしたが…これは言わねばならぬことだと思った。
子供の規範になることは大人の義務だ。
ふと、かつて向けられた憧憬の視線がフラッシュバックした。

あれはキャンベル征服を成し遂げた時の事だったろうか。
町長の屋敷に本営を置いて宿泊した際、身の回りの世話をしてくれた少年に、こんなことを言われたのだ。
『パルパレオス将軍!僕もいつか将軍のような強い男になりたいんです!』
男なら誰しも幼心に感じるであろう強さへの憧れ。
それを色濃く映し出した憧憬の視線は、私には余りに眩しすぎた。
憧れを向けられるには、私は血に塗れすぎていたからだ。
強さとは、剣の腕や魔法の才能のことを言うのではない。
決して折れぬ心、他者を思いやることのできる心の力を言うのだ。

―お前ならきっとできる。強い男になれ―

彼がいつかそれに気づいてくれることを願いながら。
自分のようにはならないで欲しいと願いながら。
私は、少年の憧憬に応えた。
あれから数年、あの子はどんな風に成長しただろう…。

「…感服しました。ミス・ヴァリエール、貴方の使い魔は見事な見識をお持ちですね。
 貴族ではないようですが、貴族よりも貴族らしい考えを持っている。
 ミス・ヴァリエール、ミスタ・マリコルヌ以外も、彼の言葉をよく肝に銘じておきなさい。
 学ぶことは多いはずですから」

「しかしミセス・シュヴルーズ!ルイズのゼロは事実ですが僕が言われたことhガボッ」

唐突に途絶えた言葉。
見れば、マリコルヌの口が赤土で塞がれている。

「…貴方はそのまま講義を受けなさい、ミスタ・マリコルヌ」

マリコルヌに杖を向けたシュヴルーズが冷たい声で言い放った。
…彼女は怒らせない方が良さそうだ。
パルパレオスは背筋が寒くなるのを感じながら心に刻んだ。

「さて、講義を始めますよ」


+++++

「改めて、私は"赤土"のシュヴルーズ。本日から一年、このクラスの土系統の講義を担当します。
 ミス・ツェルプストー、四大系統はご存知ですね?」

「もちろんですわ。四大系統とは『火』『水』『土』『風』のことですわね」

「その通り。この四つのうち、土系統ほど人々の生活に密着したものはありません。
 例えば金属の精錬。これは土魔法によって行われているものがほとんどです。
 あるいは石材の加工。これも土魔法を使うことで、かかる労力と時間は大幅に削減できます。
 農業にも土魔法は使われています。これで土壌改善を行うことで、収量にも野菜や果実の質にも雲泥の差が生まれるのです」

(何と…)

パルパレオスは素直に感心していた。
彼は、異郷へやってくることになってから、この土地の文化や歴史を学ぶ機会はこれまでほとんど無かったのだ。
まさか、魔法がこのような使われ方をしているとは。これは、オレルスでは有り得ないものだった。
オレルスにも魔法は存在したが、ハルケギニアの系統魔法ほど生活に密着したものではなかったのだ。
魔法医療は発達していたが、他は大抵が軍事転用が前提の魔法だった。
最も、魔法医療も多くは軍事に使われていたのだが。
オレルスの魔法は、系統魔法のように金属の精錬や資材の加工などはできない。土壌改善など言わずもがなである。
この世界では恐らく、工業や農業といった主要産業の代わりに魔法が発達したのだろう。
確かに工学よりも遥かに容易に済みそうだ。
最も、魔法で物を作るとなると、製品の精度は術者の技量や感性に依存することになる。
同じものを大量に作り出したりするのは難しいだろうから、そこから機械工学へ発展させることは難しいかもしれない。

オレルスには、格段に発展しているとは言えないまでも、機械工学は存在していたのだ。
特に帝国では軍事転用のために研究・開発が盛んに行われていた。
魔法使いは数が限られているし、戦争に出れば死者も出る。
先天的な才能に左右される上、戦力になるまで訓練するにも時間がかかるため、補充が利きづらいのだ。
そのため、カタパルトやランチャーなどの機械兵器が生産された。
運用次第で魔法以上の威力を発揮できるその火力を見込まれて制式採用されていたのだ。
さほど発展していないためサイズも重量も大きく、動かすのに相当な労力と時間が要るのが難点だったが。
そのため、移動式は少なく陣地・要害に設置する形式の砲戦力(迎撃砲台)が多かったのだが、それは余談である。

ともあれ、こういう特徴を持って発展してきた以上、メイジが社会的絶対優位を確立したのは当然のことかも知れない。
それが正しいかどうかは別にして、だ。

「…このように、土系統は万物の組成を司り、様々な形で人々に恩恵をもたらしているのです
 さて、講義はこの辺にして実技に移るとしましょうか。
 今日は土系統の基礎、『錬金』の魔法を練習します。まずはお手本を見せましょう」

そういって懐から取り出した小石に向けて杖を振りながら魔法を唱える。
見れば、ただの石ころだったはずが黄色く光っている。

「まさか…ゴ、ゴールドですか!?ミセス・シュヴルーズ!」

キュルケが目を丸くして驚いている。
金にしては少々色合いが薄く見えるが。

「いいえ、ただの真鍮ですよ。金はスクウェアクラスのメイジにしか錬金できません。
 私はトライアングルですからね」

少し恥じ入ったように言うが、大したものだとパルパレオスは思った。
錬金の魔法はさほど長い詠唱ではない…というか、ほとんど一言だ。
たったあれだけで、ただの石ころを真鍮へと変化させてしまった。
ハルケギニアの系統魔法がいかに便利か、その一端を肌で感じた。
しかし、スクウェアとかトライアングルとか言うのは何だ…?
いや、図形というのは知っているが、それでは意味が通らない。
そうルイズに聞いてみた。

「メイジが高度な魔法を使う場合、複数の系統を同時に操って掛け合わせる必要があってね。
 いくつの系統を同時に使う必要があるかが魔法の等級や難易度を示すわ。
 例えば火の攻撃魔法を使う時ね。
 『着火』の前に『油の錬金』という工程を加えればより強力な炎を作れるでしょう?
 『油の錬金』を二度行って、より純度の高い油をより大量に作れば、もっと強力にできるわね。
 前者は火と土の二系統だからラインクラス、後者は火、土、土でトライアングルクラスの魔法になるわ。
 いくつの系統を同時に使えるかがメイジの等級を表すの。
 系統を一つしか使えないならドット、同時に二つ使えるならライン。
 三つでトライアングル、四つでスクウェアと呼ばれるの」

理路整然としていて、しかも分かりやすい。
ふむ、ルイズは少なくとも座学は優秀なようだ。

「ミス・ヴァリエール、講義中の私語はおやめなさい。
 そんなに暇なら、貴方にやってもらいましょうか」

「え…私がですか!?」

「そう、貴方ですよ。この石を好きな金属に錬金してみなさい」

…説明を頼んだせいでルイズが当てられてしまったか。
ちょっと可哀想なことをした。
当のルイズは、何やらためらっているようだ。

「どうしたルイズ?私も君の魔法を見てみたいのだが」

そこへ、キュルケが困ったように口を開く。

「あの…ミセス・シュヴルーズはこのクラスを受け持つのは初めてでしたよね?
 危険ですから止めた方がいいと思いますけど…」

キュルケの言葉に何故かクラス中が頷く。
危険とはどういうことだ?
便利な魔法ではあるだろう、しかし危険とは程遠い魔法に見える。

「錬金の何が危険だと言うのです?
 さぁミス・ヴァリエール、失敗を恐れずやってみなさい」

「…やります」

ルイズの顔には強固な意志が見てとれた。
いや、意志というより意地のようにも見える。
キュルケに止められて逆にやる気になったのか?
しかし、キュルケは何をしているんだ?机の下に潜りこんだりして…。
諦めたような表情が浮かんでいる。
見れば、他の生徒も同じようなことをしていた。
そんな様子に気づかぬシュヴルーズは、教壇の前まで来たルイズを促す。

「さぁ、錬金する金属を強く思い浮かべて魔法を唱えるのです」

「はい…錬金!」

その瞬間。
轟音が鼓膜を揺さぶった。
濃い黒煙が教室を包む。

「な、何が起きた…!?ゲホ…ゲホッ!」

煙を吸い込んで咽てしまう。
なんだこの煙は…?異常に濃い…!
ただの煙ではない。
使われていない部屋で壁や床を思い切り叩いた時に舞った埃を吸い込んだような感覚。
…まさか、あの石が完全に粉砕されたのか?
それほどまでに凝縮されたエネルギー…。
一つ、心当たりがあった。

オレルスにおいて既に忘れ去られた闇の力。
万物を押し潰し、破壊し、灰燼へ帰すエネルギー。
『暗属性』と呼ばれる技・魔法の結果に、それは酷似していたのだ。
フェニックスが司る『聖属性』と対を成すとされる暗属性を、パルパレオスはかつて見たことがあった。
神竜王アレキサンダーが放った「天空の裁き」と呼ばれる雷である。
雷の形を取っていたが、その力は雷と呼ぶには余りに禍々しく、破壊力は比べ物にならなかった。
直撃を避けるためとっさに避雷針代わりにしたバスタードソードは、黒い塵と化して跡形も無く破壊された。
折れたのとも壊れたのとも違う。文字通り「黒い塵になった」のだ。
さっきの小石と全く同じである。

…そうだ、ルイズは!?

「ルイズ!無事か!?」

教壇へ目をやると、煤けた姿のルイズが平然と立っている。

「…ちょっと失敗しちゃったわね」

こともなげに言うところを見ると、怪我はしていないようだ。
あれだけの爆発が一番近くで起こったのに、この教室で一番元気そうにしている。
シュヴルーズは吹っ飛ばされて気絶しているし、他の生徒も多くが目を回している。
爆発に驚いた使い魔たちも騒ぎ出していたが、そちらは殺気をぶつけてとりあえず黙らせておいた。

「ケホ…ケホッ、全く、だから言ったのに…あぁもう、服も髪も煤だらけじゃない!」

何とか机の下から這い出してきたキュルケに医療担当者を呼ぶよう頼んでから、私はルイズと共に他の者を起こしにかかる。

―パルパレオスが初めて見た『虚無』の魔法であった―


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