あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズと無重力巫女さん-33-A




ベッドに身体を沈め、瞼を閉じて何も見えない夢の世界に入り込んだルイズを待っていたのは、女性の声であった。

――――まだ何も解決はしていないわ。むしろこれからってところね

ルイズはその声に聞き覚えがあった。八雲紫の声だ。
霊夢と魔理沙のいる幻想郷を創った大妖怪で、同時にこれからのルイズの生活を大きく変えるであろう存在。
彼女の声には妙なエコーが掛かっており、瞬時にこの言葉が三日前のもの――つまりは過去の事なのだと理解した。
四日前、幻想郷に霊夢と共に連れてこられ、一日の時を置いてから紫が何人か集めて小さな会合を開いた。
それは今後の霊夢が何をするべきかを的確に指示し、同時にルイズはその内容に驚愕したのである。

その時の事をふと思い出しそうになったが、その前に再び紫の声が夢の世界を漂うルイズの頭の中に入り込んできた。

――――――確かに貴女がゲートを開いた。でもそれを乗じて結界を侵食したのは、貴女よりも遥かに上の存在
    …つまり貴女は鍵だったのよ。貴女だけの力では貴女のいる世界と幻想郷をすぐに繋げることなんて至難の業よ?
    事実、わたしだっても見つけるのと繋げるのには相当苦労したしね

紫がそう言った後、今度は幼くも何処か危険な雰囲気を孕んでいる声が聞こえてきた。

―――つまり、「貴女を煮ようが焼こうが異変は解決しない」という事よ。むしろもっと悪化するかもね

その声にまたもや聞き覚えがあったルイズの身体を寒気が走り、無意識に自分の身体を軽く抱きしめた、
レミリア・スカーレット――――幻想郷で紅魔館という巨大な館の主をしているという吸血鬼。
最初に出会ったときは吸血鬼だということに驚きはしたが自己紹介の後、こんなことを言ってきた。
「安心しなさい。苛立ちはしているけれども、今の私は貴女にそれ程の殺意は抱いていないわ」
そんな事を言われる前に杖を向けてお付きのメイドに腕を捻り上げられたうえ、ナイフを向けられた後にこの言葉である。
絶対嘘でしょ。と思いつつも彼女の身体から溢れ出る威圧感にそのときのルイズはただただ頷くことしか出来なかった。

今度は、やけに落ち着いた感じの声が聞こえてきた。
―――要は、逆に貴女を私たち側に引き入れて霊夢の案内役を兼ねた仲間になって欲しいということよ

この声の主は八意永琳と名乗る薬師であったとルイズは覚えていた。
次に、紫の声が再び頭の中に響いてきた。

――――流石月の頭脳といったところかしら?こちらの考えは大体予想していたようね
苦笑しながらもそう言った紫に、永琳は肩をすくめながらもこたえる。
―――――ついさっき思いついた事を口にしたまでの事よ。頭のお堅い吸血鬼とはワケが違うわ
小馬鹿にするかのような永琳の言葉に、すぐさまレミリアが殺気の篭もった目つきで永琳の顔を睨み付けた。
――…おまえ。この私を怒らせたいの?
段々と恐ろしくなっていくその場の雰囲気を止めたのは、一人の亜人と人間の少女であった。

―――お嬢様。それくらいで怒っていては軽く見られてしまいますよ
ミニスカートのメイド服を着た銀髪の少女は、落ち着いた口調でレミリアを宥めた。
レミリアはメイドの言葉にすぐさまハッとした顔になると、軽く咳払いをした。
――いけないけない…あれだけ熱くなるなとパチェに言われてたわね…助かったわ咲夜
咲夜と呼ばれたメイドの少女はレミリアに頭を下げた。


――し、師匠…何もこんなところで挑発しなくても良いじゃないですか…?
一方、兎の耳を頭に生やした鈴仙は少し怯えた声で永琳にそう言った。
自分の弟子の言葉に永琳は笑顔を浮かべ、されど何も言わずに肩をすくめた。

そんな時、一触即発寸前だったというのに何も言わずにその様子を眺めていた霊夢が、ふと口を開いた。
――――つまり、私はこのルーンをつけたままあの世界にまた戻れっていうわけね
少し嫌悪感が混じった言葉を口から出しつつ、霊夢は左手の甲についた使い魔のルーンを紫に見せる。
それは、ハルケギニアでは神として崇められている始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴのルーンであった。
紫は霊夢の言葉に頷くと、ルイズの方へ顔を向けて喋り始めた。

―えぇそうよ。…キッカケとはいえ、幻想郷とハルケギニアを繋いだ力を持った彼女の力は凄まじい。
 恐らくは今後、そんな彼女を狙って色んな連中がやって来る。
 そしてその中に、今回の異変を起こした黒幕と深く関わっている連中が混じるのも間違いないわ。
 つまり彼女の傍にいれば、自ずと黒幕の方からにじり寄ってくるって寸法よ。

今度はレミリアの声がルイズの頭の中に響いてくる。

――貴女の運命は今正に急展開と言って良いほどの動きを見せている
 博麗の巫女を使い魔にする程の力を持っているのに、自分を卑下する事は無いわ
 それに…

そこまで言って一息ついた後、レミリアは次のような言葉を口にする。
それは、幻想郷の住人達を前にして多少なりとも狼狽えていたルイズに自信を付けさせる程度の威力を有していた。

――霊夢の左手には貴方達の種族が『伝説』と呼んで崇める存在が使役した使い魔のルーンが刻まれているんでしょう?
 という事は、貴女にはそいつと同等の力をもっているという事じゃないかしら。貴女がそれを自覚していないだけで…



パチンッ!



「ん…んぅう…」
耳の中から入ってきた強烈な音に、ルイズは夢の世界から無理矢理締め出されてしまう。
それは乾燥した小さな薪が火に炙られて弾ける音で、すぐに暖炉から発せられているのだとわかった。
妙に重たい瞼を無理矢理こじ開け、柔らかい手の甲で両目を擦りつつもルイズは上半身をゆっくりと起こそうとした。

しかし、ルイズの体は脳から伝わってくる命令に反して一向に起きあがろうとしない。
どうしたことかと思ったが、すぐにその原因が隣で寝ている魔理沙の腕が原因だと判明した。
長袖、長ズボンの青い寝間着を着ている彼女の頭を、ルイズは思わずどつきそうになる。
そうなる前に、軽く力を入れれば腕をどけれると知り、すぐさまそれを実行した。
ルイズの体に乗っかっていた魔理沙の腕はあっさりとどけられ、ルイズは上半身を起こす事が出来た。

上半身を起こしたルイズは枕元を探り、懐中時計を手に取った。
霊夢を召喚する前に街で買った物で、色々な細工が施されている。
まだ半分寝ぼけているルイズはとろんとした目で時計をトントンと軽く指で小突く。
すると懐中時計の中に仕込まれていたマジックアイテムが作動し、時計の針が光る。
暗いところでも時間がわかる時計で、裏にはメイドイン ガリアという文字が刻み込まれていた。
「午前4時50分。大分早起きしちゃったわね…」
時刻を確認し、大分早くに起きてしまったことにルイズは苦虫を踏んでしまったかのような気分になった。
きっと授業の最中に居眠りしてしまうだろうし、二度寝出来るほどの時間もない。
そんなルイズとは対照的に、彼女の隣で魔理沙はぐっすりと寝ており、更にはブツブツと寝言も呟いている。
「うふふふ…に勝ったぜ…うふ、うふ、うふふふふふふふ…」
まだ知り合って日が浅いが、少なくともうふふ…など彼女には似合わない笑い方であろう。
一体どんな夢を見てるんだと思ってたルイズは、ふとベッドから少し離れた所に置かれた大きなソファーへと視線を移した。
滅多に来ない来客用にと置いている大きなソファーで、毛布にくるまった霊夢が寝ていた。


一昨日の晩、シエスタが持ってきてくれた夕食を食べてからしばらくし、そろそろ就寝の時間帯となった頃。
入浴を済ませたルイズはネグリジェ姿に、後の二人は幻想郷から持ってきたそれぞれの寝間着(魔理沙はパジャマで霊夢は寝巻き)に着替えて寝ようとした。

そんな時、ふと霊夢がルイズと一緒に寝ていたベッドを見つめながら、こんなことを呟いた。
「流石に三人も入ると左右で寝る奴が危ないし、何よりすし詰めになるんじゃない?」
霊夢の言葉に、ルイズも同意するかのように頷いた。
ベッドはそれなりに大きく、やろうと思えば三人とも同じベッドで横になる事が出来る。
だがギュウギュウ詰めになってまでも同じベッドで寝る必要など三人には無い。
さてどうしようかとルイズ達が思ったとき、ふと霊夢が部屋の一角に置いていたソファーへと近寄った。
柔らかい素材で出来たソファーは触り心地も良く、ベッドの代わりとして使っても問題は無い。


そんなわけで霊夢がこのソファーで寝るようになってから早二日が経っている。
魔理沙はというとルイズの隣で寝ることとなったが本人は一切文句を言わなかった。
むしろ「こんな大きなベッドで寝られるなんて夢のようだぜ」と喜んでいた。
ルイズは最初だけそのことに難色を示したものの、異性ではなく同性ならば大丈夫だとすぐに納得した。
何よりそれを断ると魔理沙の寝る場所が無くなってしまうので、実際には納得しなければならないという表現が正しい。
まぁ距離を置いて寝てくれるので、ルイズも彼女の隣で寝ることに関してはある種の安心を感じていた。昨日までは…
「流石に体の上に腕とか足とか乗せられたら安眠も出来ないわねぇ…っと」
ルイズはそんなことを呟きながらベッドから出ると、暖炉の傍に置かれたイスに腰掛けた。
もうすぐ夏が到来するがトリステインの早朝は気温が寒く、暖炉の火が未だに欠かせないのである。
勿論昨日の夜からずっと火をともしているわけではなく、寝る前にちょっとした火種を暖炉の中に入れていたのだ。
それは石から出来た使い捨てのマジックアイテムで強い衝撃を与えた後、長い間空気に触れさせると自然発火を起こすのである。
つい最近になって街で流行始めた物で、トリステインの人々から重宝されているのだ。

大きさによって火力も違い、この魔法学院で支給されている物はかなり小さめの物だ。
小さい物だと発火するのに時間が掛かり、ついてもすぐに消えてしまうがその上に枯れ草や薪を置いていれば長持ちしてくれる。
「ホント…これって便利よねぇ…ふわぁ~」
ルイズは日々進化しつつあるマジックアイテムの恩恵に欠伸をしながら感謝しつつも、薪を一本手に取り暖炉に放り入れた。
暖炉の名かで何かが弾ける音を上げつつ燃え上がる炎を見つめていたルイズは、ふと先程の夢の内容を思い返す。
(何で今になって数日前の事を夢なんかで見たのかしら…)
もしかしたら昨日のアレが原因なのかも知れないと思ったルイズ、ふと昨日の事を思い出し始めた。



昨日の朝食後。ルイズと霊夢、そして魔理沙が学院長室へと赴いた時の事であった。

長い階段を上り終えて学院長室へとやってきたルイズたちを待っていたのは、ミスタ・コルベールと学院長であるオールド・オスマンであった。
というよりそれ以外の誰がいるのかとルイズは思いつつ部屋に入り、霊夢と魔理沙もそれに続いた。
霊夢はともかく、魔理沙の姿を見た二人は目を丸くし、ミスタ・コルベールがルイズに質問を投げかけてきた。
「ん?ミス・ヴァリエール、金髪の少女は誰なのですか?初めて見る顔ですが…」
ルイズがその質問に対して返事をする前に、魔理沙が頭に被っていたトンガリ帽子を取って二人に挨拶をした。
「私は霧雨 魔理沙。見ての通り普通の魔法使いだぜ」
年相応の少女の元気そうな声で形作られた言葉を耳にし、オールド・オスマンがある疑問を感じた。
その疑問はコルベールも感じており、ルイズもまた初めて魔理沙と出会ったときに感じたものと全く同じである。
「普通の魔法使い…とな?」
今まで見たことのない不思議なモノを見た後のような呟きに、魔理沙は思い出したかのように言った。
「あっ、そういえばこの世界ではメイジって言うんだっ…―――ムググッ!」
このバカ!と叫びつつ、ルイズは咄嗟に魔理沙の口を右手で無理矢理押さえつけた。

突然のことにコルベールはキョトンとしたものの、オールド・オスマンはそれを見てホッホッホッ…と笑い始めた。

「えぇよ、えぇよ、ミス・ヴァリエール。儂はもうある程度の事はわかっておる」
優しそうな微笑みを浮かべながらそう言ったオスマンに、霊夢が目を細めた。
「アンタ…もしかすると最初から気づいてたのかしら?―――私と魔理沙が何処から来たのか」
霊夢の口から出た言葉にルイズは思わず魔理沙の口を覆っていた手を離し、まさかそんなことが、と思った。
しかしそんなルイズとは逆に、霊夢は笑い続けているオスマンに鋭い視線を向けている。
そんな霊夢の視線の中にある質問に応えるかのように、オスマンは笑うのを一旦止めて言った。
「君の事は前々から調べておったが、これでようやく答えがわかったというものじゃ」
オスマンは杖を手に持ち、軽く呪文を詠唱すると戸棚に向けて杖を振る。
直後、戸棚がひとりでに開き中から古めかしい一冊の分厚い本が飛んできた。
「おぉ、やっぱり杖を使う魔法使いは中々様になってるなあ…。―――ん?それって、まさか…幻想郷録起じゃないか」
魔理沙はこの世界に来て何度目かになるハルケギニアの魔法に目を輝かせていたが、その視線が本の方へと移る。
年季が入り、色褪せてしまってはいるがその本のタイトルに見覚えがあった。
こんな所で目にしようとは思っていなかった魔理沙は、無意識的にその本のタイトルを口に出してしまう。

「…!あ、あなたにもこの文字が読めるのですか!?」
それを聞いたコルベールは驚愕を露わにし、一方のオスマンは予想的中と言わんばかりに顔に笑みを浮かべた。
「やはりお主も、彼女と同じくこことは違う場所の生まれの者のようじゃのう」
そこまで言われて観念したのか、霊夢はやれやれと言わんばかりに首を横に振る。
ルイズはというと、二人のことを何処まで話したら良いのか悩んでいた。
これに関して紫に「信用出来ない、又は口の軽い人間には絶対に話さないように」と厳しく言われている。
しかしルイズはこの二人を教師としてちゃんと信頼しているし、何よりちゃんと他言無用の誓いは守ってくれそうだ。

そこまで考えたルイズはまず最初に霊夢の方へ視線を向けた。
すぐに此方を見ていることに気が付いた霊夢はルイズの方へと顔を向け、コクリと頷いた。
どうやら彼女の方も、学院長にこれ以上の隠し事は不可能だと判断したようだ。
霊夢からのOKサインも貰い、ルイズは大きな溜め息をついた後に口を開く。
「…わかりました。とりあえず話せることだけは話しましょう。
  ただ、他言無用で御願いします。この二人の事をよく知っている者からの忠告ですので」
出来る限り事が重要なのだと思わせるためにルイズは少し強めの口調で言った。
オスマンとコルベールはお互いの顔を見合わせた後、頷いた。
「良いじゃろう。…そもそも人間を使い魔にする時点で何かしらあるとは思ってはいたが。どうやら事はそれ程軽くは無さそうじゃな」
先程の笑顔とは打って変わって真剣な表情でそう言ったオスマンに対し、コルベールもまた真剣な表情を浮かべて頷く。

「えぇ、何せ伝説と謳われる始祖の使い魔の゛ルーン゛が蘇ったのですからね…。確かに事は重要ですな」


まずはルイズの話から始めることとなった。

彼女は二人の教師に霊夢と魔理沙が幻想郷という、この世界とは全く別の世界の住人であることを最初に説明した。
その事を話している最中オスマンとコルベールは目を丸くして驚いていたが、まぁ無理もないだろう。
何せ異世界など普通は劇や小説に出てくるフィクションの存在なのだ。普通なら誰も信じないに違いない。
(私だってその事をユカリに聞かされた時に驚いてたしね)
あの時の事を思い出しながらも、ルイズは話を続けていった。
そしてアルビオンから戻ってきて翌日の夜、一度は迎えが来て霊夢と共にその世界へ赴いたのだが事情があってすぐに戻ってきたということも話した。
だが、幻想郷にほぼ丸一日いて゛すぐ゛という表現はおかしいのだがそれは致し方ない。
実は自分と霊夢がいない間、紫の式(使い魔と似て非なる存在らしい)達がルイズと霊夢の姿に化けて一日だけ代わりを務めていたのだという。
その事についてはあまり言わないで欲しいと紫に言われていたので、ルイズは全て話すといいながら少しだけ事実を歪めることになった。

「そして昨日の明け方に、レイムの知り合いであるマリサが幻想郷からやって来たのです」
ルイズが丁寧に説明した後、魔理沙は右手をヒラヒラと振った。
「まさか異世界に来れるとは思ってなかったが、まぁとりあえずよろしく。…ってところだ」
笑顔でそう言った魔理沙を見て、来なければ良かったのにと霊夢が心の中で呟いていた。

二人にはハルケギニアで『するべき事』があり、それが終わり次第元の世界に戻るという事を話してルイズの説明は終わった。
『するべき事』も含めて最後までルイズの話を真剣に聞いていたコルベールは未だに信じられないと言いたげな表情を浮かべている。
何せ教え子の召喚した人間が異世界人だったのである。驚くなと言う方が無理な話だ。
「しかし…ガンダールヴのルーンや異世界の住人といい、どうしてこう私は世紀の珍事にであえるのでしょうか?」
「それはお主がまだまだ未熟だからじゃ。もう少し年を取れば寛容にもなれる」
しかし、そんな彼とは対照的にオスマンは落ち着いた表情でコルベールに言った。
そんなオスマンの態度が気になって仕方なかったのか、ふとルイズはこんな事を聞いてみた。
「失礼なことをお聞きしますが…、オールド・オスマン。貴方は驚かれないのですか?」
その言葉に、オスマンは笑いながらこう言った。
「儂はこれでも随分と長生きしてきたからのぅ。思ったよりも世界が広いということぐらいとっくに知っておる」
オスマンのその言葉に、学院長は数百年近く生きているという噂があったことをルイズは思い出した。
(もしかしたら…あのユカリみたいな存在なのかも…)
溢れんばかりの笑顔でヒゲをしごいているオスマンを見て、ルイズはそんな事を思った。


ルイズの話が終わった後、今度はオスマンとコルベールの話す時間となった。
「さてと…次はワシ等の番じゃな。…此所はミスタ・コルベールに話して貰おう」
「わかりました。オールド・オスマン」
学院長に御指名されたコルベールは頷き、その時の事を丁寧に話し始める。


それは霊夢がルイズと共に幻想郷へ戻った日の事。
コルベールは研究室として使用している掘っ立て小屋で、ある作業に取り組んでいた。
それは今彼が発明した装置の欠点を隅の隅まで調べつくし、それを直すというものである。
気分も良いためか順調に進み、ここいらで少し休もうかなーと思っていた時、思わぬ客が来訪した。

コンコン、コンコン!

ふと誰かがドアからノックする音が聞こえ、コルベールはそちらの方へ顔を向ける。
この所にお客さまとは珍しいなと思いつつもドアを開けて、一体誰が来たのか確認した。
「この掘っ立て小屋に住んでるって聞いたけど…本当だったようね」
紅白の変わった服を着込んだ黒髪の少女を見て、すぐさま相手が霊夢だとわかった。
その後、アルビオンから良く無事に帰ってきてくれたと言ってからとりあえず用件は何なのかと聞いてみた。
コルベールにそんなことを聞かれ、霊夢は思い出したかのように、
「あぁ、そういえばコレ…アンタには何なのかわかるかしら?」
そう言って霊夢は自身の左手の甲をコルベールの眼前にまで持ってきた。
突然の事に最初は何が何だか、わからなかったが、すぐに彼女の手の甲に何かが刻まれていることがわかった。

それが何なのかすぐにわかり…
コルベールは手に持っていた薬品入りのフラスコを思わず取り落としそうになってしまった。


「そう、私が最初に見たガンダールヴのルーンが…彼女の手の甲にしっかりと刻まれていたのです!」
「お、落ち着いてくださいミスタ・コルベール…」
役者の様に両手を振り上げて叫ぶコルベールを落ち着けるかのようにルイズか宥めようとする。
しかし彼がハイテンションになるのも無理は無いであろう。何せガンダールヴである。
伝説と呼ばれ、本当に実在するのかどうかも胡散臭いと一部では言われているのだ。
「なんというか…お前って案外大変な事になってるんだな…」
「出来れば今すぐアンタにこのルーンを移植してやりたいわ」
半ば躁状態とも言えるコルベールを見つめつつ、魔理沙は同情するかのように霊夢に話し掛けた。
一方の霊夢はというと手の甲についたルーンを指でなぞりつつ、苦々しげに言った。

流石のオスマンも、段々ハイになっていく教師を見て、やれやれと言いたげな顔をしている。
「う~ん…まぁ落ち着きたまえミスタ・コルベール…少し聞きたい事があるのじゃが?」
「はい、何でしょうかオールド・オスマン!」
コルベールの過剰な反応にオスマンは苦笑しつつも、とりあえず聞いてみることにした。
「その、何だね?ガンダールヴの能力というのは…見ることが出来たのかのぅ」
オスマンの言葉を聞き、コルベールと魔理沙にそれなりの変化があった。
コルベールは笑顔のまま表情が固まり、魔理沙は゛能力゛という言葉に反応した。
「ん?…霊夢のルーンには何かスゴイ能力とかついてるのか」
興味津々な魔理沙を見てオスマンはコホンと咳払いした後、ガンダールヴの能力を軽く説明した。

「う~ん、つまり何だ?ただでさえ強いコイツが武器を持ったら更に強くなるということか」
「大体そういう事じゃのう。してミスタ・コルベール…武器は持たせてみたのかね?」
意外と理解力の早い魔理沙に感心しつつも、オスマンは話を続けるよう促す。
しかし、先程から表情が固まっているコルベールはなんとか口だけを動かして渋々と話し始めた。

「えー、あの…その…色々とミス・レイムから話を聞いた後、
学院長から貰ったあのインテリジェンスソードを持たせてみたのですが…」


「……お、あったあった」
鞘に収まった古めかしい太刀をチェストの中から取りだしたコルベールは、思わず声を上げた。
その声に霊夢もコルベールの側へと近寄り、彼の持っている物へと視線を移す。
霊夢が自分の傍へやってきたのを確認したコルベールは、まずゆっくりと鞘から太刀を引き抜いた。
錆が浮き出てとてもじゃないが質屋でも買い取ってくれなさそうなボロボロの刀身を見て、霊夢は目を丸くした。
以前何処かで…そう、確かここの学院長とか言う老人と初めて顔を合わせたときに…
「…?あれ、その鞘に入った太刀って…もしかして」
霊夢が何かを思い出したかのようにそう言った瞬間。
ひとりでに太刀の根本部分がカチカチと音を立てて動き出し―――

『お!なんでぇなんでぇ!今更外に出してくれたって礼は言わねぇぞ!』
―――耳に障る声でしゃべり出した。
その声を聞いた霊夢はすぐさま、この太刀の名前を思い出した。
「デルフリンガー…だっけ?アンタまだ捨てられてなかったの?」
錆びてる癖に口から出る言葉が生意気な喋る武器に、霊夢は呆れた風に言った。
それを見逃すデルフではなく、すぐさま霊夢に噛みついてきた。
『あぁ!テメェはあんときの生意気な小娘じゃねぇか!!どの面下げて俺の前に現れやがった!?』
以前喋っている途中に無理矢理鞘に収められた事もあってか、
人間ならばすぐさま殴りかかってきそうな雰囲気を刀身から発しながらデルフは怒鳴る。
「別にアンタに会う為に、こんな場所に来たわけじゃないんだけど?」
しかしそれをものともせず霊夢は冷たく言い返したところで、コルベールが仲介に入った。
「まぁまぁ、ここは落ち着いてください…」
「私は落ち着いてるわよ。むしろ怒ってるのはそっちの剣じゃないの」
『何だとこの野郎!!』
霊夢の何気ない言葉に、デルフはまたもや怒った。
彼女の言葉に一々突っかかるデルフに、コルベールは溜め息をつく。
これがインテリジェンスソードであって良かったと内心思っていると、霊夢が話し掛けてきた。

「ねぇコルベール…一体こんな剣なんか取り出して何だっていうの?」
「あぁ、まだその事を話していませんでしたね…」
霊夢の言葉にコルベールはそう言うと、突然デルフリンガーを霊夢の方へ差し出した。

突然の事に霊夢は何が何だかわからず、首を傾げるとコルベールが言った。
「以前学院長が言ってましたでしょう。ガンダールヴはそのルーンの力で、ありとあらゆる兵器と武器を扱えるという事を」
コルベールの説明を聞き、あぁそう言えばそんなことを言ってたわね。と霊夢は呟く。
そして自分の前に差し出されたやかましい武器を一瞥した後、コルベールの方へ視線を向ける。
「…まさかこの剣で試してみようってワケ?」
霊夢は嫌悪感丸出しの表情を浮かべて聞いてみるが、コルベールはウンウンと頷く。
一瞬どうしようかと迷った挙げ句、仕方なく霊夢はデルフリンガーを手にすることにした。
別に貰うワケじゃないし、ほんのちょっと手に取るだけなら構うまいと思ったのだ。
「まぁ…ちょっとだけよ―――…っと」
不満そうな声でそう言いつつ、コルベールからデルフリンガーを受け取る。
しっかりとした重さが手に伝わり、思わず取り落としそうになったが霊夢はなんとか堪えた。

「あの…どうですか?何か変化はありましたか…」
デルフリンガーを手に持った霊夢に、コルベールはそんな事を聞いてみた。
もし伝説通りならば、すぐさま武器の正しい使い方が分かり、一瞬のうちに超一流の使い手になるという。

しかし、霊夢の口から出た言葉はコルベールが全く予想していないものであった。
「…いや、別にこれといった事はないけど…」
気怠げな表情を浮かべてそう答えた霊夢に、コルベールは首を傾げた。
(おかしいな…一体どういうことだ?)
全く予知していなかった自体にコルベールが頭を悩ませている、デルフがまたもや怒鳴り始めた。
『おいテメェ!その手で俺に触るなっ………て―――――…ん?』
最初こそ大声で怒鳴ったデルフリンガーではあるが、すぐにしぼんでいく風船のように声が小さくなっていった。
一体どうしたのかと霊夢は思ったが、耳を澄ますと何やらブツブツと独り言を言っていることに気がついた。
『一体コイツは…左手から…いや、まさか…でも…ということぁ…』
「何よコイツ?…もうそろそろ寿命かしら」
ほぼ本気で霊夢がそんな事を言った瞬間、再びデルフが大声で怒鳴った。

『…おでれーたぁ!!まさかこんな小娘が…ガンダールヴだったとぁなぁ!!』


「…で。そのインテリジェンスソードが態度を変えて、彼女に懐いたというワケか…?」
話を聞き終えたオスマンは、盛大な溜め息をついた後コルベールにそう聞いた。
コルベールの方も申し訳ないと言いたげな表情を浮かべて頭を下げた後、口を開く。
「は、はい…結局、ガンダールヴの能力は見れませんでしたが…」
オスマンはそれを聞いてふむぅ…と唸った後、ルイズ達の方へと視線を向けた。
「ミス・ヴァリエール。お主はガンダールヴとしての彼女を見ておるか?」
学院長から出た質問に、ルイズはアルビオンのニューカッスル城で見た光景を思い出した。
あの時、殺されたと思っていた霊夢が剣を片手に裏切り者と化したワルドの遍在を倒してくれたのである。
その事を思い出しながらもルイズは恐る恐る答えた。
「は、はい…。ですけど、なぜルーンが光らなかったのは私にも…」
正直言って、ルイズ自身もコルベールから話を聞いて疑問に思ったのである。何故ルーンが発動しなかったのか。

彼女が裏切り者の遍在を倒した所を見ていたルイズにとって、それが唯一の謎であった。
だがその疑問に答えられる者は今この場におらず、三人の間に沈黙が漂っていく。
そしてガンダールヴであるのにも関わらずその能力が発動しなかった霊夢は何も言わず、ただボーっと窓から外の景色を眺めていた。
こうして部屋の中に冷たい空気が充満しようとした時、まるで場の空気を読めなかったのか魔理沙がその口を開いた。
「何だ。ルーンはついてるのにその能力が発動しないとは、思わぬ興ざめだぜ……ってイタッ!」
そんな言葉が口から出た瞬間、脊椎反射とも言える速度で魔理沙の方へと振り向いた霊夢が彼女の頭を叩いた。
景気の良い音ともに後頭部にキツイ一撃を貰った黒白の魔法使いはその場で頭を押さえて屈みこんでしまう。
「人を動物みたいに扱うなっての」
頭を叩いた張本人である霊夢の言葉と共に冷たい空気は何処へと消え去り、気を取り直したようにオスマンが口を開いた。

「…とりあえずガンダールヴとしては覚醒しておるのじゃろう?なら、もうしばらくは様子見せんとな」
老齢の学院長はそう言うと大きな咳払いをしてから、真剣な面持ちで喋り始める。

「とりあえずこれで話は終わりじゃが…良いか皆の者よ?今日の話は他言無用で頼むぞ。
  迂闊にも誰かに話せばたちどころに広がるからのぅ。そこらへんには気をつけるのじゃ
   ―――無論。ミス・ヴァリエールの後ろにいる二人もな」

オスマンとの約束に、オスマンを除く四人はコックリと頷いた。
「わかっておりますオールド・オスマン。他言無用ですね」
コルベールは真剣な面持ちでそう答え、
「はい。このことは誰にも伝えません」
ルイズもまた揺らがない程の真剣な瞳をその目に宿らせてそう答え、
「…わかったわ。まぁ下手に話して群がられるのもイヤだし」
霊夢はそんな二人とは対照的な気怠そうに言い、

「そうか、ここで人気者になりたいのならペラペラと喋ればいいのか!」
――ただ一人、魔理沙だけは冗談を大量に含めてそう答えた。

無論、空気を読めなかった発言をした魔理沙は、他の四人からキッと睨まれ、
「冗談だよ…そうカッカするなって?」と慌ててそう言った。
その後、オスマンは軽く咳払いをするとルイズに話し掛けた。
「あと、ミス・ヴァリエール。お主はこれからどうするかね?」
「…どういうことですか」
突然そんな事を聞かれて意味がわからない。と言いたげな表情を浮かべているルイズに、オスマンは説明を始めた。
「ミス・マリサはこの世界に来てまだそれ程時間も経っておらん、どうせならここにいる方が良いじゃろうて」
オスマンの言葉を聞いて、ルイズはここへ来る事になった理由を思い出した
「あ、はい!ですから学院長…何とかしてマリサをここへ置いてやれないでしょうか?」
ルイズの要求に、オスマンは長いあごひげを弄りながら考えた後、それに了承した。

「良いじゃろう。では昼食の際に彼女がここで暮らせる゛理由゛を作っておこう」
「えっ!ほ、本当ですか!?」
その言葉を聞き、まず最初に驚いたのがルイズであった。
一体どうして、顔を合わせてまだ数分しかたっていない相手を見てそんな事が決めれるのか。
そんなルイズの言いたいことがわかったのか、オスマンは笑いながら口を開く。
「ミス・ヴァリエール。お主は儂がそこまでする理由が何処にあるのかと言いたいのじゃな?」
そんな事を言われるとは思ってもいなかった彼女はその言葉に驚き、目を丸くしてしまう。
「えっ…?は、はい…一応」
「そうじゃろうな。今の若い者はそんな事を考えんじゃろう…」
ルイズの答えに、オスマンは何度も頷いてそう言うと、イスから腰を上げて背後にある窓の方へと振りむいた。
窓の外では青い空を下地に白い雲が流れ、小鳥たちが群れを成して空を飛んでいる。
そんな光景を話の途中に見て目を細めつつも、オスマンは口を開いて喋り始めた。

「しかし、だからといって他人を信じる事をやめ続けていれば。いずれ人の心は惨めになって行く。
 もはや今の時代でも嘘や策謀が大陸中に渦巻いておる。数百年すれば人は嘘しかつかなくなるじゃろうな…」
空を見つめているオスマンの言葉は何処か重々しく、部屋の中の雰囲気は段々と重くなっていく。
確かに今のハルケギニアは昔と比べれば詐欺商法等が増えたと言われる。
ずっと前に偽物の宝の地図に騙されていた霊夢もまた、その言葉に納得していた。
オスマンは部屋の雰囲気がどん底にまで落ちる前に、再び喋りだす。

「だから儂は決めたのじゃ…自分が信用できる人間だと信じた者は、とりあえず信じきってみよう。とな?」
見事言いきったオスマンの表情には、深い深い慈悲の色が滲み出ていた。
ルイズとコルベールは、この歳で学院長を勤める程の者だと。尊敬した。


その後、ルイズが霊夢と魔理沙を連れて学院長室を出ようとした時――
「ミス・ヴァリエールよ…部屋を出る前に一つだけ聞いて良いか?」
ドアノブに手を掛けようとしたルイズは、オスマンの方へと振り向いた。
そしてオスマンは、ルイズの返事を待たずして質問を投げかけてきた。

「今のお主は、既に普通の存在ではないと自覚しておるかな?」

その質問にルイズは一瞬だけ考える素振りを見せた後、こう答えた。
「自覚していますわ。これだけ不思議な現象に見舞われているんですもの」
ルイズの答えを聞き、オスマンは満足そうに笑った。

「さすがは…伝説の使い魔を持つうえに異世界の者と交流を持ってしまった者だわい。肝が据わっておる」




「伝説の使い魔…ねぇ」
学院長の言っていたその言葉を、ルイズは暖炉の炎を見つめながら復唱した。
確かに、自分はとある異世界にとっての中枢である巫女を始祖の使い魔といわれているガンダールヴとして召喚した。
そしてその巫女のいた世界の住人から、自分には何か潜在的な力を有しているとまで言われたのである。
生まれてこのかたこれ程褒められた事が無かったルイズが鼻を伸ばすには充分な理由であった。
最も、自分の体にあるはずのその゛潜在的な力゛は未だに自分の体の中で眠り続けているのだろう。

「確かに私は普通じゃないわ…魔法だっておかしいし。何よりこんなものまで託されるんだから」
自分に言い聞かせるかのように呟き、テーブルに置いていた古ぼけた本へと視線を移す。
それは以前、ルイズが尊敬するアンリエッタ姫殿下から受け取った『始祖の祈祷書』だ。
トリステイン王室では、伝統として王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女が用意される。
そして巫女は、この始祖の祈祷書を手に式の詔を詠みあげる習わしがあるのだ。
本来なら学生の身分でこのような重役に就ける事自体、奇跡と言っても良い。
最初にこれを手渡されたとき、ルイズは目を輝かせ、自信に満ちあふれた表情で了承した。

そんなこんなで、自分の尊敬する姫殿下の結婚式で詠みあげる詔を考えることになったのだが…
不幸か否かルイズには詔、もとい詩を書く才能が無かった。


例えば、四大系統魔法の一つである゛火゛に関しての詩を書かせればこんな風になる。
「炎は熱いので、気をつけること」
まるで火を扱うマジックアイテムに付属している取り扱い説明書の如き注意書き。
そして゛風゛に関する詩は「風が吹いたら、樽屋が儲かる」。ことわざである。
このように、その発想は無かったと他人に言わせる詩をルイズは書くことが出来るのだ。
単に詩の神様に微笑まれることがなかったのか、それとも一種の才能なのか。


どちらにしろ、今のルイズは気むずかしい詔を考えられる程目は覚めていなかった。
ただ、今日の朝食は一体何が出るのかと考える事は出来たが。




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